説明

炭酸ガス固定化性能に優れたフォルステライト

【課題】 石綿又は石綿を含有した蛇紋岩を、石綿のクリソタイル構造をフォルステライト構造に変性させることによって、大気中の炭酸ガス(二酸化炭素)低減に有効な二酸化炭素固定化材として有効活用を図る。
【解決手段】 石綿又は石綿含有蛇紋岩を焼成して得たフォルステライトにおいて、X線分析におけるフォルステライト第1ピーク強度(36.5°)が250cpsから900cpsであることを特徴とする炭酸ガス固定化性能に優れたフォルステライト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地球温暖化対策として有効な二酸化炭素固定化性能に優れたフォルステライト(「フォーステライト」とも言う)に関するものであり、特に、石綿や石綿含有蛇紋岩から得られる炭酸ガス固定化性能に優れたフォルステライトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、化石燃料の使用によって発生する二酸化炭素(炭酸ガス)により、地球温暖化現象などの環境破壊が世界的規模で問題となっている。地球温暖化現象に関連して、大気中の二酸化炭素の低減技術、さらに再利用化のための技術が求められており、二酸化炭素の固定化方法もその1つである。従来、二酸化炭素の固定化には電気エネルギーによる方法、各種物質に固定化する方法、地中へ固定化する方法、海洋生物の利用や海水に吸収させる方法等がある。
【0003】
また、天然鉱物を用いて炭酸塩化する方法の1つとしてフォルステライト(フォーステライト)を使用する方法があるが、工業的にはあまり活用されていない。二酸化炭素の固定化に関しては次のような技術がある。
a)電気エネルギーによる方法:特許文献1、特許文献2
b)物質中に固定化する方法:特許文献3
c)地中へ固定化する方法:特許文献4
d)深海へ固定化する方法:特許文献5
【0004】
【特許文献1】特開2004−73978号公報
【特許文献2】特開2001−97894号公報
【特許文献3】特許第3105953号公報
【特許文献4】特開平6−71161号公報
【特許文献5】特許第3004393号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電気エネルギーによる方法では、発電法を現在の火力発電に頼っている限りは、火力発電の方で二酸化炭素を発生させるため、無意味である。物質中に固定化する方法では、結晶性ケイ酸塩を使用する方法があるが、結晶性ケイ酸塩単独では固定化できないため、コスト面で不利である。また、地中や、深海、海洋生物を利用する方法では、環境に対する安全性等の問題点がある。
【0006】
一方、最近まで石綿は、建築材料として耐火被覆材やスレートなどのセメント製品などに多く用いられてきた。しかしながら、石綿は有害性が問題となりその使用が規制されるようになり、石綿製品についても使用が禁止となる。今後、これら石綿が用いられた建築物の耐用年数が過ぎ、解体時期を迎えた場合に、石綿を含有した建築材料の処分の関係から、処理が必要となり、建築資材としての有効なリサイクルが求められることが想定される。これらの点からリサイクル石綿の有用な用途についても早急な開発が待たれている。
【0007】
本発明は、このような実情よりなされたものであり、石綿又は石綿を含有した蛇紋岩を、石綿のクリソタイル構造をフォルステライト構造に変性させることによって、大気中の炭酸ガス(二酸化炭素)低減に有効な二酸化炭素固定化材として有効活用を図ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の目的を達成するために鋭意研究を行い、石綿又は石綿含有蛇紋岩を加熱して焼成すると、石綿繊維を構成するクリソタイル構造がフォルステライト構造に変性するが、その際生成するフォルステライトが、X線分析におけるフォルステライト第1ピーク強度(36.5°)が250cpsから900cpsであるものが炭酸ガス固定化性能に優れたものであることを知見し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、次の構成により上記課題を解決した。
(1)石綿又は石綿含有蛇紋岩を焼成して得たフォルステライトにおいて、X線分析におけるフォルステライト第1ピーク強度(36.5°)が250cpsから900cpsであることを特徴とする炭酸ガス固定化性能に優れたフォルステライト。
