説明

無段変速機

【課題】クラッチシューが磨耗等しているような場合における遠心クラッチの適切な接続
【解決手段】制御装置600は、遠心クラッチ300が接続しておらず、かつ、エンジン100(駆動装置)の回転速度が予め定めたエンジン100(駆動装置)の回転速度よりも高い場合に、遠心クラッチ300が接続するように無段変速機200の変速比をTOP側に制御するクラッチ接続処理部615を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速機に関し、特に、駆動装置の出力軸から遠心クラッチの入力軸に動力を伝達する無段変速機であって、制御装置によって変速比が制御される無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、スクータ型の自動二輪車1000のパワーユニット900は、図1、図2に示すように、駆動装置としてのエンジン100と、無段変速機200と、遠心クラッチ300と、減速ギヤ400と、駆動輪500に、順に動力が伝達される。遠心クラッチ300は、例えば、図3に示すように、無段変速機200のセカンダリシーブ14の中空の中心軸12(セカンダリ軸、遠心クラッチ300の入力軸)と、斯かる中心軸12を貫通したファイナルギアシャフト401(遠心クラッチ300の出力軸)との間に取り付けられている。遠心クラッチ300は、図3、図4に示すように、クラッチプレート301、クラッチシュー302、クラッチスプリング303、クラッチハウジング304(クラッチアウター)を備えている。
【0003】
クラッチプレート301は、図3に示すように、無段変速機200のセカンダリシーブ14の中心軸12に固定的に取り付けられている。クラッチプレート301には、クラッチシュー302を組み付けるためのピン305が突設されている。図3に示す例では、3つのピン305が周方向に等間隔に取り付けられている。クラッチシュー302の一端は、図4に示すように、クラッチプレート301に取り付けられたピン305に回動自在に取り付けられている。クラッチスプリング303は、一つのクラッチシュー302の一端と、当該クラッチシュー302の一つの周方向に隣接するクラッチシュー302の他端とを連結するように組み付けられている。クラッチスプリング303は、常時、隣接するクラッチシュー302の一端と他端を引き付けるように弾性反力を発揮する。クラッチハウジング304は、御椀形状の部材で、セカンダリシーブ14の中空の中心軸12を貫通したファイナルギアシャフト401に取り付けられ、上述したクラッチシュー302のアッセンブリ310を覆うように配設されている。
【0004】
エンジン100が停止しているとき、図4に示すように、クラッチシュー302のアッセンブリ310は、クラッチスプリング303の弾性反力によって全体として縮径しており、クラッチシュー302とクラッチハウジング304とは非接触である。エンジン100が始動し、セカンダリシーブ14が回転を始めると、図5に示すように、その遠心力でクラッチシュー302のアッセンブリ310が、クラッチスプリング303の弾性反力に抗して全体として拡径し、クラッチシュー302がクラッチハウジング304に接触する。そして、クラッチシュー302とクラッチハウジング304が滑りながらトルクを伝達しているストール状態が生じた後、クラッチシュー302とクラッチハウジング304との間に作用する摩擦力でクラッチシュー302とクラッチハウジング304が接続された状態となる。斯かる遠心クラッチ300では、クラッチシュー302とクラッチハウジング304の摩擦力に応じたトルクが出力軸401に伝達される。このような遠心クラッチ300については、例えば、日本国特開2006−71096に開示されている。
【0005】
また、無段変速機200の変速比は、図2に示すように、制御装置600によって制御される。制御装置600には、例えば、走行時は、種々の走行モードに基づいて、予め、車速と、エンジン回転速度と、スロットル開度などに基づいて制御目標となる目標変速比を設定するためのデータベース(変速マップ)が設定されている。制御装置600は、斯かる変速マップに従い、実際の車速やスロットル開度の情報に基づいて制御目標となる目標変速比を設定する。
【0006】
発進時はより大きな力が必要になる。このため、無段変速機200は、通常、発進時に、所定のLOWレシオに制御される。これに対し、日本国特許第3194641号では、各スロットル開度に対応して予め設定した発進時の変速比を格納した発進時レシオ記憶手段を備えている。そして、機関回転数が所定の値を上昇方向に横切った時点でその時点のスロットル開度に対応する発進時の変速比を発進時レシオ記憶手段から読み出して、読み出した変速比となるように無段変速機の変速比を調節することが開示されている。
【0007】
同特許公報では、発進時のスロットル開度に応じて無段変速機の目標変速比を設定すること、すなわち、発進時のスロットル開度に応じて、無段変速機の目標変速比を最大LOWレシオよりもTOP側に制御することが開示されている。同特許公報によれば、斯かる制御によって、『機関回転数が上昇し始めた早い時点で発進時レシオを設定し、無段変速機3のプーリ6bを駆動するので、図5(b)に点線で示したように、機関回転数が過大になったり、また、過大になった機関回転数の抑圧制御が行き過ぎてアンダシュートを生じたり、また、アンダシュート、オーバシュートを繰り返すいわゆるハンチングを生ずることなく、なめらかな発進を行なわせることができる。』とされている(同特許公報、段落番号0037)。
【特許文献1】特許第3194641号
【特許文献2】特開2006−71096
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
経年劣化等でクラッチシューが相当程度磨耗した場合に、発進時に、遠心クラッチが接続されるまでにエンジン回転速度が異常に高くなる。このように、経年劣化等でクラッチシュー302が相当程度磨耗した場合は、遠心クラッチ300のストール状態が長く続くとともに、エンジン100の回転速度が異常に高くなるので、クラッチシュー302の磨耗部材がさらに磨耗され易い状態になる。このため、早期にクラッチシュー302の交換が必要になる。なお、上述した特許第3194641号に開示された制御では、スロットル開度に応じて一律に変速比が所定のLOWレシオに制御されるので、上述した問題は上述した特許第3194641号に開示された制御では解決されない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る無段変速機は、駆動装置の出力軸から遠心クラッチの入力軸に動力を伝達する無段変速機である。当該無段変速機は制御装置によって変速比が制御される。そして、制御装置は、遠心クラッチが接続しておらず、かつ、駆動装置の回転速度が予め定めた第1回転速度よりも高い場合に、遠心クラッチが接続するように無段変速機の変速比をTOP側に制御するクラッチ接続処理を行う。
