説明

無杼織機における緯糸切断装置

【課題】刃体の寿命を延ばすことを可能とする緯糸切断装置を提供すること。
【解決手段】厚さ方向において隣接するように配置された板状の一対の刃体であって厚さ方向における両側面が平面に形成された一対の刃体と、各刃体を支持するために各刃体に対応して設けられた2つの支持体とを備え、前記一対の刃体が隣接側の側面における上下の両端縁のうちの切断側の端縁に形成された刃部を交差させることにより、両刃体の協働で緯入れされた緯糸の端部を切断する緯糸切断装置において、前記一対の刃体のうちの少なくとも一方は、前記両側面の上下の両端縁からなる4つの端縁のうちの少なくとも3つに刃部を有すると共に、該刃部の数に応じた複数の取付状態であって各刃部が他方の刃体における刃部と交差可能な位置となる複数の取付状態のそれぞれを選択できるように前記支持体に対する取付状態を変更可能に構成されていることを特徴とする緯糸切断装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無杼織機における緯糸切断装置、特に、厚さ方向において隣接するように配置された板状の固定刃及び可動刃からなる一対の刃体であって厚さ方向における両側面が平面に形成された一対の刃体と、各刃体を支持するために各刃体に対応して設けられた2つの支持体とを備え、前記一対の刃体が隣接側の側面における上下の両端縁のうちの切断側の端縁に形成された刃部を交差させることにより、両刃体の協働で緯入れされた緯糸を切断する緯糸切断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無杼織機においては、緯入れされた緯糸は、緯入れされて筬打ちされた後に、給糸側及び反給糸側、より詳しくは、給糸側の緯入れノズルと織端との間の位置、及び反給糸側の織端とキャッチコードあるいは糸端処理装置等の間の位置で切断される。従って、無杼織機は、給糸側及び反給糸側の上記位置に緯糸切断装置を備えている。
【0003】
一般的な前記緯糸切断装置は、厚さ方向において隣接するように配置された固定刃及び可動刃から成る一対の刃体を備え、両刃体を交差させることにより、両刃体の協働で緯糸を切断する。より詳しくは、各刃体は、板状の部材であって厚さ方向における両側面が平面に形成されると共に、隣接側の側面における上下の両端縁のうちの切断側の端縁(非切断時における他方の刃体に近い側の端縁)に刃部が形成されている。そして、この刃部間に緯糸が挿入されると共に、可動刃を回動等によって変位させて両刃部を交差させることにより緯糸が切断される。
【0004】
ところで、前記緯糸切断装置においては、緯糸を確実に切断するため、両刃体(固定刃及び可動刃)は、厚さ方向において僅かに交差するように配置される。そのため、両刃体における刃部は、緯糸を切断するための可動刃の変位(緯糸切断動作)に伴い、刃部の長手方向に当接位置をずらしながら互いに摺接する。
【0005】
その結果、緯糸切断装置では、前記緯糸切断動作毎における両刃部の摺接に起因して両刃部が摩耗してしまうため、時間の経過に伴って切れ味が低下してしまう。そして、刃体(刃部)の切れ味が低下すると、緯糸の切断ミスが発生して製織不良を招く虞が生じるため、従来においては、ある程度刃部の摩耗が進行した段階で、刃体自体を新しいものに取り替えられることを行っている。この場合、特に給糸側の緯糸切断装置では、緯入れ毎に緯糸切断動作が行われるため、刃部の摩耗の進行が早く、頻繁に刃体の交換を行わなければならないのが現状である。
【0006】
前記のような刃体の交換頻度を下げる従来技術として、特許文献1に開示された緯糸切断装置がある。この特許文献1に開示された緯糸切断装置では、一対の刃体のうち少なくとも一方の取付位置を刃線方向に変更可能に構成し、取付位置を変更することによって刃部における他方の刃体の刃部との交差位置を変更することにより、刃部の一部が摩耗してもその刃部の他の部分で緯糸を切断するように使用することで、刃体自体の使用寿命を延ばそうとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−328398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、前記特許文献1に記載の緯糸切断装置は、刃体の刃線方向に複数の切断箇所を設定すると共に各切断箇所に応じた取付位置をとり得るものであるため、その刃体は、切断箇所をより多く設定しようとすると、必然的にその長さ寸法(刃線方向における寸法)が長いものとなってしまう。