説明

点灯管及びその製造方法

【課題】 放射性物質を使用しないで容易に電子放出させることができ、暗所始動遅れ時間を短縮できる点灯管及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 熱応動素子14を含む可動極3及び可動極3の対電極4からなる1対の電極と、放電ガスとを、密閉容器2の内部に備えた点灯管1であって、1対の電極の少なくとも1つは、鉄を含有した電子放出部18、19を含み、電子放出部18、19は、カリウムを含有したアルカリ金属供給物質7に接触していて、1対の電極にパルス状の直流電圧を印加することによって活性化されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光ランプを始動させる点灯管及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
点灯管等の放電管に関する一般的課題として、暗所始動遅れがある。暗所始動遅れとは、例えば、装置の内部に組み込まれて周囲の光から遮蔽された状況下に置かれたり、梱包状態で長く保管された点灯管を始動する場合に、光電離や光電効果による初期電子の供給量が少なくて放電開始までに相当の時間を要する現象、すなわち、電源スイッチを入れてから始動までに遅れが生じる現象のことである。
【0003】
そこで、従来の点灯管は、暗所でも点灯管が始動するように、その内部に放射性物質が封入されていた。その放射性物質の封入量は、法令を遵守した範囲内ではあったが、環境問題に対する社会の関心に配慮して、放射性物質を使用しない点灯管への転換が図られている。
【0004】
例えば、長残光塗料と組み合わせた光電子放出で暗所始動遅れ時間を短縮させる方法(例えば、特許文献1参照。)や、点灯管に仕事関数の低いセシウム化合物を内封して、その電子放出で暗所始動遅れ時間を短縮させる方法(例えば、特許文献2参照。)等を用いた放射性物質を使用しない点灯管が開示されている。
【特許文献1】特開平10−255724号公報
【特許文献2】特開2002−216703号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載された方法は、長時間暗所に放置された点灯管について、暗所始動遅れを十分に解決できないという課題がある。また、特許文献2に記載された方法は、暗所始動遅れ時間がばらついたり、使用回数が増えると暗所始動遅れ時間が長くなったりする等、動作信頼性が十分でないという課題がある。
【0006】
本発明は、放射性物質を使用しないで容易に電子放出させることができ、暗所始動遅れ時間を短縮できる点灯管を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の点灯管は、熱応動素子を含む可動極及び上記可動極の対電極からなる1対の電極と、放電ガスとを、密閉容器の内部に備えた点灯管であって、上記1対の電極の少なくとも1つは、鉄を含有した電子放出部を含み、上記電子放出部は、カリウムを含有したアルカリ金属供給物質に接触していて、上記1対の電極にパルス状の直流電圧を印加することによって活性化されていることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の点灯管の製造方法は、熱応動素子を含む可動極及び上記可動極の対電極からなる1対の電極と、放電ガスとを密封容器の内部に備えた点灯管の製造方法であって、カリウムを含有したアルカリ金属供給物質を、上記1対の電極の少なくとも1つに含まれかつ鉄を含有した電子放出部に接触して配置して、上記1対の電極にパルス状の直流電圧を印加することによって、上記放電ガスを放電させながら、上記電子放出部を加熱して、上記アルカリ金属供給物質に含有されているカリウムを、上記電子放出部に吸着させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の点灯管は、容易に電子放出させることができ、長時間暗所に保管しても短時間で始動させることができる。
【0010】
また、本発明の点灯管の製造方法は、上記本発明の点灯管を合理的に製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の点灯管は、熱応動素子を含む可動極及び上記可動極の対電極からなる1対の電極と、放電ガスとを、密閉容器の内部に備えた点灯管である。上記1対の電極の少なくとも1つは、鉄を含有した電子放出部を含み、上記電子放出部は、カリウムを含有したアルカリ金属供給物質に接触していて、上記1対の電極にパルス状の直流電圧を印加することによって活性化されている。