【0010】
本発明においては、石綿又は石綿含有蛇紋岩を焼成して得るフォルステライトを用いることにより、二酸化炭素の固定化を行なう。本発明では、以下の処理により二酸化炭素を固定化するフォルステライトを得る。
石綿又は石綿含有蛇紋岩を加熱炉を用いて、X線分析におけるフォルステライト第1ピーク強度(36.5°)が250cpsから900cpsであるように加熱する。焼成温度としては、後述する理由により、740〜800℃が好ましい。加熱焼成時における雰囲気は空気中でよい。この処理により、石綿の物質構造はクリソタイルからフォルステライトに変性される。焼成温度による結晶化度の制御と、高比表面積部を用いることで、二酸化炭素の固定化性能に優れたフォルステライトが得られる。廃石綿、石綿含有建材を処理する場合は、破砕しふるい分けした材料を原料とするのが望ましい。
【0011】
焼成温度は740℃以上とするのが好ましい。740℃は、クリソタイルがフォルステライトに変性する最低温度である。焼成温度800℃までは、石綿の繊維形態が維持されるが、更に温度を上げると熱エネルギー的に不経済であるばかりでなく、結晶化度が高くなりやすくなり、二酸化炭素の吸着量が低下するために、過度の高温処理は避けなければならない。
【発明の効果】
【0012】
本発明によるフォルステライトは、天然資源として国内に広く存在している石綿含有蛇紋岩を熱処理することで容易に得られる。また、本発明のフォルステライトは、石綿又は石綿含有蛇紋岩を焼成して、石綿のクリソタイル構造をフォルステライト構造に変性する際に、X線分析におけるフォルステライト第1ピーク強度(36.5°)が250cpsから900cpsになるように加熱することにより、低結晶化度化かつ高比表面積化することで天然鉱物のフォルステライトに比べ高い二酸化炭素固定化性能を有する。
【0013】
さらに、石綿含有建材である波型石綿スレートや石綿スレートボードから分別される廃石綿を原料としても同様の材料を得られるため、石綿含有廃建材の有効な処理、リサイクル手段としても活用可能である。
熱処理温度を低くし、結晶化度を低くすることで、非石綿化に要するエネルギーも少なくできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
石綿を構成しているクリソタイルは、焼成することでフォルステライトに変性する。しかしながら、焼成温度が高い程、結晶化が促進され、結晶化度は増加してしまう。クリソタイルの構造が焼成することで崩れ、一旦アモルファス状になり、フォルステライトの構造を造る。加熱温度の740℃は、クリソタイル構造が崩れる(非石綿化する)最低温度で、クリソタイルはなくなっており(非石綿化されている)、結晶性の低い(結晶化度の小さい)フォルステライトができている温度で、アモルファス状に近い状態となっている。このアモルファスに近いフォルステライトを用いることで多くの二酸化炭素を吸着することができる。アモルファス状態は、分子が規則的に配列していない結晶構造となっているので他物質と反応し易いものであり、本発明では、この状態のフォルステライトを用いる。
【0015】
比表面積については、クリソタイル繊維の長さによって影響を受ける。長繊維品を加熱焼成して用いることで高比表面積のフォルステライトを得ることができる。これは、長い繊維は二酸化炭素を吸着する面積が大きいので固定化量も大きくなるためである。また、繊維長は、焼成時の結晶化などにも影響する。同じ温度で焼成した場合、繊維長が長いものは、結晶化度が低く、繊維長が短いものは、結晶化度が高いフォルステライトとなる。繊維長の長いものとしては、150μm篩において3割が通過するもの、繊維長の短いものとしては、150μm篩において全て通過するものである。
【0016】
結晶化度は、全体の重量に対する結晶(原子配列が周期構造を持ち規則的である)部分の重量比であるが、焼成温度が低くいほど結晶化度は低くなるが、740℃より低いとクリソタイル構造が崩れないため、安全性が確保できないため、少なくとも740℃での焼成が必要である。なお、結晶化度を正確に測定するのは煩雑であるので、X線分析においてフォルステライトの第一ピーク強度を測定して、結晶化度の代わりにその数値を用いることが好適である。
【0017】
本発明のフォレステライトは、二酸化炭素を固定化する性質を有するが、その性質の大きさは、大気中では平衡に達するまでの時間がかかり、測定は簡単ではない。そこで、その性能を測定するに当っては、早急に固定化量の差異の確認を行うために、二酸化炭素の超臨界状態(圧カ7.3825MPa、温度31.21℃)で固定化を行う手段を採用することができる。