なお、刃体の長さ寸法が長くなると、それに伴って刃体が厚さ方向に撓み易いものとなる。その場合、製織中において織機の振動の影響を受け易くなり、場合によっては刃体に撓みが生じてしまう。そして、その撓みが厚さ方向における交差角度を大きくする方向へ生じた場合は、刃部同士の摺動抵抗が大きくなり、切断に要する力が大きくなるほか、刃部の摩耗を早め、刃体の寿命をより一層縮めてしまう。逆に、上記撓みが上記交差角度を小さくする方向へ生じた場合には、刃部同士の刃間に隙間が生じ、これにより緯糸が逃げ、緯糸の切断ミスが生じ易くなる。
【0009】
特に、特許文献1の緯糸切断装置では、刃線上における緯糸の切断位置(緯糸との係合位置)の摩耗を解決課題とし、緯糸の切断位置を刃線方向にずらすという解決手段を採用しているものであるが、前述のように、刃体における刃部の摩耗は、緯糸の切断位置に限らず、緯糸切断動作に伴う両刃体の刃部の摺接範囲に亘って生じるものである。従って、刃体を刃線方向にずらすという構成で摩耗位置での切断を回避することを考えた場合、その摺接範囲全体を考慮して刃体の長さ寸法を決定しなければならないため、切断箇所を増やすことに伴い、刃体の長さ寸法は非常に長いものとなってしまう。
【0010】
なお、特許文献1に記載の緯糸切断装置では、刃体の長さ寸法とほぼ同じ長さの取付領域を有する支持体を採用している。この構成によれば、前記の刃体の撓みは低減できるものの、支持体の構成を刃体の刃線方向に大きいものとしなければならないため装置全体が大型化するとともに、その製造コストが増加してしまう。
【0011】
本発明は、前記実情を考慮して創作されたものであり、その課題は、刃体の取付位置を刃線方向に移動させることに依存することなく刃体における切断箇所を増やして刃体の寿命を延ばすことを可能とする緯糸切断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、厚さ方向において隣接するように配置された板状の一対の刃体であって厚さ方向における両側面が平面に形成された一対の刃体と、各刃体を支持するために各刃体に対応して設けられた2つの支持体とを備え、前記一対の刃体が隣接側の側面における上下の両端縁のうちの切断側の端縁に形成された刃部を交差させることにより、両刃体の協働で緯入れされた緯糸の端部を切断する緯糸切断装置を前提とする。
【0013】
そして、前記緯糸切断装置における本発明による緯糸切断装置は、前記一対の刃体のうちの少なくとも一方は、前記両側面の上下の両端縁からなる4つの端縁のうちの少なくとも3つに刃部を有すると共に、該刃部の数に応じた複数の取付状態であって各刃部が他方の刃体における刃部と交差可能な位置となる複数の取付状態のそれぞれを選択できるように前記支持体に対する取付状態を変更可能に構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、緯糸切断装置における一対の刃体の内の少なくとも一方に関して、その刃体が、両側面における上下の両端縁からなる4つの端縁のうちの少なくとも3つに刃部を有するとともに、その刃部の数に応じた複数の取付状態であって各刃部が他方の刃体における刃部と交差可能な位置となる複数の取付状態のそれぞれを選択できるようにすることで、同じ長さ寸法の刃体に対し、より多くの切断箇所を設定することができる。それにより、製織中における織機の振動による影響を軽減しつつも、刃体の寿命を延ばすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】緯糸切断装置における要部の説明図であり、(a)は正面図で、(b)は平面図である。
【図2】図1の緯糸切断装置における固定刃と可動刃の各刃部同士が当接した際の説明図であり、(a)は正面図で、(b)はA−A断面図である。
