説明

無機顔料画像の形成方法

【課題】ほうろう基板上に、ひび割れ状あるいは斑点状の白抜けムラのない、高濃度でかつ解像度の良い焼成画像を安定的に得ることができる無機顔料画像の形成方法を提供する。
【解決手段】転写紙上に形成された無機顔料画像を、水不溶性有機ポリマーを介してほうろう基板上に配置し、250〜600℃の温度で有機成分を灰化させた後に、昇温して焼成することを特徴とするほうろう基板への無機顔料画像の形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ほうろう基板への無機顔料画像の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、台紙上に水溶性糊層(場合により更に樹脂層)が形成された転写紙上に無機着色顔料よりなる画像を形成し、または場合により更にフラックス等を含む層やカバーコートレジン層を形成し、ついで水に浸して台紙を除去して、金属の表面にほうろう釉を施釉した基体に貼り付けて乾燥し、750〜900℃に保持された電気炉等で焼成することにより、ほうろう基板上に無機顔料画像が形成されている。
【0003】
また、近年、転写紙上にレーザープリンター(特開2002―283799号公報)やインクジェットプリンター(特開2002−293021号公報)を用いて無機顔料画像を形成し、上記と同様な方法で金属の表面にほうろう釉を施釉した基板に、貼り付けて乾燥し、750〜900℃に保持された電気炉等の窯で焼成することもできる。このとき無機顔料を形成する転写紙は、台紙上に水溶性糊層が形成された上に、更に水不溶性のポリマー層を形成したものが用いられることもある。
【0004】
このように、ほうろう基板への無機顔料画像の形成に際しては、無機顔料画像を転写した基板を750〜900℃に保持された窯に入れ、その温度で短時間(通常1〜10分間程度)保持し、窯から出して冷却する方法により絵付け焼成されてきた。この方法によると、画像濃度が高い画像(無機顔料が多量に存在する部分)がひび割れ状あるいは斑点状の白抜けムラが発生するという問題があった。本発明者は、この問題の発生原因を探るために鋭意検討した結果、不熔解の着色顔料は釉薬中を移動して凝集するが、移動してなくなった部分が白抜けムラとなりやすく、また台紙上に水溶性糊層、水不溶性ポリマー層が順次設け、その上に無機顔料画像(場合により更にフラックス層)が設けられた転写紙を用いた場合に特に起こりやすく、更に、画像濃度を高くするために画像を形成する顔料中のガラス成分(釉薬;フリットまたはフラックス成分)を減らし、顔料濃度を高くしている場合に特に起こりやすい傾向があることがわかった。また、ほうろう基板の周辺部に起こりやすい傾向が見られた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002―283799号公報
【特許文献2】特開2002−293021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ほうろう釉を焼き付けたほうろう基板上に、ひび割れ状あるいは斑点状の白抜けムラのない、高濃度でかつ解像度の良い焼成画像を安定的に得ることができる、無機顔料画像の形成方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下の発明を提供する。
【0008】
(1)転写紙上に形成された無機顔料画像を含む層を、水不溶性有機ポリマーを介してほうろう基板上に配置し、250〜600℃の温度で有機成分を灰化させた後に、昇温して焼成することを特徴とするほうろう基板への無機顔料画像の形成方法。
(2)600〜750℃で焼成する上記(1)に記載の無機顔料画像の形成方法。
(3)300〜500℃で有機成分を灰化する上記(1)または(2)に記載の無機顔料画像の形成方法。
(4)350〜450℃で有機成分を灰化する上記(1)〜(3)のいずれかに記載の無機顔料画像の形成方法。
(5)無機顔料画像が、目的とする画像データにしたがって転写紙上に形成された上記(1)〜(4)のいずれかに記載の無機顔料画像の形成方法。
