説明

無症候性患者における全身性炎症反応症候群およびセプシスの早期診断および予測に基づくIL−6の検出

本発明は、無症候性患者、好ましくは外科的介入を受けている患者における、セプシスを含めた全身性炎症反応症候群(SIRS)の早期診断および予測の技術分野に関する。特に、無症候性患者におけるSIRSを検出もしくは診断するための、またはSIRSを患うかもしくは発症するリスクを検出もしくは診断するための方法であって、a)患者からの試料中のIL−6またはその変異体のレベルを決定する工程;b)工程a)で決定されたIL−6またはその変異体のレベルを参照レベルと比較する工程;c)SIRSを検出もしくは診断する工程、またはSIRSを患うかもしくは発症するリスクを検出もしくは診断する工程を含む方法が提供され、ここで、試料は短い時間間隔で少なくとも2回単離され、工程a)およびb)が、各試料について繰り返される。対応する治療モニタリングおよび死亡率予測法、パーツのキットも提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、診断バイオマーカーおよび予測バイオマーカーとしてIl−6を使用した、無症候性患者における、好ましくは外科的介入を受けている患者における全身性炎症反応症候群(SIRS)またはセプシスの早期診断および予測の技術分野に関する。対応する治療モニタリング方法、死亡率の予測方法、パーツのキットも提供される。
【0002】
現代医学の進歩にもかかわらず、SIRSおよびセプシスは、世界中で頻度が増加しつつある、よく見られる壊滅的な症候群を意味する。それは、集中治療部の患者で最も頻度の高い死因に属する。
【0003】
疫学的評価により、患者にセプシスおよび重症セプシスを発症するリスクがあることを明確にするいくつかの状態を記載できることが見出された。記載されたリスク因子は、性別(男性)、人種(黒人)、エスニシティー(ヒスパニック)、高齢、および以下の共存症である:糖尿病、悪性腫瘍、アルコール依存症、HIV感染症、免疫抑制剤を用いた処置(Hodgin KE, Moss M. The epidemiology of Sepsis. Current Pharm Design 2008;14:1833-1839)。加えて、実際の事象、例えば大きな範囲の創傷を生じる大手術、外傷、または熱傷が追加的なリスクを意味する。感染を有さないSIRSが、膵炎、ショック、セプシス、および多発性外傷などの事象で発生することがある。
【0004】
米国胸部疾患学会(American College of Chest Physicians)(ACCP)および集中治療学会(Society of Critical Care Medicine)(SCCM)が感染症に対する全身性炎症反応を定義するための概念的および実際的枠組みを提供した1991年以降(American College of Chest Physicians/Society of Critical Care Medicine Consensus Conference: definitions for sepsis and organ failure and guidelines for the use of innovative therapies in sepsis. Crit Care Med. 1992 Jun;20(6):864-74)。それまでは、様々な用語が互換的に使用され、大きな混乱につながっていた。この会議からの大きな貢献は、これらの障害を患う患者に普遍的に一律に適用できる、セプシスの様々な段階についての一律な定義の発展であった。
【0005】
臨床徴候が出現した時点には、SIRSの発症および悪化が既に開始している。
【0006】
IL−6は、gp130サイトカインのファミリーに属する。ファミリーの全メンバーは、4種のらせん状タンパク質構造を共有し、それらは、少なくとも1個のサブユニットのシグナル伝達レセプター糖タンパク質gp130を含有するレセプター複合体を経由してそれらのシグナルを発する。IL−6は、最初にIL−6レセプター(IL−6R)に結合し、このIL−6/IL−6R複合体はgp130に結合し、ホモ二量体化ならびにJak/Statシグナル伝達経路およびRas/Map/Aktシグナル伝達経路のその後の活性化につながる(Taga T, Kishimoto T. Gp130 and the Interleukin-6 Family of Cytokines. Annu. Rev. Immunol. 1997; 15: 797-819; Drucker C, Gewiese J, Malchow S, Scheller J, Rose-John S. Impact of Interleukin-6 Classic- and Trans-signaling on Liver Damage and Regeneration. J Autimm 2009、印刷中)。記載された二つの異なるシグナル伝達経路があり、その一つではIL−6が膜結合型IL−6レセプターに結合し、それがシグナル伝達タンパク質gp13の二量体化および活性化につながる。この経路は、表面にIL−6レセプターを発現する細胞に限られ、それは一部の細胞集団にのみ当てはまる。しかしながら、IL−6が天然可溶性IL−6R(sIL−6R)に結合し、このIL−6/sIL−6R複合体がgp130を活性化する代替経路が存在する。このように膜結合型IL−6レセプターを欠如する細胞は、IL−6に応答することができる。この第二のいわゆるトランスシグナル伝達経路もまた、膜結合型IL−6レセプターを発現する細胞、例えば肝細胞に影響を及ぼす。この状況でIL−6トランスシグナル伝達の活性化は、IL−6の刺激作用を高めることができる。そのタンパク質がB細胞だけでなくT細胞、造血幹細胞、肝細胞および脳細胞にも活性を示すことがさらなる研究から実証されたことから、1988年にそのサイトカインをIL−6と名付けることが提案された(Kishimoto T, Hirano T. A New Interleukin with Pleitropic Activities. Bio Essays 1988 Jul; 9(1): 11-15)。
【0007】
すでに1989年に局所急性感染を有する患者の体液ならびにグラム陰性およびグラム陽性菌血症を有する患者の血清が高レベルの生物活性IL−6を含有することが報告された。急性感染の間に血清中にIL−6が存在することは、組織損傷を抑えるのに有用な局所および全身事象のカスケードにこのサイトカインが関与する可能性が高いことを示唆している(Helfgott DC, Tatter SB, Santhanam U, Clarick RH, Bhardwaj N, May LT, Sehgal PB. Multiple Forms of IFN-β2/IL-6 in Serum and Body Fluids during Acute Bacterial Infection. J Immuology 1989; 142:948-953)。
【0008】
セプシスの臨床徴候をすでに有するICU(集中治療室)入室患者の血清または血漿中のIL−6の連続測定は、SIRS(全身性炎症反応症候群)、セプシスおよびセプティックショックの重症度を評価するのに有用であり、これらの患者の転帰を予測することが示された(Pinsky MR, Vincent JL, Alegre M, Dupont E. Serum Cytokine Levels in Human Septic Shock. Relation to Multiple Organ Failure and Mortality. Chest 1993; 103: 565-575; Oda S, Hirasawa H, Shiga H, Nakanishi K, Matsuda K, Nakamura M. Sequential measurements of IL-6 blood levels in patients with SIRS /sepsis. Cytokine 2005; 29: 169-175; Marti L, Cervera C, Filella X, Marin JL, Almela M, Moreno A. Cytokine-release patterns in elderly patients with systemic inflammatory resonse syndrome. Gerontology. 2007;53(5):239-44)。
【0009】
Mokart Dら(Br J Anaesth. 2005 Jun;94(6):767-7)は、手術前の朝および手術後の朝、すなわち少なくとも20時間を上回る時間間隔でIL−6が試料採取される、ガンの手術を受けている患者におけるPCTおよびIL−6に基づく検出を開示している。PCTおよびIL−6に基づく測定は、SIRSを示す術後1日目の患者におけるセプシスを予測するために使用され、すなわちIL−6レベルは、術後1日目にSIRSの症状を示していない患者におけるSIRSまたはセプシスを患うリスクを診断または予測することを可能にしない。
【0010】
Mokart Dら(World J Surgery, 2009, 33: 558-566)は、1日1回収集された血液試料に基づき、セプシスを発症するリスクのある患者を同定する、IL−6およびPCTに基づく方法を開示している。
【0011】
まとめると、上記刊行物のどれも、一般に認知されているSIRSおよびセプシスの臨床徴候および症状が発症する前に、すなわち無症候性患者における、SIRSおよびセプシスを診断すること、またはSIRSおよびセプシスを患うかもしくは発症するリスクを予測することを可能にしていない。結果として、SIRSの臨床徴候および症状の発症前に、SIRSもしくはセプシスを高感度に早期検出すること、またはSIRSおよびセプシスを患うかもしくは発症するリスクを予測することを可能にする診断方法および処置モニタリング方法の必要性がある。
【0012】
したがって、本発明の基礎をなす目的の一つは、SIRSおよびセプシスを診断する、これまでに公知のアプローチの欠点の少なくともいくつかを解決する手段および方法の提供にある。さらに、臨床症状の発症前にSIRSおよびセプシスを患うかまたは発症するリスクの早期検出をどちらも可能にする方法および処置モニタリング方法を提供することが目的である。これらの方法を実施するために適合されたキットおよびコンピュータープログラムを提供することも目的である。
【0013】
発明の概要
これらの目的の少なくとも一つは、特許請求の範囲および本明細書下記に定義された主題の提供によって達成される。
【0014】
第一の局面では、無症候性患者における全身性炎症反応症候群(SIRS)もしくはセプシスを検出もしくは診断するための、またはSIRSもしくはセプシスを発症するかもしくは患うリスクを検出もしくは診断するための方法であって、
a)患者からの試料中のIL−6またはその変異体のレベルを決定する工程;
b)工程a)で決定されたIL−6またはその変異体のレベルを参照レベルと比較する工程;
c)SIRSを検出もしくは診断する工程、またはSIRSもしくはセプシスを発症するかもしくは患うリスクを検出もしくは診断する工程
を含む方法が提供され、その際、試料は短い時間間隔で少なくとも2回単離され、工程a)およびb)が各試料について繰り返される。
【0015】
SIRSまたはセプシスを発症するかまたは患うリスクを検出または診断するための、無症候性患者におけるIL−6のレベルを検出するための方法であって、
a)患者からの試料中のIL−6またはその変異体のレベルを決定する工程;および
b)工程a)で決定されたIL−6またはその変異体のレベルを参照レベルと比較する工程であって;好ましくはその比較に基づき、患者にSIRSまたはセプシスを発症するかまたは患うリスクがあるかどうかを検出または診断する工程
を含む方法もまた提供され、その際、試料は短い時間間隔で少なくとも2回単離され、工程a)およびb)が各試料について繰り返される。
【0016】
外傷患者、熱傷を有する患者、侵襲的処置を受けている患者、手術を受けている患者より選択される無症候性患者におけるSIRSまたはセプシスを発症するかまたは患うリスクを検出または診断するための方法であって、
a)患者からの試料中のIL−6またはその変異体のレベルを決定する工程;
b)工程a)で決定されたIL−6またはその変異体のレベルを参照レベルと比較する工程;
c)SIRSを検出もしくは診断する工程、またはSIRSを発症するかもしくは患うリスクを検出もしくは診断する工程
