説明

無水石膏の製造方法

【課題】 炭化水素を含む石膏混合物を原料として無水石膏を製造する製造方法を提供する。
【解決手段】炭化水素を含む石膏混合物の該炭化水素を1000℃以下の温度で燃焼する燃焼工程を有する、無水石膏の製造方法である。前記燃焼工程が600℃以上で行われるものであってもよい。前記炭化水素を含む石膏混合物が水を30〜80重量%の割合で含むものであってもよい。前記炭化水素を含む石膏混合物が、炭化水素を含む石膏混合物を水と混練してペースト状に調製されたものであってもよく、それをロータリーキルンに装入し前記燃焼工程を行うものであってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無水石膏の製造方法に関し、より詳細には、炭化水素を含む石膏混合物を原料として用い無水石膏を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石膏は、セメント原料、塗装材用途、美術用途、医療用、歯科用、建材分野用、窯業用、土壌中和用等として広く用いられており、結晶水の量に応じて、無水物(CaSO)、半水和物(CaSO・0.5HO)及び二水和物(CaSO・2HO)等がある。
この石膏は、古くから様々な製造方法により製造されてきており、例えば、1940年代には化学肥料やリン酸塩の需要増大に伴いリン酸石膏が副生され、大気汚染防止の観点からSOxの規制により排煙脱硫石膏が生産されるようになってきた。その後も原料の多様化等によりフッ酸石膏、チタン石膏及び硫安石膏等様々な製造方法により石膏が生産されてきた。
そして、石膏の製造方法に関して様々な検討がなされ、特許出願されているものも存在する(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、「石膏は、硫酸アンモニウム溶液と水酸化カルシウムスラリーとの反応により、各種の工業プロセスからの副生物として生成される。斯かるプロセスとしては、例えば、燐鉱石の硫酸分解による湿式燐酸製造プロセス、硫酸アンモニウムを含有する燃焼灰の硫酸アンモニウムの複分解を伴う湿式プロセス等が挙げられる。特に、石油系燃焼灰の湿式処理方法においては、硫酸アンモニウムが多量に生成されるため、硫酸アンモニウムの複分解による石膏の製造 方法が注目されている。」(発明の詳細な説明中の段落番号0002)との記載があり、さらに「生石灰の粉末と水とを反応させ水酸化カルシウムスラリーを調製するスラリー生成工程と、硫酸アンモニウム溶液と水酸化カルシウムスラリーとを反応させて石膏を生成する複分解工程とを含む石膏の製造方法において、上記の各工程の間に、液体サイクロンで水酸化カルシウムスラリーを処理して大粒子径の水酸化カルシウムを含むスラリー(A)と小粒子径の水酸化カルシウムを含むスラリー(B)とに分ける分離工程と、スラリー(A)を湿式粉砕処理する粉砕工程とを配置し、そして、分離工程で得られたスラリー(B)を複分解工程に供給し、粉砕工程で得られたスラリーをスラリー生成工程に循環することを特徴とする石膏の製造方法」(請求項1)が開示されている。
【0004】
一方、炭化水素等のような油分を含む石膏混合物が、産業活動により産生されている。例えば、石油類と硫酸塩との混合物をカルシウム材(例えば、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム等)にて中和する工程が、ある化学工業の工程に含まれるが、該工程から、上記したような炭化水素(該石油類に由来する。)を含む石膏混合物(通常、石膏としては二水和物(CaSO・2HO)が主である。)が発生する。
現在、かかる炭化水素を含む石膏混合物は焼却され、焼却後の残留分は管理型処分場に廃棄されている。従って、炭化水素を含む石膏混合物は、有用な石膏を含んでいるにもかかわらず、この石膏分は焼却廃棄されている。
【0005】
【特許文献1】特開2004−323332号公報(請求項1、段落番号0002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のように、これまで様々な石膏の製造方法が開発され知られてきたが、上述のような炭化水素を含む石膏混合物を原料として石膏を製造する製造方法は知られていなかった。
そこで、本発明においては、炭化水素を含む石膏混合物を原料として無水石膏を製造する製造方法を提供することを目的とする。
炭化水素を含む石膏混合物から無水石膏を製造することにより、該石膏混合物中の石膏分を有効に利用することができ(該無水石膏中のCaSO分は、該石膏混合物中のものに由来する。)、省資源や環境保護に資することができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の石膏の製造方法(以下、「本方法」という。)は、炭化水素を含む石膏混合物の該炭化水素を1000℃以下の温度で燃焼する燃焼工程を有する、無水石膏の製造方法である。