(6)無機顔料画像が、スクリーン印刷、電子写真法、インクジェット印刷、熱転写法、またはクロマリン印刷により形成される上記(1)〜(5)のいずれかに記載の無機顔料画像の形成方法。
(7)転写紙が、台紙およびその上に塗布された水溶性糊層からなる上記(1)〜(6)のいずれかに記載の無機顔料画像の形成方法。
(8)無機顔料画像の上に、フラックス層および/またはカバーコートレジン層が形成される上記(1)〜(7)のいずれかに記載の無機顔料画像の形成方法。
(9)さらに750℃を超え、1200℃までの温度で焼成する上記(2)に記載の無機顔料画像の形成方法。
(10)無機顔料画像が、フリットおよび無機顔料を含む上記(1)〜(9)のいずれかに記載の無機顔料画像の形成方法。
(11)無機顔料画像の層に含まれるフリット含有率が25wt%以下である上記(10)に記載の無機顔料画像の形成方法。
(12)無機顔料画像の層に含まれるフリット含有率が1〜10wt%以下である上記(10)または(11)に記載の無機顔料画像の形成方法。
(13)転写紙上に形成された無機顔料画像を、水不溶性有機ポリマーを介さないでほうろう基板上に配置し、ついで600〜750℃の温度まで昇温して焼成し、ここで300〜600℃での昇温時間が30分間〜2時間であることを特徴とするほうろう基板への無機顔料画像の形成方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の無機顔料画像の形成方法によれば、ほうろう釉を焼き付けたほうろう基板上に、ひび割れ状あるいは斑点状の白抜けムラのない、高濃度でかつ解像度の良い焼成画像を安定的に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の無機顔料画像の形成方法は、転写紙上に形成された無機顔料画像を、水不溶性有機ポリマーを介してほうろう基板上に配置し、250〜600℃の温度で有機成分を灰化させた後に、昇温して焼成することを特徴とする。
【0011】
本発明方法において、ほうろう基板は、常法により金属表面に無機ガラス質であるほうろう釉を焼き付けた基板であり、素地金属基板としては鋼板、鋳鉄、銅、アルミニウム等が通常用いられる。
【0012】
本発明方法において、1つの態様において、転写紙は台紙およびその上に塗布された水溶性糊層からなる。台紙は、紙類のようなシート状の基材が挙げられる。紙類としては、平滑性の良好なものが好適である。台紙の厚さは、通常10〜400μm程度であり、25〜200μmが好ましい。
【0013】
台紙上に塗布される水溶性糊層としては、例えば、デキストリン、アラビアゴム、ポリマー、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ゼラチン等が好ましい。水溶性糊剤の層厚は、通常0.2〜20μmであり、好ましくは0.7〜15μmである。塗布は、公知の各種のコーティング法によることができる。
【0014】
後述するように、無機顔料画像が形成された転写紙をほうろう基板に貼る工程において、転写紙を水に浸すと、水溶性糊層が溶解され、たとえば水不溶性ポリマー層/無機顔料画像層(/フラックス層)/カバーコートレジン層がほうろう基板上にスライド転写され、乾燥して接着する。この際に水溶性糊層は接着剤の役割をする。
【0015】
本発明方法においては、上記転写紙上に形成された無機顔料画像は、水不溶性有機ポリマーを介してほうろう基板上に配置される。水不溶性有機ポリマーは主として支持体の機能を有する。
【0016】
水不溶性有機ポリマーとしては、特に制限されないが、例えば、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリアミド、ポリスチレン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ロジン系樹脂等が挙げられる。これらの水不溶性有機ポリマーの層厚としては、通常0.2〜20μmであり、好ましくは0.7〜15μmである。
【0017】
