説明

無溶剤形一液湿気硬化型ポリウレタン系接着剤

【課題】 安全性に優れ、初期粘着力の発現性が速く、張付け可能時間が長いとともに、脆弱な下地上でも十分な接着力が得られ、かつ張替え時に容易に剥離することができる無溶剤形一液湿気硬化型ポリウレタン系接着剤を提供すること。
【解決手段】 イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーと、希釈剤と、硬化触媒とを含有し、前記希釈剤として室温で液状のリン酸エステル、前記硬化触媒として3級アミンを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一液湿気硬化型ポリウレタン系接着剤に関し、特に希釈剤として室温で液状のリン酸エステルを含有する無溶剤形一液湿気硬化型ポリウレタン系接着剤に関するものである。
【0002】
本発明に係る無溶剤形一液湿気硬化型ポリウレタン系接着剤について「無溶剤形」とは、JIS K 6833−1に基づき、57mmφのアルミカップに接着剤約1gを取り、その質量を1mgの単位まで精秤し、熱風循環式乾燥機を用いて105℃で3時間加熱し、次式より算出した不揮発分が98%以上であるものをいう。
不揮発分(%)=(乾燥後の質量)/(乾燥前の質量)×100
【背景技術】
【0003】
従来より、床材の施工用の接着剤としては、分子末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを主成分とし、揮発性有機溶剤を希釈剤として含有する有機溶剤系接着剤が主として使用されてきた。しかし、有機溶剤系接着剤は、接着剤に含まれる揮発性の高い有機溶剤により、施工作業者および居住者に対して健康上悪影響を与えるという問題があった。
【0004】
そこで、揮発性有機溶剤に代えて、沸点が240℃を超える、室温で液状の化合物を用いた無溶剤形一液湿気硬化型ポリウレタン系接着剤が提案されており、この接着剤は、塗布作業性および養生後の剥離接着強さに優れていることが記載されている(特許文献1を参照)。
【0005】
しかし、特許文献1には、主として塗布作業性および養生後の剥離接着強さに優れていることが記載されているだけであり、接着剤の取り扱い性の観点から、初期粘着力が短時間で発現し、張付け可能時間が長く確保できるか否かについて示唆するところがない。また、床材用接着剤には、脆弱な下地上でも十分な接着力を有するとともに、リフォーム等の張替え時に容易に剥離できることも求められている。
【0006】
【特許文献1】特開2005−255712号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、主たる目的は、安全性に優れ、初期粘着力の発現性が速く、張付け可能時間が長いとともに、脆弱な下地上でも十分な接着力が得られ、かつ張替え時に容易に剥離することができる無溶剤形一液湿気硬化型ポリウレタン系接着剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討したところ、ウレタンプレポリマー、希釈剤および硬化触媒を必須成分として、希釈剤として室温で液状のリン酸エステル、硬化触媒として3級アミンを用いることで上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
〔1〕 イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーと、希釈剤と、硬化触媒とを含有し、前記希釈剤として室温で液状のリン酸エステル、前記硬化触媒として3級アミンを含有することを特徴とする、無溶剤形一液湿気硬化型ポリウレタン系接着剤、
〔2〕 前記リン酸エステルが、トリクレジルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(2−エチルヘキシル)ホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、2−エチルヘキシルジフェニルホスフェート、クレジル2,6−キシレニルホスフェート、トリス(クロロプロピル)ホスフェート、トリス(ジクロロプロピル)ホスフェート、レゾルシノールビス−ジキシレニルホスフェートのうち一種又は二種以上である、前記〔1〕記載の接着剤、
〔3〕 前記リン酸エステルが、トリクレジルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、2−エチルヘキシルジフェニルホスフェートのうち一種又は二種以上である、前記〔1〕記載の接着剤、