を含む方法もまた提供され、その際、試料は短い時間間隔で少なくとも2回単離され、工程a)およびb)が各試料について繰り返され、好ましくは少なくとも1個の試料は患者の入院時に単離され、少なくとも1個の試料は処置が開始または終了された後に単離される。
【0017】
例えば、無症候性患者が侵襲的処置に供される場合、外科的介入の前にまたはベースラインのIL−6レベルを得るために少なくとも1個の試料が単離され、次に短い時間間隔で侵襲的処置の完了後に少なくとも1個のさらなる試料が単離され、IL−6レベルについて分析される。
【0018】
好ましくは、無症候性患者におけるSIRSまたはセプシスを発症するまたは患うリスクが検出または診断するために、IL−6またはIL−6を検出するための手段が使用され、その際、IL−6のレベルは、短い時間間隔で少なくとも2回決定される。
【0019】
本発明者らが驚いたことに、本発明の方法は、IL−6の微細網目状連続測定が、好ましくは処置の前、例えば大手術のようなSIRSまたはセプシスを生じる重大なリスクに関連する治療の前に開始されたとき、臨床徴候またはSIRS/セプシスを診断するために従来使用されている検査室パラメーターの病的変化が開始する十分前に、セプシスを含めたSIRSを患うかまたは発症するリスクのある無症候性患者の明白な同定を可能にすることを示した(例えば実施例参照)。具体的には、本発明は、一部の患者がSIRSを発症していると同定することができる、無症候性患者におけるIL−6の動態を最初に記述する。SIRSおよびセプシスの診断を裏付ける臨床症状または徴候を示す十分前に、ベースラインレベルと比べたIL−6濃度の大きな上昇が、SIRSまたはセプシスを発症するかまたは患う高いリスクを指し示すことが解明された。したがって、SIRSまたはセプシスを患うかまたは発症するリスクの診断は、以前に知られていたことに反して、試料中のIL−6の絶対レベルを分析することよりもむしろ、経時的なIL−6レベルの増加を決定することに本質的に基づく。SIRSおよびセプシスの臨床徴候および症状が出現する前の本発明の方法の早期応答性のおかげで、SIRSおよびセプシスを診断するこれまでに公知の方法に比べてより早期の時点で適切な処置を開始することが今や可能になる。したがって、SIRSの治療が成功する、またはSIRSもしくはセプシスを予防する見込みが増大し、患者をSIRSまたはセプシスの結果としての死亡から救うことができる。
【0020】
本明細書に使用される「全身性炎症反応症候群(SIRS)」という用語は、一般に技術者に公知である。この用語は、好ましくはACCP/SCCM合意会議の定義(ACCP/SCCM Consensus Conference Definition)(1992/2003)(例えばAmerican College of Chest Physicians/Society of Critical Care Medicine Consensus Conference: definitions for sepsis and organ failure and guidelines for the use of innovative therapies in sepsis. Crit Care Med. 1992 Jun;20(6):864-74参照))で定義されたようなSIRSを包含する。好ましくは、患者が以下のa)〜d)、好ましくは以下のa)〜e):
a)白血球数(WBC)>約12,000/μ/Lまたは<約4000/μ/L、
b)体温>約38℃または<約36℃、
c)心拍数>約90回/分、
d)呼吸数>約20回/分またはCO分圧約32mmHg未満、
e)計数された白血球中に10%を上回る未熟白血球
のうち少なくとも二つの症状を示す場合、その患者は、SIRSを患っていると見なされる。
【0021】
白血球数は、通常は自動計数装置によって決定される。
【0022】
小児に関する限り、小児におけるSIRSを診断するための合意基準は、Goldsteinら(Pediatr. Crit Care Med 2005, 6(1), 2 - 8、特に表2および3参照)に開示されている。本発明の意味で無症候性の小児患者は、参照により本明細書に組み入れられるGoldsteinら(上記)に記載された症状のうち二つ未満、好ましくは一つ未満を示している患者である。
【0023】
好ましくは、SIRSを患うかまたは発症するリスクは、患者の試料から検出された、参照レベルを上回るIL−6レベルに基づいて診断または検出されることがある。この場合、患者がSIRSの上記症状(a)〜(e)の少なくとも二つを示すことは、好ましくはSIRSまたはセプシスを患うかまたは発症するリスクを診断または検出するために必要ない。好ましくは、SIRSまたはセプシスを患うかまたは発症するリスクは、参照レベルを上回る、決定されたIL−6レベルだけに基づいて診断または検出されることがある。参照値は、所与の患者における早期に決定されたIL−6レベル(例えばベースラインIL−6レベル)に本明細書の別の箇所に定義された倍率(例えば少なくとも約50、または少なくとも約100、または少なくとも約500または少なくとも約1000である倍率)を乗じることによって決定されることが好ましい。早期の試料(好ましくはベースラインレベルを与える)が収集された後に、所与の患者から単離された試料から決定されたIL−6レベルが参照レベルを上回る場合、その患者にSIRSを発症するかまたは患う高いリスクがあることが示される。IL−6の決定に基づいて、好ましくは患者がSIRSの上記症状(a)〜(e)の二つ以上を示す前に、SIRSを患うかまたは発症するリスクを早期検出および診断することが可能であることを解明したことは、本発明者らの驚くべき貢献であった。
【0024】
患者が、診断された感染症を追加的に示す場合、患者にセプシスを発症するかまたは患うリスクがあると見なされる。
【0025】
本明細書に使用される「セプシス」について、上記「SIRS」について言及された診断基準が必要な変更を加えてセプシスに当てはまるが、診断された感染症は、必須の追加的な診断パラメーターである。感染症を検出または診断するための方法は、一般に当技術分野で公知である。本発明の結果として、セプシスを患うかまたは発症するリスクは、今や好ましくはわずか二つのパラメーターに基づき、すなわち参照レベルを上回るIL−6レベルおよび診断された感染症に基づき、検出または診断することができる。
【0026】
本発明の意味で「感染症」は、好ましくはウイルス、真菌または細菌感染症、好ましくはE coli、staphylococcus aureus、Klebsiella pneumoniae、連鎖球菌またはPseudomonas aeroginosaより選択される細菌に関連する細菌感染症である。同じく感染症は、Candida albicans、Candida tropicalisまたはAspergillus fumigatusより選択される真菌による感染症のことがある。
【0027】
感染症は、医師に一般に公知のアッセイおよび基準に基づいて診断される。好ましくは感染症は、細菌培養アッセイ、例えば患者からの試料を接種した培地を基礎として、または分子診断法に基づいて診断される。真菌感染症は、例えばSeptifastのような一般に公知の試験アッセイに基づいて判定してもよい。
【0028】
本明細書に使用される「患者」という用語は、動物、好ましくは哺乳動物、好ましくはイヌ、ネコ、ウマ、ウシおよび好ましくはヒト、好ましくは男性または女性、好ましくは出生前、周生期、出生後の児または新生児に関する。好ましくは、患者は成人である。好ましくは、患者は、出生前、周生期、出生後の児または新生児ではない。
【0029】
本明細書に使用される「無症候性患者」という表現は、一般にSIRSの診断を確立すると見なされる臨床徴候および症状を示さない患者を包含することが意味される。好ましくは、無症候性患者は、以下:
a)白血球数(WBC)>約12,000/μ/Lまたは<約4000/μ/L、
b)体温>約38℃または<約36℃、
c)心拍数>約90回/分、
d)呼吸数>約20回/分またはCO分圧約32mmHg未満、および
e)計数された白血球中に10%を上回る未熟白血球
のうち二つ未満の症状、好ましくは一つ未満の症状を示す。
【0030】
好ましくは、無症候性患者は、外傷患者、熱傷を有する患者、侵襲的処置を受けている患者、外科的介入、好ましくは内視鏡下介入より選択される外科的介入を受けている患者、またはCT−スキャンもしくはPET−CT−スキャンの所見より選択される患者、またはSIRSまたはセプシスを発症するリスクのある、以下の基準の少なくとも一つを満たす患者などの患者:
− セプシスについての遺伝的素因、
− 未熟(周生期、新生児期)または高齢、
− 性別は男性、
− 人種はアフリカ系アメリカ人、
− 慢性疾患(糖尿病、うっ血性心不全など)、既存の臓器機能不全(肝硬変または腎不全など)、身体的または精神的欠陥を含めた医学的共存症、
− 臨床介入歴(大手術、気管挿管、抗生物質など)、および
− 社会的、宗教的または文化的要因
を包含し、前記基準の全ては、Marshall JC, "Predisposition to Sepsis",Anaesthesia, Pain, Intensive Care and Emergency A.P.I.C.E., Springer Verlag, ISBN 88-470-0772-0にさらに詳細に記載されている。本発明を実施するときに、好ましくはこれらの要因を考慮することができることが、一般に公知である。
【0031】
場合により、本発明の無症候性患者からは、内臓および腎臓を経由するIL−6のクリアランスが障害されている患者などの、IL−6の代謝が障害されている患者は除外される(Garibotta et al. (Cytokine, 2007, 37, 51-54)。
【0032】
本発明に関連して「インターロイキン−6(IL−6)」は、好ましくは当技術分野で公知のようなIL−6を包含することが意味される。好ましくはIL−6は、インターフェロン−I2、形質細胞腫成長因子、肝細胞刺激因子およびヒトB細胞刺激因子2(BSF2)を包含する。IL−6は、好ましくは、アミノ酸212個の産物をコードする単一遺伝子から産生するタンパク質、より好ましくはアミノ酸212個のペプチドのN末端で切断されたアミノ酸184個のIL−6ペプチドである(Song M, Kellum JA. Interleukin-6. Crit Care Med 2005; 33 (Suppl12): 463-465および212個のアミノ酸長のIL−6前駆体についてのNCBI配列、アクセッションナンバーNP_000591参照)。好ましくはIL−6は、そのレセプターIL−6Rに結合していない遊離IL−6を包含する。さらにIL−6は、また、IL−6/IL−6R複合体の状態のIL−6を包含する(Taga T, Kishimoto T. Gp130 and the Interleukin-6 Family of Cytokines. Annu. Rev. Immunol. 1997; 15: 797-819; Drucker C, Gewiese J, Malchow S, Scheller J, Rose-John S. Impact of Interleukin-6 Classic- and Trans-signaling on Liver Damage and Regeneration. J Autimm 2009(印刷中)参照)。好ましくは、IL−6は、抗IL6モノクローナル抗体M−BE8(EP0430193に定義されている、すなわち細胞系BE−8によって産生される抗体、またはKLEIN, B., et al. 1991, Murine anti-interleukin 6 monoclonal antibody therapy for a patient with plasma cell leukemia, Blood 78, 1198-1204に定義)またはM−23C7によって結合可能であるか、または結合されているIL−6タンパク質である。好ましくはIL−6は、Elecsysおよびcobasイムノアッセイシステム(Roche)で使用するための、RocheのIL−6アッセイの抗体によって結合可能であるか、または結合されているIL−6である。IL−6という用語は、好ましくは上記IL−6の、好ましくはヒトIL−6の変異体も包含する。その変異体は、特定の参照IL−6分子、好ましくはヒトIL−6に実質的に類似するタンパク質またはペプチドを包含する。実質的に類似の用語が、当業者によって十分に理解されている。