説明

無給油チェーン

【課題】チェーン稼動時における潤滑油の漏出と外部塵埃の侵入を防止し、ブシュの内周面と連結ピンの外周面の摩耗損傷を低減してチェーンの摩耗伸びを長期に亘って防止し、チェーン全体における潤滑油保持量の増大を実現する無給油チェーンを提供すること。
【解決手段】ブシュ130の内周面と連結ピン160の外周面との間に潤滑油を封入し、外プレート150の内側面に同形のフェルト状油吸収部材180を貼着した状態で内側面のブシュ対向領域を押圧凹陥させて外側面に向けて膨出してなる外プレート内側環状凹部151が内プレート110の外側面から一部突出したブシュ突出端部131のブシュ端面131aをフェルト状油吸収部材180の潰れ肉薄部分181に当接させて支持するとともにブシュ突出端部131の外周面131bを囲繞して潤滑油を保留している無給油チェーン100。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝動チェーン、搬送コンベヤチェーンなどに用いる無給油チェーンに係るものであって、特に、前後一対のブシュの両端部を左右一対の内プレートのブシュ圧入孔に圧入嵌合してなる内リンクとブシュ内にそれぞれ貫通する前後一対の連結ピンの両端部を左右一対の外プレートのピン圧入孔に圧入嵌合してなる外リンクとがチェーン長手方向に交互に連結されている無給油チェーンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、2本のピンの両端に外プレートを圧入した外リンクとローラを回転自在に嵌めた2本のブシュ両端に内プレートを圧入した内リンクとを互いに連結して成るローラーチェーンが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
そして、このようなローラーチェーンでは、一般にピンの外周面とブシュの内周面との間に潤滑油を注入してチェーン摩耗伸びの抑制を図っており、また、このピンとブシュとの間に注入された潤滑油の外部漏出を防止するシール手段として、内プレートの外側面と外プレートの内側面との間にOリング等のシール部材を配置して内プレートの外側面と外プレートの内側面との間からの潤滑油の外部漏出を防止するシール手段が一般に知られている。
【特許文献1】特開2000−249198号公報(特許請求の範囲、図5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述したような従来のローラーチェーンに用いられるシール手段では、内プレートの外側面と外プレートの内側面との間を密封して潤滑油のシール効果を持続させるために、Oリング等のシール部材が内プレートの外側面と外プレートの内側面との間に押圧状態で配置され、このような押圧状態の押圧力によって、外プレートと内プレートとの間の相対的な屈曲抵抗、すなわち、チェーン自体の屈曲抵抗が大きくなるという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、従来の問題を解決するものであって、すなわち、本発明の目的は、外プレートの内側面と内プレートの外側面との間からのチェーン稼動時における潤滑油の漏出と外部塵埃の侵入を防止するとともに、ブシュの内周面と連結ピンの外周面の摩耗損傷を低減してチェーンの摩耗伸びを長期に亘って防止し、しかも、チェーン全体における潤滑油保持量の増大を実現する無給油チェーンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る本発明は、前後一対のブシュの両端部を左右一対の内プレートのブシュ圧入孔に圧入嵌合してなる内リンクと前記ブシュ内にそれぞれ貫通する前後一対の連結ピンの両端部を左右一対の外プレートのピン圧入孔に圧入嵌合してなる外リンクとがチェーン長手方向に交互に連結され、前記ブシュの内周面と連結ピンの外周面との間に潤滑油を封入してなる無給油チェーンにおいて、前記外プレートの内側面に同形のフェルト状油吸収部材を貼着した状態で内側面のブシュ対向領域を押圧凹陥させて外側面に向けて膨出してなる外プレート内側環状凹部が、前記内プレートの外側面から一部突出したブシュ突出端部のブシュ端面を前記フェルト状油吸収部材の潰れ肉薄部分に当接させて支持するとともに前記ブシュ突出端部の外周面を囲繞して潤滑油を保留していることにより、前述した課題を解決したものである。
【0007】