【0012】
このような構成にすることによって、放射性物質を用いずに暗所始動遅れ時間を短くできる。この点灯管は、仕事関数が小さくて活性化された電子放出部を含むので、例えば点灯管を長時間暗所に保管しても、容易に電子を放出できる。
【0013】
上記電子放出部の表面は、上記電圧の印加によって上記アルカリ金属供給物質から供給されたカリウムが吸着していることが好ましい。カリウムが吸着している電子放出部において、より仕事関数が低下するので、暗所始動遅れ時間をより短縮できるからである。
【0014】
上記パルス状の直流電圧は、休止期間を有することが好ましい。点灯管は、高い電圧をかけると、放電電流が増加し、電極の温度が急に上がり可動極が可動して短絡するからである。
【0015】
上記電子放出部は、上記アルカリ金属供給物質に接触した表面に、鉄及び鉄を含む合金から選ばれる少なくとも1つの金属を含有することが好ましい。鉄を含有した電子放出部の表面に、カリウムが吸着することによって、仕事関数がより低下する。
【0016】
上記アルカリ金属供給物質は、アルカリ金属酸化物を含有したガラスであることが好ましい。特に、酸化カリウムを含有したガラスが好ましい。化学的に不安定なアルカリ金属は、ガラス中に含有されていれば化学的に安定化するので取り扱いが容易になるからである。
【0017】
上記アルカリ金属供給物質は、上記密閉容器の少なくとも一部分であることが好ましい。点灯管の部材を減らすことができるからである。
【0018】
また、本発明の点灯管の製造方法は、熱応動素子を含む可動極及び上記可動極の対電極からなる1対の電極と、放電ガスとを密封容器の内部に備えた点灯管の製造方法である。すなわち、カリウムを含有したアルカリ金属供給物質を、上記1対の電極の少なくとも1つに含まれかつ鉄を含有した電子放出部に接触して配置して、上記1対の電極にパルス状の直流電圧を印加することによって、上記放電ガスを放電させながら、上記電子放出部を加熱して、上記アルカリ金属供給物質に含有されているカリウムを熱拡散させ、上記電子放出部に吸着させ、活性化させることにより、カリウムを吸着させた電極を含む点灯管を合理的に製造できる。
【0019】
以下、本発明の点灯管及びその製造方法の実施の形態について、図面を用いて説明する。なお、同じ部位は、同様の成分や形状を有し、同様の効果を奏するため、その説明を省略する場合がある。
【0020】
(実施形態1)
図1は、本発明の点灯管の一例を示す部分断面図である。
【0021】
本実施形態の点灯管1は、密閉された容器2の内部(容器内部8)に、電極(可動極)3と、上記可動極3と対をなす電極(対電極)4と、放電ガスとを備えている。
【0022】
容器2は、バルブ6、フレアステム7及び排気管9によって密閉されている。フレアステム7には、容器内部8に放電ガスを封入する際に使用される排気管9が、排気孔10を介して容器内部8に連通して接続されている。排気管9の一方の端部は、排気孔10でフレアステム7に接着され、もう一方の端部は塞がれている。また、容器2の電極3、4が封装されている側の端部を覆うように、口金5が取り付けられ、電極3、4と電気的に接続されている。
【0023】
電極3は、熱応動素子であるバイメタル素子14と、鉄を含有した電子放出部18を含む内部リード線13を備えている。また、電極4は、鉄を含有した電子放出部19を含む内部リード線15を備えている。
【0024】
電子放出部18、19は、カリウムを含有したフレアステム7に接触して、固定されている。また、電極3、4にパルス状の直流電圧を印加することによって、電子放出部18、19は活性化されている。
【0025】
本実施形態の点灯管1は、上述のような構成にすることによって、暗所始動遅れ時間を短縮できる。点灯管1は、仕事関数が小さくて活性化された電子放出部18、19を含むので、例えば点灯管1を長時間暗所に保管しても、容易に電子を放出できる。
【0026】
フレアステム7の材料は、カリウムを含有したガラスであるが、電子放出部18、19に接触した表面にカリウムを含有したアルカリ金属供給物質を含む材料であれば、特に限定されない。
【0027】
