説明

炭酸固化体の製造方法

【課題】未炭酸化Ca含有原料から良好な品質の炭酸固化体を短時間で効率的に製造する。
【解決手段】粉粒状の未炭酸化Ca含有原料を、水分を含んだ状態で炭酸ガスと接触させて炭酸化反応で固結させることにより、炭酸固化体を製造する方法であり、未炭酸化Ca含有原料の予成形体を実質的に気密な容器内に収納した後、該容器内を減圧する脱気工程と、該脱気工程に引き続き、前記容器内に炭酸ガスを供給して予成形体の未炭酸化Ca含有原料に炭酸化反応を生じさせる炭酸化工程とを有する。事前の減圧により予成形体内への炭酸ガスの浸透を効率的に行わせることができるため、良好な品質の炭酸固化体を従来に較べて短い時間で効率的に製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CaO含有廃材(例えば、コンクリート廃材)や鉄鋼製造プロセスで発生したスラグなどのような粉粒状の未炭酸化Ca含有原料を炭酸ガスと接触させ、炭酸化反応によって生成した炭酸カルシウムを主たるバインダーとして固結させた炭酸固化体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼製造プロセスで発生するスラグの利材化方法の一つとして、粉粒状のスラグをこれに含まれる未炭酸化Ca(CaO及び/又はCa(OH))を利用して炭酸固化させることによりブロック化された炭酸固化体を得る方法が知られている(例えば、特許文献1)。この方法では、スラグに含まれる未炭酸化Caを水を介して炭酸ガスと接触させることで炭酸化反応を生じさせ、この炭酸化反応で生成した炭酸カルシウムを主たるバインダーとしてスラグを固結させ、ブロック化された炭酸固化体を得るものである。
【0003】
具体的な製造方法としては、(1)スラグを型枠に充填し、このスラグ充填層に炭酸ガスを吹き込むことによりスラグ充填層を炭酸固化させる方法、(2)スラグを圧縮成形などにより予成形し、この予成形体を炭酸ガス雰囲気内に置いて内部に炭酸ガスを浸透させることにより、予成形体を炭酸固化させる方法、などがあり、前者は均質な大型ブロックを製造するのに適し、一方、後者は比較的小型製品を量産するのに適している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−71160号公報
【0005】
このような炭酸固化体の製造技術は、スラグやCaO含有廃材を原料として利用できるため、資源のリサイクル化という観点から非常に有用なものである。また、製造された炭酸固化体は旧来のコンクリート製品に代わる製品として、路面敷設用、建築用などの土木・建築材料、藻礁用や魚礁用などの水中沈設用材料をはじめとする様々な用途への利用が期待でき、特に藻礁用や魚礁用などの水中沈設用材料としては、藻類の生育や水中生物の棲息に好ましい環境を提供するという面で、コンクリート製品に較べて優れた性能を有することが判っている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述したような炭酸固化体の製造では、炭酸化反応によってスラグ粒子どうしを強固に結合させるために十分な量の炭酸化カルシウムを生成させるには長時間の炭酸化処理が必要であり、特に、粉粒状のスラグには微粉だけでなくある程度の大きさを有する粒も含まれているため、炭酸化に必要なCaイオンをスラグ粒子から溶出させるには時間がかかり、その分、炭酸化処理にも時間がかかってしまう。このため従来の製造技術では、十分な強度を有する炭酸固化体を得るに長時間の炭酸化処理が必要であり、生産性に劣るという難点があった。
また、スラグの予成形体を炭酸ガス雰囲気内に置いて炭酸固化させる方法では、炭酸化反応は予成形体表面から進行するため、内部まで均一に炭酸化させることが難しく、場合によっては、緻密な数百μmの炭酸カルシウム層が予成形体の表面に生成してしまい、予成形体内部まで炭酸化反応が進まないこともある。
【0007】
したがって本発明の目的は、このような従来技術の課題を解決し、未炭酸化Ca含有原料を炭酸化反応により固結させた炭酸固化体の製造方法において、良好な品質の炭酸固化体を従来に較べて短い時間で効率的に製造することができる炭酸固化体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
スラグなどの粉粒状の未炭酸化Ca含有原料(以下、“スラグ”を例に説明する)の充填層を炭酸ガス(CO)と接触させ、炭酸化反応によって生成した炭酸カルシウム(CaCO)を主たるバインダーとして固結させることにより炭酸固化体を製造する場合において、スラグ中の未炭酸化CaとCOとの反応は、各スラグ粒子の周囲に存在する水を介して進行するものと考えられている。すなわち、スラグ粒子の表面に存在する水(表面付着水)にスラグ粒子間を流れるCOが溶解するとともに、スラグ側からはCaイオンが溶出し、この表面付着水に溶解・溶出したCOとCaイオンとが反応(炭酸化反応)することにより、スラグ粒子表面にCaCOが析出するものと考えられる。そして、このスラグ粒子表面に析出したCaCOがスラグ粒子どうしを結合する主たるバインダーとなってスラグ充填層の全体が固結(炭酸固化)するものである。
【0009】
本発明者らは、このような原理でスラグ充填層の炭酸固化が生じることを前提に、供給されたCOとスラグ中の未炭酸化Caとを表面付着水を介して効率的に反応させ、スラグ粒子どうしを結合するのに十分な量のCaCOを短時間に生成させることができる方法を見出すべく検討を行った。その結果、以下に述べるような従来の製造方法の問題点とその解決法が明らかとなった。すなわち、スラグ粒子の表面付着水中においてCaCOの析出が適切に進行するためには、表面付着水に溶解したCO濃度とCaイオン濃度のバランスが重要であるが、炭酸化反応が進行するにしたがい、スラグ粒子からのCaイオンの溶解速度自体が遅くなること、スラグ粒子表面にCaCOの膜が形成され、これがCaイオンの溶出を妨げるようになること、などの要因によってCaイオンの表面付着水中への溶出が遅くなる。一方において、原料に対して炭酸ガスは供給され続けるため、表面付着水中の炭酸ガス濃度が増加してpHが低下し、重炭酸カルシウムの飽和状態となるため、炭酸カルシウムの析出反応が停止ないしは大幅に減少する。また、上記のようなスラグ粒子表面での炭酸化反応は均一反応系ではないので、局所的には炭酸カルシウムの析出も続くと推定されるが、原料全体では実質上炭酸カルシウムの析出は抑制される。
【0010】
以上のような理由により、従来法では炭酸化処理に長時間を要していたものと考えられる。そして、このような炭酸化反応を阻害する要因を取り除くには、炭酸化反応が進行してCaイオンの表面付着水中への溶出が遅くなった時点で、表面付着水中への炭酸ガスの溶解を抑制すること、好ましくは表面付着水中の炭酸ガス濃度を低減させることが有効であると考えられる。その具体的な方策について検討した結果、製造工程(炭酸化処理)の途中で、一旦、原料に供給する炭酸ガス量を減少させるか若しくは炭酸ガスの供給を休止することにより、表面付着水への炭酸ガスの溶解を抑制し(中間処理工程)、この状態を所定時間続けた後に、原料に対する定常的な炭酸ガスの供給を再開する方法が有効であることが判った。これは、原料に供給する炭酸ガス量を減少させるか若しくは炭酸ガスの供給を休止することにより、(a)原料層中のCO分圧の低下→(b)表面付着水中の炭酸ガスの脱気→(c)表面付着水のpH上昇→(d)炭酸カルシウムの析出→(e)表面付着水中のCaイオン濃度の低下→(f)原料粒子から表面付着水中へのCaイオンの溶出速度上昇、という機構によって、再び炭酸カルシウムの析出反応が効率的に生じるような状態になるためであると考えられる。また、特に好ましくは、上記中間処理工程において、原料に対する炭酸ガスの供給を休止するだけでなく、原料が置かれた雰囲気を減圧して表面付着水に含まれる炭酸ガスを脱気することが有効であることも判った。
また、スラグの予成形体を炭酸ガス雰囲気内に置いて炭酸固化させる方法において、予成形体内部まで均一に炭酸化させることが難しいという問題を解決する方策について検討した結果、予成形体を気密な容器内に収納して容器内を減圧した後、容器内に炭酸ガスを供給する方法が有効であることが判った。
【0011】
さらに、供給されたCOとスラグ中の未炭酸化Caとを水を介してより効率的に反応させるための方法について、以下のような知見を得た。
すなわち、スラグ中の未炭酸化CaとCOとを水を介して効率的に反応させるには、スラグ粒子の表面に水が存在し且つスラグ粒子間にCOの通り路となる間隙が適切に確保されること、換言すれば、スラグ充填層内ではスラグ粒子に表面付着水が存在して粒子どうしを水が架橋し、且つそれ以外のスラグ粒子間の間隙部分には、スラグ充填層内に連続したガス流路が残るようになるべく水が存在しないこと(つまり、ファニキュラ域となっていること)が必要であると考えられる。
【0012】
そこで、このような水の存在形態の下で炭酸化反応を生じさせることができる具体的な方法について検討した結果、水分を含んだスラグ充填層の内部を一旦減圧し、しかる後、スラグ充填層に炭酸ガス存在下で炭酸化反応を生じさせる方法、或いはスラグ充填層の内部に水を十分に含ませた後、スラグ充填層の内部を減圧してその水の一部を排出し、しかる後、スラグ充填層に炭酸ガス存在下で炭酸化反応を生じさせる方法が非常に有効であることを見出した。また、スラグ充填層を炭酸固化させて得られた炭酸固化体について、上記と同様に、水分を含んだ炭酸固化体の内部を一旦減圧し、しかる後、炭酸固化体に炭酸ガス存在下で再炭酸化反応を生じさせること、或いは炭酸固化体の内部に水を十分に含ませた後、炭酸固化体の内部を減圧してその水の一部を排出し、しかる後、炭酸固化体に炭酸ガス存在下で再度炭酸化反応を生じさせることにより、炭酸固化体の強度が効果的に高められることを見出した。
【0013】
本発明は、以上のような知見に基づきなされたもので、その特徴は以下の通りである。
[1]粉粒状の未炭酸化Ca含有原料を、水分を含んだ状態で炭酸ガスと接触させて炭酸化反応で固結させることにより、炭酸固化体を製造する方法であって、
未炭酸化Ca含有原料に炭酸ガスの供給を行って、該未炭酸化Ca含有原料に炭酸化反応を生じさせる初期炭酸化工程と、
該初期炭酸化工程に引き続き、未炭酸化Ca含有原料に供給する炭酸ガス量を減少させるか又は未炭酸化Ca含有原料への炭酸ガスの供給を休止する中間処理工程と、