【発明の効果】
【0010】
本発明の無段変速機によれば、クラッチ接続処理によって、遠心クラッチが接続しておらず、かつ、駆動装置の回転速度が予め定めた駆動装置の回転速度よりも高い場合に、遠心クラッチが接続するように無段変速機の変速比がTOP側に制御される。このため、駆動装置の回転速度が予め定めた駆動装置の回転速度よりも異常に高くなるのを防止することができる。また、遠心クラッチがストールする時間を短くして、遠心クラッチを早期に接続させることができる。これにより、クラッチシューの磨耗など遠心クラッチの更なる劣化を防止できる。また、例えば、駆動装置の回転速度が予め定めた駆動装置の回転速度よりも高くならない場合には、クラッチ接続処理は実行されない。このため、遠心クラッチが正常に機能する場合には、無段変速機は通常通りに制御され、発進時に、適当なトルクが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態に係る無段変速機を図面に基づいて説明する。なお、図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明している。また、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0012】
本発明者は、斯かる駆動装置の出力軸から遠心クラッチの入力軸に動力を伝達する無段変速機に関して、その適切な制御方法を検討している。上述したように、経年劣化等でクラッチシューが相当程度磨耗していると、発進時に遠心クラッチが接続されるまでにエンジン回転速度は異常に高くなる。通常、このような場合、クラッチシュー或いは遠心クラッチの交換を行っていた。なお、クラッチシューの経年劣化他、例えば、クラッチハウジングとクラッチシューとの間に油などの異物が入り込んだ場合や、新品クラッチに組み替え直後や、冷えた状態での発進時などは、クラッチハウジングとクラッチシューとの間の摩擦が不安定なため、同様に、発進時に遠心クラッチが接続されるまでにエンジン回転速度は異常に高くなる事象が生じる。本発明者は、このような場合に、無段変速機の制御を変更することで、エンジン回転速度は異常な上昇を緩和できないかを考えた。
【0013】
本発明者は、斯かる事象を研究するため、図6に示すように、スクータ型の自動二輪車1000が停止している状態から発進する際の、エンジンの回転速度aと、無段変速機のセカンダリシーブの回転速度bと、車速cを測定した。また、車速cから遠心クラッチ300の出力軸401の回転速度dを算出した。なお、無段変速機の目標変速比eは、それぞれ制御装置によって設定される制御上の目標値を示している。この試験で、制御目標となる目標変速比eは、図2に示すように、予め設定された変速マップ601に従い、車速cとスロットル開度の情報に基づいて設定される。
【0014】
以下、上述したスクータ型の自動二輪車で遠心クラッチが正常に機能する場合の測定結果を示す。この場合、図6に示すように、エンジンの回転速度aがある程度上がると、遠心クラッチ300のストールが始まる。遠心クラッチ300が正常に機能する場合、エンジンの回転速度aはあまり上昇することがない。そして、遠心クラッチ300のストールが始まった後、1〜2秒程で遠心クラッチ300は接続される。なお、図6に示すように、遠心クラッチ300がストールしていると、車速cから算出される遠心クラッチ300の出力軸401の回転速度dと、無段変速機200のセカンダリシーブの回転速度bとに差がある。遠心クラッチ300が接続されると、遠心クラッチ300の出力軸401の回転速度dと、無段変速機200のセカンダリシーブ14の回転速度cとが一致する。
【0015】
次に、クラッチシュー302が相当程度磨耗しており、遠心クラッチ300が正常に機能しない場合の測定結果を示す。この場合、図7に示すように、エンジンの回転速度aがある程度上がると、遠心クラッチ300がストールし始める。しかし、その後、クラッチシュー302が磨耗しているため、なかなか遠心クラッチ300が接続されない。また、クラッチシュー302が相当程度磨耗しており、駆動輪500にもなかなかトルクが伝達されず、車速cがなかなか上昇しない。このため、無段変速機200がTOP側に変速されない。このような事情からエンジン100の回転速度aは異常に上昇する。この例では、結局、遠心クラッチ300がストールし始めてから3.5秒程度経って遠心クラッチ300が接続された。
【0016】
上述した特許第3194641号の制御では、例えば、同特許公報の図5にも記載されているように、発進時のスロットル開度に応じて無段変速機の目標変速比が設定される。このため、クラッチシュー302が相当程度磨耗しており、遠心クラッチ300が正常に機能しない場合には、図7に示す場合と同様に、遠心クラッチ300のストールが長く続いてしまい、遠心クラッチ300が接続される際のエンジン100の回転速度が異常に高くなる事象が生じ得る。
【0017】
遠心クラッチ300のストール状態が長く続くと、クラッチシュー302の磨耗が進む可能性がある。このため、クラッチシュー302の交換時期が早くなる。また、遠心クラッチ300のストール状態が長く続くと、エンジン100の回転速度も異常に上昇する。発進時において、エンジン100の回転速度はある程度低く抑えたい。斯かる事象は、スクータ型の自動二輪車に限らず、その他の車両においても生じ得る。
【0018】
本発明者は、さらに、遠心クラッチ300が接続される条件と無段変速機200の変速比との関係を検討した。
【0019】
遠心クラッチ300は、図8に示すように、遠心クラッチ300に入力される入力トルク321と、遠心クラッチ300が伝達できる伝達トルク322が一致するとき(C)に接続される。すなわち、遠心クラッチ300に入力される回転速度が速くなるにつれて、遠心クラッチ300のクラッチシュー302に作用する遠心力が大きくなる。そして、遠心クラッチ300の伝達トルク322が大きくなり、遠心クラッチ300の伝達トルク322と遠心クラッチ300に入力される入力トルク321が一致したとき(C)に、遠心クラッチ300は接続される。
【0020】
無段変速機200の変速比がLOWレシオのとき、図8中の点線Aで示すように、遠心クラッチ300に入力される入力トルク321は大きい。このため、遠心クラッチ300の入力軸(セカンダリ軸12)の回転速度が相当程度速くなったときに、遠心クラッチが接続される。
【0021】
