説明

炭酸塩の製造方法

【課題】配向複屈折性を有するアスペクト比が1より大きい形状の炭酸塩を効率的かつ簡便に形成することができ、粒子サイズを制御可能な炭酸塩の製造方法の提供。
【解決手段】Sr2+イオン、Ca2+イオン、Ba2+イオン、Zn2+イオン、及びPb2+イオンから選択される少なくとも1種の金属イオンを含む金属イオン源と炭酸源とを液中で反応させて、アスペクト比が1より大きい形状を有する炭酸塩を製造する方法であって、炭酸塩粒子数を増加させる炭酸塩粒子数増加工程と、該炭酸塩粒子の体積のみを増加させる炭酸塩粒子体積増加工程とを含むことを特徴とする炭酸塩の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配向複屈折性を有するアスペクト比が1より大きい形状の炭酸塩を効率的かつ簡便に形成することができ、粒子サイズを制御可能な炭酸塩の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、炭酸塩(例えば、炭酸カルシウムなど)は、ゴム、プラスチック、製紙などの分野で広く使用されてきたが、近年、高機能性を付与した炭酸塩が次々と開発され、粒子形状や粒子径などに応じて、多用途、多目的に使用されるようになっている。
炭酸塩の結晶形としては、カルサイト、アラゴナイト、バテライトなどが挙げられるが、これらの中でも、アラゴナイトは針状であり、強度や弾性率に優れる点で、様々な用途に有用である。
【0003】
炭酸塩を製造する方法としては、炭酸イオンを含む溶液と塩化物の溶液とを反応させて炭酸塩を製造する方法や、塩化物と炭酸ガスとの反応によって炭酸塩を製造する方法などが一般的に知られている。また、アラゴナイト構造を有する針状の炭酸塩の製造方法としては、例えば、前者の方法において、炭酸イオンを含む溶液と塩化物の溶液との反応を超音波照射下に行う方法(特許文献1参照)や、Ca(OH)水スラリーに二酸化炭素を導入する方法において、あらかじめCa(OH)水スラリー中に、種晶となる針状アラゴナイト結晶を入れ、該種晶を一定方向にのみ成長させる方法(特許文献2参照)が提案されている。
しかし、特許文献1に記載の炭酸塩の製造方法では、得られる炭酸塩の長さが30〜60μmと大きいだけでなく、粒子サイズの分布幅が広く、所望の粒子サイズに制御した炭酸塩を得ることができないという問題がある。また、特許文献2に記載の炭酸塩の製造方法を用いても、長さが20〜30μmの大きな粒子しか得ることができない。
【0004】
ところで、近年、眼鏡レンズ、透明板などの一般的光学部品やオプトエレクトロニクス用の光学部品、特に、音響、映像、文字情報等を記録する光ディスク装置などのレーザ関連機器に用いる光学部品の材料として、高分子樹脂が用いられる傾向が強まっている。その理由としては、高分子光学材料(高分子樹脂からなる光学材料)は、一般に、他の光学材料(例えば、光学ガラスなど)に比べて、軽量、安価で加工性、量産性に優れている点が挙げられる。また、高分子樹脂には、射出成形や押出成形などの成形技術の適用が容易であるという利点もある。
【0005】
しかし、従来より使用されている一般的な高分子光学材料に成形技術を施して製品化した場合、得られた製品が複屈折性を示すという性質があった。複屈折性を有する高分子光学材料は、比較的高精度が要求されない光学素子に用いる場合には、特に問題となることはないが、近年、より高精度が要求される光学用物品が求められてきており、例えば、書込/消去型の光磁気ディスクなどにおいては、複屈折性が大きな問題となる。すなわち、このような光磁気ディスクには、読取ビームあるいは書込ビームに偏向ビームが用いられており、光路中に複屈折性の光学素子(例えば、ディスク自体、レンズなど)が存在すると、読取り、あるいは、書込みの精度に悪影響を及ぼす。
【0006】
そこで、複屈折性の低減を目的として、複屈折性の符号が互いに異なる高分子樹脂と無機微粒子とを用いた非複屈折光学樹脂材料が提案されている(特許文献3参照)。該光学樹脂材料は、結晶ドープ法とよばれる手法により得られるものであり、具体的には、高分子樹脂中に多数の無機微粒子を分散させ、延伸などにより成形力を外部から作用させ、高分子樹脂の結合鎖と多数の無機微粒子とを略平行に配向させ、高分子樹脂の結合鎖の配向によって生ずる複屈折性を、符号の異なる無機微粒子の複屈折性で減殺したものである。
【0007】
このように、結晶ドープ法を用いて非複屈折光学樹脂材料を得るためには、結晶ドープ法に使用可能な無機微粒子が必要不可欠となるが、この無機微粒子としては、微細なアスペクト比が1より大きい形状、例えば針状又は棒状の炭酸塩が特に好適に使用可能であることが認識されている。
【0008】
【特許文献1】特開昭59−203728号公報
【特許文献2】米国特許第5164172号明細書
【特許文献3】国際公開第01/25364号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来における前記問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、配向複屈折性を有するアスペクト比が1より大きい形状の炭酸塩を効率的かつ簡便に形成することができ、粒子サイズを制御可能な炭酸塩の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題に鑑み鋭意検討を重ねた結果、以下の知見を得た。即ち、Sr2+イオン、Ca2+イオンなどの金属イオンを含む金属イオン源と、例えば、炭酸アンモニウムなどの炭酸源とを液中で反応させることにより、粒子サイズを制御可能で、アスペクト比が1より大きい形状を有する炭酸塩を効率的かつ簡便に製造することができるという知見である。