該中間処理工程に引き続き、未炭酸化Ca含有原料に供給する炭酸ガス量を増加させるか又は未炭酸化Ca含有原料への炭酸ガスの供給を再開し、該未炭酸化Ca含有原料に炭酸化反応を生じさせる後期炭酸化工程とを有することを特徴とする炭酸固化体の製造方法。
【0014】
[2]上記[1]の製造方法において、中間処理工程では、未炭酸化Ca含有原料への炭酸ガスの供給を休止するとともに、未炭酸化Ca含有原料内部の雰囲気を空気以下の炭酸ガス濃度とすることを特徴とする炭酸固化体の製造方法。
[3]上記[1]又は[2]の製造方法において、中間処理工程と後期炭酸化工程を2回以上繰り返して行うことを特徴とする炭酸固化体の製造方法。
[4]上記[1]〜[3]のいずれかの製造方法において、未炭酸化Ca含有原料の充填層を形成し、該充填層を炭酸化反応で固結させる方法であって、
初期炭酸化工程前に、水分を含んだ未炭酸化Ca含有原料の前記充填層内部を減圧する工程を有することを特徴とする炭酸固化体の製造方法。
【0015】
[5]上記[1]〜[3]のいずれかの製造方法において、未炭酸化Ca含有原料の充填層を形成し、該充填層を炭酸化反応で固結させる方法であって、
初期炭酸化工程前に、未炭酸化Ca含有原料の前記充填層に水を含ませた後、該充填層内部を減圧することにより前記水の一部を排出する工程を有することを特徴とする炭酸固化体の製造方法。
[6]上記[1]〜[3]のいずれかの製造方法において、未炭酸化Ca含有原料の予成形体を実質的に気密な容器内に収納し、初期炭酸化工程及び後期炭酸化工程では前記容器内に炭酸ガスを供給することを特徴とする炭酸固化体の製造方法。
[7]上記[1]〜[6]のいずれかの製造方法で得られ、且つ水分を含んだ炭酸固化体の内部を減圧し、しかる後、該炭酸固化体に炭酸ガス存在下で再度炭酸化反応を生じさせることを特徴とする炭酸固化体の製造方法。
【0016】
[8]上記[1]〜[6]のいずれかの製造方法で得られた炭酸固化体の内部に水を含ませた後、該炭酸固化体の内部を減圧することにより前記水の一部を排出し、しかる後、前記炭酸固化体に炭酸ガス存在下で再度炭酸化反応を生じさせることを特徴とする炭酸固化体の製造方法。
[9]粉粒状の未炭酸化Ca含有原料を、水分を含んだ状態で炭酸ガスと接触させて炭酸化反応で固結させることにより、炭酸固化体を製造する方法であって、
未炭酸化Ca含有原料の予成形体を実質的に気密な容器内に収納した後、該容器内を減圧する脱気工程と、
該脱気工程に引き続き、前記容器内に炭酸ガスを供給して予成形体の未炭酸化Ca含有原料に炭酸化反応を生じさせる炭酸化工程とを有することを特徴とする炭酸固化体の製造方法。
[10]上記[9]の製造方法において、未炭酸化Ca含有原料の予成形体に水を含ませた後、脱気工程を行い、予成形体内部の減圧により前記水の一部を排出することを特徴とする炭酸固化体の製造方法。
【0017】
[11]上記[9]又は[10]の製造方法において、炭酸化工程が、
容器内に炭酸ガスの供給を行って予成形体の未炭酸化Ca含有原料に炭酸化反応を生じさせる初期炭酸化工程と、
該初期炭酸化工程に引き続き、容器内に供給する炭酸ガス量を減少させるか又は容器内への炭酸ガスの供給を休止する中間処理工程と、
該中間処理工程に引き続き、容器内に供給する炭酸ガス量を増加させるか又は容器内への炭酸ガスの供給を再開し、前記予成形体の未炭酸化Ca含有原料に炭酸化反応を生じさせる後期炭酸化工程とを有することを特徴とする炭酸固化体の製造方法。
[12]上記[11]の製造方法において、中間処理工程では、容器内への炭酸ガスの供給を休止するとともに、容器内雰囲気を空気以下の炭酸ガス濃度とすることを炭酸固化体の製造方法。
[13]上記[9]〜[12]のいずれかの製造方法で得られ、且つ水分を含んだ炭酸固化体の内部を減圧し、しかる後、該炭酸固化体に炭酸ガス存在下で再度炭酸化反応を生じさせることを特徴とする炭酸固化体の製造方法。
[14]上記[9]〜[10]のいずれかの製造方法で得られた炭酸固化体の内部に水を含ませた後、該炭酸固化体の内部を減圧することにより前記水の一部を排出し、しかる後、前記炭酸固化体に炭酸ガス存在下で再度炭酸化反応を生じさせることを特徴とする炭酸固化体の製造方法。
なお、本発明における上記炭酸ガスには、炭酸ガス含有ガスの一部として含有されるものも含まれる。
【発明の効果】
【0018】
上記[1]〜[8]の発明によれば、炭酸ガスの供給によって原料に炭酸化反応を生じさせる製造工程の途中において、炭酸カルシウムの析出が減少ないしは停止した段階で、原料に供給する炭酸ガス量を減少させるか若しくは炭酸ガスの供給を休止することにより表面付着水への炭酸ガスの溶解を抑制し、この中間工程によって再び炭酸カルシウムの析出反応が効率的に生じるような状態になった段階で、原料に対する定常的な炭酸ガスの供給を再開することにより、原料を効率的に炭酸固化させることができ、良好な品質の炭酸固化体を従来に較べて短い時間で効率的に製造することができる。さらに、上記[4]、[5]、[7]、[8]の発明によれば、炭酸ガスと原料中の未炭酸化Caとを水を介してより効率的に反応させることができ、より良好な品質の炭酸固化体を効率的に製造することができる。
また、上記[9]〜[14]の発明によれば、事前の減圧により予成形体内への炭酸ガスの浸透を効率的に行わせることができるため、良好な品質の炭酸固化体を従来に較べて短い時間で効率的に製造することができる。さらに、上記[10]、[13]、」[14]の発明によれば、炭酸ガスと原料中の未炭酸化Caとを水を介してより効率的に反応させることができ、より良好な品質の炭酸固化体を効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本願の第1の製造方法の一実施形態を、型枠を縦断面した状態で示す説明図
【図2】本願の第1の製造方法の他の実施形態を、処理容器を縦断面した状態で示す説明図
【図3】本願の第2の製造方法の一実施形態を、処理容器を縦断面した状態で示す説明図
【図4】本発明の好ましい一実施形態において、原料充填層又は炭酸固化体内での水の分布状態が均一化する原理を示す説明図
【図5】本発明の他の好ましい実施形態において、原料充填層又は炭酸固化体内での水の分布状態が均一化する原理を示す説明図
【図6】本発明の他の実施形態を型枠を縦断面した状態で示す説明図
【図7】本発明の他の実施形態を処理容器を縦断面した状態で示す説明図
【図8】本発明の他の実施形態を処理容器を縦断面した状態で示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0020】
まず、本願の第1の製造方法について説明する。
この方法は、粉粒状の未炭酸化Ca含有原料を、水分を含んだ状態で炭酸ガスと接触させて炭酸化反応で固結させることにより、炭酸固化体を製造する方法であって、未炭酸化Ca含有原料に炭酸ガスの供給を行って、この未炭酸化Ca含有原料に炭酸化反応を生じさせる初期炭酸化工程(A)と、この初期炭酸化工程(A)に引き続き、未炭酸化Ca含有原料に供給する炭酸ガス量を減少させるか又は未炭酸化Ca含有原料への炭酸ガスの供給を休止する中間処理工程(B)と、この中間処理工程(B)に引き続き、未炭酸化Ca含有原料に供給する炭酸ガス量を増加させるか又は未炭酸化Ca含有原料への炭酸ガスの供給を再開し、未炭酸化Ca含有原料に炭酸化反応を生じさせる後期炭酸化工程(C)とを有する。
【0021】
図1は本願の第1の製造方法の一実施形態を示すもので、未炭酸化Ca含有原料を型枠1に充填して原料充填層Aを形成し、この原料充填層A内に炭酸ガスを吹き込むようにしたものである。図1は、原料充填層Aを形成する型枠1を縦断面した状態を示している。
前記型枠1は実質的に気密又は半気密にすることが可能な型枠であって、本実施形態では、容器状の本体100とその上部を閉塞する蓋体101とから構成されている。前記本体100の底部にはガス給気部2(ガス給気用空間)が設けられるとともに、このガス給気部2と本体100との間の隔壁には多数のガス通孔20が形成されている。前記ガス給気部2にはガス供給管3が接続され、このガス供給管3を通じてガス給気部2内に炭酸ガス又は炭酸ガス含有ガス(以下、総称して“炭酸ガス”という)が供給される。また、型枠1の上部には型枠内に供給されたガスの排気を行うための排気管4が接続されている。その他図面において、5,6は各配管系に設けられた開閉弁である。
【0022】
型枠1内にはスラグなどの粉粒状の未炭酸化Ca含有原料が装入され、原料充填層Aが形成される。未炭酸化Ca含有原料が炭酸ガスと接触して炭酸化反応により固結するには、先に述べたように水分(原料粒子の表面付着水)が必要であり、このため未炭酸化Ca含有原料は適度な水分を含有している必要がある。このため必要に応じて未炭酸化Ca含有原料に水分を添加する。この水分添加は型枠1に装入する前に行ってもよいし、装入後に行ってもよい。また、型枠装入後に行う場合には、型枠1の上部を開放した状態で、型枠1ごと水槽内の水に浸漬してもよいし、原材料充填層Aの上部から十分な量の水を散水してもよい。通常、原料充填層の含水率は3〜12%、好ましくは5〜9%程度とするのが適当である。
上記のように水分を含んだ原料充填層Aを形成した後、型枠1内に吹き込まれる炭酸ガスが原料充填層全体に良く浸透するようにするため型枠に蓋体101を装着し、型枠1を気密又は半気密状態にする。
以上のようにして原料充填層Aを形成した後、以下に述べるような工程(A)〜(C)を順に行い、炭酸固化体を製造する。
【0023】
・初期炭酸化工程(A)
この工程では、未炭酸化Ca含有原料に所定時間(原料充填層の規模やガス流速などによって異なるが、一般的には8〜24時間程度)炭酸ガスの供給を行って、未炭酸化Ca含有原料に炭酸化反応を生じさせる。この工程は未炭酸化Ca含有原料の炭酸化を目的としたものであるため、定常的な炭酸ガスの供給を行うが、後述する後期炭酸化工程(C)に較べて原料からCaイオンが溶出しやすく、顕著な発熱を伴う活発な炭酸化反応が生じる。図1の実施形態では、ガス供給管3を通じて供給された炭酸ガスはガス給気部2に導入された後、ガス通孔20から上方の原料充填層A内に吹き込まれる。原料充填層A内を通過する炭酸ガスの一部は、原料粒子からその表面付着水に溶出したCaイオンと反応し、原料粒子の表面にCaCOが析出し、これがバインダーとなって原料充填層Aの固結が進行する。炭酸ガスの残りは原料充填層Aを通過して排気管4から型枠1外に排出される。また、場合によっては、排気管4の開閉弁6を閉じた状態で原料充填層A内に炭酸ガスを供給するようにしてもよいが、その場合には、時々開閉弁6を開にして型枠1内に溜まったガスを放出し、型枠1内の炭酸ガス濃度が所定レベル以上に維持されるようにすることが好ましい。
