説明

無機顔料組成物とその製造方法

【課題】高温安定性で毒性のない無機質顔料および利用技術の分野において、カドミニウムなどの有害物を使用せず、これに代わる高温安定で環境にも安全な黄色顔料を提供する。
【解決手段】セリウム元素が黄色の発色に有効であり、高温安定で焼成時に分解しないセラミック組成と発色特性を両立させることで、セリウムとジルコニウムを含む酸化物の混合物が有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
環境に影響が少なく、高温安定性および毒性のない明るい黄色無機顔料および利用技術の分野における発明である。
【背景技術】
【0002】
無機顔料は、セラミック、ペイントやプラスチック産業において広く使用されている。その用途には、特有の色合いや着色性のほか、熱的安定性、化学的安定性、安全性、分散性が必要とされ、適当な顔料を選択する際にはそれらを満たす材質であることが重要である。
現在用いられている無機黄色顔料として新成分での黄色顔料の開発が求められている。黄色顔料としては、カドミウム黄(CdS)、バナジン酸ビスマス系化合物(BiVO4)、硫化ランタン(La2S3)、プラセオジム黄(ZrSiO4:Pr)などがあげられる。これらをベースに様々な配色がなされるが、黄色系の顔料はカドミニウム他の有害成分を含む無機顔料の利用が依然として主流である。有害なカドミニウム(Cd)の使用が問題となり、これに代わる適当な材料の研究がつづけられている。セリウム(Ce)を含むと黄色が発色する場合がありその例が特許文献にみられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】

【特許文献1】特開H05-270835
【特許文献2】特開H07-188578
【特許文献3】特開2001-247313
【特許文献4】特開2007-191324
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
有害物の使用が問題とされているがこれに代わる適当な材料がないため、製造上の留意を要しながらも産業上は従来顔料が広く用いられている。将来、このような有害物の利用が制限されるときには、その代替材料が必要とされる。とくに、また、陶磁器など製造条件(絵付け工程)から、高温安定で分解しない材質と工程が限定される問題があり、熱安定で無害な顔料も必要とされる。本発明ではセリウム元素が黄色の発色に有効であり、高温安定で焼成時に分解しないセラミック組成と発色特性を両立させることで、高温で安定で、無害な環境にも安全に使える顔料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、このような目的を達成するために種々の検討を重ねた結果、セラミックス
基の高温安定な新規な黄色顔料を見出した。
とくに明るい黄色の美しい顔料として複雑な組成や安定性に関して調整の手間のない実用的な材料を見出した。黄色系の制御が可能にする一連のセリウムージルコニム酸化物組成系を用い、さらに均一な固溶体結晶構造を有するために他の酸化物をドープするセラミックス粉末で、ミクロなレベルで混合状態が得られ、結晶構造面で安定化することにより良好な呈色性を示す。例えば、合成方法としては溶液から沈殿法を用いて均一な成分混合状態をもたらす。
具体的には以下のような構成においてその解決が可能になる。
(1)ジルコニウム(Zr)とセリウム(Ce)の酸化物を含み、この成分のCeとZrの合計に対するZrの割合(原子%)が20%から80%の範囲の組成物よりなり、特に優れては40%から80%の範囲の組成物よりなり、両者の固溶体を含むことを特徴とする黄色の無機顔料である。
(2)ジルコニウム(Zr)とセリウム(Ce)の酸化物を含み、さらに添加物のイットリウム、ランタン、イッテリビウムの酸化物うちから選ばれた1以上を含み、X+Y+Z=100%となる組成で、この成分のCeとZrのその他の合計に対するZrの割合(原子%)Xが30から70%、Ceの割合Yが50から10%、イットリウム、ランタン、イッテリビウムの酸化物に1以上の割合Zが残部である黄色の無機顔料である。