【0011】
本発明は、本発明者らの前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> Sr2+イオン、Ca2+イオン、Ba2+イオン、Zn2+イオン、及びPb2+イオンから選択される少なくとも1種の金属イオンを含む金属イオン源と炭酸源とを液中で反応させて、アスペクト比が1より大きい形状を有する炭酸塩を製造する方法であって、炭酸塩粒子数を増加させる炭酸塩粒子数増加工程と、該炭酸塩粒子の体積のみを増加させる炭酸塩粒子体積増加工程とを含むことを特徴とする炭酸塩の製造方法である。
<2> 金属イオン源と炭酸源とを、シングルジェット法により液中で反応させる前記<1>に記載の炭酸塩の製造方法である。
<3> 金属イオン源と炭酸源とを、ダブルジェット法により液中で反応させる前記<1>に記載の炭酸塩の製造方法である。
該<1>から<3>に記載の炭酸塩の製造方法においては、前記金属イオン源と前記炭酸源とが、前記ダブルジェット法、又はシングルジェット法により添加され、前記液中で瞬時に反応する。その結果、アスペクト比が1より大きい形状を有する炭酸塩が得られる。また、本発明の炭酸塩の製造方法により得られる炭酸塩は、多目的、多用途に使用可能であり、非複屈折光学樹脂材料への応用も可能である。
<4> 炭酸塩粒子数増加工程において反応させる金属イオン源のモル数と炭酸源のモル数とが等しく、炭酸塩粒子体積増加工程において反応させる金属イオン源のモル数と炭酸源のモル数とが等しく、かつ、前記炭酸塩粒子体積増加工程における金属イオン源のモル数が、前記炭酸粒子数増加工程における金属イオン源のモル数以上である前記<1>から<3>のいずれかに記載の炭酸塩の製造方法である。
<5> 炭酸塩粒子数増加工程では、金属イオン源と炭酸源とを、該金属イオン源のモル数(a)が、該炭酸源のモル数(b)よりも多くなるようにして反応させることにより炭酸塩粒子を形成し、炭酸塩粒子体積増加工程では、該炭酸塩粒子に対し、モル数(a)とモル数(b)との差以上になるように、炭酸源を反応させることにより前記炭酸塩粒子の体積を増加させる前記<1>から<3>のいずれかに記載の炭酸塩の製造方法である。
<6> 炭酸塩粒子数増加工程で反応させる炭酸源と、炭酸塩粒子体積増加工程で反応させる炭酸源とが同一化合物である前記<1>から<5>のいずれかに記載の炭酸塩の製造方法である。
<7> 炭酸塩粒子数増加工程が、金属イオン源及び炭酸源の少なくとも一方を、−10℃〜40℃の液中で、0.01〜1,000ml/minの添加速度により添加後、混合する工程を含む前記<1>から<6>のいずれかに記載の炭酸塩の製造方法である。
<8> 炭酸塩粒子体積増加工程が、金属イオン源及び炭酸源の少なくとも一方を、該炭酸塩粒子数増加工程の反応温度以上の温度条件下で、かつ0.01〜1,000ml/minの添加速度により添加後、混合する前記<1>から<7>のいずれかに記載の炭酸塩の製造方法である。
<9> 金属イオン源が、NO、Cl、及びOHの少なくともいずれかを含む前記<1>から<8>のいずれかに記載の炭酸塩の製造方法である。
<10> 炭酸源が、炭酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、尿素、及び炭酸ガスの少なくともいずれかを含む前記<1>から<9>のいずれかに記載の炭酸塩の製造方法である。
<11> 炭酸塩粒子数増加工程が、金属イオン源を含む水溶液及び懸濁液のいずれかを、−10℃〜40℃に保ちながら、炭酸源を含む水溶液を、0.01〜1,000ml/minの添加速度により添加後、混合する添加混合工程を含み、炭酸塩粒子体積増加工程が、前記炭酸源を含む水溶液及びガスのいずれかを、前記炭酸塩粒子数増加工程の反応温度以上の温度条件下で、かつ0.01〜1,000ml/minの添加速度により添加後、混合する添加混合工程を含む前記<1>から<2>及び<4>から<10>のいずれかに記載の炭酸塩の製造方法である。
<12> 液中に水を含む前記<1>から<11>のいずれかに記載の炭酸塩の製造方法である。
<13> 液中に溶剤を含む前記<1>から<12>のいずれかに記載の炭酸塩の製造方法である。
<14> 溶剤が、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、及び2−アミノエタノールから選択される少なくとも1種である前記<13>に記載の炭酸塩の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、従来における問題を解決することができ、配向複屈折性を有するアスペクト比が1より大きい形状の炭酸塩を効率的かつ簡便に形成することができ、粒子サイズを制御可能な炭酸塩の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(炭酸塩の製造方法)
本発明の炭酸塩の製造方法は、金属イオン源と炭酸源とを液中で反応させて、アスペクト比が1より大きい形状を有する炭酸塩を製造する方法であって、炭酸塩粒子数を増加させる工程(以下、単に炭酸塩粒子数増加工程という。)、該炭酸塩粒子の体積のみを増加させる工程(以下、単に炭酸塩粒子体積増加工程という。)とを含む。
【0014】
−金属イオン源−
