説明

無機微粒子分散ペースト組成物

【課題】不純物となるイオン濃度が極めて低く、チキソトロピー性及び糸曳性に優れることでスクリーン印刷性に適応し、かつ、低温焼成が可能な無機微粒子分散ペースト組成物を提供する。
【解決手段】(メタ)アクリル樹脂、架橋(メタ)アクリル樹脂からなるゲル微粒子、無機微粒子及び有機溶剤を含有し、イオン濃度が0.5ppm以下である無機微粒子分散ペースト組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不純物となるイオン濃度が極めて低く、チキソトロピー性及び糸曳性に優れることでスクリーン印刷性に適応し、かつ、低温焼成が可能な無機微粒子分散ペースト組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、導電性粉末、セラミック粉末等の無機微粒子を樹脂バインダーに分散させたペースト組成物が、様々な形状の焼結体を得るために用いられている。特に、微粒子として蛍光体を樹脂バインダーに分散させたペースト組成物は、例えば、有機エレクトロルミネッセンス(EL)等に用いられ、近年需要が高まりつつある。
【0003】
ペースト組成物は、例えば、スクリーン印刷法、ドクターブレード等を用いた塗布法、シート状に加工するためのキャスティング法等により所定の形状に加工した後、焼成することで必要な形状の焼結体とすることができる。なかでも、スクリーン印刷法は、特に大量生産に適した方法である。
【0004】
良好にスクリーン印刷を行うためには、ペースト組成物は、いわゆるチキソトロピー性(以下、「チキソ性」と表記を省略する)を有することが好ましい。なお、チキソ性とは、例えば、回転粘度計で粘度を評価した場合、回転数が高くなる(歪速度が高い変位)と粘性が低くなり、回転数が低くなる(歪速度が低い変位)と粘性が高くなる性質である。スクリーン印刷に用いられるペースト組成物では、塗工の際には粘度が充分に低く塗工が容易である。一方、塗工後に静置して乾燥させる際には粘度が充分に高く自然流延してしまわないという性質が求められる。
【0005】
現在、スクリーン印刷用バインダー樹脂にはエチルセルロースを高沸点有機溶剤に溶解させたものが一般的に広く用いられている。エチルセルロースは、エトキシ化率が高いほど高粘度になり、有機溶剤に溶解させにくくなるが、完全に溶解させるのではなく、数ミクロンの未溶解物を残すことでチキソ性を持たせている。すなわち、ペースト組成物中に未溶解状態で残ったエチルセルロース粒子が擬似架橋点的な働きをすることで、ペースト組成物に剪断ひずみがかかった際にひずみ速度に応じて応力が変化し、剪断速度が大きな場合は擬似架橋点が破壊されてペースト組成物の粘度が低くなり、剪断速度が小さな場合はペースト組成物の擬似架橋点の破壊と回復とが同時に起こることで高粘度を示す。
【0006】
ここで、スクリーン印刷によって基板にペースト組成物を印刷した後、基材を加熱、焼成し、ペースト中のバインダー組成物を熱分解し、先にペースト中に分散させた無機成分層を得るというプロセスを考慮した場合、エチルセルロースを完全に熱分解させるためには500℃以上加熱が必要であり、分散させる無機微粒子の性質によってはこの加熱温度が問題になることが多かった。
【0007】
例えば、低融点ガラス微粒子を用いた場合、ガラスの溶解−成形に必要な温度よりもエチルセルロースの分解温度が高いために、必要以上の熱エネルギーが必要であったり、ガラス成形体に熱歪みや気泡が発生したりする問題が知られている。
また、エチルセルロースは、天然物由来の不純物イオンが多数含有されており、印刷−焼結体の用途が特に半導体関連等であると、この不純物イオンも問題になることが多かった。
【0008】
このような問題に対し、特許文献1には、熱分解性の良好なアクリル樹脂を用いたペースト組成物が開示されている。
しかし、アクリル樹脂は、粘着性が強く、糸曳性が悪いものであった。スクリーン印刷装置を用いてペースト組成物を印刷する作業を長時間連続して行った場合には、スクリーンから基材に落ちきらずにスクリーン印刷版の裏面にペースト組成物が付着してしまう現象が発生する問題があり、粘着性が高いペーストでは前述の現象が発生するたびに印刷版を清掃するために装置を停止せねばならず生産効率が極端に悪くなってしまう問題があった。