【0018】
本発明においては、石綿又は石綿含有蛇紋岩を原料とすることができるが、石綿含有廃建材である波型石綿スレートや石綿スレートボードから粉砕分別したリサイクル石綿を用いることもできる。石綿含有廃建材を処理する場合は、粉砕し、450μmの網目でふるい分け後、網上残(長繊維分を含む)を原料とするのが望ましい。これは、450μmの篩分けにより、網目石綿とそれ以外を分けることができ、また長い繊維を採ることができるからである。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0020】
実施例1〜3、比較例1
繊維長が短い石綿を含むクリソタイル含有蛇紋岩と繊維長が長い石綿を含むクリソタイル含有蛇紋岩とを、それぞれ740℃又は800℃で1時間焼成して、石綿を構成するクリソタイルをフォルストライトに変性させてから粉砕して、二酸化炭素固定化量測定用原料とした。各実施例に使用した焼成温度及び繊維長の長短を下記に示す。なお、前記の「繊維長が短い石綿」としては150μmの篩を全通するものであり、前記の「繊維長が長い石綿」としては、150μmの篩を約30%が通過するものである。
(a)実施例1 740℃ 繊維長 短
(b)実施例2 740℃ 〃 長
(c)実施例3 800℃ 〃 長
(d)比較例1 800℃ 〃 短
【0021】
(二酸化炭素固定化試験)
上記で得た各フォルステライト0.5gと水0.15mlを練り、超臨界装置内で二酸化炭素を吸着させ、重量の変化を測定した。吸着処理条件は、反応時間48時間、圧力8MPa、温度100℃で行った。
(1)試験手順
ガラスチューブにフォルステライト(0.5g)と水(0.15ml)を加える。
反応器(オートクレーブ)に入れ、ドライアイス(1.4g)を加える。
オイルバス(100℃)の中に入れ(理論値で圧力8.0MPa)、48hr反応させる。
生成物を60℃で10時間真空乾燥させる。
(2)固定化量測定
重量増から二酸化炭素の固定化量を見積もる。測定結果は第1表に示す。
【0022】
(フォルステライトの性質測定)
実施例1〜3、比較例1で得られたフォルステライトの性質を測定した。
(3)結晶化度の測定方法
結晶化度の代わりに「X線分析におけるフォルステライトの第一ピーク強度(36.5°)」を取り、その「第一ピーク強度」を測定した。
(4)比表面積の測定方法
BET3点法により、BET式比表面積測定装置を用いて比表面積を測定した。
測定結果は、第1表に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
「第一ピーク強度」が低いもの(実施例2、3)については、「第一ピーク強度」が高いもの(実施例1、比較例1)に比べて二酸化炭素固定化量は倍近くなっている。
(c)実施例3と(d)比較例1、(a)実施例1と(b)実施例2は、焼成温度は同じでそれぞれ繊維長の違うクリソタイル構造の石綿を焼成した。繊維長が短いものは熱処理において結晶化が進みやすく、比表面積も小さくなる。これに対して繊維長が長いものは結晶化度が低く、比表面積の大きいものとなる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の炭酸ガス固定化性能に優れたフォルステライトは、特に公害上問題のある建築材料としての耐火被覆材やスレートなどのセメント製品廃棄物中の石綿を無害化し、再利用を可能にするので、リサイクルが必要となる建築材料中のリサイクル石綿の有用な用途を提供するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石綿又は石綿含有蛇紋岩を焼成して得たフォルステライトにおいて、X線分析におけるフォルステライト第1ピーク強度(36.5°)が250cpsから900cpsであることを特徴とする炭酸ガス固定化性能に優れたフォルステライト。

【公開番号】特開2008−19099(P2008−19099A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−255479(P2004−255479)
【出願日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【出願人】(000135335)株式会社ノザワ (52)
【Fターム(参考)】