無段変速機200の変速比が上記よりもTOP側になると、遠心クラッチ300に入力される回転速度が速くなり、遠心クラッチ300のクラッチシュー302に作用する遠心力が大きくなり、遠心クラッチ300の伝達トルク322が大きくなる。これに対し、図8に実線Bで示すように、遠心クラッチ300に入力される入力トルク321は、変速比が小さいため小さくなる。このため、発進時に早期に(セカンダリ軸12の回転速度がより遅いときに)遠心クラッチ300を接続させることができる。
【0022】
本発明者は、無段変速機200を適切なタイミングでTOP側に制御することによって、クラッチシュー302が相当程度磨耗しているような場合でも、エンジン100の回転速度の異常な上昇を抑えつつ、遠心クラッチ300をより適切に接続できるのではないかと考えた。
【0023】
他方で、本発明者は、無段変速機200をTOP側に制御すると、遠心クラッチで伝達できるトルクが低くなる。発進時には大きな力が必要であり、適当なトルクが必要である。このため、特許3194641号に記載されているように、遠心クラッチ300が正常に機能する場合まで、無段変速機200の変速比をスロットル開度に応じて一律にTOP側に制御することは必ずしも望ましくないと考えた。すなわち、遠心クラッチ300が正常に機能する場合は、スクータ型の自動二輪車1000に適切な発進トルクが得られることが望ましい。このため、無段変速機200の変速比は、スロットル開度に応じて一律に制御するのではなく、遠心クラッチ300が正常に機能せず、エンジン100の回転速度が異常に上昇してしまうような場合に、無段変速機200の変速比を適切なタイミングで適切な量、TOP側に制御することが望ましいと考えた。
【0024】
本発明者は、このような独自の知見に基づいて、無段変速機について今までにない全く新しい制御方法を想起するに至った。以下に、本発明の一実施形態に係る無段変速機を説明する。
【0025】
無段変速機200は、図9に示すように、エンジン100(駆動装置)の出力軸から遠心クラッチ300の入力軸に動力を伝達する。無段変速機200の変速比は制御装置600によって制御される。この実施形態では、図9〜図11に示すように、無段変速機200は、図1に示すように、スクータ型の自動二輪車1000のパワーユニット900に配設されている。
【0026】
この実施形態では、無段変速機は、図9に示すように、それぞれ一対のフランジが軸方向に相対移動し得るプライマリシーブ13及びセカンダリシーブ14に、ベルト15が巻き掛けられたベルト式無段変速機である。このベルト式無段変速機200は、図9に示すように、プライマリ軸11と、セカンダリ軸12(図3参照)と、プライマリシーブ13と、セカンダリシーブ14と、Vベルト15と、溝幅調節機構16と、アクチュエータ17と、フランジ位置検出センサ19と、制御装置600とを備えている。
【0027】
プライマリ軸11とセカンダリ軸12は、この実施形態では、図10及び図11に示すように、パワーユニット900のケース901に軸受を介して取り付けられている。プライマリ軸11は、この実施形態では、エンジン100の出力軸であるクランク軸903に一体的に形成されている。セカンダリ軸12は、プライマリ軸11に平行に配されて駆動軸904に連結されている。クランク軸903には、クランクジャーナル905と、クランクウエブ906と、クランクピン907と、コンロッド908と、ピストン909を構成する各部材が連結されている。
【0028】
プライマリシーブ13は駆動装置100の出力が伝達されるプライマリ軸11に配設され、セカンダリシーブ14は遠心クラッチ300の入力軸に配設され、プライマリシーブ13の溝幅に応じてベルト15を挟み得るようにセカンダリシーブ14の溝幅を変化させる従動機構40と、プライマリシーブ13の溝幅を制御する制御装置600とを備えている。
【0029】
プライマリシーブ13及びセカンダリシーブ14は、この実施形態では、それぞれ回転軸(プライマリ軸11とセカンダリ軸12)に取り付けられた固定フランジ(31、41)と可動フランジ(32、42)とを備えている。セカンダリシーブ14の可動フランジ42はクラッチプレート301との間に圧縮された状態で配設されたばね43によって溝幅を狭める方向に常時付勢されている。プライマリシーブ13の可動フランジ32の移動は制御装置600で制御されている。セカンダリシーブ14の可動フランジ42は、プライマリシーブ13の可動フランジ32の移動に応じてVベルト15から受ける力と、ばね43の弾性反力が釣り合う位置に移動する。固定フランジ(31、41)と可動フランジ(32、42)は、ベルト巻回用のV溝を形成する。
【0030】
Vベルト15は、斯かるプライマリシーブ13及びセカンダリシーブ14のV溝に巻回され、両シーブ(13、14)間で回転駆動力を伝達する。そして、可動フランジ(32、42)がプライマリ軸11とセカンダリ軸12の軸方向に移動することでV溝の溝幅が変化し、ベルト式無段変速機200の変速比が変化する。
【0031】
溝幅調節機構16は、プライマリシーブ13の可動フランジ32を移動させ、プライマリシーブ13の溝幅を調節する機構である。アクチュエータ17は溝幅調節機構16を駆動させる。この実施形態では、プライマリシーブ13の溝幅は、当該プライマリシーブ13の可動フランジ32をアクチュエータ17で移動制御することによって調整される。
【0032】
この実施形態では、アクチュエータ17として電動モータを用いている。この実施形態では、電動モータ17の出力は、図9に示すように、制御装置600の制御信号に基づいて、電動モータ17に供給される供給電力によって制御される。電動モータ17への供給電力は、例えば、PWM(Pulse Wide Modulation)方式で制御するとよい。PWM方式では、供給電力の電圧を一定として電動モータ17のON/OFFの時間比(Duty比)を変えることによって、電動モータ17の出力を制御している。なお、本実施形態では、PWM方式で電動モータ17の出力を制御しているが、電動モータ17の出力を適当に制御できるのであれば、PWM方式による制御だけには限らず、例えば、供給電力の電圧をアナログ的に可変として、電動モータ17の出力を制御することもできる。
【0033】
電動モータ17は、制御装置600(変速制御装置)に電気的に接続されている。この制御装置600は、電子制御装置(ECU;Electronic Control Unit)で構成されている。電子制御装置(ECU)は、例えば、演算部(マイクロコンピュータ(MPU))と、記憶部(メモリー)とを備えている。制御装置600には、車両に取り付けられた多くのセンサから多くの車両情報が入力される。
【0034】