(3)所定の金属成分を溶液からの沈殿から固形物を生成させ400℃以上1000℃未満で焼成することを特徴とする請求項1、2記載の顔料の製造方法である。
(4)セラミック、ガラス、ペイント、プラスチック、ゴム、紙、インク、化粧品、染料及び各種有色皮膜の形成のための組成物において、請求項1、2記載のいずれかの顔料を10重量%以上含むことを特徴とする着色用組成物である。
(5)セラミックス製品の色付け工程に用いる組成物において、請求項1〜3のいずれかの顔料および成分を含む溶液を塗布し400℃以上1000℃未満の温度で焼成することを特徴とする着色層の製造方法である。
【発明の効果】
【0006】
以上のように、本発明の組成物からなる顔料とその製造法を含む発明は、着色が必要な利用分野で安心し使え無害であり、かつ焼成できる黄色顔料となり、明るい色調合が可能になる。本発明は、有害物の利用が制限されその代替材料が必要とされるとき、セリウム元素が黄色の発色を有効に活かして高温安定で、焼成時に分解しないセラミック組成と発色特性を両立させ、日常やさまざまな環境にも安全に使える顔料を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を実施するにあたり、さらに詳しく、具体的な構成と形態について説明する。
ジルコニウムとセリウムの酸化物を含み、この成分のCeとZrの合計に対するZrの原子割合が20%から80%の範囲の組成物よりなり、ジルコニウム(Zr)とセリウム(Ce)の酸化物である両者の固溶体を含むことを特徴とする黄色の無機顔料で、明るい黄色を示す顔料として適当になり好ましい材料である。ここで、セリアジルコニア系化合物は詳細には複雑な状態を示すとの研究があるが、本発明では、その一部が固溶体を形成していることが望ましい。セリウムがジルコニウム酸化物中にあることによって、あるいは、ジルコニウムがセリウム酸化物にその結晶構造として一体化していると、この状態が黄色を呈するため、この一体となった結晶形態であることが必要となる。しかし、組成によって適切な実施様態を示すのですべての粉末が特定の構造にあることは必要でなく、複合酸化物やそれらの混合物、また一部は単体であっても全体として顔料として使用しうる。
さらに第二の発明として、ジルコニウム(Zr)とセリウム(Ce)の酸化物とさらに添加物のイットリウム、ランタン、イッテリビウムの酸化物うちから選ばれた1以上を含み、この成分のCeとZrのその他の合計原子割合に対するZrの割合Xが30から70%、CeYが10から50%、残部Zをイットリウム、ランタン、イッテリビウムの酸化物に1以上とする粉末状組成物よりなる黄色の無機顔料があげられる。但ここにX+Y+Z=100%である。添加物は、高い温度での結晶相の安定性を増す効果があり、また微粒化をほどこし混合をしやすくできる。
本発明において第一発明で、セリウム、ジルコニウムを金属酸化物成分として含まれることが必要であるが、ほかに何も添加しない場合でも本発明における顔料の明るい色が発現する。第二の発明では、その添加剤が顔料内では結晶学的な固溶体を形成するように酸化ジルコニウムの格子内に少なくとも一部分あるいは全体的にセリウムが一体となっていることが望ましい状態であり、さらに、イットリウム、ランタン、イッテリビウムにより、顔料が高い結晶相の純度を有するよう安定化されるのに適当である。
本発明の顔料は酸化ジルコニウムの結晶構造に他の安定化剤元素を含むこともできる。これらの安定化剤は例えばカルシウム酸化物、マグネシウム酸化物などジルコニア耐火物として使用されて周知でありそして一般にはアルカリ土類金属である。また、希土類金属も知られているにせよ、セリウム、ジルコニウムとの顔料組成において、色の変化にはわかりやく記載はないので個々の色調は詳細には予想できない面がある。しかし、本発明は周期律表で原子番号が57〜71の元素の使用を除外するものではない。
