説明

無指向性スピーカ装置

【課題】 設置のための占有床面積が小さい水平面無指向性の小型スピーカ装置を提供する。
【解決手段】 側面数がnの多角柱状の筐体の各側面にスピーカを取り付けた複数のスピーカ装置を垂直中心軸周りに180/nの角度でオフセットさせ、積み上げることにより、水平面の全周の位置において周波数成分のバランスに優れた水平面無指向性スピーカ装置の実現が可能となるとともに、該水平面無指向性スピーカ装置の設置床面積の縮小を図ることが可能となる。加えて、コーン型スピーカを平面型スピーカに置換することにより、さらなるスピーカボックスの小型化と設置面積の縮小化が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーディオシステムのマンマシンインタフェースであるスピーカ装置に関するもので、詳しくは、水平面内で無指向性の、且つ、省設置スペースのスピーカ装置の実現手段に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図1は従来技術による水平面無指向性スピーカ装置の従来例である。図1(a)は外観斜視図であり、図1(b)は図1(a)中に鎖線で示す切断線C−Cに沿って切断した横断面図、およびスピーカ装置の水平面の音響指向性をベクトル図により模式的に鎖線にて表わした指向特性図である。
【0003】
図1(b)中の4個のコーン型スピーカ2の内の1個について、コーン型スピーカ2から放音される音圧レベルの水平面指向特性をベクトル図により説明する。コーン型スピーカ2から放音される低周波数帯域の音声については、指向性が緩慢であり、コーン型スピーカ2から等距離の位置では、放音軸「X」上での音圧レベル、および放音軸「X」から角度を有する方向「Y」や「Z」の位置での音圧レベルに大差はない。
【0004】
しかしながら、3000Hzを超える中/高周波数帯域の音声では、図1(b)中に鎖線で示す指向特性図のごとく、放音軸「X」から角度を有する方向「Y」や「Z」での音圧レベルは、放音軸「X」から離れるに従い著しく音圧レベルが低下することを示している。換言すれば、図1(b)中に鎖線で示す指向特性図中の「Z」軸上では低音の音圧レベルは高いが、中/高周波数帯域の音声の音圧レベルが著しく低くなり、周波数成分バランスの悪い音声として認識される。さらに、放音軸「X」からの角度が大きくなる無指向性スピーカ装置1のコーナー方向では、特に高い周波数帯域の音声の音圧レベルが到達しない領域があり、無指向性スピーカ装置としては不充分な指向特性を示している。
【0005】
無指向性のスピーカ装置を実現する手段としては、球形の外表面、または多角柱状の筐体内の各側面にスピーカを配設する手段が適用されている。例としては、球形の外表面に多数のスピーカを配置設置する
【特許文献1】による手段、エンクロージャーの周側面を6面体とし、非隣接の3側面をスピーカ設置面とする
【特許文献2】による手段、あるいは6角筒状に形成したスピーカボックスを上下に積み重ねる
【特許文献3】による手段等が考案されている。
【0006】
無指向性のスピーカ装置を実現するための前述の各手段は、いずれも、多数のスピーカを収容するためのスピーカボックスの筐体寸法が大きくなり、したがって、大きな設置空間を必要とする欠点を有している。
【特許文献1】特開2001−8284 「球形及び円筒形スピーカ装置」
【特許文献2】実開平1−133894 「スピーカ装置」
【特許文献3】特開平11−155182 「スピーカシステム」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
水平面無指向性のスピーカ装置の従来例としては、多角柱状の筐体の各側面にスピーカを配設し、前記各スピーカの放音用開口部から放射状に放音させる技術手段が適用されてきた。しかしながら、スピーカ振動板の中心から外方に向かう放音軸は、スピーカを収容する筐体が有する側面数に限定されていた。このため、より優れた水平面無指向性のスピーカ装置を実現するには、多角柱状の筐体の側面数を多くするか、または、多角柱の面数を無限数とした円筒形状の筐体とし、多数のスピーカを該筐体の各側面に配設する手段により可能であるが、多角柱状の筐体の側面数を増加させることによりスピーカ装置の筐体寸法が大きくなり、スピーカ装置を設置するための占有床面積が大きくなる問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