〔4〕 前記3級アミンが分子中にモルホリン骨格を2個有するものである、前記〔3〕記載の接着剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、安全性に優れ、初期粘着力の発現性が速く、張付け可能時間が長いとともに、脆弱な下地上でも十分な接着力が得られ、かつ張替え時に容易に剥離することができる無溶剤形一液湿気硬化型ポリウレタン系接着剤が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の無溶剤形一液湿気硬化型ポリウレタン系接着剤は、上述したように、イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーと、希釈剤と、硬化触媒とを含有し、前記希釈剤として室温で液状のリン酸エステル、硬化触媒として3級アミンを含有することを特徴とする。
【0011】
イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーは、イソシアネート基が大気中の水分(湿気)と反応し、尿素結合を形成して架橋、硬化し、優れたゴム弾性を有する硬化物となるもので、本発明における無溶剤形一液湿気硬化型ポリウレタン系接着剤に硬化成分として配合させるものであり、有機ポリイソシアネートと活性水素含有化合物とを活性水素(基)に対してイソシアネート基過剰条件で反応させて得られるものである。
【0012】
有機ポリイソシアネートとしては、例えば、メチレンジイソシアネート、エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ドデカメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート(LDI)、1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアネート等の脂肪族イソシアネート;水素添加−4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(水添MDI)、水素添加−キシリレンジイソシアネート(水添XDI)、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、水素添加−2,4−トリレンジイソシアネート(水添TDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ノルボルネンジイソシアネート(NBDI)等の脂環族イソシアネート;キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等の芳香脂肪族イソシアネート;1,4−ジフェニルジイソシアネート、2,4又は2,6−トリレンジイソシアネート(TDI)、2,4又は4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)、3,3’−ジメチル−4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、O−トリジンジイソシアネート、粗製TDI、ポリフェニルメタンポリイソシアネート(粗製MDI)、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(イソシアネートフェニル)チオフォスフェート等の芳香族イソシアネート等;更にこれらジイソシアネートの2量体化、3量体化や、カルボジイミド変性等の変性イソシアネート等が挙げられ、これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0013】
本発明において活性水素含有化合物としては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリアルキレンポリオール、ポリカーボネートポリオール、動植物系ポリオール、短鎖の2価アルコールや2価フェノールまたは3〜8価の水酸基含有化合物、アミノアルコールやポリアミン等が挙げられる。
【0014】
ポリエステルポリオールは特に限定されるものではないが、例えば、多塩基酸とグリコール成分との縮合反応により得られるポリエステルポリオール、多塩基酸と低分子アミン類等との縮合反応により得られるポリエステルアミドポリオール、ラクトン系ポリエステルポリオール等が挙げられる。
多塩基酸としては、例えば、アジピン酸、アゼライン酸、コハク酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、マレイン酸、ダイマー酸、水素添加ダイマー酸、ドデカンジカルボン酸、フマル酸、シクロペンタンジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、ナフタル酸、ビフェニルジカルボン酸、オルソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロオルソフタル酸、トリメリット酸等のポリカルボン酸、酸エステル、または酸無水物等が挙げられ、これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