例えば、特許文献、特開H07-188578は、少量セリアをジルコニアに含む顔料に関してさらにイットリウムの使用について述べ、立方晶形態で酸化ジルコニウムを安定化させ立方晶が100%の生成物を得ることが可能でありこの構造は顔料に対して淡黄色を付与する旨の記述があるが、実際には、本発明の以下の実施例に示すように、比較的セリウム量の多い特定組成においてのみに優れた黄色顔料組成物となるので、一概に淡黄色を付与すると概略して述べることは事実と異なることが、本実施例で記載ような実験結果が得られてはじめて明らかとなった。本発明の第二の発明では、特定組成にて安定ですぐれた黄色の顔料が得られている。
また、とくに陶磁器用顔料ではしばしばある高温条件での焼成にも安定で色調を有する必要がある。このような場合には、一般に有色性成分は、その元素や金属の性質により一部の成分が金属酸化物中から析出したり、極端な場合には焼成等の顔料を使用した製造時に揮散等し、成分量の変化や変色で回復できない材料の変化がおこる懸念がある。本発明ではこのような変化が全くない顔料で安定なため黄色が高温焼成時でも得られる。
なお、本発明の顔料粉末においての色度座標について、座標a*は好ましくはゼロを挟んでマイナス5から5の間、またL*は少なくとも20である。また、顔料を混合して用いた場合にはその含量において適切な色彩を有し、そのような他の色彩との混合での使用の場合を除外するものではない。第一、第二の発明の組成については実施例に詳細に述べている。
さらに、第三の発明としては、上記の顔料の製造方法を提供するものであり、とくに400℃以上1000℃未満の温度で焼成することで、適切な顔料が得られる。
第四の発明は、セラミック、ガラス、ペイント、プラスチック、ゴム、紙、インク、化粧品、染料、皮革及び各種有色皮膜の形成のための組成物において、顔料を10重量%以上含むような他の素材との混合あるいは一体化した材料を顔料とする特徴ある着色用組成物を提案できる。これは、上記の本顔料が無害で安定であるため広い範囲で混合、複合をおこなえることに由来する。10重量%はそれ以下とすると配合のための設定がしにくく着色性を必要とする場合の不具合のもとになる。
第五の発明は、セラミックス製品の色付け工程に用いる組成物において、第一から第三のいずれかの発明の顔料で400℃以上1000℃未満の温度で焼成することを特徴とする着色用組成物および着色層状物であり、とくに日常多用する陶磁器の着色において安定性に優れる特徴がいかされる分野への応用が期待される。1000℃未満の焼成で陶磁器上に着色を可能にするが、1000℃以上の焼成を排除するわけではなく、広く上記のような分解や揮散がなく焼成に適している顔料であり、なおかつ複合化により層状に焼成付けが可能にある顔料ならび層状の材料、物体の使用形態を提示する。
本発明の第三の発明としての製造方法は、例えば、所定の成分である金属化合物もしくは金属塩水溶液、その混合物または金属の酸溶液を混合し、これに沈殿剤を加えて得られた沈殿物を焼成する方法により製造することができる。ここで、所定の金属化合物の酸または水溶液は、反応により組成が上記に記載の望ましい組成からなる金属成分が複合する酸化物となる溶液である。
本発明の黄色顔料の製造例は、以下の方法に限定されるものではないが、組成がCe0.4Zr0.6O2で表される顔料の例により説明する。ここに、0.4と0.6は、CeとZrの合計に対するCeとZrの原子分率をそれぞれ表す。塩化セリウム水溶液、塩化ジルコニル水溶液、をCe:Zr:Yのモル比が2:3となるように混合する。これにアンモニア水を過剰に加えその溶液のpHが10にあるように調整し十分攪拌する。得られた沈殿物を吸引濾過し多少の洗浄を行い回収したのち、大気中乾燥し、その後例えば600℃3時間で焼成することにより製造できる。
本発明の黄色顔料の製造例は、以下の方法に限定されるものではないが、組成がCe0.3Zr0.50.2O1.9で表される顔料の例により説明する。Ce(NO3)3水溶液、ZrO(NO3)2水溶液、およびY(NO3)3水溶液をCe:Zr:Yのモル比が3:5:3となるように混合する。これにアンモニア水を過剰に加えその溶液のpHが10にあるように調整し十分攪拌する。得られた沈殿物を吸引濾過し多少の洗浄を行い回収したのち、大気中乾燥した。その後例えば600℃3時間で焼成することにより製造できる。