なお、本発明において「石膏」とは、硫酸カルシウムを成分とするものを広く含み、その水和の有無や程度を特に制限するものではない。具体的には、本発明にいう「石膏」には、無水物、半水和物及び二水和物のいずれもが含まれる。
【0008】
また、本方法には、以下(1)〜(8)の態様が含まれる。
(1)前記燃焼工程が600℃以上で行われるものである、上記製造方法。
(2)前記炭化水素を含む石膏混合物が粉末を有するものである、上記製造方法。
(3)前記炭化水素を含む石膏混合物が水を含むものである、上記製造方法。
(4)前記炭化水素を含む石膏混合物が水を30〜80重量%の割合で含有するものである、上記(3)に記載の製造方法。
(5)前記炭化水素を含む石膏混合物が、炭化水素を含む石膏混合物を水と混練してペースト状に調製されたものである、上記(3)又は(4)に記載の製造方法。
(6)前記ペースト状に調製された炭化水素を含む石膏混合物をロータリーキルンに装入し前記燃焼工程を行うものである、上記(5)に記載の製造方法。
(7)前記炭化水素を含む石膏混合物が産業廃棄物である、上記製造方法。
【0009】
そして、本発明は、本方法により製造される無水石膏(以下、「本無水石膏」という。)を提供する。即ち、本無水石膏は、本方法により製造される無水石膏である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(本発明の石膏の製造方法(本方法))
本方法は、炭化水素を含む石膏混合物の該炭化水素を1000℃以下の温度で燃焼する燃焼工程を有する、無水石膏の製造方法である。
本方法の原料たる「炭化水素を含む石膏混合物」に含まれる炭化水素としては、炭素と水素とを含んで構成される有機化合物のうち、5〜35℃の温度範囲内の少なくともいずれかの温度(常圧、即ち1気圧)において、液体(油状、タール状、ピッチ状の状態を含む。)又は固体で存在する有機化合物をいう。なお、該炭化水素としては、前述のように、石油由来の石油系炭化水素を例示することができる。
燃焼工程は1000℃以下の温度で行われるが(燃焼工程は、酸素の存在下にて行われる。代表的には、空気雰囲気である。)、これは後述するように温度が1000℃を超えると、石膏が分解(酸化カルシウムCaOと硫黄酸化物SOxとに分解する。)することで、本方法にて得られる無水石膏中の石膏分が減少するためである。さらに、石膏が酸化カルシウムCaOと硫黄酸化物SOxとに分解すると、大気汚染原因物質である硫黄酸化物SOxが生じるため、それを除去するための高価な設備(例えば、排ガスの脱硫設備等)を設ける必要が生じ、さもなければ大気汚染を引き起こすという問題が生じる。なお、従来から行われてきた炭化水素を含む石膏混合物の焼却は、1000℃を超える温度で行われていたため、石膏混合物中の石膏の大部分は、酸化カルシウムCaOと硫黄酸化物SOxとに分解し(従来からの1000℃を超える焼却は、炭化水素をCmHnとし石膏を2水和物とすると、CaSO・2HO+CmHn→CaO+SOx+mCO+xHOにて表される。酸化カルシウムCaOは残留するが、他のSOx、CO2、Oは気体として散逸する。)、石膏分として回収することはできなかったし、発生する硫黄酸化物SOxを除去するための高価な排ガス脱硫設備を設ける必要があった。
なお、本方法により製造される無水石膏には、純粋な無水石膏のみならず、無水石膏と石膏分以外の成分(代表的には、石膏混合物に含まれていた石膏分以外の成分のうち燃焼工程により除去されなかった成分であり、例えば、炭化水素を含む石膏混合物が含んでいた炭化水素の残留分や、該石膏混合物に含まれていた無機化合物等を例示できる。)とを含むもの(無水石膏含有組成物)も包含する概念である。
このような本方法によれば、石膏の分解による硫黄酸化物SOx(有害な大気汚染原因物質)を発生させることなく、炭化水素を含む石膏混合物中の炭化水素を燃焼により除去し、炭化水素を含む石膏混合物(乾燥ベース)中の炭化水素分割合(該石膏混合物から水分(結晶水を含む)を除いた乾燥物k1(g)中の炭化水素分k2(g)の割合(k2/k1)をいう。)よりも、得られる無水石膏の炭化水素分割合(該無水石膏から水分を除いた乾燥物k3(g)中の炭化水素分k4(g)の割合(k4/k3)をいう。)を低くすることができ、得られる無水石膏を石膏分供給源として用いることができる(炭化水素を含む石膏混合物中のCaSO分割合(該石膏混合物から水分(結晶水を含む)を除いた乾燥物k1(g)中のCaSO分k5(g)の割合(k5/k1)をいう。)よりも、得られる無水石膏中のCaSO分割合(該無水石膏から水分を除いた乾燥物k3(g)中のCaSO分k6(g)の割合(k6/k3)をいう。)を高くすることができる。)。なお、本方法により製造される無水石膏中のCaSO分割合(k6/k3)は、該無水石膏がそのまま石膏成分を供給するために使用できる程度であることが好ましく、例えば、該無水石膏中のCaSO分割合(k6/k3)は、好ましくは0.75以上であり、より好ましくは0.80以上であり、最も好ましくは0.85以上である(無論、1以下である。)。また、該無水石膏は、さらに石膏分割合を高めるような精製工程により精製された後に、使用に供されるようにしてよいことは言うまでもない。