請求項2に係る本発明は、請求項1記載の構成に加えて、前記外プレート内側環状凹部を除く外プレートの油吸収部材貼着部が、前記外リンクに対するチェーン幅方向への内リンクの偏在時に前記内リンクの左右両側において非接触状態を維持していることにより、前述した課題を解決したものである。
【0008】
請求項3に係る本発明は、請求項1または請求項2に記載の構成に加えて、前記内プレートの外側面と同形のフェルト状油吸収部材が、前記内プレートの外側面に貼着されていることにより、前述した課題を解決したものである。
【0009】
請求項4に係る本発明は、請求項1または請求項2に記載の構成に加えて、前記外プレートの外プレート内側環状凹部に対向する内プレートの外側面を押圧凹陥させて内側面に向けて膨出してなる内プレート外側環状凹部が、前記外プレート内側環状凹部と共働してブシュ突出端部の外周面を囲繞して潤滑油を保留していることにより、前述した課題をさらに解決したものである。
【0010】
請求項5に係る本発明は、請求項1または請求項2に記載の構成に加えて、前記内プレートの外側面に同形のフェルト状油吸収部材を貼着した状態で前記外プレート内側環状凹部に対向する内プレートの外側面を押圧凹陥させて内側面に向けて膨出してなる内プレート外側環状凹部が、前記外プレート内側環状凹部と共働してブシュ突出端部の外周面を囲繞して潤滑油を保留していることにより、前述した課題をさらに解決したものである。
【発明の効果】
【0011】
そこで、本発明は、前後一対のブシュの両端部を左右一対の内プレートのブシュ圧入孔に圧入嵌合してなる内リンクと前記ブシュ内にそれぞれ貫通する前後一対の連結ピンの両端部を左右一対の外プレートのピン圧入孔に圧入嵌合してなる外リンクとをチェーン長手方向に交互に連結して、ブシュの内周面と連結ピンの外周面との間に潤滑油を封入することにより、円滑に屈曲して安定したチェーン駆動を実現するとともに、連結ピンの両端部から潤滑油が漏出することを防止できるばかりでなく、以下のような特有の効果を奏することができる。
【0012】
すなわち、請求項1に係る本発明の無給油チェーンによれば、外プレートの内側面に同形のフェルト状油吸収部材を貼着した状態で内側面のブシュ対向領域を押圧凹陥させて外側面に向けて膨出してなる外プレート内側環状凹部が、内プレートの外側面から一部突出したブシュ突出端部のブシュ端面をフェルト状油吸収部材の潰れ肉薄部分に当接させて支持するとともにブシュ突出端部の外周面を囲繞して潤滑油を保留していることにより、ブシュ突出端部と外プレート内側環状凹部との間で複雑に屈曲した迷路状の間隙を創成してなるラビリンス構造を呈するとともに潤滑油に働く毛管現象に起因した漏出力を外プレート内側環状凹部の凹陥空隙で緩和衰退させ、さらに、潤滑油で膨潤された嵩高なフェルト状油吸収部材に起因して潤滑油の漏出路が遮断されるため、チェーン稼動時の周回走行によって生じる遠心力などでブシュと連結ピンとの間に封入された潤滑油が外プレートの内側面と内プレートの外側面との間から外部へ漏出しようとしてもこのような潤滑油の外部漏出を抑制することができ、ブシュの内周面と連結ピンの外周面の摩耗損傷を低減してチェーンの摩耗伸びを長期に亘って防止することができる。
【0013】
また、外プレートの内側面に同形のフェルト状油吸収部材を貼着した状態で内側面のブシュ対向領域を押圧凹陥させて外側面に向けて膨出してなる外プレート内側環状凹部が内プレートの外側面から一部突出したブシュ突出端部のブシュ端面をフェルト状油吸収部材に当接させて支持していることにより、外部塵埃が内プレートの外側面と外プレートの内側面との間から連結ピンの外周面とブシュの内周面との間に侵入することを確実に阻止するため、外部塵埃が侵入することによる潤滑油の劣化を防止することができる。
【0014】
また、外プレート内側環状凹部が内プレートの外側面から一部突出したブシュ突出端部のブシュ端面をフェルト状油吸収部材の潰れ肉薄部分に当接させて支持することにより、潰れ肉薄部分が外リンクに対するチェーン幅方向への内リンクの揺動に起因して圧縮および膨潤を繰り返し、このようなポンピング作用によってフェルト状油吸収部材がその内部に含浸した潤滑油を積極的に滲み出すため、ブシュの内周面と連結ピンの外周面との間に封入した潤滑油が充分に供給されてない状態となった場合であっても、内プレートの外側面と外プレートの内側面との間やブシュの内周面と連結ピンの外周面との間に潤滑油を長期に亘って徐々に供給することができる。
【0015】
また、連結ピンの外周面とブシュの内周面との間に注入される潤滑油に加えて、外プレートの内側面に貼着されたフェルト状油吸収部材が潤滑油を保持するため、チェーン全体の潤滑油保持量を増大させることができる。