可動フランジ32は、電動モータ17の回転に応じて移動する。可動フランジ32の位置はフランジ位置検出センサ19によって検出される。なお、制御装置600には、上述したフランジ位置検出センサ19の他、図2に示すように、スロットル・ポジション・センサ91(Throttle Position Sensor/TPS)、エンジン回転速度センサ92、車速センサ93、94などの各種のセンサに電気的に接続されており、各種のセンサからスクータ型の自動二輪車1000の様々な状態について所要の情報を得ている。
【0035】
このうち、スロットル・ポジション・センサ91(TPS)は、アクセル開度(スロットル開度)を検知するセンサである。エンジン回転速度センサ92は、エンジン回転速度を検知するセンサであり、この実施形態では、クランク軸(プライマリ軸11)の回転速度を検知するセンサで構成している。また、センサ93は、ファイナルギアシャフト401(遠心クラッチ300の出力軸)の回転速度を検出している。また、センサ94は、駆動輪500の駆動軸904の回転速度を検出している。
【0036】
以下、この実施形態における遠心クラッチ300および無段変速機200の制御を説明する。
【0037】
遠心クラッチ300は、図3に示すように、無段変速機200のセカンダリシーブ14の中空の中心軸12と、斯かる中心軸12を貫通したファイナルギアシャフト401との間に取り付けられている。ファイナルギアシャフト401は、図示は省略するが、減速ギヤ400を介してスクータ型の自動二輪車1000の駆動輪500に連結されている。
【0038】
制御装置600は、図9に示すように、遠心クラッチ300が接続しておらず、かつ、エンジン100(駆動装置)の回転速度が予め定めた第1回転速度よりも高い場合に、遠心クラッチ300が接続するように無段変速機200の変速比をTOP側に制御するクラッチ接続処理部615を備えている。すなわち、この実施形態では、制御装置600には、クラッチ接続処理を実行する基準となる回転速度g(第1回転速度)が予め定められている。そして、図12に示すように、エンジン100(駆動装置)の回転速度aが予め定めた回転速度gよりも高い場合に、遠心クラッチ300が接続するように無段変速機200の変速比がTOP側に制御される。
【0039】
斯かるクラッチ接続処理によれば、クラッチシュー302が相当程度磨耗しているような場合に、エンジン100の回転速度aが予め定めた回転速度gよりも異常に高くなるのを防止できる。そして、遠心クラッチ300のストール時間が短くなり、遠心クラッチ300が早く接続される。また、遠心クラッチ300が正常に機能する場合には、図6に示すように、発進時にエンジン100の回転速度aが予め定めた回転速度gよりも高くならないように、回転速度gを設定する。これにより、遠心クラッチ300が正常に機能する場合は、クラッチ接続処理は実行されず、無段変速機200は通常通りに制御され、発進時に、適当なトルクが得られる。
【0040】
この実施形態では、制御装置600は、図9に示すように、第1判定部611と、第1検出部612と、第1設定部613と、第2判定部614と、クラッチ接続処理部615とを備えている。なお、制御装置600は、予め定められた所定のプログラムに従ってそれぞれ所定の各処理を行う。
【0041】
第1判定部611は、遠心クラッチ300が接続しているか否かを判定する。この実施形態では、第1判定部611は、遠心クラッチ300に入力される回転速度と、遠心クラッチ300から出力される回転速度に基づいて、遠心クラッチ300が接続しているか否かを判定している。すなわち、第1判定部611は、図6、図12に示すように、遠心クラッチ300に入力される回転速度bと、遠心クラッチ300から出力される回転速度dが一致していないときに、遠心クラッチ300が接続していないと判定する。また、第1判定部611は、遠心クラッチ300に入力される回転速度bと、遠心クラッチ300から出力される回転速度dが一致したときに、遠心クラッチ300が接続していると判定する。
【0042】
遠心クラッチ300に入力される回転速度bは、この実施形態では、図11に示すように、無段変速機200のセカンダリシーブ14の回転速度を検出するセンサ95に基づいて、遠心クラッチ300に入力される回転速度を検出している。
【0043】
遠心クラッチ300から出力される回転速度dは、この実施形態では、駆動輪500の駆動軸904の回転速度を検出するセンサ96の検出値に基づいて車速cを求め、斯かる車速cから減速ギヤ400の減速比を勘案して遠心クラッチ300の出力軸(この実施形態では、ファイナルギアシャフト401)の回転速度dを算出している。
【0044】
第1検出部612は、エンジン100の回転速度を検出する。この実施形態では、図9に示すように、無段変速機200の入力軸(プライマリ軸11)の回転速度を検出するセンサ92に基づいてエンジン100の回転速度を検出している。
【0045】
第1設定部613は、図12に示すように、遠心クラッチ300が接続するように無段変速機200の変速比をTOP側へ制御する処理を開始する基準となるエンジン100(駆動装置)の回転速度gが設定される。ここで設定される回転速度gは、制御装置600の(不揮発性メモリー)などの記憶部に記憶させるとよい。斯かる回転速度gは、制御上生じるオーバーシュート等を考慮して設定するとよく、例えば、厳密な発進時のエンジンの回転速度aの上限値よりも少し低い値を設定するとよい。
【0046】
第2判定部614は、第1検出部612で検出されたエンジン100の回転速度aが、第1設定部613で設定された回転速度gよりも高いか否かを判定する。
【0047】
クラッチ接続処理部615は、制御装置600に設定される制御プログラムであり、遠心クラッチ300が接続しておらず、かつ、エンジン100の回転速度aが予め定めた回転速度gよりも高い場合に、遠心クラッチ300が接続するように無段変速機200の変速比eをTOP側に制御するクラッチ接続処理を行う。
【0048】
この実施形態では、第1設定部613において、クラッチ接続処理が実行されるべきエンジン100の回転速度gを定めておく。そして、第2判定部614で、第1検出部612で検出されたエンジン100の回転速度aが、第1設定部613で設定された回転速度gよりも高いか否かを判定する。さらに、第1判定部611で遠心クラッチ300が接続しているか否かを判定する。
【0049】
制御装置600は、図13に示すように、第1判定部611での判定結果に基づいて遠心クラッチ300が接続していないと判定され、かつ、第2判定部614でエンジン100の回転速度が、第1設定部613で設定されたエンジン100の回転速度よりも高いと判定された場合にクラッチ接続処理615を実行する。
【0050】