前記金属イオン源としては、金属イオンを含む限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記炭酸源と反応して、カルサイト、アラゴナイト、バテライト、及びアモルファスのいずれかの形態を有する炭酸塩を形成するものが好ましく、アラゴナイト型の結晶構造を有する炭酸塩を形成するものが特に好ましい。
前記アラゴナイト型の結晶構造は、CO2−ユニットで表され、該CO2−ユニットが積層されて針状及び棒状のいずれかの形状を有する炭酸塩を形成する。このため、該炭酸塩が、後述する延伸処理により、任意の一方向に延伸されると、その延伸方向に粒子の長軸方向が一致した状態で結晶が並ぶ。
また、表1にアラゴナイト型鉱物の屈折率を示す。表1に示すように、前記アラゴナイト型の結晶構造を有する炭酸塩は、複屈折率δが大きいため、配向複屈折性を有するポリマーへのドープに好適に使用することができる。
【0015】
【表1】

【0016】
前記金属イオン源は、Sr2+イオン、Ca2+イオン、Ba2+イオン、Zn2+イオン、及びPb2+イオンから選択される少なくとも1種の金属イオンを含む限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Sr、Ca、Ba、Zn、及びPbから選択される少なくとも1種の金属の硝酸塩、塩化物、水酸化物などが挙げられる。
【0017】
前記金属イオン源は、NO、Cl、及びOHの少なくともいずれかを含むのが好ましい。したがって、前記金属イオン源の具体例としては、Sr(NO、Ca(NO、Ba(NO、Zn(NO、Pb(NO、SrCl、CaCl、BaCl、ZnCl、PbCl、Sr(OH)、Ca(OH)、Ba(OH)、Zn(OH)、Pb(OH)、及びこれらの水和物などが好適に挙げられる。
【0018】
−炭酸源−
前記炭酸源としては、CO2−イオンを生ずるものである限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、炭酸アンモニウム[(NHCO]、炭酸ナトリウム[NaCO]、炭酸水素ナトリウム[NaHCO]、炭酸ガス、尿素[(NHCO]などが好適に挙げられる。これらの中でも特に、炭酸アンモニウム[(NHCO]、炭酸ナトリウム[NaCO]、炭酸水素ナトリウム[NaHCO]が好ましい。
【0019】
−金属イオン源と炭酸源とを水中で反応させる方法−
前記金属イオン源と炭酸源とを液中で反応させる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、反応性の観点から、金属イオン源と炭酸源とを、水を主成分とするよう液中で反応させる方法として、シングルジェット法又はダブルジェット法により反応させるのが好ましい。
【0020】
−−ダブルジェット法−−
前記ダブルジェット法は、前記金属イオン源と前記炭酸源とを、それぞれ反応用の液面上又は液中に噴射により添加し、反応させる方法であり、例えば、図1に示すように、前記金属イオン源を含むA液と、前記炭酸源を含むB液とを、同時にC液に噴射し、該C液の液中でこれらを反応させる方法である。
前記ダブルジェット法による前記金属イオン源及び前記炭酸源のモル添加速度は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、最終生成物の化学量論比となるようにモル添加速度を決定するのが好ましい。前記モル添加速度は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.000001〜1mol/minが好ましい。
【0021】
前記ダブルジェット法は、例えば、ダブルジェット反応晶析装置を用いて行うことができる。該装置は、反応容器中に攪拌翼を有し、攪拌翼の近傍に原料溶液を供給するノズルが具備されている。該ノズルの数は2本以上の複数本である。そして、ノズルから供給された前記金属イオン源(前記A液)と前記炭酸源(前記B液)とが攪拌翼による混合作用により高速に均一状態になり、前記C液中で瞬時に均一反応させることが可能である。
なお、ダブルジェット法における撹拌速度は、500〜1,500rpmが好ましい。
【0022】
−−シングルジェット法−−
前記シングルジェット法は、前記金属イオン源及び前記炭酸源のいずれか一方を他方の液面上又は液中に噴射により添加し、反応させる方法である。
前記シングルジェット法も、例えば、上述したダブルジェット反応晶析装置を用いて行うことができる。但し、前記シングルジェット法では、ノズルは1本でよく、例えば、図2に示すように、ノズルから噴射された炭酸源(B液)をタンク内の金属イオン源(A液)に添加することにより、ダブルジェット法と同じ要領で反応させることができる。
なお、シングルジェット法による前記金属イオン源及び前記炭酸源の添加速度、及び前記シングルジェット法における攪拌速度は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、ダブルジェット法による添加速度、及び前記ダブルジェット法における攪拌速度と同様の速度範囲が好ましい。
【0023】
−炭酸塩粒子数増加工程−
前記炭酸塩粒子数増加工程としては、炭酸塩を形成した後、その粒子数を増やせる限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、金属イオン源と炭酸源の少なくとも一方を、所定の反応温度の液中に添加後、混合する工程が挙げられる。