このように本方法では、炭化水素を含む石膏混合物から石膏分を回収することで無水石膏を製造することができ(炭化水素をCmHnとし石膏を2水和物とすると、CaSO・2HO+CmHn→CaSO+mCO+xHOにて表され、CaSOが残る。)、それにより該石膏混合物中の石膏分を有効に利用することができ、省資源や環境保護に資することができる。
【0011】
本発明者らは、本方法の燃焼工程の上限温度である1000℃を次のようにして見いだし、本発明を完成するに至った。
図1は、炭化水素を含む石膏混合物を加熱(空気雰囲気)した際の熱重量変化曲線(TG曲線、熱重量分析やTGAとも言う。)を示している。そして、図2は、炭化水素を含む石膏混合物を加熱(空気雰囲気)した際の示差走査熱量計分析(DSC)曲線を示している。図1及び図2を参照して、炭化水素を含む石膏混合物を昇温した際の変化について説明する。なお、図1の熱重量変化曲線(TG曲線)は、セイコーインスツルメント社製の型番EXSTAR6000TG/DTA6300(熱天秤)を用いて測定した(運転条件:昇温速度10℃/分、試料24mg、大気雰囲気)。図2の示差走査熱量計分析(DSC)は、セイコーインスツルメント社製の型番EXSTAR6000DSC6300を用いて測定した(運転条件:昇温速度5℃/分、試料11mg、大気雰囲気)。図1は、横軸に温度(単位:℃)をとり、縦軸に重量変化割合(単位:%)(=重量変化×100/初期重量=(初期重量ー各時点の重量)×100/初期重量)をとったグラフである。そして、図2は、横軸に温度(単位:℃)をとり、縦軸に吸発熱量(単位:mW)をとったグラフである(各ピークの吸発熱量を各ピーク近傍に記載している。なお、縦軸の正方向が発熱を、負方向が吸熱を、それぞれ示している。)。
まず、炭化水素を含む石膏混合物を室温から温度を上昇させていくと、まず、揮発成分が揮発することによる重量減少が見られ(図1及び図2中、矢印Aにて示した部分。主として100℃以下)、次いで、主として石膏の結晶水が離脱する(図1及び図2中、矢印Bにて示した部分。主として100〜200℃)。その後、200℃を超えると、炭化水素分が燃焼することによる重量減(図1)及び発熱(図2)が生じる(図1及び図2中、矢印Cにて示した部分)。この炭化水素の燃焼は600℃程度まで継続する(即ち、炭化水素の燃焼は200℃から600℃の範囲で生じる。)。そして、600℃を超えるとほぼ変化は生じなくなり、さらに昇温され1000℃を超えると、石膏の分解(CaSOが酸化カルシウムCaOと硫黄酸化物SOxとに分解する。)が生じる(図1中、矢印Dにて示した部分)。
この図1及び図2に示した結果から、炭化水素を含む石膏混合物中の石膏分を分解させることなく、炭化水素を燃焼させ除去するには、1000℃以下の温度で燃焼工程を行う必要があることを本発明者らは見いだし、本発明を完成させるに至った。
なお、図1においては、900℃を超えると、僅かな重量減少の傾向が見られるので、900℃以下の温度で燃焼工程を行うようにしてもよい。
【0012】
本方法においては、前記燃焼工程が600℃以上で行われてもよい。
図1及び図2を用いて説明したように、石膏混合物に含まれる炭化水素の燃焼は200℃から600℃の範囲で生じるので、燃焼工程が600℃以上で行われれば、石膏混合物に含まれる炭化水素がほぼ完全に燃焼して除去されるので、本方法にて得られる無水石膏中に炭化水素が実質的に残留しなくなるので好ましい。
なお、炭化水素を含む石膏混合物は産業廃棄物に分類されることが多く、産業廃棄物としての石膏混合物は、800℃以上の加熱処理がなされるべき(廃棄物中間処理の技術上の規準)であることに従えば、前記燃焼工程が800℃以上で行われてもよい。
【0013】
以上説明したように、本方法の前記燃焼工程は、炭化水素が完全に燃焼する温度以上且つ石膏が分解(酸化カルシウムCaOと硫黄酸化物SOxとに分解する。)する温度未満の温度で行われることが好ましく、分解する温度未満との観点からは上述の通り1000℃以下でなされるべきであるが、900℃以下でなされてもよい。一方、炭化水素が完全に燃焼する温度以上との観点からは上述の通り600℃以上でなされてもよく、そして800℃以上でなされてもよい(即ち、燃焼工程が行われる温度は、1000℃以下であれば何ら制限されないが、600℃〜1000℃、800℃〜1000℃、600℃〜900℃、800℃〜900℃の範囲でされてもよい。)。
