説明

点火プラグ

【課題】点火プラグが細経化されても、高周波雑音電波の発生を十分に抑制し得る抵抗体
形成用ガラス組成物を創案することにより、点火プラグの信頼性および生産性を高めるこ
と。
【解決手段】本発明の抵抗体形成材料は、粗粒ガラス粉末と粗粒セラミックフィラーを含
む抵抗体形成材料において、(1)粗粒ガラス粉末が、ガラス組成として、質量%で、S
iO2 35〜60%、B23 25〜55%、Li2O+Na2O+K2O 1〜20%、
MgO+CaO+SrO+BaO 0〜35%、BaO 0〜14%を含有し、(2)粗
粒セラミックフィラーの平均粒子径D50が50〜300μmであり、(3)粗粒セラミッ
クフィラーの含有量が1〜55質量%であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波雑音電波等の電磁波を吸収し得る抵抗体形成材料に関し、特に点火プ
ラグの抵抗体の形成に好適な抵抗体形成材料、及び点火プラグに関し、特に高周波雑音電
波等の電磁波を吸収し得る抵抗体形成材料により形成される抵抗体を有する点火プラグに
関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等のエンジンの点火プラグとして、抵抗体入り点火プラグが広く使用されている
。図1に示すように、抵抗体入り点火プラグは、絶縁碍子(図示せず)の内孔中に端子電
極1と接する導電ガラス体2aと、中心電極3と接する導電ガラス体2bとの間に抵抗体
4を介在させたものである。点火プラグに抵抗体を導入すると、点火プラグの点火時に発
生する高周波雑音電波の漏洩を抑制することができる。
【0003】
一般的に、抵抗体入り点火プラグは、次のようにして作製される。絶縁碍子の内孔の下
端に中心電極3を挿入し、所定量の導電ガラス体材料を絶縁碍子の内孔に充填した後、導
電ガラス体材料にプレス圧力を加え、導電ガラス体材料の表面を平坦にする。次に、導電
ガラス体材料上に、所定量の抵抗体形成材料を充填した後、抵抗体形成材料にプレス圧力
を加え、その表面を平坦にする。その後、抵抗体形成材料上に導電ガラス体材料を所定量
充填する。ここで、導電ガラス体材料および抵抗体形成材料は、絶縁碍子の内孔に充填し
やすくするため、顆粒に加工されている。次いで、端子電極1を絶縁碍子の内孔の上端に
挿入した後、約900℃で加熱しながら端子電極1に荷重をかける、いわゆるホットプレ
ス工程により、導電ガラス体材料および抵抗体形成材料を焼結させて導電ガラス体2a、
2bおよび抵抗体4を形成するとともに、導電ガラス体2a中に端子電極1の先端を圧入
し、導電ガラス体2b中に中心電極3の先端を圧入する。最後に、接地電極を備えたハウ
ジングに絶縁碍子を固定し、点火プラグとする。
【0004】
一般的に、抵抗体形成材料は、粗粒ガラス粉末、微粒ガラス粉末、粗粒セラミックフィ
ラー、微粒セラミックフィラー、導電粉末等を含む複合粉末を顆粒化したものが使用され
る。この抵抗体形成材料を用いて作製された抵抗体は、粗粒ガラス粉末や粗粒セラミック
フィラーがその原型を留めるとともに、これらの粒子の間隙に、微粒ガラス粉末が溶融固
化した結合ガラス相が存在した状態となる。また結合ガラス相中には導電粉末が分散して
おり、粗粒ガラス粉末や粗粒セラミックフィラーは、導電パスを曲折(迂回)させるブロ
ック粒子として機能する(例えば特許文献1、2参照)。そして、導電パスを曲折させる
と、抵抗体の高周波雑音電波の吸収能が高まることが知られている。なお、本明細書にお
いて、「粗粒ガラス粉末」とは、平均粒子径D50が150μm以上のガラス粉末を指し、
「微粒ガラス粉末」とは、平均粒子径D50が150μm未満のガラス粉末を指す。また、
「粗粒セラミックフィラー」とは、平均粒子径D50が50μm以上のセラミックフィラー
を指し、「微粒セラミックフィラー」とは、平均粒子径D50が50μm未満のセラミック
フィラーを指す。さらに、「平均粒子径D50」とは、レーザー回折法で測定した値を指し
、レーザー回折法により測定した際の体積基準の累積粒度分布曲線において、その積算量
が粒子の小さい方から累積して50%である粒子径を表す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−306636号公報
【特許文献2】特開2005−340171号公報
【特許文献3】特開2007−122879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、エンジンは小型化される傾向にあり、点火プラグも小型化、特に細経化される傾
向にある。点火プラグが細径化されると、絶縁碍子の内孔径も縮小されるため、抵抗体の
体積が必然的に減少し、結果として、抵抗体が高周波雑音電波を吸収し難くなる。なお、
点火プラグの点火時には、高周波雑音電波が発生するが、この高周波雑音電波が多量に漏
洩すれば、車載用のTV、ラジオ、無線等を妨害するおそれがある。
【0007】
このような事情に鑑み、特許文献3の明細書の段落[0011]〜[0013]には、
「本発明のスパークプラグは、軸方向に延びる貫通孔を有し、該貫通孔が第1貫通孔及び
該第1貫通孔よりも後端側に当該第1貫通孔よりも孔径が大きい第2貫通孔となる絶縁体
と、前記絶縁体の第1貫通孔内に配置される中心電極と、前記絶縁体の第2貫通孔内に配
置される端子金具と、を備えるスパークプラグであって、前記第2貫通孔内に、導電性セ
ラミック焼結体で形成されると共に、前記中心電極と前記端子金具とを電気的に接続する
セラミック焼結体抵抗器が配置されてなり、前記セラミック焼結体抵抗器の軸方向長さが
前記第2貫通孔の軸方向長さの40%以上であることを特徴とする。本発明では、このよ
うな抵抗体として予め焼結されたセラミック焼結体抵抗器を絶縁体の第2貫通孔に挿入す
るものとすることで、従来のような製造上の長さの制約を受けず、セラミック焼結体抵抗
器の長さを十分に長くすることができる。これにより、中心電極と端子電極との間の実効
誘電率を小さくし、点火時に発生する容量放電電流を小さくし、雑音防止効果を大きくす
ることができる。そして、セラミック焼結体抵抗器の長さ(LR)を第2貫通孔の長さ(
LH)の40%以上とする((LR/LH)×100≧40)ことで、中心電極と端子電