溶液に含まれる金属成分は、セリウム化合物、ジルコニウム化合物、およびイットリウムもしくはランタン、イッテリビウム化合物として供給され、例えば高純度の硝酸塩、オキシ硝酸塩、塩化物、オキシ塩化物、硫酸塩、オキシ硫酸塩、酢酸塩など、酸あるいは水に可溶な化合物があげられる。また、セリウム等の金属を硝酸等に溶解した水溶液を原料としてもよい。また上記の混合物でもよい。ここで、高純度は、99.5%程度以上をいい色の純粋さに影響を与えなければ使用してもよいが、望ましくは、着色源のセリウムについては99.95%以上を利用すればなおよい。
例えばアンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、シュウ酸、炭酸ガス、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウムの水溶液を上記の金属を溶解した液に入れ固化させるが、それらの混合物を使用してもよい。
本発明の黄色顔料は、例えば、所定の金属化合物の酸または水溶液を混合し、これに沈殿剤となるクエン酸などの不溶性の錯体化合物を形成される沈殿法によっても作製してもよい。また、水溶性の有機酸や錯形成剤を加えて溶媒を除去することでそれらの複合もしくは混合した有機酸塩や錯体を得てから焼成する製造方法も適当である。
本発明の黄色顔料の製造例は以下の方法に限定されるものではないが、組成がCe0.3Zr0.50.2O1.9で表される顔料の例において、Ce(NO3)3水溶液、ZrO(NO3)2水溶液、およびY(NO3)3水溶液をCe:Zr:Yのモル比が3:5:3となるように混合したのち、これを少量の有機酸もしくは錯形成剤あるいはその混合物を入れ蒸発乾固させた固形物である塩を含む混合物を得てこれを500℃3時間で焼成し粉砕することにより製造される。水溶性の有機酸あるいは錯形成剤としては、例えば、ギ酸、酢酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸などが使用できる。
黄色顔料の粒子経が分散性に優れる1μm以下の微細な粒子とすることもできるが、ふつう数十μm程度の粒子で回収する。微粒子顔料は塗料や絵の具など室温や低温で使用される無機顔料に適するので粉砕機などで微細な粉砕物とすることができる。また、高温焼成で使用するときはこれを再度焼成すればよい。仕込み時の粒度については大きくてもかまわないが10μmから70μmであれば望まししものの粒度については便宜使用により調整し、これを後述する第四、第五の発明での実施時には適度に粉砕すればよい。
顔料とするときの焼成温度は、特に限定されるものではなく乾燥状態での粉末でもよいが、望ましくは例えば300℃以上1000℃未満、もっとも適切には400℃以上で1000℃未満の温度範囲にて1から100時間程度保持焼成することにより得られる。焼成雰囲気としては大気でよく、ただし酸素を含む雰囲気であれば大気以外でもこれを使用すればよい。
また、本発明の無機顔料は、本質的に金属酸化物の前駆体となる化合物の混合物を焼成しする工程により製造することができるのでこれを除外するものではない。
本発明の黄色顔料の製造は以下の例に限定されるものではないが、組成Ce0.6Zr0.4O2の顔料の製造例をあげると、該顔料はセリウム酸化物前駆体とジルコニウム酸化物の前駆体を3:2のモル比で秤量して混合した後、400℃以上1000℃未満で焼成することにより製造することができる。あるいは、大気中、いったん1000℃から1300℃で焼成したのち400℃以上1000℃未満で焼成することによってもよい。セリウム、ジルコニウム、およびイットリウム、ランタン、イッテリビウムの酸化物の製造法は、その混合比を所定として、同様にすればよい。