【0024】
・中間処理工程(B)
以上のような炭酸化処理(初期炭酸化工程)を所定時間続けると、原料粒子からのCaイオンの溶解速度自体が遅くなること、原料粒子表面にCaCOの膜が形成され、これがCaイオンの溶出を妨げるようになること、などの要因によってCaイオンの表面付着水中への溶出が遅くなる。一方において、原料に対して炭酸ガスは供給され続けるため、表面付着水中の炭酸ガス濃度(CO分圧)が増加してpHが低下し、重炭酸カルシウムの飽和状態となるため、炭酸カルシウムの析出反応が停止ないしは大幅に減少する。
このため、適当な段階で未炭酸化Ca含有原料に供給する炭酸ガス量を減少させるか又は未炭酸化Ca含有原料への炭酸ガスの供給を休止する(中間処理工程)。この工程では、例えば以下のような方法を採ることができる。
【0025】
(1)ガス供給管3を通じた炭酸ガスの供給を休止するか若しくはガス供給量を大幅に減少させる。
(2)ガス供給管3を通じた炭酸ガスの供給を休止した後、ガス供給管3を通じて型枠1内に空気を供給し、未炭酸化Ca含有原料内部の雰囲気を空気と置換する。
(3)ガス供給管3を通じた炭酸ガスの供給を休止した後、ガス供給管3を通じて型枠1内に空気未満の炭酸ガス濃度のガス(例えば、窒素ガス)を供給し、未炭酸化Ca含有原料内部の雰囲気を当該ガスと置換する。
(4)ガス供給管3を通じた炭酸ガスの供給を休止した後、 ガス供給管3を吸引ポンプ(図示せず)に接続し、この吸引ポンプによる吸引で未炭酸化Ca含有原料内部を減圧することにより、未炭酸化Ca含有原料内部の雰囲気を空気未満の炭酸ガス濃度とする。
これら(1)〜(4)の方法は任意に選択できるが、未炭酸化Ca含有原料内部の炭酸ガス濃度を短時間で且つ十分に低減させたい場合には、(2)〜(4)のいずれかの方法、好ましくは(3)又は(4)の方法、特に好ましくは(4)の方法が望ましい。(4)の方法では、減圧による脱気によって原料粒子の表面付着水中の炭酸ガス濃度を短時間に低減させることができる。
【0026】
以上の操作を行うことにより、原料粒子の表面付着水への炭酸ガスの溶解が実質的に停止するとともに、(a)原料充填層A中のCO分圧の低下→(b)表面付着水中の炭酸ガスの脱気→(c)表面付着水のpH上昇→(d)炭酸カルシウムの析出→(e)表面付着水中のCaイオン濃度の低下→(f)原料粒子から表面付着水中へのCaイオンの溶出速度上昇、という機構によって、再び炭酸カルシウムの析出反応が効率的に生じるような状態となる。
この中間処理工程(B)を行う時間等は特に限定されないが、原料充填層A中のCO分圧を十分に低下させることが好ましいことから、例えば、原料充填層内部の雰囲気を空気や他のガス(例えば、窒素ガス)で置換する場合には、原料充填層の体積の5倍以上、好ましくは10倍以上の量(トータル量)の空気やガスが原料充填層中に供給される程度の時間を目安とする。
【0027】
・後期炭酸化工程(C)
上記のような中間処理工程(B)を所定時間行うことによって、上述した(a)〜(f)の機構により炭酸カルシウムの析出反応が再び活性化された段階で、未炭酸化Ca含有原料に対する定常的な炭酸ガスの供給を再開する。すなわち、例えば上記(1)〜(4)の操作を行っている場合にはこれを終了し、初期炭酸化工程(A)と同様に、ガス供給管3を通じた未炭酸化Ca含有原料内への炭酸ガスの供給を行う。
この後期炭酸化工程(C)は原料充填層Aが十分に固結するまで行われるもので、その実施時間は特に限定されないが、例えば、炭酸ガス供給速度を初期炭酸化工程(A)と同じにした場合、同工程(A)の1/30〜1/3程度の時間が目安となる。現象的には、炭酸カルシウムの析出によって表面付着水中のCaイオン濃度が低下する一方で、表面付着水中への炭酸ガスの溶解が続くと、表面付着水のpHが低下し、表面付着水はpH8以下のCa(HCOの溶液となるので、炭酸カルシウムの析出が生じにくくなる。したがって、このように表面付着水がpH8以下になる時点が後期炭酸化工程(C)の終了の目安となる。後期炭酸化工程(C)終了後、固結した原料充填層Aを脱型し、製品である炭酸固化体を取り出す。
なお、上記中間処理工程(B)と後期炭酸化工程(C)は、これを2回以上繰り返して行うこともできる。例えば、原料充填層Aの大きさや原料粒度によって炭酸化処理の効率には差があり、上記中間処理工程(B)と後期炭酸化工程(C)を2回以上行った方が、処理効率面で有利な場合もあるからである。
【0028】
図1に示した実施形態は型枠1内に原料充填層Aを形成し、この原料充填層内に炭酸ガスを吹き込むようにしたものであるが、本願の第1の製造方法は、未炭酸化Ca含有原料を炭酸ガス雰囲気内に置き、炭酸ガスを原料内部に浸透させるような実施形態を採ることもできる。この場合には、未炭酸化Ca含有原料を圧縮成形などによって予成形し、この予成形されたものを炭酸ガス雰囲気内に置いて炭酸固化させる。
図2は、その一実施形態を示すもので、処理容器を縦断面した状態で示している。
処理容器1aは実質的に気密にすることが可能な容器であって、その側部には原料出し入れ部102が設けられている。この処理容器1aにはガス供給管3aが接続され、このガス供給管3を通じて処理容器1a内に炭酸ガスが供給される。また、処理容器1aの上部には処理容器内に供給されたガスの排気を行うための排気管4aが接続されている。その他図面において、5a,6aは各配管系に設けられた開閉弁である。
【0029】
粉粒状の未炭酸化Ca含有原料には、先に述べたような理由から予め所定の水分が添加されるとともに、圧縮成形などの方法により任意の形状に予成形される。なお、未炭酸化Ca含有原料を予成形するに当たっては、予成形体内の貫通気孔が過剰に塞がれないことを限度として、セメントなどのポゾラン反応物質、糖蜜、デンプン、リグニン、パルプ廃液などのバインダーを未炭酸化Ca含有原料に配合してもよい。未炭酸化Ca含有原料の予成形体Bは、処理容器1a内に装入(収納)され、処理容器1a内は気密にされる。そして、この状態で先に述べたような工程(A)〜(C)を順に行い、炭酸固化体を製造する。
すなわち、初期炭酸化工程(A)では、ガス供給管3aを通じて処理容器1a内に所定時間、未炭酸化Ca含有原料の炭酸化を目的として定常的な炭酸ガスの供給を行う。供給された炭酸ガスの一部は予成形体Bの表面から内部に浸透し、未炭酸化Ca含有原料に炭酸化反応を生じさせる。炭酸ガスの残りは排気管4aから処理容器1a外に排出される。また、場合によっては、図1の実施形態と同様に、排気管4aの開閉弁6aを閉じた状態で処理容器1a内に炭酸ガスを供給するようにしてもよい。
【0030】
以上のような炭酸化処理(初期炭酸化工程)を所定時間続けた後、適当な段階、すなわち、原料粒子の表面付着水中の炭酸ガス濃度が増加してpHが低下し、重炭酸カルシウムの飽和状態となった段階で中間処理工程(B)に移行し、処理容器1a内に供給する炭酸ガス量を減少させるか又は処理容器1a内への炭酸ガスの供給を休止する。この結果、予成形体B内部に供給(浸透)される炭酸ガス量が減少するか又は炭酸ガスの供給(浸透)が休止される。この場合、図1の実施形態と同様に、例えば以下のような方法を採ることができる。
(1)ガス供給管3aを通じた炭酸ガスの供給を休止するか若しくはガス供給量を大幅に減少させる。
(2)ガス供給管3aを通じた炭酸ガスの供給を休止した後、ガス供給管3aを通じて処理容器1a内に空気を供給し、処理容器1a内の雰囲気を空気と置換する。
(3)ガス供給管3aを通じた炭酸ガスの供給を休止した後、ガス供給管3aを通じて処理容器1a内に空気未満の炭酸ガス濃度のガス(例えば、窒素ガス)を供給し、処理容器1a内の雰囲気を当該ガスと置換する。
(4)ガス供給管3aを通じた炭酸ガスの供給を休止した後、ガス供給管3aを吸引ポンプ(図示せず)に接続し、この吸引ポンプによる吸引で処理容器1a内を減圧することにより、処理容器1a(及び予成形体B)内の雰囲気を空気未満の炭酸ガス濃度とする。
【0031】
これら(1)〜(4)の方法は任意に選択できるが、処理容器1a(及び予成形体B)内の炭酸ガス濃度を短時間で且つ十分に低減させたい場合には、(2)〜(4)のいずれかの方法、好ましくは(3)又は(4)の方法、特に好ましくは(4)の方法が望ましい。(4)の方法では、減圧による脱気によって原料粒子の表面付着水中の炭酸ガス濃度を短時間に低減させることができる。
以上の操作を行うことにより、原料粒子の表面付着水への炭酸ガスの溶解が実質的に停止するとともに、上述した(a)〜(f)の機構によって炭酸カルシウムの析出反応が再び活性化される。
【0032】
上記のような中間処理工程(B)を適当な時間行うことによって炭酸カルシウムの析出反応が活性化された段階で、後期炭酸化工程(C)に移行し、処理容器1aに対する定常的な炭酸ガスの供給を再開する。すなわち、例えば、上記(1)〜(4)の操作を行っている場合はこれを終了し、初期炭酸化工程(A)と同様に、ガス供給管3aを通じた処理容器1a内への炭酸ガスの供給を行う。
この後期炭酸化工程(C)は予成形体Bが十分に固結するまで行われ、後期炭酸化工程(C)終了後、製品である固結した予成形体B(炭酸固化体)を処理容器1aから取り出す。
この場合も、上記中間処理工程(B)と後期炭酸化工程(C)は、これを2回以上繰り返して行うことができる。なお、各工程(A)〜(C)を行う各時間は、図1で述べた実施形態と同様である。
なお、以上述べた本願の第1の製造方法の一連の工程において、各工程での処理時間に特別な制限はない。したがって、例えば、初期炭酸化工程(A)に引き続き中間処理工程(B)と後期炭酸化工程(C)を2回以上繰り返して行う場合において、初期炭酸化工程(A)の処理時間と2回以上行われる各後期炭酸化工程(C)の処理時間とが同程度の長さであっても構わない。
【0033】