極との間の実効誘電率を小さくし、点火時に発生する容量放電電流を小さくし、十分な雑
音防止効果を得ることが可能となる。なお、セラミック焼結体抵抗器の長さ(LR)が第
2貫通孔の長さ(LH)の40%未満であると、十分な効果を得られにくい。さらに、よ
り好ましいセラミック焼結体抵抗器の長さ(LR)は、第2貫通孔の長さ(LH)の50
%以上である((LR/LH)×100≧50)。」と記載されており、点火プラグの構
造を最適化することにより、端子電極と中心電極間の実効誘電率を低下させて、高周波雑
音電波の発生を防止することが示されている。しかし、このような最適化を行ったとして
も、細径化された点火プラグの場合、高周波雑音電波の漏洩を十分に抑制することができ
ない。
【0008】
また、点火プラグが細径化されると、抵抗体の断面積が必然的に小さくなるため、抵抗
体の機械的強度が低下し、機械的衝撃により抵抗体にクラックが入りやすくなる。抵抗体
にクラックが入ると、クラックの進展に伴い、抵抗体の抵抗値が上昇し、点火プラグの信
頼性が低下しやすくなる。
【0009】
そこで、本発明は、高周波雑音電波の発生を十分に抑制し得るとともに、機械的衝撃に
よりクラックが入り難い抵抗体形成材料を創案することにより、点火プラグの信頼性を高
めることを技術的課題とする。
【0010】
さらに、本発明は、高周波雑音電波の発生を十分に抑制し得るとともに、機械的衝撃に
よりクラックが入り難い抵抗体形成材料により形成される抵抗体を有する点火プラグを提
供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、鋭意努力の結果、抵抗体形成材料に含まれる粗粒ガラス粉末のガラス組成
範囲を規制するとともに、粗粒セラミックフィラーの粒度と含有量を規制することにより
、上記技術的課題を解決できることを見出し、本発明として、提案するものである。すな
わち、本発明の抵抗体形成材料は、粗粒ガラス粉末と粗粒セラミックフィラーを含む抵抗
体形成材料において、(1)粗粒ガラス粉末が、ガラス組成として、質量%で、SiO2
35〜60%、B23 25〜55%、Li2O+Na2O+K2O(Li2O、Na2
、K2Oの合量) 1〜20%、MgO+CaO+SrO+BaO(MgO、CaO、S
rO、BaOの合量) 0〜35%、BaO 0〜14%を含有し、(2)粗粒セラミッ
クフィラーの平均粒子径D50が50〜300μmであり、(3)粗粒セラミックフィラー
の含有量が1〜55質量%であることを特徴とする。
【0012】
本発明の抵抗体形成材料は、粗粒ガラス粉末のガラス組成範囲を上記のように規制して
いる。このようにすれば、粗粒ガラス粉末の誘電率を低下できるため、点火プラグの点火
時に高周波雑音電波の発生を抑制することができ、その結果、点火プラグの細径化を容易
に図ることができる。また、このようにすれば、粗粒ガラス粉末の屈伏点を不当に上昇さ
せずに、熱的安定性を高めつつ、熱膨張係数を下げることができる。
【0013】
本発明の抵抗体形成材料は、粗粒セラミックフィラーの平均粒子径D50を50〜300
μmに規制している。このようにすれば、抵抗体の機械的強度を高めやすくなる。つまり
、このようにすれば、点火プラグが機械的衝撃を受けた場合、粗粒セラミックフィラーが
クラックの進展を妨げやすくなるため、抵抗体の抵抗値が上昇し難くなり、その結果、点
火プラグの信頼性を高めることができる。加えて、粗粒セラミックフィラーがブロック粒
子として機能しやすくなる。また、本発明の抵抗体形成材料は、粗粒セラミックフィラー
の含有量を1〜55質量%に規制している。このようにすれば、抵抗体の抵抗値がばらつ
く不具合を防止しつつ、抵抗体の機械的強度を高めることができる。
【0014】
第二に、本発明の抵抗体形成材料は、粗粒ガラス粉末の平均粒子径D50が150〜45
0μmであることを特徴とする。このようにすれば、粗粒ガラス粉末がブロック粒子とし
て機能しやすくなる。
【0015】
第三に、本発明の抵抗体形成材料は、粗粒ガラス粉末の誘電率が5.5以下であること
を特徴とする。ここで、「誘電率」は、25℃、1MHzにおける誘電率を指す。なお、
粗粒ガラス粉末の誘電率は、例えば50×50×3mmの板状ガラス(ガラス粉末を緻密
に焼結させたもの)、或いは50×50×3mmの板状のガラスインゴットを測定試料と
して用い、光学研磨されたガラスの表裏面に30mmφの電極を貼り付け、電極間に電圧
を印加することにより測定することができる。
【0016】
本発明者は、粗粒ガラス粉末の誘電率を低下させると、抵抗体の誘電率を低下できるこ
とを見出すとともに、そのためには上記のように粗粒ガラス粉末のガラス組成範囲を規制
すればよいことを見出した。これにより、中心電極―端子電極間の実行誘電率が小さくな
るため、点火プラグの点火時に発生する容量放電電流を小さくすることができ、結果とし
て、高周波雑音電波の発生を抑制することができる。
【0017】
第四に、本発明の抵抗体形成材料は、粗粒ガラス粉末の屈伏点が500〜650℃であ
ることを特徴とする。ここで、「粗粒ガラス粉末の屈伏点」とは、押棒式熱膨張係数測定
(TMA)装置で測定した値を指し、粗粒ガラス粉末を緻密に焼結させたものを測定試料
とする。
【0018】
第五に、本発明の抵抗体形成材料は、粗粒ガラス粉末が分相性を有することを特徴とす
る。ここで、「分相性を有する」とは、600〜900℃のいずれかの温度で10分間熱
処理を加えた場合にガラスが分相する場合を指し、例えば、TEM(Transmiss
ion Electron Microscope)等で観察すれば、ガラスが分相して
いるか否かを判定することができる。なお、熱処理を加える前に、既にガラスが分相して
いる場合も「分相性を有する」と判断する。
【0019】
一般的に、分相とは、ガラス成分が、SiO2を主成分とする高粘性のシリカリッチ相
と、その他の成分からなる低粘性ガラス相とに分離する状態を指し、分相したガラスは、
通常、シリカリッチ相が骨格をなし、その間隙に低粘性ガラス相が存在する構造となる。
粗粒ガラス粉末が分相性を有すると、ホットプレス工程でカーボンブラック等の導電粉末
をガラス中に溶解し難くなる。なお、ホットプレス工程で粗粒ガラス粉末が導電粉末を取
り込まない理由は、分相性に起因していると考えられるが、詳細なメカニズムは不明であ
