説明

無機塗料組成物

【課題】防錆力の向上を図る。
【解決手段】アルカリ金属シリケートに、ケイ酸カルシウム或いはリン酸亜鉛を添加し、無機充填材として、コレマナイト或いはウレキサイトを主成分とした、三酸化二ホウ素成分溶出作用を有する天然ガラスを平均粒径30μm以下の鱗片状微粉として混合し、更にトリポリリン酸塩を配合することによって、トリポリリン酸イオンと、被塗物由来の遊離の鉄イオンや亜鉛イオンを化合させて、キレート錯体を生成し、錆発生の原因となる遊離の金属イオン類を不動態化することで、錆の発生を抑止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強靱かつ防錆力に優れた塗膜を得られる無機塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルカリ金属シリケートを結合剤とした無機塗料組成物は、とても多くの種類が知られているが、大部分のものは、得られる塗膜が脆く、例えば被塗物が温度変化で膨縮すると、歪みにより塗膜に微細な亀裂が生じ、塗膜の耐候性及び耐汚染性が損なわれてしまった。
そこで、これを解決すべく本願発明者らにより、アルカリ金属シリケートに、ケイ酸カルシウム、リン酸亜鉛等の多価金属含有硬化剤を添加し、更に無機充填材として、コレマナイト、ウレキサイト等を主成分としたホウ酸成分溶出作用を有する天然ガラスの微粉を混合した無機塗料組成物が発明された(特許文献1及び2参照)。
この発明品は、水と混合することでホウ酸が溶出し、この混合液を塗布して乾燥させると、結合剤の硬化と共に溶出ホウ酸が固化して、強靱な塗膜を得ることが出来、その優れた耐久性、耐候性及び耐汚染性により、一般建築内外装材や地下道内装材の表面保護用の塗膜形成剤として広く認知されるに至った。
【0003】
【特許文献1】特許第3140611号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特許第3140612号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そして、特許文献1及び2発明品は、需要者間において、とても好評であったが、近年では酸性雨による外装物品への負担が益々増え、そのため防錆作用の強化が望まれる様になった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題に鑑み、アルカリ金属シリケートに、ケイ酸カルシウム或いはリン酸亜鉛を添加し、無機充填材として、コレマナイト或いはウレキサイトを主成分とした、三酸化二ホウ素成分溶出作用を有する天然ガラスを平均粒径30μm以下の鱗片状微粉として混合し、更にトリポリリン酸塩を配合することによって、トリポリリン酸イオンと、被塗物由来の遊離の鉄イオンや亜鉛イオンを化合させて、キレート錯体を生成し、錆発生の原因となる遊離の金属イオン類を不動態化することで、錆の発生を抑止する様にして、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0006】
要するに本発明は、アルカリ金属シリケートに、ケイ酸カルシウム或いはリン酸亜鉛を添加し、無機充填材として、コレマナイト或いはウレキサイトを主成分とした、三酸化二ホウ素成分溶出作用を有する天然ガラスを平均粒径30μm以下の鱗片状微粉として混合し、更にトリポリリン酸塩を配合したので、トリポリリン酸塩に由来のトリポリリン酸イオンと、被塗物由来の遊離の鉄イオンや亜鉛イオンとにより、キレート錯体を生成し、錆の発生を抑止することが出来る。
従って、本発明品を屋外にて使用される各種物品に塗布することにより、酸性雨による錆から保護して、耐久性の向上を図ることが出来る。
又、塗膜が超親水性を有することから、塗膜に汚れが付着しても、雨水を浴びるだけで自己浄化できる。
【0007】
平均粒径30μm以下の微粉状絹雲母を配合したので、塗膜表面をより平滑にできて、表面での付着物の付着状態を弱くすることができ、浮き離れを容易にして、上記の自己浄化作用の向上を図ることが出来る。