グリコール成分としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、ジメチロールプロパン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、エチルブチルプロパンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、シュクローズ、ソルビトール、ビスフェノールA等が挙げられ、これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
低分子アミン類等としては、例えば、ヘキサメチレンジアミン、キシリレンジアミン、イソホロンジアミン等の低分子アミン類、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン等の低分子アミノアルコール類等が挙げられ、これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
また、ラクトン系ポリエステルポリオールは、例えば、低分子アルコール類、低分子アミン類、低分子アミノアルコール類を開始剤として、カプロラクトン、バレロラクトン等のラクトンモノマーの開環重合で得られる。
【0015】
ポリエーテルポリオールは特に限定されるものではないが、前述のポリエステルポリオールの合成に用いられる低分子アルコール類、低分子アミン類、低分子アミノアルコール類を開始剤として、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、テトラヒドロフラン等を開環重合させたポリオキシエチレンポリオール、ポリオキシプロピレンポリオール、ポリテトラメチレンエーテルポリオール、これらを共重合したポリエーテルポリオール、更に前述のポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオールを開始剤としたポリエステルエーテルポリオール等が挙げられる。
ポリアルキレンポリオールは特に限定されるものではないが、例えば、ポリブタジエンポリオール、水素化ポリブタジエンポリオール、水素化ポリイソプレンポリオール等が挙げられる。
ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、ポリヘキサメチレンカーボネートポリオール、ポリシクロヘキサジメチレンカーボネートポリオール等が挙げられる。
動植物系ポリオールとしては、例えば、ひまし油系ポリオール等が挙げられる。
短鎖の2価アルコールや2価フェノールまたは3〜8価の水酸基含有化合物、アミノアルコールやポリアミンは特に限定されるものではないが、前述のポリエステルポリオールの合成に用いられる低分子アルコール類、低分子アミン類、低分子アミノアルコール類等が挙げられる。
【0016】
本発明におけるイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーは、一括仕込み反応法、多段階仕込み反応法のいずれでも合成できるが、プレポリマーの分子中にイソシアネート基を残す必要がある。有機イソシアネートのイソシアネート基と活性水素含有化合物の活性水素(基)とのイソシアネート基/活性水素(基)の当量比は、好ましくは1.0〜10.0の範囲であり、より好ましくは1.05〜5.0の範囲である。
【0017】
本発明に使用し得る希釈剤は、室温で液状のリン酸エステルである。かかるリン酸エステルを用いることで、本発明に係る接着剤の不揮発分を高めて無溶剤形にすることができ、有害性及び危険性を更に低減できるとともに、本発明に係る接着剤について、初期粘着力の発現性を速くするとともに、張付け可能時間を長くすることができる。本発明において「初期粘着力の発現性が速い」とは、後述する初期粘着力の測定において、接着剤を塗布した後30分以内に初期粘着力が300gf/25mm以上に達する場合をいう。また、本発明において「張付け可能時間が長い」とは、後述する張付け可能時間の測定において、初期粘着力が300gf/25mmに達した時点から、剥離した軟質塩化ビニルシートの接着面に接着剤が50%以上転写するまでの時間が30分以上の場合をいう。
【0018】
前記リン酸エステルとしては、例えば、トリクレジルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(2−エチルヘキシル)ホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、2−エチルヘキシルジフェニルホスフェート、クレジル2,6−キシレニルホスフェート、トリス(クロロプロピル)ホスフェート、トリス(ジクロロプロピル)ホスフェート、レゾルシノールビス−ジキシレニルホスフェート等が挙げられ、これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。上記のうち、初期粘着力の発現性が速く、張付け可能時間を長くすることができる点で、特に2−エチルヘキシルジフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェートが好ましい。