り、現在、鋭意調査中である。また、粗粒ガラス粉末が分相性を有すると、粗粒ガラス粉
末は、ホットプレス工程で低粘性ガラス相の軟化流動に起因して若干塑性変形するものの
、シリカリッチ相の存在によってその形状を維持することができ、ブロック粒子として機
能することができる。
【0020】
第六に、本発明の抵抗体形成材料は、粗粒ガラス粉末が実質的にPbOを含有しないこ
とを特徴とする。ここで、「実質的にPbOを含有しない」とは、PbOの含有量が10
00ppm以下の場合を指す。
【0021】
第七に、本発明の抵抗体形成材料は、粗粒セラミックフィラーの誘電率が11.5以下
であることを特徴とする。
【0022】
本発明者は、粗粒セラミックフィラーの誘電率を低下させると、抵抗体の誘電率を低下
できることを見出した。これにより、中心電極―端子電極間の実行誘電率が小さくなるた
め、点火プラグの点火時に発生する容量放電電流を小さくすることができ、結果として、
高周波雑音電波の発生を抑制することができる。
【0023】
第八に、本発明の抵抗体形成材料は、粗粒セラミックフィラーが、アルミナ、コーディ
エライト、ムライト、スピネル、シリカ、ジルコン、ウイレマイトの一種または二種以上
であることを特徴とする。
【0024】
第九に、本発明の抵抗体形成材料は、顆粒に加工されていることを特徴とする。このよ
うにすれば、抵抗体形成材料の流動性が高まるため、抵抗体形成材料を絶縁碍子の内孔に
充填しやすくなる。
【0025】
第十に、本発明の抵抗体形成材料は、点火プラグに用いることを特徴とする。
【0026】
第十一に、本発明の点火プラグは、軸線方向に延びる軸孔を有する絶縁体と、軸孔の一
端側に設けられた中心電極と、軸孔の他端側に設けられた端子電極と、中心電極と端子電
極との間に配置される抵抗体とを備える点火プラグであって、抵抗体はガラス組成物とセ
ラミックフィラーとを含有し、(1)ガラス組成物が、ガラス組成として、質量%で、S
iO2 35〜60%、B23 25〜55%、Li2O+Na2O+K2O(Li2O、N
2O、K2Oの合量) 1〜20%、MgO+CaO+SrO+BaO(MgO、CaO
、SrO、BaOの合量) 0〜35%、BaO 0〜14%を含有し、(2)セラミッ
クフィラーの含有量が1〜55質量%であることを特徴とする。また、「抵抗体」とは、
抵抗値が通常100Ω以上のものをいう。
【0027】
本発明の点火プラグが有する抵抗体は、ガラス組成物のガラス組成範囲を上記のように
規制している。このようにすれば、ガラス組成物を構成する粗粒ガラス粉末の誘電率を低
下できるため、点火プラグの点火時に高周波雑音電波の発生を抑制することができ、その
結果、点火プラグの細径化を容易に図ることができる。また、このようにすれば、ガラス
組成物を構成する粗粒ガラス粉末の屈伏点を不当に上昇させずに、熱的安定性を高めつつ
、熱膨張係数を下げることができる。また、本発明の点火プラグが有する抵抗体は、粗粒
セラミックフィラーの含有量を1〜55質量%に規制している。このようにすれば、抵抗
体の抵抗値がばらつく不具合を防止しつつ、抵抗体の機械的強度を高めることができる。
【0028】
第十二に、本発明の点火プラグが有する抵抗体は、セラミックフィラーに対するガラス
組成物の質量比率が3〜19であることを特徴とする。抵抗体中のセラミックフィラーは
抗折強度を改善する効果を発揮するが、ホットプレス時にプレス圧力が高くなってしまい
、量産時やプラグ種別によっては端子浮きの不具合が発生する。しかしながら、セラミッ
クフィラーに対するガラス組成物の質量比率を3〜19に調整することにより、抗折強度
と生産性との両立を実現することが可能となる。セラミックフィラーに対するガラス組成
物の質量比率が3以下では端子浮き不具合が発生し、セラミックフィラーに対するガラス
組成物の質量比率が19以上では抗折強度の改善が発現しない。
【0029】
第十三に、本発明の点火プラグが有する抵抗体は、粗粒セラミックフィラーの平均粒子
径D50を50〜300μmに規制している。このようにすれば、抵抗体の機械的強度を高
めやすくなる。つまり、このようにすれば、点火プラグが機械的衝撃を受けた場合、粗粒
セラミックフィラーがクラックの進展を妨げやすくなるため、抵抗体の抵抗値が上昇し難
くなり、その結果、点火プラグの信頼性を高めることができる。加えて、粗粒セラミック
フィラーがブロック粒子として機能しやすくなる。
【0030】
第十四に、本発明の点火プラグが有する抵抗体は、ガラス組成物が粗粒ガラス粉末から
なり、粗粒ガラス粉末の平均粒子径D50が150〜450μmであることを特徴とする。
このようにすれば、粗粒ガラス粉末がブロック粒子として機能しやすくなる。
【0031】
第十五に、本発明の点火プラグが有する抵抗体は、ガラス組成物が粗粒ガラス粉末から
なり、粗粒ガラス粉末の誘電率が5.5以下であることを特徴とする。ここで、「誘電率
」は、25℃、1MHzにおける誘電率を指す。なお、粗粒ガラス粉末の誘電率は、例え
ば50×50×3mmの板状ガラス(ガラス粉末を緻密に焼結させたもの)、或いは50
×50×3mmの板状のガラスインゴットを測定試料として用い、光学研磨されたガラス
の表裏面に30mmφの電極を貼り付け、電極間に電圧を印加することにより測定するこ
とができる。
【0032】
本発明者は、粗粒ガラス粉末の誘電率を低下させると、抵抗体の誘電率を低下できるこ
とを見出すとともに、そのためには上記のように粗粒ガラス粉末のガラス組成範囲を規制
すればよいことを見出した。これにより、中心電極―端子電極間の実行誘電率が小さくな
るため、点火プラグの点火時に発生する容量放電電流を小さくすることができ、結果とし
て、高周波雑音電波の発生を抑制することができる。
【0033】
第十六に、本発明の点火プラグが有する抵抗体は、ガラス組成物が粗粒ガラス粉末から
なり、粗粒ガラス粉末の屈伏点が500〜650℃であることを特徴とする。ここで、「
粗粒ガラス粉末の屈伏点」とは、押棒式熱膨張係数測定(TMA)装置で測定した値を指
し、粗粒ガラス粉末を緻密に焼結させたものを測定試料とする。
【0034】
第十七に、本発明の点火プラグが有する抵抗体は、ガラス組成物が粗粒ガラス粉末から
なり、粗粒ガラス粉末が分相性を有することを特徴とする。ここで、「分相性を有する」