また、以上述べた本願の第1の製造方法の一連の工程完了後に、炭酸固化体の強度をさらに高めるため、再炭酸化工程を付加してもよい。この再炭酸化工程では、水分を含んだ炭酸固化体に炭酸ガス存在下で再度炭酸化反応を生じさせる。スラグなどの粉粒状の未炭酸化Ca含有原料の充填層を炭酸化反応により固結させた炭酸固化体は全体に微細な貫通気孔を有しており、その内部に水を含ませる(浸透させる)ことができる。また、再炭酸化される炭酸固化体は、既に炭酸化反応によって生成したCaCOによって固結しているが、未炭酸化Ca含有原料中には未だ炭酸化していないCaが相当量含まれており、また、各原料粒子の全表面が析出したCaCOで覆われている訳ではないので、上記再炭酸化の際にも原料粒子から表面付着水にCaイオンが溶出し、炭酸化反応が進行することになる。
【0034】
また、この再炭酸化工程では、先に述べた本願の第1の製造方法の一連の工程を利用することができる。すなわち、この場合には、炭酸固化体が入れられた適当な容器内に炭酸ガスの供給を行って炭酸固化体に炭酸化反応を生じさせる初期炭酸化工程(A1)と、この初期炭酸化工程(A1)に引き続き、容器内に供給する炭酸ガス量を減少させるか又は容器内への炭酸ガスの供給を休止する中間処理工程(B1)と、この中間処理工程(B1)に引き続き、容器内に供給する炭酸ガス量を増加させるか又は容器内への炭酸ガスの供給を再開し、前記炭酸固化体に炭酸化反応を生じさせる後期炭酸化工程(C1)とを有するものである。
【0035】
このような実施形態では、初期炭酸化工程(A1)を所定時間続けた後、適当な段階、すなわち、原料粒子の表面付着水中の炭酸ガス濃度が増加してpHが低下し、重炭酸カルシウムの飽和状態となった段階で中間処理工程(B1)に移行し、容器内に供給する炭酸ガス量を減少させるか又は容器内への炭酸ガスの供給を休止する。この場合、例えば、図1,図2の実施形態で述べた(1)〜(4)の方法を採ることができ、その詳細は先に述べたとおりである。
以上の操作を行うことにより、原料粒子の表面付着水への炭酸ガスの溶解が実質的に停止するとともに、先に述べた(a)〜(f)の機構によって炭酸カルシウムの析出が活性化する。
上記のような中間処理工程(B1)を適当な時間行うことによって炭酸カルシウムの析出反応が再び活性化された段階で、後期炭酸化工程(C1)に移行し、容器に対する定常的な炭酸ガスの供給を再開する。
この場合も、上記中間処理工程(B1)と後期炭酸化工程(C1)は、これを2回以上繰り返して行うことができる。
【0036】
次に、以上述べた本願の第1の製造方法のより好ましい実施形態について説明する。この実施形態には、上述した第1の製造方法の一連の工程に対して、(a)初期炭酸化工程前に減圧工程を付加する形態、(b)一連の工程完了後に、減圧工程及びこれに続く炭酸化工程を含む再炭酸化工程を付加する形態、(c)以上の(a),(b)で行う両工程を付加する形態、がある。
先に述べたように、スラグなどの粉粒状の未炭酸化Ca含有原料を炭酸化反応により固結させて炭酸固化体を製造する際の原料中の未炭酸化CaとCOとの反応は、原料粒子の表面に存在する水(表面付着水)に原料粒子間を流れるCOが溶解するとともに、原料粒子側からはCaイオンが溶出し、この水に溶解・溶出したCOとCaイオンとが反応(炭酸化反応)することにより、原料粒子表面にCaCOが析出するものであると考えられる。
【0037】
特許文献1などに示される従来技術では、未炭酸化Ca含有原料に適量の水分(例えば、含水率5〜10%程度)を添加した状態で炭酸化処理が行われているが、その際の水分添加の方法は、単純に未炭酸化Ca含有原料と水を混合するだけであるため、原料充填層内での水の分布状態が不均一となりやすい。この結果、水の多いところではCOの通り路が十分に確保されないためCOが十分に流れず、このため炭酸化反応が生じにくく、また、僅かに炭酸化反応が生じる場所もCaイオンが溶け込んだ水の表面部分(すなわち、原料粒子表面から離れた場所)であるため、生成するCaCOは原料粒子どうしの結合に十分に寄与できないものと考えられる。一方、水が少ないところではCOの通り路が十分に確保されるためCOは流れるが、肝心の水分が少ないため、原料から溶出するCaイオンが少なく、この場合も炭酸化反応が生じにくくなるものと考えられる。したがって、水の分布状態が不均一であると、得られる炭酸固化体は炭酸化不足により強度不足を生じたり、強度のばらつきが大きいものとなってしまう。
【0038】
そこで、この本発明の好ましい形態では、原料充填層(炭酸固化体を再炭酸化させて強度向上を図る場合には“炭酸固化体”)内での水の分布状態を均一化するため、水分を含んだ原料充填層の内部を一旦減圧する処理を行い、しかる後、初期炭酸化工程(炭酸固化体を再炭酸化させて強度向上を図る場合には、再炭酸化工程)を行う。上記のような減圧処理を行うことにより、水の分布状態が均一化すると考えられる原理を、原料充填層の場合を例に図4(模式図)に基づいて説明する。
図4(a)は、適量の水(通常、炭酸化処理に必要且つ十分な量若しくはそれに近い量の水)を含んだ原料充填層(例えば、水を添加して混合した未炭酸化Ca含有原料を型枠に装入して構成された原料充填層)の内部を示している。この状態での原料粒子の間隙部分は、間隙の大きさや表面張力等の影響により水の存在状態にばらつきがあり、COの通り路を塞ぐように水が多量に存在する部分と、炭酸化反応に必要な量の水(原料粒子の表面付着水)が十分に存在していない部分とがある。そして、この状態で原料充填層内部を減圧すると、部分的に偏在していた水が引かれて移動し、表面付着水量が少なかった原料粒子の表面に付着する。この結果、原料粒子の間隙部分での水の存在状態が均一化され、図4(b)に示すように、各原料粒子に表面付着水が均一に存在し且つ原料粒子間にCOの通り路となる間隙が適切に確保された状態が原料充填層全体に実現することになる。なお、上記減圧により原料充填層内に存在する水のうちの一部が充填層外に排出される場合もある。
【0039】
そして、以上のように減圧処理によって水(間隙水)の分布状態が適正化された原料充填層に、初期炭酸化工程において炭酸ガス存在下で炭酸化反応を生じさせることにより、原料充填層全体で効率的且つ均一に炭酸化反応が進行し、この結果、生成したCaCOによる原料粒子間の結合力が向上し、炭酸固化体の強度を高めることができる。ここで、炭酸ガス存在下で炭酸化反応を生じさせるのに実際に使用するガスは、炭酸ガス又は炭酸ガス含有ガスである。
また、原料充填層を炭酸化反応で固結させた炭酸固体化の強度を向上させるため、炭酸固化体に再度炭酸化反応(再炭酸化)を生じさせる場合の原理も上記と同様である。
この場合、再炭酸化の対象となるのは、上述した方法によって得られた炭酸固化体である。先に述べたように、スラグなどの粉粒状の未炭酸化Ca含有原料の充填層を炭酸化反応により固結させた炭酸固化体は全体に微細な貫通気孔を有しており、その内部に水を含ませる(浸透させる)ことができる。この炭酸固化体に対して、強度向上を目的として再炭酸化を行うものであるが、この際、炭酸固化体内での水の分布状態を均一化するため、炭酸固化体の内部を減圧する処理を行う。
【0040】
この場合に、炭酸固化体内の水の分布状態が均一化すると考えられる原理は、先に述べた原料充填層の場合と同様である。すなわち、図4(a)が適量の水(通常、炭酸化処理に必要且つ十分な量若しくはそれに近い量の水)を含んだ炭酸固化体の内部を示すものとすると、この状態での原料粒子の間隙部分は、間隙の大きさや表面張力等の影響により水の存在状態にばらつきがあり、COの通り路を塞ぐように水が多量に存在する部分と、炭酸化反応に必要な量の水(原料粒子の表面付着水)が十分に存在していない部分とがある。そして、この状態で炭酸固化体内部を減圧すると、部分的に偏在していた水が引かれて移動し、表面付着水量が少なかった原料粒子の表面に付着する。この結果、原料粒子の間隙部分での水の存在状態が均一化され、図4(b)に示すように、各原料粒子に表面付着水が均一に存在し且つ原料粒子間にCOの通り路となる間隙が適切に確保された状態が炭酸固化体全体に実現することになる。なお、上記減圧により炭酸固化体内に存在する水のうちの一部が外部に排出される場合もある。
【0041】
そして、以上のように減圧処理によって水(間隙水)の分布状態が適正化された炭酸固化体に炭酸ガス存在下で再度炭酸化反応を生じさせることにより、炭酸固化体全体で効率的且つ均一に炭酸化反応が進行し、この結果、新たに生成したCaCOにより原料粒子間の結合力が向上し、炭酸固化体の強度をさらに高めることができる。ここで、再炭酸化される炭酸固化体は、既に炭酸化反応によって生成したCaCOによって固結しているが、先に述べたように、原料中には未だ炭酸化していないCaが相当量含まれており、また、各原料粒子の全表面が析出したCaCOで覆われている訳ではないので、上記再炭酸化の際にも原料粒子から表面付着水にCaイオンが溶出し、炭酸化反応が進行することになる。
【0042】
また、原料充填層を炭酸固化させるに当たり、上述した減圧処理で原料充填層内部の水(間隙水)の分布状態を均一化した上で炭酸化を行い、これにより得られた炭酸固化体をさらに再炭酸化するとともに、この際にも、上述した減圧処理で炭酸固化体の水(間隙水)の分布状態を均一化した上で再炭酸化を行うようにすることができる。すなわち、この実施形態では、水分を含んだ原料充填層内部を減圧処理した後、初期炭酸化工程とこれに続く一連の工程を行うことにより原料充填層を固結させ、さらに、このようにして得られた炭酸固化体内部に必要に応じて水(炭酸化反応に必要な水)を含ませた後、炭酸固化体内部を減圧処理し、しかる後、炭酸固化体に炭酸ガス存在下で再度炭酸化反応を生じさせるものであり、これにより、特に高い強度を有する炭酸固化体を得ることができる。
【0043】
次に、本願の第1の製造方法の他の好ましい形態について説明する。
この形態では、原料充填層(炭酸固化体を再炭酸化させて強度向上を図る場合には“炭酸固化体”)内での水の分布状態を均一化するため、原料充填層の内部に水を十分に含ませた後、原料充填層の内部を減圧してその水の一部(すなわち、原料粒子の表面付着水以外の余分な水)を排出する処理を行い、しかる後、初期炭酸化工程(炭酸固化体を再炭酸化させて強度向上を図る場合には、再炭酸化工程)を行う。上記のような処理を行うことにより水の分布状態が均一化すると考えられる原理を、原料充填層の場合を例に図5(模式図)に基づいて説明する。
【0044】