【0019】
リン酸エステルの配合割合は特に限定されないが、前記ウレタンプレポリマー100重量部に対して、通常1〜300重量部の範囲であり、好ましくは10〜150重量部の範囲である。
【0020】
本発明において硬化触媒は、前記希釈剤としてのリン酸エステルとの組み合わせにおいて、初期粘着力の発現性を速めるために配合するものであり、例えば、ビス(モルホリノエチル)エーテル、ビス(2,6−ジメチルモルホリノエチル)エーテル(あるいは、2,2−ジモルホリノジエチルエーテル)、ビス(3,5−ジメチルモルホリノエチル)エーテル、ビス(2−(2,6−ジメチル−4−モルホリノ)エチル)−(2−(4−、モルホリノ)エチル)アミン、ビス(2−(2,6−ジメチル−4−モルホリノ)エチル)−(2−(2,6−ジエチル−4−モルホリノ)エチル)アミン、トリス(2−(4−モルホリノ)エチル)アミン、トリス(2−(4−モルホリノ)プロピル)アミン、トリス(2−(4−モルホリノ)ブチル)アミン、トリス(2−(2,6−ジエチル−4−モルホリノ)エチル)アミン、トリス(2−(2,6−ジメチル−4−モルホリノ)エチルアミン、トリス(2−(2−エチル−4−モルホリノ)エチル)アミン、イミダゾール系などが挙げられ、これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。上記のうち、初期粘着力の発現性を速めることができる点で、分子中にモルホリン骨格を2個有するビス(モルホリノエチル)エーテル、ビス(2,6−ジメチルモルホリノエチル)エーテル(あるいは、2,2−ジモルホリノジエチルエーテル)、ビス(3,5−ジメチルモルホリノエチル)エーテルが好ましい。
【0021】
前記硬化触媒の配合割合は特に限定されないが、前記ウレタンプレポリマー100重量部に対して、通常0.01〜100重量部の範囲であり、好ましくは0.1〜30重量部の範囲である。
【0022】
本発明では、初期粘着力の発現性を速くしつつ、張付け可能時間を長くするために、希釈剤と硬化触媒として上述した化合物を用いることが重要ではあるが、かかる特性を阻害しない範囲で他の公知の希釈剤または硬化触媒を含有させることもできる。公知の希釈剤としては、例えば、アジピン酸、フタル酸、テトラヒドロフタル酸、アゼライン酸、安息香酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、セバシン酸、フマル酸系マレイン酸、イタコン酸、クエン酸のエステル,ポリエステル,エーテルエステル系化合物、エポキシ系化合物、パラフィン系、ナフテン系及び芳香族系のプロセスオイル等が挙げられる。公知の硬化触媒としては、例えば、ジブチル錫ジラウレートなど錫触媒等の金属系触媒、DBN(1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン−5)等のアミン系触媒が挙げられる。
【0023】
本発明に係る接着剤は、上述したイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーと、希釈剤と、硬化触媒を均一に混合することにより製造することができるが、必要に応じて充填剤、チキソトロピー付与剤、粘着性付与剤、その他の添加剤等を本発明の目的を阻害しない範囲で添加することができる。
【0024】
前記充填剤としては、例えば、炭酸塩(例えばカルシウム塩、カルシウム・マグネシウム塩、マグネシウム塩等)、珪酸、珪酸塩(例えばアルミニウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等)、水酸化物(例えばアルミニウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等)、硫酸塩(例えばバリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等)、硼酸塩(例えばアルミニウム塩、亜鉛塩、カルシウム塩等)、チタン酸塩(例えばカリウム塩等)、金属酸化物(例えば亜鉛、チタン、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム等)、炭素物、有機物等が挙げられる。
【0025】
前記チキソトロピ−付与剤としては、例えば、脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸エステル、パラフィン、樹脂酸、界面活性剤、ポリアクリル酸等で表面処理された前記充填材、ポリ塩化ビニルパウダ−、水添ヒマシ油、微粉末シリカ、有機ベントナイト、セピオライト等が挙げられる。
【0026】