とは、600〜900℃のいずれかの温度で10分間熱処理を加えた場合にガラスが分相
する場合を指し、例えば、TEM(Transmission Electron Mi
croscope)等で観察すれば、ガラスが分相しているか否かを判定することができ
る。なお、熱処理を加える前に、既にガラスが分相している場合も「分相性を有する」と
判断する。
【0035】
一般的に、分相とは、ガラス成分が、SiO2を主成分とする高粘性のシリカリッチ相
と、その他の成分からなる低粘性ガラス相とに分離する状態を指し、分相したガラスは、
通常、シリカリッチ相が骨格をなし、その間隙に低粘性ガラス相が存在する構造となる。
粗粒ガラス粉末が分相性を有すると、ホットプレス工程でカーボンブラック等の導電粉末
をガラス中に溶解し難くなる。なお、ホットプレス工程で粗粒ガラス粉末が導電粉末を取
り込まない理由は、分相性に起因していると考えられるが、詳細なメカニズムは不明であ
り、現在、鋭意調査中である。また、粗粒ガラス粉末が分相性を有すると、粗粒ガラス粉
末は、ホットプレス工程で低粘性ガラス相の軟化流動に起因して若干塑性変形するものの
、シリカリッチ相の存在によってその形状を維持することができ、ブロック粒子として機
能することができる。
【0036】
第十八に、本発明の点火プラグが有する抵抗体は、ガラス組成物が実質的にPbOを含
有しないことを特徴とする。ここで、「実質的にPbOを含有しない」とは、PbOの含
有量が1000ppm以下の場合を指す。
【0037】
第十九に、本発明の点火プラグが有する抵抗体は、粗粒セラミックフィラーの誘電率が
11.5以下であることを特徴とする。
【0038】
本発明者は、粗粒セラミックフィラーの誘電率を低下させると、抵抗体の誘電率を低下
できることを見出した。これにより、中心電極―端子電極間の実行誘電率が小さくなるた
め、点火プラグの点火時に発生する容量放電電流を小さくすることができ、結果として、
高周波雑音電波の発生を抑制することができる。
【0039】
第二十に、本発明の点火プラグが有する抵抗体は、セラミックフィラーが粗粒セラミッ
クフィラーからなり、粗粒セラミックフィラーが、アルミナ、コーディエライト、ムライ
ト、スピネル、シリカ、ジルコン、ウイレマイトの一種または二種以上であることを特徴
とする。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】抵抗体入り点火プラグの要部を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明の抵抗体形成材料において、粗粒ガラス粉末の平均粒子径D50は150〜450
μm、特に200〜350μmが好ましい。粗粒ガラス粉末の平均粒子径D50を150〜
450μmにすれば、粗粒ガラス粉末が導電路を迂回させるブロック粒子として機能しや
すくなる。粗粒ガラス粉末の平均粒子径D50が150μmより小さいと、ホットプレス工
程で粗粒ガラス粉末が導電粉末を溶解しやすくなるため、粗粒ガラス粉末がブロック粒子
として機能し難くなり、抵抗体の高周波雑音電波の吸収能が低下しやすくなる。一方、粗
粒ガラス粉末の平均粒子径D50が450μmより大きいと、顆粒に加工し難くなり、絶縁
碍子の内孔が細径化された場合に、抵抗体形成材料を絶縁碍子の内孔に充填し難くなるこ
とに加えて、ホットプレス工程で粗粒ガラス粉末が変形し難くなって、端子浮き等の不具
合が発生しやすくなり、更には抵抗体の機械的強度が低下しやすくなる。
【0042】
本発明の抵抗体形成材料において、粗粒ガラス粉末の最大粒子径Dmaxは450μm以
下が好ましく、400μm以下がより好ましい。粗粒ガラス粉末の最大粒子径Dmaxが4
50μmより大きいと、絶縁碍子の内孔が細径化された場合に、絶縁碍子の内孔に粗粒ガ
ラス粉末を充填し難くなる。ここで、「最大粒子径Dmax」は、レーザー回折法で測定し
た値を指し、レーザー回折法により測定した際の体積基準の累積粒度分布曲線において、
その積算量が粒子の小さい方から累積して99%である粒子径を表す。
【0043】
本発明の抵抗体形成材料において、粗粒ガラス粉末の含有量は15〜70質量%、特に
20〜60質量%が好ましい。粗粒ガラス粉末の含有量が15質量%より少ないと、導電
路を迂回させ難くなり、抵抗体の高周波雑音電波の吸収能が低下しやすくなる。粗粒ガラ
ス粉末の含有量が70質量%より多いと、微粒ガラス粉末により粗粒セラミックフィラー
の間隙を充填し難くなり、抵抗体の抵抗値がばらつきやすくなるとともに、抵抗体の機械
的強度が低下しやすくなる。
【0044】
本発明の抵抗体形成材料において、上記のように粗粒ガラス粉末のガラス組成範囲を限
定した理由を下記に示す。
【0045】
SiO2は、ガラスの骨格を形成する成分であり、ガラスを熱的に安定化させるととも
に、ガラスの熱膨張係数を下げる成分であり、その含有量は35〜60%、好ましくは4
0〜58%、より好ましくは45〜56%である。SiO2の含有量が35%より少ない
と、ガラスが熱的に不安定になり、ガラスを安定生産し難くなることに加えて、ガラスの
熱膨張係数が上昇し過ぎて、抵抗体と導電ガラス体または絶縁碍子の界面で剥離またはク
ラックが発生しやすくなる。一方、SiO2の含有量が65%より多いと、ガラスの屈伏
点が不当に上昇し、ホットプレス工程で粗粒ガラス粉末が変形し難くなり、結果として、
端子浮き等の不具合が発生しやすくなる。
【0046】
23は、ガラスの骨格を形成する成分であり、ガラスを熱的に安定化させるとともに
、ガラスの屈伏点を下げる成分であり、更にはガラスを分相させるための成分であり、そ
の含有量は25〜55%、好ましくは27〜48%、より好ましくは31〜43%である
。B23の含有量が25%より少ないと、ガラスが熱的に不安定になり、ガラスを安定生
産し難くなることに加えて、ガラスの熱膨張係数が上昇し過ぎて、抵抗体と導電ガラス体
または絶縁碍子の界面で剥離またはクラックが発生しやすくなる。一方、B23の含有量
が55%より多いと、ガラスの屈伏点が不当に上昇し、ホットプレス工程で粗粒ガラス粉
末が変形し難くなり、結果として、端子浮き等の不具合が発生しやすくなる。
【0047】
Li2O+Na2O+K2Oは、ガラスの屈伏点を低下させるとともに、ガラスの分相を
