説明

炭酸ジエステル組成物、炭酸ジエステルの精製方法及びポリカーボネート樹脂の製造方法

【課題】ポリカーボネート樹脂の製造における未反応炭酸ジエステルをリサイクルし、色調良好な樹脂を得る。
【解決手段】ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換反応で副生するモノヒドロキシ化合物の蒸留工程において、第一蒸留工程でモノヒドロキシ化合物と分離した高沸物を第二蒸留工程で蒸留する際に、第一蒸留工程で得られた高沸物から5重量%未満を除去し、さらに90重量%迄を蒸留塔の塔頂から留出し、炭素数1〜炭素数5のアルキル基を有するアルキルフェノールの含有量が100重量ppm以下の炭酸ジエステルを得、これをポリカーボネート製造工程にリサイクルする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭酸ジエステル組成物等に関し、より詳しくは、ポリカーボネート樹脂の製造に使用する炭酸ジエステル組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法としては、ビスフェノール類とホスゲンとを直接反応させる界面法と、ビスフェノール類と炭酸ジエステルとをエステル交換反応により重縮合反応させる溶融法が知られている。中でも、エステル交換反応による溶融法は、界面法と比較して安価に芳香族ポリカーボネート樹脂を製造することができるという利点を有している。
【0003】
溶融法においては、ビスフェノール類と炭酸ジエステルとのエステル交換反応の際に、フェノール等の副生物が多量に生じる。また、未反応炭酸ジエステルも、所定の操作により回収する必要が生じる。このため、特許文献1では、未反応炭酸ジエステルを高純度で回収する方法について報告されている。
【0004】
【特許文献1】特開2002−226573号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、溶融法においては、副生フェノールの他に、例えば、イソプロペニルフェノール等のアルキルフェノールも副生物として生じる。このようなイソプロペニルフェノールは、ポリカーボネート樹脂の色調を悪化させる原因となりやすいため、低減する必要がある。
また、未反応炭酸ジエステルは、ポリカーボネート樹脂の製造工程において副生フェノールと同伴して留出することから、効率よく精製し、ポリカーボネート樹脂の製造工程に循環供給する必要がある。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものである。
即ち、本発明の目的は、ポリカーボネート樹脂の製造工程における未反応炭酸ジエステルを効率よくリサイクルし、原料の消費と廃棄物とを低減し、且つ、色調良好なポリカーボネート樹脂を得るポリカーボネート樹脂の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かくして本発明によれば、以下の(1)〜(13)が提供される。
(1) 芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換反応によるポリカーボネート製造工程において、前記ポリカーボネート製造工程から、主に副生モノヒドロキシ化合物を含有する留出液を蒸留により分離し、且つ、炭素数1〜炭素数5のアルキル基を有するアルキルフェノールの含有量が100重量ppm以下であることを特徴とする炭酸ジエステル組成物。
(2) 前記アルキルフェノールがイソプロペニルフェノールであることを特徴とする前記(1)に記載の炭酸ジエステル組成物。
【0008】
(3) 芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換反応によりポリカーボネートを製造するポリカーボネート製造工程と、前記ポリカーボネート製造工程において副生する主に副生モノヒドロキシ化合物を含有する留出液を蒸留する副生モノヒドロキシ化合物蒸留工程と、を有し、前記副生モノヒドロキシ化合物蒸留工程において前記留出液から分離し、且つ炭素数1〜炭素数5のアルキル基を有するアルキルフェノールの含有量が100重量ppm以下である炭酸ジエステルを前記ポリカーボネート製造工程にリサイクルすることを特徴とするポリカーボネート樹脂の製造方法。
(4) 前記ポリカーボネート製造工程にリサイクルする前記炭酸ジエステルの組成物と、モノヒドロキシ化合物及びカルボニル化合物を用いて製造する炭酸ジエステルと、の混合物を、当該ポリカーボネート製造工程の原料として使用することを特徴とする前記(3)に記載のポリカーボネート樹脂の製造方法。
(5) 前記混合物は、炭素数1〜炭素数5のアルキル基を有するアルキルフェノールの含有量が30重量ppm以下であることを特徴とする前記(4)に記載のポリカーボネート樹脂の製造方法。
【0009】
(6) 芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換反応によるポリカーボネート製造工程と、前記ポリカーボネート製造工程において副生する主に副生モノヒドロキシ化合物を含有する留出液を蒸留する副生モノヒドロキシ化合物蒸留工程と、を有し、前記副生モノヒドロキシ化合物蒸留工程は、前記副生モノヒドロキシ化合物を蒸留する第一蒸留工程と、前記第一蒸留工程で得られる蒸留残渣中に含まれる炭酸ジエステルを留出する第二蒸留工程とを、有し、前記第二蒸留工程において、前記第一蒸留工程で得られる前記蒸留残渣量の90重量%分を蒸留塔頂から留出することを特徴とする炭酸ジエステルの精製方法。
(7) 前記第二蒸留工程において、前記第一蒸留工程の前記蒸留残渣量の5重量%分を蒸留塔頂より抜き出し、且つ、10重量%分を蒸留塔底から抜き出し、残りを精製物とすることを特徴とする前記(6)に記載の炭酸ジエステルの精製方法。
(8) 前記第二蒸留工程において塩基性物質を添加することを特徴とする前記(6)に記載の炭酸ジエステルの精製方法。
【0010】
(9) 前記塩基性物質は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、及び/又はこれらの酸化物、水酸化物、炭酸塩から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする前記(8)に記載の炭酸ジエステルの精製方法。
