説明

無水クエン酸二水素銀組成物

無水クエン酸二水素銀組成物は、クエン酸二水素銀およびクエン酸を含む。この無水組成物は、凍結乾燥によって調製され得る。この無水組成物は、適切な希釈剤を用いて再構成されて、クエン酸二水素銀組成物を形成し得る。この無水組成物は、再構成され得、そして種々の基材に適用されて、その基材に対して抗菌効果を付与し得る。本出願は、無水クエン酸二水素銀とクエン酸とを含む組成物を生成するプロセスもまた、提供する。このプロセスは、(a)クエン酸二水素銀とクエン酸と水とを含むストック溶液を提供する工程;(b)そのストック溶液を凍結させて凍結溶液を形成する工程;および(c)その凍結溶液を凍結乾燥させて、上記無水組成物を形成する工程;を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、一般的には、抗菌組成物に関する。特に、本発明は、無水クエン酸二水素銀とクエン酸とを含む組成物を提供する。本発明は、その組成物を生成するプロセスを提供する。本発明は、上記固体組成物を使用する抗菌方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
抗菌金属イオン溶液が、殺菌剤として使用されている。銀溶液は、冷却塔(cooling tower)、用水プール(swimming pool)、病院の温水システム、携帯型水システム、および鉱泉プール(spa pool)において、殺菌剤として使用されている。さらに、銀イオン溶液は、創傷の処置のために調製されている。しかし、提唱される方法において使用される銀イオンは、不安定である。その銀イオンは、創傷部位へと治療用量を送達するためには、その創傷付近にて生成されなければならない。
【0003】
銀塩(例えば、クエン酸銀塩)もまた、抗菌散布(dusting)剤として提唱されている。しかし、これらの散布(dusting)剤は、乾燥した状態で維持されなければならず、一般的には、消費財に対して防腐価値を付与するためにも、末端使用者またはその末端使用者の環境に抗菌効果を送達するためにも、便利ではない。コロイド状銀には、種々の用途(木材防腐剤としての用途;食品容器および飲料容器ならびに産業処理機器の殺菌剤としての用途;植物における殺菌剤としての用途;合成ポリマーフィルムにおける殺菌剤としての用途;ならびに包帯中の滅菌剤としての用途が挙げられる)が見出されている。
【0004】
クエン酸二水素銀およびクエン酸の水溶液が、特許文献1(本明細書においてその全体が参考として援用される)において種々の状況における殺菌剤として開示されている。これらのクエン酸二水素銀およびクエン酸の水溶液は、クエン酸水溶液中に浸漬されている一対の銀電極に電流を通すことによって、生成される。これらのクエン酸二水素銀溶液は、広汎な種類の微生物(細菌、ウイルス、および真菌を含む)に対して有効であり、微生物外寄生に対抗するために有効な濃度ではヒト環境において非毒性である。しかし、水溶液は、嵩張って重く、従って、保存するためおよび輸送するために非経済的である。
【特許文献1】米国特許第6,197,814号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
経済的に保存され得るか、経済的に輸送され得るか、または経済的に保存されて輸送され得る、クエン酸二水素銀組成物が、必要である。そのような組成物は、その組成物を保存するために必要な空間を最小にするために、かつその組成物の積荷重量を最小にするために、実質的に水を含まない。そのような組成物は、水または他の水溶液と合わされた場合にクエン酸二水素銀溶液と同じ有益な抗菌効果を付与する。本発明は、この必要性を満たし、関連する利点もまた提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の要旨)
本発明は、無水クエン酸二水素銀とクエン酸とを含む組成物を提供し、その組成物を生成するプロセスを提供する。そのプロセスは、水性クエン酸二水素銀のストック溶液を凍結させる工程、その後、その凍結ストック溶液を凍結乾燥させて、無水クエン酸二水素銀を生成する工程を包含する。
【0007】
本発明は、さらに、無水クエン酸二水素銀とクエン酸とを使用する方法を提供する。この方法は、これらを水性希釈剤と合わせて、抗菌的に有効な水性クエン酸二水素銀溶液を生成することによる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
(発明の詳細な説明)