前記のセリウム酸化物前駆体と、ジルコニウム酸化物前駆体、およびイットリウム、ランタン、イッテリビウムの酸化物前駆体としては、高純度の水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、シュウ酸塩、酢酸塩、クエン酸塩などであり、加熱により分解して金属酸化物になるものであればよくまたはその混合物であればよい。複数の化合物の混合には手で混合してもよくまた工業的に用いられているボールミルや液体を混合した状態で混合する装置など、種々の混合粉砕装置を用いることができる。このときに、溶液に含まれる成分が、顔料の所定の金属比とするべく溶液からの沈殿工程と組み合わせてもよい。
得られた混合物は、例えば1000℃未満の温度で、1〜100時間大気中で保持焼成することにより本発明の無機顔料が得られる。なお、この焼成の前や後に1000℃未満の温度で乾燥や仮焼きの工程は適宜加えてもよい。雰囲気としては大気でよいがただし酸素を含む雰囲気であればこれを使用すればよい。なお、この400℃以上1000℃未満の温度で焼成する効果は明らかではないがいわゆるアニールの効果があり顔料を安定化し着色状態を良くする。
本発明の黄色顔料の製造は以下の例に限定されるものではないが、組成Ce0.6Zr0.4O2の顔料の製造例をあげると、該顔料はCeO2、ZrO2を3:2のモル比で秤量して混合した後、大気中、1300℃より高く1550℃より低い温度で3時間焼成し、さらに粒度を調整し、1000℃未満の温度で焼成することにより製造することができる。
前記の固相反応法において用いられるセリウム化合物、ジルコニウム化合物、およびイットリウム、ランタン、イッテリビウム化合物としては、高純度の水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、シュウ酸塩、酢酸塩、クエン酸塩などであり、加熱により分解して金属酸化物になるものであばよくまたはその混合物であればよい。400℃以上1000℃未満で焼成する。また1300℃より高く1550℃より低い温度で焼成されてもよいがその場合にはさらに得られた粉末を例えばボールミル等を用いて粉砕し必要により、洗浄、分級、さらに400℃以上1000℃未満での乾燥や再焼成を行ってもよく、この工程を複数経ていても何ら支障がない。本顔料は化学的熱的に安定で製造工程に細心の注意を払えば非常に安全に使用できる。
以上のようにして得られる本発明の無機顔料の製造法は、有害金属を含まずに安全な黄色顔料で、化学的安定性や耐熱性に優れ無機顔料として好適な素材となり該顔料の製造時に使用される原料や工程、設備からみて問題なく提供できる方法である。
第四の発明で本発明は、ゴム、製紙、印刷用インク、化粧品、種々の素材の染色、皮革類に使用できることならびに本顔料を含むセラミックス、陶磁器、ガラス、プラスチック、ペイント、ゴム、釉薬、紙、インク、化粧品、染料、皮革、セメント、壁材類においての本発明の顔料によって着色された組成物を包含する。
種々の複合素材としてプラスチックの組成物は、熱可塑性又は熱硬化性型であってよく顔料の混合をよくするようそれ以外の少量の有機物を含んでいてもよい。熱可塑性プラスチックとしては限定するものではないが例として、塩化ビニル、ビニルアルコール、スチレン系ポリマー類、スチレンと幾多の他の共重合体、例えばアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、さらにアクリル系のポリメタクリル酸メチルやポリオレフィン類、例えばポリエチレン、ポリプロピレンさらにセルロース系のセルロースアセテートやポリアミドなどがあげられる。熱硬化性樹脂については、例えば、フェノール樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、熱硬化性ポリエステルなどがあげられる。フッ素樹脂、特にポリテトラフルオルエチレンやポリカーボネート、またいわゆるPETのような汎用樹脂に使用できる。本発明の黄色顔料はプラスチックに広い重量割合、1から50重量%で配合すればよいが、望ましくは2から20%程度がよい。
また本発明の顔料はペイントについて10〜30重量%の割合で利用すると好都合であるが、これに限定されるものではない。