特に、IL−6変異体は、特定の参照IL−6分子のアミノ酸配列に比べて少なくとも1個のアミノ酸置換(好ましくは最大約25個、より好ましくは最大約15個、より好ましくは最大約10個、より好ましくは最大約5個、最も好ましくは最大約3個のアミノ酸置換)を示すアイソフォームまたはアレルのことがある。好ましくは、そのようなIL−6変異体は、特定の参照IL−6分子と、好ましくはヒトIL−6に対して、なおより好ましくはヒトIL−6の全長にわたり少なくとも約80%、好ましくは少なくとも約85%、より好ましくは少なくとも約90%、最も好ましくは少なくとも約95%、最も好ましくは少なくとも約98%の配列同一性を有する。二つのアミノ酸配列の間の同一度は、当技術分野で周知のアルゴリズムによって決定することができる。好ましくは、同一度は、比較ウインドウにわたり二つの最適にアライメントされた配列を比較することによって決定されたく、その場合、比較ウインドウ中のアミノ酸配列のフラグメントは、(付加も欠失も含まない)参照配列に比べて最適なアライメントのために付加または欠失(例えばギャップまたはオーバーハング)を含むことがある。そのパーセンテージは、両方の配列中に存在する同一のアミノ酸残基の位置の数を決定して、マッチした位置の数を得て、そのマッチした位置の数を比較ウインドウ中の位置の総数で割り、その結果に100を乗じて配列同一パーセンテージを得ることによって計算される。比較のための最適な配列アライメントは、SmithおよびWaterman(Add. APL. Math. 2:482 (1981))の局所相同性アルゴリズムによって、NeedlemanおよびWunsch(J. Mol. Biol. 48:443 (1970))の相同性アライメントアルゴリズムによって、PearsonおよびLipman(Proc. Natl. Acad Sci. (USA) 85: 2444 (1988))の類似性検索法によって、これらのアルゴリズムのコンピューター上への実装によって(Wisconsin Genetics Software Package, Genetics Computer Group (GCG), 575 Science Dr., Madison, WIのGAP、BESTFIT、BLAST、PASTA、およびTFASTA)、または目視検査によって行われることがある。二つの配列が比較のために同定された場合、それらの最適なアライメント、要するに同一度を決定するために、GAPおよびBESTFITが好ましくは採用される。好ましくは、ギャップウェイト(gap weight)について5.00、ギャップウェイトレングス(gap weight length)について0.30のデフォルト値が用いられる。上に言及された変異体は、アレル変異体または任意の他の種特異的ホモログ、パラログ、もしくはオルソログでありうる。発現変異体は、また、診断手段またはそれぞれの完全長タンパク質もしくはペプチドに対するリガンドによって依然として認識される分解産物、例えばタンパク質分解産物を包含する。「変異体」という用語は、また、スプライス変異体に及ぶことが意味される。「変異体」という用語は、また、グリコシル化ペプチドなどの翻訳後改変されたペプチドに関する。「変異体」は、また、試料の収集後に、例えばペプチドへのラベル、特に放射性または蛍光ラベルの共有または非共有結合によって改変されたペプチドである。好ましくは、IL−6変異体は、本質的に、特異的参照ペプチドと同じ免疫学的および/または生物学的性質、好ましくはヒトIL−6と同じ免疫学的および/または生物学的性質、最も好ましくはヒトIL−6と同じ生物学的および/または免疫学的性質を有する。好ましくは、IL−6変異体は、ヒトIL−6活性の少なくとも約70%、好ましくは少なくとも約80%、好ましくは少なくとも約90%、好ましくは少なくとも約95%、好ましくは少なくとも約98%を示す。IL−6活性は、好ましくはIL−6レセプター結合活性である(Taga T, Kishimoto T. Gp130 and the Interleukin-6 Family of Cytokines. Annu. Rev. Immunol. 1997; 15: 797-819; Drucker C, Gewiese J, Malchow S, Scheller J, Rose-John S. Impact of Interleukin-6 Classic- and Trans-signaling on Liver Damage and Regeneration. J Autimm 2009(印刷中)参照)。好ましくはIL−6変異体は、ヒトIL−6の少なくとも約80%、好ましくは少なくとも約90%、好ましくは少なくとも約95%のヒトIL−6レセプター結合活性を示す。
【0033】
本発明の好ましい態様によると、CRPのような炎症マーカー、IL−1および/もしくはIL−8のような別のインターロイキン、プロカルシトニン、白血球数、体温、心拍数、呼吸数、ならびに/または感染症、好ましくは細菌および/もしくは真菌感染症の診断より選択される少なくとも一つのパラメーターを含めた、SIRSまたはセプシスを指し示す少なくとも一つの追加的なマーカーまたはパラメーターが決定される。
【0034】
さらに本発明の方法は、上に明示的に言及された工程に追加的な工程を含むことがある。例えば、さらなる工程は、試料の収集、試料の前処理またはその方法によって得られた結果の評価に関することがある。本発明の方法は、また、SIRSを発症するかまたは患うことのモニタリング、確認、細分類およびリスク判断のために、ならびに本発明の疾患を治療モニタリングするために使用することができる。好ましい一態様では、少なくとも一つの追加的なマーカーまたはパラメーターが、工程a)に言及された二つとは別に、好ましくはSIRSまたはセプシスの検出または診断を超える追加的な診断情報を得るために決定されることがあることも想定されている。そのような追加的なパラメーターは、例えば、患者が腎クリアリンス障害を患うかどうかを追加的に診断できるようにする推定糸球体濾過率、NGALレベルまたはクレアチニンのことがある。
【0035】
その方法は、手動で実施されることがあり、かつ/または自動化により支援されることもある。好ましくは、工程(a)、(b)、および/または(c)は、自動化によって、例えば工程(a)での決定に適したロボットおよびセンサー装置、または工程(b)および/もしくは(c)でのコンピューター実装比較によって、全体でまたは部分的に支援されることがある。
【0036】
「試料」という用語は、体液試料、分離された細胞の試料または組織もしくは器官からの試料を表す。体液試料は、周知の技法によって得ることができ、それには、好ましくは血液、血漿、血清、液体または尿の試料、より好ましくは血液、血漿または血清の試料が含まれる。体液試料は、好ましくは静脈穿刺、動脈穿刺または心室穿刺によって得られる。組織または器官試料は、任意の組織または器官から、例えば生検によって得ることができる。分離された細胞は、体液または組織もしくは器官から、遠心分離または細胞選別などの分離技法によって得ることができる。好ましくは、細胞、組織または器官試料は、本明細書に言及されるペプチドを発現または産生する細胞、組織または器官から得られる。
【0037】
本発明の方法は、試料を収集する工程を包含することがあり、その工程は侵襲的工程でありうる。試料は、侵襲的工程、好ましくは静脈穿刺などによる最小限の侵襲的工程によって収集されることがある。最小限の侵襲的収集は、また、針(ランセット)の使用によって試料が収集される場合を包含するが、その針は、皮膚、好ましくは指の皮膚に適用されると、少量の血液の流出が誘起され、次にそれを収集して試料中のマーカー量の決定に供することができる。試料は、安全な日常的手順によって、好ましくは厳しい医学的訓練を受ける必要のない者によって、好ましくは侵襲的にまたは最小限に侵襲的に収集され、試料の収集は、好ましくは試料収集に供された者に重大な健康上のリスクを引き起こさない。
【0038】
好ましくは本発明の方法は、ex vivoまたはin vitro法である。
【0039】
短い時間間隔で単離された試料は、患者から得られる。本明細書に使用される「短い時間間隔」は、約15分〜約12時間、好ましくは約15分〜6時間、好ましくは約15分〜約3時間、好ましくは約1時間〜約12時間、好ましくは約1時間〜6時間、好ましくは約1時間〜約3時間の範囲の時間間隔を包含する。より好ましくは、短い時間間隔は、約15分、好ましくは約30分、好ましくは約1時間、好ましくは約2時間、好ましくは約3時間、好ましくは約4時間、好ましくは約5時間、好ましくは約6時間の時間間隔である。
【0040】
好ましくは、試料は、最大約10日の期間、好ましくは最大約7日間、好ましくは最大約5日間、好ましくは最大約3日間、患者から単離される。患者の状態および状態の発症に応じて試料の単離およびIL−6の検出をさらに延長することができ、例えば患者がSIRSまたはセプシスを発症している場合、試料の採取は、SIRSまたはセプシス治療がうまく完了するまで、またはその時点を2、3日過ぎてまで延長することができる。好ましくは、処置が実施される前に試料は少なくとも約1回、好ましくは少なくとも約2回採取され、処置後は少なくとも1回、好ましくは少なくとも約2回採取される。好ましくは処置は、上記と同義の侵襲的処置である。例えば処置が実施される前に一つまたは二つのIL−6レベルが取得される。処置後にいくつかの試料が例えば3〜10日間にわたる例えば3〜6時間の規則的間隔で採取され、その際、IL−6および好ましくは患者の臨床状態も決定される。
【0041】
本明細書に使用される「SIRSを検出および診断する」という用語は、無症候性患者がSIRS、好ましくはセプシスを患うかどうかを判断、同定、評価または分類することを意味する。
【0042】
「SIRSを発症するかまたは患うリスクを検出および診断する」という用語は、無症候性患者が将来の所定の時間ウインドウ(予測ウインドウ)内でセプシスを含めたSIRSを発症するかまたは患うリスクを予測することを包含することが意味される。予測ウインドウは、対象が予測された確率にしたがってSIRSを発症するか、または場合により死亡する時間間隔である。しかしながら好ましくは、予測ウインドウは、(i)本発明の方法が実施された後の、または(ii)検出されたIL−6レベルが参照レベルを上回る最初の試料が得られた後の、または(iii)患者が入院後の、または(iv)IL−6についての最初のベースラインレベルが入手/単離された後の、または(v)処置、例えば侵襲的処置が開始もしくは終了した後の、または(vi)IL−6レベルの決定のために最初の処置後試料が単離された後の、最大約20日、好ましくは最大約10日、好ましくは最大約7日、好ましくは最大約5日、好ましくは最大約5日、好ましくは最大約4日、好ましくは最大約3日、好ましくは最大約2日の時間間隔である。
【0043】
好ましくは、SIRSを発症するかまたは患うリスクがあると同定された患者は、SIRSを発症するかまたは患う高い確率を有する。好ましくは、高い確率は、少なくとも約30%、好ましくは少なくとも約40%、好ましくは少なくとも約50%、好ましくは少なくとも約60%、好ましくは少なくとも約70%、好ましくは少なくとも約80%、好ましくは少なくとも約90%、好ましくは少なくとも約95%である。場合によりSIRSまたはセプシスを発症するかまたは患う高い確率は、100%の確率を包含し、すなわち患者は、SIRSまたはセプシスをこれから発症するか、または実際に患っている。
【0044】
または患者は、SIRSまたはセプシスを患うかまたは発症する低い確率を有する。好ましくは、低い確率は、約30%以下、好ましくは最大約20%、好ましくは最大約10%、好ましくは最大約5%である。場合により、SIRSまたはセプシスを発症するかまたは患う低い確率は、0%の確率を包含し、すなわち患者はSIRSまたはセプシスをこれから発症しないかまたは実際に患っていない。
【0045】
SIRSまたはセプシスを患うかまたは発症するリスク%を決定するための方法は、一般に公知である。好ましくはリスク%の予測は、上に言及された予測ウインドウ内で実施される。
【0046】
好ましくは、SIRSまたはセプシスを発症するかまたは患うリスクの程度は、検出されたIL−6レベルが参照値を上回る程度と相関する。SIRSまたはセプシスを発症するかまたは患うリスクは、好ましくは、検出されたIL−6レベルが参照レベルよりも低い場合に低い。好ましくは、検出されたIL−6レベルが参照値以上である場合に、SIRSまたはセプシスを発症するかまたは患うリスクは高い。
【0047】