本発明は、無水クエン酸二水素銀とクエン酸とを含む組成物を提供する。驚くべきことに、この無水クエン酸二水素銀組成物は、有効な抗菌活性を有する安定なクエン酸二水素銀溶液を生成するために、一定期間後に再構成され得ることが、見出された。この無水組成物は、保存が容易であり経済的であるという利点を提供する。この無水組成物はまた、クエン酸二水素銀水溶液よりも輸送が経済的であるという利点を提供する。この無水組成物は、水または別の水性希釈剤を用いて簡便に再構成され得るので、この無水組成物は、クエン酸二水素銀水溶液に対する簡便な代替法を提供する。
【0009】
クエン酸二水素銀は、クエン酸電解質溶液中に浸漬された銀電極の電気分解によって生成される溶液において活性抗菌成分として同定された。クエン酸二水素銀の構造は、式I:
【0010】
【化1】

により示され得、この式Iにおいて、Agは銀イオンであり、負に荷電した炭酸イオン(COO)は、このクエン酸二水素部分において最もあり得る荷電基である。この錯体の化学式は、AgCであり、その分子量は、298.99g/molである。上記の式から理解され得るように、クエン酸二水素銀は、塩であり、その銀イオンがカチオンであり、そのクエン酸二水素イオンがアニオンである。溶液中では、その塩は、解離状態で存在し、そのカチオンおよびアニオンは、水分子によって囲まれる。それらの水分子は、その極性OH基を介してこれらのイオンと会合する。
【0011】
クエン酸は、式II:
【0012】
【化2】

によって表され得、Cの化学式および192.13g/molの分子量を有する。クエン酸は、商業的供給源から容易に入手可能である。クエン酸は、水中に非常に可溶性である。クエン酸の水溶液は、水中、25℃において、最大約60%(重量/体積)であり得る。
【0013】
本発明はまた、固体クエン酸二水素銀組成物を生成する方法を提供する。上記方法は、米国特許第6,197,814号に記載されるように、クエン酸二水素銀のストック溶液を提供する工程で始まる。クエン酸二水素銀溶液を生成するプロセスの要約は、以下の通りである。
【0014】
クエン酸二水素銀のストック溶液を生成するプロセスは、電気分解プロセスである。上記プロセスは、電気分解溶液の調製で始まり、この電気分解溶液は、クエン酸を含む水溶液である。約1%(重量/体積)から水中へのクエン酸のほぼ溶解限度(約60%(重量/体積))までの範囲のクエン酸濃度を有するクエン酸溶液は、クエン酸二水素銀溶液を調製するのに適切であることが見出されている。いくつかの実施形態では、上記範囲は、約5重量%〜約25重量%であり、具体的な値としては、10重量%、15重量%および20重量%である。上記電解液は、上記電気分解プロセスに干渉しない他の成分を含み得る。
【0015】
一対の銀電極は、その電極の間でのイオン電流フローを可能にするために、適切な間隔を空けて上記電解質溶液中に浸漬される。適切な間隔は、約2mmよりも長く、例えば、約2mm〜約8mmである。電解圧は、上記電極間にイオン性電流フローを生成するために、その電極を通って加えられる。上記電解圧を印加するためにD.C.電源を使用することが可能であるが、上記電極に交流波形を印加することが望ましいことが見出されている。適切な電圧は、約12ボルト〜約50ボルトである。適切な交流波形は、約12ボルト〜50ボルトのピーク電圧を有するパルス電位(定期的で断続的な位相の反転を有する)を、上記電極に印加する。上記電解質溶液を通って生じたイオンフローは、クエン酸二水素銀−クエン酸水溶液の生成をもたらす。この溶液は、例えば、沈降、濾過または沈降および濾過の両方によってさらに処理され得、その後、無水クエン酸二水素銀を生成するプロセスにおいて使用される。
【0016】
上記プロセスを、バッチ様式で、または連続的なプロセスで行うことが可能である。クエン酸二水素銀溶液を電解槽を通して再循環させて、この溶液中のクエン酸二水素銀の最終濃度を増加させることもまた、可能である。当業者は、上述の工程は、当該分野で公知の多くの異なる変化形で実施され得ることを理解する。上記プロセスは、米国特許第6,197,814号(参考として援用される)および以下の実施例に詳細に記載される。上記の生じた溶液を、本明細書中で「ストック溶液」と呼び、これは、未だ凍結乾燥に供していない、クエン酸二水素銀−クエン酸水溶液を意味する。
【0017】