図5(a)は、原料充填層内部に水を十分に含ませた状態を示している。この状態では原料粒子の間隙の多くに水が存在するとともに、その間隙水中に気泡が存在している。この気泡は原料充填層に水を含ませる際に充填層内に閉じ込めたれた気泡であり、このような気泡は原料充填層全体に広く存在している。そして、この状態で原料充填層内部を減圧すると、図5(b)に示すように間隙水中の気泡が大きく膨張し、この気泡が間隙水を原料充填層外部に押し出し、最終的には図5(c)に示すように、原料粒子表面に付着した水(表面付着水)を残して間隙水の大部分が原料充填層の外に流出する。つまり、炭酸化反応に不必要なだけでなく、原料充填層内でのCOの通過を阻害する間隙水の大部分が原料充填層内部から除かれる。この結果、各原料粒子に表面付着水が均一に存在し且つ原料粒子間にCOの通り路となる間隙が適切に確保された状態が原料充填層全体に実現することになる。
そして、以上のような処理によって水(間隙水)の分布状態が適正化された原料充填層に、初期炭酸化工程において炭酸ガス存在下で炭酸化反応を生じさせることにより、原料充填層全体で効率的且つ均一に炭酸化反応が進行し、この結果、生成したCaCOによる原料粒子間の結合力が向上し、炭酸固化体の強度を高めることができる。ここで、炭酸ガス存在下で炭酸化反応を生じさせるのに実際に使用するガスは、炭酸ガス又は炭酸ガス含有ガスである。
【0045】
また、原料充填層を炭酸化反応で固結させた炭酸固体化の強度を向上させるため、炭酸固化体に再度炭酸化反応(再炭酸化)を生じさせる場合の原理も上記と同様である。
この場合、再炭酸化の対象となるのは、上述した方法によって得られた炭酸固化体である。先に述べたように、スラグなどの粉粒状の未炭酸化Ca含有原料の充填層を炭酸化反応により固結させた炭酸固化体は全体に微細な貫通気孔を有しており、その内部に水を含ませる(浸透させる)ことができる。この炭酸固化体に対して、強度向上を目的として再炭酸化を行うものであるが、この際、炭酸固化体内での水の分布状態を均一化するため、炭酸固化体の内部に水を十分に含ませた後、炭酸固化体の内部を減圧してその水の一部(すなわち、原料粒子の表面付着水以外の余分な水)を排出する処理を行う。
【0046】
この場合に、炭酸固化体内の水の分布状態が均一化すると考えられる原理は、先に述べた原料充填層の場合と同様である。すなわち、図5(a)が炭酸固化体内部に水を十分に含ませた状態を示すものとすると、この状態では原料粒子の間隙の多くに水が存在するとともに、その間隙水中に気泡が存在している。そして、この状態で炭酸固化体内部を減圧すると、図5(b)に示すように間隙水中の気泡が大きく膨張し、この気泡が間隙水を炭酸固化体外部に押し出し、最終的には図5(c)に示すように、原料粒子表面に付着した水(表面付着水)を残して間隙水の大部分が炭酸固化体の外に流出する。つまり、炭酸化反応に不必要なだけでなく、炭酸固化体内でのCOの通過を阻害する間隙水の大部分が炭酸固化体内部から除かれる。この結果、各原料粒子に表面付着水が均一に存在し且つ原料粒子間にCOの通り路となる間隙が適切に確保された状態が炭酸固化体全体に実現することになる。
【0047】
そして、以上のような処理によって水(間隙水)の分布状態が適正化された炭酸固化体に炭酸ガス存在下で再度炭酸化反応を生じさせることにより、炭酸固化体全体で効率的且つ均一に炭酸化反応が進行し、この結果、新たに生成したCaCOにより原料粒子間の結合力が向上し、炭酸固化体の強度をさらに高めることができる。ここで、再炭酸化される炭酸固化体は、既に炭酸化反応によって生成したCaCOによって固結しているが、原料中には未だ炭酸化していないCaが相当量含まれており、また、各原料粒子の全表面が析出したCaCOで覆われている訳ではないので、上記再炭酸化の際にも原料粒子から表面付着水にCaイオンが溶出し、炭酸化反応が進行することになる。
【0048】
また、原料充填層を炭酸固化させるに当たり、上述した方法で原料充填層内部の水(間隙水)の分布状態を均一化した上で炭酸化を行い、これにより得られた炭酸固化体をさらに再炭酸化するとともに、この際にも、上述した方法で炭酸固化体の水(間隙水)の分布状態を均一化した上で再炭酸化を行うようにすることができる。すなわち、この実施形態では、原料充填層内部に水を含ませた後、この原料充填層内部を減圧することによりその水の一部(すなわち、原料粒子の表面付着水以外の余分な水)を排出し、しかる後、初期炭酸化工程とこれに続く一連の工程を行うことより原料充填層を固結させ、さらに、このようにして得られた炭酸固化体内部に水を含ませた後、炭酸固化体内部を減圧することによりその水の一部(すなわち、原料粒子の表面付着水以外の余分な水)を排出し、しかる後、炭酸固化体に炭酸ガス存在下で再度炭酸化反応を生じさせるものであり、これにより、特に高い強度を有する炭酸固化体を得ることができる。
以上述べた好ましい実施形態における原料充填層又は炭酸固化体の「減圧処理(図4及び図5のいずれの場合も含む)−炭酸化処理」は、これを複数回繰り返して実施してもよい。この場合、例えば最初に図5の原理に基づく「減圧処理−炭酸化処理」を行い、次いで、図4の原理に基づく「減圧処理−炭酸化処理」を行うようにすることもできる。
【0049】
以上述べた好ましい形態において、未炭酸化Ca含有原料の充填層又はこれを炭酸固化させて得られた炭酸固化体に水を含ませる方法は任意であり、例えば、原料充填層又は炭酸固化体を水中に浸漬する方法(原料充填層の場合には、型枠などの充填層保持容器ごと水中に浸漬させる)、原料充填層又は炭酸固化体に散水する方法などにより、それらに水を含ませることができる。また、予め十分に水を含ませた未炭酸化Ca含有原料を型枠などの容器に装入するようにしてもよい。
原料充填層又は炭酸固化体の内部を減圧する方法も任意であり、例えば、原料充填層を形成すべき型枠を気密にできるようにし、この型枠に真空ポンプを備えた排気(吸引)機構を接続し、この排気機構により型枠内部(すなわち、原料充填層又は炭酸固化体の内部)を減圧するようにしてもよい。また、型枠などから取り出した炭酸固化体を別に用意した気密容器に収容し、この気密容器内を上記のような排気(吸引)機構により減圧するようにしてもよい。
【0050】
上記減圧工程での減圧の程度にも特別な制限はないが、原料充填層又は炭酸固化体の内部の水を速やかに移動させ或いは余分な水を速やかに排出させるためには、原料充填層又は炭酸固化体の内部を0.8気圧以下、より望ましくは0.2気圧以下に減圧することが好ましい。
炭酸化処理される原料充填層又は炭酸固化体中の含水率は、原料充填層又は炭酸固化体内部の空隙率(気孔率)などによっても異なるが、通常は1〜7%、好ましくは2〜5%程度とするのが適当である。また、粒径が実質的に3mm以下の未炭酸化Ca含有原料を用いる場合には、一般に3〜11%、好ましくは5〜9%程度の含水率とするのが適当である。したがって、減圧処理により原料充填層又は炭酸固化体中の水の一部を排出させる場合には、減圧処理後の含水率が上記の範囲になるよう、減圧処理前の含水率、減圧の程度、原料充填層又は炭酸固化体内部の空隙率(気孔率)などを調整することが好ましい。
原料充填層又は炭酸固化体に炭酸ガス存在下で炭酸化反応を生じさせるには、通常、上記型枠又は気密容器内に炭酸ガスを供給し、原料充填層又は炭酸固化体の内部に炭酸ガスを吹き込むか、或いは原料充填層又は炭酸固化体を気密容器の炭酸ガス雰囲気内に置き、原料充填層又は炭酸固化体の内部に炭酸ガスを浸透させる。
【0051】
次に、以上述べた好ましい実施形態の具体的例について説明する。
図6はその一例を示すもので、原料充填層を形成する型枠を縦断面した状態を示している。
前記型枠1cは実質的に気密にすることが可能な型枠であって、図1と同じく容器状の本体100cとその上部を閉塞する蓋体101cとから構成されている。前記本体100cの底部にはガス給排気部2c(ガス給排気用空間)が設けられるとともに、このガス給排気部2cと本体100cとの間の隔壁には多数のガス通孔20cが形成されている。前記ガス給排気部2cには、ガス給排気管7cが接続されるとともに、このガス給排気管7cには、炭酸ガス又は炭酸ガス含有ガス(以下、総称して“炭酸ガス”という)を供給するためのガス供給管8cと、型枠1c内の減圧を行うための吸引ポンプ10cを備えた吸引管9cが接続されている。また、型枠1cの上部には型枠内に供給されたガスの排気を行うための排気管4cが接続されている。その他図面において、6c、11c、12cは各配管系に設けられた開閉弁である。
【0052】
図6における1つの実施形態(図4の作用を狙いとする実施形態)では、型枠1c内には原料などの粉粒状の未炭酸化Ca含有原料が装入され、適量の水(通常、炭酸化処理に必要且つ十分な量若しくはそれに近い量の水)を含んだ原料充填層Aが形成される。この水は、型枠1cに装入される前の未炭酸化Ca含有原料に添加してもよいし、原料充填層Aに添加してもよい。
上記のように原料充填層Aを形成後、蓋体101cを装着して型枠1cを気密状態にし、しかる後、吸引管9cの吸引ポンプ10cを用いた吸引により型枠1c内から排気を行う。これにより原料充填層A(型枠)の内部が減圧され、原料充填層A内には先に述べたような水(間隙水)の適切な分布状態、すなわち、各原料粒子に表面付着水が均一に存在し且つ原料粒子間にCOの通り路となる間隙が適切に確保された状態が実現する。
次いで、開閉弁11c,12cの操作によって吸引管9cとガス供給管8cとを切り替え、ガス供給管8cから型枠1c内に炭酸ガスを供給して初期炭酸化工程を開始し、以降は図1の実施形態と同様の一連の工程を行う。
【0053】
また、図6における他の実施形態(図5の作用を狙いとする実施形態)では、まず、型枠1c内に形成された原料充填層Aに十分な水を含ませるが、その方法としては、型枠1cの上部を開放した状態で、型枠ごと水槽内の水に浸漬してもよいし、原材料充填層Aの上部から十分な量の水を散水してもよい。また、予め十分に水を含ませた未炭酸化Ca含有原料を型枠1c内に装入するようにしてもよい。
上記のように原料充填層Aに水を十分に含ませた後、蓋体101cを装着して型枠1cを気密状態にし、しかる後、吸引管9cの吸引ポンプ10cを用いた吸引により型枠1c内から排気を行う。これにより原料充填層A(型枠)の内部が減圧され、原料充填層A内の空気及び水(間隙水)が原料充填層から押し出され、ガス通孔20、ガス給排気部2cを経由して型枠1cから排出される。この結果、原料充填層A内には先に述べたような水(間隙水)の適切な分布状態、すなわち、各原料粒子に表面付着水が均一に存在し且つ原料粒子間にCOの通り路となる間隙が適切に確保された状態が実現する。