無指向性スピーカ装置において、側面数がnの多角柱状の筐体の各側面にスピーカを取り付けた複数のスピーカ装置の垂直中心軸を共有し、前記各スピーカ装置を垂直中心軸回りに180/nの角度でオフセットさせ、積み上げることにより、スピーカ装置の設置床面積を大きくすることなく、スピーカからの放音軸を増加させることが可能となり、水平面指向性を大幅に改善することができる。
【0009】
前記の無指向性スピーカ装置において、上下にスピーカが配設されたスピーカ装置の筐体内部を上下に仕切らず、内部空間が一体の筐体とし、且つ、側面を垂直中心軸周りに捻れ構造を有する連続面で形成することにより、スピーカ装置の筐体内の共鳴箱容積を増加させることが可能となり、低周波数帯域の音声出力を強調するためのヘルムホルツ共鳴箱の原理を利用したバスレフ方式のスピーカ装置とした場合の強調効果を高めることが可能となり、さらには外観意匠面でも斬新な雰囲気を醸し出す水平面無指向性のスピーカ装置を実現することが出来る。
【0010】
前記の無指向性スピーカ装置において、多角柱状の筐体の側面数が多くない、例えば三角柱状の筐体内に、円錐状の振動板で構成される通常のコーン型スピーカを、内部空間が狭隘な該三角柱状の筐体内に収容する場合には、スピーカの構成要素で、スピーカの後端部に位置する永久磁石、マグネットヨークなどが相互に接近、またはぶつかり合い、狭隘な三角柱状の筐体内に収容することが不可能となる。
【0011】
このような場合には、円錐状の振動板を有するコーン型スピーカを、平面振動板を有する平面型スピーカに置換することにより、または、多角柱状の筐体の各側面へのスピーカの取り付け位置を、上下方向にオフセットさせることにより、狭隘な三角柱状の筐体内であっても、各側面に取り付け、筐体内に収容することが可能となり、無指向性スピーカ装置の筐体寸法の更なる小型化が可能となり、スピーカ装置を設置するための占有床面積を小さくすることが出来、省スペース効果をさらに高めることが出来る。
【発明の効果】
【0012】
多角柱状の筐体の各側面にスピーカを配設した複数個のスピーカ装置を垂直中心軸周りに角度をオフセットさせ、積み上げることにより、該スピーカ装置を設置するための占有床面積が小さな水平面無指向性スピーカ装置を実現することが出来る。
【0013】
また、上下にスピーカが配設されたスピーカ装置の筐体側面を垂直中心軸周りに捻り、且つ、一体の連続面で形成することにより、スピーカ装置の筐体内のスピーカ背面空間を共有することになり、低周波数帯域の音声出力を強調するためのヘルムホルツ共鳴箱の原理を利用したバスレフ方式のスピーカ装置に適用した場合の低周波数帯域の音声出力強調効果を高めることが可能となり、さらには外観意匠面でも斬新な雰囲気を醸し出す水平面無指向性のスピーカ装置を実現することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図2は、本発明による第1の実施例であり、図2(a)はスピーカ装置の筐体の4側面にコーン型スピーカ2を配設した四角柱状の下段スピーカ装置12、および下段スピーカ装置12と同一形状の上段スピーカ装置11は、垂直中心軸を共有し、載置され、且つ、下段スピーカ装置12、および上段スピーカ装置11の相互の角度が垂直中心軸周りに45度オフセットされた無指向性スピーカ装置の外観斜視図である。
【0015】
図2(b)は、図2(a)中に鎖線で示す切断線D−Dに沿って切断した横断面図である。図2(b)中には各コーン型スピーカ2から放音される中/高周波数帯域音声の指向特性を鎖線で模式的に示している。下段スピーカ装置12、および同一形状の上段スピーカ装置11の垂直中心軸を共有し、載置した結果、中/高周波数帯域音声の水平面指向性は、図2(b)中に鎖線で示すごとく、図1(b)における四角柱状の単体のスピーカ装置1による中/高周波数帯域音声の指向特性の隙間を埋めた特性を示し、上下2段に積み重ねたスピーカ装置12、およびスピーカ装置11からの水平面上における距離が等しい聴取位置においては、いずれの場所においても周波数成分のバランスが優れた同じ特性の音声を聴取することが出来る無指向性スピーカ装置を実現することが可能となる。