【図3】空気噴射式織機の給糸側における緯入れノズルと織端との間に設置された図1の緯糸切断装置及びその設置位置となる給糸側の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の一実施形態について、図1〜3に基づいて説明する。
【0017】
図3に示すのは、本発明の緯糸切断装置1が適用される無杼織機(例えば、空気噴射式織機、又は水噴射式織機)7における緯入れノズル71の周辺部分であって、図示の例では、緯入れノズル71と給糸側の織端との間で緯入れされた緯糸72を切断する給糸カッタに本発明の緯糸切断装置1を用いたものである。また、図1、2に示すように、本実施例の緯糸切断装置1は、一対の刃体11のうちの一方(図示の例では、下側)が位置を固定された固定刃2として設けられ、他方が固定刃2に向けて回転駆動される可動刃3として設けられているものとする。なお、以下の説明では、経糸の延在方向を経糸方向という。
【0018】
図1に示すように、緯糸切断装置1は、前記した固定刃2及び可動刃3と、固定刃2及び可動刃3のそれぞれを支持する固定刃用支持体4及び可動刃用支持体5とをその要部として備えている。
【0019】
図示の例では、固定刃2は、側方から見て矩形の板状の部材であり、経糸方向(刃線方向)に沿って等間隔に形成された厚さ方向に貫通する3つの皿ネジ用通し孔25、26、27を有している。そして、この皿ネジ用通し孔25、26、27のうちの2つに挿通される皿ネジ46により、固定刃用支持体4に固定される。
【0020】
固定刃用支持体4は、緯糸切断装置1が織機7に設置された状態で経糸方向に延在する板状の部材であり、その経糸方向における一端側に、固定刃2の隣合う皿ネジ用通し孔と同じ間隔で形成された2つのネジ通し孔41、42を有している。そして、このネジ通し孔41、42に対し固定刃2の3つの皿ネジ用通し孔25、26、27のうちの2つに挿通された皿ネジ46がナット47によって締め付けられることにより、固定刃2が固定刃用支持体4の側面(取付面)に固定される。また、固定刃用支持体4は、可動刃3を駆動するためのモータ6が取り付けられるモータブラケット(図示せず)に支持されるものであり、そのために、他端側および中央付近には、モータブラケットに対し固定刃用支持体4を固定するためのボルト(図示せず)が挿通されるボルト通し孔43、44が形成されている。
【0021】
更に、固定刃用支持体4は、皿ネジ用通し孔25とボルト通し孔44との間に曲げ部45を有しており、この曲げ部45よりも固定刃2の取付面側が厚さ方向における固定刃2の取付面側へ僅かに屈曲される構成となっている。これにより、固定刃用支持体4がモータブラケットに取り付けられた状態で、固定刃2の取付面が経糸方向に対し僅かな角度を為すものとなり、その取付面に固定刃2が取り付けられることにより、固定刃2が可動刃3に対し交差角を為した状態となる。
【0022】
可動刃3は、固定刃2と同様の板状の部材であり、可動刃用支持体5に固定される基部よりも先端側が斜め上方へ延びるように屈曲すると共に、先端部の幅が先端側ほど小さくなる形状を有している。また、可動刃3は、前記基部に長手方向に沿って形成された厚さ方向に貫通する2つの皿ネジ用通し孔32、33を有しており、この皿ネジ用通し孔32、33に挿通される皿ネジ57により可動刃用支持体5に固定される。
【0023】
可動刃用支持体5は、経糸方向に延在する板状のプレート部5aと、長手方向におけるプレート部5aの端部に連続するかたちで一体的に形成されて厚さ方向の寸法がプレート部5aよりも大きく形成されたホルダ部5bとで構成されている。プレート部5aは、ホルダ部5bが形成されている側とは反対側の端部に、可動刃3の皿ネジ用通し孔と同じ間隔で形成された2つのネジ通し孔51、52を有している。そして、このネジ通し孔51、52に対し可動刃3の皿ネジ用通し孔32、33に挿通された皿ネジ57がナット58によって締め付けられることにより、可動刃3が可動刃用支持体5の側面(取付面)に固定される。
【0024】