【0054】
次いで、開閉弁11c,12cの操作によって吸引管9cとガス供給管8cとを切り替え、ガス供給管8cから型枠1c内に炭酸ガスを供給して初期炭酸化工程を開始し、以降は図1の実施形態と同様の一連の工程を行う。
以上のような各実施形態の製造方法により十分な強度を有する炭酸固化体が製造されるが、この炭酸固化体の強度をさらに高めるために、上記のような工程で得られた炭酸固化体をそのまま型枠内に収納した状態で、或いは別の容器に移して再炭酸化を行うようにしてもよい。
その際、上記原料充填層Aを炭酸固化させる場合と同様に、(a)炭酸固化体の内部を一旦減圧処理し、しかる後、炭酸ガスを供給して再炭酸化を実施する方法、(b)炭酸固化体に十分な水を含ませた後、炭酸固化体の内部を減圧処理して余分な水を排出し、しかる後、炭酸ガスを供給して再炭酸化を実施する方法、(c)先に述べたような初期炭酸化工程(A1)、中間処理工程(B1)、後期炭酸化工程(C2)を順次行う方法、などの方法を採ることができる。
炭酸固化体を再炭酸化する場合、上記原料充填層を炭酸固化させる場合と同様に、炭酸固化体内に炭酸ガスを吹き込む方法と、炭酸固化体を炭酸ガス雰囲気内に置いて炭酸ガスを内部に浸透させる方法とがあり、いずれの方法を用いてもよい。
【0055】
図7は、炭酸固化体内に炭酸ガスを吹き込む方法の実施状況の一例を示すものであって、処理容器を縦断面した状態を示している。処理容器の装置構成は、図6の実施形態とほぼ同様である。すなわち、処理容器1d(この容器は図6のような型枠であってもよい)は実質的に気密にすることが可能な容器であって、この例では、本体100dとその上部を閉塞する蓋体101dとから構成され、本体100dの底部には多数のガス通孔20を有するガス給排気部2d(ガス給排気用空間)が設けられている。このガス給排気部2dには、ガス給排気管7dが接続されるとともに、このガス給排気管7dには、炭酸ガスを供給するためのガス供給管8dと、処理容器1d内の減圧を行うための吸引ポンプ10dを備えた吸引管9dが接続されている。また、処理容器1dの上部には処理容器1d内に供給されたガスの排気を行うための排気管4dが接続されている。その他図面において、6d,11d,12dは各配管系に設けられた開閉弁である。
【0056】
図7における1つの実施形態(図4の作用を狙いとする実施形態)では、前記処理容器内1dに、容器内壁面との間に大きな隙間を生じないように、粉粒状の未炭酸化Ca含有原料を炭酸固化させて得られた炭酸固化体Bが入れられる。これにより、処理容器底部のガス給排気部2dから導入された炭酸ガスを炭酸固化体内部(原料粒子間の間隙=貫通気孔)を通過するようにして流すことができる。炭酸固化体Bは適量の水(通常、炭酸化処理に必要且つ十分な量若しくはそれに近い量の水)を含んでいる。
上記のように処理容器1d内に炭酸固化体Bを入れた後、蓋体101dを装着して処理容器1dを気密状態にし、しかる後、吸引管9dの吸引ポンプ10dを用いた吸引により処理容器1d内から排気を行う。これにより炭酸固化体B(処理容器)の内部が減圧され、炭酸固化体B内には先に述べたような水(間隙水)の適切な分布状態、すなわち、各原料粒子に表面付着水が均一に存在し且つ原料粒子間にCOの通り路となる間隙が適切に確保された状態が実現する。
【0057】
次いで、開閉弁11d,12dの操作によって吸引管9dとガス供給管8dとを切り替え、ガス供給管8dから処理容器1d内に炭酸ガスを一定期間(例えば、数時間〜数百時間程度)供給する。炭酸ガスはガス給排気部2dに導入された後、ガス通孔20から上方の炭酸固化体B内に吹き込まれる。炭酸固化体B内を通過する炭酸ガスの一部は、原料粒子からその表面付着水に溶出したCaイオンと反応し、原料粒子の表面にCaCOが析出し、これがバインダーとなって炭酸固化体Bの固結状態がさらに高められる。以上のような炭酸ガスの供給を一定期間行った後、処理容器1dから炭酸固化体Bを取り出す。なお、以上述べた「減圧処理−炭酸化処理」は、これを複数回繰り返して実施してもよい。
【0058】
図7における他の実施形態(図5の作用を狙いとする実施形態)では、上記実施形態と同様に、処理容器内1dに炭酸固化体Bが入れられる。この実施形態では、まず、炭酸固化体Bに十分な水を含ませるが、その方法としては、処理容器1dの上部を開放した状態で、処理容器ごと水槽内の水に浸漬してもよいし、炭酸固化体Bの上部から十分な量の水を散水してもよい。また、処理容器1dに入れる前に浸漬又は散水によって炭酸固化体Bに水を含ませるようにしてもよい。
【0059】
上記のように炭酸固化体Bに水を十分に含ませた後、蓋体101dを装着して処理容器1dを気密状態にし、しかる後、吸引管9dの吸引ポンプ10dを用いた吸引により処理容器1d内から排気を行う。これにより炭酸固化体B(処理容器)の内部が減圧され、炭酸固化体B内の空気及び水(間隙水)が炭酸固化体Bから押し出され、ガス通孔20、ガス給排気部2dを経由して処理容器1dから排出される。この結果、炭酸固化体B内には先に述べたような水(間隙水)の適切な分布状態、すなわち、各原料粒子に表面付着水が均一に存在し且つ原料粒子間にCOの通り路となる間隙が適切に確保された状態が実現する。
次いで、開閉弁11d,12dの操作によって吸引管9dとガス供給管8dとを切り替え、ガス供給管8dから処理容器1d内に炭酸ガスを一定期間(例えば、数時間〜数百時間程度)供給し、炭酸固化体Bの再炭酸化処理を行う。この再炭酸化処理の条件や作用効果等は先に述べた実施形態と同様である。この再炭酸化処理後、処理容器1dから炭酸固化体Bを取り出す。なお、以上述べた「減圧処理−炭酸化処理」は、これを複数回繰り返して実施してもよい。
【0060】
図8は、炭酸固化体を炭酸ガス雰囲気内に置いて炭酸ガスを内部に浸透させる方法の実施状況の一例を示すもので、処理容器を縦断面した状態を示している。前記処理容器1eは実質的に気密にすることが可能な容器であって、この例では、本体100eとその上部を閉塞する蓋体101eとから構成されている。前記本体100eにはガス給排気管3eが接続されるとともに、このガス給排気管7eには、炭酸ガスを供給するためのガス供給管8eと、処理容器1e内の減圧を行うための吸引ポンプ10eを備えた吸引管9eとが接続されている。また、処理容器1eの上部には処理容器1e内に供給されたガスの排気を行うための排気管4eが接続されている。その他図面において、6e,11e,12eは各配管系に設けられた開閉弁である。
【0061】
図8における1つの実施形態(図4の作用を狙いとする実施形態)では、前記処理容器内1eに粉粒状の未炭酸化Ca含有原料を炭酸固化させて得られた炭酸固化体Bが入れられる。この炭酸固化体Bは適量の水(通常、炭酸化処理に必要且つ十分な量若しくはそれに近い量の水)を含んでいる。次いで、処理容器1eに蓋体101eを装着して処理容器1eを気密状態にし、しかる後、吸引管9eの吸引ポンプ10eを用いた吸引により処理容器1e内から排気を行う。これにより炭酸固化体B(処理容器)の内部が減圧され、炭酸固化体B内には先に述べたような水(間隙水)の適切な分布状態、すなわち、各原料粒子に表面付着水が均一に存在し且つ原料粒子間にCOの通り路となる間隙が適切に確保された状態が実現する。
【0062】
次いで、開閉弁11e,12eの操作によって吸引管9eとガス供給管8eとを切り替え、ガス供給管8eから処理容器1e内に炭酸ガスを一定期間(例えば、数時間〜数百時間程度)供給する。処理容器1e内に供給された炭酸ガスの一部は炭酸固化体Bの表面から内部に浸透し、原料粒子からその表面付着水に溶出したCaイオンと反応し、原料粒子の表面にCaCOが析出し、これがバインダーとなって炭酸固化体Bの固結状態が高められる。以上のような炭酸ガスの供給を一定期間行った後、処理容器1eから炭酸固化体Bを取り出す。なお、以上述べた「減圧処理−炭酸化処理」は、これを複数回繰り返して実施してもよい。
【0063】
図8における本発明法の他の実施形態(図5の作用を狙いとする実施形態)では、上記実施形態と同様に、処理容器内1eに炭酸固化体Bが入れられる。この実施形態では、まず、炭酸固化体Bに十分な水を含ませるが、その方法としては、処理容器1eの上部を開放した状態で、処理容器ごと水槽内の水に浸漬してもよいし、炭酸固化体Bの上部から十分な量の水を散水してもよい。また、処理容器1eに入れる前に浸漬又は散水によって炭酸固化体Bに水を含ませるようにしてもよい。
【0064】
上記のように炭酸固化体Bに水を十分に含ませた後、蓋体101eを装着して処理容器1eを気密状態にし、しかる後、吸引管9eの吸引ポンプ10eを用いた吸引により処理容器1e内から排気を行う。これにより炭酸固化体B(処理容器)の内部が減圧され、炭酸固化体B内の空気及び水(間隙水)が炭酸固化体から押し出され、処理容器1eから排出される。この結果、炭酸固化体B内には先に述べたような水(間隙水)の適切な分布状態、すなわち、各原料粒子に表面付着水が均一に存在し且つ原料粒子間にCOの通り路となる間隙が適切に確保された状態が実現する。
次いで、開閉弁11e,12eの操作によって吸引管9eとガス供給管8eを切り替え、ガス供給管8eから処理容器1e内に炭酸ガスを一定期間(例えば、数時間〜数百時間程度)供給し、炭酸固化体Bの再炭酸化処理を行う。この再炭酸化処理の条件や作用効果等は先に述べた実施形態と同様である。この再炭酸化処理後、処理容器1eから炭酸固化体Bを取り出す。なお、以上述べた「減圧処理−炭酸化処理」は、これを複数回繰り返して実施してもよい。
【0065】
次に、本願の第2の製造方法について説明する。
この製造方法は、未炭酸化Ca含有原料を予成形した予成形体を効率的に炭酸固化させて炭酸固化体を製造することを目的としたものであり、粉粒状の未炭酸化Ca含有原料を、水分を含んだ状態で炭酸ガスと接触させて炭酸化反応で固結させることにより、炭酸固化体を製造する方法であって、未炭酸化Ca含有原料の予成形体を実質的に気密な容器内に収納した後、この容器内を減圧する脱気工程(X)と、この該脱気工程(X)に引き続き、前記容器内に炭酸ガスを供給して予成形体の未炭酸化Ca含有原料に炭酸化反応を生じさせる炭酸化工程(Y)とを有する。
【0066】