フレアステム7の形状は、傘のような形であり、その裾部がバルブ6の開放側の端部に封着された構造であるが、この形状に特に限定されるものではない。
【0028】
バルブ6の材料は、上記放電及び加熱に耐えうる材料であれば、特に限定されないが、一般的にはガラス、樹脂等を用いればよい。
【0029】
バルブ6の形状は、一端部が閉塞した略円筒形であるが、この形状に特に限定されるものではない。
【0030】
放電ガスは、放電に適した気体であれば特に限定されないが、一般的にはヘリウム、ネオン、アルゴン及びキセノンから選ばれる1種の気体、これらの混合ガス等を用いればよい。特に、アルゴンガス、ネオンとアルゴンとの混合ガスが好適に用いられる。
【0031】
放電ガスの封入量は、放電を開始でき自続できれば特に限定されないが、容器内部8のガス圧を数kPa〜数100kPa、好ましくは1〜10kPaとすればよい。
【0032】
内部リード線13、15の材料は、鉄を含有したものであれば、特に限定されるものではなく、例えば鉄、鉄・ニッケル合金等を用いることができる。
【0033】
電子放出部18、19は、内部リード線13、15においてフレアステム7に接触した面、又はこの面を含む周辺部であるとも、内部リード線13、15の全体であるともいえる。このとき、電子放出部18、19の少なくとも一部表面が、放電ガスに接触していればよい。
【0034】
フレアステム7は、電子放出部18、19に接触した面、この面を含む周辺部、又はフレアステム7の全体が、カリウムを含有したアルカリ金属供給物質であるといえる。
【0035】
上記パルス状の直流電圧の印加は、電極3、4が短絡しない条件、すなわちバイメタル素子14が可動しない条件で印加すれば、電圧(ピーク電圧及び最低電圧等)の大きさ、休止期間、パルス幅等に特に限定されない。また、上記パルス状の直流電圧は特に限定されず、正弦波を制御したものであっても矩形波を制御したものであってもよいが、正弦波をカットオフして制御したもの(例えば、1秒間に2回放電するように制御したもの)であれば、容易に制御できるので好ましい。また、一般的な交流電圧(例えば60Hz、0.2kV)を昇圧トランスで昇圧したものであれば、安価なので好ましい。
【0036】
上記パルス状の直流電圧の印加は、例えば、電極3、4の片方ずつを陰極として、ピーク電圧0.2kV〜1.0kV、最低電圧0kV〜0.2kV、パルス繰り返し周期0.1回/秒〜10回/秒、パルス幅0.5ms(ミリ秒)〜10msの直流電圧を、0.1時間〜1.0時間印加することによって、電子放出部18、19をそれぞれ活性化させることができる。特に、ピーク電圧0.6kV〜0.8kV、最低電圧0kV〜0.1kV、パルス繰り返し周期1.0回/秒〜4.0回/秒、パルス幅1.0ms〜4.0msの直流電圧を印加することが好ましい。
【0037】
上記ピーク電圧は、1.0kVを超えると感電等の安全性に問題があり、0.2kV未満であると放電を開始しないことがある。また、上記ピーク電圧が0.6kV〜0.8kVであれば、ピーク電圧が高すぎると起きる、例えば内部リード線13、15のフレアステム7周辺だけが局所的に放電する等の異常放電が発生せず、電子放出部18、19を効率よく活性化させることができるので、より好ましい。
【0038】
上記パルス幅は、10msを超えると発生する熱量が多く、バイメタル素子14が可動することがあり、0.5ms未満であると通電周期を短くしなければならないので、例えば放電しない時がある等の損失が発生することがある。また、上記パルス幅が0.5ms〜6.0ms、より好ましくは1.0ms〜4.0msであれば、バイメタル素子14を可動させることなく、電子放出部18、19を効率よく活性化させることができる。
【0039】
また、電極間に生じる放電による通電周期(発光周期)が、0.5回/秒〜6回/秒、好ましくは1.0回/秒〜4.0回/秒となるように上記パルス状の直流電圧を制御すれば、発生する熱量が少ないのでバイメタル素子14は可動せず、かつ電子放出部18、19をより短時間で効率よく活性化させることができる。
【0040】
ここで、電子放出部18、19を活性化させる方法について説明する。
【0041】