(10) 前記塩基性物質は、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムであることを特徴とする前記(8)又は前記(9)に記載の炭酸ジエステルの精製方法。
(11) 前記芳香族ジヒドロキシ化合物がビスフェノール類であることを特徴とする前記(6)乃至前記(10)のいずれか1項に記載の炭酸ジエステルの精製方法。
【0011】
(12) 前記(6)乃至前記(11)のいずれか1つに記載の炭酸ジエステルの精製方法で得られる炭酸ジエステルを、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換反応によるポリカーボネート製造工程にリサイクルすることを特徴とするポリカーボネート樹脂の製造方法。
(13)前記(6)乃至前記(11)のいずれか1つに記載の炭酸ジエステルの精製方法で得られる炭酸ジエステルとモノヒドロキシ化合物及びカルボニル化合物から製造される炭酸ジエステルとの混合物を、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換反応によるポリカーボネート製造工程の原料として使用することを特徴とするポリカーボネート樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ポリカーボネート樹脂の製造工程における未反応炭酸ジエステルを効率よくリサイクルし、原料の消費と廃棄物とを低減し、色調良好なポリカーボネート樹脂が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、発明の実施の形態)について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することが出来る。また、使用する図面は本実施の形態を説明するためのものであり、実際の大きさを表すものではない。
【0014】
(ポリカーボネート樹脂)
本実施の形態において使用するポリカーボネート樹脂は、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換反応により製造する。
ここで、ジヒドロキシ化合物としては、芳香族ジヒドロキシ化合物が好ましい化合物として挙げられる。また、ポリカーボネート樹脂としては、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換反応に基づく溶融重縮合により製造する芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましい。
以下、原料として芳香族ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステルを用い、エステル交換触媒の存在下、連続的に溶融重縮合反応を行うことにより、芳香族ポリカーボネート樹脂を製造する方法(溶融法)について説明する。
【0015】
(芳香族ジヒドロキシ化合物)
本実施の形態において使用する芳香族ジヒドロキシ化合物としては、下記一般式(1)で示される化合物が挙げられる。
【0016】
【化1】

【0017】
ここで、一般式(1)において、Aは、単結合または置換されていてもよい炭素数1〜10の直鎖状、分岐状若しくは環状の2価の炭化水素基、又は、−O−、−S−、−CO−若しくは−SO−で示される2価の基である。X及びYは、ハロゲン原子又は炭素数1〜6の炭化水素基である。p及びqは、0又は1の整数である。尚、XとY及びpとqは、それぞれ、同一でも相互に異なるものでもよい。
【0018】
芳香族ジヒドロキシ化合物の具体例としては、例えば、ビス(4−ヒドロキシジフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−t−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等のビスフェノール類;4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル等のビフェノ−ル類;ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン等が挙げられる。
これらの中でも、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(「ビスフェノールA」、以下、BPAと略記することがある。)が好ましい。これらの芳香族ジヒドロキシ化合物は、単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0019】
(炭酸ジエステル)
本実施の形態において使用する炭酸ジエステルとしては、下記一般式(2)で示される化合物が挙げられる。
【0020】
【化2】

【0021】
ここで、一般式(2)中、A’は、置換されていてもよい炭素数1〜10の直鎖状、分岐状又は環状の1価の炭化水素基である。2つのA’は、同一でも相互に異なるものでもよい。
なお、A’上の置換基としては、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜炭素数10のアルコキシ基、フェニル基、フェノキシ基、ビニル基、シアノ基、エステル基、アミド基、ニトロ基等が例示される。
【0022】
炭酸ジエステルの具体例としては、例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−t−ブチルカーボネート等のジアルキルカーボネートが挙げられる。
これらの中でも、ジフェニルカーボネート(以下、DPCと略記することがある。)、置換ジフェニルカーボネートが好ましい。これらの炭酸ジエステルは、単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0023】
また、上記の炭酸ジエステルは、好ましくはその50モル%以下、さらに好ましくは30モル%以下の量を、ジカルボン酸又はジカルボン酸エステルで置換してもよい。
代表的なジカルボン酸又はジカルボン酸エステルとしては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸ジフェニル、イソフタル酸ジフェニル等が挙げられる。このようなジカルボン酸又はジカルボン酸エステルで置換した場合には、ポリエステルカーボネートが得られる。
【0024】