ホルダ部5bは、可動刃3を回動させるためのモータ6の出力軸61に固定されるものであって、出力軸61への固定のための割締め構造を有している。より詳しくは、ホルダ部5bは、モータ6の出力軸61が嵌合される出力軸用孔53と、この出力軸用孔53に開口するキー溝54と、このキー溝54とは異なる位置で出力軸用孔53へ連続すると共に反プレート部5a側の他端に開口するように形成された切り割り溝55と、この切り割り溝55と直交する方向に締結ボルトを締結するための割締め孔56を有している。また、モータ6の出力軸61には、キー溝54に対応する図示しないキーが取り付けられている。
【0025】
そして、可動刃用支持体5は、ホルダ部5bにおける出力軸用孔53に対し、モータ6の出力軸61に取り付けられたキーをキー溝54に合わせた状態で出力軸61を嵌挿することにより、出力軸61に対し所定の位相で相対回転不能に連結された状態となる。更に、その状態において、ホルダ部5bにおける割締め孔56へ締結ボルト(図示せず)を挿入すると共に、割締め孔56における雌ネジ部56bに締結ボルトを螺挿して締め付けることにより、切り割り溝55の幅が縮小されて出力軸用孔53が縮径され、出力軸61が締め付けられた状態となる。これにより、モータ6の出力軸61と可動刃用支持体5とが固定された状態となり、出力軸61の回転に伴って可動刃用支持体5及び可動刃3が回動駆動される。
【0026】
前述のように、固定刃用支持体4はモータ6が取り付けられるモータブラケットに固定され、可動刃用支持体5はモータ6の出力軸61に固定されている。このとき、固定刃用支持体4及び可動刃用支持体5は、各支持体のそれぞれに取り付けられる固定刃2及び可動刃3が刃体の厚さ方向において摺接するように配置される。より詳しくは、固定刃用支持体4は、モータブラケットに形成された経糸方向と平行に延在する平面に対して取り付けられてモータブラケットに対し固定配置される。そして、固定刃2は、このように配置された固定刃用支持体4における可動刃3側の側面に対し取り付けられる。一方、可動刃用支持体5は、モータ6の出力軸61に対し割締めによって固定されており、割締めによる締め付けを緩めることにより、出力軸61の軸線方向で位置調整が可能となっている。そして、可動刃3は、このような可動刃用支持体5の反固定刃2側の側面に固定されている。
【0027】
そこで、モータブラケットに対し固定刃用支持体4(固定刃2)及びモータ6が取り付けられた状態において、可動刃用支持体5(可動刃3)を、出力軸61の軸線方向に位置調整し、適当な位置で出力軸61に固定することにより、固定刃2と可動刃3とが所望の摺接状態で配置されることになる。なお、固定刃2と可動刃3との位置関係について、前述のように、固定刃2は可動刃3に対して交差角を為すように固定刃用支持体4によって支持されているため、少なくとも可動刃3に形成された刃部(詳細は後述)の形成範囲における最も基部側(可動刃用支持体5側)において固定刃2と摺接するように可動刃用支持体5の位置を設定することで、可動刃3の刃部31の全体に亘って固定刃2と摺接するものとなる。
【0028】
以上のように構成された緯糸切断装置1によれば、緯糸切断動作時においてモータ6の出力軸61が一対の刃体11が閉じる方向に回転駆動されると、非切断時状態から可動刃3が固定刃2へ向けて回動される。これにより、固定刃2及び可動刃3の隣接側の側面における上下の両端縁のうちの切断側の端縁に形成された刃部が互いに交差し、両刃部が刃線方向に沿って当接位置をずらしながら摺接する。そして、この動作(切断動作)により、固定刃2と可動刃3との間に挿通されていた緯糸が、両刃体の協働で切断される。なお、ここで言う「上下の両端縁のうちの切断側の端縁」とは、具体的には、緯糸切断装置1の非切断時の状態(図1(a)の状態)における他方の刃体に近い側の端縁である。
【0029】
そして、このような緯糸切断装置1において、本発明では、一対の刃体11(本実施例では、固定刃2及び可動刃3)のうちの少なくとも一方の刃体が、両側面における上下の両端縁からなる4つの端縁のうちの少なくとも3つに、他方の刃体に形成された刃部と交差することで緯糸を切断する刃部が形成され、且つ、その3以上の刃部が形成される刃体が、その刃部の数に応じた取付状態で支持体に取り付け可能に構成されるものである。以下では、本発明の一実施形態(実施例)として、固定刃2を上記3以上の刃部が形成された刃体とする例について述べる。
【0030】