図3は本願の第2の製造方法の一実施形態を示すもので、処理容器を縦断面した状態で示している。
この処理容器1bは、図2に示すものと同様である。すなわち、処理容器1bは実質的に気密にすることが可能な容器であって、その側部には原料出し入れ部102bが設けられている。
この処理容器1bにはガス給排気管7が接続されるとともに、このガス給排気管7には、炭酸ガスを供給するためのガス供給管8と、処理容器1b内の減圧を行うための吸引ポンプ10を備えた吸引管9が接続されている。また、処理容器1bの上部には処理容器内に供給されたガスの排気を行うための排気管4bが接続されている。その他図面において、6b、11、12は各配管系に設けられた開閉弁である。
【0067】
粉粒状の未炭酸化Ca含有原料には、先に述べたような理由から予め所定の水分が添加されるとともに、圧縮成形などの方法により任意の形状に予成形される。なお、未炭酸化Ca含有原料を予成形するに当たっては、図2の実施形態で述べたように、バインダーを未炭酸化Ca含有原料に配合してもよい。未炭酸化Ca含有原料の予成形体Cは、処理容器1b内に装入(収納)され、処理容器1b内は気密にされる。そして、この状態で以下に述べるような工程(X)、(Y)を順に行い、炭酸固化体を製造する。
・脱気工程(X)
この工程では、吸引管9の吸引ポンプ10を用いた吸引により処理容器1b内を減圧する。当然、未炭酸化Ca含有原料の予成形体Cの内部も減圧・脱気された状態となる。
この脱気工程(X)における処理容器1b内の減圧の程度に特別な制限はないが、続く炭酸化工程(Y)での処理効率の観点から、処理容器1b内部を0.8気圧以下、より望ましくは0.4気圧以下に減圧することが好ましい。
【0068】
また、この脱気工程(X)では、図4に示した原理により、予成形体C内は水(間隙水)の適切な分布状態、すなわち、各原料粒子に表面付着水が均一に存在し且つ原料粒子間にCOの通り路となる間隙が適切に確保された状態が実現する。また、予成形体Cに水を十分に含ませた後、脱気工程(X)を行うことにより、図5に示す原理により予成形体C内の空気及び水(間隙水)が押し出され、この結果、予成形体C内には水(間隙水)の適切な分布状態、すなわち、各原料粒子に表面付着水が均一に存在し且つ原料粒子間にCOの通り路となる間隙が適切に確保された状態が実現する。予め予成形体Cに十分な水を含ませるには、処理容器1bを開放した状態で、容器ごと水槽内の水に浸漬してもよいし、予成形体Cの上部から十分な量の水を散水してもよい。
【0069】
・炭酸化工程(Y)
上記の脱気工程(X)に引き続き、開閉弁11,12の操作によって吸引管9とガス供給管8とを切り替え、ガス供給管8から処理容器1b内に、未炭酸化Ca含有原料の予成形体Cの炭酸化を目的として定常的な炭酸ガスの供給を所定時間(例えば、0.5〜3時間程度)行う。
未炭酸化Ca含有原料の予成形体Cの内部は減圧・脱気された状態にあるため、炭酸ガスの一部は予成形体Cの表面から内部に効率的に浸透し、未炭酸化Ca含有原料に炭酸化反応を生じさせる。炭酸ガスの残りは排気管4bから処理容器1b外に排出される。
【0070】
また、場合によっては、排気管4bの開閉弁6bを閉じた状態で処理容器1b内に炭酸ガスを供給するようにしてもよい。この場合、処理容器1b内に炭酸ガスを供給した後、処理容器1bを密封し、容器内のガス圧力が実質的に一定になった時点で炭酸化工程(Y)を終了するようにすればよい。容器内のガス圧力が実質的に一定になった時点で、予成形体Cの炭酸化が完了したと判断できるからである。なお、後述するように炭酸化工程(Y)が、初期炭酸化工程(a)と中間処理工程(b)と後期炭酸化工程(c)とを有する場合における、後期炭酸化工程(c)(但し、後期炭酸化工程を2回以上行う場合には、最終の後期炭酸化工程)についても、同様の実施形態を採ることができる。
なお、上記脱気工程(X)と炭酸化工程(Y)は、これを2回以上繰り返して行うことができる。例えば、予成形体Cの大きさや原料粒度によって炭酸化処理の効率には差があり、上記脱気工程(X)と炭酸化工程(Y)を2回以上行った方が、処理効率面で有利な場合もあるからである。
【0071】
また、この本願の第2の製造方法には、上述した本願の第1の製造方法の工程を組み合わせることもできる。
すなわち、この実施形態では、上記炭酸化工程(Y)が、容器内に炭酸ガスの供給を行って予成形体の未炭酸化Ca含有原料に炭酸化反応を生じさせる初期炭酸化工程(a)と、この初期炭酸化工程(a)に引き続き、容器内に供給する炭酸ガス量を減少させるか又は容器内への炭酸ガスの供給を休止する中間処理工程(b)と、この中間処理工程(b)に引き続き、容器内に供給する炭酸ガス量を増加させるか又は容器内への炭酸ガスの供給を再開し、前記予成形体の未炭酸化Ca含有原料に炭酸化反応を生じさせる後期炭酸化工程(c)とを有するものである。
【0072】
この場合には、初期炭酸化工程(a)を所定時間続けた後、適当な段階、すなわち、原料粒子の表面付着水中の炭酸ガス濃度が増加してpHが低下し、重炭酸カルシウムの飽和状態となった段階で中間処理工程(b)に移行し、処理容器1b内に供給する炭酸ガス量を減少させるか又は処理容器1b内への炭酸ガスの供給を休止する。この場合、例えば、図2の実施形態で述べた(1)〜(4)の方法を採ることができ、その詳細は先に述べたとおりである。
以上の操作を行うことにより、原料粒子の表面付着水への炭酸ガスの溶解が実質的に停止するとともに、先に述べた(a)〜(f)の機構によって炭酸カルシウムの析出が活性化する。
【0073】
上記のような中間処理工程(b)を適当な時間行うことによって炭酸カルシウムの析出反応が再び活性化された段階で、後期炭酸化工程(c)に移行し、処理容器1bに対する定常的な炭酸ガスの供給を再開する。
この後期炭酸化工程(c)は予成形体Cが十分に固結するまで行われ、後期炭酸化工程(c)終了後、製品である固結した予成形体C(炭酸固化体)を処理容器1bから取り出す。
この場合も、上記中間処理工程(b)と後期炭酸化工程(c)は、これを2回以上繰り返して行うことができる。また、各工程(a)〜(b)の期間は、図1及び図2で述べた実施形態と同様である。
【0074】
以上述べた本願の第2の製造方法の一連の工程完了後に、炭酸固化体の強度をさらに高めるため、再炭酸化工程を付加してもよい。この再炭酸化工程は、先に本願の第1の製造方法で述べた形態と同様である。したがって、この再炭酸化工程は、炭酸固化体が入れられた適当な容器内に炭酸ガスの供給を行って炭酸固化体に炭酸化反応を生じさせる初期炭酸化工程(A1)と、この初期炭酸化工程(A1)に引き続き、容器内に供給する炭酸ガス量を減少させるか又は容器内への炭酸ガスの供給を休止する中間処理工程(B1)と、この中間処理工程(B1)に引き続き、容器内に供給する炭酸ガス量を増加させるか又は容器内への炭酸ガスの供給を再開し、前記炭酸固化体に炭酸化反応を生じさせる後期炭酸化工程(C1)とを有するものであることが特に好ましい。その詳細は、本願の第1の製造方法で述べたとおりである。また、その際に、さらに好ましい実施形態として、図8に示した方法により再炭酸化処理を行うことができる。
【0075】
本発明により製造される炭酸固化体の形状は任意であり、例えば断面形状が円形、楕円形、三角形、四角形以上の多角形、星形など、或いは全体形状が球形状、楕球形、四面体以上の多面体形、円錐体形、柱状形、テトラポット形など、任意の形状とすることができる。
また、本発明により製造される炭酸固化体は、漁礁・藻礁造成用石材、築磯用石材、水質浄化用石材、通水性舗装用石材、通水性被覆ブロック、埋設排水溝用ブロック、水耕栽培用ベース材、浄水用フィルター、給水用容器をはじめとする種々の用途に使用することができる。
【0076】
以下、本願の第1および第2の製造方法における好ましい製造条件について説明する。
粉粒状の未炭酸化Ca含有原料を炭酸化反応によって固結させることにより炭酸固化体を製造する方法にあっては、未炭酸化Ca含有原料中に含まれる未炭酸化Ca、すなわちCaO及び/又はCa(OH)は、少なくとも固体粒子の組成の一部として含まれるものであればよく、したがって、鉱物としてのCaO、Ca(OH)の他に、2CaO・SiO、3CaO・SiO、ガラスなどのように組成の一部として固体粒子中に存在するものも含まれる。
【0077】
粉粒状の未炭酸化Ca含有原料としては、上記のように少なくとも組成の一部として未炭酸化Caを含むものであれば特に制限はないが、未炭酸化Caの含有率が高く、しかも資源のリサイクルを図ることができるという点で、鉄鋼製造プロセスで発生するスラグ、コンクリート(例えば、廃コンクリート)などが特に好ましい。一般に、鉄鋼製造プロセスで発生するスラグのCaO濃度は約13〜55mass%、また、コンクリート(例えば、廃コンクリート)のCaO濃度は約5〜15mass%(セメント中のCaO濃度:50〜60mass%)であり、また、これらは入手も容易であるため、未炭酸化Ca含有原料として極めて好適な素材であるといえる。したがって、未炭酸化Ca含有原料の少なくとも一部が、また特に望ましくは主たる原料がスラグ及び/又はコンクリートであることが好ましい。
【0078】
鉄鋼製造プロセスで発生するスラグとしては、高炉徐冷スラグ、高炉水砕スラグなどの高炉系スラグ、予備処理、転炉、鋳造などの工程で発生する脱炭スラグ、脱燐スラグ、脱硫スラグ、脱珪スラグ、鋳造スラグなどの製鋼系スラグ、鉱石還元スラグ、電気炉スラグなどを挙げることができるが、これらに限定されるものではなく、また、2種以上のスラグを混合して用いることもできる。
また、鉄鋼製造プロセスで発生するスラグには相当量の鉄分(粒鉄などの鉄分)が含まれており、このようなスラグをそのまま使用すると、この鉄分の分だけ原料中でのCaO濃度が低下するため、スラグとしては地金(鉄分)回収処理を経たスラグを用いることが好ましい。この地金(鉄分)回収処理は、スラグ中に含まれている鉄分を鉄鋼製造プロセスにリサイクルするために一般に行われているもので、通常、スラグはこの地金回収を行うために粉砕処理され、磁気選別などの手段によりスラグ中に含まれる鉄分の相当量が回収除去される。
【0079】
また、コンクリートとしては、例えば、建築物や土木構造物の取壊しなどにより生じた廃コンクリートなどを用いることができる。