促進させるための成分であり、その含有量は1〜20%、好ましくは1.5〜15%、よ
り好ましくは2〜10%、更に好ましくは2.5〜8%である。Li2O+Na2O+K2
Oの含有量が20%より多いと、ガラスの熱膨張係数が上昇し過ぎて、抵抗体と導電ガラ
ス体または絶縁碍子の界面で剥離またはクラックが発生しやすくなる。
【0048】
Li2Oは、ガラスの屈伏点を低下させるとともに、ガラスの分相を顕著に促進させる
ための成分であり、その含有量は0〜20%、0.1〜10%、1〜7%、特に2〜5%
が好ましい。Li2Oの含有量が20%より多いと、ガラスの熱膨張係数が上昇し過ぎて
、抵抗体と導電ガラス体または絶縁碍子の界面で剥離またはクラックが発生しやすくなる
。なお、ガラスの分相を促進させる観点から、ガラス組成中にLi2Oを必須成分として
1%以上、好ましくは2%以上添加することが好ましい。
【0049】
Na2Oは、ガラスの屈伏点を低下させるとともに、ガラスの分相を促進させるための
成分であり、その含有量は0〜20%、0〜10%、特に0〜2%が好ましい。Na2
の含有量が20%より多いと、ガラスの熱膨張係数が上昇し過ぎて、抵抗体と導電ガラス
体または絶縁碍子の界面で剥離またはクラックが発生しやすくなる。
【0050】
2Oは、ガラスの屈伏点を低下させるとともに、ガラスの分相を促進させるための成
分であり、その含有量は0〜20%、0〜15%、0〜5%、特に0〜2%が好ましい。
2Oの含有量が20%より多いと、ガラスの熱膨張係数が上昇し過ぎて、抵抗体と導電
ガラス体または絶縁碍子の界面で剥離またはクラックが発生しやすくなる。
【0051】
アルカリ土類金属酸化物(MgO、CaO、SrO、BaO)は、ガラスの分相を促進
させるための成分であると同時に、ガラスの誘電率に影響を与える成分である。イオン半
径が小さい程、ガラスが分相しやすくなり、具体的にはBaO、SrO、CaO、MgO
の順でイオン半径が小さくなるに従い、ガラスの分相傾向が大きくなる。ガラスの分相傾
向が大きくなると、熱処理温度の小さな変化に対しても、分相状態が大きく変動し、その
影響により、ホットプレス温度が変動すると、点火プラグの抵抗値がばらつく不具合が発
生しやすくなる。一方、ガラスの分相傾向が小さくなると、粗粒ガラス粉末がブロック粒
子として機能し難くなる。また、分子量が小さい程、ガラスの誘電率が低下し、具体的に
はBaO、SrO、CaO、MgOの順で分子量が小さくなるに従い、ガラスの誘電率が
低下する。さらに、BaO、SrO、CaO、MgOの順で分子量が小さくなるに従い、
ガラスの屈伏点が上昇する。以上から明らかなように、ガラスの誘電率、分相性、屈伏点
等の特性を総合的に勘案して、アルカリ土類金属酸化物を適宜選択して添加することが好
ましく、その含有量は0〜35%、特に1〜15%が好ましい。
【0052】
MgOは、ガラスの誘電率を低下させる成分であり、またガラスの分相を促進させるた
めの成分であり、その含有量は0〜20%、1〜10%、特に1〜5%が好ましい。Mg
Oの含有量が20%より多いと、ガラスの熱的安定性が低下しやすくなる。
【0053】
CaOは、ガラスの誘電率を低下させる成分であり、その含有量は0〜20%、1〜1
0%、特に1〜5%が好ましい。CaOの含有量が20%より多いと、ガラスの熱的安定
性が低下しやすくなる。
【0054】
SrOは、ガラスの誘電率を低下させる成分であるとともに、ガラスの屈伏点を低下さ
せる成分である。また、SrOは、ホットプレス温度が変動すると、点火プラグの抵抗値
がばらつく不具合を防止する成分であり、その含有量は0〜25%、0〜20%、1〜1
5%、特に1〜8%が好ましい。SrOの含有量が25%より多いと、ガラスの熱膨張係
数が上昇し過ぎて、抵抗体と導電ガラス体または絶縁碍子の界面で剥離またはクラックが
発生しやすくなる。
【0055】
BaOは、ガラスの屈伏点を低下させる成分であるとともに、ホットプレス温度が変動
すると、点火プラグの抵抗値がばらつく不具合を防止する成分であり、その含有量は0〜
14%、0〜10%、特に0〜5%が好ましい。BaOの含有量が多くなると、ガラスの
誘電率が上昇するため、高周波雑音電波の発生を抑制し難くなる。また、BaOの含有量
が多くなると、ガラスの熱膨張係数が上昇し過ぎて、抵抗体と導電ガラス体または絶縁碍
子の界面で剥離またはクラックが発生しやすくなる。なお、ガラスの誘電率を確実に低下
させる観点から、ガラス組成として、BaOを実質的に含有しないことが好ましい。ここ
で、「実質的にBaOを含有しない」とは、ガラス組成中のBaOの含有量が3000p
pm以下の場合を指す。
【0056】
上記成分以外にも、例えば、ガラス組成中に以下の成分を添加することができる。
【0057】
Al23は、ガラスの耐水性を高めるとともに、ガラスの熱膨張係数を下げる成分であ
り、その含有量は0〜10%、特に0〜5%が好ましい。Al23の含有量が10%より
多いと、ガラスの屈伏点が不当に上昇し、ホットプレス工程で粗粒ガラス粉末が変形し難
くなり、結果として、端子浮き等の不具合が発生しやすくなる。
【0058】
ZnOは、ガラスの誘電率を顕著に低下させるとともに、ガラスの屈伏点を低下させる
成分であり、またガラスの熱膨張係数を低下させるための成分であり、その含有量は0〜
25%、0〜15%、0〜12.5%、特に1〜11%が好ましい。ZnOの含有量が2
5%より多いと、ガラスの熱的安定性が低下しやすくなる。
【0059】
更に、種々の成分を15%までガラス組成中に添加することができる。例えば、TiO
2、ZrO2、Bi23、Cs2O、La23、Gd23、V25、WO3、Sb23、Sn
2、Nb25、Y23、CeO2、P25等を15%まで添加することができる。なお、
本発明に係る粗粒ガラス粉末は、PbOの含有を完全に排除するものではないが、環境的
観点から実質的にPbOを含有しないことが好ましい。
【0060】
本発明の抵抗体形成材料において、粗粒ガラス粉末の誘電率は5.5以下、5.4以下
、5.3以下、特に5.2以下が好ましい。粗粒ガラス粉末の誘電率が5.5より大きい
と、抵抗体が高周波雑音電波の発生を十分に抑制し難くなり、車載用のTV、ラジオ、無
線等を妨害するおそれがある。
【0061】
本発明の抵抗体形成材料において、粗粒ガラス粉末の誘電正接は0.008以上、0.