水不溶性有機ポリマー上に形成される無機顔料画像は、フリットおよび無機顔料を含む。フリットおよび無機顔料の粉末混合物を用いる方法、これらの混合物を一旦加熱して溶融した後、冷却固化させ、これを粉砕して作製する方法などがある。高濃度かつ高解像度の焼付け画像を得るためには、無機顔料の含有率を高くするのが好適である。
【0018】
フリットとしては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、酸化鉛、酸化ビスマス等のアルカリ金属化合物;炭酸バリウム、炭酸ストロンチウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛等のアルカリ土類金属化合物;酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム等の中性成分;酸化ケイ素、ホウ酸、酸化ジルコニウム、酸化チタン等の酸性成分;等が挙げられる。また、硼砂、石灰長石やカリ長石、ソーダ長石、ベタライト(リチウム長石)等の長石類、カオリン、珪石、アルミナ、シリカ、石英、酸化チタン、酸化鉛、シャモット、土灰類、石灰石、マグネサイト、タルク、ドロマイト等の天然鉱物や複合成分を使用することもできる。
【0019】
これらのフリットは、素地金属基板との密着を目的とする下釉、下釉の上に掛け仕上げを目的とする上釉、または密着と仕上げの両方を目的とする直接掛け、に用いるために常法により配合され得る。たとえば、代表的な下釉フリットは次のとおりである。
【0020】
(NaO+KO):20wt%、CaF:5wt%、Al:5wt%、B:15wt%、SiO:55wt%、Co:0.3〜0.5wt%
無機顔料画像の層に含まれるフリット含有率は、通常25wt%以下、高濃度、高解像度の焼付け画像を得るためには好ましくは10wt%以下、特に好ましくは1〜5wt%である。
【0021】
無機顔料(着色剤)としては、たとえば、酸化銅、酸化コバルト、酸化クロム、オリビン、バデライト、コランダム、ジルコン等の金属酸化物;硫化カドミウム等の硫化物;セレン赤等のセレン化カドミウム化合物、金コロイド、銀コロイド等が挙げられる。通常、これらの着色剤を2種以上混合して加熱溶融し調合顔料として用いる。また、蛍光顔料や蓄光体顔料である無機顔料を使用することもできる。白色顔料として、TiO 、ZrO 等の微粒子を含有させることが好ましい。
【0022】
調合顔料としては、たとえば、硫化カドミウム、酸化カドミウムおよびセレニウムの赤色調合顔料;硫化カドミウム、酸化カドミウムおよびセレニウムの黄色調合顔料;二酸化マンガンおよび酸化クロムの褐色調合顔料;酸化クロムおよび酸化ニッケルの緑色調合顔料;炭酸マグネシウムおよび酸化コバルトの青色調合顔料;酸化コバルト、二酸化マンガン、酸化クロムおよび酸化鉄の黒色調合顔料、等が挙げられる。
本発明方法において、無機顔料画像は、目的とする画像データにしたがって、スクリーン印刷、電子写真法、インクジェット印刷、熱転写法、クロマリン印刷等により転写紙上に形成される。たとえば、焼き付けようとする画像を用意し、その画像データにしたがって転写紙表面に無機顔料画像を形成する。無機顔料画像を形成するにはスクリーン印刷等の印刷方法、無機顔料をトナー化した電子写真方法、校正用のオフセット印刷であるクロマリン法、無機顔料をインク化し、インクを直接吐出して印刷するインクジェット法、インクジェット等により粘着性付与性インクで潜像を作製し、これに無機顔料を振りかけて潜像に接着させ、無機顔料画像を形成する方法、無機顔料を塗布した転写シートを用いた転写方法(例えば特開2002−293021号公報、特開平9−236999号公報)など、無機顔料画像を形成できるいずれの方法を利用してもよい。
上記の無機顔料画像の上に、さらにフラックス層および/またはカバーコートレジン層が形成されていてもよい。ここで、フラックス層は、無機顔料画像の表面保護の機能を有し、堅牢性、光沢を向上させ得る。
【0023】
たとえば、上記フリット成分をフラックス層として無機顔料画像層の上に透明ガラス層を形成するのが好ましい。この場合のフラックス層の塗布量は通常1g/m2以上、好ましくは2g/m2以上、更に好ましくは3g/m2以上、特に好ましくは4g/m2以上である。透明ガラス層は、無機顔料を画像状に転写紙表面に設けた後、その上にフラックス層を積層し、ほうろう基板表面に配置し焼成することで設けることができる。
