説明

無水イソブチル酸からジメチルケテン、さらには、ポリジメチルケテンを製造する方法

【課題】無水イソブチル酸(ANIB)の熱分解によるジメチルケテン(DMK)の製造方法。
【解決方法】(a)1〜50容積%のANIBと、99〜50容積%の不活性ガスとから成る混合物を大気圧下で300〜340℃の温度に予熱し、(b)上記混合物を0.05〜10秒の接触時間の間、400〜550℃の温度にすることによってDMKと、不活性ガスと、イソブチル酸(AIB)と、未反応ANIBとの混合物とし、(c)(b)で得られた混合物を冷却して、凝縮したAIBおよび/またはANIBからDMKを含む混合物ガスを分離する(凝縮段階)から成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジメチルケテン(dimethylcetene)(以下、DMK)およびこのDMKを重合して得られるポリジメチルケテン(polydimethylcetene)(以下、PDMK)の製造方法に関するものである。
【0002】
本発明では特に無水イソブチル酸(以下、ANIB)の熱分解(pyrolyse、パイロリシス)によってDMKを製造する。この無水イソブチル酸は熱の作用(熱分解)によってイソブチル酸(以下、AIB)とDMKとに分解される。1モルのANIBの熱分解で1モルのAIBと1モルのDMKとが得られる。
【0003】
PDMKはガス、特に酸素に対するバリヤーを有し、特に耐湿性を有する。このPDMKは単層構造物か、PDMK層と他の材料からなる少なくとも1層とを含む多層構造物にするのが有用である。これらの構造物は殺菌または低温殺菌が必要な食品の包装材料の製造で特に有用である。
【背景技術】
【0004】
下記文献には下記の(1)〜(5)の段階を含む2,2,4,4-テトラメチルシクロブタン-1,3-ジオールの製造方法が記載されている。
【特許文献1】米国特許第5,169,994号明細書
【0005】
(1) 熱分解帯域にANIBを導入し、そこで350〜600℃の温度に加熱して、DMKと、AIBと、未反応のANIBとからなる蒸気流を作り、
(2) この蒸気流を急冷して、AIBおよびANIBを凝縮させ、凝縮液をDMKの蒸気から分離し、
(3) DMKの蒸気を吸収帯域へ送り、そこでDMKの蒸気を脂肪族カルボン酸とアルコールとの反応で得られる4〜40の炭素原子を有するエステルからなる溶媒と接触させて溶媒中にDMKが溶けた溶液を作り、
(4) 上記の吸収帯域からの流れをダイマー化帯域へ送り、そこで、70〜140℃の温度に加熱してDMKを2,2,4,4−テトラメチルシクロブタン1,3-ジオンに変換して2,2,4,4-テトラメチルシクロブタン1,3-ジオン溶液を作り、
(5) ダイマー化帯域からの流れを水素化帯域へ導入し、そこで水素化圧力および温度下でダイマー化帯域からの流れを水素化触媒と接触させて、2,2,4,4-テトラメチルシクロブタン-1,3-ジオールの溶媒溶液を作る。
【0006】
この特許の明細書には一般に熱分解段階でANIBを不活性ガスとの混合物の形で減圧下(例えば20〜500トール)に供給することが記載されているが、この減圧が不活性ガスの存在によってANIBを減圧するのか、ANIBと不活性ガスとの混合物を減圧するのかは不明である。この特許の実施例1ではANIBの熱分解を250トールで行っている。回収されたガスはAIBとANIBとを分離した後に97%のDMKを含む。このことは希釈ガスはなかったということを意味している。熱分解でのANIBの変換率(すなわち熱分解帯域に入れたANIBの量に対する熱分解されたANIBの量の比)は60%である。
【0007】
下記文献にも上記方法に類似の方法が記載されている。
【特許文献2】米国特許第5,258,256号明細書
【0008】