【0014】
本方法においては、前記炭化水素を含む石膏混合物が粉末を有するものであってもよい。
炭化水素を含む石膏混合物が粉末を有する場合、該石膏混合物に含まれる炭化水素を安価かつ容易に除去することは困難であることが多い(溶媒を用いた抽出法等により除去することができる場合もあるが、抽出法は、通常費用がかさむし、煩雑である。また、高分子化した炭化水素は溶媒に溶解しにくい場合があるので、抽出法を用いることができないことも多い。)。その点、本方法によれば、粉末を含む石膏混合物であっても、燃焼により炭化水素を除去するので、炭化水素を比較的安価かつ容易に除去することができる。
なお、ここにいう「粉末」とは、石膏混合物を構成する固体の1粒が2mm×2mm×2mmの立方体の空間に収容可能であることをいう。
【0015】
本方法のうち、前記炭化水素を含む石膏混合物が水を含むもの(以下、「含水原料使用方法」という。なお、前記炭化水素を含む石膏混合物のうち水を含むものを「含水原料」という。)であってもよい。
前記炭化水素を含む石膏混合物は、そのままでは流動性が低く管内を搬送することが難しい場合が多いため、工程内での取扱が困難なことがあった。このような場合、前記炭化水素を含む石膏混合物が水を含むようにすれば、この水によって流動性が付与されることで管内移送が可能になることがある。
この含水原料中の水の割合((含水原料中の水の質量/結晶水を除く水分を含まない原料の質量)をいう。即ち、含水原料W(g)中に含まれる水(結晶水を除く)の質量をw1(g)とすると、w1/(W−w1)により示される。)は、あまり小さいと、含水原料に十分な流動性を付与することができず管内移送がうまく行えなかったり困難になったりする一方、あまり大きいと、(十分な流動性を付与することができ、移送用のポンプ等の能力を小さくする等による設備費用の低減は可能であるが)燃焼工程を行う際に水分蒸発に大きなエネルギーを消費してしまうので、これら両者をうまく両立する範囲とされることが好ましい。含水原料中の水の割合(含水原料W(g)中に含まれる水(結晶水を除く)の質量をw1(g)とすると、w1/(W−w1))は、下限として、好ましくは25重量%以上とされ、より好ましくは28重量%以上とされ、最も好ましくは30重量%以上とされ、上限として、好ましくは90重量%以下とされ、より好ましくは85重量%以下とされ、最も好ましくは80重量%以下とされる(通常、好ましくは25重量%以上かつ90重量%以下とされ、より好ましくは28重量%以上かつ85重量%以下とされ、最も好ましくは30重量%以上かつ80重量%以下とされる。)。
【0016】
含水原料使用方法のうち、含水原料が、炭化水素を含む石膏混合物を水と混練してペースト状(のり状)に調製されたもの(以下、「ペースト原料使用方法」という。)であってもよい。
このように炭化水素を含む石膏混合物を水と混練してペースト状に調製したものを用いることで、流動性が付与されることで管内移送を容易ならしめることに加え、含水原料に含まれる粉体や粒体が不意に気流によって飛散すること等を効果的に防止することができる。
【0017】
ペースト原料使用方法においては、前記ペースト状に調製された炭化水素を含む石膏混合物をロータリーキルンに装入し前記燃焼工程を行うものであってもよい。
ここにいう「ロータリーキルン」とは、高温ガスとの熱交換により原料を加熱し燃焼させるものをいい、具体的には、回転軸の周りに回転される中空の筒(該回転軸の一端側から他端側まで連通する内部空間を有する。なお、該回転軸に対して垂直な断面における内部空間の形状は、円形、楕円形、多角形等いかなるものであってもよい。)を有して構成されるものであり、該回転軸の一端側から該筒内部に原料を装入し、該筒の内部空間を通過する間に高温ガスにより昇温され、該回転軸の他端側から生成物を取り出すものをいう。
このようなロータリーキルンは、原料性状が液体か固体かを問わず安定的な連続操業が可能であること等から多用される傾向にあるが、細かい粉体になりやすい石膏を取り扱う本方法では、ロータリーキルンの内部空間を流通する気流に粉体が同伴されるという問題がある(粉末が同伴されることを防止するには、通常、バッチ式回転炉や外熱式回転炉等が用いられてきた。)。その点、ペースト状に調製された炭化水素を含む石膏混合物をロータリーキルンに装入し前記燃焼工程を行うようにすれば、このような気流による粉体の同伴を防止又は減少させることができ、ロータリーキルンを用いて燃焼工程をうまく行うことができる。そして、炭化水素を含む石膏混合物をロータリーキルンへ装入する際も、ペースト状に調製されたものを用いることで、該石膏混合物を管を用いて移送(圧送)することができる。