【0009】
このような問題に対し、例えば、架橋アクリル樹脂からなる微粒子を添加することにより、アクリル樹脂の添加量を抑えながら粘度を高めるという方法が検討されている(例えば、特許文献2参照)。
しかしながら、このような架橋アクリル樹脂からなる微粒子を含有するペースト組成物は、不純物イオンの含有量が多く、エチルセルロースを用いた場合と同じく不純物イオンが問題になっていた。
【特許文献1】特開2000−104053号公報
【特許文献2】特開平10−083760号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記現状に鑑み、不純物となるイオン濃度が極めて低く、チキソ性及び糸曳性に優れることからスクリーン印刷性に適応し、かつ、低温焼成が可能な無機微粒子分散ペースト組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、(メタ)アクリル樹脂、架橋(メタ)アクリル樹脂からなるゲル微粒子、無機微粒子及び有機溶剤を含有し、イオン濃度が0.5ppm以下である無機微粒子分散ペースト組成物である。
以下に本発明を詳述する。
【0012】
本発明者らは、鋭意検討した結果、従来のペースト組成物の不純物イオン濃度が高くなる原因は、市販の架橋アクリル樹脂からなる微粒子にあることを見出した。これは、市販の架橋アクリル樹脂からなる微粒子は、その粒径を制御するために懸濁重合或いは乳化重合法等で製造されており、製造時の水中での分散性を高めるためにイオン系の界面活性剤を用い、また、水に溶解する重合触媒にイオン分が含まれているため、アクリル微粒子には多量の不純物イオンが含まれていたものと考えられる。そこで、本発明者らは、更に鋭意検討した結果、ペースト組成物に含有させるアルリル微粒子として特定の方法で製造したものを用いれば、従来のペースト組成物と比較して、イオン濃度を極めて小さくすることができるとともに、高いチキソ性を発現するものの糸曳性を低減でき、更に低温分解性やスクリーン印刷に適することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
本発明の無機微粒子分散ペースト組成物(以下、単に本発明のペースト組成物ともいう)は、(メタ)アクリル樹脂を含有する。
上記(メタ)アクリル樹脂は、本発明のペースト組成物においてバインダー樹脂として働くものである。
上記(メタ)アクリル樹脂としては特に限定されず、例えば、例えば、(メタ)アクリレートモノマーの単独重合体、(メタ)アクリレートモノマーとポリオキシアルキレン(メタ)アクリレートモノマーとの共重合体等が挙げられる。なかでも、(メタ)アクリレートモノマーとポリオキシアルキレン(メタ)アクリレートモノマーとの共重合体が好適に用いられる。また、(メタ)アクリレートモノマーの単独重合体と、(メタ)アクリレートモノマーとポリオキシアルキレン(メタ)アクリレートモノマーとの共重合体とを混合したものであってもよい。
なお、本明細書において、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0014】
例えば、(メタ)アクリレートモノマーの単独重合体、(メタ)アクリレートモノマーとポリオキシアルキレン(メタ)アクリレートモノマーとの共重合体等が挙げられる。なかでも、(メタ)アクリレートモノマーとポリオキシアルキレン(メタ)アクリレートモノマーとの共重合体が好適に用いられる。また、(メタ)アクリレートモノマーの単独重合体と、(メタ)アクリレートモノマーとポリオキシアルキレン(メタ)アクリレートモノマーとの共重合体とを混合したものであってもよい。
【0015】
上記(メタ)アクリレートモノマーとしては特に限定されず、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、n−ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等が挙げられ、なかでも、炭素数が10以下の(メタ)アクリレートモノマーを1種又は2種以上用いることが好ましい。
【0016】