上記ストック溶液が提供されると、次の工程は、そのストック溶液から水を除去して、無水クエン酸二水素銀を生成することである。凍結乾燥は、より高品質な生成物を生じることが見出されている。凍結乾燥プロセスでは、クエン酸二水素銀−クエン酸溶液を含む凍結溶液は、減圧に供され、それによって、上記溶液の温度および圧力が水の三重点より下に低下する。その三重点の下では、水は昇華し、固相から気相に直接移る。いくつかの実施形態では、上記溶液は最初に凍結され、次いで凍結乾燥装置中に配置される。上記溶液は、例えば、上記溶液をフリーザーのような冷却環境中に配置することによって、凍結され得る。他の実施形態では、上記溶液は、凍結乾燥装置中に配置され、次いで凍結される。蒸発は吸熱プロセスであるので、上記溶液は、その溶液を凍結乾燥装置中に配置して、そして減圧することによって、凍結され得る。水が上記溶液サンプルから蒸発すると、その水は、そのサンプルから熱を奪い、それによって、そのサンプルの温度を、そのサンプルの三重点より下に低下させる。そのような場合において、上記サンプルの泡立ちを防ぐために、遠心分離のような手段をとることが有用である。水の昇華によって引き起こされる上記凍結溶液の潜熱不足を補うために、凍結乾燥プロセスの間に上記サンプルを加熱することもまた、有用である。当業者は、上記凍結サンプルを加熱することは、一般的に、サンプルの温度が上記溶液の三重点より下のままである限り、凍結乾燥プロセスを加速させることを理解する。
【0018】
凍結乾燥装置は、公知であり、多くの供給業者から入手可能である;または、凍結乾燥装置は、当該分野で公知の手順を使用して構築され得る。凍結乾燥装置は、乾燥チャンバ、昇華した水を捕捉するコンデンサ、減圧チャンバおよびコンデンサに冷却剤(refrigerant)を与える冷却システム、上記乾燥チャンバに減圧を付与する減圧システムを備える。上記凍結乾燥装置はまた、温度制御デバイスを有し得、この温度制御デバイスは、使用者が、サンプルを凍結点まで冷却すること、および昇華プロセスを加速するためにサンプルを加熱することを可能にする。上記温度制御デバイスは、ある場合は、冷却剤(refrigerant)を循環させる冷却コイルを備える。上記温度制御デバイスはまた、凍結乾燥プロセスの間にサンプルを加熱するための加熱コイルまたは別の適切な装置を備え得る。
【0019】
上記凍結乾燥プロセスは、クエン酸二水素銀とクエン酸とを含む無水組成物を形成するために十分量の水を取り除く。その無水クエン酸二水素銀結晶は、半透明の灰色である。いくつかの実施形態において、これらの結晶は、微粉末へと粉砕されて、この結晶が再構成されるまで、無期限の間、保存される。いくつかの実施形態において、上記粉末は、遮光性容器(例えば、不透明なボトル)中に保存されるか、または遮光性箱中に保存され、光による分解を妨げる。
【0020】
驚くべきことに、上記ストック溶液中に存在した希釈剤(例えば、水)と同体積の希釈剤(例えば、水)を使用して再構成されたクエン酸二水素銀組成物は、顕著な分解も、銀の酸化還元状態の低下も、コロイドの形成のいずれもなく、上記ストック溶液中にあった遊離の銀イオンと同じ濃度の遊離銀イオンを保有することが見出されている。銀イオンはクエン酸二水素銀組成物における有効抗菌因子であるので、このような再構成された組成物は、上記ストック溶液と同じ抗菌特性を有することが予測される。従って、上記再構成された組成物は、上記ストック溶液が使用され得る任意の様式で使用され得る。
【0021】
用語「クエン酸二水素銀とクエン酸とを含む組成物」は、クエン酸二水素銀とクエン酸とを含む固体組成物を意味する。従って、上記組成物は検出可能な量の水を含み得るが、上記組成物は、この組成物が流体となるのに十分な水は含まない。上記固体組成物は非晶性でも結晶性でもよいが、結晶形が特に望ましい。なぜなら、そのような結晶形は、記載される凍結乾燥プロセスによって形成され、特に安定であると考えられるからである。従って、本発明はさらに、無水クエン酸二水素銀とクエン酸とを含む結晶性組成物を提供する。
【0022】
本発明はさらに、実質的に水を含まない無水クエン酸二水素銀組成物を提供する。用語「実質的に含まない」とは、サンプルが、検出下限量未満の水を含むことを意味する。全ての水を上記サンプルから取り除くことは理論上可能であるが、ある場合では、上記サンプルを、残りの水の量(少しでもあったとしたら)が、当該分野で認識されている検出手段についての検出限界より下である点まで乾燥させることが、十分である。言及され得るいくつかの検出手段は、ガスクロマトグラフィー(GC)、核磁気共鳴分光法(NMR)、質量分析(MS)またはこれらの2つ以上の組み合わせ(例えば、GC−MS)である。
【0023】