この特許では熱分解を不活性ガスの存在下で行なうか否かに関しては記載がなく、熱分解の圧力が87、105または123トールであることが実施例に示されているだけである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者は、大気圧下、従って簡単な運転条件下で、不活性ガスの存在下で熱分解を行うことによってANIBの変換率を少なくとも80%、一般には80〜95%(反応条件に依存)にすることができるということを見い出した。
【0010】
熱分解後の流れはDMKと、不活性ガスと、AIBおよび/または未反応のANIBとから成る。この流れを冷却してDMKと不活性ガスをAIBおよび/またはANIBから分離して、わずかにAIBを含むDMKと不活性ガスとの流れを得る。
【0011】
上記の従来方法ではこのDMKの流れをエステルタイプの溶媒で吸収させ、DMKを含む溶媒流をダイマー化帯域へ導入する。これに対して本発明では熱分解で得られるわずかにAIBを含んだDMKの流れを洗浄することでDMKから全てのAIBを除去することができ、痕跡量のAIBも無くすことができる。従って、本発明で得られるDMKはそのまま重合させてPDMKにすることができるような純度を有している。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、下記の(a)〜(c)の段階から成る無水イソブチル酸(ANIB)の熱分解によるジメチルケテン(dimethylcetene、DMK)の製造方法に関するものである:
(a)1〜50容積%のANIBと、99〜50容積%の不活性ガスとから成る混合物を大気圧下で300〜340℃の温度に予熱し、
(b)上記混合物を0.05〜10秒の接触時間の間、400〜550℃の温度にすることによってDMKと、不活性ガスと、イソブチル酸(AIB)と、未反応ANIBとの混合物とし、
(c)(b)で得られた混合物を冷却して、凝縮したAIBおよび/またはANIBからDMKを含む混合物ガスを分離する(上記混合物の凝縮段階)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
ANIBの熱分解ではANIBと不活性ガスとを混合し、必要な温度に上げることができる任意の装置が使用でき、そうした装置は公知である。
不活性ガスはANIBの熱分解中変化しないガスで、例としては窒素およびヘリウムを挙げることができる。
【0014】
ANIBと不活性ガスの比率は、95〜50容積%の不活性ガスに対して5〜50容積%のANIBにするのが好ましく、さらに、92〜79容積%の不活性ガスに対して8〜21容積%のANIBにするのが好ましい。接触時間は0.15〜0.25秒にするのが有利である。
一般に、ANIBの変換率(すなわち熱分解帯域を入れたANIBの量に対する熱分解したANIBの量の比)は約80〜95%である。熱分解の選択性(すなわち得られたDMKのモル数)/熱分解したANIBのモル数の比)はほぼ100%である。
【0015】
段階(c)ではガスを冷却でき、気相を液相から分離できる任意の装置が使用できる。そうした装置自体は公知である。AIBとDMKとが再結合して再びANIBになるのを避ける(最少にする)ためにできるだけ迅速に冷却できる系が好ましい。
段階(c)で生じたDMK(DMKガスを基本的に運ぶ不活性ガス)からなるガス混合物は少量のAIBおよび/またはANIBを含んでいる。従って、本発明の有利な実施例ではこのガス混合物を洗浄溶液と接触させて、AIBおよび/またはANIBを低下させる(すなわち、その痕跡量の全て)除去してDMKを精製する。
【0016】
段階(c)からのガス混合物の洗浄は充填材を充填した洗浄カラムで行うのが好ましい。洗浄カラムはデミスター(devesiculeur)(市販されている)を備えているのが好ましい。このデミスターは洗浄カラムの頂部または洗浄カラムの低部のいずれにも配置できるが、洗浄カラムの頂部に配置するのが好ましい。このデミスターを用いることで約10〜約50℃の温度で洗浄カラムを入るDMKのガス流中に場合によって存在する泡(vesicules、霧の一種)(DMKの浄化を妨害する)を取ることができる。このガス混合物は洗浄カラムの低部から入れ、洗浄溶媒はカラムの頂部から入れる。