上記ポリオキシアルキレン(メタ)アクリレートモノマーとしては特に限定されず、例えば、ポリメチレングリコール、ポリアセタール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリブチレングリコールの(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。なかでも、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、ポリテトラメチレングリコールの(メタ)アクリル酸エステルが好適に用いられ、更に、ポリプロピレングリコールの(メタ)アクリル酸エステルは、より低温で分解するため、特に好適に用いられる。
【0017】
本発明のペースト組成物において、上記(メタ)アクリル樹脂は、炭素数10以下の(メタ)アクリレートモノマーと、ポリオキシアルキレン(メタ)アクリレートモノマーとに由来する構成単位を有することが好ましい。このような組成のバインダーは、分解温度が低いため本発明のペースト組成物が低温焼成可能となるからである。なお、本明細書において、低温焼成とは、(メタ)アクリル樹脂、有機溶剤、及び、ゲル微粒子の初期重量の99.5%が失われる焼成温度が低温であることを意味し、窒素置換等をしない通常の空気雰囲気下で、焼成温度が250〜400℃である場合をいう。
【0018】
上記(メタ)アクリル樹脂の重合方法としては特に限定されず、通常の(メタ)アクリルモノマーの重合に用いられる方法が挙げられ、例えば、フリーラジカル重合法、リビングラジカル重合法、イニファーター重合法、アニオン重合法、リビングアニオン重合法等が挙げられる。
【0019】
上記(メタ)アクリル樹脂は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算数平均分子量の好ましい下限が5000、好ましい上限が5万である。ポリスチレン換算数平均分子量が5000未満であると、本発明のペースト組成物の成形性が劣ることがあり、5万を超えると、得られる本発明のペースト組成物の粘度が高くなりすぎて、スクリーン印刷性が劣ることがある。より好ましい上限は3万である。
また、GPCによりポリスチレン換算数平均分子量を測定する際のカラムとしてはSHOKO社製カラムLF−804等が挙げられる。
【0020】
また、本発明のペースト組成物において、上記(メタ)アクリル樹脂の含有量の好ましい下限は5重量%、上限は15重量%である。5重量%未満であると、本発明のペースト組成物の成形性が劣ることがあり、15重量%を超えると、本発明のペースト組成物の粘度が高くなり、糸曳性に問題が生じることがある。
【0021】
本発明のペースト組成物は、架橋(メタ)アクリル樹脂からなるゲル微粒子を含有する。
上記ゲル微粒子を含有することで、本発明のペースト組成物は、チキソ性及び糸曳性に優れ、かつ、イオン濃度を極めて低くすることができる。
上述したように、バインダー樹脂として(メタ)アクリル樹脂を含有する無機微粒子分散ペースト組成物は、無機粒子の焼結体をより低い焼成エネルギーで得るため、また、バインダー樹脂である(メタ)アクリル樹脂由来の粘着性を低減させるため、バインダー樹脂である(メタ)アクリル樹脂の含有量は、可能な限り少なくすることが好ましい。本発明のペースト組成物は、上記架橋(メタ)アクリル樹脂からなるゲル微粒子を含有することで、上記バインダー樹脂である(メタ)アクリル樹脂の含有量を従来のペースト組成物と比較して少なくすることができる。これは、上記架橋(メタ)アクリル樹脂からなるゲル粒子は、有機溶剤中で膨潤するため、該ゲル微粒子を含有する本発明のペースト組成物は、上記バインダー樹脂である(メタ)アクリル樹脂の含有量を少なくしても、効率的に粘度を上げることが可能となるからである。また、上記バインダー樹脂である(メタ)アクリル樹脂の含有量を上げることで増粘した場合と比較して、上記ゲル微粒子を含有することで増粘させた本発明のペースト組成物は、糸曳性を抑えることも可能である。
【0022】
上記ゲル微粒子を構成する架橋(メタ)アクリル樹脂としては特に限定されず、例えば、上述したバインダー樹脂である(メタ)アクリル樹脂を多官能モノマーにより架橋させたものが挙げられる。
また、より分解性を良好にするため、上記ゲル微粒子の架橋(メタ)アクリル樹脂は、炭素鎖ができるだけ短いことが好ましい。そのため、上記ゲル微粒子の架橋(メタ)アクリル樹脂としては、メチルメタクリレートの架橋体が好適である。