本発明はさらに、従来の試験プロセスによる水の検出限界よりも多い量の水を含む無水クエン酸二水素銀を提供する。このような実施形態において、上記無水クエン酸二水素銀は、約2%(重量/重量%)未満の水、特には約1%(重量/重量%)未満の水、より特には約0.5%(重量/重量%)未満の水、さらにより特には約0.1%(重量/重量%)未満の水を含むことが好ましい。当業者は、そのような無水組成物は、凍結したサンプルから適切な量の水を取り除くために十分な条件(例えば、減圧、時間の長さおよび加熱)下で、凍結乾燥プロセスを行うことによって得られ得ることを理解する。
【0024】
本発明はさらに、無水クエン酸二水素銀とモル過剰のクエン酸とを含む組成物を提供する。用語「モル過剰」とは、上記組成物中のクエン酸二水素銀の各モルに対して、1モルよりも多いクエン酸が存在するようなクエン酸の量を意味する。例えば、上記のように電気分解に供した1重量/体積%〜60重量/体積%のクエン酸溶液は、約0.00001重量%〜約1重量%の銀イオンを含む。特定の実施形態において、上記の電気分解プロセスで処理された10%クエン酸溶液は、約0.1%の銀イオンを含む。当業者は、上記溶液中にクエン酸二水素銀に対してモル過剰のクエン酸が存在することを理解する。この例において、そのモル過剰は約15倍である。当業者はさらに、クエン酸が不揮発性であるので、上記の凍結乾燥プロセスにより生成された上記固体クエン酸二水素銀組成物は、クエン酸二水素銀に対してモル過剰のクエン酸を含むことを理解する。いくつかの実施形態では、このモル過剰は、約5倍〜約10,000倍;特には約8倍〜約10,000倍である。クエン酸二水素銀に対して、約5培より多く、より特には約10倍より多く、さらにより特には約12倍より多く過剰のクエン酸は、溶液中のクエン酸二水素銀錯体の実質的な安定性を提供すると考えられる。従って、本発明は、クエン酸二水素銀と、クエン酸二水素銀に対して約5倍より多くモル過剰の、特には少なくとも約8倍モル過剰の、より特には少なくとも約10倍モル過剰の、さらにより特には少なくとも約12倍モル過剰のクエン酸とを含む、固体クエン酸二水素銀組成物を提供する。
【0025】
驚くべきことに、無水クエン酸二水素銀組成物は、再構成され得、抗菌的に活性な組成物を提供し得ることが見出されている。無水クエン酸二水素銀組成物は、銀カチオンとクエン酸アニオンとの間の会合を壊さずに希釈剤中に溶解することは、以前には報告されておらず、再構成された溶液は抗菌特性を有することもまた、示されていない。
【0026】
本発明は、約0.05ppm〜約10,000ppmの銀イオン(Ag)を含む、再構成されたクエン酸二水素銀−クエン酸組成物を提供する。クエン酸二水素銀の有効濃度は、防御作用が求められる微生物、処理される基材およびその基材に対する現存の生物負荷または潜在的な生物負荷、ならびに上記希釈剤中のさらなる抗菌活性因子の存在または非存在に依存する。いくつかの実施形態では、銀イオンの抗菌的に有効な濃度は、約0.075ppm〜約2,500ppmの範囲であり、特には約0.1ppm〜約1,000ppmの範囲である。
【0027】
従って、本発明は、無水クエン酸二水素銀組成物を使用して、再構成されたクエン酸二水素銀溶液を生成する方法を提供する。上記方法は、上記無水組成物と希釈剤とを合わせる工程を包含する。上記希釈剤は、上記クエン酸二水素銀およびクエン酸を溶解し得る溶媒である。いくつかの実施形態では、適切な希釈剤は、水性溶媒(例えば、水、または水とさらなる水溶性成分とを含む溶液)である。例えば、上記希釈剤は、水、エタノールまたは水とエタノールとの組み合わせ(例えば、水中10%エタノール溶液)であり得る。
【0028】
本発明はさらに、上記の無水クエン酸二水素銀−クエン酸組成物を、実質的に純粋な水である希釈剤を用いて再構成することを提供する。用語「実質的に純粋な水」とは、混入物も抗菌因子(例えば、エタノール)も本質的には含まない水を意味する。実質的に純粋な水の例としては、蒸留水、二重蒸留水、二重蒸留脱イオン水、限外濾過水および注射用水である。
【0029】
本発明はさらに、上記の無水クエン酸二水素銀−クエン酸組成物を、水道水、「淡水」および「処理水」を用いて再構成することを提供する。「淡水」とは、川、湖、小川、貯水池などから得られた水である。「処理水」とは、処理されて混入物を取り除いた廃水である。大部分の通常の状況では、通常の水道水は、希釈剤として十分であるが、必要な場合、純粋型の水が使用され得る。
【0030】