【0016】
請求項2に係る本発明の無給油チェーンによれば、請求項1記載の無給油チェーンが奏する効果に加えて、外プレート内側環状凹部を除く外プレートの油吸収部材貼着部が外リンクに対するチェーン幅方向への内リンクの偏在時に内リンクの左右両側において非接触状態を維持していることにより、外プレートの油吸収部材貼着部が内リンクの左右両側のいずれからも摩耗損傷を受けることがないため、潤滑油を長期に亘って保持することができる。
【0017】
請求項3に係る本発明の無給油チェーンによれば、請求項1または請求項2に記載の無給油チェーンが奏する効果に加えて、内プレートの外側面と同形のフェルト状油吸収部材が内プレートの外側面に貼着されていることにより、外プレートの内側面に貼着されたフェルト状油吸収部材ばかりでなく内プレートの外側面に貼着されたフェルト状油吸収部材も潤滑油を保持するため、チェーン全体の潤滑油保持量をさらに一段と増大させることができる。
【0018】
請求項4に係る本発明の無給油チェーンによれば、請求項1または請求項2記載の無給油チェーンが奏する効果に加えて、外プレートの外プレート内側環状凹部に対向する内プレートの外側面を押圧凹陥させて内側面に向けて膨出してなる内プレート外側環状凹部が外プレート内側環状凹部と共働してブシュ突出端部の外周面を囲繞して潤滑油を保留していることにより、外プレートの内側面に貼着されたフェルト状油吸収部材が潤滑油を保持するばかりでなく内プレート外側環状凹部においても潤滑油を保留することが可能になるため、チェーン全体の潤滑油保持量を増大させて潤滑油を長期に亘って保持することができる。
【0019】
請求項5に係る本発明の無給油チェーンによれば、請求項1または請求項2記載の無給油チェーンが奏する効果に加えて、内プレートの外側面に同形のフェルト状油吸収部材を貼着した状態で外プレート内側環状凹部に対向する内プレートの外側面を押圧凹陥させて内側面に向けて膨出してなる内プレート外側環状凹部が外プレート内側環状凹部と共働してブシュ突出端部の外周面を囲繞して潤滑油を保留していることにより、外プレートの内側面に貼着されたフェルト状油吸収部材ばかりでなく内プレートの外側面に貼着されたフェルト状油吸収部材も潤滑油を保持するとともに内プレート外側環状凹部においても潤滑油を保留することが可能になるため、チェーン全体の潤滑油保持量をさらに一段と増大させて潤滑油を長期に亘って保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施例である無給油チェーンの一部を切り欠いた全体概要図。
【図2】図1に示す無給油チェーンの連結状態を示す斜視図。
【図3】図1に示す無給油チェーンを示す断面図とその一部拡大図。
【図4】図1に示す内リンクがチェーン幅方向に偏在した状態を示す断面図。
【図5】本発明の第2実施例である無給油チェーンの断面図とその一部拡大図。
【図6】本発明の第3実施例である無給油チェーンの一部を切り欠いた全体概要図。
【図7】図6に示す無給油チェーンの連結状態を示す斜視図。
【図8】図6に示す無給油チェーンを示す断面図とその一部拡大図。
【図9】図6に示す内リンクがチェーン幅方向に偏在した状態を示す断面図。
【図10】本発明の第4実施例である無給油チェーンの断面図とその一部拡大図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明は、前後一対のブシュの両端部を左右一対の内プレートのブシュ圧入孔に圧入嵌合してなる内リンクとブシュ内にそれぞれ貫通する前後一対の連結ピンの両端部を左右一対の外プレートのピン圧入孔に圧入嵌合してなる外リンクとがチェーン長手方向に交互に連結され、ブシュの内周面と連結ピンの外周面との間に潤滑油を封入してなる無給油チェーンにおいて、外プレートの内側面に同形のフェルト状油吸収部材を貼着した状態で内側面のブシュ対向領域を押圧凹陥させて外側面に向けて膨出してなる外プレート内側環状凹部が内プレートの外側面から一部突出したブシュ突出端部のブシュ端面をフェルト状油吸収部材の潰れ肉薄部分に当接させて支持するとともにブシュ突出端部の外周面を囲繞して潤滑油を保留し、外プレートの内側面と内プレートの外側面との間からのチェーン稼動時における潤滑油の漏出と外部塵埃の侵入を防止するとともに、ブシュの内周面と連結ピンの外周面の摩耗損傷を低減してチェーンの摩耗伸びを長期に亘って防止し、チェーン全体における潤滑油保持量の増大を実現するものであれば、その具体的な実施の形態は、如何なるものであっても何ら構わない。