放電ガスが密閉された容器内部8で、電極3と電極4との間に電極4を陰極として電圧を印加すると、電極間で放電が生じる。このとき、陰極となる電極4へ向かって加速する放電ガス中のイオンによって、電子放出部19の表面の不純物が叩き出されるので、電子放出部19の表面は清浄化される。また、上記電圧を印加すれば、アルカリ金属供給物質であるフレアステム7は加熱され、アルカリ金属が熱拡散する。そのため、浄化された電子放出部19のフレアステム7に接触した表面にアルカリ金属が吸着されて、電子放出部19の仕事関数(1つの電子を金属から引き出すのに必要な最少のエネルギー)が低下する。仕事関数の低い部分からは電子が放出されやすいので、電子放出部19は活性化されたこととなる。同様に、電極3を陰極として電圧を印加すると、電子放出部18の仕事関数が低下して、活性化されたこととなる。
【0042】
このようにして得られた点灯管は、点灯管を始動する際に、電極3、4の初期電子の供給量が増加するので、短時間で始動させることができ、暗所始動遅れ時間も短縮できる。
【0043】
一般的には、点灯管に直流電圧、例えば一定の電圧を連続印加しても、電子放出部18、19にアルカリ金属が十分に吸着する前に、バイメタル素子14が内部リード線15に接触することによって電極間が短絡し、放電が停止してしまうので、電子放出部18、19は活性化されない。また、交流電圧を印加しても、同様に電極間が短絡するので、電子放出部18、19は活性化されない。しかし、パルス状の直流電圧を印加することによって、電子放出部18、19を短時間で活性化させることができる。
【0044】
ここで、点灯管1を使用して蛍光灯(図示せず)を点灯させる際の点灯管1の動作について説明する。
【0045】
点灯管1の電極3、4に所定の電圧が印加されると、電極間にグロー放電が生じる。このグロー放電の熱によって、バイメタル素子14が変形、すなわち電極3が可動して、電極4に接触する。短絡電流が流れて蛍光ランプのフィラメント電極(不図示)が予熱される。電極3、4同士が接触すると、短絡電流が流れ、グロー放電が停止する。しかし、短絡電流が流れれば、バイメタル素子14は次第に冷却されるので、元の形状に変形、すなわち電極3が可動して、電極4から離れ、短絡電流も停止する。その際にパルス電圧が生じて、蛍光ランプ内に放電が生じ、蛍光ランプは点灯する。
【0046】
すなわち、本発明に関する電子放出部18、19は、点灯管1にグロー放電を開始させるための初期電子を多く放出できるものである。
【0047】
本実施形態の点灯管1において、上記電子放出部18、19の表面は、上記電圧の印加によってフレアステム7から供給されたカリウムが吸着していることが好ましい。電極3、4は、カリウムが吸着している電子放出部18、19において、より仕事関数が低下するからである。
【0048】
本実施形態の点灯管1において、電極3、4に印加される上記パルス状の直流電圧は、休止期間を有することが好ましい。点灯管1に高い電圧をかけると、すぐに可動極3の温度が急に上がり、バイメタル素子14が可動して短絡するからである。
【0049】
本実施形態の点灯管1において、電子放出部18、19は、フレアステム7に接触した表面に、鉄及び鉄を含む合金から選ばれる少なくとも1つの金属を含有することが好ましい。電子放出部18、19の仕事関数は、鉄を含有した電子放出部の表面において、より低下するからである。
【0050】
本実施形態の点灯管1において、フレアステム7は、アルカリ金属酸化物を含有したガラスが好ましく、特に酸化カリウムを含有したガラスが好ましい。化学的に不安定なアルカリ金属は、ガラス中に含有されていれば化学的に安定化するので、取り扱いが容易になる。また、上記ガラスから供給されるアルカリ金属は、このガラス中ではイオンとして存在し、特にカリウムは、パルス状の直流電圧を印加した際、カリウムイオンが表面拡散し、鉄系金属表面に吸着して電子放出能力の優れた電子放出部を形成しやすい性質を有するからである。上記ガラスは、金属である電極との密着性に優れるという効果もある。上記ガラスは、放電管に一般的に用いられるガラスであればよく、例えばK2O、SiO2、Na2O、Li2O、Al23、Fe23等を適宜組み合わせて用いればよい。特に、カリウムを1重量%〜20重量%含有するガラスが好ましい。
【0051】
本実施形態の点灯管1において、アルカリ金属供給物質は、上記密閉容器の少なくとも一部分を構成していることが好ましい。点灯管の部材を減らすことができるからである。
【0052】
本実施形態では、対電極4として、固定極を用いたが、可動極であってもよい。すなわち1対の電極は、一方が可動極であっても両方が可動極であってもよい。