より具体的な好ましい工程としては、シングルジェット法により反応させる場合として、例えば、金属イオン源を含む水溶液及び懸濁液のいずれかを、所定の反応温度に保ちながら、炭酸源を含む水溶液を、所定の添加速度により添加後、混合する添加混合工程が挙げられる。
前記反応温度は、−10℃〜40℃であることが好ましく、1℃〜40℃がより好ましい。該炭酸塩粒子数増加工程の温度が−10℃より低いと、針状及び棒状のいずれかの形状を有する炭酸塩が得られず、球状又は楕円状の炭酸塩が生成されることがあり、40℃より高いと、一次粒子のサイズが大きくなってしまい、ナノサイズ領域でアスペクト比が1より大きい形状を有する炭酸塩が得られないことがある。
前記添加速度は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、高速であることが好ましく、具体的な速度は、例えば、0.01〜1,000ml/minが好ましく、0.1〜500ml/minがより好ましい。
【0024】
前記炭酸塩粒子数増加工程における、金属イオン源及び炭酸源、それぞれの反応させるモル数は、その粒子数を増やせる範囲である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、金属イオン源のモル数と炭酸源のモル数とが等しくてもよく、金属イオン源のモル数を、炭酸源のモル数より多くして反応させることにより炭酸塩粒子を形成してもよい。
なお、前記金属イオン及び炭酸源は、例えば、前記ダブルジェット法により反応させる場合には、双方をそれぞれ反応液中に添加後、混合すればよく、シングルジェット法により反応させる場合には、いずれか一方を他方に添加後、混合すればよい。
【0025】
炭酸塩粒子数が増加したことを確認する方法としては、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)や走査型電子顕微鏡(SEM)によって粒子を観察し、不純物が混じっていないことを確認した上で、その個数を計測する方法などが挙げられる。
【0026】
−炭酸塩粒子体積増加工程−
前記炭酸塩粒子体積増加工程としては、前記炭酸塩粒子数を増やさずに体積のみを増やせる限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、金属イオン源及び炭酸源の少なくとも一方を、該炭酸塩粒子数増加工程の反応温度以上の温度条件下で、かつ前記炭酸塩粒子数増加工程より遅い速度で添加後、混合する工程が挙げられる。なお、前記炭酸塩粒子体積増加工程において、炭酸塩粒子数を増やさないとは、炭酸塩粒子数増加工程終了後の炭酸塩粒子数に比して、炭酸塩粒子体積増加工程後の炭酸塩粒子数が40%を超えて増加していないことを表し、30%を超えて増加していないことが好ましく、20%を超えて増加していないことがより好ましい。
より具体的な好ましい工程としては、例えば、前記炭酸源を含む水溶液及びガスのいずれかを、前記炭酸塩粒子数増加工程の反応温度以上の温度条件下で添加後、混合する添加混合工程が挙げられる。
前記反応温度は、−10℃以上であることが好ましく、1〜40℃がより好ましい。前記反応温度が−10℃より低いと、使用する溶媒に制約を受けるため、粒子形成後の取り扱いが面倒になることがある。
前記添加速度は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、0.01〜1,000ml/minが好ましく、0.1〜500ml/minがより好ましい。
【0027】
前記炭酸塩粒子体積増加工程における、金属イオン源及び炭酸源、それぞれの反応させるモル数は、前記炭酸塩粒子数を増やさずに体積のみを増やせる範囲である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、炭酸塩粒子数増加工程において反応させる金属イオン源のモル数と炭酸源のモル数とを等しくした場合には、炭酸塩粒子体積増加工程において反応させる金属イオン源のモル数と炭酸源のモル数とが等しく、かつ、前記炭酸塩粒子体積増加工程において反応させる金属イオン源のモル数が、前記炭酸塩粒子数増加工程における金属イオン源のモル数以上であるのが好ましい。
また、前記炭酸塩粒子数増加工程において、金属イオン源のモル数(a)を、炭酸源のモル数(b)より多くなるようにして反応させることにより炭酸塩粒子を形成した場合には、高アスペクト比を有する炭酸塩を得る観点から、該金属イオン源のモル数(a)と炭酸源のモル数(b)との差以上のモル数の炭酸源を反応させることにより前記炭酸塩粒子の体積を増加させるのが好ましい。
また、前記炭酸塩粒子体積増加工程において反応させる炭酸源としては、冒頭で述べた炭酸源である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、反応の効率性の観点から、上述の炭酸塩粒子数増加工程で反応させる炭酸源と、該炭酸塩粒子体積増加工程で反応させる炭酸源とが同一化合物であってもよい。
【0028】
炭酸塩粒子の体積が増加したことを確認する方法としては、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)や走査型電子顕微鏡(SEM)によって粒子を観察し、不純物が混じっていないことを確認した上で、そのサイズを計測する方法などが挙げられる。
【0029】
−金属イオン源と前記炭酸源とを反応させる液−
前記金属イオン源と前記炭酸源とを反応させる液中には、水を含むのが好ましい。したがって、前記金属イオン源と前記炭酸源とを反応させる液は、水溶液又は懸濁液であるのが好ましい。