本発明はまた、上記の無水クエン酸二水素銀−クエン酸組成物を、水と別の成分とを含む水溶液である希釈剤を用いて再構成することを提供する。上記他の成分は、洗浄剤、抗菌剤または別の種類の成分であり得る。例示的な洗浄剤としては、界面活性剤が挙げられる。例示的な抗菌剤としては、エタノールが挙げられる。本発明は、水と、界面活性剤、アルコールおよび界面活性剤とアルコールとの組み合わせからなる群の成員とを含む希釈剤を提供する。例示的な希釈剤としては、水性エタノール、水性ドデシル硫酸ナトリウム、およびエタノールとドデシル硫酸ナトリウムとの水性混合物が挙げられる。例えば、本発明は、希釈剤として、約0.1%〜約10%のエタノールと、必要に応じて約0.0001%〜約0.1%の界面活性剤との水溶液を提供する。例示的な希釈剤は、水中に、約2%のエタノールおよび約0.01%より多い界面活性剤を含む。
【0031】
クエン酸二水素銀とエタノールとの組み合わせは、予測できない相乗的な殺菌特性および抗菌特性を生成する。クエン酸二水素銀を含まない水性エタノール組成物と比較すると、本発明は、クエン酸二水素銀を含まない場合に必要なアルコール濃度よりも低いアルコール濃度で、殺菌効果および抗菌効果を提供する。
【0032】
本発明はさらに、無水クエン酸二水素銀を使用して抗菌効果を生じる方法を提供する。上記方法は、無水クエン酸二水素銀組成物と希釈剤とを合わせて、再構成されたクエン酸二水素銀溶液を生成する工程を包含する。上記方法はさらに、その再構成されたクエン酸二水素銀−クエン酸溶液を基材に適用する工程を包含する。用語「基材」は、一般的に、本明細書中では、抗菌処理を必要とする任意の表面、物品または環境を意味するために使用される。
【0033】
種々の表面は、クエン酸二水素銀を含む組成物で処理され得る。これらの表面としては、カウンター表面、床、ガラス表面、金属表面(例えば、ステンレス鋼表面、クロム表面および銅表面)、タイル表面、コンクリート表面、ビニルフローリングおよび塗装表面が挙げられる。用語「表面」は、本明細書中では、以下を含む任意の表面を指すために使用される:種々の物体の内側表面および外側表面、容器(例えば、ボイラー、水タンク、用水プールなど)の内側、管の内側、家庭用備品および家庭用品の外側、カウンター表面、ガラス窓ならびにドア。用語「表面」は、本明細書中では、物品全体と区別するために使用される。上記再構成されたクエン酸二水素銀−クエン酸溶液は、従来の様式(例えば、上記溶液を上記表面に注ぐことによる様式、上記溶液を上記表面に噴霧することによる様式、または上記溶液を上記表面に塗布することによる様式)により、上記表面に適用される。上記溶液は、簡便には、上記表面から拭き取られるかまたはゆすぎ落とされるか、あるいは、有利には、上記表面上に乾燥するまで放置され、それによって、長時間効果のある抗菌残留物または抗菌フィルムを、上記表面上に提供する。
【0034】
本発明はさらに、種々の物品(例えば、布地、金属物品、プラスチック物品、天然産物および多くの場合水性洗浄溶液で処理される他の物品)を処理する方法を包含する。例えば、本発明は、食料品を、再構成されたクエン酸二水素銀−クエン酸組成物で処理することを提供する。そのような様式で処理される例示的な食料品としては、野菜および果物が挙げられる。この様式で処理され得る例示的な野菜としては、以下が挙げられる:根菜(例えば、ニンジン、テンサイ、ダイコン);塊茎(例えば、ジャガイモ、カブ、サツマイモおよびヤムイモ(yam));球根(例えば、タマネギ、ワケギ(scallion));球茎(例えば、ニンニク);青葉野菜(例えば、ホウレンソウ、ケール、レタスおよびキャベツ);アブラナ科の芽(例えば、ブロッコリーおよびカリフラワー);ならびに豆果(例えば、マメ類およびピーナッツ)。この様式で処理され得る例示的な果物としては、以下が挙げら得る:カボチャ、メロン、リンゴ、モモ、ナシ、バナナ、トマト、柑橘類(例えば、オレンジ、グレープフルーツ、ミカン、タンジェリン、レモンおよびライム)、ブドウならびにオリーブ。本発明は、上記クエン酸二水素銀組成物を上記食料品上に噴霧することまたはそれらを拭くことを提供する。あるいは、本発明は、上記食料品を上記溶液中に浸漬することを提供する。
【0035】
本発明はまた、種々の物品を、再構成されたクエン酸二水素銀溶液で処理する方法を包含する。例えば、上記溶液は、種々の品目(食品供給または食品加工製造において使用される機械部品を含む)上に噴霧されてもそれらを拭かれてもよい。上記溶液はまた、子供または幼児が扱う玩具および他の品目を洗浄するために使用され得る。上記溶液はさらに、布製品(例えば、衣類)、タオル、寝具および他の布製品を洗浄するために使用され得る。本発明は、調理器具、食器および刃物類を消毒するための浸漬組成物として、再構成されたクエン酸二水素銀組成物を提供する。