【0022】
例えば、本発明の無給油チェーンは、ローラチェーン、ブシュチェーンのいずれのものがその対象であっても差し支えない。
【0023】
また、本発明の無給油チェーンに組み込まれるフェルト状油吸収部材の具体的な材質については、柔軟性、油吸収性を備えたものであれば、フェルト、不織布、スポンジ、発泡金属、グラファイトなどのいずれであっても良い。
特に、繊維素材からなるフェルトを採用した場合には、高い柔軟性、油吸収性を発揮して、ブシュ突出端部に対する摺動を長期に亘って円滑に維持することができるため、より好ましい。
また、グラファイトを採用した場合には、1.0g/cm以上の低密度であって天然黒鉛100%、人造黒鉛100%、または、これらの混合黒鉛100%で形成されたものであれば、優れた潤滑性を発揮して、ブシュ突出端部に対する摺動を長期に亘って円滑に維持することができるため、より好ましい。
【実施例1】
【0024】
以下、本発明の第1実施例である無給油チェーン100を図面に基づいて説明する。
ここで、図1は、本発明の第1実施例である無給油チェーンの一部を切り欠いた全体概要図であり、図2は、図1に示す無給油チェーンの連結状態を示す斜視図であり、図3は、図1に示す無給油チェーンを示す断面図とその一部拡大図であり、図4は、図1に示す内リンクがチェーン幅方向に偏在した状態を示す断面図である。
【0025】
まず、本発明の第1実施例である無給油チェーン100は、図1乃至図3に示すように、左右一対で離間して配置された小判型の鋼板からなる内プレート110のブシュ圧入孔にローラ120を外嵌した前後一対のブシュ130の両端部を圧入嵌合する内リンク140と、左右一対で離間して配置された小判型の鋼板からなる外プレート150のピン圧入孔に前後一対の連結ピン160の両端部を圧入嵌合する外リンク170とを備えている。
【0026】
また、内リンク140と外リンク170とは、ブシュ130に連結ピン160が遊嵌されることにより、チェーン長手方向に連結されている。
そして、ブシュ130と連結ピン160との間に潤滑油が封入されている。
【0027】
また、前述したように、連結ピン160の両端部は、外プレート150のピン圧入孔に圧入嵌合されている。
これにより、ブシュ130の内周面と連結ピン160の外周面との間に注入された潤滑油が、連結ピン160の外周面と外プレート150のピン圧入孔の内周面との間から連結ピン160の外周面に沿って外部へ漏出することを防止するようになっている。
【0028】
そこで、本第1実施例の無給油チェーン100が最も特徴とする内プレート110、ブシュ130、外プレート150、フェルト状油吸収部材180の具体的な配置形態について図2乃至図4により詳しく説明する。
【0029】
まず、図2及び図3に示すように、小判型の鋼板からなる外プレート150の内側面には、外プレート150と同形の小判型の繊維素材からなるフェルト状油吸収部材180が貼着され、このフェルト状油吸収部材180を貼着した状態で内側面のブシュ対向領域を押圧凹陥させて外側面に向けて膨出した外プレート内側環状凹部151が外プレート150に形成されている。
すなわち、外プレート150の内側面には、外プレート150の内側面を凹陥させて外側面に向けてオフセット状態で膨出させるプレス加工が施されて、外プレート内側環状凹部151が形成されている。
なお、ここで意味するところの「オフセット状態」とは、外プレート内側環状凹部151とそれ以外のプレート部分とがずれて段差状を呈している状態のことである。
【0030】
そして、外プレート内側環状凹部151が、内プレート110の外側面から一部突出したブシュ突出端部131のブシュ端面131aをフェルト状油吸収部材180の潰れ肉薄部分181に当接させて支持するとともにブシュ突出端部131の外周面131bを囲繞して潤滑油を保留している。
ここで、フェルト状油吸収部材180の潰れ肉薄部分181の外径は、外プレート150のプレート強度に支障がない範囲内でブシュ突出端部131のブシュ端面131aの外径よりもできるだけ大きく設定するのが望ましく、本実施例では、図2および図3に示すように、約2倍程度に設定されている。
【0031】
これにより、本実施例の無給油チェーン100は、ブシュ突出端部131と外プレート内側環状凹部151との間で複雑に屈曲した迷路状の間隙を創成してなるラビリンス構造を呈するとともに潤滑油に働く毛管現象に起因した漏出力を外プレート内側環状凹部151の凹陥空隙で緩和衰退させ、さらに、潤滑油で膨潤された嵩高なフェルト状油吸収部材180に起因して潤滑油の漏出路が遮断されている。