更に、合成される炭酸塩の結晶の溶解度を下げることを目的として、前記液中に溶剤を含むのが好ましい。
前記溶剤としては、水に混和する溶剤であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロピルアルコール、2−アミノエタノール、2−メトキシエタノール、アセトン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリドン、ジメチルスルホキシドなどが好適に挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。特に、これらの中でも、反応性の観点、及び材料の入手の容易さという点から、エタノール、イソプロピルアルコール、及び2−アミノエタノールが好ましい。
前記溶剤の添加量は、炭酸塩製造後の溶媒量の1〜50体積%が好ましく、5〜40体積%がより好ましい。
【0030】
−炭酸塩の物性−
本発明の炭酸塩の製造方法により製造される炭酸塩は、アスペクト比が1より大きいことが必要であり、針状及び棒状などの形状を有していることが好ましい。なお、前記アスペクト比は、前記炭酸塩の長さと直径との比を表し、その数値は大きいほど好ましい。
前記炭酸塩の平均粒子長さは、0.05〜30μmが好ましく、0.05〜5μmがより好ましい。該平均粒子長さが30μmを超えると、散乱の影響を大きく受けることがあり、光学用途への適応性が低下することがある。
また、〔平均粒子長さ±α〕の長さを有する炭酸塩の全炭酸塩における割合は、60%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、75%以上が更に好ましく、80%以上が特に好ましい。該割合が60%以上であると、粒子サイズの制御が高精度であると認められる。
ここで、前記αは、0.05〜1.0μmが好ましく、0.05〜0.8μmがより好ましく、0.05〜0.1μmが特に好ましい。
【0031】
−用途−
本発明の炭酸塩の製造方法により製造される炭酸塩は、アスペクト比が1より大きい、すなわち、球状ではなく、針状及び棒状などの形状を有するため、プラスチックの強化材、摩擦材、断熱材、フィルター等として有用である。特に、延伸材料などの変形を施した複合材料においては、粒子が配向することによりその強度や光学特性を改良することが可能である。
【0032】
また、本発明の炭酸塩の製造方法により製造される炭酸塩(結晶)を複屈折性を有する光学ポリマーに分散させ、延伸処理を施して前記光学ポリマーの結合鎖と前記炭酸塩とを略平行に配向させると、前記光学ポリマーの結合鎖の配向によって生ずる複屈折性を、前記炭酸塩の複屈折性で打ち消すことができる。
前記延伸処理としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、一軸延伸が挙げられる。該一軸延伸の方法としては、必要に応じて加熱しながら、延伸機で所望の延伸倍率に延伸することが挙げられる。
【0033】
複屈折性を有する光学ポリマーの固有複屈折率は、「ここまできた透明樹脂 −ITに挑む高性能光学材料の世界−」(井出文雄著、工業調査会、初版)p29に記載されている通りであり、具体的には下記表2に示す通りである。表2より、前記光学ポリマーは、正の複屈折性を有するものが多いことが認められる。また、前記炭酸塩として炭酸ストロンチウムを用い、例えば、前記光学ポリマーとしてのポリカーボネートに添加すると、該混合物の正の複屈折性を打ち消し、0にすることができるだけでなく、負にすることもできる。このため、光学部品、特に、偏向特性が重要で高精度が要求される光学素子に好適に使用することができる。
【0034】
【表2】

【0035】
本発明の炭酸塩の製造方法によれば、配向複屈折性を有するアスペクト比が1より大きい形状の炭酸塩を効率的かつ簡便に形成することができる。また、粒子サイズを制御可能で、一定の粒子サイズを有する炭酸塩を高い割合で得ることができる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は下記実施例に何ら限定されるものではない。
【0037】
(実施例1)
−炭酸塩の製造−
シングルジェット法により、図2に示すように、前記金属イオン源としての水酸化ストロンチウム8水和物から、ステンレス製のポットに入れて調製した0.08M水酸化ストロンチウム[Sr(OH)]懸濁液375mlをA液とし、10℃に保持した状態で1,000rpmで攪拌を行いながら、前記炭酸源としての0.2M炭酸ナトリウム[NaCO3]水溶液500mlをB液とし、前記B液を2本の供給用タンクに分けて10℃に保持したのち、それぞれ62.5mlずつを、300ml/minの添加速度により添加後、混合させた(炭酸塩粒子数増加工程)。
なお、得られた炭酸塩は、透過型電子顕微鏡(TEM)によって粒子を観察し、不純物が混じっていないことを確認した上で、その個数を計測して、粒子数が増加していることが確認された。
次に、温度及び攪拌はそのままの状態で、0.1M水酸化ストロンチウム[Sr(OH)]懸濁液250mlを添加した後、0.1M炭酸ナトリウム[NaCO3]水溶液250mlを5ml/minの添加速度によりゆっくりと添加させた(炭酸塩粒子体積増加工程)。
なお、得られた炭酸塩は、透過型電子顕微鏡(TEM)によって粒子を観察し、不純物が混じっていないことを確認した上で、そのサイズを計測して、体積が増加していることが確認された。
【0038】
−炭酸塩の性状確認−