【0036】
本発明はさらに、抗菌的に有効なクエン酸二水素銀組成物を包含する。用語「抗菌的に有効」とは、上記組成物が、1種以上の微生物の拡散を停止もしくは減少させること、1種以上の微生物による外寄生を防ぐこと、1種以上の微生物を殺すこと、またはこれらの効果の組み合わせを意味する。用語「微生物」は、細菌、ウイルスまたは真菌を含む。水性クエン酸二水素銀組成物は、細菌(例えば、Pseudomonas aeruginosa、Salmonella choleraesuis、Staphylococcus aureus、Proprionibacterium acnes、Escherichia coli、Listeria monocytogenesおよびEnterococcus faecium);ウイルス(例えば、ヒト免疫不全ウイルス1(HIV 1)、単純ヘルペスウイルス2(HSV 2)、A型インフルエンザウイルス、ライノウイルス属およびポリオウイルス2型);ならびに真菌(例えば、Trichophyton mentagrophytes)を含む、種々の指示微生物および病原性微生物に対して有効であることが示されている。
【0037】
本発明は、以下の例示的かつ非限定的な実施例を参照して、より完全に理解され得る。本発明の他の実施形態は、本発明の範囲内で実施され得る。
【実施例】
【0038】
(実施例1−クエン酸二水素銀ストック溶液の調製)
水を、逆浸透ユニット中に導入し、半透膜を通して通過させて不純物を除去し、そして脱イオン水を生成した。99%純度の無水クエン酸を、上記水と混合し、200ガロンの20%(重量/体積)(水1ガロン当たりクエン酸796g)溶液を生成した。この200ガロンの20%クエン酸を、陽極および陰極を有するイオンチャンバ中に入れた。これらの電極の各々は、200トロイオンスの999純銀からなった。これらの陽極および陰極を、少なくとも2.0mm離して間隔をあけ、上記クエン酸溶液がこの2つの電極の間を通過することを可能にした。陽性伝導体および陰性伝導体を備えるイオン発生コントローラ(ion generation controller(IGC))電源を、上記陽極および陰極に取り付けた。そのIGCで、17ボルトで5アンペアの電流を印加し、9秒毎にパルス化し、1分間間隔で極性を変化させた。上記プロセス全体にわたって、5アンペア−17ボルトの出力を維持するために、電極間隙を調整した。電流フローは、イオン電流が上記陽極と陰極との間を流れることを引き起こし、上記希釈されたクエン酸溶液中に遊離の銀イオンを生成した。この銀イオンは、上記クエン酸溶液中のクエン酸と反応して、クエン酸二水素銀溶液を生成した。20%のクエン酸溶液を、所望の銀イオン濃度が得られるまで、1分間あたり50ガロンで、144時間、上記イオンチャンバを通して再循環させた。次いで、このクエン酸二水素銀溶液を、上記手順の間に形成されたあらゆる固体を沈殿させるために、静置した。得られた生成物は、2400ppmの銀イオン濃度を有するクエン酸二水素銀溶液であった。本明細書中で今後は、この溶液をストック溶液と呼ぶ。このストック溶液は、以下の実施例ですぐに使用され得るし、後の使用のために保存もされ得る。
【0039】
電極のサイズおよび/または間隔における多くの変形、ならびにピーク電圧における多くの変形、ならびに断続的な電圧極性のタイミング順序における多くの変形が容易に使用され得、本発明での使用のためのクエン酸二水素銀が得られ得ることが、当業者に理解されるはずである。
【0040】
(実施例2−無水クエン酸二水素銀の調製)
上記実施例1で調製したストック溶液の1,000mlサンプルを、SSAバッチ番号04.06.03から入手し、イオン選択性電極(ion specific electrode(ISE))を備えるOrionTM 290Aプロセッサを使用して、このサンプルが2400ppmのイオン性銀の濃度を有することを確認した。
【0041】
1,000mlのストック溶液を、2つの2.5インチ(’’)×8インチ(’’)×15インチ(’’)PyrexTM耐熱性ガラストレイ中にデカントした。この液体ストック溶液レベルは、各トレイにおいて約1.5インチ(’’)であった。
【0042】
次いで、このトレイを、小さい商業グレードの凍結乾燥ユニット中に配置した。この凍結乾燥ユニットは、温度制御棚を備える乾燥チャンバ、生成物から除去された水を捕捉するコンデンサ、温度制御棚およびコンデンサに冷却剤(refrigerant)を与える冷却システム、上記チャンバおよびコンデンサ中の圧力を低下させて乾燥プロセスを容易にする減圧システムからなった。冷却設定および減圧設定を、水溶液を>50%水マトリックスに凍結乾燥するのに関連する標準的な範囲内で維持した。
