説明

無人飛行船の地上運用方法及びその設備

【課題】本発明は、無人飛行船において、エンベロープヘのヘリウム充填から充填後の船体の取回し、及び発進に至るまでの作業を自動化することにより、飛行船の運用において最大の課題である地上運用の省力化を達成して無人飛行船の利用拡大を図るものである。
【解決手段】本発明に係る無人飛行船の地上運用設備は、キャリアが取付けられた脚部を備えた台車は、回転軸によって傾斜可能な回転台を備え、該回転台はその収納部にヘリウムボンベを、その天面板にはヘリウムガス充填接続手段とエンベロープ固定用のロック機構とを備え、前記天面板にはエンベロープがヘリウムを抜いた状態で折り畳まれ、載置されたものとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無人飛行船の地上運用、発進、回収を省力化するための地上運用方法と、その設備に関する。
【背景技術】
【0002】
飛行船といえば搭載が必要な器材や乗員そして運搬する物資等を上空に浮上させるだけのヘリウムガス量を満たすエンベロープが必要であり、その形状は一般の航空機とは比べものにならない大きさとなる。現在その利用法は宣伝広告が主であり、他に観光ツアーなどである。因みに、世界最大の飛行船であるツェッペリンNT号は全長 75.0m 、最大幅 19.5m、高さ 17.4m 、エンベロープ容積 8,225mというジャンボジェット機を遙かにしのぐ大きさである。従来の有人飛行船ではなく、無人の飛行船であれば必ずしもこの様な大きさは必要ではなく、小型のものも実現可能であり、機材を搭載して航空写真やリモートセンシング、災害時の情報収集などを初めとして広い分野での利用が見込まれる。とはいえ、動力装置とそれを地上からの遠隔操作で制御し、離陸、移動、着陸を実行させるシステムの他、ミッションに必要なタスクを実行する器材を搭載する必要があるので、屋外で使用するには全長8m以上の大きさとなり無人小型航空機程の大きさというわけにはいかない。従って地上における運用の難しさが伴うが、これは基本的には飛行船が一般航空機に比べその容積が非常に大きいことに起因するものであり、現状ではエンベロープヘのヘリウム充填(インフレーション)、充填後の船体の取回し及び発進に至るまで、その作業をこなすために多数の要員が必要となる。また、不使用時に飛行船を格納しておくスペースの問題等もある。
【0003】
特許文献1には有人飛行船について飛行船本体を工夫して、乗員による操作でこれを行う発明が提案されている。この発明は広大な敷地面積を必要とせず離着陸が行える飛行船を提供することを目的としたもので、ゴンドラと、前記ゴンドラの上に設けられた支軸と、前記支軸を中心軸にして回転移動可能な飛行船構成物とからなる飛行船である。離陸直後は空中で前記支軸を中心軸にして前記飛行船構成物を回転移動させ、前記飛行船構成物の機軸が地面に平行になるようにして所望の位置で固定することができ、また着陸直前は空中で前記支軸を中心軸にして前記飛行船構成物を回転移動させ、前記飛行船構成物の機軸が地面に垂直になるようにして所望の位置で固定することにより前記飛行船の形状を変化させることができる形状変化手段を有し、これらの上記形状変化手段を利用して離陸および着陸を行えることを特徴とする。そして、上記の動作はゴンドラ内の乗員によって操作されることが想定されている。
一方小型の無人飛行船の場合は、無人であるために地上設備側で離陸・着陸の操作をしなければならない。現在無人飛行船は主に宣伝用に用いられているが、飛行場所まで運搬し、ヘリウムを充填して飛行させ、再び回収する地上運用作業は非常に煩雑で、かつ人手を多く必要としている。なるべく人手を掛けないで実行できる技術の開発、更に省力化が可能な技術を開発することが強く求められているところである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、無人飛行船において、エンベロープヘのヘリウム充填から充填後の船体の取回し、及び発進に至るまでの作業と、その逆である着陸からヘリウム回収及び保管までを自動化することにより、飛行船の運用において最大の課題である地上運用の省力化を達成して無人飛行船の利用拡大を図るものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る無人飛行船の地上運用設備は、キャリアが取付けられた脚部を備えた台車は、回転軸によって傾斜可能な回転台を備え、該回転台はその収納部にヘリウムボンベを、その天面板にはヘリウムガス充填接続手段とエンベロープ固定用のロック機構とを備え、前記天面板にはエンベロープがヘリウムを抜いた状態で折り畳まれ、載置されたものとした。
また、そのロック機構は遠隔操作で解錠できる機能を備えたものとし、回転台の収納部には電源供給システムをはじめ必要備品が備えられたものとした。
【0006】
本発明に係る無人飛行船の離陸時の地上運用方法は、台車上にヘリウムを抜いた状態で折り畳まれ、載置された状態のエンベロープを離陸地点で広げるステップと、広げられたエンベロープに前記台車に設置されたボンベからヘリウムガスを注入して飛行船の船体を形成するステップと、前記船体を前記台車の軸を中心に傾斜させるステップと、前記船体を前記台車に固定していたロック機構を解錠することにより、飛行船を該台車と分離させ離陸させるステップとを踏むものとした。