得られた沈殿物を濾過により取り出し、乾燥させた。乾燥後の沈殿物についてX線回折測定を行ったところ、得られた沈殿物は炭酸ストロンチウム結晶であると確認できた。さらに、この炭酸ストロンチウム結晶を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察した。このときのTEM写真を図3に示す。該TEM写真から、平均粒子長さが1μm未満であって、アスペクト比が1より大きい高アスペクト比を有する炭酸ストロンチウム結晶が得られたことが判った。
【0039】
(実施例2)
−炭酸塩の製造−
実施例1の炭酸塩粒子数増加工程においてのみ、炭酸源を炭酸アンモニウム[(NHCO]に代えた以外は、全く同じ条件で実験を行った。実施例1と同様、平均粒子長さが1μm未満であって、アスペクト比が1より大きい高アスペクト比を有する炭酸ストロンチウム結晶が得られたことが判った。
【0040】
(実施例3)
−炭酸塩の製造−
シングルジェット法により、図2に示すように、前記金属イオン源としての水酸化ストロンチウム8水和物から、ステンレス製のポットに入れて調製した0.08M水酸化ストロンチウム[Sr(OH)]懸濁液625mlをA液とし、10℃に保持した状態で1,000rpmで攪拌を行いながら、前記炭酸源としての0.1M炭酸ナトリウム[NaCO3]水溶液500mlをB液とし、前記B液を2本の供給用タンクに分けて10℃に保持したのち、62.5mlずつを300ml/minの添加速度により添加後、混合させた(炭酸塩粒子数増加工程、Sr2+イオンが過剰に存在)。
次に、温度及び攪拌はそのままの状態で、0.1M炭酸ナトリウム[NaCO3]水溶液250mlを5ml/minの添加速度によりゆっくりと添加させた(炭酸塩粒子体積増加工程)。実施例1と同様、平均粒子長さが1μm未満であって、アスペクト比が1より大きい高アスペクト比を有する炭酸ストロンチウム結晶が得られたことが判った。
【0041】
(実施例4)
−炭酸塩の製造−
ダブルジェット法により、図1に示すように、温度を10℃に保持した状態で1,000rpmで攪拌している水酸化ナトリウム[NaOH]8gを含んだ250mlの水をC液とし、この水中に、前記金属イオン源としての0.4M塩化ストロンチウム[SrCl]水溶液125mlと前記炭酸源としての0.4M炭酸ナトリウム[NaCO3]水溶液125mlを、それぞれA液、B液とし、10℃に保持したのち、300ml/minの添加速度により添加後、混合させた(炭酸塩粒子数増加工程)。
次に、温度及び攪拌はそのままの状態で、0.2M塩化ストロンチウム[SrCl]水溶液250mlと前記炭酸源としての0.2M炭酸ナトリウム[NaCO3]水溶液250mlを5ml/minの添加速度でゆっくりと添加させた(炭酸塩粒子体積増加工程)。実施例1と同様、平均粒子長さが1μm未満であって、アスペクト比が1より大きい高アスペクト比を有する炭酸ストロンチウム結晶が得られたことが判った。
【0042】
(実施例5)
−炭酸塩の製造−
シングルジェット法により、図2に示すように、前記金属イオン源としての水酸化ストロンチウム8水和物から、ステンレス製のポットに入れて調製した0.14M水酸化ストロンチウム[Sr(OH)]懸濁液(純水:メタノール=1:4)をA液とし、5℃に保持した状態で攪拌を行いながら、前記炭酸源としての炭酸アンモニウム[(NH4)2CO3]水溶液をB液とし、これを添加した。B液の添加は、2本の供給用タンクに分けて、それぞれのタンクから、A液調製の際に添加した水酸化ストロンチウム[Sr(OH)]のモル数の6分の1に相当するモル数の炭酸アンモニウムが添加されるように、0.3ml/minの添加速度で行って混合させた(炭酸塩粒子数増加工程)。
なお、得られた炭酸塩は、透過型電子顕微鏡(TEM)によって粒子を観察し、不純物が混じっていないことを確認した上で、その個数を計測して、粒子数が増加していることが確認された。
次に、温度を45℃に上昇させ、攪拌を行いながら、炭酸アンモニウム[(NH4)2CO3]を、2本の供給用タンクから、それぞれ1ml/minの添加速度で、未溶解で残存しているストロンチウム源のモル数以上の炭酸イオンのモル数が添加されるように加えた(炭酸塩粒子体積増加工程)。
なお、得られた炭酸塩は、透過型電子顕微鏡(TEM)によって粒子を観察し、不純物が混じっていないことを確認した上で、そのサイズを計測して、体積が増加していることが確認された。
【0043】
−炭酸塩の性状確認−
得られた沈殿物を濾過により取り出し、乾燥させた。乾燥後の沈殿物についてX線回折測定を行ったところ、得られた沈殿物は炭酸ストロンチウム結晶であると確認できた。さらに、この炭酸ストロンチウム結晶を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察した。このときのTEM写真を図4に示す。該TEM写真から、実施例1と同様、平均粒子長さが1μm未満であって、アスペクト比が1より大きい高アスペクト比を有する炭酸ストロンチウム結晶が得られたことが判った。ここで、200個の粒子の計測結果から平均値を求めると、平均短軸径55nm、平均長軸径190nmであった。
【0044】
(実施例6)
−炭酸塩の製造−
実施例5の炭酸塩粒子数増加工程終了後に、濾過フィルターによって濾過して炭酸ストロンチウムを取り出した。この際に大量の純水で余剰な出発原料などを十分に洗い流した。この沈殿を500mlの純水に再度添加して、均一に十分に攪拌し、分散させた。