【0008】
アルカリ金属シリケート100重量部に対し、ケイ酸カルシウム或いはリン酸亜鉛を5〜70重量部、天然ガラスの鱗片状微粉を5〜200重量部、トリポリリン酸塩を1〜25重量部、微粉状絹雲母を10〜30重量部としたので、防錆力、靱性、耐候性及び耐汚染性の各特性をバランス良く兼備させることが出来る等その実用的効果甚だ大である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下本発明の一実施形態について説明する。
本発明に係る無機塗料組成物は、基本的にはアルカリ金属シリケートに、ケイ酸カルシウム或いはリン酸亜鉛を添加し、無機充填材として、コレマナイト或いはウレキサイトを主成分とした、三酸化二ホウ素成分溶出作用を有する天然ガラスを平均粒径30μm以下の鱗片状微粉として混合し、更にトリポリリン酸塩を配合したものである。
又、上記組成に微粉状絹雲母(セリサイト)を配合しても良く、微粉状絹雲母の添加により塗膜表面をより平滑にできる。
【0010】
アルカリ金属シリケートは、アリカリ金属のケイ酸塩で、例えばケイ酸リチウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム等が挙げられ、ケイ酸カルシウム或いはリン酸亜鉛を添加することで、脱水収縮反応及びゲル化反応が起こり固化する。
【0011】
コレマナイト(2CaO・3B23 ・5H2 O)と、ウレキサイト(Na2 O・2CaO・5B23 ・16H2 O)はガラス質の天然鉱物で、水中に浸漬するだけで、含有する三酸化二ホウ素(B23 )成分が溶出し、また微細に粉砕することで、三酸化二ホウ素成分は更に溶出し易くなり、微細粉砕したものは鱗片形状をしている。
【0012】
トリポリリン酸塩は、本発明では、組成中にトリポリリン酸イオン(P3105-)を確保し、被塗物由来の遊離の金属イオン類に供与するためのもので、トリポリリン酸塩の種類は特に問わないが、入手の容易性、安定性などの点から、トリポリリン酸ナトリウムやトリポリリン酸アルミニウムが望ましい。
【0013】
コレマナイト、ウレキサイト、セリサイトは、三酸化二ホウ素成分の溶出量を多くし、また生成塗膜の平滑性向上の点で、なるべく平均粒径30μm以下が望ましいが、必ずしもこの範囲でなくても良い。
尚、この平均粒径は、レーザー散乱式粒度分布測定装置により得られたメディアン径の値である。
【0014】
アルカリ金属シリケート100重量部に対する各成分の比率としては、ケイ酸カルシウム或いはリン酸亜鉛が5重量部未満の場合、塗膜の固化が不十分となり、70重量部を超えると、固化が過剰に速くて塗膜に微細な亀裂が生じてしまうため、ケイ酸カルシウム或いはリン酸亜鉛の比率は5〜70重量部の範囲が良い。
又、コレマナイト或いはウレキサイトが5重量部未満の場合、三酸化二ホウ素成分の溶出量が少ないため、生成塗膜が脆く、且つ、十分な親水性が得られず、200重量部を超えても、塗膜強度、親水性のそれ以上の向上が認められないため、コレマナイト或いはウレキサイトの比率は5〜200重量部の範囲が良い。
又、トリポリリン酸塩が1重量部未満の場合、防錆力向上の効果が認められず、25重量部を超えると、それ以上の向上が認められないため、トリポリリン酸塩の比率は、1〜25重量部の範囲が良い。
そして、セリサイトは、1〜30重量部が塗膜の平滑性に影響する範囲であり、適量である。
尚、上記の各配合比率の範囲は、種々の試験により得られた値である。
【0015】
次に本発明の無機塗料組成物の作用について説明する。
本発明品の無機塗料組成物は、トリポリリン酸塩を含有することから、適量の水と混合し、それを被塗物に塗布すると、解離生成したトリポリリン酸イオンが、錆発生の原因である被塗物由来の鉄イオンや亜鉛イオン等の金属イオンと化学反応し、キレート錯体が生成し、遊離の金属イオンは塗膜中(特に、被塗物と塗膜の界面付近)で不動態となって、もはや空気中酸素により酸化物に変化できなくなり、錆発生が抑止される。