【0018】
前記炭化水素を含む石膏混合物が産業廃棄物であってもよい。
前述のように、炭化水素を含む石膏混合物は、様々な工程(例えば、前述したように、石油類と硫酸塩との混合物をカルシウム材にて中和する工程等)から発生しているが、これまで産業廃棄物として焼却され焼却後の残留分は管理型処分場に廃棄されている。
このような産業廃棄物としての石膏混合物は、有用な石膏が廃棄されるという問題のみならず、焼却費用や管理型処分場費用を要するという問題があったが、本方法によれば、これらの問題を生じることなく、石膏が分解することで生じる有害な硫黄酸化物SOx(大気汚染原因物質)を発生させることなく(排ガスの脱硫設備は不要であり、大気汚染も生じない。)、該石膏混合物に含まれる有用な石膏を回収して再利用することができる。
【0019】
(本方法により製造される無水石膏(本無水石膏))
本方法により製造される無水石膏(本無水石膏)は、石膏成分を供給するために様々な用途に汎用的に利用することができる。例えば、従来の石膏と同様に、本無水石膏は、セメント原料、塗装材用途、美術用途、医療用、歯科用、建材分野用、窯業用、土壌中和用等として広く用いられることができる。
本方法により製造される無水石膏(本無水石膏)を使用することで、炭化水素を含む石膏混合物中の石膏分を有効に活用することができ、さらに炭化水素を含む石膏混合物は産業廃棄物として廃棄されることが多かったので廃棄費用も不要になる。
なお、前述のように、本無水石膏は、純粋な無水石膏のみならず、無水石膏と石膏分以外の成分(代表的には、石膏混合物に含まれていた石膏分以外の成分のうち燃焼工程により除去されなかった成分であり、例えば、炭化水素を含む石膏混合物が含んでいた炭化水素の残留分や、該石膏混合物に含まれていた無機化合物等を例示できる。)とを含むもの(無水石膏含有組成物)も包含する。本方法により製造される無水石膏(本無水石膏)中のCaSO分割合(前述のように、該無水石膏から水分を除いた乾燥物k3(g)中のCaSO分k6(g)の割合(k6/k3)をいう。)は、本無水石膏がそのまま石膏成分を供給するために使用できる程度であることが好ましく、例えば、本無水石膏中のCaSO分割合(k6/k3)は、好ましくは0.75以上であり、より好ましくは0.80以上であり、最も好ましくは0.85以上である(無論、1以下である。)。また、本無水石膏は、さらに石膏分割合を高めるような精製工程により精製された後に、使用に供されるようにしてよいことは言うまでもない。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を具体的に説明するために、実施例を挙げる。しかしながら、これら実施例によって、本発明は何ら制限されるものではない。
【0021】
図3は、実施例に使用した装置11の概略を示す概略図である。図3を参照して、実施例に使用した装置11について説明する。
装置11は、原料受入ホッパー21と、第1スクリューコンベア22と、振動ふるい23と、原料貯蔵サイロ24と、第2スクリューコンベア25と、バケットエレベータ26と、第3スクリューコンベア27と、2軸混練機28と、モノポンプ29(兵神装備製、モノポンプ型番4NES80型)と、移送配管30と、ロータリーキルン31と、集塵機41と、給水機43と、を備えてなる。
炭化水素を含む石膏混合物(以下、「原料混合物」という。)61は、トラック51により搬送され、最初に原料受入ホッパー21に受け入れられる。原料受入ホッパー21に受け入れられた原料混合物61は、原料受入ホッパー21から第1スクリューコンベア22により必要量ずつ払い出され、振動ふるい23に装入される。振動ふるい23は、原料混合物61に含まれている所定大きさ以上の異物をふるい分けにより除去する。振動ふるい23により異物が除去された原料混合物61は原料貯蔵サイロ24に貯蔵される。原料貯蔵サイロ24に貯蔵された原料混合物61は第2スクリューコンベア25により必要量ずつ払い出され、バケットエレベータ26によって第3スクリューコンベア27に装入され搬送される。第3スクリューコンベア27により搬送された原料混合物61は2軸混練機28に装入されるが、2軸混練機28には同時に給水機43によって所定量の水が供給される。これにより2軸混練機28は、原料混合物61を水と混合しペースト状に混練する(このペースト状の原料混合物61と水との混合物を、以下、「原料ペースト」という。)。2軸混練機28により形成された原料ペーストは、モノポンプ29により移送配管30内を圧送され、ロータリーキルン31に装入される。
【0022】