次に、上記で得られた炭酸ストロンチウムの沈殿の2倍のモル数に相当する水酸化ストロンチウム[Sr(OH)]と、前記水酸化ストロンチウムの6倍のモル数となる水酸化ナトリウム(NaOH)顆粒とを添加して、十分攪拌した。
温度を90℃に上昇させ、攪拌を行いながら、8Mの尿素[(NH)CO]水溶液を、60℃に保温した2本の供給用タンクから、それぞれ100ml/minの添加速度で、250mlずつ添加した。
次に、温度を90℃に保持した状態で、2時間攪拌を継続した(炭酸塩粒子体積増加工程)。
なお、得られた炭酸塩は、透過型電子顕微鏡(TEM)によって粒子を観察し、不純物が混じっていないことを確認した上で、そのサイズを計測して、体積が増加していることが確認された。
【0045】
−炭酸塩の性状確認−
得られた沈殿物を濾過により取り出し、乾燥させた。乾燥後の沈殿についてX線回折測定を行ったところ、得られた沈殿は炭酸ストロンチウム結晶であると確認できた。さらに、この炭酸ストロンチウム結晶を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察した。このときのTEM写真を図5に示す。該TEM写真から、アスペクト比が1より大きい高アスペクト比を有する炭酸ストロンチウム結晶が得られたことが判った。
【0046】
(実施例7)
−炭酸塩の製造−
実施例6において、8Mの尿素[(NH)CO]水溶液を、60℃に保温した2本の供給用タンクから、それぞれ500ml/minの添加速度で、250mlずつ添加した以外は、実施例6と同様にして炭酸塩を製造した。実施例6と同様、アスペクト比が1より大きい高アスペクト比を有する炭酸ストロンチウム結晶が得られたことが判った。
【0047】
(実施例8)
−炭酸塩の製造−
実施例5において、水酸化ストロンチウム懸濁液の代わりに、水酸化カルシウム懸濁液を用いた以外は、実施例5と同様にして炭酸塩を製造した。実施例5と同様、アスペクト比が1より大きい高アスペクト比を有する炭酸カルシウム結晶が得られたことが判った。なお、水酸化ストロンチウム懸濁液の代わりに、水酸化バリウム懸濁液、水酸化亜鉛懸濁液、又は水酸化鉛懸濁液を用いることによっても、それぞれ、アスペクト比が1より大きい高アスペクト比を有する炭酸バリウム結晶、炭酸亜鉛結晶、又は炭酸鉛結晶が得られたことが判った。
【0048】
(比較例1)
−炭酸塩の製造−
実施例1において、炭酸塩粒子体積増加工程を含まない以外は、全く同じ条件で実験を行った(炭酸塩粒子数増加工程)。
【0049】
−炭酸塩の性状確認−
乾燥後の沈殿についてX線回折測定を行ったところ、得られた沈殿は炭酸ストロンチウム結晶であると確認できた。さらに、この炭酸ストロンチウム結晶を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察した。このときのTEM写真を図6に示す。該TEM写真から、得られた炭酸ストロンチウム結晶は、平均粒子径が50〜100nm程度の球状の粒子やそれらの凝集した形態であると判った。
【0050】
(比較例2)
−炭酸塩の製造−
前記金属イオン源としての硝酸ストロンチウム[Sr(NO]溶液と、前記炭酸源としての尿素[(NHCO]水溶液とを容器内で混合して、濃度が共に0.33Mの混合溶液を調製した。次いで、得られた混合溶液の入った容器を反応槽に投入し、90℃に保温して90minにわたって加熱すると共に、前記容器内を撹拌した。そして、尿素の熱分解反応により、前記炭酸塩としての炭酸ストロンチウム結晶を製造した。ここで、前記撹拌速度は500rpmで行った。
【0051】
−炭酸塩の性状確認−
得られた炭酸ストロンチウム結晶を濾過により取り出し、乾燥させた。乾燥後の炭酸ストロンチウム結晶を、走査型電子顕微鏡(SEM)(日立製作所製、S−900)により観察した。このときのSEM写真を図7に示す。該SEM写真から、平均粒子長さ6.2μm程度の柱状(棒状)の凝集性の低い炭酸ストロンチウム結晶が得られたことが判った。また、平均粒子長さ±αの長さ(α=0.5μm)を有する結晶の全結晶における割合は62%であった。
【0052】
(比較例3)
−炭酸塩の製造−
25℃で前記金属イオン源としての0.05M硝酸ストロンチウム[Sr(NO]水溶液500mlをステンレス製ポットの中で攪拌させた状態で、前記炭酸源としての0.05M炭酸アンモニウム[(NHCO]水溶液500mlを添加速度を制御できる装置などを用いないで素早く混合させた。瞬時に白色沈殿が得られたが、15分の攪拌を継続したのち、実施例1と同様、得られた沈殿物を濾過により取り出し、乾燥させた。
【0053】
−炭酸塩の性状確認−
乾燥後の沈殿物についてX線回折測定を行ったところ、得られた沈殿物は炭酸ストロンチウム結晶であると確認できた。さらに、この炭酸ストロンチウム結晶を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察した。形態及びサイズがバラバラの炭酸ストロンチウム結晶しか得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の炭酸塩の製造方法は、粒子サイズを制御可能で、一定の粒子サイズを有する炭酸塩を高い割合で効率的かつ簡便に製造することができる。
本発明の炭酸塩の製造方法により製造される炭酸塩は、アスペクト比が1より大きい、例えば針状及び棒状などの形状を有するため、プラスチックの強化材、摩擦材、断熱材、フィルターなどに好適に使用することができる。特に、延伸材料などの変形を施した複合材料においては、粒子が配向することによりその強度や光学特性を改良することができる。