本発明の顔料は、セラミックス、磁器、陶器、タイル、レンガを着色するのに使用することができる。セラミックの組成物に10から60重量%程度混合してよく、この場合には全体が着色し、黄色の色合いを出すことができる。また、セメント、石膏、種々の無機接着剤に使用されても本来成分の性質を低下させず、白いセメントに水、砂、砂利が添加されるコンクリート質を黄色に着色するのに適用される。なお、混合量は無機成分の性質上限定されるものではない。
また、第五の発明のように、セラミックスの表面を膜状に材料を付与して、着色することができる。特に、本発明の顔料を他成分と混合していわゆる釉薬組成物として形成したのち、セラミックス表面に塗布、焼成することは殊に望ましい。その使用量は、母体となる材料の1〜40重量%である。薄い層の場合、重量が少なくなるのでとくにその量は連帝されない。陶磁器質においては特有な様々技術が必要となるが、そのどのような工程においても変質せず、とくに高温において安定であるため、本発明に顔料は、この用途において優れている。
このような着色層の形成では、比較的純度の高いアルミナ質セラミックスにおいては、その色彩があざやかで、素地との材料の反応なく発色が良好であり、また磁器質、陶磁器、素焼、低品位の粘土も用いてもよくさらにタイルや玩具、食器、管、板、壁材などの上に層状に形成するための顔料として良好である。
シリカ(酸化ケイ素)を多量に含み、反応性の高まる温度で長時間接触された場合において、顔料が一部ジルコンとなる場合には利用に注意を要する。しかし、そのような使用を妨げるものではなく広く陶磁器質への適用が可能である。本発明の顔料で例えばいくつかの組成のセリアジルコニアが含まれる顔料粉を用い、シリカに鉛が含まれる広く用いられているガラスフリット素材と少量の有機剤と水を加えスラリーとした混合物を陶磁器に塗布し、400℃以上1000℃未満の温度で、あるいは操作上の問題であるが700℃から900℃で30分以内の短時間焼成することで黄色の層を設けることができ、本発明の陶磁器への応用例を示すことができる。
使用形態としてすでに焼成された素地への直接に塗布、焼成するほか、粉末を含む成形体への付与や、多孔質への浸み込みによる表面層など、さまざまな工程で利用でき、上記のように素地との間で材料質上影響がある場合でも400℃以上1000℃未満の焼成を経ることで本発明の顔料を使用した素材そのものを第五の発明として提供し、広く実用に供することができる。この焼成温度は、顔料粉末の製造と層形成での温度となり、製造法において有用な条件を提示しているものである。
(実施例)
以下に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1
組成がCe0.4Zr0.6O2となる黄色顔料を下記のように合成した。1 mol・dm-3濃度のCe(NO3)3水溶液、1 mol・dm-3濃度のZrO(NO3)2水溶液を作製後、セリウム、ジルコニウムを上の化学式での化学量論比で、総モル量合計が0.1mol・dm-3となるようにで混合し出発溶液を作製した。これに8wt%濃度のアンモニア水を添加し、pH10になるま沈殿の生成させ、吸引濾過しながらさらに水洗した。このとき、金属成分が沈殿物に含まれていることを残液の化学分析により確認した。沈殿物を濾過操作にて回収したのち、大気中110℃で一晩乾燥し、大気中500℃で3時間焼成し、粉砕した。粉末のX線回折分析を行い、結晶相として蛍石構造をもつ回折線について調べ固溶体の形成が確認された。この粉末顔料の色彩をミノルタ製色彩色差計CR-240により測定しL*a*b*表色系で与えられる色度座標によって定量化した。ここでL*は、反射率の尺度(明/暗シェーディング)、100(白色)から0(黒色)まで変動する。a*及びb*は、色の傾向の値であり、正のa*=赤色、負のa*=緑色、正のb*=黄色、負のb*=青色であり、L*は黒色から白色までの変化、a*は緑色から赤色までの変化、b*は黄色から青色までの変化を示す。この顔料はL*=82.3, a*-2.6, b*=55.2の色度座標を有し、明るい黄色を呈する粉末であった。その後、大気中でさらに900℃にて3時間焼成し、同様に色の評価を行ったところ、熱による変色がなくL*=87.5, a*=-2.6, b*=41.0の明瞭な黄色を示し、耐熱性に優れた顔料であることがわかった。