当業者によって理解されるように、そのような判断は、通常、分析される対象の100%について正しいことが意図されない。しかしながらその用語は、分析される対象の統計的に有意な一部について判断が妥当であることを必要とする。一部が統計的に有意であるかどうかは、様々な周知の統計評価ツール、例えば信頼区間の決定、p値の決定、Studentのt検定、Mann-Whitney検定などを用いて、当業者が事もなく決定することができる。Dowdy and Wearden, Statistics for Research, John Wiley & Sons, New York 1983に詳細が見出される。好ましい信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%である。p値は、好ましくは0.1、0.05、0.01、0.005、または0.0001である。好ましくは、本発明によって想定される確率は、所与のコホートの対象の好ましくは少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%について予測が正しいことを認めている。
【0048】
本発明によるIL−6もしくはその変異体、または任意の他のタンパク質性バイオマーカーのレベルを決定することは、その量または濃度を好ましくは半定量的または定量的に測定することに関する。測定は、直接的または間接的に行うことができる。直接測定は、ペプチドまたはポリペプチドの量または濃度を、ペプチドまたはポリペプチド自体から得られたシグナルおよび試料中に存在するペプチドの分子数と直接相関する強度に基づき測定することに関する。本明細書において時に強度シグナルと呼ばれる当該シグナルは、例えばペプチドまたはポリペプチドの特異的物理特性または化学特性の強度値を測定することによって得ることができる。間接測定には、第2成分(すなわちペプチドまたはポリペプチド自体ではない成分)または生物学的読出しシステムから得られるシグナル、例えば測定可能な細胞応答、リガンド、ラベル、または酵素反応産物の測定が含まれる。
【0049】
本発明にしたがって、IL−6ペプチドまたはポリペプチドの量を決定することは、試料中のペプチドの量を決定するための全ての公知の手段によって達成することができる。該手段は、様々なサンドイッチアッセイ、競合アッセイまたは他のアッセイ形式でラベル化分子を利用できるイムノアッセイのデバイスおよび方法を含む。該アッセイは、ペプチドまたはポリペプチドの存在または不在を指し示すシグナルを発生する。さらにシグナル強度は、好ましくは、試料中に存在するポリペプチドの量に直接または間接的に(例えば逆比例)相関する。さらに適切な方法は、その正確な分子量またはNMRスペクトルのように、ペプチドまたはポリペプチドに特異的な物理特性または化学特性を測定することを含む。該方法は、好ましくは、バイオセンサー、イムノアッセイと結合される光学デバイス、バイオチップ、質量分析装置、NMR分析装置またはクロマトグラフィー装置などの分析装置を含む。さらなる方法には、マイクロプレートELISAベースの方法、全自動またはロボットイムノアッセイ(例えばRocheのElecsys(商標)分析装置で利用可能)、CBA(酵素的コバルト結合アッセイ、例えばRoche-Hitachi(商標)分析装置で利用可能)、およびラテックス凝集アッセイ(例えばRoche-Hitachi(商標)分析装置で利用可能)、同種および異種イムノアッセイ、競合および非競合イムノアッセイが含まれる。
【0050】
好ましくはIL−6ペプチドまたはポリペプチドの量の決定は、(a)強度がペプチドまたはポリペプチドの量を指し示す細胞応答を誘起可能な細胞を、該ペプチドまたはポリペプチドと十分な時間接触させる工程、(b)細胞応答を測定する工程を含む。細胞応答を測定するために、試料または処理された試料が好ましくは細胞培養物に添加され、内部または外部細胞応答が測定される。細胞応答には、レポーター遺伝子の測定可能な発現、または物質、例えばペプチド、ポリペプチド、もしくは小分子の分泌が含まれることがある。発現または物質は、ペプチドまたはポリペプチドの量に相関する強度シグナルを発生するものとする。
【0051】
同様に好ましくは、IL−6ペプチドまたはポリペプチドの量の決定は、試料中、好ましくは血液、血清、血漿または液体より選択される試料中のペプチドまたはポリペプチドから入手可能な特異的強度シグナルを測定する工程を含む。上記のように、そのようなシグナルは、質量スペクトルから観察されるペプチドもしくはポリペプチドに特異的なm/z変数またはペプチドもしくはポリペプチドに特異的なNMRスペクトルで観察されるシグナル強度のことがある。
【0052】
IL−6ペプチドまたはポリペプチドの量の決定は、好ましくは(a)ペプチドを特異的リガンドと接触させる工程、(b)(場合により)非結合型リガンドを除去する工程、(c)結合したリガンドの量を測定する工程を含むことがある。結合したリガンドは、強度シグナルを発生する。本発明による結合には、共有結合および非共有結合の両方が含まれる。
【0053】
本発明によるリガンドは、本明細書記載のペプチドまたはポリペプチドに結合する任意の化合物、例えばペプチド、ポリペプチド、核酸、または小分子でありうる。好ましいリガンドには、抗体、核酸、IL−6ペプチドに対する結合ドメインを含むペプチドまたはポリペプチドおよびそのフラグメントに対するレセプターまたは結合パートナーなどのペプチドまたはポリペプチド、およびアプタマー、例えば核酸またはペプチドアプタマーが含まれる。そのようなリガンドを調製する方法は、当技術分野において周知である。例えば、適切な抗体またはアプタマーの同定および産生は、販売業者によっても提供される。当業者は、より高い親和性または特異性を有する、そのようなリガンドの誘導体を発生させる方法を熟知している。例えば核酸、ペプチドまたはポリペプチドにランダム突然変異を導入することができる。次に、これらの誘導体は、当技術分野で公知のスクリーニング手順、例えばファージディスプレイにしたがって結合について試験することができる。
【0054】
IL−6を検出するための手段は、当技術分野において一般に公知であり、それには、好ましくはポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体を含めた抗IL−6抗体、ならびにIL−6抗原またはハプテンと結合可能なFv、FabおよびF(ab)2フラグメントなどのそのフラグメントが含まれる。本発明のIL−6を検出するための手段には、また、1本鎖抗体、所望の抗原特異性を示している非ヒトドナー抗体のアミノ酸配列がヒトアクセプター抗体の配列と組み合わされたキメラのヒト化ハイブリッド抗体が含まれる。哺乳動物種由来の抗IL−6抗体、好ましくはヒト、ラット、マウス、ヤギ、ヒツジ、ウシ、およびラクダより選択される抗体も含まれる。好ましくは、抗IL−6抗体は、上記M−BE8もしくはM−23C7抗IL−6抗体、またはM−BE8および/もしくはM−23C7抗体によって認識されるIL−6エピトープに結合する抗体である。ドナー配列は、通常、少なくともドナーの抗原結合性アミノ酸残基を包含するが、同様にドナー抗体の他の構造的および/または機能的に関連するアミノ酸残基を含むことがある。そのようなハイブリッドは、当技術分野で周知のいくつかの方法によって調製することができる。好ましくは、リガンドまたは薬剤は、IL−6ペプチドまたはポリペプチドに特異的に結合する。本発明による特異的結合は、リガンドまたは作用因子が、分析対象の試料中に存在する別のペプチド、ポリペプチドまたは物質と実質的に結合(「交差反応」)してはならないことを意味する。好ましくは、特異的に結合したIL−6ペプチドまたはポリペプチドは、任意の他の関連するペプチドまたはポリペプチドの少なくとも3倍、より好ましくは少なくとも10倍、いっそうより好ましくは少なくとも50倍の親和性で結合しているべきである。例えばウエスタンブロットでのそのサイズにしたがって、または試料中のその比較的高い存在度によって非特異的結合がまだはっきりと識別および測定できる場合、非特異的結合は許容可能でありうる。リガンドの結合は、当技術分野で公知の任意の方法によって測定することができる。好ましくは該方法は、半定量的または定量的である。適切な方法を以下に記載する。
【0055】
第一に、リガンドの結合は、直接、例えばNMRまたは表面プラズモン共鳴によって測定することができる。
【0056】
第二に、リガンドが、関心対象のペプチドまたはポリペプチドの酵素活性の基質としても役立つ場合、酵素反応産物を測定してもよい(例えばプロテアーゼの量は、切断された基質の量を例えばウエスタンブロットで測定することによって測定することができる)。または、リガンドは、それ自体酵素の性質を示すことがあり、「リガンド/ペプチドまたはポリペプチド」複合体、またはペプチドもしくはポリペプチドによって結合されたリガンドが、それぞれ適切な基質と接触され、強度シグナルの発生による検出が可能になることがある。酵素反応産物を測定するために、好ましくは基質の量は飽和している。基質は、反応前に検出可能なラベルでラベル化されることもある。好ましくは、試料は基質と十分な時間接触される。十分な時間は、検出可能な、好ましくは測定可能な量の産物が産生されるために必要な時間を表す。産物の量を測定する代わりに、所与の(例えば検出可能な)量の産物の出現に必要な時間を測定することができる。
【0057】
第三に、リガンドは、ラベルに共有結合または非共有的にカップリングされて、リガンドの検出および測定が可能になることがある。ラベル化は、直接法または間接法によって行われることがある。直接ラベル化は、リガンドへのラベルの(共有または非共有的)直接カップリングを伴う。間接ラベル化は、第1のリガンドへの第2のリガンドの(共有または非共有)結合を伴う。第2のリガンドは、第1のリガンドに特異的に結合すべきである。該第2のリガンドは、適切なラベルとカップリングしていることがあり、かつ/または第2のリガンドに結合する第3のリガンドのターゲット(レセプター)のことがある。第2、第3またはさらに順位の高いリガンドの使用は、多くの場合にシグナルを増大させるために使用される。適切な第2およびさらに順位の高いリガンドには、抗体、二次抗体、および周知のストレプトアビジン−ビオチン系(Vector Laboratories, Inc.)が含まれることがある。リガンドまたは基質は、また、当技術分野において公知のような一つまたは複数のタグで「タグ付け」されることがある。次に、そのようなタグは、より大きな順位のリガンドについてのターゲットのことがある。適切なタグには、ビオチン、ジゴキシゲニン、His−タグ、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ、FLAG、GFP、myc−タグ、A型インフルエンザウイルスヘマグルチニン(HA)、マルトース結合タンパク質などが含まれる。ペプチドまたはポリペプチドの場合、タグは、好ましくはN末端および/またはC末端にある。適切なラベルは、適切な検出法によって検出可能な任意のラベルである。典型的なラベルには、金粒子、ラテックスビーズ、アクリダン(acridan)エステル、ルミノール、ルテニウム、酵素活性ラベル、放射性ラベル、磁気ラベル(「例えば磁気ビーズ」、常磁性および超常磁性ラベルを含む)、および蛍光ラベルが含まれる。酵素活性ラベルには、例えばホースラディッシュペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、およびその誘導体が含まれる。適切な検出用基質には、ジ−アミノ−ベンジジン(DAB)、3,3’−5,5’−テトラメチルベンジジン、NBT−BCIP(4−ニトロブルーテトラゾリウムクロリドおよび5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−ホスフェート、Roche Diagnosticsから調製済み原液として入手可能)、CDP-Star(商標)(Amersham Biosciences)、ECF(商標)(Amersham Biosciences)が含まれる。適切な酵素−基質の組み合わせは、呈色反応産物、蛍光または化学発光を生じることがあり、それを当技術分野で公知の方法にしたがって測定することができる(例えば感光フィルムまたは適切なカメラシステムを使用する)。酵素反応を測定することについては、上に示した基準が同じように当てはまる。典型的な蛍光ラベルには、蛍光タンパク質(GFPおよびその誘導体など)、Cy3、Cy5、テキサスレッド、フルオレセイン、およびAlexa色素(例えばAlexa 568)が含まれる。さらなる蛍光ラベルは、例えばMolecular Probes(Oregon)から入手可能である。蛍光ラベルとしての量子ドットの使用も考慮される。典型的な放射性ラベルには、35S、125I、32P、33Pなどが含まれる。放射性ラベルは、公知で適切な任意の方法、例えば感光フィルムまたはホスホイメージャー(phosphor imager)によって検出することができる。本発明による適切な測定方法には、また、沈降(特に免疫沈降)、電気化学発光(電気生成化学発光)、RIA(ラジオイムノアッセイ)、ELISA(酵素結合免疫吸着検定)、サンドイッチ酵素免疫試験、電気化学発光サンドイッチイムノアッセイ(ECLIA)、解離増強ランタニド蛍光イムノアッセイ(DELFIA)、シンチレーション近接アッセイ(SPA)、比濁法、ネフェロメトリー、ラテックス増強比濁法もしくはラテックス増強ネフェロメトリー、または固相免疫試験が含まれる。当技術分野で公知のさらなる方法(ゲル電気泳動、2次元ゲル電気泳動、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)、ウエスタンブロッティング、および質量分析)を、単独で、またはラベル化もしくは上記の他の検出方法と組み合わせて使用することができる。