【0016】
また、図2の実施例において、上段スピーカ装置11と下段スピーカ装置12が回動自在に結合させ、クリック感を持たせる、または、係止できるような構造を設ける等により、45度のオフセット角度で位置決めして固定できるようにしても同様の効果を得られる。
【0017】
図3は、本発明の第1の実施例である図2に示す無指向性スピーカ装置に内蔵されたコーン型スピーカ2相互の結線図である。入力端子13に入力された駆動電圧により、上段スピーカ装置11に収容されたすべてのコーン型スピーカ2は同相駆動され、下段スピーカ装置12に収容されたすべてのコーン型スピーカも同様に同相駆動される。したがって、上下段のすべてのコーン型スピーカ2から放音される音圧の疎密関係は同相となる。
【0018】
図4は本発明の第2の実施例であるポール形スピーカ装置21を示し、図4(a)は外観斜視図、図4(b)は天面の俯瞰図、(c)は側面図である。4側面で構成されるポール型スピーカ装置21は、全側面の上下にコーン型スピーカ2が配設され、下部にはポール形スピーカ装置21を床上に設置するためのベーススタンド24を具備している。ポール型スピーカ装置21は、上下にコーン型スピーカ2が配設された側面が一体の連続した面で構成され、且つ、側面の上下に配設された各コーン型スピーカ2の中間位置で垂直中心軸周りに45度の角度で捻られ、上下捻れ部20を境とし、上部側面22、および下部側面23を形成している。
【0019】
本発明の第2の実施例では、4(b)に示すごとくポール型スピーカ装置21の内部空間につながる天面は大気空間に開放され、バスレフ方式スピーカ装置のバスレフポート25としての機能を果たしている。バスレフポート25からの放音軸は、ポール型スピーカ装置21周辺の聴取方向には向いていないが、バスレフポート25から出力される低周波数帯域の音声は、中/高周波数帯域の音声に比し、緩慢な指向性を示すため、実用上の問題はない。
【0020】
図5は本発明の比較例を示す。多角柱状のスピーカ装置の筐体側面の幅寸法が同一ならば、該側面により形成される多角柱状のスピーカ装置の筐体の内容積は三角柱状のスピーカ装置が最も小さく、図5(a)は三角柱状スピーカ装置31の外観斜視図を示している。図5(b)は図5(a)中に鎖線E−Eで示す切断線に沿って切断した横断面図である。コーン型スピーカ2は後部に永久磁石やマグネットヨークを要素部分として構成しており、図5(b)中に斜線で示す領域として示すごとく、前記コーン型スピーカ2を構成する要素部分が相互にぶつかり合い、コーン型スピーカ2を同一水平面上で三角柱状スピーカ装置31の全側面に配設することは不可能となる。
【0021】
上記問題に対応するために、本発明の第3の実施例として図6に示すごとく三角柱状スピーカ装置32の側面に取り付けるスピーカは、通常、多く使用されるコーン型スピーカ2に換え、静電気により平面振動板を駆動する平面スピーカ33とすることにより、内容積の小さな三角柱状スピーカ装置32の筐体内にも収容することが出来る。
【0022】
多角柱状のスピーカ装置の側面の幅寸法が同一ならば、内容積は三角柱状のスピーカ装置が最も小さく、コーン型スピーカ2は後部に永久磁石やマグネットヨークを要素部分として構成しており、図5(b)中に斜線で示す領域において、前記の要素部分がぶつかり合い、コーン型スピーカ2を同一水平面上で三角柱状スピーカ装置31の全側面に配設することは不可能である。この問題に対応するため、本発明の第4の実施例として図7(a)に示すごとく、三角柱状スピーカ装置34の各側面へのコーン型スピーカ2の取り付け位置を上下方向に順次オフセットさせる。
【0023】