これら炭酸ジエステル(上記の置換したジカルボン酸又はジカルボン酸エステルを含む。以下同じ。)は、芳香族ジヒドロキシ化合物に対して過剰に用いられる。
即ち、芳香族ジヒドロキシ化合物に対して、通常、炭酸ジエステル1.01〜1.30、好ましくは1.02〜1.20のモル比で用いられる。モル比が過度に小さいと、得られる芳香族ポリカーボネートの末端OH基が多くなり、樹脂の熱安定性が悪化する傾向となる。また、モル比が過度に大きいと、エステル交換の反応速度が低下し、所望の分子量を有する芳香族ポリカーボネートの生産が困難となる傾向となる他、樹脂中の炭酸ジエステルの残存量が多くなり、成形加工時や成形品としたときの臭気の原因となることがあり、好ましくない。
【0025】
(炭酸ジエステルの製造工程)
上述した炭酸ジエステルは、通常、フェノール等の芳香族モノヒドロキシ化合物及びカルボニル化合物を原料としてアルカリ系触媒の存在下の合成反応により製造する。
カルボニル化合物としては、炭酸ジエステルのカルボニル基を形成するものであれば特に限定されず、例えば、塩化カルボニル(ホスゲン)、一酸化炭素、炭酸ジアルキル等が挙げられる。中でも塩化カルボニル(ホスゲン)が好ましい。
また、アルカリ系触媒としては、ピリジン等が挙げられる。
【0026】
合成反応の条件は特に限定されないが、芳香族モノヒドロキシ化合物としてフェノールを使用する場合は、常圧下でフェノールが溶融状態にある50℃〜180℃が好ましい。また、芳香族モノヒドロキシ化合物とカルボニル化合物との混合比(モル比)は、芳香族モノヒドロキシ化合物1モルに対して、通常、カルボニル化合物0.40モル〜0.49モルが好ましい。
本実施の形態で使用する炭酸ジエステルは、上述したように芳香族モノヒドロキシ化合物及びカルボニル化合物を原料としてアルカリ系触媒存在下の合成反応を行う反応工程後、反応液を脱塩酸処理及び除去しきれない塩酸をアルカリ性水溶液により中和処理して水洗する洗浄工程と、さらに、蒸留工程を経て製造する。
【0027】
(エステル交換触媒)
本実施の形態において使用するエステル交換触媒としては、通常、エステル交換法によりポリカーボネートを製造する際に用いられる触媒が挙げられ、特に限定されない。一般的には、例えば、アルカリ金属化合物、ベリリウム化合物又はマグネシウム化合物、アルカリ土類金属化合物、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物又はアミン系化合物等の塩基性化合物が挙げられる。
これらのエステル交換触媒の中でも、実用的にはアルカリ金属化合物が望ましい。これらのエステル交換触媒は、単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
エステル交換触媒の使用量は、通常、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して1×10−9〜1×10−1モル、好ましくは1×10−7〜1×10−2モルの範囲で用いられる。
【0028】
アルカリ金属化合物としては、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素化合物等の無機アルカリ金属化合物;アルカリ金属のアルコール類、フェノール類、有機カルボン酸類との塩等の有機アルカリ金属化合物等が挙げられる。ここで、アルカリ金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムが挙げられる。
これらのアルカリ金属化合物の中でも、セシウム化合物が好ましく、特に、炭酸セシウム、炭酸水素セシウム、水酸化セシウムが好ましい。
【0029】
ベリリウム化合物又はマグネシウム化合物としては、例えば、ベリリウム又はマグネシウムの水酸化物、炭酸塩等の無機化合物;ベリリウム又はマグネシウムのアルコール類、フェノール類、有機カルボン酸類との塩等が挙げられる。
【0030】
アルカリ土類金属化合物としては、例えば、アルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩等の無機アルカリ土類金属化合物;アルカリ土類金属のアルコール類、フェノール類、有機カルボン酸類との塩等が挙げられる。ここで、アルカリ土類金属としては、カルシウム、ストロンチウム、バリウムが挙げられる。
【0031】
塩基性ホウ素化合物としては、ホウ素化合物のナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩、ストロンチウム塩等が挙げられる。ここで、ホウ素化合物としては、例えば、テトラメチルホウ素、テトラエチルホウ素、テトラプロピルホウ素、テトラブチルホウ素、トリメチルエチルホウ素、トリメチルベンジルホウ素、トリメチルフェニルホウ素、トリエチルメチルホウ素、トリエチルベンジルホウ素、トリエチルフェニルホウ素、トリブチルベンジルホウ素、トリブチルフェニルホウ素、テトラフェニルホウ素、ベンジルトリフェニルホウ素、メチルトリフェニルホウ素、ブチルトリフェニルホウ素等が挙げられる。
【0032】
塩基性リン化合物としては、例えば、トリエチルホスフィン、トリ−n−プロピルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン等の3価のリン化合物、又はこれらの化合物から誘導される4級ホスホニウム塩等が挙げられる。
【0033】
塩基性アンモニウム化合物としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、ブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。
【0034】
アミン系化合物としては、例えば、4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、4−ジエチルアミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、イミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メチルイミダゾール、アミノキノリン等が挙げられる。
【0035】
(芳香族ポリカーボネートの製造方法)
次に、本実施の形態が適用されるポリカーボネートの製造方法について、芳香族ポリカーボネートの製造方法を例に挙げて説明する。