本発明に係る無人飛行船の着陸時の地上運用方法は、着陸地点に台車を設置すると共に、飛行船を着陸地点まで誘導するステップと、船体の取付け部材を前記台車のロック機構に取付け鎖錠するステップと、エンベロープ内のヘリウムガスを前記台車に設置されたボンベに回収するステップと、ヘリウムが抜かれしぼんだ状態のエンベロープを台車上に折り畳むステップとを踏むものとした。
【発明の効果】
【0007】
本発明の地上運用設備を用いた上記の方法によれば、今まで広いエリアで数人の要員を必要としていた発進・回収作業が、適当な広場などで随時可能になり、かつ要員が1人であっても使用可能である。また折り畳んだエンベロープ及び搭載品を全て台車上に積載したまま台車ごと移動が可能であるため、全体を小型の車輌等に搭載することで所望の場所へ運搬可能となり、発進・回収場所を選ばず、かつ短時間でこれが可能となる。
ヘリウムガス充填接続手段が台車上に備えられているので、台車上にエンベロープを積載したままヘリウムガスを容易に自動的に注入できる。また、使用後のヘリウムガスの回収も同様の形態で容易に実行できる。
【0008】
本発明に係る無人飛行船の地上運用設備は、キャリアが取付けられた脚部を備えた台車が、回転軸によって傾斜可能な回転台を備えているので、充填後の船体が自由に回転可能なように、台車上に軸で固定し、風に対して常に船体を対向させることで風の影響を避けることができる。また、発進時には、回転台を傾けることで船首を上げることができる。
また、本発明に係る無人飛行船の地上運用設備は、エンベロープ固定用のロック機構が遠隔操作で解錠できる機能を備えたものであるため、地上操作で船体をそのまま台車上から発進させることができる。
また、着陸時の操作は概ね上記の離陸時の操作の過程を逆に行うことで実行でき、無人飛行船の回収も人手を掛けることなく容易に可能となる。
さらに、本発明に係る無人飛行船の地上運用設備は、不使用時にはエンベロープを台車上にヘリウムを抜いた状態で折り畳んで載置する状態が採られるので、格納庫等のスペースを準備する必要がなく、強風などの時の安全も確保される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る無人飛行船の地上運用設備の全体構成の概略を示した図である。
【図2】本発明に係る無人飛行船のエンベロープを台車上に展開した状態を示した図である。
【図3】本発明に係る無人飛行船の地上運用設備の地上運用台車の正面図と側面図である。
【図4】本発明に係る無人飛行船の地上運用設備の地上運用台車の上面図と底面図である。
【図5】本発明に係る無人飛行船の地上運用設備による離陸手順を示したものである。
【図6】従来の有人飛行船の飛行船本体を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
現在使用されている無人飛行船は主として宣伝用であり、船首船尾間が18m級のものがほとんどであって、これ以上のものはほとんどない。本発明の飛行船もほぼこの大きさのものを想定して開発されている。以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
本発明による実施例を図1に示す。図1で1は本発明にかかる地上運用台車、2は飛行船の船体(エンベロープ2aと搭載品収納部2b、推進器2c等)である。エンベロープ2aのヘリウムガスは抜き取られ、しぼめられ折り畳まれて台車1の天板1a上に載置されている。これは不使用の収納時や運搬時の形態である。図2に船体2を拡げた様子を示す。使用に際し離陸地点でエンベロープ2aが拡げられた形態を示している。台車1の天板1aの下は収納部1bとなっており、そこに格納されているヘリウムガスボンベから、エンベロープ2aに対してヘリウムガスの充填を行うことができる。また、ヘリウムガスの回収装置も付いており、エンベロープ2aからヘリウムガスボンベへの回収も行われる。
【0011】
図3と図4は本発明の台車の基本構成を示したもので、図3Aは正面図、図3Bは側面図、そして図4Aは上面図、図4Bは底面図である。台車1にはキャリア(車)つきの脚部1cが取付けられており、移動並びに方向転換が可能である。天板1aにヘリウムガスの注入並びに回収のためにボンベとエンベロープ2aとを接続する接続装置(プラグ、ソケットのいずれか一方)1dと台車1と船体2を固定する補助ロック機構1eが配置されている。また、この天板1aは脚部1cの中心部にある可動軸1fを中心として一体構造の収納部1bと共に自由に回転できる形態が採られている。台車1上にある船体2は天板1aの回転によって、船首を上げたり下げたりの傾斜姿勢をとることができる。なおこの天板1aの回転はロックレバー1gでロックできる。
脚部1cは、無人飛行船を折り畳んだ状態で運搬・整備・保管する場合や、飛行船を係留する場合は5脚全てを使い、離着陸地点への移動や保管場所まで戻る場合は、中央部の1脚を延伸して運用する。残りの4脚は折りたたみ式になっており、台車の根元に収納できる機構となっている。また、収納部1bには開口扉1hがあり、上記のガスボンベ、回収装置の他、運用時に必要な備品や電源供給システムを収納できるようなっている。
【0012】