実施例2
組成がCe0.3Zr0.5Y0.2O1.9となる複合酸化物の黄色顔料を下記のように合成した。1 mol・dm-3濃度のCeCl3水溶液、1 mol・dm-3濃度のZrOCl2水溶液、0.5 mol・dm-3濃度のYCl3水溶液を作製後、セリウム、ジルコニウム、イットリウムを上の化学式での化学量論比で、総モル量合計が0.1mol・dm-3となるようにで混合し出発溶液を作製した。これに8wt%濃度のアンモニア水を添加し、pH10になるま沈殿の生成させ、吸引濾過しながらさらに水洗した。沈殿物を濾過操作にて回収したのち、大気中110℃で一晩乾燥した。粉末顔料の色彩を、ミノルタ製色彩色差計CR-240により測定しL*a*b*表色系で与えられる色度座標によって定量化した。この顔料はL*=82.7, a*-0.2, b*=42.2の色度座標を有し、明るい黄色を呈する粉末であった。その後、大気中600℃さらに900℃にて3時間焼成し、同様に色の評価を行ったところ、熱による変色がなくL*=83.7, a*=1.9, b*=41.3の明瞭な黄色を示し、耐熱性に優れた顔料であることがわかった。また、紫外可視分光計において可視光の吸収反射特性を調べ、呈色機構を研究し結晶内の構造から色彩に影響する遷移に効果的であることが明らかとなっており、本発明において化合物の構造とその混合割合に由来する色発現が示唆されている。
実施例3
さらに、実施例1と同様な製造方法を適用して、Ce1-xZrxO2の組成を変えた顔料を作製した。
これによって、組成の変化により黄色の着色力を表すb*が変化した。表1と表2にそれらの色相をL*a*b*表色系座標で示す。表1は500℃焼成品、表2は900℃焼成品を示しておりこの表から、500℃焼成品では、xが0.2〜0.8の範囲にある顔料のL*=82から90、b*=30から55の明るい黄色を呈することがわかる。900℃焼成品では、xが0.4〜0.8の範囲にある顔料のL*=81から87、b*=31から42の明るい黄色を呈することがわかる。また、粉末のX線回折分析を行い、結晶相として蛍石構造をもつ回折線について調べ、実施例1と3において固溶体の形成が確認された。回折線からは二酸化セリウムそのものではなくセリウムを含むジルコニウム酸化物の固溶体が主相であり、わずかに別の相も混在していたことが明らかとなった。この相の構造についての分析は詳細には困難であるが、少なくとも蛍石型金属酸化物(その典型が二酸化セリウムである)の明瞭な回折線を与え、しかし、その面間隔では、ジルコニウムのイオン半径がセリウムよりも小さいためにおこるとおもえわれる現象を反映し、ジルコニウム含量が増加するとともに、面間隔が低下することが見られ、この場合、セリウムに対するジルコニウムの置換固溶の現象が明らかに推察されるものであった。また、ジルコニウムに富む粉末では、その構造が正方相である可能性が高いがX線回折において面間隔の低下がさらに起こり、少なくとも固溶体の形成が起こっていることは明らかであった。組成物の黄色はこのような結晶構造内のセリウムとジルコニウムの混合に起因するとおもわれる。
【0008】
【表1】

【0009】
【表2】

【0010】
実施例4
さらに、実施例2と同様な製造方法を適用して、Ce0.8-xZrx0.21.9の組成を変えた顔料を作製した。組成の変化により黄色の着色力を表すb*が変化した。表3、表4、表5にそれらの色相をL*a*b*表色系座標で示す。表3は乾燥品、表4は600℃焼成品、表5は900℃焼成品を示している。この表から、600℃と900℃で焼成した結果をみると、xが0.3〜0.7の範囲で、L*=81から89、b*=31から42の明るい黄色を呈する顔料が得られ高温安定なものであることがわかる。600℃焼成品、900℃焼成品のX線回折図形から、蛍石型の固溶体が形成され安定化されたほぼ立方晶である単一相を維持したので、添加物により均一性が固まりまた熱安定性に優れる顔料となりうる。
【0011】
【表3】

【0012】
【表4】

【0013】
【表5】

【0014】
実施例5