前記粘着性付与剤としては、例えば、ロジン樹脂系、テルペン樹脂系、フェノ−ル樹脂系、石油樹脂系等の粘着性付与剤が挙げられる。
【0027】
更に、その他の添加剤としては、例えば、反応促進剤(金属系、金属塩系、アミン系等)、安定剤(紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、耐熱安定剤等)、水分除去剤(4−パラトルエンスルフォニルイソシアネ−ト等)、吸着剤(生石灰、消石灰、ゼオライト、モレキュラーシーブ等)、接着性付与剤(シランカップリング剤等)、消泡剤、レベリング剤等が挙げられる。
【0028】
本発明に係る無溶剤形一液湿気硬化型ポリウレタン系接着剤は、木材用(例えば、木工、合板等)、建築・土木用(例えば、合板、床材等)、金属用(例えば、車両等)、紙包装用(例えば、製本、ラミネート等)、布用、プラスチック用(例えば、シート・フィルムのラミネート等)、ゴム用(例えば、靴履物等)、皮革用(例えば、靴履物等)等、種々の被着体の接着剤として使用することができ、これらのうち、建築・土木用の床材を接着する用途として特に好適である。ここで、本発明において床材としては、例えば、ビニル系床材、リノリウム系床材、ゴム系床材、木質系床材、タイルカ−ペット、オレフィン系床材、ウレタン系床材等を挙げることができる。そして、上述したように、本発明の接着剤を下地または下地補修材(下地調整剤)上に塗布して床材を貼り合わせると、初期粘着力の発現性が速いとともに張付け可能時間を長くすることもでき、さらに脆弱な下地上でも十分な接着力が得られ、かつ張替え時に容易に剥離することができる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。なお、以下において、部および%は、特にことわりのない限り、それぞれ重量部および重量%を示す。
【0030】
1.一液湿気硬化型ポリウレタン系接着剤の各種物性の評価
一液湿気硬化型ポリウレタン系接着剤(以下、単に「接着剤」という場合がある)の各種物性の測定および評価は、以下の方法により実施した。
【0031】
(初期粘着力の測定)
23℃、50%RHの条件下で、フレキシブルスレート板上にJIS規定のクシ目ゴテを用いて接着剤を塗布した。次いで、接着剤を塗布してから60分経過するまで、10分毎に25mm×200mmの軟質塩化ビニルシートを前記接着剤が塗布されたフレキシブルスレート板に貼り合わせ、3kg荷重のローラで2往復圧締し、接着させた。接着後、直ちにプッシュプルゲージを用いて90度剥離接着強さを測定し、その強度を初期粘着力とした。
(初期粘着力の評価)
○:接着剤を塗布した後30分以内に初期粘着力が300gf/25mm以上の場合
×:接着剤を塗布した後30分以内に初期粘着力が300gf/25mmに達しない
場合
【0032】
(張付け可能時間の測定)
前記初期粘着力において、90度剥離接着強さが300gf/25mmに達した時点から、剥離した軟質塩化ビニルシートの接着面に接着剤が50%以上転写するまでの時間を張付け可能時間とした。
(張付け可能時間の評価)
◎:転写率50%以上を維持できる時間が90度剥離接着強さが300gf
/25mmに達した時点から、30分以上
○:転写率50%以上を維持できる時間が90度剥離接着強さが300gf
/25mmに達した時点から、15〜30分
×:転写率50%以上を維持できる時間が90度剥離接着強さが300gf
/25mmに達した時点から、15分未満
××:90度剥離接着強さが300gf/25mmに達せず。
【0033】
(不揮発分の測定)
JIS K 6833−1に基づき、57mmφのアルミカップに接着剤約1gを取り、その質量を1mgの単位まで精秤し、熱風循環式乾燥機を用いて105℃で3時間加熱し、次式から不揮発分を算出した。
不揮発分(%)=(乾燥後の質量)/(乾燥前の質量)×100
【0034】
(接着力Aの測定)
接着力Aは、JIS A 5536に基づいて測定した。具体的には、23℃、50%RHの条件下で、フレキシブルスレート板上にJIS規定のクシ目ゴテを用いて接着剤を塗布した。次いで、接着剤を塗布してから10分後に25mm×200mmの軟質塩化ビニルシートを前記接着剤が塗布されたフレキシブルスレート板に貼り合わせ、3kg荷重のローラで2往復圧締し、接着させた。接着後、48時間養生し、90度剥離接着強さを測定し、その強度を接着力Aとした。
また、剥離されたときの接着剤の破壊状態を目視観察した。
【0035】
(接着力Bの測定)
接着力Bは、JIS A 5536に準じて測定した。具体的には、23℃、50%RHの条件下で、フレキシブルスレート板上に厚さ1mmに塗布した下地補修材上(アースシール、ヤヨイ化学工業(株)製)に、JIS規定のクシ目ゴテを用いて接着剤を塗布した。次いで、接着剤を塗布してから10分後に25mm×200mmの軟質塩化ビニルシートを前記接着剤が塗布されたフレキシブルスレート板に貼り合わせ、3kg荷重のローラで2往復圧締し、接着させた。接着後、48時間養生し、90度剥離接着強さを測定し、その強度を接着力Bとした。