本実施例において、固定刃2は、その両側面の上下の両端縁からなる4つの端縁のそれぞれに、その長手方向(刃線方向)の全長に亘って形成された4つの刃部21、22、23、24を有している。また、固定刃2は、この4つの刃部21、22、23、24に応じた4つの取付状態であって、各刃部が可動刃3における刃部と交差可能な位置となる4つの取付状態のそれぞれを選択できるように形成されている。
【0031】
より詳しくは、固定刃2は、固定刃用支持体4への取り付けのための皿ネジ46が挿通される孔として、刃体の長手方向に亘るように形成された3つの皿ネジ用通し孔25、26、27を有している。これにより、固定刃2は、同じ側面における上下の両端縁の2つの刃部(刃部21と刃部22、刃部23と刃部24)を入れ替えることが可能となっている。
【0032】
すなわち、前記のように3つの皿ネジ用通し孔25、26、27は等間隔に形成されているため、図示の皿ネジ用通し孔25、26が固定刃用支持体4のネジ通し孔41、42に合せて皿ネジ46、46を挿通した固定状態に加え、皿ネジ用通し孔26、27をネジ通し孔41、42に合せて皿ネジ46、46を挿通した固定状態とすることも可能となっている。この構成により、皿ネジ用通し孔25、26をネジ通し孔41、42に合せた固定状態から、皿ネジ用通し孔26とネジ通し孔42との関係はそのままに、固定刃2を回転させて皿ネジ用通し孔27とネジ通し孔41とを合せて皿ネジ46で固定することにより、同じ側面における下側の端縁に形成された刃部を前記切断位置に位置する状態へ入れ替えることができる。
【0033】
更に、固定刃2は、皿ネジ用通し孔25、26、27が、両側面のどちらからでも皿ネジ46を装着可能となっており、これにより、固定刃2は、両側面の上下の同じ側に位置する2つの刃部(刃部21と刃部24、刃部22と刃部23)、又は、両側面の上下の反対側に位置する2つの刃部(刃部21と刃部23、刃部22と刃部24)を入れ替えることが可能となっている。
【0034】
すなわち、固定刃2は可動刃3と摺接しつつ交差するものであり、固定刃2の可動刃3側の側面(反固定刃用支持体4側の側面)に固定用のネジ部材の一部を突出させることができないため、固定用のネジ部材として頭部が上記側面に突出しない皿ネジ46を採用している。従って、その皿ネジ46が挿通される固定刃2における皿ネジ46を挿通させる孔は、皿ネジ46を挿入する側の開口部が皿ネジ46の頭部のテーパ面に対応させたテーパ形状の孔として形成される。そして、本実施例では、固定刃2に形成された皿ネジ用通し孔25、26、27は、両側面における開口部が、そのようなテーパ形状の孔として形成されている。この構成により、固定刃2は、両側面のいずれの側から皿ネジ46を挿入して固定刃用支持体4に固定しても使用可能となっており、例えば、前記した皿ネジ用通し孔27をネジ通し孔41に合せて固定刃2を固定する場合において、固定刃用支持体4に対向する側面を可動刃3側の側面と入れ替えて固定刃2を固定することも可能であり、これにより、固定刃用支持体4側に位置していた刃部を可動刃3側の前記切断位置に位置する状態へ入れ替えることができる。
【0035】
そして、これらの構成により、固定刃2は、固定刃用支持体4に対する取付状態として、4つの刃部21、22、23、24のいずれかが可動刃3における刃部と交差可能な位置、すなわち、切断動作に伴って可動刃3の刃部と摺接する切断位置に位置する取付状態を選択可能となっている。
【0036】
なお、可動刃3は、本実施例では従来と同様の構成であって、可動刃用支持体5に取り付けられた状態における固定刃2側の側面の切断側端縁(固定刃2に近い側の端縁)にのみ、刃部31が形成されている。従って、この可動刃3の可動刃用支持体5に対する取付状態も一つのみとなっている。また、図示の例では、刃部31は、可動刃3の先端側であって先端部から屈曲部までの間の中間部付近までの範囲に亘って形成されている。
【0037】
このような固定刃2及び可動刃3を有する緯糸切断装置1について、以下では織機7における作用を説明する。なお、以下の説明では、最初の状態として、固定刃2は、刃部21が前記切断位置に位置する状態で固定刃用支持体4に取り付けられているものとする。
【0038】