【0053】
本実施形態では、電子放出部18、19を、鉄を含む金属である内部リード線13、15の少なくとも一部分に設けたが、容器内部8で電極と電気的に接続されていて、アルカリ金属供給物質に接触していれば、特に限定されるものではない。例えば、電極として最適な他の金属材料の表面の一部を鉄で覆った部分や、鉄を含む金属であるリード線の表面を他の金属で覆い、その一部を剥離して鉄を露出させた部分に、電子放出部を設けてもよい。また、一方の電極のみに電子放出部を設けてもよい。なお、アルカリ金属供給物質が電子放出部18、19に接触していなくて活性化させることは可能であるが、接触していれば、アルカリ金属供給物質から供給されるカリウムが吸着されやすい。
【0054】
本実施形態では、フレアステム7をアルカリ金属供給物質として併用したが、アルカリ金属供給物質は、カリウムを含有し、電子放出部18、19に接触していればこの形状等に特に限定されるものではない。例えば、内部リード線上(又はバイメタル素子上)の電子放出部に接触させた、フレアステムとは別の部材であってもよい。
【0055】
(実施形態2)
図2は、本発明の点灯管のステム部の製造方法の一例を説明する図である。
【0056】
本実施形態の点灯管の製造方法は、まず、図2Aに示すように、フレアガラス16の小開口16aに内部リード線13、15を、フレアガラス16の開口16bに細管17を挿入する。次に、図2Bに示すように、フレアガラス16の上部(小開口16a側)に、内部リード線13、15及び細管17を固定して、ステム部20を得る。
【0057】
次に、図1に示すように、内部リード線13のフレアガラス16に固定されていない側の端部に、バイメタル素子14を接続する。また、ステム部20と、バルブ6とを気密密着して、フレアステム7(図2においてフレアガラス16)と排気管9(図2において細管17)とバルブ6とから構成される容器2を形成する。排気管9から、容器2の内部の空気を排気して、放電ガスを吹き込み、排気管9の端部を溶封して、容器2を密閉する。内部リード線13及びバイメタル素子14から構成される電極(可動極)3、内部リード線15から構成される電極(対電極)4と、それぞれ電気的に接続した口金5を容器2に取り付ける。
【0058】
最後に、電極3、4にパルス状の直流電圧を印加することによって、電子放出部18、19を活性化させて点灯管1を完成する。
【0059】
フレアガラス16は、例えば傘のような形状であり、傘の裾にあたる開口16bと、傘の上部に2ヶ所の小開口16aとを含めばよい。
【0060】
内部リード線13、15には、外部リード線11、12が導通接続されている。また、内部リード線15は、内部リード線13より長尺であればよい。
【0061】
上記小開口16aに内部リード線13、15を挿入する際には、外部リード線11、12は、フレアガラス16の内表面側から開口16bを通って外部に出るように配置すればよい。
【0062】
上記内部リード線13、15及び細管17をフレアステム7に固定する際には、フレアガラス16の上部(小開口16a側)を、例えば外部から加熱しながら圧潰して、内部リード線13、15及び細管17をフレアガラス16に封装すればよい。フレアガラス16の上部を外側から圧潰することによって、内部リード線13、15と、細管17とを、フレアガラス16に密着できる。また、上記圧潰する際には、フレアガラス16の外部にある細管17の端部から、フレアガラス16の内側の端部へ、エアを吹き込み、軟化しているフレアガラス16の側面の一部をエアで吹き破って、排気孔10を形成すればよい。排気孔10によって、細管17は、その管口が塞がれることなくフレアガラス16に接着させることができる。
【0063】
上記ステム部20とバルブ6との気密密着では、例えばバルブ6の有底の略円筒形の縁部と、フレアガラス16の開口16bとを、加熱して密着すればよい。このときバルブ6の内表面側、すなわち容器2の内部には、内部リード線13とバイメタル素子14から構成される電極3と、内部リード線15から構成される電極4とを配置すればよい。
【0064】
電極3、4は、口金5と外部リード線11、12とを接続することによって、容器2の外部と電気的に接続可能とすればよい。
【0065】