【0032】
また、前述したように外プレート内側環状凹部151がブシュ突出端部131のブシュ端面をフェルト状油吸収部材180の潰れ肉薄部分181に当接させて支持していることにより、外部塵埃が内プレート110の外側面と外プレート150の内側面との間から連結ピン160の外周面とブシュ130の内周面との間に侵入することを確実に阻止しているとともに、潰れ肉薄部分181が外リンク170に対するチェーン幅方向への内リンク140の揺動に起因して圧縮および膨潤を繰り返し、このようなポンピング作用によってフェルト状油吸収部材180がその内部に含浸した潤滑油を積極的に滲み出すようになっている。
しかも、外プレート150の内側面に貼着されたフェルト状油吸収部材180が、潤滑油を保持している。
【0033】
そして、図4に示すように、外プレート内側環状凹部151を除く外プレート150の油吸収部材貼着部152が、外リンク170に対するチェーン幅方向への内リンク140の偏在時に内リンク140の左右両側において非接触状態を維持している。
すなわち、チェーン駆動時に外リンク170に対してチェーン幅方向のいずれか一方へ内リンク140が偏在しても、内リンク140と外リンク170との左右両側においてプレート間隙X1およびプレート間隙X2が必然的に存在するように、内プレート110の外側面から一部突出させるブシュ突出端部131の突出寸法、外プレート内側環状凹部151の深さ寸法、フェルト状油吸収部材180の厚みなどを設定している。
これにより、外プレート150の油吸収部材貼着部152が、内リンク140の左右両側のいずれからも摩耗損傷を受けることがないように内リンク140の左右両側から離間している。
【0034】
なお、本第1実施例の無給油チェーン100は、フェルト状油吸収部材180の具体的な素材として、繊維素材からなるフェルトを使用しているが、発泡金属、グラファイトなどのいずれであっても良く、特に、グラファイトを採用した場合には、1.0g/cm以上の低密度であって天然黒鉛100%、人造黒鉛100%、または、これらの混合黒鉛100%で形成されたものであれば、優れた潤滑性を発揮して、ブシュ突出端部131に対する摺動を長期に亘って円滑に維持する。
【0035】
このようにして得られた本第1実施例の無給油チェーン100は、外プレート150の内側面に同形のフェルト状油吸収部材180を貼着した状態で内側面のブシュ対向領域を押圧凹陥させて外側面に向けて膨出してなる外プレート内側環状凹部151が、内プレート110の外側面から一部突出したブシュ突出端部131のブシュ端面131aをフェルト状油吸収部材180の潰れ肉薄部分181に当接させて支持するとともにブシュ突出端部131の外周面131bを囲繞して潤滑油を保留していることにより、チェーン稼動時の周回走行によって生じる遠心力などでブシュ130と連結ピン160との間に封入された潤滑油が外プレート150の内側面と内プレート110の外側面との間から外部へ漏出しようとしてもこのような潤滑油の外部漏出を抑制して、ブシュ130の内周面と連結ピン160の外周面の摩耗損傷を低減してチェーンの摩耗伸びを長期に亘って防止するともに、外部塵埃が侵入することによる潤滑油の劣化を防止し、ブシュ130の内周面と連結ピン160の外周面との間に封入した潤滑油が充分に供給されてない状態となった場合であっても、内プレート110の外側面と外プレート150の内側面との間やブシュ130の内周面と連結ピン160の外周面との間に潤滑油を長期に亘って徐々に供給することができる。
【0036】
そして、外プレート150に貼着されたフェルト状油吸収部材180が潤滑油を保持してチェーン全体の潤滑油保持量を増大させるとともに、外プレート150の油吸収部材貼着部152が外リンク170に対するチェーン幅方向への内リンク140の偏在時に内リンク140の左右両側において非接触状態を維持して潤滑油を長期に亘って保持することができるなど、その効果は甚大である。
【実施例2】
【0037】
以下に、本発明の第2実施例である無給油チェーン200を図5に基づいて説明する。
ここで、本発明の第2実施例である無給油チェーン200は、前述した第1実施例の無給油チェーン100と比較すると、内プレート230の具体的な形態のみが異なっており、その余の装置構成については、第1実施例の無給油チェーン100と全く同じであるため、これらの具体的な説明は、符号100番代の数字を200番代に読み替えることによって、これらの説明を省略する。