【0017】
洗浄カラムはプレート式か、充填式のカラムを用いるのが好ましい。洗浄カラム、プレート、充填材の寸法はガスの特性および洗浄溶液に従って当業者が容易に決定できる。
洗浄溶液はANIB、置換または未置換の飽和または不飽和な脂肪族または脂環式化合物の炭化水素(下記の「重合溶媒」の項にリストを示す)にすることができる。重合溶媒を使用する場合には、重合のこの段階で可溶化されたDMKを洗浄カラムの低部で不活性ガス流で液相をストリップする。洗浄溶液がAIBを優先して吸収し、DMKおよび不活性ガスの流れがAIBをできるだけ少なく(またはAIBを全く含まない)ようにするための圧力および温度条件は当業者が容易に決定することができる。洗浄溶液がDMKを吸収している場合には、それを低圧でストリッパーカラムに通してAIBをストリップし、DMKは回収することができる。洗浄溶媒としてはANIBを使用するのが有利である。
【0018】
洗浄段階で得られるDMKは重合させるのに充分な純度を有している。「重合させるのに充分な純度」とは一般にAIBの含有量が2000ppm以下のDMKを意味し、AIBの存在量が重合時に重合のために触媒を消費する量以下であるということを意味する。
【0019】
ガスDMK(不活性ガスに坦持された)はAIBおよび/またはANIBをほとんど完全に含まず、その痕跡量も除去され、AIBおよび/または残ったANIBの大部分は洗浄溶液中に随伴されている。この洗浄段階の出口で得られるDMKは98モル%以上、好ましくは99モル%以上の純粋を有し、AIBの痕跡量は≦0.2モル%、ANIBの痕跡量は≦1モル%、好ましくは≦0.5モル%である。
【0020】
本発明の他の実施例は下記段階をさらに含む:
(d)上記で得られたDMKを含むガス混合物を置換または未置換の脂肪族または脂環式の不飽和な炭化水素タイプの溶媒中に吸収させる。
(e)DMKを含む上記溶媒中で、開始剤(I)と共開始剤(K)と錯化剤(complexant, CoK)とを含むカチオン開始剤系の存在下で、PDMKの重合を実行する。
(f)反応終了時に、未反応のDMKを除去し、溶媒および残留する開始剤系からPDMKを分離する。
【0021】
ジメチルケテンは炭素−炭素および炭素−酸素の2つの二重結合を互いに隣接して有するため極めて反応性に富んでいる。従って、二重結合の一方を選択的に開いてβ−ケトン構造のポリマー(PolyA)となるモノマー単位(A)の規則的な重合を促進するか、ポリビニールアセタール構造のポリマー(PolyB)となるモノマー単位(B)の規則的な重合を促進するか、単位(A)および単位(B)が交互に付加したポリビニールエステル(PolyAB)にするかが重要である。
【0022】
【化1】

【0023】
本発明のDMKの重合運転条件を用いることによって通常溶媒の存在下で安価にβ−ケトン構造のポリマーが>65%の収率で形成されるように重合を選択的に導くことができる。
【0024】
また、本発明では効率を良くし且つ再現性を良くするために均質カチオン開始剤を使用する。本発明方法では過酸化物は形成されず、また、PDMKを危険なしに生産できる。さらに、従来法で見られた移動反応の限界(分子量が相対的に小さい鎖が形成され、収率が上がらないという制限)はなくなる。これらの各種パラメータから本発明方法はPDMKの大規模合成を可能にする。
【0025】
重合溶媒は飽和または飽和な置換または未置換の脂肪族または脂環式の炭化水素である。使用する溶媒はカチオン重合で従来使用している当業者に公知の溶媒である。そうした炭化水素の例としてはヘキサン、ヘプタン、トルエン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、プロピルシクロヘキサン、塩化アルキル(第1および第2ハロンゲン化物)、例えば、塩化メチレン、塩化エチル、塩化プロピル、塩化ブチル、塩化ペンチル、塩化ヘキシル、クロロベンゼン、ジクロロメタン、クロロホルムおよびこれら同じ化合物で塩素原子の代わりに臭素原子(必要に応じて一つまたは複数)を有する化合物、ニトロメタン、ニトロエタンおよびニトロプロパンのようなニトロされた非芳香族炭化水素を挙げることができる。一般には非毒性で非汚染性の溶媒が好ましい。