この実施形態では、スクータ型の自動二輪車1000である。図6に示すように、スクータ型の自動二輪車1000は、発進する前のアイドリング状態では、エンジン100は所定の低い回転速度aで回転している。アイドリング状態では、エンジン100の回転速度aが低いため、遠心クラッチ300は接続していない。発進時にアクセルが操作されると、エンジン100の回転速度aが高くなり、遠心クラッチ300はストールを開始する。
【0051】
遠心クラッチ300が正常に機能する場合には、図6に示すように、エンジン100の回転速度aが高くなるにつれて、遠心クラッチ300の伝達トルクが滑らかに上昇する。このため、遠心クラッチ300は1〜2秒ほどで接続される。この際、エンジン100の回転速度aは、予め定めた回転速度gよりも高くならない。このように、遠心クラッチ300が正常に機能する場合には、図13に示すように、第2判定部614でエンジン100の回転速度aが予め定めた回転速度gよりも高い(YES)と判定されることがないので、クラッチ接続処理615は行われない。
【0052】
これに対し、クラッチシュー302が相当程度磨耗しているような場合には、クラッチシュー302とクラッチハウジング304が滑り易い。このため、図12に示すように、エンジン100の回転速度aが高くなっても、遠心クラッチ300はなかなか接続されない。そして、エンジン100の回転速度aは上昇する。エンジン100の回転速度aが、第1設定部で設定した回転速度gよりも高くなると、図13に示すように、第1判定部611で遠心クラッチ300が接続していない(YES)と判定され、かつ、第2判定部614でエンジン100の回転速度aが予め定めた回転速度gよりも高い(YES)と判定される。そして、制御装置600は、斯かる判定がなされると、クラッチ接続処理615を実行する。
【0053】
クラッチ接続処理615は、遠心クラッチ300が接続するように無段変速機200の変速比をTOP側に制御する。無段変速機200の変速比をTOP側に制御すると、遠心クラッチ300に入力される回転速度が速くなり、遠心クラッチ300のクラッチシュー302に作用する遠心力が大きくなる。これに対し、遠心クラッチ300に入力される入力トルクは小さくなる。このため、遠心クラッチ300は接続され易くなる。また、遠心クラッチ300が接続され易くなると、エンジン100の回転速度aの上昇も抑えることができる。なお、斯かる制御によれば、遠心クラッチの上述したような不具合がある場合でも、発進時にエンジンが吹き上がらない。これにより、駆動輪に伝わるトルクがより適切になり、ドライバビリティが向上する。
【0054】
この制御装置600は、図12に示すように、遠心クラッチ300が接続しておらず、かつ、エンジン100の回転速度aが予め定めた回転速度gよりも高い場合に、遠心クラッチ300が接続するように無段変速機200の変速比をTOP側に制御する。このため、クラッチシュー302が相当程度磨耗しているような場合でも、遠心クラッチ300は早期に接続される。遠心クラッチ300は早期に接続されるので、クラッチシュー302の磨耗が進むのを防止できる。これにより、クラッチシュー302の交換時期を遅くすることができる。また、遠心クラッチ300が正常に機能する場合には、図6に示すように、エンジン100の回転速度aが予め定めた回転速度gよりも高くならない。このため、クラッチ接続処理615は実行されず、無段変速機200は通常通りに制御される。
【0055】
このように、制御装置は、第1判定部611と、第2判定部614の判定によって、クラッチ接続処理615の実行を自動化できる。
【0056】
また、制御装置600は、例えば、上述した第1判定部611において遠心クラッチ300が接続されたと判定された場合にクラッチ接続処理615を解除してもよい。すなわち、遠心クラッチ300が接続された場合には、クラッチ接続処理615を維持する必要がなく、制御装置600は、自動的にクラッチ接続処理615を解除するとよい。遠心クラッチ300が接続されると、通常の変速比制御が行われる。
【0057】
次に、クラッチ接続処理の具体例をさらに説明する。
【0058】
この実施形態では、スクータ型の自動二輪車1000は、運転者が出力を操作するアクセル操作手段を備えている。また、制御装置600は、図9に示すように、車速cとスロットル開度に基づいて目標変速比を設定する目標変速比設定部616を備えている。
【0059】
目標変速比設定部616は、例えば、車速や、スロットル開度などの車両情報に基づいて、無段変速機200をどのような変速比にするかを定めた変速マップ601を記憶している。例えば、図14に示す変速マップ601が設定されている。図14の横軸は車速、縦軸はエンジン回転速度をそれぞれ示している。図14中、無段変速機200の変速比をLOWにしたときの所定の変速比での車速とエンジン回転速度の理論上の関係はrで示されている。また、同図中、無段変速機200の変速比をTOPにしたときの所定の変速比での車速とエンジン回転速度の理論上関係はsで示されている。図14で示される変速マップ601には、スロットル全開で加速する場合の目標エンジン回転速度tと、スロットル全閉で減速する場合の目標エンジン回転速度uが設定されている。なお、目標変速比=目標エンジン回転速度÷車速の関係があり、目標エンジン回転速度tと目標エンジン回転速度uはそれぞれ上記の関係に基づいて目標変速比に置き換えることができる。また、ここで示す変速マップ601は一例を示すに過ぎない。
【0060】
この実施形態では、目標変速比設定部616は、まず、車速cの情報に基づいて図14中の横軸上の位置を決める。次に、目標変速比設定部616は、スロットル(アクセル)の開度に応じた所定の係数を乗じて、スロットル全閉で減速する場合の目標エンジン回転速度uと、スロットル全開で加速する場合の目標エンジン回転速度tとの間で、エンジン100の回転速度の制御目標値(目標エンジン回転速度)を求める。そして、当該目標エンジン回転速度を車速cで除算して目標変速比を求めている。この場合、スロットルの開度が小さいとそれだけスロットル全閉で減速する場合(u)に近い目標エンジン回転速度(目標変速比)が設定され、スロットルの開度が大きいとそれだけスロットル全開で加速する場合(t)に近い目標エンジン回転速度(目標変速比)が設定される。
【0061】
この実施形態では、クラッチ接続処理部615は、クラッチ接続処理時に目標変速比を設定するための回転速度(第2回転速度)が予め設定されており、当該第2回転速度を遠心クラッチに入力される回転速度で除算して目標変速比を設定するとよい。この実施形態では、クラッチ接続処理時の変速比を算出する第2回転速度に、クラッチ接続処理を実行するか否かを判定する回転速度g(第1回転速度)を用いている。なお、この実施形態では、クラッチ接続処理用の第2回転速度に、クラッチ接続処理を実行するか否かを判定する回転速度g(第1回転速度)を用いているが、クラッチ接続処理時の変速比を算出する第2回転速度は、クラッチ接続処理を実行するか否かを判定する回転速度g(第1回転速度)とは別に設定してもよい。