0010以上、0.0013以上、特に0.0018以上が好ましい。粗粒ガラス粉末の
誘電正接が0.0008より小さいと、粗粒ガラス粉末が高周波雑音電波を吸収し難くな
る傾向があり、車載用のTV、ラジオ、無線等を妨害するおそれがある。
【0062】
本発明の抵抗体形成材料において、粗粒ガラス粉末の密度は2.65g/cm3未満、
2.55g/cm3以下、特に2.50g/cm3以下が好ましい。密度が小さい程、粗粒
ガラス粉末が軽量化するため、結果として、点火プラグを軽量化することができる。
【0063】
本発明の抵抗体形成材料において、粗粒ガラス粉末のガラス転移点は430〜570℃
、特に450〜550℃が好ましい。ガラス転移点が430℃より低いと、ホットプレス
工程で粗粒ガラス粉末が導電粉末を溶解しやすくなるため、粗粒ガラス粉末が導電路を迂
回させるブロック粒子として機能し難くなり、抵抗体の高周波雑音電波の吸収能が低下し
やすくなる。一方、ガラス転移点が570℃より高いと、ホットプレス工程で粗粒ガラス
粉末が変形し難くなり、端子浮き等の不具合が発生しやすくなる。ここで、「粗粒ガラス
粉末のガラス転移点」とは、押棒式熱膨張係数測定(TMA)装置で測定した値を指し、
粗粒ガラス粉末を緻密に焼結させたものを測定試料とする。
【0064】
本発明の抵抗体形成材料において、粗粒ガラス粉末の屈伏点は500〜650℃、特に
520〜630℃が好ましい。屈伏点が500℃より低いと、ホットプレス工程で粗粒ガ
ラス粉末が導電粉末を溶解しやすくなるため、粗粒ガラス粉末が導電路を迂回させるブロ
ック粒子として機能し難くなり、抵抗体の高周波雑音電波の吸収能が低下しやすくなる。
一方、屈伏点が650℃より高いと、ホットプレス工程で粗粒ガラス粉末が変形し難くな
り、端子浮き等の不具合が発生しやすくなる。
【0065】
本発明の抵抗体形成材料において、粗粒ガラス粉末の熱膨張係数は35〜62×10-7
/℃、特に40〜56×10-7/℃が好ましい。熱膨張係数が40×10-7/℃より低く
するためには、ガラス組成中のSiO2等の含有量を増加させる必要がある。このような
場合、ガラスの屈伏点が上昇することに起因して、ホットプレス工程で粗粒ガラス粉末が
変形し難くなり、端子浮き等の不具合が発生しやすくなる。一方、熱膨張係数が62×1
-7/℃より高いと、抵抗体と導電ガラス体または絶縁碍子の界面で剥離またはクラック
が発生しやすくなる。ここで、「粗粒ガラス粉末の熱膨張係数」とは、押棒式熱膨張係数
測定(TMA)装置で測定した値を指し、粗粒ガラス粉末を緻密に焼結させたものを測定
試料とする。
【0066】
本発明の抵抗体形成材料において、粗粒セラミックフィラーの平均粒子径D50は50〜
300μmであり、75〜255μm、特に90〜220μmが好ましい。粗粒セラミッ
クフィラーの平均粒子径D50を50〜300μmにすれば、抵抗体の機械的強度を高めや
すくなる。粗粒セラミックフィラーの平均粒子径D50が50μmより小さいと、機械的衝
撃を受けた場合、粗粒セラミックフィラーがクラックの進展を妨害し難くなるため、抵抗
体の機械的強度が低下しやすくなり、その結果、抵抗体の抵抗値が上昇しやすくなり、点
火プラグの信頼性が低下しやすくなる。一方、粗粒セラミックフィラーの平均粒子径D50
が300μmより大きいと、微粒ガラス粉末によって粗粒セラミックフィラーの間隙を充
填し難くなり、抵抗体の抵抗値がばらつきやすくなるとともに、抵抗体の機械的強度も低
下しやすくなる。
【0067】
本発明の抵抗体形成材料において、粗粒セラミックフィラーの最大粒子径Dmaxは45
0μm以下が好ましく、400μm以下がより好ましい。粗粒セラミックフィラーの平均
粒子径Dmaxが450μmより大きいと、微粒ガラス粉末によって粗粒セラミックフィラ
ーの間隙を充填し難くなり、抵抗体の抵抗値がばらつきやすくなるとともに、抵抗体の機
械的強度も低下しやすくなる。
【0068】
本発明の抵抗体形成材料において、粗粒セラミックフィラーの含有量は1〜55質量%
であり、5〜45質量%、特に10〜40質量%が好ましい。粗粒セラミックフィラーの
含有量が1質量%より少ないと、機械的衝撃を受けた場合、粗粒セラミックフィラーがク
ラックの進展を妨害し難くなるため、抵抗体の機械的強度が低下しやすくなり、その結果
、抵抗体の抵抗値が上昇しやすくなり、点火プラグの信頼性が低下しやすくなる。粗粒セ
ラミックフィラーの含有量が55質量%より多いと、微粒ガラス粉末によって粗粒セラミ
ックフィラーの間隙を充填し難くなり、抵抗体の抵抗値がばらつきやすくなるとともに、
抵抗体の機械的強度も低下しやすくなる。
【0069】
本発明の抵抗体形成材料において、粗粒セラミックフィラーの誘電率は11.5以下、
7.5以下、5.0以下、特に4.0以下が好ましい。粗粒セラミックフィラーの誘電率
が11.5より大きいと、点火プラグを細径化した場合、抵抗体が高周波雑音電波の発生
を抑制し難くなり、結果として、車載用のTV、ラジオ、無線等を妨害するおそれがある

【0070】
本発明の抵抗体形成材料において、粗粒セラミックフィラーとして、リン酸ジルコニウ
ム、リン酸タングステン酸ジルコニウム、タングステン酸ジルコニウム、β−ユークリプ
タイト、ジルコニア、アルミナ、コーディエライト、ムライト、スピネル、シリカ、ジル
コン、ウイレマイトが使用可能であり、その中で、機械的強度、誘電率の観点から、アル
ミナ、コーディエライト、ムライト、スピネル、シリカ、ジルコン、ウイレマイトが好ま
しい。特に、アルミナは、材料コストが低いため、より好ましい。
【0071】
本発明の抵抗体形成材料において、粗粒セラミックフィラーは実質的にPbOを含有し
ないことが好ましい。このようにすれば、近年の環境的要請を満たすことができる。
【0072】
本発明の抵抗体形成材料は、粗粒ガラス粉末、粗粒セラミックフィラー以外に、微粒ガ
ラス粉末、微粒セラミックフィラー、導電粉末等を含み得る。微粒ガラス粉末の好適なガ
ラス組成範囲や特性は、粗粒ガラス粉末の場合と略同様であり、その平均粒子径D50は1
50μm未満、特に100μm未満が好ましい。なお、粗粒ガラス粉末と微粒ガラス粉末
を同一のガラス組成とすれば、ホットプレス工程で両者が強固に結合するため、抵抗体の
機械的強度を高めることができる。また、微粒セラミックフィラーは、粗粒ガラス粉末、
粗粒セラミックフィラーの間隙に充填する目的で添加される成分であり、例えばアルミナ
、ジルコニア等が使用可能である。さらに、導電粉末は導電パスを形成するための成分で
あり、例えばカーボン、窒化チタン、炭化珪素等が使用可能である。
【0073】