図1は、ポリカーボネート製造方法の製造工程フロー図である。ここでは、ポリカーボネート樹脂を製造するポリカーボネート製造工程と原料の炭酸ジエステルを製造する炭酸ジエステル製造工程とが併設されている場合の工程フローについて説明する。
【0036】
図1に示すように、所定の芳香族ジヒドロキシ化合物製造工程において、芳香族ポリカーボネートの原料として使用する芳香族ジヒドロキシ化合物を製造する(ステップ101:図1では、S101と表示する。以下、同様。)。また、本実施の形態では、所定の炭酸ジエステル製造工程により炭酸ジエステル化合物を製造し(ステップ102)、所定の炭酸ジエステル精製工程を経て精製する(ステップ103)。
次に、これらの原料を用いて芳香族ポリカーボネートを製造する(ポリカーボネート製造工程:ステップ104)。
【0037】
芳香族ポリカーボネートの製造は、原料である芳香族ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステル化合物の原料混合溶融液を調製し(原調工程)、これらの化合物を、エステル交換反応触媒の存在下、溶融状態で複数の反応器を用いて多段階で重縮合反応をさせる(重縮合工程)ことにより行う。反応方式は、バッチ式、連続式、又はバッチ式と連続式の組合せのいずれでもよい。反応器は、複数基の竪型撹拌反応器及びこれに続く少なくとも1基の横型撹拌反応器を用いる。通常、これらの反応器を直列に設置し、連続的に処理を行う。
重縮合工程後、反応を停止し、重合反応液中の未反応原料や反応副生物を脱揮除去する工程や、熱安定剤、離型剤、色剤等を添加する工程、芳香族ポリカーボネートを所定の粒径のペレットに形成する工程等を適宜追加してもよい。
次に、ポリカーボネート製造工程の各工程について説明する。
【0038】
(原調工程)
芳香族ポリカーボネートの原料として使用する芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとは、通常、窒素、アルゴン等の不活性ガスの雰囲気下、バッチ式、半回分式または連続式の撹拌槽型の装置を用いて、原料混合溶融液として調製する。溶融混合の温度は、例えば、芳香族ジヒドロキシ化合物としてビスフェノールAを用い、炭酸ジエステルとしてジフェニルカーボネートを用いる場合は、通常20℃〜180℃、好ましくは125℃〜160℃の範囲から選択する。
この際、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの割合は、炭酸ジエステルが過剰になるように調整し、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、炭酸ジエステルは通常1.01モル〜1.30モル、好ましくは1.02モル〜1.20モルの割合になるように調整する。
【0039】
(重縮合工程)
芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステル化合物とのエステル交換反応による重縮合は、通常、2段階以上、好ましくは3段〜7段の多段方式で連続的に行う。具体的な反応条件としては、温度:150℃〜320℃、圧力:常圧〜0.01Torr(1.3Pa)、平均滞留時間:5分〜150分の範囲である。
多段方式の各反応器においては、重縮合反応の進行とともに副生するフェノールをより効果的に系外に除去するために、上記の反応条件内で、段階的により高温、より高真空に設定する。尚、製造する芳香族ポリカーボネートの色相等の品質低下を防止するためには、できるだけ低温、短滞留時間の設定が好ましい。
【0040】
重縮合工程を多段方式で行う場合は、通常、竪型撹拌反応器を含む複数基の反応器を設けて、ポリカーボネート樹脂の平均分子量を増大させる。反応器は通常3基〜6基、好ましくは4基〜5基設置する。
ここで、反応器としては、例えば、撹拌槽型反応器、薄膜反応器、遠心式薄膜蒸発反応器、表面更新型二軸混練反応器、二軸横型撹拌反応器、濡れ壁式反応器、自由落下させながら重合する多孔板型反応器、ワイヤーに沿わせて落下させながら重合するワイヤー付き多孔板型反応器等を用いる。
【0041】
竪型撹拌反応器の撹拌翼の形式としては、例えば、タービン翼、パドル翼、ファウドラー翼、アンカー翼、フルゾーン翼(神鋼パンテック(株)製)、サンメラー翼(三菱重工業(株)製)、マックスブレンド翼(住友重機械工業(株)製)、ヘリカルリボン翼、ねじり格子翼(日立製作所(株)製)等が挙げられる。
【0042】
また、横型撹拌反応器とは、撹拌翼の回転軸が横型(水平方向)であるものをいう。横型撹拌反応器の撹拌翼としては、例えば、円板型、パドル型等の一軸タイプの撹拌翼やHVR、SCR、N−SCR(三菱重工業(株)製)、バイボラック(住友重機械工業(株)製)、あるいはメガネ翼、格子翼(日立製作所(株)製)等の二軸タイプの撹拌翼が挙げられる。
【0043】
尚、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステル化合物との重縮合に使用するエステル交換触媒は、通常、予め水溶液として準備する。触媒水溶液の濃度は特に限定されず、触媒の水に対する溶解度に応じて任意の濃度に調整する。また、水に代えて、アセトン、アルコール、トルエン、フェノール等の他の溶媒を選択することもできる。
触媒の溶解に使用する水の性状は、含有する不純物の種類ならびに濃度が一定であれば特に限定されないが、通常、蒸留水や脱イオン水等が好ましい。
【0044】
(副生モノヒドロキシ化合物蒸留工程)
次に、副生モノヒドロキシ化合物蒸留工程について説明する。
上述したポリカーボネート製造工程における重縮合反応の進行とともに、副生モノヒドロキシ化合物を系外に除去する。
本実施の形態において、副生モノヒドロキシ化合物は、先ず、第一蒸留工程(ステップ105)で、主留のモノヒドロキシ化合物を蒸留塔の塔頂から抜き出し炭酸ジエステル製造工程及び/又は芳香族ジヒドロキシ化合物製造工程にリサイクルする(ステップ106)。また、モノヒドロキシ化合物と分離した高沸分を蒸留塔釜残留成分として抜き出し、第二蒸留工程に送る。
第二蒸留工程(ステップ107)では、先ず、第一蒸留工程で分離された高沸分の5重量%未満(初留)を抜き出す。続いて、高沸分の5重量%〜90重量%を蒸留し、炭素数1〜炭素数5のアルキル基を有するアルキルフェノールの含有量が100重量ppm以下である炭酸ジエステルを蒸留塔の塔頂から抜き出す。また、残りは蒸留残渣として処理する。尚、この蒸留工程は回分式でも連続式でもよい。