織機7において、製織中に緯入れノズル71から緯入れされる緯糸72は、筬打ちされる時に、給糸側にある緯糸切断装置1における一対の刃体11の間、より詳しくは、非切断時状態の固定刃2の刃部21と可動刃3の刃部31との間(緯糸切断位置)に案内され、筬打ち後の所定のタイミング(緯糸切断タイミング)で切断される。そのため、緯糸切断装置1においては、前記緯糸切断タイミングに応じた駆動タイミングでモータ6の駆動が開始され、それに伴って可動刃3が回動を開始して前述の切断動作が行われる。
【0039】
そして、図示の例による給糸側の緯糸切断装置1においては、このような切断動作は緯入れ毎に行われ、しかも、前述のように、この緯糸切断動作の過程において、固定刃2の刃部21と可動刃3の刃部31とは、摺接しつつ交差する。そのため、製織の進行に伴って刃部が摩耗し、放置すると緯糸72を切断できない状態となる。そこで、刃部が摩耗した場合や摩耗を考慮して刃部を変更する時期に達したと判断した場合(例えば、摩耗が原因と判断される緯糸72の切断ミスが発生した場合や摩耗の度合いを見越して予め想定した製織期間が経過した場合)に、従来では、その刃体自体を取り替えているが、本発明では、例えば図示の例において、固定刃2の刃部21が摩耗した場合に、他の刃部22、23、24のうち摩耗していない刃部が前記切断位置になるよう固定刃2の取付状態が変更される。詳しくは、以下の手順により固定刃2の取付状態の変更作業が行われる。
【0040】
(1)摩耗によって固定刃2の刃部21が交換すべき状態となった場合において、先ず、織機7を停止させて製織が停止された状態とする。その上で、必要に応じて可動刃用支持体5をモータ6の出力軸61から取り外す。すなわち、緯糸切断装置1の構成によっては、可動刃3が基部の近傍において固定刃2と常時交差しており、固定刃2に対する作業の妨げとなる場合があるため、その場合は可動刃用支持体5(可動刃3)をモータ6の出力軸61から取り外す。但し、織機7の停止角度(停止時の主軸回転角度)及び緯糸切断装置1の構成により、可動刃3の存在が固定刃2に対する作業の妨げとならない場合には、この取り外し作業は省略される。なお、固定刃用支持体5の取り外しは、前述の割締めを緩めることによって行われる。
(2)次いで、固定刃2を固定刃用支持体4に取り付けるために固定刃2の皿ネジ用通し孔25、26及び固定刃用支持体4のネジ通し孔41、42に挿通されている皿ネジ46、46による固定状態を解除する。具体的には、皿ネジ46、46に螺挿されているナット47、47の締結状態を緩め、ナット47、47を皿ネジ46、46から取り外す。これにより、固定刃2は、皿ネジ46、46と共に固定刃用支持体4から取り外し可能な状態となる。その状態で、固定刃2を皿ネジ46、46と共に固定刃用支持体4から取り外し、更に、皿ネジ46、46を固定刃2の皿ネジ用通し孔25、26から抜く。
(3)そして、固定刃2の刃部22が前記切断位置に位置する取付状態で固定刃2を固定刃用支持体4に取り付けるべく、取り外し前と同じ側面が固定刃用支持体4と対向する状態で、固定刃2を、皿ネジ用通し孔27が固定刃用支持体4のネジ通し孔41に合せると共に皿ネジ用通し孔26を固定刃用支持体4のネジ通し孔42に合せた状態とする。そして、その状態において、皿ネジ46、46をそれぞれ皿ネジ用通し孔27及びネジ通し孔41と皿ネジ用通し孔26及びネジ通し孔42へ固定刃2側から挿通される。その上で、各皿ネジ46にナット47を螺挿して締結することにより、固定刃用支持体4に対し固定刃2が固定される。
(4)その後、可動刃用支持体5をモータ6の出力軸61から取り外していた場合には、再び出力軸61に対し可動刃用支持体5を出力軸用孔53において嵌装し、固定刃2と可動刃3との摺接状態が所望の状態となるように調整され、可動刃用支持体5(可動刃3)がモータ6の出力軸61に固定される。これにより、使用する刃部を刃部21から刃部22へ変更するための固定刃2の取付状態の変更作業が完了する。
【0041】