詳細には、図7(b)の三角柱状スピーカ装置34の側面展開図に示すごとく、三角柱状スピーカ装置34の各側面へのコーン型スピーカ2の取り付け位置を上下方向に、順次オフセットさせることにより、図7(c)に示すごとく、各コーン型スピーカ2後部の永久磁石やマグネットヨークがぶつかり合うことなく、内容積の小さい三角柱状スピーカボックス34内の空間を有効に利用し、三角柱状スピーカボックス34を設置時の占有床面積の小さな小型の水平面無指向性スピーカ装置を実現することが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明では、多角柱状の筐体により構成された無指向性スピーカ装置を実施例として説明しているが、これに限定せず、多角柱状の筐体の側面数を無限数とした円筒形状、角錐状、円錐状、あるいは縦断面が台形など、多角柱から派生する筐体形状の何れを本発明のスピーカ装置の筐体に適用しても同様に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】(a)は四角柱状のスピーカボックスの全側面にスピーカを取り付けた無指向性スピーカ装置の実施例の外観斜視図、(b)は横断面図、および水平面指向特性である。
【図2】本発明の第1の実施例で、(a)は2段に積み重ねた四角柱状のスピーカボックスを垂直中心軸周りに45度、オフセットさせた外観斜視図、(b)は横断面図、及び水平面指向特性である。
【図3】図2に示す無指向性スピーカ装置内のスピーカの結線図である。
【図4】本発明の第2の実施例で、(a)は外観斜視図、(b)は天面図、(c)は側面図である。
【図5】(a)は三角柱状のスピーカボックスの全側面にコーン型スピーカを取り付けた無指向性スピーカ装置の外観斜視図、(b)は横断面図である。
【図6】本発明の第3の実施例で、(a)は図5に示すスピーカボックスに内蔵されるコーン型スピーカを平面型スピーカに置換した無指向性スピーカ装置の外観斜視図、(b)は横断面図である。
【図7】本発明の第4の実施例で、(a)は外観斜視図、(b)は側面展開図、(c)は(a)中に鎖線F−Fで示す切断線に沿って切断した横断面図である。
【符号の説明】
【0026】
1: スピーカ装置
2: コーン型スピーカ
11: 上段スピーカ装置
12: 下段スピーカ装置
13: 入力端子
20: 上下捻れ部
21: ポール型スピーカ装置
22: 上部側面
23: 下部側面
24: スタンドベース
25: バスレフポート
31: 三角柱状スピーカ装置
32: 三角柱状スピーカ装置
33: 平面スピーカ
34: 三角柱状スピーカ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無指向性スピーカ装置において、多角柱状の筐体の各側面にスピーカを取り付けた複数のスピーカボックスを垂直中心軸周りに所定角度オフセットした状態で積み上げたことを特徴とする無指向性スピーカ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の無指向性スピーカ装置において、横断面形状が矩形の筐体の各側面にスピーカを取り付けたスピーカボックスを2段に積み上げ、各スピーカボックスを垂直中心軸周りに45度オフセットさせたことを特徴とする無指向性スピーカ装置。
【請求項3】
請求項1、または請求項2に記載の無指向性スピーカ装置において、上下にスピーカが配設された側面を、垂直中心軸周りに捻られた連続面で形成したことを特徴とする無指向性スピーカ装置。
【請求項4】
請求項1、乃至請求項3のいずれかに記載の無指向性スピーカ装置において、筐体内に内蔵されるスピーカに平面型スピーカを適用したことを特徴とした無指向性スピーカ装置。
【請求項5】
請求項1、乃至請求項4のいずれかに記載の無指向性スピーカ装置において、多角柱状の筐体の各側面へのスピーカの取り付け位置を、上下方向にオフセットさせたことを特徴とした無指向性スピーカ装置。
【請求項6】
請求項1に記載の無指向性スピーカ装置において、各スピーカボックス間を回動自在に結合すると共に、前記所定角度にて位置決め可能にしたことを特徴とする無指向性スピーカ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−186778(P2006−186778A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−379337(P2004−379337)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】