【0024】
あるいは、転写紙上に予めフラックス層を設け、この上に上記の方法で左右反転無機顔料画像を形成し、ほうろう基板上に、フラックス層が無機顔料画像層より上になるように配置し、焼成して、透明ガラス層を形成することもできる。
【0025】
フラックス層を設ける方法は、塗布、転写、印刷等を用いることができる。
【0026】
カバーコート層は、無機顔料画像の保護を主たる目的とする。下方の水不溶性有機ポリマーは、厚いと白抜けむらが生じやすいため、薄くしたいという要請がある。ところが、その水不溶性有機ポリマーが薄くなるにつれて作業時にはく離したり、破れやすくなる。カバーコート層は、このような問題を防止して強度を維持する役割を担う。カバーコート層は、上記の水不溶性有機ポリマーと同様な材料を用いることができ、その膜厚は、通常5〜50μm程度、好ましくは10〜30μmから選ばれる。
【0027】
上記のように、転写紙上に形成された無機顔料画像は、250〜600℃の温度で有機成分を灰化され、ついで焼成される。この灰化工程において、好ましくは300〜500℃、特に好ましくは350〜450℃の温度で、通常5分間以上、好ましくは10分間以上、特に好ましくは20分間以上加熱し、有機成分を灰化させる。ついで、昇温して600〜750℃、好ましくは650〜730℃の温度で、通常3〜60分間程度、好ましくは5〜45分間、特に好ましくは10〜30分間焼成される。ほうろう基板の素地基板がアルミニウムである場合には、アルミニウムの融点(約660℃)よりも低い温度、たとえば600〜630℃が採用される。
【0028】
さらに、用いたフリットの組成等により必要に応じて、さらに750℃を超え、1200℃までの温度で焼成することもできる。
【0029】
上記の灰化工程および焼成工程において、昇温速度は温度によっても異なり得るが、好ましくは上記の時間範囲から選択される。
【0030】
以上のように、本発明の好適な1つの態様においては、台紙上に水溶性糊層、水不溶性ポリマー層をこの順に有する転写紙上に無機顔料画像層を設けた転写紙を作製する転写紙作製工程、転写紙を水に浸して水溶性糊剤を溶解し、ほうろう基板上にスライド転写し、乾燥して、ほうろう基板/水溶性糊剤による接着層/水不溶性ポリマー層/無機顔料画像層をこの順に有するほうろう基板製造工程、無機顔料画像を有するホーロー金属基板を250〜600℃の温度に加熱して有機成分を灰化する灰化工程、ならびに600〜750℃の温度で焼成する焼成工程、を有する。
【0031】
本発明者の知見によれば、ひび割れ状あるいは斑点状の白抜けムラの発生原因は次の
とおりであると推測される。
(1)加熱によりほうろう釉薬(フリット)が熔けて着色顔料と混ざり、更に膨張し、冷えて固まる際収縮する、そのとき、不熔解の着色顔料像中の熔解しているフラックス成分が少ないと顔料像が脆くなって、焼成時、膨張/収縮する際にひび割れ状あるいは斑点状の白抜けムラが発生する。上記白抜けムラが発生しやすくなる要因として考えられるのは、(a)着色顔料含有率高く且つ塗布量が多い(画像濃度が高い)と、着色顔料は硬くひび割れしやすい;(b)ほうろう釉薬(フリット)の熔解時の熱膨張率が高い場合;(c)焼成温度が高いと、膨張率が高くなる、である。
(2)加熱によりほうろう釉薬(フリット)が熔けるが、不熔解の着色顔料は釉薬中を移動して凝集する。そのとき顔料が移動してなくなった部分が白抜けムラとなる。この場合の白抜けムラが発生しやすくなる要因として考えられることは、(a)釉薬の熔解粘度が低いと着色顔料は凝集しやすくなる;(b)着色顔料の量が多いほど凝集しやすい、である。
(3)無機顔料画像が転写されたほうろう基板を焼成する際、有機質は燃焼し、水、炭酸ガス等にガス化する。この時、無機着色顔料層とほうろう基板の間に水不溶性ポリマー層が存在すると、無機着色顔料層とほうろう基板の間に発生したガスにより隙間ができ、そのために無機着色顔料像がほうろう釉上に融着するのを妨害し、その部分が白抜けムラとなる。この現象は、750℃〜900℃の高温でいきなり焼成すると起こりやすい。それはガスの発生が急激に起こり、そのため上記現象が起こりやすくなると考えられる。