【0026】
重合溶媒によるDMKの吸収は気体と液体とを接触させる任意装置を用いて実行できる。プレート式のカラムか充填カラムを使用するのが好ましい。カラムの寸法はガスと溶媒の特性に応じて当業者が簡単に決定できる。ガス混合物の担体不活性ガスを吸収せずに重合に充分な純度のDMKを吸収するための圧力および温度の条件は当業者が簡単に決定できる。
【0027】
溶媒は重合で重要な役割を有する。この溶媒は電荷の分離を促進するものでなければならないだけでなく、成長中の鎖を溶解して沈降を遅らせ、しかも、溶媒ケージの形成によってモノマーの接近を妨げないものでなければならない。誘電率が高く、イオン対の解離に好ましい反応性遊離イオンの比率を増やす極性溶媒の場合には、活性中心を溶媒和してモノマーの接近を妨げ、転化率が制限される。一般にはDMKによる活性中心の溶媒和を妨げないようにする必要がある。非極性溶媒または極性が少ない溶媒の場合にはDMKが成長中の鎖を溶媒和するが、溶媒によって移動反応が進む。錯化剤を使用することで、この反応を制限してモル質量を大きくすることができる。
【0028】
PDMKを分離した後の溶媒は、不連続または連続プロセスで再循環させてDMK吸収装置で再利用される。触媒系はDMKの吸収前または吸収後に溶媒中に導入できる。
【0029】
カチオン開始剤系は開始剤(I)と、共開始剤(K)と、錯化剤(CoK)とを含む。
本発明の一つの実施例の開始剤系の特徴は、開始剤(I)と共開始剤(K)との反応で生じた対アニオン(contre-anion)の重合活性中心を錯化剤(CoK)が放出する点にある。
本発明の一つの実施例では、錯化剤(CoK)は少なくとも電子−吸引基によって電子を奪う少なくとも一つの二重結合を有する分子である。
【0030】
本発明の一つの実施例では、共開始剤(K)はルイス酸であり、このルイス酸はMがIIIA族元素の場合には一般式:RnMX3-nを有し、MがVA、IVAおよびIVBの場合には一般式:MX4を有し、MがVBの場合には一般式:MX5を有する(ここで、Rはアルキル、アリール、アリールアルキル、アルキルアリール、シクロアルキルおよびアルコキシタイプの1〜12個の炭素原子を有する炭化水素基を有する基の中から選択される一価性の基を表し、XはF、Cl、BrおよびIの中から選択されるハロゲン原子を表し、nは0〜3の整数を表す)。
【0031】
[図1]は、共開始剤(K)としてAlBr3を、開始剤(I)として塩化tert-イソブチルを、また、錯化剤(CoK)としてo−クロラニル(chloranyl)を有するカチオン重合開始剤のフェーズを表している。
【0032】
この開始剤系は下記の利点を有する:
(1)重合前または重合中に作られるこの触媒系は、DMKの重合時に、ルイス酸単独の存在下で生じる三量体の形成を避けることができる。すなわち、この重合開始種は中性末端を生じさせ、三量体の中間体の両性イオンの形成を避けることができる。従って、本発明方法は上記従来法で使用する極性溶媒に比べて毒性が少ない非極性溶媒または平均的な極性を有する溶媒中で作業ができ、三量体の形成なしに大規模に使用することができる。
【0033】
(2)本発明の開始剤系は開始剤の種類を選択することによって鎖末端の種類を制御することができる。すなわち、カチオン重合で非反応性の官能性を鎖末端に導入でき、従ってポリマーを後で修正することができる。さらに、官能価が2以上の開始剤を使用することによって分岐したポリマーまたは星型のポリマーを作ることもできる。
【0034】