【0058】
より好ましくはIL−6の量は、質量分析法によって、好ましくは同位体希釈マイクロHPLC−タンデム質量分析法によって、好ましくは実施例およびKobold Uら(Clin Chem 2008; 54: 1584-6)に記載の方法によって決定される。
【0059】
IL−6ペプチドまたはポリペプチドの量は、また、好ましくは以下のように決定されることがある:(a)上に詳述するペプチドまたはポリペプチドに対するリガンドを含む固体支持体を、ペプチドまたはポリペプチドを含む試料と接触させて、(b)支持体に結合したペプチドまたはポリペプチドの量を測定する。リガンドは、好ましくは核酸、ペプチド、ポリペプチド、抗体、およびアプタマーから成る群より選択され、好ましくは、不動化形態で固体支持体上に存在する。固体支持体を製造するための材料は、当技術分野で周知であり、それには、特に、市販のカラム材料、ポリスチレンビーズ、ラテックスビーズ、磁気ビーズ、コロイド金属粒子、ガラスおよび/またはシリコンのチップおよび表面、ニトロセルロースストリップ、膜、シート、デュラサイト(duracyte)、反応トレイのウェルおよび壁、プラスチックチューブなどが含まれる。リガンドまたは作用因子は、多種多様な担体に結合していることがある。周知の担体の例には、ガラス、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、デキストラン、ナイロン、アミロース、天然セルロースおよび改質セルロース、ポリアクリルアミド、アガロース、ならびにマグネタイトが含まれる。担体の性質は、本発明の目的では可溶性または不溶性のいずれであってもよい。該リガンドの固定化/不動化に適した方法は、周知であり、それには、非限定的にイオン性相互作用、疎水性相互作用、共有結合相互作用などが含まれる。本発明では、アレイとして「懸濁アレイ」を使用することも想定されている(Nolan 2002, Trends Biotechnol. 20(1):9-12)。そのような懸濁アレイでは、担体、例えばマイクロビーズまたはマイクロスフェアは、懸濁状態で存在する。アレイは、ラベル化されている可能性のある、様々なリガンドを担持する様々なマイクロビーズまたはマイクロスフェアから成る。そのようなアレイ、例えば固相化学および感光性保護基に基づくアレイの製造方法は、一般に公知である(米国特許第5,744,305号)。
【0060】
本明細書に使用される「約」という用語は、特定の値、量、濃度、レベルなどに対して±20%の範囲を包含し、例えば「約100」という値の表示は、100±20%の数値域の値、すなわち80〜120の値域を包含することが意味される。好ましくは「約」という用語は、特定の値、量、濃度、レベルなどに対して±10%の範囲、最も好ましくは特定の値、量、濃度、レベルなどに対して±5%の範囲を包含する。
【0061】
本明細書に使用される「比較する」という用語は、分析対象の試料に含まれるペプチドまたはポリペプチドのレベルを本明細書中の他の箇所に明記された適切な参照元のレベルと比較することを包含する。本明細書に使用される比較は、対応するパラメーターまたは値の比較を表すことを了解されたい。例えば絶対量が絶対参照レベルと比較されるか、濃度が参照濃度と比較されるか、または被験試料から得られた強度シグナルが参照試料の同一タイプの強度シグナルと比較される。本発明の方法の工程(b)で参照される比較は、手動で実施してもよいし、またはコンピューターにより支援してもよい。コンピューターにより支援される比較では、決定されたレベルの値が、データベース中に格納された適切な参照に対応する値とコンピュータープログラムによって比較されることがある。コンピュータープログラムは、さらに、比較の結果を評価することができ、すなわち、適切な出力形式で所望の判断を自動的に提供することができる。工程(a)で決定されたレベルと参照レベルとの比較に基づいて、患者におけるSIRSの診断が決定される。したがって、参照レベルは、比較されたレベルの相違または類似のいずれかによって、対象をSIRSまたはSIRSを患わないと割り当てできるように選択すべきである。
【0062】
したがって、「参照レベル」という用語は、カットオフを定義する量、濃度または値を表す。カットオフを上回るパラメーターの量、濃度または値は、カットオフ未満の、決定されたパラメーターの量、レベルまたは値を示している患者と異なる診断を招く。したがって、パラメーターIL−6の実際に決定された量、濃度または値をそれぞれのカットオフと比較することによって、患者がSIRSまたはセプシスを発症するかまたは患うリスクを診断または検出することが可能である。
【0063】
もちろん、個々の対象に適用可能な参照レベルは、種々の生理学的パラメーター、例えば年齢、性別、部分集団、アルコールの摂取、最近の感染症の既往、ならびに本明細に参照されるポリペプチドまたはペプチドの決定に使用される手段に応じて変化しうる。適切な参照レベルは、被験試料と一緒に(すなわち同時にまたは後続的に)分析対象の参照試料から本発明の方法により決定することができる。本発明の参照レベルは、実施例で確認された。
【0064】
当業者によって理解されるように、そのような診断的判断は、通常、同定されるべき患者の全て(すなわち100%)で正しいとは意図されない。しかしながら、その用語は、統計的に有意な一部(例えばコホート研究における一つのコホート)の患者を同定できることを必要とする。一部が統計的に有意であるかどうかは、種々の周知の統計評価ツール、例えば信頼区間の決定、p値の決定、Studentのt検定、Mann-Whitney検定などを用いて、当業者によって後は苦もなく決定することができる。詳細は、Dowdy and Wearden, Statistics for Research, John Wiley & Sons, New York 1983から見出される。好ましい信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%である。p値は、好ましくは、0.1、0.05、0.01、0.005,または0.0001である。より好ましくは、集団の少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%または少なくとも90%の患者を本発明の方法によって適切に同定することができる。
【0065】
一般に、本発明のそれぞれの態様にしたがって所望の診断を確立可能にするそれぞれのレベル(「閾値」、「参照レベル」)を決定するために、適切な患者群からそれぞれの一つまたは複数のペプチドの量/レベルまたは量比が決定される。前に述べたように、参照値は、好ましくは所与の患者から、好ましくは対象患者から早期に決定されたIL−6レベル(例えばベースラインIL−6レベル)に、本明細書の別の箇所に定義された倍率(例えば少なくとも約50または少なくとも約100、または少なくとも約500または少なくとも約1000の倍率)を乗じることによって決定される。例えば、転帰(非SIRS対SIRS対セプシス)が分析され、経時的に患者でのIL−6レベルの変化と比較される、実施例記載のような後ろ向き臨床研究に基づいて、SIRSまたはセプシスを発症するかまたは患う特異的リスク確率に関連する参照値を確立するために、対象患者のベースラインIL−6レベルにどの「倍率」を乗じるべきかを統計的に検証することが容易に可能である。
【0066】
好ましくは、参照レベルは、IL−6のベースラインレベルに、少なくとも約50の倍率を、好ましくは少なくとも約100の倍率を、より好ましくは少なくとも約500の倍率を、最も好ましくは少なくとも約1000の倍率を乗じることによって計算される。例えば、無症候性患者が10pg/mlのベースラインIL−6レベルで医師または病院を受診する場合、計算された参照レベルは、好ましくは500pg/ml(50倍)、好ましくは1ng/ml(100倍)、好ましくは5ng/ml(500倍)、または好ましくは10ng(1000倍)である。そのような患者では、患者を(例えば侵襲的)処置(例えば大手術)に供した後に検出されたIL−6レベルが、表示された参照レベルを上回る場合、その患者にSIRSを発症するかまたは患う高いリスクがあることを指し示す。
【0067】
本明細書に使用される「ベースラインレベル」は、(i)患者が医師、救急室、病院、集中治療室、外科医または麻酔科医を受診したときに、(ii)治療が開始される前、例えば手術前に、(iii)治療中、例えば手術中に、および/または(iv)処置が完了した後、例えば手術が完了した後に、得られた少なくとも一つのIL−6レベルを包含する。患者を(例えば侵襲的)処置に供してから、例えば約24時間以内に、好ましくは約15時間以内に、好ましくは約12時間以内に、好ましくは処置後約6時間以内に決定されるベースラインレベルも、その用語に包含される。または、IL−6レベルがIL−6レベルの中央値または平均の約20倍以下、約30倍以下、約50倍より以下、約50倍以下、約100倍以下、または約500倍以下の採取試料からIL−6レベルの中央値および平均値を決定することによって、ベースラインレベルが計算される。
【0068】
SIRSまたはセプシスを患うかまたは発症するリスクの診断および検出は、それぞれのパラメーターを決定することによって、好ましくは検証された分析方法を用いてIL−6のレベルを測定することによって実施することができる。得られた結果が収集され、当業者に公知の統計手法によって分析される。
【0069】
場合により、参照値は、その疾患を患う、または患うかもしくは発症するリスクがある所望の確率にしたがって確定される。例えば、参照レベルを確定するために、ベースラインレベルに乗じる中央値の倍率を健康および/または非健康患者集団の60、70、80、90、95、または99パーセンタイルから選択することが有用なことがある。
【0070】
閾値として役立つ好ましい参照レベルは、正常値上限(ULN)、すなわち集団中に見出される生理学的量の上限から得られることがある。所与の対象集団についてのULNは、種々の周知の技法によって決定することができる。適切な技法は、本発明の方法で決定されるペプチドまたはポリペプチド量について集団の中央値を決定することでありうる。
【0071】
診断マーカーの参照レベルを確定および確認することができると、患者試料中のマーカーのレベルを、単に参照レベルと比較することができる。診断および/または予後試験の感度および/または特異性は、単なる試験の分析の「質」だけに依存するのではなく、それらは、何が異常な結果を構成するかの定義にも依存する。実際は、受診者動作特性曲線または「ROC」曲線は、典型的には「正常」および「疾患」集団におけるその相対頻度に対して変数の値をプロットすることによって計算される。本発明の任意の特定のパラメーターについて、疾患を有する対象および有さない対象についてのマーカーレベルの分布は重複する見込みである。そのような条件で、試験は正常と疾患とを100%の正確度で絶対的には区別せず、重複面積は、試験が正常と疾患とを、または疾患を患うかもしくは発症する高いリスクと低いリスクとをどこで区別できないかを指し示すものである。上回ると(またはマーカーが疾患と共にどのように変化するかに応じて、下回ると)試験が異常と見なされ、下回ると試験が正常と見なされる、閾値(カットオフ、参照レベル)が選択される。ROC曲線下面積は、感知された測定が状態の開始または発症のリスクの正しい同定または予測を可能にする確率の尺度である。ROC曲線は、試験の結果が必ずしも正確な数を与えない場合であっても使用することができる。結果を順位付けできる限り、ROC曲線を作製することができる。例えば、「疾患」試料に関する試験の結果は、疾患の程度(例えば1=低い、2=正常、3=高い)または疾患を患うかもしくは発症する確率(例えば1=低い、2=正常、3=高い)にしたがって順位付けされることがあろう。この順位付けは、「正常」集団での結果および作製したROC曲線と関連させることができる。これらの方法は、当技術分野で周知である。例えば、Hanley et al、Radiology 1982;143: 29-36を参照されたい。