【0045】
第二蒸留工程で得た炭酸ジエステルは、炭酸ジエステル精製工程に循環供給し(炭酸ジエステルリサイクル工程:ステップ108)、所定の蒸留操作を経てポリカーボネート製造工程の原料として使用する。
ここで、第一蒸留工程の条件は特に限定されないが、通常、炭酸ジエステルがジフェニルカーボネートである場合、塔頂温度100℃〜150℃、圧力100Torr〜300Torrである。また、第二蒸留工程の条件は特に限定されないが、通常、塔頂温度80℃〜120℃、圧力30Torr〜80Torrである。
【0046】
このように、第二蒸留工程で5重量%未満の留出分を除去することにより、第一蒸留工程で得られる高沸物中に含まれる炭酸ジエステル以外の成分の大部分を除去することができる。
第一蒸留工程で得られる高沸物中に含まれる炭酸ジエステル以外の成分としては、例えば、フェノールや炭素数1〜炭素数5のアルキル基を有するアルキルフェノールが挙げられる。アルキルフェノールの具体的としては、イソプロペニルフェノール等が挙げられる。
【0047】
本実施の形態では、上述した蒸留操作により、炭素数1〜炭素数5のアルキル基を有するアルキルフェノールの含有量が、100重量ppm以下、好ましくは50重量ppm以下、さらに好ましくは30重量ppm以下である炭酸ジエステルを得ることができる。
特に、イソプロペニルフェノールの含有量が100重量ppm以下に低減した炭酸ジエステルをポリカーボネート製造工程における原料として使用することにより、得られるポリカーボネート樹脂の色調低下を防止することができる。
【0048】
次に、ポリカーボネート製造工程と炭酸ジエステル製造工程とが併設されていない場合の工程フローについて説明する。
図2は、ポリカーボネート製造方法の他の製造工程フロー図である。図2に示すように、芳香族ジヒドロキシ化合物は、前述したように所定の製造工程(芳香族ジヒドロキシ化合物製造工程)において製造する(ステップ201:図2では、S201と表示する。以下、同様。)。又、本実施の形態では、炭酸ジエステル化合物は、他炭酸ジエステル製造工程により製造する(ステップ202)。次に、これらの原料を用いて芳香族ポリカーボネートを製造する(ポリカーボネート製造工程:ステップ203)。
一方、重縮合反応の進行とともに副生モノヒドロキシ化合物を系外に除去する。副生モノヒドロキシ化合物は、副生モノヒドロキシ化合物蒸留工程において、第一蒸留工程(ステップ204)で、モノヒドロキシ化合物を蒸留塔の塔頂から抜き出し芳香族ジヒドロキシ化合物製造工程及び/又は他炭酸ジエステル製造工程にリサイクルする(ステップ205)。また、モノヒドロキシ化合物と分離した高沸分を第二蒸留工程に送る。
第二蒸留工程(ステップ206)では、先ず、第一蒸留工程で分離された高沸分の5重量%未満(初留)を抜き出す。続いて、高沸分の5重量%〜90重量%を蒸留し、炭素数1〜炭素数5のアルキル基を有するアルキルフェノールの含有量が100重量ppm以下である炭酸ジエステルを蒸留塔の塔頂から抜き出す。尚、残りは蒸留残渣として処理する。尚、この蒸留工程は回分式でも連続式でもよい。
【0049】
本実施の形態において、第二蒸留工程で蒸留塔の塔頂から抜き出した炭酸ジエステルは、前述したポリカーボネート製造工程における原料として循環供給する(炭酸ジエステルリサイクル工程:ステップ207)。
このようなリサイクルする炭酸ジエステルと、予め他炭酸ジエステル製造工程で製造した合成炭酸ジエステルとの混合物は、炭酸ジエステル以外の成分の含有量が大幅に低減された原料としてポリカーボネート製造工程で使用することができる。
このとき、また、ポリカーボネート製造工程に用いるリサイクル炭酸ジエステルと、予め他炭酸ジエステル製造工程で製造した合成炭酸ジエステルとの混合物中に含まれるアルキルフェノールの含有量は特に限定されないが、炭酸ジエステルに対し30重量ppm以下、好ましくは20重量ppm以下である。
特に、イソプロペニルフェノールの含有量が30重量ppm以下に低減した炭酸ジエステル混合物を原料として使用することにより、ポリカーボネートの色調低下を防止することができる。
【0050】
本実施の形態では、副生モノヒドロキシ化合物蒸留工程において塩基性物質を添加し、副生モノヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを分離することが好ましい。
ここで、塩基性物質としては特に限定されないが、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、及びこれらの酸化物、水酸化物、炭酸塩等が挙げられる。これらの中でも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。これらの塩基性物質は、それぞれ単独で使用することができ、また、複数の塩基性物質を用いることができる。
副生モノヒドロキシ化合物蒸留工程における塩基性物質の添加量は、特に限定されないが、通常0.1重量ppm〜1重量%、好ましくは、1重量ppm〜1000重量ppm、より好ましくは、10重量ppm〜200重量ppmである。
【0051】
(製造装置)
次に、図面に基づき、本実施の形態が適用される芳香族ポリカーボネートの製造方法の一例を具体的に説明する。
図3は、芳香族ポリカーボネートの製造装置の一例を示す図である。図3に示す製造装置において、芳香族ポリカーボネートは、原料の芳香族ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステル化合物を調製する原調工程と、これらの原料を溶融状態で複数の反応器を用いて重縮合反応する重縮合工程とを経て製造する。
その後、反応を停止させ重合反応液中の未反応原料や反応副生物を脱揮除去する工程(図示せず)や、熱安定剤、離型剤、色剤等を添加する工程(図示せず)、芳香族ポリカーボネートを所定の粒径のペレットに形成する工程(図示せず)を経て、芳香族ポリカーボネートのペレットを成形する。
【0052】
原調工程においては、直列に接続した第1原料混合槽2a及び第2原料混合槽2bと、調製した原料を重縮合工程に供給するための原料供給ポンプ4aとを設けている。第1原料混合槽2aと第2原料混合槽2bとには、例えばアンカー型撹拌翼3a,3bをそれぞれ設けている。