(3)一般に共開始剤(K)は極性の小さい溶媒中にルイス酸を可溶化するのは難しいが、本発明の触媒系(I+K+CoK)の錯化剤(complexant、CoK)の特性から、約1Mの高い濃度のルイス酸に可溶な極性の小さい媒体中に共開始剤(K)を可溶化することができる。例えば、錯化剤が存在しない場合のAIC13のジクロロメタンへの溶解度は1.5×10-3M以下である。さらに、本発明の開始剤系は高い活性を有するので使用する開始剤系の量を少なくすることができる。従って、対アニオンからの活性中心(オキソ−カルベニウム、oxo-carbonium)の放出の反応速度が増加し、開始剤系が均質化するのが観測される。さらに、対アニオンの捕捉によって移動反応が減少するのが観測される。従って、鎖のモル質量が大きくなり、収率が向上する。
【0035】
洗浄・吸収段階の他の利点は、寄生反応(終了反応、プロトン性開始剤、・・・)を引き起こす可能性のあるプロトン性化合物(AIB)の痕跡量での存在も避けることができる点にある。
【0036】
開始剤(I)はオレフィンのカチオン重合用のフリーデル−クラフト系組成物からなる従来の開始剤の中から選択でき、その例としては下記のものを挙げることができる:
【0037】
(I1) 単官能化合物、すなわち単一の化学官能基のみを有し、下記一般式を有する化合物:
1−CO−X、
1−COO−R2および
1−O−R2
(ここで、
1およびR2は水素原子、アルキル/アリール(例えば、CH3、CH3CH2、(CH32CH、(CH33C、C65)および置換された芳香族環を表し、互いに同一でも異なっていてもよく、
Xはハロゲン原子(F、Cl、Br、I)を表す)
【0038】
(I2) 二官能性化合物、すなわち2つの化学官能基を有する下記一般式を有する化合物:
1−CO−R−CO−X2
1−O−CO−R−CO−O−R2
(ここで、
Rはアルキル/アリール(例えばCH3、CH3CH2、(CH32CH、(CH33C、C65)および置換された芳香族環を表し、
1およびR2は水素原子、CH3、CH3CH2、(CH32CH、(CH33C、C65のようなアルキル、アリールおよび置換された芳香族環を表し、互いに同じでも異なっていてもよく、
1およびX2はF、Cl、BrおよびIの中から選択され、互いに同じでも異なっていてもよい)
【0039】
(I3) 下記一般式I3A、I3BまたはI3Cのハロゲン誘導体:
【化2】

【0040】
(ここで、
Xはハロゲン(F、Cl、BrまたはI)であり、
1は1〜8個の炭素原子を有するアルキルおよび2〜8個の炭素原子を有するアルケンの中から選択され、
2は4〜200個の炭素原子を有するアルキル、アルケン、フェニル、2〜8個の炭素原子を有するフェニルアルキル(アルキルの位置にラジカル)、アルキルフェニル(フェニルの位置にラジカル)、3〜10個の炭素原子を有するシクロアルキルの中から選択され、
3は1〜8個の炭素原子を有するアルキル、2〜8個の炭素原子を有するアルケンおよびフェニルアルキル(アルキルラジカル)の中から選択され、
さらに、R1、R2およびR3はアダマンチル(adamantyl)またはボルニル(bornyl)基を形成していてもよく、その場合、Xは第三炭素位置にくる)
【0041】
【化3】

【0042】
(ここで、
Xはハロゲン(F、Cl、BrまたはI)であり、
5は1〜8の炭素原子を有するアルキルおよび2〜8個の炭素原子を有するアルケンの中から選択され、
6は1〜8の炭素原子を有するアルキルおよび2〜8個の炭素原子を有するアルケンまたはフェニルアルキル(アルキルラジカル)の中から選択され、
4はフェニレン、ビフェニル、α、ω−ジフェニルアルケンおよび−(CH2)n−の中から選択され、

nは1〜10の整数)
【0043】
【化4】

【0044】
(ここで、
X、R1、R3、R4、R5およびR6は上記と同じ意味を有する)
(I4) プロトン酸またはブロンステッド(Bronsted)酸(例えば、CF3SO3H、H2SO4またはHClO4、HBr、HClおよびHI)
【0045】