また、剥離されたときの接着剤の破壊状態を目視観察した。
【0036】
2.ウレタンプレポリマーの製造例
(ウレタンプレポリマー(a)の製造)
フラスコにポリプロピレングリコールトリオール(分子量3000)200部とネオペンチルグリコール105.38部とトリレンジイソシアネート(2,4−トリレンジイソシアネート80%と2,6−トリレンジイソシアネート20%との混合物)231.99部を仕込み、窒素雰囲気下で攪拌しながら100℃で3時間反応させ、ウレタンプレポリマー(a)を得た。イソシアネート基/活性水素(基)の当量比は1.2であった。
【0037】
(ウレタンプレポリマー(b)の製造)
フラスコにポリプロピレングリコールジオール(分子量2000)400部と4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート100部を仕込み、窒素雰囲気下で攪拌しながら100℃で3時間反応させ、ウレタンプレポリマー(b)を得た。イソシアネート基/活性水素(基)の当量比は2.0であった。
【0038】
3.一液湿気硬化型ポリウレタン系接着剤の製造例(実施例1,2、比較例1〜4)
(実施例1)
前記「2.ウレタンプレポリマーの製造例」で得たウレタンプレポリマー(a)とウレタンプレポリマー(b)をそれぞれ20部と50部、シリカ3部、炭酸カルシウム100部、2,2−ジモルホリノジエチルエーテル4部およびトリクレジルホスフェート60部を加えて均一に撹拌し、一液湿気硬化型ポリウレタン系接着剤を得た(詳細は表1を参照)。
【0039】
(実施例2)
希釈剤として実施例1で用いたトリクレジルホスフェートに代えてトリブトキシエチルホスフェートを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で一液湿気硬化型ポリウレタン系接着剤を得た(詳細は表1を参照)。
【0040】
(実施例3)
希釈剤として実施例1で用いたトリクレジルホスフェートに代えて2−エチルヘキシルジフェニルホスフェートを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で一液湿気硬化型ポリウレタン系接着剤を得た(詳細は表1を参照)。
【0041】
(比較例1)
希釈剤として実施例1で用いたトリクレジルホスフェートに代えてアジピン酸ジイソノニルを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で一液湿気硬化型ポリウレタン系接着剤を得た(詳細は表1を参照)。
【0042】
(比較例2)
希釈剤として実施例1で用いたトリクレジルホスフェートに代えてフタル酸ジイソノニルを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で一液湿気硬化型ポリウレタン系接着剤を得た(詳細は表1を参照)。
【0043】
(比較例3)
希釈剤として実施例1で用いたトリクレジルホスフェートに代えてエチルジグリコールアセテートを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で一液湿気硬化型ポリウレタン系接着剤を得た(詳細は表1を参照)。
【0044】
(比較例4)
硬化触媒として実施例1で用いた2,2−ジモルホリノジエチルエーテルに代えてジオクチル錫ジラウレートを用いたこと以外は実施例1と同様の方法で一液湿気硬化型ポリウレタン系接着剤を得た(詳細は表1を参照)。
【0045】
(比較例5)
硬化触媒として実施例1で用いた2,2−ジモルホリノジエチルエーテルに代えてジオクチル錫ジラウレートを用い、添加部数を8部としたこと以外は実施例1と同様の方法で一液湿気硬化型ポリウレタン系接着剤を得た(詳細は表1を参照)。
【0046】
(比較例6)
有機溶剤形一液湿気硬化型ポリウレタン系接着剤としてルビロンエース(トーヨーポリマー(株)製)を用いた。
【0047】
【表1】

【0048】
4.一液湿気硬化型ポリウレタン系接着剤の初期粘着力の発現性、張付け可能時間、不揮発分
実施例1〜3および比較例1〜6の接着剤につき、初期粘着力の発現時間、張付け可能時間、不揮発分を測定および評価した。表2と表3に結果を示す。
【0049】
(表2の結果)
実施例1〜3は比較例6と同程度の初期粘着力の発現性および張付け可能時間を示した。したがって実施例1〜3に係る接着剤は、従来の有機溶剤形一液湿気硬化型ポリウレタン系接着剤と同程度の初期粘着力の発現性および張付け可能時間を有することが分かった。
次に、比較例1〜3の結果を見ると、張付け可能時間の評価がいずれも低かった(評価:×または××)。実施例1〜3と比較例1〜3の配合処方の違いは希釈剤の種類が異なる点にあるので、実施例1〜3で用いたリン酸エステルは、張付け可能時間を長くすることに寄与していると考えられる。