図3では接続装置1dとしてヘリウムガス充填用の接続口(プラグ)が設置された形態が示されている。このプラグと無人飛行船側のソケットはワンタッチで接続でき、かつロック機構も兼ね備えている。このロック機構は外部からの遠隔指令でアンロックすることができる。さらに補助ロック機構1eを2ヶ所設けており、強風時においても屋外で係留できるようになっている。
【0013】
図5は、離陸地点でこの台車1上から飛行船2を離陸する手順を示したものである。台車1に固定され、船首が風上を向くように台車1の方向を決めた状態でエンベロープにヘリウムガスを注入する。図5の上段はこの状態を描いている。次にロックレバー1gを操作して台車1の天板1aを回転可能な状態とし、飛行船2の機首が斜め上方に向くように前記台車1の天板1aを傾斜させ、所望角度に傾斜させたところでロックレバー1gを操作してロックし離陸角度を確保する。つづいて操作者は船体を離れ遠隔操作でロック機構を解錠する。飛行船2は台車1から分離されて上昇を始めると共に推進器2cの出力を上げ、その駆動により前進する。この推進器2cは飛行船の搭載品収納部2bの両サイドに1基ずつ配備されている。この様にして離陸がなされるもので、従来のように人海戦術でゴンドラを支えなくても良いシステムになっている。
【0014】
作業を終えて帰還した飛行船を回収する作業について説明する。着陸地点に台車を設置すると共に、推進器2cを制御して飛行船を着陸地点まで誘導して推進器により降下させる。要員1名が飛行船の底部にあるそりをキャッチして、そのまま回転台上に転置する。さらに船体の取付け部材、図3,4に示した実施形態のものでは無人飛行船側のソケットを台車の天板1aに設置されている接続口(プラグ)をワンタッチで接続して固定鎖錠する。また、補助ロック機構1eに船体側の対応する取付け部材を取付ける。続いてエンベロープ内の残留ヘリウムガスを前記台車に設置されたボンベに回収すると、ヘリウムが抜かれエンベロープ2aがしぼんだ状態となる。この状態のエンベロープ2aを台車の天板1a上に折り畳む。以上の作業工程によって着陸時の無人飛行船の地上運用がなされる。従来のように人手を掛けることなく、この作業は1人ででも十分実行することができる。
本発明の無人飛行船の地上運用方法及びその設備は、前述したように船首船尾間が18m級のものを想定して研究開発されたが、それより小型のものは勿論、20m級の飛行船にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明の無人飛行船の地上運用設備を用いればその扱いが極めて簡便に行えることから、航空写真撮影やリモートセンシング、災害時の情報収集などを初めとして広い分野での活躍が期待できる。
【符号の説明】
【0016】
1 台車 1a 天板
1b 収納部 1c 脚部
1d 接続装置 1e 補助ロック機構
1f 可動軸 1g ロックレバー
1h 開口扉 2 飛行船船体
2a エンベロープ 2b 搭載品収納部
2c 推進器
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2006−168731号公報 「飛行船」 平成18年6月29日公開

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリアが取付けられた脚部を備えた台車は、回転軸によって傾斜可能な回転台を備え、該回転台はその収納部にヘリウムボンベを、その天面板にはヘリウムガス充填接続手段とエンベロープ固定用のロック機構とを備え、前記天面板にはエンベロープがヘリウムを抜いた状態で折り畳まれ、載置されたものである無人飛行船の地上運用設備。
【請求項2】
ロック機構は遠隔操作で解錠できる機能を備えたものである請求項1に記載の無人飛行船の地上運用設備。
【請求項3】
回転台の収納部には電源供給システムをはじめ必要備品が備えられたものである請求項1または2に記載の無人飛行船の地上運用設備。
【請求項4】
台車上にヘリウムを抜いた状態で折り畳まれ、載置された状態のエンベロープを離陸地点で広げるステップと、広げられたエンベロープに前記台車に設置されたボンベからヘリウムガスを注入して飛行船の船体を形成するステップと、前記船体を前記台車の軸を中心に傾斜させるステップと、前記船体を前記台車に固定していたロック機構を解錠することにより、飛行船を該台車と分離させ離陸させるステップとを踏む離陸時の無人飛行船の地上運用方法。
【請求項5】
着陸地点に台車を設置すると共に、飛行船を着陸地点まで誘導するステップと、船体の取付け部材を前記台車のロック機構に取付け鎖錠するステップと、エンベロープ内のヘリウムガスを前記台車に設置されたボンベに回収するステップと、ヘリウムが抜かれしぼんだ状態のエンベロープを台車上に折り畳むステップとを踏む着陸時の無人飛行船の地上運用方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−42258(P2011−42258A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−191866(P2009−191866)
【出願日】平成21年8月21日(2009.8.21)
【出願人】(503361400)独立行政法人 宇宙航空研究開発機構 (453)