【0023】
上記多官能モノマーとしては特に限定されず、例えば、ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、(メタ)アクリル酸アリル、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチレオールプロパントリ(メタ)アクリレートや、エチレンオキサイド変性した多官能(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0024】
上記ゲル微粒子は、その架橋の程度により本発明のペースト組成物中での膨潤の程度を制御することができるが、上記ゲル微粒子の架橋の程度は、上記多官能モノマーの添加量を適宜調整することで制御することができる。
【0025】
上記ゲル微粒子の製造方法としては特に限定されず、通常の(メタ)アクリルモノマーの重合に用いられる方法と同様の方法、例えば、溶液重合法やバルク重合法でゲルを作製し、得られたゲルを乾燥後粉砕する方法が挙げられる。上記ゲルの作製は、なかでも、フリーラジカル重合法が簡易で好適であり、上記ゲルは作成後乾燥させるので、溶剤を用いないUV重合法で作製してもよい。
上記ゲル微粒子を上記方法で製造することで、本発明のペースト組成物の含有する不純物としてのイオン濃度が極めて低くなる。これは、上記方法で作製したゲルは、懸濁重合法や乳化重合法等により製造していた市販のアクリル微粒子のように、その製造過程でイオン系界面活性剤やイオン成分を含む重合触媒を用いる必要がないからである。
【0026】
上記ゲルを粉砕する方法としては特に限定されないが、例えば、直刃回転式のミキサーやジェットミル等を組み合わせることで、得られるゲル微粒子の粒径を1μm程度まで細かく粉砕することができる。
【0027】
また、粉砕後に得られるゲル微粒子は、ふるいによって大粒径の未粉砕物を除去することが好ましい。大粒径のゲル微粒子を有すると、後述するゲル微粒子の架橋度が低い場合、無機微粒子とともに有機溶剤に分散させて本発明のペースト組成物とし、スクリーン印刷に用いた際に、膨潤しすぎてスクリーンメッシュに目詰まりを起こす可能性がある。具体的には、上記ゲル微粒子の粒径は、乾燥状態で好ましい下限が0.5μm、上限が3.0μmである。
【0028】
上記ゲル微粒子の含有量としては特に限定されないが、本発明のペースト組成物の低温焼成を可能とするため、上述したバインダー樹脂である(メタ)アクリル樹脂との合計で上限が15重量%であることが好ましく、このうち、上記ゲル微粒子の含有量の好ましい下限は0.5重量%、好ましい上限は5重量%である。0.5重量%未満であると、本発明のペースト組成物の粘度を上げるために上記バインダー樹脂である(メタ)アクリル樹脂の含有量が多くなり、糸曳性に問題が生じることがあり、5重量%を超えると、粘度が高くなりすぎる場合がある。より好ましい下限は1重量%、より好ましい上限は3重量%である。
【0029】
本発明のペースト組成物は、有機溶剤を含有する。
上記有機溶剤としては特に限定されず、例えば、ターピネオール、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、イソホロン、乳酸ブチル、ジオクチルフタレート、ジオクチルアジペート、ベンジルアルコール、フェニルプロピレングリコール、クレゾール等が挙げられる。なかでも、ターピネオール、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート等が好適に用いられる。これらの有機溶剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0030】
本発明のペースト組成物は、無機微粒子を含有する。
上記無機微粒子としては特に限定されないが、金属、ガラス、珪素化合物、カーボンブラック及び金属錯体からなる群より選択される少なくとも1種を原料とするものが好適に用いられる。
具体的には、例えば、銅、銀、ニッケル、パラジウム、アルミナ、ジルコニア、酸化チタン、チタン酸バリウム、窒化アルミナ、窒化ケイ素、窒化ホウ素、ケイ酸塩ガラス、鉛ガラス、CaO・Al・SiO系無機ガラス、MgO・Al・SiO系無機ガラス、LiO・Al・SiO系無機ガラスの低融点ガラス、珪素化合物、種々のカーボンブラック、金属錯体等が挙げられる。