さらに、実施例2と同様な製造方法を適用して、Ce1-x-yZrxy2-y/2において、但しx+y=1とする組成を変えた顔料を作製し600℃で焼成した。これによって、組成の変化により色調を表すb*が変化した。x=0.8, y=0.1において、L*=81.5、a*=−2、b*=41.1、x=0.45, y=0.3において、L*=80.5、a*=−1.1、b*=33.5、x=0.72, y=0.05において、L*=82.1、a*=−1、b*=43.5を示しておりyが0.05から0.3、x=0.45から0.8の範囲にある顔料のL*=80から82、b*=33から42の明るい黄色を呈することがわかる。
実施例6
組成がCe0.25Zr0.650.1O1.95で、但、M=Y、La、Ybとして、この化合物からなる黄色顔料を得るべく、酸化セリウム(CeO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化イットリウム、酸化ランタン、酸化イッテリビウム(M2O3:M=Y、La、Yb)の各々を、CeO2:ZrO2:M2O3のモル比が25:65:10になるように秤量した後、遊星ボールミル(フリッチュ社製P−6型)により5時間混合し、大気中980℃で30時間保持して焼成し、さらに粉砕した。得られた顔料は、Ce0.25Zr0.650.1O1.95で、L*=70.2、a*=2.5、b*=40.5、Ce0.25Zr0.65La0.1O1.95で、L*=72.5、a*=1.3、b*=41.2、Ce0.25Zr0.65Yb0.1O1.95で、L*=70.8、a*=2、b*=39.8の色度座標の黄色調顔料であった。
実施例7
実施例1の顔料Ce0.4Zr0.6-900(色調L*=82.36,a*=2.65,b*=55.22)を用いて陶磁器顔料を作製し、さらにフリット(SiO2 及びPbOを含有)に混合し、さらに溶剤を混合し、塗布スラリーを作製した。ジルコニアビーズを入れたプラスチック容器を遊星型粉砕機にセットし1時間粉砕混合した。スラリーを乾そうし粉末を75ミクロンふるい下として取り出し、これを釉として白色の成形陶器素地に手で塗布および筆にて加飾した。徐々に加熱し、850℃に達してのち30分保持し冷却し、層状の顔料着色層を確認した。この色彩を調べたところ、b*=40.6を示し、明るい黄色の着色ができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニウム(Zr)とセリウム(Ce)の酸化物を含み、この成分のCeとZrの合計に対するZrの割合(原子%)が20%から80%の範囲の組成物よりなり、両者の固溶体を含むことを特徴とする黄色の無機顔料。
【請求項2】
ジルコニウム(Zr)とセリウム(Ce)の酸化物を含み、さらに添加物のイットリウム、ランタン、イッテリビウムの酸化物うちから選ばれた1以上を含み、X+Y+Z=100%となる組成で、この成分のCeとZrのその他の合計に対するZrの割合(原子%)Xが30から70%、Ceの割合Yが50から10%、イットリウム、ランタン、イッテリビウムの酸化物に1以上の割合Zが残部である黄色の無機顔料。
【請求項3】
所定の金属成分を含む溶液に沈殿剤を加えて固形物を生成させ400℃以上1000℃未満で焼成することを特徴とする請求項1、2記載の顔料の製造方法。
【請求項4】
セラミック、ガラス、ペイント、プラスチック、ゴム、紙、インク、化粧品、染料、皮革及び各種有色皮膜の形成のための組成物において、請求項1、2記載のいずれかの顔料を10重量%以上含むことを特徴とする着色用組成物。
【請求項5】
セラミックス製品の色付け工程に用いる組成物において、請求項1〜3のいずれかの顔料おおび成分を含む溶液を塗布し400℃以上1000℃未満の温度で焼成することを特徴とする着色層の製造方法。

【公開番号】特開2012−91972(P2012−91972A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−241800(P2010−241800)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】