また、他の刃部として、刃部23が前記切断位置に位置するように固定刃2の取付状態を変更する場合には、刃部22が前記切断位置に位置する取付状態で固定刃用支持体4と対向する固定刃2の側面とは反対側の側面を固定刃用支持体4に対向させた状態で、固定刃2の皿ネジ用通し孔25、26のそれぞれに挿通された皿ネジ46、46を固定刃用支持体4のネジ通し孔41、42に挿通して固定刃2を固定刃用支持体4に対し固定状態とする。また、刃部24が前記切断位置に位置するように固定刃2の取付状態を変更する場合には、上記反対側の側面を固定刃用支持体4に対向させた状態で、固定刃2の皿ネジ用通し孔27、26のそれぞれに挿通された皿ネジ46、46を固定刃用支持体4のネジ通し孔41、42に挿通して固定刃2を固定刃用支持体4に対し固定状態とする。いずれにしても、その変更作業のための手順は、前記の場合と同様である。
【0042】
なお、前記において変更作業の手順を説明した例において、図示の例では、固定刃2の皿ネジ用通し孔26が各取付状態に共通に用いられており、固定刃2の長手方向におけるほぼ中間部に形成されているため、例えば、刃部21を刃部22に変更する場合において、皿ネジ用通し孔26に挿通されている皿ネジ46を完全に取り外すこと無くナット46を緩めるだけとし、皿ネジ46の軸線周りに固定刃2を180°回転させることによっても取付状態の変更が可能である。
【0043】
以上において一例を説明した本発明による緯糸切断装置において、前記実施例では、固定刃2は、その両側面の上下の両端縁からなる4つの端縁のそれぞれに刃部を形成するものとしたが、これに代えて、前記4つの端縁のうちの任意に選択された3つの端縁に対し刃部を形成するものとしても良い。すなわち、前記実施例において、固定刃2は、前記4つの端縁のうちの少なくとも3つに刃部を有するものであれば良く、全ての端縁に刃部を有するものには限定されない。
【0044】
また、前記実施例では、固定刃2は、刃部を有する端縁において、その長手方向(刃線方向)の全長に亘って刃部が形成されるものとしたが、これに限らず、前記長手方向において部分的に刃部が形成されるものとしても良い。すなわち、固定刃2の刃部は、切断動作に伴って可動刃3の刃部と摺接しつつ緯糸を切断するものであり、前記切断位置に位置する端縁において切断に関与する部分はこの摺接範囲を含む部分である。従って、その端縁において、刃部は、少なくともこの摺接範囲を含む部分に形成されていれば良い。
【0045】
また、前記実施例では、固定刃用支持体4に対し固定刃2を固定するために固定刃2側から挿入される皿ネジを用いたが、固定刃2を固定するための構成はこれに限らず、ボルト等の他のネジ部材を用いるものであっても良い。なお、ボルト等の他のネジ部材を用いる場合においても、固定刃2の反取付面側の側面からその頭部が突出しないものとする必要があり、そのために、ネジ部材が挿入される挿通孔の開口部を、ネジ部材の頭部とほぼ同じかそれよりも大きい凹部とする必要がある。また、前記実施例のようなネジ部材にナットを螺挿し、ネジ部材の頭部とナットにより固定刃2と固定刃用支持体4を挟み込んで締結固定する構成に代え、固定刃用支持体4におけるネジ通し孔を内周面に雄ネジが形成されたものとし、固定刃2に挿通したネジ部材をこの雄ネジ孔に螺合させて固定刃用支持体4に固定するものとしても良い。さらには、ネジ部材を固定刃2に挿通させて固定するものに代えて、固定刃用支持体4に固定刃2を受け入れる溝を形成し、溝の内側面で固定刃2を締め付けて固定するものとしても良い。
【0046】
また、前記実施例では、固定刃2に対しネジ部材(皿ネジ)が挿通されるネジ通し孔を等間隔に3つ形成し、真ん中に位置するネジ通し孔を各取付状態に対し共通して用いるものとしたが、これに代えて、2つの取付状態毎又は各取付状態のそれぞれに対応する複数種類のネジ通し孔を固定刃2に形成するものとしても良いし、各取付状態に対し共通する1種類のネジ通し孔のみを固定刃2に形成するものとしても良い。さらには、固定刃用支持体4に対する固定刃2の固定は、切断動作に伴って固定刃2の位置ズレが生じないものであれば良いため、ネジ部材を用いて固定する場合において、固定刃2の少なくとも2箇所にネジ部材が挿通されるものであれば良い。従って、前記実施例のような固定刃2の長手方向に沿った2箇所にネジ部材が挿通されるものに代えて、例えば、固定刃2の長手方向と直交する方向又は交差する方向に沿った2箇所にネジ部材を挿通させて固定刃2を固定するものとしても良い。なお、前記交差する方向にネジ通し孔が形成された固定刃2の場合、固定刃用支持体4に対する固定刃2の取付面を両側面で入れ替えると、各ネジ通し孔は、固定刃2の真ん中に対して長手方向又は前記直交する方向に反転する。このような場合においては、固定刃用支持体4は、前記反転前後に対応する複数のネジ通し孔が形成されるものであっても良い。