【0062】
この実施形態では、上述したように、制御装置600は、車速cとスロットル開度に基づいて目標エンジン回転速度を算出し、当該目標エンジン回転速度を車速cで除算して目標変速比を設定する目標変速比設定部616を備えている。この実施形態では、クラッチ接続処理部615は、斯かる目標変速比設定部616を利用して目標変速比を設定している。
【0063】
すなわち、この実施形態では、クラッチ接続処理時は、目標変速比設定部616で、目標エンジン回転速度に代えて予め定めたクラッチ接続処理用の回転速度gを用い、車速cに代えて遠心クラッチに入力される回転速度bを用い、予め定めたクラッチ接続処理用の回転速度gを、遠心クラッチに入力される回転速度bで除算して、クラッチ接続処理用の目標変速比を設定する処理を行っている。
【0064】
すなわち、この実施形態では、クラッチ接続処理部615では、図12に示すように、回転速度gを遠心クラッチ300に入力される回転速度bで除算して、クラッチ接続処理時の目標変速比e1を設定している。(クラッチ接続処理時の目標変速比e1=回転速度g(第2回転速度)÷セカンダリシーブの回転速度b)
【0065】
また、遠心クラッチ300に入力される回転速度bには、図11に示すように、センサ95で検出されるセカンダリシーブ14の回転速度を採用している。また、図12中、点線eは、変速マップ601に従い、車速cとスロットル開度に基づいて設定される通常の目標変速比を示している。図12中、点線e1は、予め定めた回転速度gをセカンダリシーブ14の回転速度bで除算して設定されるクラッチ接続処理時の目標変速比を示している。
【0066】
目標変速比設定部616は、通常、発進時、車速cが低い間は、変速比をLOWシフトに制御する。上述したように、クラッチシュー302に相当程度磨耗があり、遠心クラッチ300が、滑っている状態も含めて接続されていない場合には、図12に示すように、車速cがなかなか上がらないので、通常の目標変速比eはLOWシフトに設定される。
【0067】
この実施形態では、上述したように、遠心クラッチ300が接続しておらず、かつ、エンジン100の回転速度aが予め定めた回転速度gよりも高い場合に、クラッチ接続処理615が実行される。クラッチ接続処理615が実行されると、クラッチ接続処理時の目標変速比e1が設定される。この実施形態では、クラッチ接続処理時の目標変速比e1は、予め定めた回転速度gをセカンダリシーブ14の回転速度bで除算して設定されている。この場合、図12に示すように、セカンダリシーブ14の回転速度bは、実際のエンジン回転速度aと同じように上昇していくが、予め定めた回転速度gは不変であるため、セカンダリシーブ14の回転速度bが高くなればなるほど、両者の速度差が小さくなり、クラッチ接続処理時の目標変速比e1はTOP側に設定される。
【0068】
これに対し、クラッチ接続処理時が行われない通常の制御では、車速とスロットル開度に基づいて、変速マップ601に従って変速比が設定される。変速マップ601によれば、発進時はLOW側の変速比が設定される。このため、斯かる通常の制御では、発進時は車速cがなかなか上昇しないため目標変速比eはLOW側の目標変速比が設定される。
【0069】
このように、クラッチ接続処理時の目標変速比e1は、クラッチ接続処理が実行されない場合の通常の制御における目標変速比eに比べて、TOP側に目標変速比が設定される。すなわち、この実施形態では、クラッチ接続処理が行われない場合の目標変速比eは、上述したように変速マップに基づいて目標エンジン回転速度を算出し、当該目標エンジン回転速度を車速で除算して算出されている。クラッチが滑っている場合などクラッチが接続されていない場合では、車速が上昇しない。このため、クラッチ接続処理が行われない場合の目標変速比eは大きくなり、LOWレシオが設定される。これに対し、クラッチ接続処理時の目標変速比e1は、目標変速比e1=回転速度g÷セカンダリシーブの回転速度bによって算出される。斯かるクラッチ接続処理時の目標変速比e1は、クラッチが滑っている場合でも、セカンダリシーブの回転速度bは車速に比べて上昇するので、目標変速比eに比べて小さくなり、目標変速比eよりもTOPレシオが設定される。よって、クラッチが滑っている場合などクラッチが接続されていない場合では、目標変速比e1は目標変速比eよりもTOPレシオが設定される。また、このようにして設定されるクラッチ接続処理時の目標変速比e1に従って、無段変速機が制御されると、セカンダリシーブの回転速度bが上昇し、遠心クラッチの接続が早期に行われ、それに応じて、セカンダリシーブの回転速度bが調整されるので、TOPレシオになり過ぎることはなく、適当な目標変速比e1が設定される。
【0070】
この実施形態では、クラッチ接続処理時の目標変速比e1に基づいて、無段変速機200の変速比を制御することによって、無段変速機200は、通常のよりもTOP側に制御される。上述したように、無段変速機200がTOP側に制御されると、遠心クラッチ300は接続され易くなる。これによって、発進時に遠心クラッチ300が滑るような不具合が解消され、発進時にエンジンが吹き上がるのを防止できる。また、これにより駆動輪に伝わるトルクがより適切になり、ドライバビリティが向上する。
【0071】
このように、クラッチ接続処理が行われた場合、制御装置600は、クラッチ接続処理が進み、通常設定される目標変速比eがクラッチ接続処理時に設定される目標変速比e1よりもTOP側になった場合に、クラッチ接続処理を解除するとよい。なお、クラッチ接続処理時に設定される目標変速比e1が通常設定される目標変速比eがと一致した場合には、クラッチ接続処理を解除してもよいし、維持してもよい。すなわち、通常設定される目標変速比eがクラッチ接続処理時に設定される目標変速比e1よりもTOP側になった場合には、通常設定される目標変速比eで変速比を制御した方が、遠心クラッチ300が接続され易くなる。このため、もはやクラッチ接続処理615を維持する必要がなく、クラッチ接続処理615は解除するとよい。
【0072】
また、制御装置は、遠心クラッチ300が接続していることが検出された場合に、クラッチ接続処理615を解除してもよい。すなわち、遠心クラッチ300が接続されると、クラッチ接続処理615は解除してもよい。
【0073】
この実施形態におけるクラッチ接続処理時の目標変速比e1の設定およびクラッチ接続処理の解除を、図15に基づいて説明する。
【0074】