また、第1原料混合槽2aには、DPC供給口1a−1から、炭酸ジエステルであるジフェニルカーボネート(以下、DPCと記載することがある。)を溶融状態で供給し、BPA供給口1bからは、芳香族ジヒドロキシ化合物であるビスフェノールA(以下、BPAと記載することがある。)を粉末状態で供給し、溶融したジフェニルカーボネートにビスフェノールAを溶解する。
【0053】
次に、重縮合工程においては、直列に接続した第1竪型反応器6a、第2竪型反応器6b及び第3竪型反応器6cと、第3竪型反応器6cの後段に直列に接続した第4横型反応器9aとを設けている。第1竪型反応器6a、第2竪型反応器6b及び第3竪型反応器6cには、マックスブレンド翼7a,7b,7cがそれぞれ設け、また、第4横型反応器9aには、撹拌翼10aを設けている。
また、4基の反応器には、それぞれ重縮合反応により生成する副生物等を排出するための留出管8a,8b,8c,8dを取り付けている。
さらに、留出管8a,8b,8c,8dを経由して留出した副生フェノール等を精製するための、第1蒸留塔91aと第2蒸留塔91b、及び、第2蒸留塔91bの蒸留塔釜残留成分を蒸留する第3蒸留塔91cが設けている。
【0054】
図3に示す芳香族ポリカーボネートの製造装置において、窒素ガス雰囲気下、所定の温度で調製したDPC溶融液と、窒素ガス雰囲気下で計量したBPA粉末とを、それぞれDPC供給口1a−1とBPA供給口1bから第1原料混合槽2aに連続的に供給する。第1原料混合槽2aの液面が移送配管中の最高位と同じ高さを超えると、原料混合物が第2原料混合槽2bに移送される。
【0055】
次に、原料混合物を、原料供給ポンプ4aを経由して第1竪型反応器6aに連続的に供給する。また触媒として、水溶液状の炭酸セシウムを、原料混合物の移送配管途中の触媒供給口5aから連続的に供給する。
第1竪型反応器6aでは、窒素雰囲気下、例えば、温度220℃、圧力13.33kPa(100Torr)、撹拌翼の回転数を160rpmに保持し、副生したフェノールを留出管8aから留出させながら平均滞留時間60分になるように液面レベルを一定に保ち、重縮合反応を行う。
【0056】
次に、第1竪型反応器6aより排出した重合反応液を、引き続き、第2竪型反応器6b、第3竪型反応器6c、第4横型反応器9aに順次連続供給し、重縮合反応を進行させる。各反応器における反応条件は、重縮合反応の進行とともに高温、高真空、低撹拌速度となるようにそれぞれ設定する。重縮合反応の間、各反応器における平均滞留時間は、例えば、60分程度になるように液面レベルを制御する。また各反応器においては、副生するフェノールが留出管8b,8c,8dから留出する。
【0057】
本実施の形態においては、第1竪型反応器6a〜第4横型反応器9aにそれぞれ取り付けた留出管8b,8c,8dから、重縮合反応において副生するフェノールが留出する。
副生フェノールは、第一蒸留工程において、2基の蒸留塔(第1蒸留塔91a,第2蒸留塔91b)を使用して主留(フェノール)と高沸分(略、DPC)とを分離する。即ち、副生フェノールは、先ず、第1蒸留塔91aにて塔頂配管92aから初留を抜き出す。次に、第1蒸留塔91aで所流を抜き出した残りの留分は、塔底配管93aを介して引き続き第2蒸留塔91bに送られ、第2蒸留塔91bの塔頂配管92bから主留(フェノール)を抜き出し、塔底配管93bから高沸分(略、DPC)を蒸留塔釜残留成分として抜き出す。
【0058】
次に、第二蒸留工程において、2基の蒸留塔(第3蒸留塔91c,第4蒸留塔91d)を使用して炭酸ジエステル(DPC)を蒸留する。即ち、先ず、第3蒸留塔91cで、第2蒸留塔91bの塔底配管93bから抜き出した高沸分(略、DPC)の5重量%未満(初留)を塔頂配管92cから抜き出す。
続いて、第4蒸留塔91dで、塔底配管93cを介して送られた高沸分の5重量%〜90重量%を蒸留し、塔頂配管92dから、炭素数1〜炭素数5のアルキル基を有するアルキルフェノールの含有量が100重量ppm以下である炭酸ジエステルを抜き出す。尚、残りは塔底配管93dから蒸留残渣として排出する。第4蒸留塔91dの塔頂から留出した炭酸ジエステル(DPC)は、塔頂配管92dにより、DPC供給口1a−1を経て、第1原料混合槽2aに循環供給する。
【実施例】
【0059】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。尚、得られるポリカーボネート樹脂の物性は、下記の方法により測定する。
(1)粘度平均分子量(Mv)
ポリカーボネート樹脂をジクロロメタンに溶解し、濃度(C)600g/Lの溶液を調製する。次に、ウベローデ型毛細管粘度計を用いて、温度20℃に設定する恒温水槽中で、溶媒(ジクロロメタン)の流下速度(t)と試料溶液の流下速度(t)を測定し、以下の式に従い、粘度平均分子量(Mv)を求める。
ηsp=(t/t)−1
a=0.28×ηsp+1
b=10×(ηsp/C)
[η]=b/a
Mv=51400×[η]exp1.205
【0060】
(2)初期色相(YI)の測定
ポリカーボネート樹脂を窒素雰囲気下、120℃で6時間の乾燥後、射出成形機(株式会社日本製鋼所製J−100)により360℃で調製した3mm厚の射出成形片について、カラーテスター(スガ試験機株式会社製SC−1−CH)を用いてYI値を測定する。YI値が大きいほど着色していることを示す。
【0061】
(3)イソプロペニルフェノール(IPP)量
ジフェニルカーボネート組成物に含まれるイソプロペニルフェノール(IPP)量は、液体クロマトグラフィーで定量分析し、ジフェニルカーボネート組成物に対する重量比で表す。
【0062】
(4)ポリカーボネート樹脂製造装置の運転
図3に示す製造装置において、ジフェニルカーボネート(DPC)とビスフェノールA(BPA)とを窒素ガス雰囲気下、(DPC/BPA)0.977重量比で溶融混合し原料混合物を得る。次に、この原料混合物を窒素雰囲気下、210℃、100Torrに制御した第1縦型反応器6a内に連続供給し、平均滞留時間が60分になるように槽底部のポリマー排出ラインに設けられたバルブ開度を制御しつつ液面レベルを一定に保つ。
また、第1縦型反応器6a内に原料混合物の供給を開始すると同時に、触媒として炭酸セシウム水溶液をビスフェノールA1モルに対し、0.5×10−6モルの流量で連続供給する。
【0063】
第1縦型反応器6aの槽底から排出した重合反応液を、引き続き第2縦型反応器6b、第3縦型反応器6c並びに第4横型反応器9aに逐次連続供給する。重合反応の間、各反応器の平均滞留時間が60分になるように液面レベルを制御し、また同時に副生するフェノールの留去も行う。