【0047】
以上では、本発明を緯糸切断装置1における固定刃2に適用する例について述べたが、本発明における一対の刃体のうちの少なくとも一方は、固定刃2に限らず、可動刃3も含む。従って、前記実施例の緯糸切断装置1において、可動刃3に対しても以上で説明した固定刃2の構成を適用しても良い。また、固定刃2を1つの端縁にのみ刃体が形成されたものとし、可動刃3のみが本発明による構成を有するものとしても良い。さらには、本発明は、前記実施例のような一対の刃体のうちの一方が固定刃である緯糸切断装置1に限らず、両刃体が前記実施例の駆動モータ等の駆動手段で回動駆動されるもの、すなわち、一対の刃体の両方が可動刃である緯糸切断装置にも適用可能である。そして、その場合においても、一対の可動刃の一方又は両方に本発明が適用されるものとすれば良い。
【0048】
また、前記実施例では、緯入れノズルと給糸側の織端との間に設けられる緯糸切断装置(所謂、給糸カッタ)に本発明が適用される例を説明したが、本発明は前記実施例のような給糸カッタに限らず、例えば、反給糸側の織端とキャッチコードあるいは糸端処理装置等との間に設けられる緯糸切断装置や、織機上に設けられる他の緯糸切断装置(例えば、不良糸除去装置に付設される緯糸切断装置や複数幅取りの織機における複数枚の隣合う織布間の緯糸を切断するカッタ)等にも適用可能である。
【0049】
さらに、本発明は、以上で説明したいずれの実施形態にも限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々に変更することが可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 緯糸切断装置
2 固定刃
21、22、23、24 刃部
25、26、27 皿ネジ用通し孔
28 刃元
29 刃先
3 可動刃
31 刃部
32、33 皿ネジ用通し孔
4 固定刃用支持体
41、42 ネジ通し孔
43、44 ボルト通し孔
45 曲げ部
46 皿ネジ
47 ナット
5 可動刃用支持体
5a プレート部
5b ホルダ部
51、52 ネジ通し孔
53 出力軸用孔
54 キー溝
55 切り割り溝
56 割締め孔
56a ボルト部
56b 雌ネジ部
57 皿ネジ
58 ナット
6 モータ
61 出力軸
7 織機
71 緯入れノズル
72 緯糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ方向において隣接するように配置された板状の一対の刃体であって厚さ方向における両側面が平面に形成された一対の刃体と、各刃体を支持するために各刃体に対応して設けられた2つの支持体とを備え、
前記一対の刃体が隣接側の側面における上下の両端縁のうちの切断側の端縁に形成された刃部を交差させることにより、両刃体の協働で緯入れされた緯糸の端部を切断する緯糸切断装置において、
前記一対の刃体のうちの少なくとも一方は、前記両側面の上下の両端縁からなる4つの端縁のうちの少なくとも3つに刃部を有すると共に、該刃部の数に応じた複数の取付状態であって各刃部が他方の刃体における刃部と交差可能な位置となる複数の取付状態のそれぞれを選択できるように前記支持体に対する取付状態を変更可能に構成されている
ことを特徴とする織機における緯糸切断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−19071(P2013−19071A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152848(P2011−152848)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(000215109)津田駒工業株式会社 (226)
【Fターム(参考)】