【0038】
本実施例の無給油チェーン200では、内プレート210の外側面と同形の小判型の繊維素材からなるフェルト状油吸収部材290が内プレート210の外側面に貼着されている。
これにより、外プレート250の内側面に貼着された繊維素材からなるフェルト状油吸収部材280ばかりでなく内プレート210の外側面に貼着された繊維素材からなるフェルト状油吸収部材290も潤滑油を保持している。
【0039】
そして、外プレート内側環状凹部251を除く外プレート250の油吸収部材貼着部252が、外リンク270に対するチェーン幅方向への内リンク240の偏在時に内リンク240の左右両側において非接触状態を維持している。
すなわち、チェーン駆動時に外リンク270に対してチェーン幅方向のいずれか一方へ内リンク240が偏在しても、内リンク240と外リンク270との左右両側においてプレート間隙X1およびプレート間隙X2が必然的に存在するように、内プレート210の外側面から一部突出させるブシュ突出端部231の突出寸法、外プレート内側環状凹部251の深さ寸法、フェルト状油吸収部材280の厚み、フェルト状油吸収部材290の厚みなどを設定している。
これにより、外プレート250の油吸収部材貼着部252が、内リンク240の左右両側のいずれからも摩耗損傷を受けることがないように内リンク240の左右両側から離間している。
【0040】
以上に説明したような本第2実施例の無給油チェーン200によれば、本第1実施例の無給油チェーン100が奏する効果に加えて、本第2実施例の無給油チェーン200に特有の内プレート210の外側面と同形の小判型の繊維素材からなるフェルト状油吸収部材290により、チェーン全体の潤滑油保持量をさらに一段と増大させることができるなど、その効果は甚大である。
【実施例3】
【0041】
以下に、本発明の第3実施例である無給油チェーン300について、図面に基づいて以下説明する。
そこで、図6は、本発明の第3実施例である無給油チェーン300の一部を切り欠いた全体概要図であり、図7は、図6に示す無給油チェーンの連結状態を示す斜視図であり、図8は、図6に示す無給油チェーンを示す断面図とその一部拡大図であり、図9は、図6に示す内リンクがチェーン幅方向に偏在した状態を示す断面図である。
ここで、本発明の第3実施例である無給油チェーン300は、前述した第1実施例の無給油チェーン100と比較すると、内プレート330の具体的な形態のみが異なっており、その余の装置構成については、第1実施例の無給油チェーン100と全く同じであるため、これらの具体的な説明は、符号100番代の数字を300番代に読み替えることによって、これらの説明を省略する。
【0042】
本実施例の無給油チェーン300では、外プレート350の外プレート内側環状凹部351に対向する内プレート310の外側面を押圧凹陥させて内側面に向けて膨出してなる内プレート外側環状凹部311が外プレート内側環状凹部351と共働してブシュ突出端部331の外周面を囲繞して潤滑油を保留している。
これにより、外プレート350の内側面に貼着されたフェルト状油吸収部材380が潤滑油を保持するばかりでなく、内プレート外側環状凹部311においても潤滑油を保留している。
【0043】
そして、図9に示すように、外プレート内側環状凹部351を除く外プレート350の油吸収部材貼着部352が、外リンク370に対するチェーン幅方向への内リンク340の偏在時に内リンク340の左右両側において非接触状態を維持している。
すなわち、チェーン駆動時に外リンク370に対してチェーン幅方向のいずれか一方へ
内リンク340が偏在しても、内リンク340と外リンク370との左右両側においてプレート間隙X1およびプレート間隙X2が必然的に存在するように、内プレート310の外側面から一部突出させるブシュ突出端部331の突出寸法、外プレート内側環状凹部351の深さ寸法、内プレート外側環状凹部311の深さ寸法、フェルト状油吸収部材380の厚みなどを設定している。
これにより、外プレート350の油吸収部材貼着部352が、内リンク340の左右両側のいずれからも摩耗損傷を受けることがないように内リンク340の左右両側から離間している。
【0044】
なお、本第3実施例の無給油チェーン300は、フェルト状油吸収部材380の具体的な素材として、繊維素材からなるフェルトを使用しているが、発泡金属、グラファイトなどのいずれであっても良く、特に、グラファイトを採用した場合には、1.0g/cm以上の低密度であって天然黒鉛100%、人造黒鉛100%、または、これらの混合黒鉛100%で形成されたものであれば、優れた潤滑性を発揮して、ブシュ突出端部331に対する摺動を長期に亘って円滑に維持する。