【0032】
本発明のもう1つの態様において、ほうろう基板への無機顔料画像の形成は、好適には、金属表面にほうろう釉を焼き付けたほうろう基板上に、水不溶性有機ポリマーを介さないで無機顔料画像を配置し、600〜750℃の温度まで昇温して焼成し、かつ300〜600℃での昇温時間を30分間〜2時間とすることにより行なわれる。
【0033】
たとえば、スクリーン印刷による場合、フリットの微粉末と無機顔料を油で練った釉薬を、シルク等のスクリーンを用い、上記の水不溶性有機ポリマーを用いないで、ほうろう基板に直接印刷して焼成するのが通常である。平板への単色刷りに特に適し、多色刷りも可能であるが、コスト等からは比較的有利ではない。
【0034】
ほうろう基板上に、水不溶性有機ポリマーを介さないで無機顔料画像を配置し、600〜750℃の温度まで昇温して焼成する場合にも、水不溶性有機ポリマーに起因する白抜けムラ等の発生はないが、本発明者の知見によれば前記原因によると推測される割れ状あるいは斑点状の白抜けムラ発生のおそれは依然として存在する。そこで、本発明者は、種々の検討を行ない、意外にも600〜750℃の温度で焼成するに際し、300〜600℃での昇温時間を30分間〜2時間とすることにより、これらの欠陥の少ない無機顔料画像を得ることができることを見出したものである。好適には昇温時間は1時間〜1.5時間である。
【実施例】
【0035】
実施例1
(画像転写紙の作製)
(株)クラレ製PVA105の5%水溶液20部に尿素5%水溶液4部、水70部、水酸化ナトリウム0.5%の水溶液5部、イソプロピルアルコール10部を加えた粘着性潜像形成物質溶液1を作成した。
【0036】
台紙上にデキストリン2g/m2、アクリル系樹脂2g/m2塗布された転写紙上に、厚物用インクジェットプリンターPCM(アスカ社製)のブラック用インクカセットに上記粘着性潜像形成物質溶液1を充填し、絵付けをしたい画像のディジタル化された高濃度と、低濃度の黒の画像情報を印画し、粘着性潜像を形成した。
【0037】
該粘着性潜像の形成された受像シートにブラック顔料(Ni-Co-Fe-Cr系の酸化物よりなる着色顔料100%)を降り掛けて、潜像部分に該ブラック顔料を接着させ、刷毛で未接着部分のブラック顔料を履き落とした。
【0038】
該無機顔料画像が接着形成された受像シート上に、フラックス(13200;イザワピグメント製)を45重量%含有するメタクリル系樹脂を主成分とするオーバーコートラッカーを乾燥膜厚15μmとなるように塗布し乾燥して転写紙Aを作成した。
【0039】
転写紙A の作製において、アクリル系樹脂を塗布しない以外転写紙Aと同様にして、転写紙Bを製作した。
【0040】
(ほうろう基板の製作)
板厚1.5mmのステンレス鋼板SUS430の両面をショットブラストした。次いで、アルカリ脱脂液を用いて金属片表面を脱脂した。ほうろう用フリットとして表1のフリットAの組成を持つものを用意し、このフリット100重量部に対し水45重量部を混合撹拌し、ほうろう釉薬を調製した。ほうろう釉薬を金属片表面にスプレー塗布した後、800℃で5分焼成することによりほうろう被覆層(膜厚:約0.5mm)を形成した。
【0041】
【表1】

【0042】
(ほうろう基板への貼り付け)
前記画像形成された転写紙を水に浸して水溶性ポリマーを溶解し、無機顔料画像とカバーコート層とを支持体から剥離し、デキストリン塗布層側をほうろう基板の表面に接触させて接着した。
【0043】
この顔料が表面に置かれたほうろう基板を熱炉に入れて表2に示した焼成または灰化・焼成方法により加熱した。この間にほうろう基板の表面のほうろう釉は溶融し、表面の顔料は溶融物の中に取り込まれた。このときの焼き付けられた黒画像の濃度は高濃度部が2.3、低濃度部が1.2であった。
画像の中に発生する白抜けムラの発生程度を評価し表2に示した。
【0044】
【表2】

【0045】
(白抜けムラ評価) ○:発生なし
△:極わずか発生するが、実用上問題はない
×:明らかな発生あり、実用上問題