ロータリーキルン31は、一端33aから他端33bまで連通する内部空間を有する中空の円筒(内径3m×長さ80m)形状をした筒状本体部33と、筒状本体部33の内部空間に他端33b側から燃焼ガスを送入するバーナー35と、該円筒の軸の周りに回転自在に筒状本体部33を支持する支持部(図示せず。なお、一端33aよりも他端33bの方がやや下方になるように支持する。)と、該円筒の軸の周りに筒状本体部33を回転させる駆動部(図示せず)と、を有してなる。
モノポンプ29により移送配管30内を圧送されてきた原料ペーストは、筒状本体部33の内部空間に一端33a側から装入され、該円筒の軸の周りに回転している筒状本体部33の内部空間を他端33b側に向かってゆっくりと進行する(一端33aよりも他端33bの方がやや下方になるように傾斜している。)。筒状本体部33の内部空間を他端33b側に向けてゆっくり進行する間に、原料ペーストは、バーナー35により他端33b側から吹き込まれた高温の燃焼ガスと接触し加熱される(原料ペーストが加熱されて生じるものを「焼成品」という。)。そして、最終的には、筒状本体部33の他端33b側から、焼成品が排出される。なお、筒状本体部33の内部空間の気体は、一端33a側近傍から集塵機41によって吸引され細かい粉塵等を除去された後、排出される。
【0023】
まず、本実施例にて使用した炭化水素を含む石膏混合物(原料混合物)61は、石油類と硫酸塩との混合物をカルシウム材にて中和する化学反応工程から生じたもので、従来は産業廃棄物として焼却された後、残留分は管理型処分場に廃棄されていたものである。原料混合物61中の炭化水素分をJIS M0202ノルマルヘキサン抽出法に準拠して分析したところ、約20重量%の炭化水素分を含んでいた(原料混合物61から水分(結晶水を含む)を除いた乾燥物k1(g)中の炭化水素分k2(g)の割合(k2/k1)が0.2であった。)。
また、原料混合物61の成分分析を蛍光X線分析装置(リガク製、型番RIXー2000)で行ったところ、CaO分18.93重量%、SO分27.2重量%であった。
そして、原料混合物61の鉱物組成分析をX線回折装置(リガク製、型番RINT2200)で行ったところ、図4のようなチャートが得られた。図4のチャートは、横軸に2θ(単位:度。なお、θは回折角である。)をとり、縦軸に回折強度(単位:カウント)をとったものである。また、図4中の黒くぬりつぶした菱形(◆)は、石膏の二水和物(CaSO・2HO)試薬を用いて同様に取得した際に生じるX線回折ピーク位置を示しており、原料混合物61の鉱物がほぼ石膏の二水和物(CaSO・2HO)からなることを示している。
なお、原料混合物61は、タール又はピッチ状の炭化水素中と、粉末の石膏の二水和物と、が混合された形態を有していた。
【0024】
この原料混合物61を用い、図3の装置11により実験を行った。実験は、筒状本体部33の内部空間温度(単位:℃。以下、「キルン温度」という。具体的には、バーナー35の燃焼量を調整することにより調整する。)と、2軸混練機28からモノポンプ29へ装入される原料ペーストの含水率(単位:重量%。以下、「原料含水率」という。具体的には、2軸混練機28へ給水機43から供給する水の量を調整することにより調整する。なお、モノポンプ29から筒状本体部33までの間で原料ペーストの含水率は変化しない。また、前述の通り、含水原料たる原料ペーストW(g)中に含まれる水(結晶水を除く)の質量をw1(g)とすると、w1/(W−w1)×100)と、を幾つか変更(実施例1〜9、比較例)して行い、それぞれの場合について(1)集塵機41から排出される排ガス中の硫黄酸化物SOx濃度(単位:ppm。なお、測定方法は、JISK0103(排ガス中の硫黄酸化物定量法)に従って行った。)、(2)筒状本体部33の他端33b側から排出された焼成品の鉱物組成分析(X線回折、リガク製、型番RINT2200、原料混合物61の分析と同様に行った。)、(3)筒状本体部33の他端33b側から排出された焼成品の成分分析(蛍光X線分析、リガク製、型番RIXー2000、原料混合物61の分析と同様に行った。)、(4)筒状本体部33の他端33b側から排出された焼成品中の炭化水素分(原料混合物61の分析と同様に行った。なお、焼成品から水分を除いた乾燥物k3(g)中の炭化水素分k4(g)の割合(k4/k3)である。)、(5)燃料使用係数(原料ペーストを筒状本体部33に装入しない場合、筒状本体部33の内部空間温度を800℃に保つのに必要なバーナー35の単位時間当たりの燃料量(f1)を1とする。そして、それぞれの場合におけるバーナー35の単位時間当たりの燃料量(f2)の割合(f2/f1)を示す。なお、バーナー35の燃料は、ここではC重油(含有硫黄分1.5%、真発熱量9660kcal/kg)を使用した。)のそれぞれを測定や分析等した。