【0045】
このようにして得られた本第3実施例の無給油チェーン300は、外プレート350の内側面に同形のフェルト状油吸収部材380を貼着した状態で内側面のブシュ対向領域を押圧凹陥させて外側面に向けて膨出してなる外プレート内側環状凹部351が、内プレート310の外側面から一部突出したブシュ突出端部331のブシュ端面331aをフェルト状油吸収部材380の潰れ肉薄部分381に当接させて支持するとともにブシュ突出端部331の外周面331bを囲繞して潤滑油を保留していることにより、チェーン稼動時の周回走行によって生じる遠心力などでブシュ330と連結ピン360との間に封入された潤滑油が外プレート350の内側面と内プレート310の外側面との間から外部へ漏出しようとしてもこのような潤滑油の外部漏出を抑制して、ブシュ330の内周面と連結ピン360の外周面の摩耗損傷を低減してチェーンの摩耗伸びを長期に亘って防止するともに、外部塵埃が侵入することによる潤滑油の劣化を防止し、ブシュ330の内周面と連結ピン360の外周面との間に封入した潤滑油が充分に供給されてない状態となった場合であっても、内プレート310の外側面と外プレート350の内側面との間やブシュ330の内周面と連結ピン360の外周面との間に潤滑油を長期に亘って徐々に供給することができる。
【0046】
そして、外プレート350に貼着されたフェルト状油吸収部材380が潤滑油を保持してチェーン全体の潤滑油保持量を増大させるとともに、外プレート350の油吸収部材貼着部352が外リンク370に対するチェーン幅方向への内リンク340の偏在時に内リンク340の左右両側において非接触状態を維持して潤滑油を長期に亘って保持し、しかも、本第3実施例の無給油チェーン300に特有の内プレート外側環状凹部311がチェーン全体の潤滑油保持量を増大させて潤滑油を長期に亘って保持することができるなど、その効果は甚大である。
【実施例4】
【0047】
以下に、本発明の第4実施例である無給油チェーン400を図10に基づいて説明する。
ここで、本発明の第4実施例である無給油チェーン400は、前述した第1実施例の無給油チェーン100と比較すると、内プレート410の具体的な形態のみが異なっており、その余の装置構成については、第1実施例の無給油チェーン100と全く同じであるため、これらの具体的な説明は、符号100番代の数字を400番代に読み替えることによって、これらの説明を省略する。
【0048】
本実施例の無給油チェーン400では、内プレート410の外側面に同形の小判型の繊維素材からなるフェルト状油吸収部材490を貼着した状態で外プレート内側環状凹部451に対向する内プレート410の外側面を押圧凹陥させて内側面に向けて膨出してなる内プレート外側環状凹部411が、外プレート内側環状凹部451と共働してブシュ突出端部431の外周面431bを囲繞して潤滑油を保留している。
これにより、外プレート450の内側面に貼着された繊維素材からなるフェルト状油吸収部材480ばかりでなく、内プレート410の外側面に貼着された繊維素材からなるフェルト状油吸収部材490も潤滑油を保持するとともに、内プレート外側環状凹部411においても潤滑油を保留している。
【0049】
そして、外プレート内側環状凹部451を除く外プレート450の油吸収部材貼着部452が、外リンク470に対するチェーン幅方向への内リンク440の偏在時に内リンク440の左右両側において非接触状態を維持している。
すなわち、チェーン駆動時に外リンク470に対してチェーン幅方向のいずれか一方へ内リンク440が偏在しても、内リンク440と外リンク470との左右両側においてプレート間隙X1およびプレート間隙X2が必然的に存在するように、内プレート410の外側面から一部突出させるブシュ突出端部431の突出寸法、外プレート内側環状凹部451の深さ寸法、内プレート外側環状凹部411の深さ寸法、フェルト状油吸収部材480の厚み、フェルト状油吸収部材490の厚みなどを設定している。
これにより、外プレート450の油吸収部材貼着部452が、油吸収部材貼着部412を備えた内プレート410からなる内リンク440の左右両側のいずれからも摩耗損傷を受けることがないように内リンク440の左右両側から離間している。
【0050】