【0031】
上記無機微粒子の添加量としては特に限定されないが、本発明の無機微粒子分散ペースト組成物のうち(メタ)アクリル樹脂、ゲル粒子、有機溶剤等の無機微粒子以外の成分からなるバインダー樹脂組成物100重量部に対して好ましい下限が10重量部、好ましい上限が300重量部である。10重量部未満であると、充分なチキソ性が得られないことがあり、300重量部を超えると、無機微粒子を分散させることが困難となることがある。
【0032】
このような本発明の無機微粒子分散ペースト組成物は、含有するイオン濃度の上限が0.5ppmである。0.5ppmを超えると、不純物の含有量が多く、本発明のペースト組成物を半導体関連用途に用いることができない。このようなイオン濃度は、ゲル微粒子を上述した方法で製造することで達成することができる。
【0033】
上記イオンとしては、具体的にはアルカリ金属イオンが挙げられ、より具体的には、ナトリウムイオンが挙げられる。
このようなイオン濃度の測定方法としては、例えば、電位差分析法等の電位差と電解電流との関係から評価する方法や、発光分光法や高周波誘導結合プラズマ(ICP発光分析法)等が挙げられる
【0034】
また、本発明の無機微粒子分散ペースト組成物は、23℃においてB型粘度計を用いプローブ回転数を10rpmに設定して測定した時の粘度が10Pa・s以上、かつ、30Pa・s未満であることが好ましい。10Pa・s未満であると、スクリーン印刷後に静置して乾燥させる際に自然流延してしまうことがある。
【0035】
本発明の無機微粒子分散ペースト組成物の製造方法としては特に限定されず、上述した(メタ)アクリル樹脂、ゲル微粒子、有機溶剤及び無機微粒子等を従来公知の攪拌方法、具体的には例えば、3本ロール等で攪拌を行えばよい。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、不純物となるイオン濃度が極めて低く、チキソ性及び糸曳性に優れることからスクリーン印刷性に適応し、かつ、低温焼成が可能な無機微粒子分散ペースト組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0038】
(実施例1〜5)
攪拌機、冷却器、温度計、及び、窒素ガス導入口を備えた2Lセパラプルフラスコに、メチルメタクリレート(MMA)100重量部、架橋剤として2メタクリル酸エチレン1重量部、連鎖移動剤、有機溶剤として酢酸エチル100重量部とを混合し、モノマー混合液を得た。
【0039】
得られたモノマー混合液を、窒素ガスを用いて20分間バブリングすることにより溶存酸素を除去した後、セパラブルフラスコ系内を窒素ガスで置換し攪拌しながら還流に達するまでに昇温した。還流後、重合開始剤を酢酸エチルで希釈した溶液を加えた。また重合中に重合開始剤を含む酢酸エチル溶液を数回添加した。
【0040】
重合開始から2時間後、架橋反応が進行し、撹拌モーターが回らなくなる状態で冷却し重合を終了させた。これにより、ポリメチルメタクリレートゲルを得た。得られたポリメチルメタクリレートゲルを離型PETに展開し、80℃オーブンで12h加熱し、溶媒の酢酸エチルを蒸発させ、ゲルを乾燥させた。乾燥ゲルを回転刃式ミキサー(大阪ケミカル社製、ワンダーブレンダー)にて粉砕し、粉砕したゲル粉体をジェットミル(セイシン企業社製、CO−JET System−mkII)にて細粉化した。
ゲル微粒子の粒径は、ジェットミルに通す回数で制御し、表1に示すゲル微粒子を得た。有機溶剤としてテルピネオールを用い、表1に示した配合にて数平均分子量3万のポリメチルメタクリレートとゲル微粒子、無機微粒子として、ガラス粉末(東罐マテリアルテクノロジー社製、ABX169F:融点464℃、粒子径2.5μm)を用い、ペースト中40wt%になるよう配合した。高速撹拌機にて撹拌後、3本ロールミルにてなめらかになるまで混練し、無機微粒子分散ペースト組成物を得た。
【0041】
(比較例1〜3)
ゲル微粒子の代わりに市販の架橋アクリル微粒子を用いて表2に記載したとおり配合を行った以外は、実施例と同様にして無機微粒子分散ペースト組成物を得た。なお、比較例1では架橋アクリル微粒子の添加を行わなかった。
【0042】
(評価)