【0025】
実施例1としては、原料含水率30重量%、キルン温度600℃とし、原料ペーストの筒状本体部33への装入量約2トン/時間(筒状本体部33内部空間の平均滞留時間約2時間)にて運転した。また、筒状本体部33の回転速度は約1.3回転/分であった。
実施例2は、キルン温度を800℃とした以外は実施例1と同様に行った。
実施例3は、原料含水率を80重量%とした以外は実施例1と同様に行った。
実施例4は、キルン温度を800℃とした以外は実施例3と同様に行った。
実施例5は、キルン温度を900℃とした以外は実施例1と同様に行った。
実施例6は、原料含水率を80重量%とした以外は実施例5と同様に行った。
実施例7は、原料含水率を20重量%とした以外は実施例1と同様に行おうとしたが、原料ペーストをモノポンプ29により移送することができなかった。
実施例8は、原料含水率を90重量%とした以外は実施例2と同様に行った。
実施例9は、キルン温度を500℃とした以外は実施例1と同様に行った。
比較例は、キルン温度を1100℃とした以外は実施例1と同様に行った。
また、空運転例は、原料ペーストを筒状本体部33に装入せず、キルン温度を800℃として運転した。
以上の結果を、表1に示す。なお、表1中では、原料含水率を「含水率」と、キルン温度を「温度」と、集塵機41から排出される排ガス中の硫黄酸化物SOx濃度を「SOx」と、焼成品中の炭化水素分を「炭化水素」と、そして燃料使用係数を「係数」としてそれぞれ示した。
【0026】
【表1】

【0027】
表1に示すように、キルン温度を1000℃以下として、原料ペーストを筒状本体部33の内部空間にて焼成(原料ペーストに含まれる炭化水素を燃焼させる。)することによって、無水石膏(無水CaSO)が得られることが明らかになった。なお、図5は、表1に示した実施例5にて得られた焼成品のX線回折チャート(リガク製、型番RINT2200、図4と同様にして測定した。)を示している。図5のチャートは、図4のチャートと同様に表されており、横軸に2θ(単位:度)をとり、縦軸に回折強度(単位:カウント)をとったものである。また、図5中の黒くぬりつぶした菱形(◆)は、石膏の無水物(CaSO)試薬を用いて同様に取得した際に生じるX線回折ピーク位置を示しており、この焼成品がほぼ石膏の無水物からなることを示している。また、図5中の黒くぬりつぶした円形(●)は、酸化鉄(Fe)を用いて同様に取得した際に生じるX線回折ピーク位置を示しており、この焼成品には不純物として微量の酸化鉄(Fe)が含まれていることを示している(この酸化鉄(Fe)は原料混合物61に含まれていたものと考えられる。)。なお、実施例1〜4、6、8及び9についても、図5と同様のチャートが得られた。
【0028】
一方、比較例のようにキルン温度が1000℃を超えると、原料混合物61に含まれていた石膏が、酸化カルシウムCaOと硫黄酸化物SOxとに分解する(比較例では、原料混合物61に含まれていた石膏のうち約20%が分解しているものと考えられる。また、比較例以外の実施例では、原料混合物61に含まれていた石膏のほとんどが焼成品中に残留している。)。また、これら実施例のように、原料混合物61に含まれていた石膏が、酸化カルシウムCaOと硫黄酸化物SOxとに分解しないことは、排ガス中の硫黄酸化物SOxを無用に増加させることがないので(後述のように、実施例における排ガス中の硫黄酸化物SOxは、バーナー35において燃焼される燃料から生じる硫黄酸化物SOxと考えられる。)、大気汚染を引き起こすことなく、また硫黄酸化物SOx除去装置を設ける必要もない。
なお、表1中、「SOx/係数」の項目は、それぞれの場合において硫黄酸化物SOx濃度を燃料使用係数により除したもの(単位:ppm)である。バーナー35において燃焼される燃料から生じる硫黄酸化物SOxは、燃料使用係数とほぼ比例するものと考えられるため、石膏が酸化カルシウムCaOと硫黄酸化物SOxとに分解しない場合には「SOx/係数」はほぼ一定値を示すものと考えられる。表1中の「SOx/係数」は、比較例を除き、ほぼ230〜240ppmになっており比較例を除き石膏の分解は生じていないものと考えられる。これに対し、比較例は264ppmと高く、石膏の分解により硫黄酸化物SOxが生じていると考えられる。
【0029】
そして、原料含水率(重量%。含水原料たる原料ペーストW(g)中に含まれる水(結晶水を除く)の質量をw1(g)とすると、w1/(W−w1)×100)は、実施例7のように20重量%とするとモノポンプ29により移送することができなくなり、実施例8のように90重量%とすると燃料を無駄に使用する(燃料使用係数の増大)ことになるので、30〜80重量%とされることが好ましい。