以上に説明したような本第4実施例の無給油チェーン400によれば、本第1実施例の無給油チェーン100が奏する効果に加えて、本第4実施例の無給油チェーン400に特有の内プレート410の外側面にフェルト状油吸収部材490を貼着した状態で外プレート内側環状凹部451に対向する内プレート410の外側面を押圧凹陥させて内側面に向けて膨出してなる内プレート外側環状凹部411により、チェーン全体の潤滑油保持量をさらに一段と増大させて潤滑油を長期に亘って保持することができるなど、その効果は甚大である。
【符号の説明】
【0051】
100 、200 、300 、400 ・・・ 無給油チェーン
110 、210 、310 、410 ・・・ 内プレート
311 、411 ・・・ 内プレート外側環状凹部
212 、412 ・・・ 油吸収部材貼着部
120 、220 、320 、420 ・・・ ローラ
130 、230 、330 、430 ・・・ ブシュ
131 、231 、331 、431 ・・・ ブシュ突出端部
131a、231a、331a、431a・・・ ブシュ端面
131b、231b、331b、431b・・・ 外周面
140 、240 、340 、440 ・・・ 内リンク
150 、250 、350 、450 ・・・ 外プレート
151 、251 、351 、451 ・・・ 外プレート内側環状凹部
152 、252 、352 、452 ・・・ 油吸収部材貼着部
160 、260 、360 、460 ・・・ 連結ピン
170 、270 、370 、470 ・・・ 外リンク
180 、280 、380 、480 ・・・ フェルト状油吸収部材
181 、281 、381 、481 ・・・ 潰れ肉薄部分
290 、490 ・・・ フェルト状油吸収部材
491 ・・・ 潰れ肉薄部分
X1 、X2 ・・・ プレート間隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後一対のブシュの両端部を左右一対の内プレートのブシュ圧入孔に圧入嵌合してなる内リンクと前記ブシュ内にそれぞれ貫通する前後一対の連結ピンの両端部を左右一対の外プレートのピン圧入孔に圧入嵌合してなる外リンクとがチェーン長手方向に交互に連結され、前記ブシュの内周面と連結ピンの外周面との間に潤滑油を封入してなる無給油チェーンにおいて、
前記外プレートの内側面に同形のフェルト状油吸収部材を貼着した状態で内側面のブシュ対向領域を押圧凹陥させて外側面に向けて膨出してなる外プレート内側環状凹部が、前記内プレートの外側面から一部突出したブシュ突出端部のブシュ端面を前記フェルト状油吸収部材の潰れ肉薄部分に当接させて支持するとともに前記ブシュ突出端部の外周面を囲繞して潤滑油を保留していることを特徴とする無給油チェーン。
【請求項2】
前記外プレート内側環状凹部を除く外プレートの油吸収部材貼着部が、前記外リンクに対するチェーン幅方向への内リンクの偏在時に前記内リンクの左右両側において非接触状態を維持していることを特徴とする請求項1記載の無給油チェーン。
【請求項3】
前記内プレートの外側面と同形のフェルト状油吸収部材が、前記内プレートの外側面に貼着されていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の無給油チェーン。
【請求項4】
前記外プレートの外プレート内側環状凹部に対向する内プレートの外側面を押圧凹陥させて内側面に向けて膨出してなる内プレート外側環状凹部が、前記外プレート内側環状凹部と共働してブシュ突出端部の外周面を囲繞して潤滑油を保留していることを特徴とする請求項1または請求項2記載の無給油チェーン。
【請求項5】
前記内プレートの外側面に同形のフェルト状油吸収部材を貼着した状態で前記外プレート内側環状凹部に対向する内プレートの外側面を押圧凹陥させて内側面に向けて膨出してなる内プレート外側環状凹部が、前記外プレート内側環状凹部と共働してブシュ突出端部の外周面を囲繞して潤滑油を保留していることを特徴とする請求項1または請求項2記載の無給油チェーン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−252574(P2011−252574A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−128289(P2010−128289)
【出願日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(000003355)株式会社椿本チエイン (861)