【0072】
ある態様では、マーカーおよび/またはマーカーのパネルは、少なくとも約70%の感度、より好ましくは少なくとも約80%の感度、いっそうより好ましくは少なくとも約85%の感度、なおより好ましくは少なくとも約90%の感度、最も好ましくは少なくとも約95%の感度を、少なくとも約70%の特異性、より好ましくは少なくとも約80%の特異性、なおより好ましくは少なくとも約85%の特異性、なおより好ましくは少なくとも約90%の特異性、最も好ましくは少なくとも約95%の特異性と組み合わせて示すように選択される。特に好ましい態様では、感度および特異性は、共に、少なくとも約75%、より好ましくは少なくとも約80%、いっそうより好ましくは少なくとも約85%、なおより好ましくは少なくとも約90%、最も好ましくは少なくとも約95%である。
【0073】
他の態様では、陽性尤度比、陰性尤度比、またはオッズ比が、試験がリスクを予測または疾患を診断する能力の尺度として用いられる。陽性尤度比の場合、1の値は、陽性の結果が「疾患」群と「対照」群の両方の対象の間で等しく起こる見込みであることを指し示し;1よりも大きな値は、疾患群の方に陽性の結果が起こる見込みが大きいことを指し示し;1未満の値は、対照群の方に陽性の結果が起こる見込みが大きいことを指し示す。陰性尤度比の場合、1の値は、陰性の結果が「疾患」群と「対照」群の両方の対象の間で等しく起こる見込みであることを指し示し;1よりも大きな値は、被験群の方に陰性の結果が起こる見込みが大きいことを指し示し;1未満の値は、対照群の方に陰性の結果が起こる見込みが大きいことを指し示す。ある好ましい態様では、マーカーおよび/またはマーカーのパネルは、好ましくは少なくとも約1.5以上または約0.67以下、より好ましくは少なくとも約2以上または約0.5以下、なおより好ましくは少なくとも約5以上または約0.2以下、いっそうより好ましくは少なくとも約10以上または約0.1以下、最も好ましくは少なくとも約20以上または約0.05以下の正または陰性尤度比を示すように選択される。この文脈で「約」という用語は、所与の測定の±5%を表す。
【0074】
オッズ比の場合、1の値は、陽性の結果が「疾患」群と「対照」群の両方の対象の間で等しく起こる見込みであることを指し示し;1よりも大きな値は、疾患群の方に陽性の結果が起こる見込みが大きいことを指し示し;1未満の値は、対照群の方にプラスの結果が起こる見込みが大きいことを指し示す。ある好ましい態様では、マーカーおよび/またはマーカーのパネルは、好ましくは少なくとも約2以上または約0.5以下、より好ましくは少なくとも約3以上または約0.33以下、なおより好ましくは少なくとも約4以上または約0.25以下、いっそうより好ましくは少なくとも約5以上または約0.2以下、最も好ましくは少なくとも約10以上または約0.1以下のオッズ比を示すように選択される。この文脈で「約」という用語は、所与の測定の±5%を表す。
【0075】
パネルは、少なくとも一つの追加的なマーカー;疾患の特異的マーカー(例えば、他の病状ではなく細菌感染症で増加または減少しているマーカー)および/または非特異的マーカー(例えば、原因に関わらず炎症が原因で増加または減少しているマーカー;原因に関わらず止血の変化が原因で増加または減少しているマーカーなど)の両方を含むことがある。あるマーカーが本明細書記載の方法で個別に確定的でないことがあるが、特定の「フィンガープリント」変化パターンが、事実上病状の特異的指標として作用することがある。上に論じたように、変化パターンは、単一の試料から得られることがあり、または場合によりパネルの一つもしくは複数のメンバーにおける一時的変化(またはパネル応答値の一時的変化)を考慮することもある。
【0076】
本発明の方法の好ましい一態様では、
i)工程a)で決定された、参照レベル以上のIL−6またはその変異体のレベルが、患者にSIRSを患うかまたは発症する高いリスクがあることを指し示し;そして
ii)工程a)で決定された、参照レベル未満のIL−6またはその変異体のレベルが、患者にSIRSを患うかまたは発症する低いリスクがあることを指し示す。
【0077】
IL−6濃度が無症候性患者の間で有意に異なることが観察された。例えば、以下の要因がこの個体差の原因となる:最近のアルコール消費、身体運動、ストレス、最近の感染症の病歴、外傷および急性高血糖。したがって、本発明の方法の好ましい一態様では、IL−6の参照レベルは、患者毎のベースで決定される。
【0078】
好ましくは、参照レベルを上回るIL−6レベルを示している患者は、SIRSまたはセプシスの臨床徴候および症状の開始について入念にモニタリングされる。より好ましくは患者は、以下のパラメーターのモニタリングに供される:IL−6レベル、白血球数(WBC)および未熟白血球形態の決定、体温、心拍数、呼吸数、ドレナージからの微生物標本の収集、血清、気管支分泌液および尿および毎日の胸部レントゲン写真。管理用内視鏡検査ならびに超音波およびCTスキャンによる放射線精密検査が保証される。
【0079】
より好ましくは患者は、以下のように処置される:広域スペクトル抗生物質の処置の開始、抗真菌処置。疑いがある場合は、再手術を自由に予定するものとする。
【0080】
本発明の別の局面では、無症候性患者におけるSIRSまたはセプシスを発症するかまたは患うリスクをモニタリングする方法であって、
a)患者からの試料中のIL−6またはその変異体のレベルを決定する工程;
b)工程a)で決定されたIL−6またはその変異体のレベルを参照レベルと比較する工程;および
c)工程c)での比較に基づいて、患者のためのSIRSまたはセプシスの治療を推奨、決定、開始、継続、調整または中断する工程
を含む方法が提供される。
【0081】
上記モニタリングの診断および治療の結果には:血清、ドレナージ、気管支分泌液および尿からの微生物標本、内視鏡管理、放射線および超音波画像法、胸部レントゲン写真およびCTスキャン、広域スペクトル抗生物質処置の開始または既存の抗生物質処置からより効率的な抗生物質への変更、抗真菌処置が含まれる。疑いがある場合は、再手術を自由に予定するものとする。
【0082】
IL−6またはその変異体のレベルが参照レベルよりも高い場合、試料または追加的に収集された試料がアッセイに供され、試料中に含有される感染性生物、例えば細菌、真菌などが同定される。そのようなアッセイは、一般に当技術分野において公知であり、セプシスの診断に関連する。
【0083】
本発明の別の局面では、無症候性患者における死亡のリスクを予測する方法であって、
a)患者からの試料中のIL−6またはその変異体のレベルを決定する工程;
b)工程a)で決定されたIL−6またはその変異体のレベルを参照レベルと比較する工程;
c)工程b)での比較に基づき、患者についての死亡のリスクを予測する工程
を含む方法が提供される。
【0084】
別のことを明記しない限り、上記のSIRSを患うかまたは発症するリスクを検出または診断するための方法に関して記載される定義および好ましい態様は、本発明のこの局面にも準用される。
【0085】
本発明のなお別の局面によると、SIRSを患うかまたは発症するリスクを好ましくは上記方法によって検出または診断するために適合されたデバイスであって:
a)IL−6またはその変異体のための検出手段を含む第1の分析ユニットであって、検出手段によって検出されたIL−6のレベルを決定するために適合された分析ユニット;
b)第1の分析ユニットから得られた、決定された量と、上記に明記した対応する参照レベルを含む適切なデータベースとの比較を実施するための、触知可能に埋め込まれたコンピュータープログラムコードを含むコンピューターを含む評価ユニット
を含むデバイスが提供され、好ましくは第1の分析ユニットおよびまた好ましくは評価ユニットは、相互に作動的に連結されている。
【0086】
好ましくは、デバイスは、さらに患者がSIRSまたはセプシスを患うかまたは発症するという診断またはリスク予測に基づき、必要とされる診断ならびに処置および/または予防を出力するための手段を含む。より好ましくは、デバイスは、さらにSIRSまたはセプシスの処置および/または治療の進展および/または応答を出力するための手段を含む。
【0087】
本発明のなお別の局面によると、上記方法を実施するために適合されたキットであって:
IL−6またはその変異体のレベルを決定するための手段;
決定されたIL−6またはその変異体のレベルを参照レベルと比較するための手段;
方法を実施するための説明書
を含むキットが提供される。
【0088】
本明細書に使用される「キット」という用語は、一緒にパッケージされることがあり、またはされないこともある、本発明の前記化合物、手段または試薬のコレクションを表す。キットの構成要素は、別々のバイアル(すなわち別々のパーツのキットとして)によって構成されることがあり、または単一のバイアルに入れて提供されることもある。その上、本発明のキットは、本明細書上記に言及された方法を実施するために使用すべきであることを了解されたい。好ましくは、上に言及された方法を実施するために、全ての構成要素が既製方式で提供されることが想定される。さらにキットは、好ましくは該方法を実施するための説明書を内部に含む。説明書は、紙または電子形式のユーザズマニュアルによって提供することができる。例えばマニュアルは、本発明のキットを使用して前記方法を実施する場合に得られる結果を解釈するための説明書を含むことがある。
【0089】
本発明のなお別の局面によると、コンピュータープログラムがコンピューターで実行される場合、本発明の方法を実施するために適したコンピュータープログラムコードを含むコンピュータープログラムが提供される。
【0090】
本発明の別の局面では、本発明のコンピュータープログラムが記憶されたコンピューター可読媒体が提供される。
【0091】
本発明の別の局面では、本発明のコンピュータープログラムが記憶されたコンピュータープログラム製品が提供される。好ましくは、コンピュータープログラムは、さらに、診断された疾患に基づく必要な予防および/または治療を出力するための手段であって、コンピューター可読媒体に記憶された手段を含む。
【0092】
別のことを明記しない限り、全身性炎症反応症候群(SIRS)の検出もしくは診断するための、または上記SIRSを患うかもしくは発症するリスクを検出もしくは診断するための方法に関して記載された定義および好ましい態様もまた、本発明の本局面に当てはまる。
【0093】
本発明の別の局面では、本発明の方法を実施するために適合されたキットであって:
i)IL−6またはその変異体のレベルを決定するための手段;
ii)決定されたIL−6またはその変異体のレベルを参照レベルと比較するための手段;および場合により
iii)その方法を実施するための説明書
を含むキットが提供される。
【0094】
本発明の別の局面では、無症候性患者における全身性炎症反応症候群(SIRS)もしくはセプシスを検出もしくは診断するための、またはSIRSを患うかもしくは発症するリスクを検出もしくは診断するための方法であって、
a)患者からの試料中のCRPレベルを決定する工程;
b)工程a)で決定されたCRPレベルを参照レベルと比較する工程;
c)SIRSを検出もしくは診断する工程、またはSIRSを発症するリスクを検出もしくは診断する工程
を含む方法が提供され、ここで、試料は短い時間間隔で少なくとも2回単離され、工程a)およびb)が各試料について繰り返される。
【0095】
本発明の別の局面では、無症候性患者における全身性炎症反応症候群(SIRS)またはセプシスを発症するかまたは患うリスクを検出または診断するための方法であって、
a)患者からの試料中のプロカルシトニンレベルを決定する工程;
b)工程a)で決定されたプロカルシトニンレベルを参照レベルと比較する工程;
c)全身性炎症反応症候群(SIRS)またはセプシスを発症するかまたは患うリスクを検出または診断する工程
を含む方法が提供され、ここで、試料は短い時間間隔で少なくとも2回単離され、工程a)およびb)が各試料について繰り返される。
【0096】