また、未炭酸化Ca含有材としては、上記のスラグやコンクリート以外に、モルタル、ガラス、アルミナセメント、CaO含有耐火物などが挙げられ、これらの1種以上を単独でまたは混合して、或いはスラグ及び/又はコンクリートと混合して使用することもできる。
これらの材料は必要に応じて粉粒状に破砕処理され、原料として用いられる。
未炭酸化Ca含有原料は、その全量が未炭酸化Caを含む固体粒子である必要はない。すなわち、未炭酸化Ca含有原料に含まれる未炭酸化Caの炭酸化によって炭酸固化体のバインダーとして十分な量のCaCOが生成されるのであれば、未炭酸化Ca含有原料に未炭酸化Caを含まない固体粒子が含まれていてもよい。このような固体粒子としては、例えば、天然石、砂、可溶性シリカ、フライアッシュ、クリンカーアッシュ、金属(例えば、金属鉄、酸化鉄)などが挙げられる。
【0080】
また、これらのうち金属鉄、酸化鉄、可溶性シリカなどは、本発明法により製造された炭酸固化体が水中沈設用材料として用いられる場合に、水中の硫黄や燐の固定剤、海藻類などの水生植物の栄養源などとして有効に作用する。また、これら以外にも任意の成分(粒子)を適量、すなわち炭酸固化体の強度低下などを招かない限度で含むことができる。
また、バインダーとなる成分として、例えば、セメントや水砕スラグ微粉末などを少量添加してもよい。
粉粒状の未炭酸化Ca含有原料の粒度に特別な制限はないが、COとの接触面積を確保して反応性を高めるためにはある程度粒度が細かい方が好ましく、具体的には実質的に(すなわち、不可避的に含まれる粒度の大きい固体粒子を除き)20mm以下、特に望ましくは5mm以下の粒度のものが好ましい。
【0081】
未炭酸化Ca含有原料に炭酸化反応を生じさせるために使用される炭酸ガス又は炭酸ガス含有ガスとしては、例えば、一貫製鉄所内で排出される石灰焼成工場排ガス(通常、CO:25%前後)や加熱炉排ガス(通常、CO:6.5%前後)などが好適であるが、これらに限定されるものではない。また、ガス中のCO濃度が低すぎると処理効率が低下するという問題を生じるが、それ以外の問題は格別ない。したがって、CO濃度は特に限定しないが、効率的な処理を行うには3%以上のCO濃度とすることが好ましい。
また、炭酸ガスの供給量にも特別な制限はないが、一般的な目安としては0.004〜0.5m/min・t(原料ton)程度のガス供給量が確保できればよい。また、ガス供給時間(炭酸化処理時間)にも特別な制約はないが、目安としては炭酸ガスの供給量が未炭酸化Ca含有原料の重量の3%以上となる時点、すなわち、ガス量に換算すると原料1t当たり15m以上、好ましくは200m以上の炭酸ガスが供給されるまでガス供給を行うことが好ましい。
【0082】
供給される炭酸ガス又は炭酸ガス含有ガスは常温でよいが、ガスが常温よりも高温であればそれだけ反応性が高まるため有利である。但し、ガスの温度が過剰に高いと未炭酸化Ca含有原料の水分を乾燥させたり、或いはCaCOがCaOとCOに分解してしまうため、高温ガスを用いる場合でもこのような分解を生じない程度の温度のガスを用いる必要がある。
また、炭酸ガス又は炭酸ガス含有ガスは原料の乾燥を防ぐために加湿した状態で未炭酸化Ca含有原料に供給されることが好ましい。このため未炭酸化Ca含有原料にガスを供給するに当たっては、炭酸ガス又は炭酸ガス含有ガスを一旦水中に吹き込んでHOを飽和させた後、原料に供給することが好ましく、これにより未炭酸化Ca含有原料の乾燥を防止して炭酸化反応を促進させることができる。
【実施例】
【0083】
[実施例1]
図1に示すような構造の1m×1m×1mの型枠に対して水を加えた製鋼スラグ(粒径:−3mm)を装入した後、加圧振動成形機で加振して高さ約0.5mの原料充填層を形成した。型枠の底部から炭酸ガス含有ガス(CO:25%)を前記原料充填層に吹き込み原料を炭酸固化させた。
本発明例では、本発明条件に従い初期炭酸化工程(A)、中間処理工程(B)及び後期炭酸化工程(C)の3工程を経て炭酸固化体の製造を行った。一方、比較例では、常時炭酸ガス含有ガスの供給を行って炭酸固化体の製造を行った。それぞれの製造条件と、製造された炭酸固化体から採取した試験体(コア)の圧縮強度を表1に示す。
【0084】
【表1】

【0085】
[実施例2]
製鋼スラグ(粒径:−5mm)にバインダーとして糖蜜とパルプ廃液を混合し、これを0.5m×0.5m×0.5mのサイズに圧縮成形した予成形体(含水率:8%)を、図3に示すような構造の1m×1m×1mの気密容器内に入れ、この気密容器内の空気を30分間吸引排気して容器内部を−30cmHgまで減圧した後、気密容器内に炭酸ガス含有ガス(CO:25%)を給気し、大気圧程度で1時間封止した。以上の減圧/炭酸ガス封止を80回繰り返すことで炭酸固化体の製造を行った。この炭酸固化体から採取した試験体(コア)の気孔率及び圧縮強度は以下のとおりであった。
気孔率:28%
圧縮強度:105kgf/cm
【0086】
[実施例3]
上記[実施例1]の発明例1で得られた炭酸化固化体に水を含ませ、これを気密性のある小型容器内に入れ、下記の工程(1)〜(3)に従い再炭酸化処理を行った。すなわち、工程(1)を20時間行った後、「工程(2):4時間→工程(3):20時間」を10回繰り返し、処理を終了した。炭酸ガス含有ガスとしてはCO:25%のガスを用いた。
(1)容器内への炭酸ガス含有ガス(CO:20%、CO供給量:50L/min)の供給・封入
(2)容器の大気開放
(3)容器内への炭酸ガス含有ガスの供給・封入(CO:20%、CO供給量:50L/min)
この再炭酸化処理後の炭酸固化体から採取した試験体(コア)の気孔率及び圧縮強度は以下のとおりであった。
気孔率:38.3%
圧縮強度:142kgf/cm
【0087】
[実施例4]
上記[実施例1]の発明例1で得られた炭酸化固化体に水を含ませ、これを気密性のある小型容器内に入れ、下記の工程(1)〜(4)に従い再炭酸化処理を行った。すなわち、工程(1)で容器内を減圧した後、工程(2)を1時間行い、次いで、「工程(3):1時間→工程(4):1時間」を10回繰り返し、処理を終了した。炭酸ガス含有ガスとしてはCO:25%のガスを用いた。
(1)容器内を−34cmHgまで減圧して15分間保持
(2)容器内への炭酸ガス含有ガスの供給・封入(CO:20%、CO供給量:50L/min)
(3)容器の大気開放
(4)容器内への炭酸ガス含有ガスの供給・封入(CO:20%、CO供給量:50L/min)
この再炭酸化処理後の炭酸固化体から採取した試験体(コア)の気孔率及び圧縮強度は以下のとおりであった。
気孔率:38.4%
圧縮強度:136kgf/cm
【0088】
[実施例5]
上記[実施例1]の発明例1と同じ条件で、気密型の型枠内に製鋼スラグの原料充填層を形成した。まず、型枠内を−33cmHgまで減圧して15分保持し、次いで、[実施例1]の発明例1と同じ条件で充填層を炭酸固化させる処理を行い、炭酸固化体を製造した。この炭酸固化体から採取した試験体(コア)の気孔率及び圧縮強度は以下のとおりであった。
気孔率:38.5%
圧縮強度:121kgf/cm
【符号の説明】
【0089】
1,1c 型枠
1a,1b,1d,1e 処理容器
2 ガス給気部
2c,2d ガス給排気部
3,3a ガス供給管
4,4a,4b,4c,4d,4e 排気管
7,7c,7d,7e ガス給排気管
8,8c,8d,8e ガス供給管
9,9c,9d,9e 吸引管
10,10c,10d,10e 吸引ポンプ
20 ガス通孔
100,100c,100d,100e 本体
101,101c,101d,101e 蓋体
A 原料充填層
B 炭酸固化体
C 予成形体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉粒状の未炭酸化Ca含有原料を、水分を含んだ状態で炭酸ガスと接触させて炭酸化反応で固結させることにより、炭酸固化体を製造する方法であって、
未炭酸化Ca含有原料の予成形体を実質的に気密な容器内に収納した後、該容器内を減圧する脱気工程と、
該脱気工程に引き続き、前記容器内に炭酸ガスを供給して予成形体の未炭酸化Ca含有原料に炭酸化反応を生じさせる炭酸化工程とを有することを特徴とする炭酸固化体の製造方法。
【請求項2】
未炭酸化Ca含有原料の予成形体に水を含ませた後、脱気工程を行い、予成形体内部の減圧により前記水の一部を排出することを特徴とする請求項1に記載の炭酸固化体の製造方法。
【請求項3】
炭酸化工程が、
容器内に炭酸ガスの供給を行って予成形体の未炭酸化Ca含有原料に炭酸化反応を生じさせる初期炭酸化工程と、
該初期炭酸化工程に引き続き、容器内に供給する炭酸ガス量を減少させるか又は容器内への炭酸ガスの供給を休止する中間処理工程と、
該中間処理工程に引き続き、容器内に供給する炭酸ガス量を増加させるか又は容器内への炭酸ガスの供給を再開し、前記予成形体の未炭酸化Ca含有原料に炭酸化反応を生じさせる後期炭酸化工程とを有することを特徴とする請求項1又は2に記載の炭酸固化体の製造方法。
【請求項4】
中間処理工程では、容器内への炭酸ガスの供給を休止するとともに、容器内雰囲気を空気以下の炭酸ガス濃度とすることを特徴とする請求項3に記載の炭酸固化体の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法で得られ、且つ水分を含んだ炭酸固化体の内部を減圧し、しかる後、該炭酸固化体に炭酸ガス存在下で再度炭酸化反応を生じさせることを特徴とする炭酸固化体の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法で得られた炭酸固化体の内部に水を含ませた後、該炭酸固化体の内部を減圧することにより前記水の一部を排出し、しかる後、前記炭酸固化体に炭酸ガス存在下で再度炭酸化反応を生じさせることを特徴とする炭酸固化体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−95443(P2010−95443A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−19816(P2010−19816)
【出願日】平成22年1月30日(2010.1.30)
【分割の表示】特願2004−101533(P2004−101533)の分割
【原出願日】平成16年3月30日(2004.3.30)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】