開始剤(I)の例としては2−アセチル−2−フェニルプロパンのような炭化水素酸のクミルエステル、2−メトキシ−2−フェニルプロパンのようなアルキルクミルエーテル、1,4−ジ(2−メトキシ−2−プロピル)ベンゼン、クミルのハロゲン化物、特に塩素化物、例えば2−クロロ−2−フェニルプロパン、(1−クロロ−1−メチルエチル)ベンゼン、1,4−ジ(2−クロロ−2−プロピル)ベンゼン、1,3,5−トリ(2−クロロ−2−プロピル)ベンゼン、脂肪族ハロゲン化物、特に塩素化物、例えば2−クロロ−2,4,4−トリメチルペンタン(TMPCI)、2−ブロモ−2,4,4−トリメチルペンタン(TMPBr)、2,6−ジクロロ−2,4,4,6−テトラメチルヘプタン、ヒドロキシ脂肪族化合物またはヒドロキシクミル、例えば1,4−ジ((2−ヒドロキシル−2−プロピル)−ベンゼン)、2,6−ジヒドロキシル−2,4,4,6−テトラアミル−ヘプタン、1−クロロアダマンタン、1−クロロボルナン、5−tert-ブチル−1,3−ジ(1−クロロ−1−メチルエチル)ベンゼンおよびその他の類似化合物を挙げることができる。
【0046】
共開始剤(K)は下記一般式(元素Mの種類によって決まる):
nMX3-n
MX4、または
MXy
のケトン構造を与えるルイス酸、好ましくは強いルイス酸(例えば、AlCl3、AlBr3、EtAlCl2、BF3、BCl3、SbF5、SiCl4)である。
【0047】
(ここで、
Mは元素周期律表のIB、IIBおよびA、IIIBおよびIIIA、IVBおよびIVA、VBおよびVA、VIIIBに属する元素であり、例としては下記元素が挙げられる:B、Ti、Sn、Al、Hf、Zn、Be、Sb、Ga、In、Zr、V、As、Bi。
【0048】
Mは元素周期律表の下記元素であるのが好ましい:
IIIA(式:RnMX3-nの場合)
VAおよびVB(式:MXyの場合)
IVAおよびIVB(式:MX4場合)
【0049】
Rはアルキル、アリール、アリールアルキル、アルキルアリール、シクロアルキルおよびアルコキシタイプ、例えばCH3、CH3CH2、(CH32CH、(CH33C、C65、置換された芳香族環、COCH3、OC25、OC37のような1〜12個の炭素原子を有する炭化水素基の中から選択される一価性の基であり(なお、「アリールアルキル」および「アルキルアリール」という用語は結合した脂肪族および芳香族構造の基を意味し、前者ではラジカルはアルキル位置にあり、後者ではアリール位置にある)、
【0050】
XはF、Cl、BrおよびIの中から選択されるハロゲン、好ましくはClであり、
nは0〜3の整数、
yは3〜5の整数である)
【0051】
例としてはTiCl4、ZrCl4、SnCl4、VCl4、SbF5、AlCl3、AlBr3、BF3、BCl3、FeCl3、EtAlCl2(EADC)、Et1.5AlCl1.5(EASC)およびEt2AlCl(DEAC)、AlMe3およびAlEt3を挙げることができる。
ルイス酸はクレー、ゼオライト、シリカまたはシリカアルミナに担持するのが好ましい。そうすることによって担持された開始剤系を反応終了時に回収して再利用することができる。
本発明のカチオン重合に特に好ましいルイス酸はAlCl3、AlBr3、EADC、EASC、DEAC、BF3、TiCl4である。
【0052】
錯化剤(CoK)は共開始剤(K)と開始剤(I)との反応で生じる対アニオンの重合活性中心を放出する試剤である。この重合活性中心はCoKの作用によってより接近可能になる。特に、この錯化剤は重合の活性中心を放出する共開始剤と開始剤との反応で生じた対アニオンを錯体化する錯化剤である。例としてはo−クロラニル(3,4,5,6−テトラクロロ−1,2−ベンゾキノン)、p−ツロラニル(2,3,5,6−テトラクロロ−1,4−ベンゾキノン)、ニトロベンゼン、トリニトロベンゼン、ジフルオロニトロベンゼン、テトラシアノエチレン、ペンタフルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼンまたはオクタフルオロトルエンを挙げることができる。
【0053】
なお、上記開始剤系の他にカチオン重合の分野で同業者に周知の移動剤および/または連鎖制限剤を使用しても本発明の範囲を逸脱するものではない。
【実施例】
【0054】