本実施形態の点灯管1の製造方法は、フレアステム7から供給されるカリウムを吸着して活性化された電子放出部18、19を含む点灯管を容易に製造できる。
【実施例】
【0066】
以下、実施例を用いて本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0067】
(実施例1)
まず、フレアガラスとして、鉛ガラス(K2O:4.7重量%、SiO2:57.5重量%、PbO:29.0重量%、Al23:1.0重量%、Na2O:7.8重量%)を、上部に開口を有するフレア状に形成した。外部リード線としてジュメット線が接続された内部リード線(鉄:50重量%、ニッケル:50重量%)を2本と、ガラス製の細管とを準備した。次に、図2に示したように、フレアガラスに内部リード線及び細管を、加熱しながら圧潰することによって、固定した。また、図1に示したように、一方の内部リード線の端部に、バイメタル素子(高膨張側:鉄70重量%−ニッケル25重量%−マンガン5重量%、低膨張側:鉄64重量%−ニッケル36重量%)を接続した。そして、上記フレアガラスと、ガラス製のバルブとを気密密着した。
【0068】
このようにして、フレアステム(上述のフレアガラス)と排気管(上述の細管)とバルブとから構成され、内部に可動極と固定極からなる1対の電極を含む容器を形成した。次に、排気管を用いて、容器の内部の空気を排気して、放電ガス(ネオン:95体積%、アルゴン:5体積%)を吹き込んだ。このとき、容器内部のガス圧は、5.3kPaとした。排気管のフレアステムに接続されていない端部を溶封して、容器を密閉した。口金に2本の外部リード線をそれぞれ電気的に接続してから、容器に口金を取り付けた。
【0069】
最後に、口金を介して電極に、休止期間を有するパルス状の直流電圧(ピーク電圧:0.8kV、最低電圧:0kV、パルス幅:3ms、パルス繰り返し周期:2回/秒)を0.5時間印加することによって、電極のフレアステムと接触した表面を活性化させて、本実施例の点灯管を完成した。なお、上記直流電圧は、可動極と固定極とを交互に陰極として印加した。
【0070】
(比較例1)
本比較例の点灯管は、内部リード線としてニッケルメッキ線を用いたことと、パルス状の直流電圧を印加しなかったこと以外は、実施例1の点灯管と同様に製造した。
【0071】
(比較例2)
本比較例の点灯管は、パルス状の直流電圧を印加しなかったこと以外は、実施例1の点灯管と同様に製造した。
【0072】
(元素分析)
実施例1、比較例2の点灯管における固定極の一部表面(図1において位置a)について、オージェ電子分光法を用いて、元素分析した。なお、固定極とフレアステムとの接触面から位置aの高さは2mmである。
【0073】
分析の結果、実施例1の点灯管については、位置aからカリウムが検出された。しかし、比較例2の点灯管については、位置aからカリウムが検出されなかった。従って、パルス状の直流電圧を印加した実施例1の点灯管の電極は、フレアステムに含まれるカリウムが表面に十分吸着しているが、パルス状の直流電圧を印加していない比較例2の点灯管の電極は、カリウムが表面に吸着していないことが確認された。
【0074】
(暗所始動実験)
実施例1、比較例1、2の点灯管をそれぞれ5個ずつ用意して、点灯管の暗所始動遅れ時間を比較した。
【0075】
この実験では、まず、点滅回数が0回の各点灯管を、暗所に15時間放置した後に、蛍光ランプ(電力:30W)に接続して、通電してからグロー放電するまでの時間(放電遅れ時間)及び通電してから蛍光ランプが点灯するまでの時間(点灯所要時間)を測定した。次に、各点灯管を6000回点滅させて、暗所に15時間放置した後に、同じ蛍光ランプに接続して、放電遅れ時間及び点灯所要時間を測定した。表1に上記放電遅れ時間の測定結果を、表2に上記点灯所要時間の測定結果を示した。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

【0078】
表1及び表2に示すように、実施例1の各点灯管は、点灯回数が0回のときも6000回のときも、放電遅れ時間が0.1秒以内、点灯所要時間が4秒以内であった。
【0079】
一方、比較例1の点灯管は、点滅0回の場合に放電遅れ時間が1秒以上の点灯管が3個、点灯所要時間が10秒以上の点灯管が3個であった。また、6000回点滅させた場合に、放電遅れ時間が1秒以上の点灯管が4個、点灯所要時間が10秒以上の点灯管が2個であった。従って、比較例1の従来用いられている点灯管よりも、実施例1の点灯管は、優れた暗所始動特性を示すことがわかった。