図15に示すように、まず、車速とスロットル開度に基づいて目標変速比設定部616によって通常の変速比を算出する(S1)。次に、車両が発進時であることを判定する。この実施形態では、予め定めた車速よりも低い車速であること、遠心クラッチ300が接続していないこと、スロットルが開かれていること、の3つの条件を全て満たすか否かを判定している(S2)。S2の判定でNOの場合は、目標変速比設定部616で通常設定される目標変速比eを最終の目標変速比とする(S3)。
【0075】
S2の判定でYESの場合は、エンジン100の回転速度が予め定めた回転速度gよりも高いか否かを判定する(S4)。S4の判定で(NO)の場合、すなわち、図6に示すように、エンジン100の回転速度aが予め定めた回転速度gよりも高くない場合は、遠心クラッチ300が正常に接続される場合であり、クラッチ接続処理615を行う必要がない。このため、通常の目標変速比eを最終の目標変速比とする(S3)。
【0076】
S4の判定でYESの場合は、クラッチ接続処理615を行う。すなわち、図12に示すように、エンジン100の回転速度aが予め定めた回転速度gよりも高い場合は、遠心クラッチ300に異常がある可能性があり、クラッチ接続処理615を実行する。この実施形態では、クラッチ接続処理時の目標変速比e1を算出する(S5)。クラッチ接続処理時の目標変速比e1は、予め定めた回転速度gをセカンダリシーブ14の回転速度bで除算して設定される。
【0077】
そして、クラッチ接続処理615を維持する条件を判定する(S6)。この実施形態では、S5で算出されたクラッチ接続処理時の目標変速比e1が、S1で算出された通常の目標変速比eよりもTOP側にあることを判定するとよい。通常の目標変速比e>クラッチ接続処理時の目標変速比e1を判定する。
【0078】
そして、斯かるS6の判定で、クラッチ接続処理615を維持する条件を満たさない場合、すなわち、S5で算出されたクラッチ接続処理時の目標変速比e1が、S1で算出された通常の目標変速比eよりもTOP側にない場合は、クラッチ接続処理を解除して通常の目標変速比eを最終の目標変速比とする(S3)。
【0079】
S6の判定で、クラッチ接続処理615を維持する条件を満たす場合、すなわち、S5で算出されたクラッチ接続処理時の目標変速比e1が、S1で算出された通常の目標変速比eよりもTOP側にある場合は、クラッチ接続処理を維持してクラッチ接続処理時の目標変速比e1を最終の目標変速比とする(S7)。そして、クラッチ接続処理615が維持される間は、S5、S6の処理が繰り返される。
【0080】
この実施形態では、S2の判定、および、S4の判定によって、自動的にクラッチ接続処理615が実行され、S6の判定によって自動的にクラッチ接続処理615が解除される。
【0081】
なお、S6で判定する遠心クラッチ300の解除条件は、遠心クラッチの接続状態が検出された場合、又は、通常の目標変速比eがクラッチ接続処理時の目標変速比e1よりもTOP側である場合の何れか早いときに、クラッチ接続処理が解除されるようにしてもよい。
【0082】
このように、適切な条件でクラッチ接続処理が自動的に解除されるようにすることにより、発進時の特殊な制御状態から走行時の制御状態に円滑に以降させることができる。
【0083】
この実施形態によれば、制御装置は、車速とスロットル開度に基づいて目標変速比を設定する目標変速比設定部を備え、クラッチ接続処理は、目標変速比設定部で、予め定めた回転速度gをセカンダリシーブ14の回転速度bで除算して設定するので、エンジン回転速度aの異常な上昇に応じて適切な量、変速比をTOP側に変えることができる。これにより、遠心クラッチ300が相当程度磨耗している場合でも、早期にかつ適切に遠心クラッチ300を接続させることができる。
【0084】
以上、本発明の一実施形態に係る無段変速機を説明したが、本発明に係る無段変速機は上述した実施形態に限定されるものではない。
【0085】
例えば、無段変速機200の構造、溝幅調節機構16の構造、フランジ位置検出センサ19の構造、制御装置600の構造などは、上述した実施形態で開示したものに限定されない。
【0086】
また、遠心クラッチ300に入力される回転速度の検出、遠心クラッチ300から出力される回転速度の検出は、上記の実施形態に限定されない。例えば、遠心クラッチ300に入力される回転速度は、クラッチシュー302のアッセンブリを取り付けた回転軸12の回転速度を検出するセンサによって検出してもよい。また、遠心クラッチ300から出力される回転速度は、クラッチハウジング304の回転速度を検出するセンサによって検出してもよい。なお、これらは一つの変形例を示したに過ぎず、種々の変更が可能である。また、無段変速機の入力軸の回転速度は、プライマリシーブ、プライマリ軸の回転速度でも検出できる。また、本発明は、無段変速機が制御装置によって変速比が制御されている場合に、制御装置は、遠心クラッチが接続しておらず、かつ、駆動装置の回転速度が予め定めた第1回転速度よりも高い場合に、遠心クラッチが接続するように無段変速機の変速比をTOP側に制御するクラッチ接続処理を行うものであればよい。上述した実施形態は斯かる一実施形態を例示したものであり、目標変速比の算出方法およびクラッチ接続処理時の目標変速比の算出方法などについても、上述した実施形態の方法に限定されず、種々の変更が可能である。
【0087】
また、無段変速機は、ベルト式無段変速機には限定されない。駆動装置としてエンジンを例示したが、駆動装置はエンジンに限らず電気モータのようなものでもよい。すなわち、本発明は、駆動装置の出力軸から遠心クラッチの入力軸に動力を伝達する無段変速機であって、無段変速機の変速比は制御装置によって制御されるものであれば、広く適用でき、駆動装置や、無段変速機や、遠心クラッチなどの構造は種々の変更が可能である。
【0088】
また、上述した実施形態では、ベルト式無段変速機200は、自動二輪車のパワーユニットに装備されるものを例示したが、ベルト式無段変速機200は、自動二輪車に限らず種々の車両に適用できる。例えば、鞍乗型車両(三輪バギー、四輪バギー、スノーモービルを含む。)、スクータ型車両、また、ゴルフカーなどの小型車両にも広く適用できる。また、ベルト式無段変速機200は、パワーユニットに装備されたものを例示したが、ベルト式無段変速機200はエンジンとは別体になっていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0089】
以上のとおり、本発明に係る無段変速機は、車両などに装備される無段変速機に広く利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明の一実施形態に係る無段変速機が装備された自動二輪車を示す側面図。
【図2】無段変速機の概略図。
【図3】遠心クラッチの縦断側面図。
【図4】遠心クラッチの縦断正面図。
【図5】遠心クラッチの使用状態を示す縦断正面図。