【0016】
尚、コレマナイト及びウレキサイトは、三酸化二ホウ素成分を多量に含有し、水中で三酸化二ホウ素成分を容易に溶出する性質を有しているため、上記の水と混合時に同時に、コレマナイト或いはウレキサイトからの三酸化二ホウ素成分溶出が生じ、塗布・乾燥後は三酸化二ホウ素成分が固化してガラス化し、強固な塗膜が生成されると共に、塗膜と被塗物がより強固に密着させられ、また三酸化二ホウ素ガラスが親水性を有することから、塗膜にも親水性が具有され、塗膜とこれに接触する水との界面張力が小さくなって、塗膜に付着した汚れと塗膜の間に水が浸透し易くなり、付着物が剥離し易くなる。
【0017】
次に実施例を示し、本発明について更に詳細に説明する。
【実施例1】
【0018】
ケイ酸ナトリウム100重量部、ケイ酸カルシウム15重量部、コレマナイト115重量部、トリポリリン酸アルミニウム15重量部を水と共に、ボールミルで10分間混合し、得られた塗料をホーロー用鋼板にスプレー塗布した後、300℃の熱風で約50分間乾燥して焼付け、厚み約25μmの塗膜を生成した試験体1を得た。
又、同上組成の塗料を亜鉛メッキ鋼板にスプレー塗布した後、試験体1の場合と同様に処理して試験体2を得た。
【実施例2】
【0019】
ケイ酸ナトリウム100重量部、リン酸亜鉛20重量部、ウレキサイト120重量部、トリポリリン酸ナトリウム10重量部を水と共に、ボールミルで10分間混合し、得られた塗料をホーロー用鋼板にスプレー塗布した後、300℃の熱風で約50分間乾燥して焼付け、厚み約25μmの塗膜を生成した試験体3を得た。
又、同上組成の塗料を亜鉛メッキ鋼板にスプレー塗布した後、試験体3の場合と同様に処理して試験体4を得た。
【実施例3】
【0020】
ケイ酸ナトリウム100重量部、ケイ酸カルシウム10重量部、リン酸亜鉛10重量部、コレマナイト50重量部、ウレキサイト50重量部、トリポリリン酸ナトリウム10重量部、セリサイト20重量部を水と共に、ボールミルで10分間混合し、得られた塗料をホーロー用鋼板にスプレー塗布した後、300℃の熱風で約50分間乾燥して焼付け、厚み約25μmの塗膜を生成した試験体5を得た。
又、同上組成の塗料を亜鉛メッキ鋼板にスプレー塗布した後、試験体5の場合と同様に処理して試験体6を得た。
【0021】
そして、各試験体について、JIS Z2371に準じ、中性塩水噴霧試験を500時間行ったところ、いずれの試験体も、錆発生は皆無であり、良好であった。
又、JIS K5621に準じ、耐複合サイクル防食性試験について行ったところ、いずれの試験体も28サイクルに耐えた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属シリケートに、ケイ酸カルシウム或いはリン酸亜鉛を添加し、無機充填材として、コレマナイト或いはウレキサイトを主成分とした、三酸化二ホウ素成分溶出作用を有する天然ガラスを平均粒径30μm以下の鱗片状微粉として混合し、更にトリポリリン酸塩を配合したことを特徴とする無機塗料組成物。
【請求項2】
平均粒径30μm以下の微粉状絹雲母(セリサイト)を配合したことを特徴とする請求項1記載の無機塗料組成物。
【請求項3】
アルカリ金属シリケート100重量部に対し、ケイ酸カルシウム或いはリン酸亜鉛を5〜70重量部、天然ガラスの鱗片状微粉を5〜200重量部、トリポリリン酸塩を1〜25重量部、微粉状絹雲母を10〜30重量部としたことを特徴とする請求項2記載の無機塗料組成物。

【公開番号】特開2007−327000(P2007−327000A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−160971(P2006−160971)
【出願日】平成18年6月9日(2006.6.9)
【出願人】(593113374)
【出願人】(593113385)
【Fターム(参考)】