【0080】
また、比較例2の点灯管は、6000回点滅させたときに、放電遅れ時間が1秒以上の点灯管が2個、点灯所要時間が10秒以上の点灯管が1個と蛍光ランプを点灯させることができなかった点灯管が1個であった。従って、鉄を含有した内部リード線とカリウムを含有したフレアステムとは接触しているが、パルス状の直流電圧を印加していない比較例2の点灯管よりも、パルス状の直流電圧を印加した実施例1の点灯管は、優れた暗所始動特性を示すことがわかった。
【0081】
なお、JIS規格C7603で規定されている耐久性試験の判定基準で、点灯管の寿命点滅回数は6000回と設定されているので、本実施例の点灯管は、放射性物質を使用しなくても、十分な暗所始動特性を維持できる点灯管であるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
以上説明したように、本発明は、放射性物質を使用しないで容易に電子放出させることができ、暗所始動遅れ時間の短い点灯管及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の点灯管の一例を示す部分断面図である。
【図2】本発明の点灯管のステム部の製造方法の一例を説明する図である。
【符号の説明】
【0084】
1 点灯管
2 容器
3 電極(可動極)
4 電極(対電極)
5 口金
6 バルブ
7 フレアステム
8 容器内部
9 排気管
10 排気孔
11、12 外部リード線
13、15 内部リード線
14 バイメタル素子
16 フレアガラス
16a 小開口
16b 開口
17 細管
18、19 電子放出部
20 ステム部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱応動素子を含む可動極及び前記可動極の対電極からなる1対の電極と、放電ガスとを、密閉容器の内部に備えた点灯管であって、
前記1対の電極の少なくとも1つは、鉄を含有した電子放出部を含み、
前記電子放出部は、カリウムを含有したアルカリ金属供給物質に接触していて、前記1対の電極にパルス状の直流電圧を印加することによって活性化されていることを特徴とする点灯管。
【請求項2】
前記電子放出部の表面は、前記電圧の印加によって前記アルカリ金属供給物質から供給されたカリウムが吸着している請求項1に記載の点灯管。
【請求項3】
前記パルス状の直流電圧は、休止期間を有する請求項1に記載の点灯管。
【請求項4】
前記電子放出部は、前記アルカリ金属供給物質に接触した表面に、鉄及び鉄を含む合金から選ばれる少なくとも1つの金属を含有する請求項1に記載の点灯管。
【請求項5】
前記アルカリ金属供給物質は、アルカリ金属酸化物を含有したガラスである請求項1に記載の点灯管。
【請求項6】
前記アルカリ金属供給物質は、前記密閉容器の少なくとも一部分を構成する請求項1に記載の点灯管。
【請求項7】
熱応動素子を含む可動極及び前記可動極の対電極からなる1対の電極と、放電ガスとを密封容器の内部に備えた点灯管の製造方法であって、
カリウムを含有したアルカリ金属供給物質を、前記1対の電極の少なくとも1つに含まれかつ鉄を含有した電子放出部に接触して配置して、
前記1対の電極にパルス状の直流電圧を印加することによって、前記放電ガスを放電させながら、前記電子放出部を加熱して、
前記アルカリ金属供給物質に含有されているカリウムを、前記電子放出部に吸着させることを特徴とする点灯管の製造方法。
【請求項8】
前記パルス状の直流電圧は、休止期間を有する請求項7に記載の点灯管の製造方法。
【請求項9】
前記電子放出部は、前記アルカリ金属供給物質に接触した表面に、鉄及び鉄を含む合金から選ばれる少なくとも1つの金属を含有する請求項7に記載の点灯管の製造方法。
【請求項10】
前記アルカリ金属供給物質は、アルカリ金属酸化物を含有したガラスである請求項7に記載の点灯管の製造方法。
【請求項11】
前記アルカリ金属供給物質は、前記密閉容器の少なくとも一部分を構成する請求項7に記載の点灯管の製造方法。

【図1】
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【図2】
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