反応器より蒸発するガスは、それぞれ多段凝縮器で凝縮液化され、一部を各反応器に還流し、残りを副生フェノールタンクに回収する。各反応器の重合条件は以下の通りである。
(第1縦型反応器6a)210℃、100Torr
(第2縦型反応器6b)240℃、15Torr
(第3縦型反応器6c)260℃、0.5Torr
(第4横型反応器9a)280℃、0.5Torr
【0064】
第4横型反応器9aの槽底から抜き出した溶融状態のポリマーを2軸の押出機(株式会社神戸製鋼所製、スクリュー径0.046m、L/D=40.2)に導入し、ポリカーボネート当たり5重量ppm相当のp−トルエンスルホン酸ブチルを連続的に添加しながらペレット化する。
得られたポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量Mvは21,000であり、初期YIは1.7である。
【0065】
上述したポリカーボネート樹脂の製造工程にて回収する副生フェノールを第1蒸留塔91a(塔頂温度140℃、圧力200Torr)にて低沸点成分(主として水分)を除いた後、第2蒸留塔91b(塔頂温度105℃、圧力50Torr)にてフェノールを塔頂から抜き出し、蒸留塔釜残留成分を得る。
この蒸留塔釜残留成分の組成は、フェノール1.9重量%、ビスフェノールA1.3重量%、ジフェニルカーボネート90.4重量%、その他6.4重量%である。
【0066】
(実施例1)
上述したポリカーボネート樹脂の製造工程において、第2蒸留塔91bにて得られた蒸留塔釜残留成分約5,300gを、スルーザーパッキング(住友重機工業株式会社製)を充填した理論段数8段の蒸留塔釜部に仕込み、バッチ式で蒸留精製を行う。
蒸留精製は、真空度20Torr〜15Torr、還流比1の条件で徐々に熱媒温度を上昇させる。初期留出分から全重量の30%(1,500g)を分取する。
この分取した留出分中のジフェニルカーボネート純度は87.44%であり、イソプロペニルフェノールは36重量ppmである。
【0067】
前述の留出分(ジフェニルカーボネート87.44%、イソプロペニルフェノール36重量ppm)とジフェニルカーボネート・フレーク(三菱化学株式会社製)とを混合し、重量比が45/55であるDPC混合物を調製する。このDPC混合物30.7molと、炭酸セシウム水溶液(触媒:炭酸セシウム0.5(μmol/ビスフェノールA−mol))とを、100℃に制御した40L第1反応器に供給し、次いで、ビスフェノールA(三菱化学株式会社製)29.3molを供給する。
40L第1反応器内を10torrにし、次いで、窒素で大気圧にする操作を5回繰り返し、内部を窒素置換する。次に、温度230℃の熱媒を通じて昇温し、前述のDPC混合物を溶解させた後、300rpmで撹拌し、内温を220℃に保ちながら、40分間かけて40L第1反応器内の圧力を760torrから100torrに減圧する。
【0068】
続いて、40L第1反応器内の圧力を100torrに保持したまま、フェノールを留去させながら80分オリゴマー化反応を行う。オリゴマー化終了後、系内を窒素で0.2MPaに復圧し、このオリゴマーを、300℃に制御した40L第2反応器(大気圧)に圧送する。
続いて、この40L第2反応器内を大気圧にまで放圧し、38rpmで撹拌しながら、系内を減圧にする。40L第2反応器内の圧力が0.5torrに到達後、0.5torrを保持したまま90分間縮合反応を行い、重合反応を行う。40L第2反応器内の最終的な内部温度は280℃である。
重合反応終了後、40L第2反応器内を窒素で復圧し、槽底からポリカーボネートポリマーをストランド状で抜き出し、回転式カッターでペレット化する。
得られるポリカーボネートの粘度平均分子量Mvは20,700であり、初期YIは1.83である。
【0069】
(実施例2)
実施例1において、釜残留成分のバッチ式蒸留精製を行い、初期留出分から全重量の30%〜85%を分取し、それ以外は実施例1と同様の条件で操作を行い、ポリカーボネートを製造する。
【0070】
(実施例3)
実施例1において、全還流状態で、1N水酸化ナトリウム水溶液13mLを蒸留塔頂に供給し、それ以外は実施例1と同様の操作を行って蒸留塔釜残留成分のバッチ式蒸留精製を行い、初期留出分から全重量の30%(1,500g)までの留出分を分取する。
この分取した留出分のジフェニルカーボネート純度は87.01%であり、イソプロペニルフェノールは未検出である。このジフェニルカーボネートを用いて、実施例1と同様の方法でポリカーボネートを製造する。
得られるポリカーボネートの粘度平均分子量Mvは21,400、YIは1.76である。
【0071】
(実施例4)
実施例1において、全還流状態で、1N水酸化ナトリウム水溶液13mLを蒸留塔頂に供給し、それ以外は実施例1と同様の操作を行って蒸留塔釜残留成分のバッチ式蒸留精製を行い、初期留出分から全重量の87%までの留出分を分取し、それ以外は実施例1と同様の条件で操作を行い、ポリカーボネートを製造する。
実施例1〜実施例4の結果の中、ジフェニルカーボネート(DPC)中のイソプロペニルフェノール(IPP)量を表1に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
表1に示す結果から、副生フェノールから分離され、イソプロペニルフェノール(IPP)の含有量が100重量ppm以下であるジフェニルカーボネート(DPC)を原料として得られるポリカーボネート樹脂は、初期色相(YI)値が小さく、色調が良好であることが分かる。
【0074】
(比較例1〜比較例6)
実施例1において、全還流状態で、1N水酸化ナトリウム水溶液を供給せず、それ以外は実施例1と同様の操作を行って蒸留塔釜残留成分のバッチ式蒸留精製を行い、初期留出分から表2に示す留出分をそれぞれ分取する。
このジフェニルカーボネートと予め他のジフェニルカーボネート精製工程により得られたジフェニルカーボネートとを、表2に示す割合で混合し、それ以外は、実施例1と同様の方法でポリカーボネートを製造する。
比較例1〜比較例6にけるジフェニルカーボネート(DPC)中のイソプロペニルフェノール(IPP)量を表2に示す。
【0075】
【表2】

【0076】