一方、初期粘着力の発現性については、比較例1,2は評価が低かったが(評価:×)、比較例3は実施例1と同程度に評価が高かった(評価:○)。したがって、希釈剤として、リン酸エステル(実施例1〜3)やエチルジグリコールアセテート(比較例3)は、初期粘着力の発現性を速めることに寄与していると考えられる。
さらに、実施例1と比較例4,5とを比較すると、比較例4,5では初期粘着力の発現性と張付け可能時間の評価がともに低かった。実施例1と比較例4,5の配合処方の違いは、触媒の種類が異なる点にあるので、実施例1で用いた2,2−ジモルホリノジエチルエーテルは初期粘着力の発現性を速めることに寄与するとともに、張付け可能時間を長くすることに寄与していると考えられる。また、比較例4と比較例5から、錫触媒を増量しても初期粘着力の発現性を速めることはできなかった。
【0050】
(表3の結果)
実施例1〜3および比較例1,2,4,5の接着剤は、いずれも不揮発分が98%以上であり、不揮発性が良好であったのに対し、比較例3,6の接着剤は、不揮発分が80%未満であり、不揮発性が不良であった。
【0051】
【表2】

【0052】
【表3】

【0053】
5.一液湿気硬化型ポリウレタン系接着剤の接着力
表4と表5に、実施例1と比較例6の各接着剤について得られた接着力A,Bの結果を示す。表4の破壊状態をみると、比較例6では、接着剤の凝集破壊(A)が40%、床材の材料破壊(F)が60%を占めたのに対し、実施例1では、接着剤の凝集破壊(A)が60〜50%、下地材と接着剤との界面破壊(GA)が40〜50%を占めた。
上記の結果から、比較例5の接着剤は接着力が強固であり、リフォーム等の張替え時に床材が破断し、剥離が困難になるが、実施例1の接着剤は下地材と界面剥離するので、容易に剥離できることが分かった。また、接着力A(平均値)を見ると、実施例1は比較例6の約半分の値であるが、JIS A 5536のウレタン樹脂系接着剤の規定値(20N/25mm以上)を満たしており、十分な接着力が得られる。また実施例2,3も実施例1と同様の結果が得られた。
次に表5の接着力B(平均値)をみると、実施例1は比較例6の約6倍大きい値を示した。この結果から、下地補修材を用いて床材との接着を行う場合、比較例6の接着剤では十分な接着力が得られないが、実施例1の接着剤を用いれば十分な接着力が得られることが分かった。これは実施例1の接着剤に弾性があり、接着剤層が応力を吸収し、脆弱な下地補修材に応力が集中するのを防ぐ為であると考えられる。また実施例2,3も実施例1と同様の結果が得られた。
【0054】
【表4】

【0055】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明に係る接着剤は、木材用(例えば、木工、合板等)、建築・土木用(例えば、合板、床材等)、金属用(例えば、車両等)、紙包装用(例えば、製本、ラミネート等)、布用、プラスチック用(例えば、シート・フィルムのラミネート等)、ゴム用(例えば、靴履物等)、皮革用(例えば、靴履物等)等、種々の被着体の接着剤として広く使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーと、希釈剤と、硬化触媒とを含有し、前記希釈剤として室温で液状のリン酸エステル、前記硬化触媒として3級アミンを含有することを特徴とする、無溶剤形一液湿気硬化型ポリウレタン系接着剤。
【請求項2】
前記リン酸エステルが、トリクレジルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(2−エチルヘキシル)ホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、2−エチルヘキシルジフェニルホスフェート、クレジル2,6−キシレニルホスフェート、トリス(クロロプロピル)ホスフェート、トリス(ジクロロプロピル)ホスフェート、レゾルシノールビス−ジキシレニルホスフェートのうち一種又は二種以上である、請求項1記載の接着剤。
【請求項3】
前記リン酸エステルが、トリクレジルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、2−エチルヘキシルジフェニルホスフェートのうち一種又は二種以上である、請求項1記載の接着剤。
【請求項4】
前記3級アミンが分子中にモルホリン骨格を2個有するものである、請求項3記載の接着剤。

【公開番号】特開2010−90263(P2010−90263A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−261236(P2008−261236)
【出願日】平成20年10月8日(2008.10.8)
【出願人】(000222417)トーヨーポリマー株式会社 (9)
【Fターム(参考)】