【0043】
その水の99%が上記生成物から除去された後、大きくて粗い結晶を上記トレイから収集し、微細な結晶の粉末へと粉砕し、秤量し、そして周囲室温(74°F)で1週間保存した。結晶重量の合計は、206.12gであった。
【0044】
(実施例3−クエン酸二水素銀溶液の再構成)
次いで、実施例2からの結晶の粉末を、約794mlの薬学等級の純水を使用して、1,000ml Pyrexガラスフラスコ中で再構成した。次いで、この溶液を、磁気的スターラーによって30分間撹拌し、遮光性保存キャビネット中に24時間置いた。
【0045】
次いで、上記再構成された溶液中の銀イオンの濃度を、実施例2に記載したOrion 290AプロセッサおよびISEを使用して測定した。測定値を、24時間目、48時間目および72時間目で、ならびに合計4週間にわたって1週間間隔で得た。24時間での読み取りおよび4週間での読み取りは、それぞれ、2398ppmおよび2407ppmであった。これらの濃度は、2400ppmストック溶液と基本的に(Orion 290ATMプロセッサについての操作規格の誤差%範囲内で)同じであった。
【0046】
(実施例4−再構成されたクエン酸二水素銀溶液の抗菌効力)
クエン酸二水素銀組成物の防腐剤としての効力を実証するために、実施例1に記載したクエン酸二水素銀のストック溶液を、防腐剤負荷試験に供した。この防腐剤負荷試験を、カテゴリー2の生成物(水性基剤またはビヒクルを用いて生成された局所的に使用される生成物、無菌性でない経鼻生成物、粘膜に適用されるエマルジョンを含むエマルジョン)についてのヨーロッパ薬局方試験法4.04/5.01.03.00に従って、実施した。
【0047】
細菌試験生物および酵母を、カゼインダイズミール(Soymeal)ペプトン寒天上で培養し、真菌試験生物を、Sabouraud 4%グルコース寒天上で培養した(35℃で18〜24時間(細菌)、25℃で48時間(カンジダ属)、または25℃で1週間(アスペルギルス属))。
【0048】
接種後、上記の細菌および酵母を、上記寒天プレートの表面を0.9%塩化ナトリウムで洗い落とすことによって収穫した。アスペルギルス属を、寒天プレート表面を0.9%塩化ナトリウム/0.01%Tween 80で洗い落とすことによって収穫した。
【0049】
試験微生物の懸濁液を、0.9%塩化ナトリウムで希釈して、約10コロニー形成単位の密度を有する最終試験生物懸濁液を得た。
【0050】
試験生物ごとに、20gの上記試験生成物をガラスジャー(Schott/Germanyからのスクリューキャップ付き250mlジャー)中に秤量し、0.2mlの上記試験生物懸濁液に混入させた。この微生物を、ガラススパチュラで撹拌することによって、上記試験生成物中に注意深く分散させた。
【0051】
このように混入させた試験生成物を、20〜25℃で暗中にて保存した。
【0052】
1gの材料サンプルを、上記試験生成物の混入直後に、ならびに混入の2日後、混入の7日後、混入の14日後および混入の28日後に、採取した。
【0053】
上記サンプルを、0.9%塩化ナトリウム中に希釈し、そしてこの希釈物の0.1mlのアリコートを、Drigalskyスパチュラによって寒天プレート上に広げた。その特定の抗菌剤の適切な失活剤(中和剤)を、上記生成物希釈物を調製するために使用する希釈剤中に含め、そして生細胞の合計数を評価するために使用する寒天プレート中に含めた。
【0054】
上記寒天プレートを、35℃で24時間(細菌および酵母)、または25℃で3日間(アスペルギルス属)インキュベートし、そして増殖したコロニーを、インキュベーション期の後に数えた。このコロニーを数えて、試験生成物1gあたりの生細胞(コロニー形成単位)の数を計算した。次いで、上記生成物中の微生物のlog減少を計算した(以下にある防腐剤負荷試験の結果を含む表を参照のこと)。
【0055】
(試験株)
Pseudomonas aeruginosa ATCC 9027;NCIMB 8626;CIP 82.118
Staphylococcus aureus ATCC 6538;NCTC 10788;NCIMB 9518;CIP 4.83
Candida albicans ATCC 10231;NCPF 3179;IP 48.72
Aspergillus niger ATCC 16404;IMI 149007;IP 1431.83。