本発明の抵抗体形成材料は、点火プラグに使用することが好ましい。本発明の抵抗体形
成材料は、その充填量が少なくても、抵抗体の機械的強度を高めつつ、高周波雑音電波を
十分に吸収できるため、特に点火プラグが細径化された場合に有利である。
【実施例1】
【0074】
以下、実施例に基づいて、本発明を詳細に説明する。表1、2は、本発明の実施例(試
料No.1−1〜1−9)、比較例(試料No.1−10〜1−12)を示している。な
お、試料No.1−12は、従来例を示している。
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】

【0077】
まず、表中のガラス組成となるように、各種酸化物、炭酸塩等の原料を調合したガラス
バッチを準備し、これを白金坩堝に入れて1300℃で2時間溶融した。次に、水冷ロー
ラーにより、溶融ガラスを薄片状に成形した後、ボールミルにて粉砕後、試験篩で分級し
、粗粒ガラス粉末(平均粒子径D50=200μm)と微粒ガラス粉末(平均粒子径D50
15μm)を得た。なお、粗粒ガラス粉末と微粒ガラス粉末は、同一のガラス組成を有し
ている。
【0078】
各粗粒ガラス粉末につき、ガラス転移点、屈伏点、熱膨張係数、誘電率、誘電正接を測
定した。
【0079】
ガラス転移点および屈伏点は、TMA装置で測定した。なお、TMAの測定試料は、粗
粒ガラス粉末を緻密に焼結させたものを使用した。
【0080】
熱膨張係数は、TMA装置を用いて、30〜380℃の温度範囲で測定した。なお、T
MAの測定試料は、粗粒ガラス粉末を緻密に焼結させたものを使用した。
【0081】
誘電率および誘電正接は、50mm×50mm×3mm厚の板状ガラス(粗粒ガラス粉
末を緻密に焼結させたもの)を測定試料として用い、光学研磨した板状ガラスの表裏面に
30mmφの電極を貼り付け、電極間に電圧を印加して測定した。測定条件は、25℃、
1MHzとした。
【0082】
上記の粗粒ガラス粉末、上記の微粒ガラス粉末、表中の粗粒セラミックフィラー(平均
粒子径D50=170μm)、微粒セラミックフィラー(アルミナ、平均粒子径D50=5μ
m)、導電粉末(カーボンブラック、平均粒子径D50=50nm)を混合して、各抵抗体
材料を作製した。混合比は、質量%で、粗粒ガラス粉末と粗粒セラミックフィラーの合量
65%、微粒ガラス粉末10%、微粒セラミックフィラー4%、導電粉末1%とした。粗
粒ガラス粉末と粗粒セラミックフィラーの混合比は表中の通りとした。各抵抗体材料につ
き、ブロック粒子としての機能、分相性、焼結性、抗折強度を評価した。なお、表中の「
CDR」は、コーディエライトを指している。
【0083】
ブロック粒子としての機能は、次のようにして測定した。まず密度に相当する質量の各
抵抗体材料を金型により外径20mmのボタン状にプレスした。続いて、得られたボタン
試料をアルミナ基板で挟んだ後、900℃に保持された電気炉に投入し、100kg/c
2のプレス圧力を加えて10分間加熱し、次いで電気炉からボタン試料を取り出し、得
られたボタン試料の外観を観察することで評価した。粗粒ガラス粉末が多少変形している
が、完全に溶融しておらず、導電粉末が粗粒ガラス粉末中に溶解していないものを「○」
とし、粗粒ガラス粉末が完全に溶融し、或いはカーボンブラックが粗粒ガラス粉末中に溶
解しているものを「×」として評価した。
【0084】
焼結性は、まず密度に相当する質量の各抵抗体材料を金型により外径20mmのボタン
状にプレスし、次に得られたボタン試料をアルミナ基板上に載置した後、電気炉で20℃
/分で昇温し、900℃で10分間保持した上で、20℃/分の速度で降温し、得られた
ボタン試料の外観を観察することで評価した。ボタン試料が光沢を有しており、ボタン試
料の直径が17.8mm以下のものを「○」とし、ボタン試料に光沢がなく、或いはボタ
ン試料の直径が17.8mmより大きいものを「×」として評価した。
【0085】
分相性は、上記ボタン試料を所定形状に加工したものを測定試料とし、TEMで観察す
ることで評価した。粗粒ガラスが分相しているものを「○」、分相していないものを「×
」とした。
【0086】
抗折強度は、各抵抗体形成材料を緻密に焼結させた後、3×4×40mmの角柱(表面
が光学研磨されている)に加工したものを測定試料として用い、JIS R1601に準
拠する3点荷重測定法で測定した。抗折強度が160MPaより大きかったものを「○」
、120〜160MPaであったものを「△」、120MPa未満であったものを「×」
として評価した。
【0087】
表1、2から明らかなように、試料No.1−1〜1−9は、粗粒ガラス粉末の誘電率
が低く、且つ抵抗体形成材料の各評価も良好であった。一方、試料No.1−10は、粗
粒セラミックフィラーを含有していないため、抗折強度の評価が不良であった。また、試
料No.1−11は、粗粒セラミックフィラーの含有量が過剰であるため、抗折強度の評
価が不良であった。さらに、試料No.1−12は、粗粒ガラス粉末の誘電率が高く、点
火プラグを細径化すると、高周波雑音電波が漏洩してしまうと考えられる。
【実施例2】
【0088】
[実施例1]の試料No.1−8を用いて、粗粒ガラス粉末の平均粒子径D50について
調査した。粗粒ガラス粉末の平均粒子径D50以外の実験条件は、[実施例1]と同様とし
、ブロック粒子としての機能、抗折強度を評価した。その結果を表3に示す。
【0089】
【表3】

【0090】
表3から明らかなように、試料No.2−1〜2−4は、ブロック粒子として機能し、
抗折強度の評価も良好であった。
【実施例3】
【0091】
[実施例1]の試料No.1−8を用いて、粗粒セラミックフィラーの平均粒子径D50
の影響を調査した。粗粒セラミックフィラーの平均粒子径D50以外の実験条件は、[実施
例1]と同様とし、抗折強度を評価した。その結果を表4に示す。
【0092】
【表4】

【0093】
表4から明らかなように、試料No.3−2〜3−6は、抗折強度の評価が良好であっ
た。一方、試料No.3−1は、粗粒セラミックフィラーの平均粒子径D50が小さいため
、抗折強度の評価が不良であった。また、試料No.3−7は、粗粒セラミックフィラー
の平均粒子径D50が大きいため、抗折強度の評価が不良であった。
【実施例4】
【0094】
【表5】

【0095】
【表6】

【0096】
表5、表6は、本発明の実施例(試料No.4−1〜4−8、4−10)、比較例(試
料No.4−9)を示している。試料No.4−1〜4−4、4−9は[実施例1]の試
料No.1−1のガラス/セラミックフィラー(質量比)を、試料No.4−5及び4−