また、本発明の炭酸塩の製造方法により製造される炭酸塩(結晶)を複屈折性を有する光学ポリマーに分散させ、延伸処理を施して前記光学ポリマーの結合鎖と前記炭酸塩とを略平行に配向させると、前記光学ポリマーの結合鎖の配向によって生ずる複屈折性を、前記炭酸塩の複屈折性で打ち消すことができる。このため、光学部品、特に、偏向特性が重要で高精度が要求される光学素子に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】図1は、ダブルジェット法による本発明の炭酸塩の製造方法を説明する概念図である。
【図2】図2は、シングルジェット法による本発明の炭酸塩の製造方法を説明する概念図である。
【図3】図3は、実施例1で製造した炭酸ストロンチウム結晶のTEM写真である。
【図4】図4は、実施例5で製造した炭酸ストロンチウム結晶のTEM写真である。
【図5】図5は、実施例6で製造した炭酸ストロンチウム結晶のTEM写真である。
【図6】図6は、比較例1で製造した炭酸ストロンチウム結晶のTEM写真である。
【図7】図7は、比較例2で製造した炭酸ストロンチウム結晶のSEM写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Sr2+イオン、Ca2+イオン、Ba2+イオン、Zn2+イオン、及びPb2+イオンから選択される少なくとも1種の金属イオンを含む金属イオン源と炭酸源とを液中で反応させて、アスペクト比が1より大きい形状を有する炭酸塩を製造する方法であって、炭酸塩粒子数を増加させる炭酸塩粒子数増加工程と、該炭酸塩粒子の体積のみを増加させる炭酸塩粒子体積増加工程とを含むことを特徴とする炭酸塩の製造方法。
【請求項2】
金属イオン源と炭酸源とを、シングルジェット法により液中で反応させる請求項1に記載の炭酸塩の製造方法。
【請求項3】
金属イオン源と炭酸源とを、ダブルジェット法により液中で反応させる請求項1に記載の炭酸塩の製造方法。
【請求項4】
炭酸塩粒子数増加工程において反応させる金属イオン源のモル数と炭酸源のモル数とが等しく、炭酸塩粒子体積増加工程において反応させる金属イオン源のモル数と炭酸源のモル数とが等しく、かつ、前記炭酸塩粒子体積増加工程における金属イオン源のモル数が、前記炭酸粒子数増加工程における金属イオン源のモル数以上である請求項1から3のいずれかに記載の炭酸塩の製造方法。
【請求項5】
炭酸塩粒子数増加工程では、金属イオン源と炭酸源とを、該金属イオン源のモル数(a)が、該炭酸源のモル数(b)よりも多くなるようにして反応させることにより炭酸塩粒子を形成し、該炭酸塩粒子体積増加工程では、炭酸塩粒子に対し、モル数(a)とモル数(b)との差以上になるように、炭酸源を反応させることにより前記炭酸塩粒子の体積を増加させる請求項1から3のいずれかに記載の炭酸塩の製造方法。
【請求項6】
炭酸塩粒子数増加工程で反応させる炭酸源と、炭酸塩粒子体積増加工程で反応させる炭酸源とが同一化合物である請求項1から5のいずれかに記載の炭酸塩の製造方法。
【請求項7】
炭酸塩粒子数増加工程が、金属イオン源及び炭酸源の少なくとも一方を、−10℃〜40℃の液中で、0.01〜1,000ml/minの添加速度により添加後、混合する工程を含む請求項1から6のいずれかに記載の炭酸塩の製造方法。
【請求項8】
炭酸塩粒子体積増加工程が、金属イオン源及び炭酸源の少なくとも一方を、炭酸塩粒子数増加工程の反応温度以上の温度条件下で、かつ0.01〜1,000ml/minの添加速度により添加後、混合する請求項1から7のいずれかに記載の炭酸塩の製造方法。
【請求項9】
金属イオン源が、NO、Cl、及びOHの少なくともいずれかを含む請求項1から8のいずれかに記載の炭酸塩の製造方法。
【請求項10】
炭酸源が、炭酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、尿素、及び炭酸ガスの少なくともいずれかを含む請求項1から9のいずれかに記載の炭酸塩の製造方法。
【請求項11】
炭酸塩粒子数増加工程が、金属イオン源を含む水溶液及び懸濁液のいずれかを、−10℃〜40℃に保ちながら、炭酸源を含む水溶液を、0.01〜1,000ml/minの添加速度により添加後、混合する添加混合工程を含み、炭酸塩粒子体積増加工程が、前記炭酸源を含む水溶液及びガスのいずれかを、前記炭酸塩粒子数増加工程の反応温度以上の温度条件下で、かつ0.01〜1,000ml/minの添加速度により添加後、混合する添加混合工程を含む請求項1から2及び4から10のいずれかに記載の炭酸塩の製造方法。
【請求項12】
液中に水を含む請求項1から11のいずれかに記載の炭酸塩の製造方法。
【請求項13】
液中に溶剤を含む請求項1から12のいずれかに記載の炭酸塩の製造方法。
【請求項14】
溶剤が、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、及び2−アミノエタノールから選択される少なくとも1種である請求項13に記載の炭酸塩の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−193411(P2006−193411A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−342646(P2005−342646)
【出願日】平成17年11月28日(2005.11.28)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】