【0056】
クエン酸二水素銀を、その抗菌効果について、種々の処方物中で試験した。
【0057】
(表1)
【0058】
【表1】

(表2)
【0059】
【表2】

(表3)
【0060】
【表3】

本発明は、以下の例示的かつ非限定的な実施例を参照してより完全に理解され得る。本発明の他の実施形態は、本発明の範囲内で実施され得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無水クエン酸二水素銀とクエン酸とを含む、組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の無水組成物であって、該組成物は、水を実質的には含まない、組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の無水組成物であって、該組成物は、約0.5%未満の水を含む、組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の無水組成物であって、該組成物は、結晶性である、組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の無水組成物であって、該組成物は、クエン酸二水素銀に対してモル過剰のクエン酸を含む、組成物。
【請求項6】
請求項1に記載の無水組成物であって、該組成物は、クエン酸二水素銀に対して少なくとも5倍モル過剰のクエン酸を含む、組成物。
【請求項7】
無水クエン酸二水素銀とクエン酸とを含む組成物を生成するプロセスであって、該プロセスは、
(a)クエン酸二水素銀とクエン酸と水とを含むストック溶液を提供する工程;
(b)該ストック溶液を凍結させて凍結溶液を形成する工程;および
(c)該凍結溶液を凍結乾燥させて、該無水組成物を形成する工程;
を包含する、プロセス。
【請求項8】
請求項7に記載のプロセスであって、前記クエン酸は、クエン酸二水素銀よりもモル過剰のクエン酸である、プロセス。
【請求項9】
請求項7に記載のプロセスであって、前記工程(c)は、前記凍結溶液を加熱する工程をさらに包含する、プロセス。
【請求項10】
無水クエン酸二水素銀−クエン酸組成物を使用する方法であって、該方法は、該無水クエン酸二水素銀組成物を、再構成された抗菌的に活性なクエン酸二水素銀組成物を生成するために充分な量の水性希釈剤と合わせる工程を包含する、方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法であって、前記水性希釈剤は、実質的に純粋な水である、方法。
【請求項12】
請求項10に記載の方法であって、前記水性希釈剤は、水と、アルコールおよび界面活性剤からなる群のうちの少なくとも1つの成員とを含む、方法。
【請求項13】
無水クエン酸二水素銀−クエン酸組成物を使用する方法であって、該方法は、該無水クエン酸二水素銀組成物を、抗菌的に有効なクエン酸二水素銀溶液を生成するために充分な水性希釈剤と合わせる工程;および該抗菌的に有効なクエン酸二水素銀溶液を基材に適用し、それによって抗菌効果を達成する工程を包含する、方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法であって、前記基材は、固体表面、食料品、または非食料物品である、方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法であって、前記固体表面は、管の内側、貯蔵槽、用水プール、鉱泉、冷却システム、または冷却塔である、方法。
【請求項16】
請求項13に記載の方法であって、前記抗菌効果は、殺生物制御または生物膜制御である、方法。
【請求項17】
請求項13に記載の方法であって、前記抗菌効果は、食品保存である、方法。

【公表番号】特表2007−504157(P2007−504157A)
【公表日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−524884(P2006−524884)
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【国際出願番号】PCT/US2004/027901
【国際公開番号】WO2005/041861
【国際公開日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【出願人】(506068449)ピュア バイオサイエンス (10)
【Fターム(参考)】