【図6】発進時におけるエンジンの回転速度、変速比、遠心クラッチの回転速度、および、車速の変化を示す図。
【図7】発進時におけるエンジンの回転速度、変速比、遠心クラッチの回転速度、および、車速の変化を示す図。
【図8】遠心クラッチの入力トルクと伝達トルクとの関係を示す図。
【図9】本発明の一実施形態に係る無段変速機の概略図。
【図10】本発明の一実施形態に係る無段変速機の部分断面図。
【図11】本発明の一実施形態に係る無段変速機の部分断面図。
【図12】本発明の一実施形態に係る無段変速機の発進時におけるエンジンの回転速度、変速比、遠心クラッチの回転速度、および、車速の変化を示す図。
【図13】本発明の一実施形態に係る無段変速機の制御フロー。
【図14】本発明の一実施形態に係る無段変速機の変速マップ。
【図15】本発明の一実施形態に係る無段変速機の制御フロー。
【符号の説明】
【0091】
1000 スクータ型の自動二輪車
900 パワーユニット
11 プライマリ軸
12 セカンダリ軸(遠心クラッチの入力軸)
13 プライマリシーブ
14 セカンダリシーブ
15 ベルト
16 溝幅調節機構
17 アクチュエータ
17 電動モータ
19 フランジ位置検出センサ
40 従動機構
31、41 固定フランジ
32、42 可動フランジ
43 ばね
91 スロットル・ポジション・センサ
92 エンジン回転速度センサ
92 センサ
93、94 車速センサ
95 センサ(遠心クラッチに入力される回転速度)
96 センサ(遠心クラッチに出力される回転速度)
100 エンジン
200 ベルト式無段変速機(無段変速機)
300 遠心クラッチ
301 クラッチプレート
302 クラッチシュー
303 クラッチスプリング
304 クラッチハウジング
305 ピン
310 アッセンブリ
321 入力トルク
322 伝達トルク
400 減速ギヤ
401 ファイナルギアシャフト(遠心クラッチの出力軸)
500 駆動輪
600 制御装置
601 変速マップ
611 第1判定部
612 第1検出部
613 第1設定部
614 第2判定部
615 クラッチ接続処理部(クラッチ接続処理)
616 目標変速比設定部
e 通常の目標変速比
e1 クラッチ接続処理時の目標変速比
g 第1回転速度、第2回転速度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動装置の出力軸から遠心クラッチの入力軸に動力を伝達する無段変速機であって、
前記無段変速機は制御装置によって変速比が制御され、前記制御装置は、前記遠心クラッチが接続しておらず、かつ、前記駆動装置の回転速度が予め定めた第1回転速度よりも高い場合に、前記遠心クラッチが接続するように前記無段変速機の変速比をTOP側に制御するクラッチ接続処理を行う、無段変速機。
【請求項2】
前記制御装置は、前記遠心クラッチが接続しているか否かを判定する第1判定部とを備えた、請求項1に記載の無段変速機。
【請求項3】
前記第1判定部は、前記遠心クラッチに入力される回転速度と、前記遠心クラッチから出力される回転速度に基づいて、前記遠心クラッチが接続しているか否かを判定する、請求項2に記載の無段変速機。
【請求項4】
前記制御装置は、
前記駆動装置の回転速度を検出する第1検出部と、
前記遠心クラッチが接続するように無段変速機の変速比をTOP側へ制御する処理を開始する基準となる前記第1回転速度が設定される第1設定部と、
前記第1検出部で検出された駆動装置の回転速度が、前記第1設定部で設定された第1回転速度よりも高いか否かを判定する第2判定部とを備えた、請求項1に記載の無段変速機。
【請求項5】
前記第1検出部は、前記駆動装置の回転速度を無段変速機の入力軸の回転速度に基づいて検出する、請求項4に記載の無段変速機。
【請求項6】
前記第1判定部において前記遠心クラッチが接続されたと判定された場合に、前記クラッチ接続処理を解除する、請求項2に記載の無段変速機。
【請求項7】
前記クラッチ接続処理は第2回転速度が予め設定されており、当該第2回転速度を遠心クラッチに入力される回転速度で除算して、クラッチ接続処理時の目標変速比を設定する、請求項1に記載の無段変速機。
【請求項8】
前記制御装置は、車速とスロットル開度に基づいて目標エンジン回転速度を算出し、当該目標エンジン回転速度を車速で除算して目標変速比を設定する目標変速比設定部を備えており、
前記クラッチ接続処理は、前記目標変速比設定部で、目標エンジン回転速度に代えて予め定めた前記第2回転速度を用い、車速に代えて遠心クラッチに入力される回転速度を用い、予め定めたクラッチ接続処理用の回転速度を、遠心クラッチに入力される回転速度で除算して、クラッチ接続処理用の目標変速比を設定する処理を行う、請求項7に記載の無段変速機。
【請求項9】
前記第2回転速度に前記第1回転速度を用いた、請求項7に記載の無段変速機。
【請求項10】
前記制御装置は、
前記目標変速比設定部によって車速とスロットル開度に基づいて設定される目標変速比が、前記クラッチ接続処理用の目標変速比よりもTOP側である場合に、前記クラッチ接続処理を解除する、請求項8に記載の無段変速機。
【請求項11】
前記制御装置は、
前記遠心クラッチが接続していることが検出された場合に、前記クラッチ接続処理を解除する、請求項1に記載の無段変速機。
【請求項12】
前記制御装置は、
前記遠心クラッチが接続していることが検出された場合、又は、前記目標変速比設定部によって車速とスロットル開度に基づいて設定される目標変速比が、前記クラッチ接続処理用の目標変速比よりもTOP側である場合に、前記クラッチ接続処理を解除する、請求項8に記載の無段変速機。
【請求項13】
前記無段変速機は、それぞれ一対のフランジが軸方向に相対移動し得るプライマリシーブ及びセカンダリシーブに、ベルトが巻き掛けられたベルト式無段変速機であって、
前記プライマリシーブは駆動装置の出力が伝達されるプライマリ軸に配設され、
前記セカンダリシーブは遠心クラッチの入力軸に配設され、
前記プライマリシーブの溝幅に応じて前記ベルトを挟み得るようにセカンダリシーブの溝幅を変化させる従動機構と、
前記プライマリシーブの溝幅を制御する制御装置とを備えた、請求項1から12の何れかに記載の無段変速機。
【請求項14】
請求項1から12の何れかに記載された無段変速機を備えた自動二輪車、鞍乗型車両、スクータ型車両又はゴルフカー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2008−256122(P2008−256122A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−99818(P2007−99818)
【出願日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)