以下、本発明でDMKを製造する方法の実施例を示す。
ANIBの熱分解は下記の式に従って真空チューブ中で無水物を単に熱的に活性化することによって行われる:
【0055】
【化5】

【0056】
研究室的実験では、ANIBは不活性ガス(He)に希釈して反応器へ導入する。実験は大気圧で行う。反応器は2つの加熱帯域(300℃〜340℃の予熱帯域と、400℃〜500℃のクラッキング帯域)から成る。研究室で得られた結果は[表1]にまとめて示してある。
【0057】
【表1】

【0058】
(注)
帯域1: 反応装置の予熱帯域の温度(℃)
帯域2: 反応装置のクラッキング帯域の温度(℃)
接触時間(tps conl): 反応帯域中での気相の接触時間(秒)
[AnIB]: 不活性ガス(He)に希釈して導入したANIBの濃度(モル%)
変換率:=(変換されたANIBのモル量)/(反応装置に入るANIBのモル量)×100
クラック選択率:=(得られたDMKのモル量)/(変換されたANIBのモル量)×100
クラック度:=(反応装置を出るDMK、AIBおよびANIBのモル量)/(反応装置に入るANIBのモル量)×100
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】は共開始剤(K)としてAlBr3を、開始剤(I)として塩化tert-イソブチルを、また、錯化剤(CoK)としてo−クロラニル(chloranyl)を有するカチオン重合開始剤を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(a)〜(c)の段階から成る無水イソブチル酸(ANIB)の熱分解によるジメチルケテン(DMK)の製造方法:
(a)1〜50容積%のANIBと、99〜50容積%の不活性ガスとから成る混合物を大気圧下で300〜340℃の温度に予熱し、
(b)上記混合物を0.05〜10秒の接触時間の間、400〜550℃の温度にすることによってDMKと、不活性ガスと、イソブチル酸(AIB)と、未反応ANIBとの混合物とし、
(c)(b)で得られた混合物を冷却して、凝縮したAIBおよび/またはANIBからDMKを含む混合物ガスを分離する(凝縮段階)。
【請求項2】
不活性ガスを窒素およびヘリウムの中から選択する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ANIBと不活性ガスの比を、5〜50容積%のANIBに対して95〜50容積%の不活性ガスにする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ANIBと不活性ガスとの比を、8〜21容積%のANIBに対して92〜79容積%の不活性ガスにする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
接触時間を0.15〜0.25秒にする請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
(c)段階で得られるDMKを含む混合物ガスを洗浄溶液と接触させてこのガス混合物に含まれる痕跡量のAIBおよび/またはANIBを除去し、重合させるのに十分な純度を有するDMKを得る請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
(c)段階で得られるDMKを含む混合物ガスの洗浄をデミスター(devesiculeur)を備えた洗浄カラムで行う請求項6に記載の方法。
【請求項8】
デミスターを洗浄カラムの頂部または底部、好ましくは頂部に配置する請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ガス混合物は洗浄カラムの底部から供給し、洗浄溶媒は洗浄カラムの頂部から供給する請求項7に記載の方法。
【請求項10】
洗浄溶液がANIBと、置換または未置換の脂肪族または脂環式の飽和または不飽和な炭化水素とである請求項6〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