6は[実施例1]の試料No.1−2のガラス/セラミックフィラー(質量比)を、試料
No.4−7及び4−8は[実施例1]の試料No.1−4のガラス/セラミックフィラ
ー(質量比)を、試料No.4−10は[実施例1]の試料No.1−9のガラス/セラ
ミックフィラー(質量比)の変えて封着性能を評価したものである。「封着性能」は、ホ
ットプレス時の端子浮き不具合の発生率を評価したものであり、発生率が0〜5%のもの
を「◎」、5〜30%のものを「○」、30%より多いものを「×」とした。
【0097】
ガラス/セラミックフィラー(質量比)が75/15〜95/5、すなわち、3〜19
であるものは封着性能が「◎」であり、良好であった。一方、ガラス/セラミックフィラ
ー(質量比)が70/30の試料No.4−9(比較例)については封着性能が「×」で
あり、不良であった。
【産業上の利用可能性】
【0098】
以上の説明から明らかなように、本発明の抵抗体形成材料は、電磁波吸収体を搭載した
電子部品、特に高周波域における電磁波を遮蔽する必要性が高い車載用電子部品に好適で
あり、具体的には細径化された点火プラグの絶縁碍子の内孔に抵抗体を形成するための材
料として好適である。
【符号の説明】
【0099】
1 端子電極
2a、2b 導電ガラス体
3 中心電極
4 抵抗体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗粒ガラス粉末と粗粒セラミックフィラーを含む抵抗体形成材料において、
(1)粗粒ガラス粉末が、ガラス組成として、質量%で、SiO2 35〜60%、B2
3 25〜55%、Li2O+Na2O+K2O 1〜20%、MgO+CaO+SrO+B
aO 0〜35%、BaO 0〜14%を含有し、
(2)粗粒セラミックフィラーの平均粒子径D50が50〜300μmであり、
(3)粗粒セラミックフィラーの含有量が1〜55質量%であることを特徴とする抵抗体
形成材料。
【請求項2】
粗粒ガラス粉末の平均粒子径D50が150〜450μmであることを特徴とする請求項
1に記載の抵抗体形成材料。
【請求項3】
粗粒ガラス粉末の誘電率が5.5以下であることを特徴とする請求項1または2に記載
の抵抗体形成材料。
【請求項4】
粗粒ガラス粉末の屈伏点が500〜650℃であることを特徴とする請求項1〜3のい
ずれかに記載の抵抗体形成材料。
【請求項5】
粗粒ガラス粉末が分相性を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の抵
抗体形成材料。
【請求項6】
粗粒ガラス粉末が実質的にPbOを含有しないことを特徴とする請求項1〜5のいずれ
かに記載の抵抗体形成材料。
【請求項7】
粗粒セラミックフィラーの誘電率が11.5以下であることを特徴とする請求項1〜6
のいずれかに記載の抵抗体形成材料。
【請求項8】
粗粒セラミックフィラーが、アルミナ、コーディエライト、ムライト、スピネル、シリ
カ、ジルコン、ウイレマイトの一種または二種以上であることを特徴とする請求項1〜7
のいずれかに記載の抵抗体形成材料。
【請求項9】
顆粒に加工されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の抵抗体形成材
料。
【請求項10】
点火プラグに用いることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の抵抗体形成材料

【請求項11】
軸線方向に延びる軸孔を有する絶縁体と、
前記軸孔の一端側に設けられた中心電極と、
前記軸孔の他端側に設けられた端子電極と、
前記中心電極と前記端子電極との間に配置され、ガラス組成物とセラミックフィラーと
を含有する抵抗体とを備える点火プラグにおいて、
(1)前記ガラス組成物は、ガラス組成として、質量%で、SiO2 35〜60%、
23 25〜55%、Li2O+Na2O+K2O 1〜20%、MgO+CaO+Sr
O+BaO 0〜35%、BaO 0〜14%を含有し、
(2)前記セラミックフィラーの含有量が1〜55質量%であることを特徴とする点火
プラグ。
【請求項12】
前記セラミックスフィラーに対する前記ガラス組成物の質量比率が3〜19であること
を特徴とする請求項11に記載の点火プラグ。
【請求項13】
前記セラミックフィラーは、粗粒セラミックフィラーからなり、その平均粒子径D50
50〜300μmであることを特徴とする請求項11または12に記載の点火プラグ。
【請求項14】
前記ガラス組成物は、粗粒ガラス粉末からなり、その平均粒子径D50が150〜450
μmであることを特徴とする請求項11〜13のいずれかに記載の点火プラグ。
【請求項15】
前記ガラス組成物は、粗粒ガラス粉末からなり、前記粗粒ガラス粉末の誘電率が5.5
以下であることを特徴とする請求項11〜14のいずれかに記載の点火プラグ。
【請求項16】
前記ガラス組成物は、粗粒ガラス粉末からなり、前記粗粒ガラス粉末の屈伏点が500
〜650℃であることを特徴とする請求項11〜15のいずれかに記載の点火プラグ。
【請求項17】
前記ガラス組成物は、粗粒ガラス粉末からなり、前記粗粒ガラス粉末が分相性を有する
ことを特徴とする請求項11〜16のいずれかに記載の点火プラグ。
【請求項18】
前記ガラス組成物が実質的にPbOを含有しないことを特徴とする請求項11〜17の
いずれかに記載の点火プラグ。
【請求項19】
前記セラミックフィラーは、粗粒セラミックフィラーからなり、前記粗粒セラミックフ
ィラーの誘電率が11.5以下であることを特徴とする請求項11〜18のいずれかに記
載の点火プラグ。
【請求項20】
前記セラミックフィラーは、粗粒セラミックフィラーからなり、前記粗粒セラミックフ
ィラーが、アルミナ、コーディエライト、ムライト、スピネル、シリカ、ジルコン、ウイ
レマイトの一種または二種以上であることを特徴とする請求項11〜19のいずれかに記
載の点火プラグ。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−79734(P2011−79734A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−215329(P2010−215329)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【分割の表示】特願2010−200962(P2010−200962)の分割
【原出願日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】