実施例1〜5及び比較例1〜3で得られた無機微粒子分散ペースト組成物について以下の評価を行った。結果を表1、2に示した。
【0043】
(1)粘度評価
アクリルポリマーとゲル微粒子又はアクリル微粒子との組み合わせで、総樹脂固形分が15wt%、無機微粒子固形分30%になるよう実施例1〜5比較例1〜3において配合したペーストをB型粘度計(BROOK FILED社製、DVII+Pro)を利用して常温で、回転数10rpmにて粘度を評価した。10Pa・s以上の粘度が出た場合、増粘能力が高いと判断した。
【0044】
(2)含有イオン分析
実施例1〜5、比較例1〜3において作製した無機微粒子分散ペースト組成物をICP発光分析装置(セイコー社製、SPS5000)を用いて、高周波出力1.2kW、プラズマガス流量15L/min、キャリアガス流量0.75L/minの条件でNaイオン量を評価した。
【0045】
(3)糸曳性
先端が鋭利な直径2.6mmのステンレス製ピックを無機微粒子分散ペースト組成物へ10mmの深さに刺し500mm/minの一定速度で垂直に引き上げる。ステンレスピックに付着したペースト組成物が延伸され、ペースト組成物と延糸が切れた後、ピックの上昇を止め、ペースト組成物の伸び(糸曳)の長さを安定させる。ステンレスピックを90度寝かせ先端からの長さを評価する。糸曳の長さが10mm以下はスクリーン印刷性に優れるものといえる。
【0046】
(4)スクリーン印刷評価
1cm×2cmの長方形のパターンを切った200メッシュのスクリーン版を用いてガラス板上にスクリーン印刷し、版上の目詰まり状態を評価した。目詰まりを起こさず、長方形の印刷が可能であった物を○とした。印刷像が薄かったり、目詰まり等で長方形の像が出なかった物は×とした。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明によれば、不純物となるイオン濃度が極めて低く、チキソトロピー性及び糸曳性に優れることでスクリーン印刷性に適応し、かつ、低温焼成が可能な無機微粒子分散ペースト組成物を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル樹脂、架橋(メタ)アクリル樹脂からなるゲル微粒子、無機微粒子及び有機溶剤を含有し、含有イオン濃度が0.5ppm以下であることを特徴とする無機微粒子分散ペースト組成物。
【請求項2】
(メタ)アクリル樹脂は、GPC測定におけるポリスチレン換算数平均分子量が5000〜5万であることを特徴とする請求項1記載の無機微粒子分散ペースト組成物。
【請求項3】
(メタ)アクリル樹脂は、ポリメチルメタクリレートであることを特徴とする請求項1又は2記載の無機微粒子分散ペースト組成物。
【請求項4】
ゲル微粒子は、粒径が乾燥状態で0.5〜3.0μmであることを特徴とする請求項1、2又は3記載の無機微粒子分散ペースト組成物。
【請求項5】
ゲル微粒子は、溶液重合若しくはバルク重合により得られたゲルを乾燥後粉砕してなるものであることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の無機微粒子分散ペースト組成物。
【請求項6】
23℃においてB粘度計を用いプローブ回転数を10rpmに設定して測定したときの粘度が10Pa・s以上、50Pa・s未満であることを特徴とする請求項1、2、3、4又は5記載の無機微粒子分散ペースト組成物。
【請求項7】
(メタ)アクリル樹脂とゲル微粒子との総含有量が15重量%以下であり、かつ、前記ゲル微粒子の含有量が0.5重量%以上、5重量%未満であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5又は6記載の無機微粒子分散ペースト組成物。
【請求項8】
無機微粒子は、金属、ガラス、珪素化合物、カーボンブラック及び金属錯体からなる群より選択される少なくとも1種からなるものである請求項1、2、3、4、5、6又は7記載の無機微粒子分散ペースト組成物。

【公開番号】特開2008−63457(P2008−63457A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−243315(P2006−243315)
【出願日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】