表2に示す結果から、副生フェノールから分離され、イソプロペニルフェノール(IPP)の含有量が100重量ppmを超えるジフェニルカーボネート(DPC)と、予め他のジフェニルカーボネート精製工程により得られたジフェニルカーボネートとの混合物を原料として得られるポリカーボネート樹脂は、初期色相(YI)値が大きく、色調が劣ることが分かる。
【0077】
以上詳述したように、本実施の形態では、未反応炭酸ジエステルを効率よくリサイクルし、且つ、色調良好なポリカーボネート樹脂が得られることが分かる。
本実施の形態において得られるポリカーボネート樹脂は、例えば、光ディスク基板、ICやLEDの精密電子部材の搬送容器、電子機器のハウジング等に使用する樹脂剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】ポリカーボネート製造方法の製造工程フロー図である。
【図2】ポリカーボネート製造方法の他の製造工程フロー図である。
【図3】ポリカーボネートの製造装置例を示す図である。
【符号の説明】
【0079】
2a…第1原料混合槽、2b…第2原料混合槽、3a,3b…アンカー型撹拌翼、4a…原料供給ポンプ、5a…触媒供給口、6a…第1竪型反応器、6b…第2竪型反応器、6c…第3竪型反応器、7a,7b,7c…マックスブレンド翼、8a,8b,8c,8d…留出管、9a…第4横型反応器、10a…撹拌翼、91a…第1蒸留塔、91b…第2蒸留塔、91c…第3蒸留塔、91d…第4蒸留塔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換反応によるポリカーボネート製造工程において、
前記ポリカーボネート製造工程から、主に副生モノヒドロキシ化合物を含有する留出液を蒸留により分離し、且つ、炭素数1〜炭素数5のアルキル基を有するアルキルフェノールの含有量が100重量ppm以下であることを特徴とする炭酸ジエステル組成物。
【請求項2】
前記アルキルフェノールがイソプロペニルフェノールであることを特徴とする請求項1に記載の炭酸ジエステル組成物。
【請求項3】
芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換反応によりポリカーボネートを製造するポリカーボネート製造工程と、
前記ポリカーボネート製造工程において副生する主に副生モノヒドロキシ化合物を含有する留出液を蒸留する副生モノヒドロキシ化合物蒸留工程と、を有し、
前記副生モノヒドロキシ化合物蒸留工程において前記留出液から分離し、且つ炭素数1〜炭素数5のアルキル基を有するアルキルフェノールの含有量が100重量ppm以下である炭酸ジエステルを前記ポリカーボネート製造工程にリサイクルする
ことを特徴とするポリカーボネート樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記ポリカーボネート製造工程にリサイクルする前記炭酸ジエステルの組成物と、モノヒドロキシ化合物及びカルボニル化合物を用いて製造する炭酸ジエステルと、の混合物を、当該ポリカーボネート製造工程の原料として使用することを特徴とする請求項3に記載のポリカーボネート樹脂の製造方法。
【請求項5】
前記混合物は、炭素数1〜炭素数5のアルキル基を有するアルキルフェノールの含有量が30重量ppm以下であることを特徴とする請求項4に記載のポリカーボネート樹脂の製造方法。
【請求項6】
芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換反応によるポリカーボネート製造工程と、
前記ポリカーボネート製造工程において副生する主に副生モノヒドロキシ化合物を含有する留出液を蒸留する副生モノヒドロキシ化合物蒸留工程と、を有し、
前記副生モノヒドロキシ化合物蒸留工程は、
前記副生モノヒドロキシ化合物を蒸留する第一蒸留工程と、
前記第一蒸留工程で得られる蒸留残渣中に含まれる炭酸ジエステルを留出する第二蒸留工程とを、有し、
前記第二蒸留工程において、前記第一蒸留工程で得られる前記蒸留残渣量の90重量%分を蒸留塔頂から留出する
ことを特徴とする炭酸ジエステルの精製方法。
【請求項7】
前記第二蒸留工程において、前記第一蒸留工程の前記蒸留残渣量の5重量%分を蒸留塔頂より抜き出し、且つ、10重量%分を蒸留塔底から抜き出し、残りを精製物とすることを特徴とする請求項6に記載の炭酸ジエステルの精製方法。
【請求項8】
前記第二蒸留工程において塩基性物質を添加することを特徴とする請求項6に記載の炭酸ジエステルの精製方法。
【請求項9】
前記塩基性物質は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、及び/又はこれらの酸化物、水酸化物、炭酸塩から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項8に記載の炭酸ジエステルの精製方法。
【請求項10】
前記塩基性物質は、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムであることを特徴とする請求項8又は9に記載の炭酸ジエステルの精製方法。
【請求項11】
前記芳香族ジヒドロキシ化合物がビスフェノール類であることを特徴とする請求項6乃至10のいずれか1項に記載の炭酸ジエステルの精製方法。
【請求項12】
請求項6乃至11のいずれか1項に記載の炭酸ジエステルの精製方法で得られる炭酸ジエステルを、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換反応によるポリカーボネート製造工程にリサイクルすることを特徴とするポリカーボネート樹脂の製造方法。
【請求項13】
請求項6乃至11のいずれか1項に記載の炭酸ジエステルの精製方法で得られる炭酸ジエステルとモノヒドロキシ化合物及びカルボニル化合物から製造される炭酸ジエステルとの混合物を、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換反応によるポリカーボネート製造工程の原料として使用することを特徴とするポリカーボネート樹脂の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−239650(P2008−239650A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−77829(P2007−77829)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】