【0030】
以上説明したように、本発明の石膏の製造方法(本方法)は、炭化水素(ここでは石油類由来)を含む石膏混合物(原料ペースト)の該炭化水素を1000℃以下の温度で燃焼する燃焼工程(ここでは筒状本体部33の内部空間にて行われる。)を有する、無水石膏(実施例にいう焼成品)の製造方法である。また、実施例1〜6及び8においては、前記燃焼工程が600℃以上で行われている。
そして、前記炭化水素を含む石膏混合物(原料ペースト)が粉末(原料ペースト中の石膏粉末)を有する。
さらに、前記炭化水素を含む石膏混合物(原料ペースト)が水を含む(原料ペーストは、2軸混練機28において原料混合物61を水と混合しペースト状に混練したものである。)。また、実施例1〜6及び9においては、前記炭化水素を含む石膏混合物(原料ペースト)が水を30〜80重量%(表1中の含水率。含水原料たる原料ペーストW(g)中に含まれる水(結晶水を除く)の質量をw1(g)とすると、w1/(W−w1)×100にて算出される。)の割合で含有する。加えて、前記炭化水素を含む石膏混合物(原料ペースト)が、炭化水素を含む石膏混合物(原料混合物61)を水と混練してペースト状に調製されたものである。また、ここの実施例においては、前記ペースト状に調製された炭化水素を含む石膏混合物(原料ペースト)をロータリーキルン31に装入し前記燃焼工程を行うものである。ここでは前記炭化水素を含む石膏混合物(原料混合物61)が産業廃棄物である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】炭化水素を含む石膏混合物の熱重量分析(TGA)曲線である。
【図2】炭化水素を含む石膏混合物の示差走査熱量計分析(DSC)曲線である。
【図3】実施例に使用した装置の概略図である。
【図4】原料混合物のX線回折チャートである。
【図5】焼成品のX線回折チャートである。
【符号の説明】
【0032】
11 装置
21 原料受入ホッパー
22 第1スクリューコンベア
23 振動ふるい
24 原料貯蔵サイロ
25 第2スクリューコンベア
26 バケットエレベータ
27 第3スクリューコンベア
28 2軸混練機
29 モノポンプ
30 移送配管
31 ロータリーキルン
33 筒状本体部
33a 一端
33b 他端
35 バーナー
41 集塵機
43 給水機
51 トラック
61 原料混合物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素を含む石膏混合物の該炭化水素を1000℃以下の温度で燃焼する燃焼工程を有する、無水石膏の製造方法。
【請求項2】
前記燃焼工程が600℃以上で行われるものである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記炭化水素を含む石膏混合物が粉末を有するものである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記炭化水素を含む石膏混合物が水を含むものである、請求項1乃至3のいずれか1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記炭化水素を含む石膏混合物が水を30〜80重量%の割合で含有するものである、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記炭化水素を含む石膏混合物が、炭化水素を含む石膏混合物を水と混練してペースト状に調製されたものである、請求項4又は5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記ペースト状に調製された炭化水素を含む石膏混合物をロータリーキルンに装入し前記燃焼工程を行うものである、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記炭化水素を含む石膏混合物が産業廃棄物である、請求項1乃至7のいずれか1に記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1に記載の製造方法により製造される、無水石膏。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−232637(P2006−232637A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−51583(P2005−51583)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【出願人】(591043684)足立石灰工業株式会社 (1)
【出願人】(591054886)三友プラントサービス株式会社 (5)
【Fターム(参考)】