本発明の別の局面では、抗IL−2抗体、抗IL−3抗体、抗IL−4抗体、抗IL−5抗体、および抗IL−6抗体より選択される抗体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1−1】手術前および手術後の無症候性患者におけるIL−6(pg/ml)の動態を示す図である。ベースライン1(手術前)、ベースライン2(手術中)、および手術後(1、2、3および4日目;試料を6時間間隔で採取)についてIL−6レベルをプロットする。図は、SIRS/セプシスを発症したプール患者と発症しなかったプール患者の間の比較を示す。中央値およびパーセンタイルを表示する。
【図1−2】手術前および手術後の無症候性患者におけるIL−6(pg/ml)の動態を示す図である。ベースライン1(手術前)、ベースライン2(手術中)、および手術後(1、2、3および4日目;試料を6時間間隔で採取)についてIL−6レベルをプロットする。図は、SIRS/セプシスを発症したプール患者と発症しなかったプール患者の間の比較を示す。中央値およびパーセンタイルを表示する。
【図1−3】手術前および手術後の無症候性患者におけるIL−6(pg/ml)の動態を示す図である。ベースライン1(手術前)、ベースライン2(手術中)、および手術後(1、2、3および4日目;試料を6時間間隔で採取)についてIL−6レベルをプロットする。図は、SIRS/セプシスを発症したプール患者と発症しなかったプール患者の間の比較を示す。中央値およびパーセンタイルを表示する。
【図1−4】手術前および手術後の無症候性患者におけるIL−6(pg/ml)の動態を示す図である。ベースライン1(手術前)、ベースライン2(手術中)、および手術後(1、2、3および4日目;試料を6時間間隔で採取)についてIL−6レベルをプロットする。図は、SIRS/セプシスを発症したプール患者と発症しなかったプール患者の間の比較を示す。中央値およびパーセンタイルを表示する。
【図1−5】手術前および手術後の無症候性患者におけるIL−6(pg/ml)の動態を示す図である。ベースライン1(手術前)、ベースライン2(手術中)、および手術後(1、2、3および4日目;試料を6時間間隔で採取)についてIL−6レベルをプロットする。図は、SIRS/セプシスを発症したプール患者と発症しなかったプール患者の間の比較を示す。中央値およびパーセンタイルを表示する。
【図1−6】手術前および手術後の無症候性患者におけるIL−6(pg/ml)の動態を示す図である。ベースライン1(手術前)、ベースライン2(手術中)、および手術後(1、2、3および4日目;試料を6時間間隔で採取)についてIL−6レベルをプロットする。図は、SIRS/セプシスを発症したプール患者と発症しなかったプール患者の間の比較を示す。中央値およびパーセンタイルを表示する。
【図2−1】患者番号1〜7について経時的にプロットしたIL−6濃度(pg/ml)を示す図である。三角は、SIRSの臨床徴候が診断された時点を表示する。
【図2−2】患者番号1〜7について経時的にプロットしたIL−6濃度(pg/ml)を示す図である。三角は、SIRSの臨床徴候が診断された時点を表示する。
【図2−3】患者番号1〜7について経時的にプロットしたIL−6濃度(pg/ml)を示す図である。三角は、SIRSの臨床徴候が診断された時点を表示する。
【図2−4】患者番号1〜7について経時的にプロットしたIL−6濃度(pg/ml)を示す図である。三角は、SIRSの臨床徴候が診断された時点を表示する。
【図2−5】患者番号1〜7について経時的にプロットしたIL−6濃度(pg/ml)を示す図である。三角は、SIRSの臨床徴候が診断された時点を表示する。
【図2−6】患者番号1〜7について経時的にプロットしたIL−6濃度(pg/ml)を示す図である。三角は、SIRSの臨床徴候が診断された時点を表示する。
【図2−7】患者番号1〜7について経時的にプロットしたIL−6濃度(pg/ml)を示す図である。三角は、SIRSの臨床徴候が診断された時点を表示する。
【図3】非SIRS患者の特徴を示す図である。非SIRS患者についてIL−6濃度(pg/ml)を経時的にプロットした。
【図4−1】手術前および手術後の無症候性患者におけるCRP(mg/L)の動態を示す図である。ベースライン1(手術前)、ベースライン2(手術中)、および手術後(1、2、3および4日目;試料を6時間間隔で採取)についてCRPレベルをプロットする。図は、SIRS/セプシスを発症したプール患者と発症しなかったプール患者の間の比較を示す。中央値およびパーセンタイルを表示する。
【図4−2】手術前および手術後の無症候性患者におけるCRP(mg/L)の動態を示す図である。ベースライン1(手術前)、ベースライン2(手術中)、および手術後(1、2、3および4日目;試料を6時間間隔で採取)についてCRPレベルをプロットする。図は、SIRS/セプシスを発症したプール患者と発症しなかったプール患者の間の比較を示す。中央値およびパーセンタイルを表示する。
【図4−3】手術前および手術後の無症候性患者におけるCRP(mg/L)の動態を示す図である。ベースライン1(手術前)、ベースライン2(手術中)、および手術後(1、2、3および4日目;試料を6時間間隔で採取)についてCRPレベルをプロットする。図は、SIRS/セプシスを発症したプール患者と発症しなかったプール患者の間の比較を示す。中央値およびパーセンタイルを表示する。
【図4−4】手術前および手術後の無症候性患者におけるCRP(mg/L)の動態を示す図である。ベースライン1(手術前)、ベースライン2(手術中)、および手術後(1、2、3および4日目;試料を6時間間隔で採取)についてCRPレベルをプロットする。図は、SIRS/セプシスを発症したプール患者と発症しなかったプール患者の間の比較を示す。中央値およびパーセンタイルを表示する。
【図5−1】手術前および手術後の無症候性患者におけるCRPに対するIL−6の動態を示す図である。図は、SIRS/セプシスを発症したプール患者と発症しなかったプール患者の間の比較を示す。中央値を表示する。
【図5−2】手術前および手術後の無症候性患者におけるCRPに対するIL−6の動態を示す図である。図は、SIRS/セプシスを発症したプール患者と発症しなかったプール患者の間の比較を示す。中央値を表示する。
【0098】
本明細書に引用された全ての参考文献は、その開示内容全体および本明細書に具体的に言及された開示内容に関して参照により本明細書に組み入れられる。
【0099】
以下の実施例は、単に本発明を例示するものである。それらは、いかなるものであれ本発明の範囲を限定するものと解釈してはならない。
【0100】
実施例
患者の特徴
患者48人(男性36人および女性12人)を実験に組み入れた。患者の平均年齢は61歳であり、19〜87歳の範囲であった。全ての患者は、オーストリアのMedizinische Universitaet Grazの胸部外科に待期的手術のために入院した。患者37人は、様々な種類のガンが原因で肺の手術を受け、患者9人は食道ガンが原因で食道切除を受け、患者1人は胃切除を受け、患者1人は化学熱傷が原因で胃切除および食道切除を受けた。
【0101】
全ての患者で抗生物質処置は手術日の朝に開始した。
【0102】
手術前にIL−6および日常的な検査室パラメーターの両方を決定するために、全ての患者から2回のベースラインレベルを測定した。
【0103】
全身性炎症反応症候群(SIRS)はACCP/SCCM合意会議の定義(1992/2003)に基づいて診断した。すなわちSIRSと診断された患者は、以下:
a)約12,000/μ/Lを上回る、または約4000/μ/L未満の白血球数、
b)約38℃を上回る、または約36℃未満の体温、
c)約90回/分を上回る心拍数または約32mmHg未満のCO分圧、
d)約20回/分を上回る呼吸数、
e)計数された白血球の中で約10%を上回る未熟白血球
のうち少なくとも二つの症状を示した。
【0104】
患者48人のうち10人(21%)が実験のモニタリングの時間ウインドウ内でSIRSを発症した。SIRSの臨床徴候を示している患者10人のうち3人が、追加的に、セプシスを確定する陽性血液培養を示した。症例の2例は抗生物質処置の変化に応答した。もっとも1人の患者だけに陽性血液培養により感染症が確定された。患者10人のうち5人は、実験期間中に感染症を有さずに純粋にSIRSの徴候を示した。患者の1人はモニタリングウインドウの終了直後にSIRSを発症した。下に論じる結果に照らして、これは、IL−6に基づく診断および予測がセプシスに限定されず、SIRSにも適用可能であることを示す。
【0105】
材料および方法
Roche Cobas Elecsys IL-6アッセイ(Roche, Mannheim, Germany)に基づくサンドイッチELISAイムノアッセイを用いてIL−6を決定した。手短に述べると、血漿または血清試料30μLをビオチン化モノクローナルIL−6特異的抗体と共にインキュベーションした。ルテニウム複合体でラベル化されたIL−6特異的モノクローナル抗体およびストレプトアビジンでコーティングされたミクロパーティクルの添加後に、抗体は、試料抗原と共にサンドイッチ複合体を形成した。次に、反応混合物をElecsys電気化学発光デバイスの測定セル中に吸引し、そこでミクロパーティクルを電極表面に磁気で捕捉した。次に、未結合の物質をProCellで除去した。
【0106】
次に、電極に電圧を印加すると化学発光が誘導され、それを光電子倍増管によって測定した。2点検量によって機器特異的に作製された検量線によって結果を決定し、試薬のバーコードによりマスター曲線を提供した。
【0107】
決定されたIL−6濃度を、標準的な統計検定を用いて統計解析した。
【0108】
実験プロトコールにしたがって、手術前および手術中の2時点で得られた二つのベースラインレベルから開始して、SIRSの臨床徴候および検査室徴候に関して、登録された患者をモニタリングした。手術前に2回および手術後6日間は6時間毎に血液試料を採取することによって、手術後の患者を綿密に調査した。血液が採取された各時点に、確立されたSIRSおよびセプシスの基準にしたがって臨床状態を記録した。
【0109】
結果
驚くことに、SIRS/セプシス患者のIL−6濃度の値は、SIRSを発症しなかった患者の中央値と有意に異なった。手術後に全ての患者でIL−6レベルが増加したものの、SIRS群の患者だけが彼らのそれぞれのベースラインレベルに比べてIL−6濃度の大きな増加を示し、一方で非SIRS患者は、IL−6濃度がそれぞれのベースラインレベルから最大10倍になったことだけを示した(図参照)。
【0110】
一部のSIRS患者の特徴(図1および2参照):
患者番号1の患者の特徴は、以下の通りであった:男性、62歳、食道ガン、食道切除。手術前の日常的な検査室パラメーターおよびIL−6値は目立たなかった(IL−6のベースラインレベルは14.3および2.9pg/ml)。術後1日目の正午に6.4pg/mlというIL−6のベースラインレベルを測定した。6時間後のIL−6レベルは2.279.00pg/mlであった。値は経時的に減少したが、6日目まで約500pg/mlの値で高いままであった。SIRS/セプシスの臨床徴候は、4日目になって初めて認識され、そのとき細菌感染症を指し示す陽性血液培養および>38℃への体温上昇が記録された。6日目に心拍数は>90回/分であった。綿密で頻繁なIL−6モニタリングが、SIRSまたはセプシスの診断を裏付ける臨床徴候および症状の開始に十分に先だって、SIRSを発症するかまたは患う高いリスクを早期診断および検出することを可能にすることを、この症例は説得力をもって示している。
【0111】
患者番号2の患者の特徴は、以下の通りであった:男性、81歳、食道胃移行部ガン。手術前に患者は低い白血球数を示した。2番目のベースラインレベルは、実際に<4000の白血球であった。術後1日目に患者は<36℃の体温および>20回/分の呼吸数を有した。これら二つの徴候をSIRSを示唆するものと見なした。同時に、ベースライン1で1.6pg/mlおよびベースライン2で37.9pg/mlであったIL−6値は、1400.00pg/mlに増加した。2日目から6日目までに>12に増加した血球数とは別に、IL−6値だけが4日目まで高いままで(最大500pg/ml)、次にゆっくりと減少した。陽性血液培養の結果は得られず、すなわちセプシス関連感染症は検出されなかった。本症例は、参照レベルを上回るIL−6レベルが、SIRSを発症するかまたは患う高いリスクを早期診断および検出可能にすることを示す。
【0112】