下記段階をさらに含む請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法:
(d)DMKを含むガス混合物を置換または未置換の脂肪族または脂環式の飽和または不飽和な炭化水素タイプの溶媒に吸収させる。
(e)DMKを含む上記溶媒中で、開始剤(I)と共開始剤(K)と錯化剤(CoK)とを含むカチオン開始剤系の存在下で、PDMKの重合を実行する。
(f)反応終了時に、未反応のDMKを除去し、溶媒および残留する開始剤系からPDMKを分離する。
【請求項12】
錯化剤(CoK)が、共開始剤(K)と開始剤(I)との反応によって生じる対アニオン(contre-anion)の重合の活性中心を遊離する試剤である請求項11に記載の方法。
【請求項13】
錯化剤(CoK)が、電子-吸引基によって電子を取られた少なくとも一つの二重結合を有する分子である請求項12に記載の方法。
【請求項14】
錯化剤(CoK)が、o-クロラニル(3,4,5,6-テトラクロロ-1,2-ベンゾキノン)、p-クロラニル(2,3,5,6-テトラクロロ-1,4-ベンゾキノン)、ニトロベンジン、トリニトロベンゼン、ジフルオロニトロベンゼン、テトラシアノエチレン、ペンタフルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼンおよびオクタフルオロトルエンからなる群の中から選択される分子である請求項13に記載の方法。
【請求項15】
共開始剤(K)が元素周期律表のIB、IIBおよびA、IIIBおよびIIIA、IVBおよびIVA、VBおよびVA、VIIIBに属する元素(M)を含む請求項11〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
元素(M)が化学元素B、Ti、Sn、Al、Hf、Zn、Be、Sb、Ga、In、Zr、V、AsおよびBiを含む群の中から選択される請求項15に記載の方法。
【請求項17】
共開始剤(K)が一般式:RnMX3-nのルイスの酸(MがIIIA族の元素の場合)、一般式MX4のルイスの酸(MがVA、IVAおよびIVB族の元素の場合)および一般式MX5のルイスの酸(MがVB族の元素の場合)である請求項15または16に記載の方法:
(ここで、
Rはアルキル、アリール、アリールアルキル、アルキルアリール、シクロアルキルおよびアルコキシタイプの1〜12個の炭素原子を有する炭化水素基を有する基の中から選択される一価性の基、
XはF、Cl、BrおよびIの中から選択されるハロゲン原子、
nは0〜3の整数)
【請求項18】
共開始剤(K)がTiC14、ZrCl4、SnCl4、VCl4、SbF5、AlCl3、AlBr3、BF3、BCl3、FeCl3、EtAlCl2、Et1.5AlCl1.5、Et2AlCl、AlMe3およびAlEt3から成る群の中から選択される請求項15〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
開始剤(I)が、単官能性分子(I1)、二官能性分子(I2)、一つまたは複数のハロゲン原子で置換された分子(I3)またはブロンステッド(Bronsted)酸(I4)である請求項11〜18のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2006−517919(P2006−517919A)
【公表日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−518437(P2005−518437)
【出願日】平成16年2月20日(2004.2.20)
【国際出願番号】PCT/FR2004/000399
【国際公開番号】WO2004/076508
【国際公開日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【出願人】(591004685)アルケマ (112)
【Fターム(参考)】