××:発生大、実用上問題
実施例2
転写紙をレーザープリンターで作製した。
レーザープリンタ:Ricoh2800 Digital System
トナー:Baltea DC社
Cyan: CTCRH1
Magenta: CTMRH1
Yellow: CTGRH1
Black: CTCKH1
を使用した。転写紙(転写紙A)及びほうろう基板は実施例1と同様な構成のものを使用した。
【0046】
転写紙上に上記のレーザープリンター及びトナーを用いて、高濃度部から低濃度部まで有するフルカラーの写真画像の無機着色顔料像を形成した。
【0047】
その転写紙を用いて表3に示した焼成または灰化・焼成し、白抜けムラを実施例1と同様に評価し、表3に併せて示した。
【0048】
【表3】

【0049】
実施例3
実施例2のほうろう基板の製作において、フリットAの代わりに表1記載のフリットB及びCを用いる以外同様にしてほうろう基板を製作した。
【0050】
実施例1及び本実施例で製作したフリットA、B及びCを用いたほうろう基板を用いることと、焼成時の焼成方法を表4に示した方法で行う以外は実施例2と同様にしてほうろう基板に写真画像を焼き付けた。その焼き付けた写真画像の白抜けムラの発生結果を表4に併せて示した。
【0051】
なお、フリットA,B,及びCを750℃に溶解したときの熔解粘度はB,A,Cの順に高くなっていた。
【0052】
【表4】

【0053】
上記結果より、焼成温度が750℃より高い場合はしろ抜けムラが発生しやすく、また、フリットの粘度の高い方が白抜けムラが発生しにくい傾向があることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によれば、ほうろう基板上に、ひび割れ状あるいは斑点状の白抜けムラのない、高濃度でかつ解像度の良い焼成画像を安定的に得ることができる無機顔料画像の形成方法を提供し得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転写紙上に形成された無機顔料画像を含む層を、水不溶性有機ポリマーを介してほうろう基板上に配置し、250〜600℃の温度で有機成分を灰化させた後に、昇温して焼成することを特徴とするほうろう基板への無機顔料画像の形成方法。
【請求項2】
600〜750℃で焼成する請求項1に記載の無機顔料画像の形成方法。
【請求項3】
300〜500℃で有機成分を灰化する請求項1または2に記載の無機顔料画像の形成方法。
【請求項4】
350〜450℃で有機成分を灰化する請求項1〜3のいずれか1項に記載の無機顔料画像の形成方法。
【請求項5】
無機顔料画像が、目的とする画像データにしたがって転写紙上に形成された請求項1〜4のいずれか1項に記載の無機顔料画像の形成方法。
【請求項6】
無機顔料画像が、スクリーン印刷、電子写真法、インクジェット印刷、熱転写法、またはクロマリン印刷により形成される請求項1〜5のいずれか1項に記載の無機顔料画像の形成方法。
【請求項7】
転写紙が、台紙およびその上に塗布された水溶性糊層からなる請求項1〜6のいずれか1項に記載の無機顔料画像の形成方法。
【請求項8】
無機顔料画像の上に、フラックス層および/またはカバーコートレジン層が形成される請求項1〜7のいずれか1項に記載の無機顔料画像の形成方法。
【請求項9】
さらに750℃を超え、1200℃までの温度で焼成する請求項2に記載の無機顔料画像の形成方法。
【請求項10】
無機顔料画像が、フリットおよび無機顔料を含む請求項1〜9のいずれか1項に記載の無機顔料画像の形成方法。
【請求項11】
無機顔料画像の層に含まれるフリット含有率が25wt%以下である請求項10に記載の無機顔料画像の形成方法。
【請求項12】
無機顔料画像の層に含まれるフリット含有率が1〜10wt%以下である請求項10または11に記載の無機顔料画像の形成方法。
【請求項13】
転写紙上に形成された無機顔料画像を、水不溶性有機ポリマーを介さないでほうろう基板上に配置し、ついで600〜750℃の温度まで昇温して焼成し、ここで300〜600℃での昇温時間が30分間〜2時間であることを特徴とするほうろう基板への無機顔料画像の形成方法。