患者番号3の患者の特徴は、以下の通りであった:男性、70歳、肺ガン、肺切除。患者は、最初(ベースライン1)>12000の増加した白血球数を示したが、1週間後のベースライン2の時点で正常値を示した。ベースラインのIL−6レベルも、23.5および16.5pg/mlの正常範囲内であった。手術後の全ての時点にわたり、SIRSまたはセプシスを示した、上昇したIL−6レベル以外に臨床徴候は出現しなかった。2日目の後に白血球数は、約13.000のレベルに増加し、減少しなかった。IL−6は手術後に200〜300pg/mlの値に増加し、600pg/mlの暫定ピークおよび一測定点では850pg/mlさえ示した。5日目の晩にIL−6値は、6時間前の148.6pg/mlの値から突然3994.00pg/mlに増加した。2日後に、実験プロトコールの時系列を超えて、患者はSIRSの基準を発症し、危篤状態になったが、安定状態にすることができた。IL−6以外の他の検査室パラメーターまたは臨床パラメーターは、患者の急性の悪化を反映しなかった。したがって、IL−6の緊密なモニタリングは、驚くことにSIRSまたはセプシスを発症する高いリスクの早期検出を可能にし、それは、早期治療介入を可能にした。
【0113】
患者番号4の患者の特徴は、以下の通りであった:女性、50歳、軟骨肉腫、肺転移、肺切除。ベースラインおよび6日の実験期間全体のWBC数は、正常範囲内であり、最大値は4日目の11000であった。IL−6は、すでに手術中(ベースライン2)に282.7pg/mlの値に増加した。手術後の最初の測定で(1日目/1)、Il−6は1079pg/mlに増加し、6時間後には2771pg/mlでピークとなった。その時点から、値は継続的に減少し、実験期間の終わりには約70pg/mlの値となった。この患者では、SIRS基準の体温>38℃およびHR>90回/分が、IL−6がその最高値となったのと同じ時点で出現したが、このことは、IL−6がSIRSの信頼できる早期マーカーであることを確認するものである。
【0114】
患者番号5の患者の特徴:男性、19歳、食道および胃の化学熱傷。手術前のベースラインで全てのパラメーターは正常範囲内であった。IL−6は、2番目のベースライン血液試料が採取された手術中に67.4pg/mlまでわずかに増加した。6時間後に採取された次の血液試料(1日目/1)は、すでに700pg/mlを上回るIL−6値を示したが、それは翌日にはさらに1000pg/mlよりも大きく増加する(1/1〜3日目/1)。5/2日目から実験期間の終わり(6日目/2)までSIRSの臨床徴候(心拍数>100回/分および呼吸数>20回/分)を記録した。
【0115】
患者番号6の特徴:女性、60歳、肺ガン後の肺葉切除。両方のベースラインレベルで全てのパラメーターは正常範囲内であった。手術後の最初のIL−6値(1日目/1)は、ほぼ500pg/mlへの上昇を示した。IL−6レベルは、全実験期間にわたり増加し、550から150pg/mlの間のレベルを示した。白血球は有意に増加し、1日目/4から>20×10のレベルに達した。>38℃の体温上昇と共に、SIRSとして登録された。2時点後に体温が再び正常となったが、6日目/2にもう一度増加した。
【0116】
患者番号7の特徴:男性、48歳、肺ガン、肺切除。最初にベースラインで全てのパラメーターは正常範囲内であった。2番目のベースラインの時点で、患者は既に>100回/分という増加した心拍数を示し、それはほぼ全ての実験の時点で持続した。Il−6は、1日目/1にほぼ400pg/mlの値に有意に増加し、その後、次の7回の試料採取時点の間に約70pg/mlの中程度に増加した値に減少した。4日目/1にIL−6は再度増加し始め、500pg/mlよりも大きな値に達した。SIRSの臨床徴候(心拍数>100回/分および呼吸数>20回/分が、5日目/2から実験の終了時の6日目/2まで記録された。
【0117】
非SIRS患者の特徴(図1および3〜5参照)。
患者48人中、定義によるSIRSまたはセプシスを発症しなかった38人が、観察期間中のある時点で最大一つのSIRSの単一症状を示したが、決して二つ以上は示さなかったため、これらの患者はSIRSを患っていないと診断した。ベースラインのIL−6値は、SIRS患者のIL−6値に匹敵した。手術後に全ての非SIRS患者は、また、IL−6値にわずかな増加を示し、いくつかは最大約100pg/ml、いくつかは最大400、一つは900pg/mlの単一ピークを有したが、それらは、SIRS患者群で観察されたIL−6レベルの劇的な上昇を示さなかった。非SIRS患者で観察されたIL−6レベルの小さな増加は、行われた手術の大きさを考慮すると、予想の範囲内である。これらの患者における転帰(SIRSまたはセプシスの発症なし)に基づき、データは、患者がSIRSまたはセプシスを患うかまたは発症するリスクが低かったことを確認するものである。
【0118】
【表1】






【特許請求の範囲】
【請求項1】
無症候性患者における、全身性炎症反応症候群(SIRS)またはセプシスを発症するかまたは患うリスクを検出または診断するための方法であって、該方法が、
a)該患者からの試料中のIL−6またはその変異体のレベルを決定する工程;
b)工程a)で決定されたIL−6またはその変異体のレベルを参照レベルと比較する工程;
c)全身性炎症反応症候群(SIRS)またはセプシスを発症するかまたは患うリスクを検出または診断する工程
を含み、試料が、約15分〜約12時間の範囲の短い時間間隔で少なくとも2回単離され、工程a)およびb)が各試料について繰り返される方法。
【請求項2】
無症候性患者が、以下のa)〜d)、好ましくは以下のa)〜e):
a)約12,000/μ/Lを上回るか、または約4000/μ/L未満の白血球数、
b)約38℃を上回るか、または約36℃未満の体温、
c)約90回/分を上回る心拍数または約32mmHg未満のCO分圧、および
d)約20回/分を上回る呼吸数、
e)計数された白血球中に約10%を上回る未熟白血球
のうち二つ未満、好ましくは一つ未満の症状を示す患者であり、場合により診断された感染症を示さない、請求項1記載の方法。
【請求項3】
短い時間間隔が、約1〜6時間、好ましくは約1時間〜約3時間の範囲である、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
i)参照レベルを上回る上記工程a)で決定されたIL−6またはその変異体のレベルが、患者にSIRSまたはセプシスを患うかまたは発症する高いリスクがあることを示し;
ii)参照レベルを下回る、工程a)で決定されたIL−6またはその変異体のレベルが、患者にSIRSまたはセプシスを患うかまたは発症する低いリスクがあることを示す、
請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
参照レベルが、IL−6またはその変異体のベースラインレベルに少なくとも約50の倍率、好ましくは少なくとも約100の倍率、より好ましくは少なくとも約500の倍率、最も好ましくは少なくとも約1000の倍率を乗じることによって得られる、請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
IL−6が、マウス抗IL−6モノクローナル抗体M−BE8またはM−23C7によって結合されうるIL−6である、請求項1〜5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
試料中のIL−6またはその変異体のレベルが、
i)IL−6、またはそのフラグメントもしくは変異体に結合する抗体;
ii)IL−6、またはそのフラグメントもしくは変異体に特異的に結合する抗体;
iii)マウス抗IL−6モノクローナル抗体M−BE8もしくはM−23C7、またはそのフラグメントもしくは変異体によって結合されうるIL−6に結合する抗体;あるいは
iv)マウス抗IL−6モノクローナル抗体M−BE8もしくはM−23C7、またはそのフラグメントもしくは変異体
によって決定される、請求項1〜6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
CRPがIL−6の代わりに決定され、方法が、SIRSまたはセプシスを診断するために用いられる、請求項1のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
無症候性患者が、外傷患者、熱傷を有する患者、処置を受けている患者、侵襲的処置を受けている患者、外科的介入を受けている患者の群より選択される患者である、請求項1〜8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
患者が、侵襲的処置を受けており、試料が、処置前に少なくとも1回および処置後に少なくとも1回採取される、請求項9記載の方法。
【請求項11】
i)さらに、最小限の侵襲的工程によって患者から試料を収集する工程を含むか、
ii)試料を収集する外科的工程を除外するか、または
iii)in vitro法である、
請求項1〜10のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
SIRSの発症について無症候性患者をモニタリングする方法、またはSIRSを発症するかもしくは患うリスクを判断するための方法であって、
a)該患者からの試料中のIL−6またはその変異体のレベルを決定する工程;
b)工程a)で決定されたIL−6またはその変異体のレベルを参照レベルと比較する工程;および
c)工程b)での比較に基づいて、該患者のためのSIRS治療を推奨、決定、開始、継続、調整または中断する工程
を含む方法。
【請求項13】
i)IL−6またはその変異体のレベルを決定するための手段;
ii)決定されたIL−6またはその変異体のレベルを参照レベルと比較するための手段;および場合により
iii)方法を実施するための指示書
を含む、請求項12のいずれか記載の方法を実施するために適合されたキット。
【請求項14】
無症候性患者の試料中のIL−6もしくはその変異体を検出するための、SIRSもしくはセプシスを発症するかもしくは患うリスクを早期検出もしくは診断するための、またはSIRSもしくはセプシスを早期検出もしくは診断するための手段の使用。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図1−3】
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【図1−4】
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【図1−5】
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【図1−6】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図2−3】
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【図2−4】
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【図2−5】
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【図2−6】
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【図2−7】
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【図3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図4−3】
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【図4−4】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【公表番号】特表2013−521480(P2013−521480A)
【公表日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−555328(P2012−555328)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【国際出願番号】PCT/EP2011/001006
【国際公開番号】WO2011/116872
【国際公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【出願人】(512227203)
【氏名又は名称原語表記】MEDIZINISCHE UNIVERSITAT GRAZ
【Fターム(参考)】