説明

無線受信装置

【課題】隣接する他のシステムからの干渉波電力を効果的に抑圧することができる無線受信装置を提供する。
【解決手段】所望信号のチャネル帯域の片端又は両端にガードバンドを介して他システムの使用周波数帯が隣接している無線受信装置であって、複数のアンテナ素子1と、前記複数のアンテナ素子1の受信信号に基づく信号を重み付け加算して出力する重み付け加算部(ウェイト乗算器7、加算器8)と、複数のアンテナ素子1の受信信号から前記ガードバンドの帯域の信号を検出する信号検出部(高域側ガードバンド信号抽出部3、低域側ガードバンド信号抽出部4)と、前記信号検出部によって検出された信号に応じて前記重み付け加算部の重み付けを制御するウェイト制御部6とを備える無線受信装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のアンテナ素子を用いて信号を受信し合成する無線受信装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2012年にサービス開始が予定されているITS(Intelligent Transport Systems)車車間通信システムは、そのアプリケーションの一つとして見通し外にある自車両の位置や速度情報などを他車両へ通知することにより見通しの悪い交差点等での出会い頭車両衝突事故防止が考えられており、720MHz帯を使用する予定である。図1に示すように、ITS車車間通信システムの使用周波数帯低域側端部には、ガードバンド5MHzを挟んで地上デジタルテレビジョン放送システムの使用周波数帯が隣接しており、ITS車車間通信システムの使用周波数高域側端部には、ガードバンド5MHzを挟んで電気通信として用いられる周波数帯が隣接している。
【0003】
このようにITS車車間通信システムの使用周波数帯の両端にガードバンドを挟んで他システムの使用周波数帯が隣接しているため、ITS車車間通信システムが隣接する他システムから受ける干渉波によって、ITS車車間通信システムの受信性能が劣化するということが懸念される。干渉波の抑圧に関しては、従来より、AAA(アダプティブ・アレー・アンテナ)技術が有効とされてきた。
【0004】
AAA(アダプティブ・アレー・アンテナ)技術では、ウェイト決定アルゴリズムとしてMMSE(最小2乗誤差法)アルゴリズム(非特許文献1参照)を用いてウェイトが決定される。具体的には、誤差信号の2乗の期待値である評価関数J0が最小になるようにウェイトが決定される。
0=E|r(n)−wHZ(n)|2
【0005】
ここで、r(n)は参照信号となる既知信号を表しており、Z(n)=[Z1(n),…,ZM(n)]は受信信号の時間波形の各アンテナにおけるnサンプル目の受信振幅Z1(n),…,ZM(n)をベクトル形式で表した信号ベクトルの各アンテナにおけるnサンプル目の受信振幅を表しており、wは求めるウェイトベクトルを表している。
【0006】
そして、ドップラー周波数の異なるパスをさらに強く抑圧するために、特許文献1では、マルチキャリア伝送において、AAA(アダプティブ・アレー・アンテナ)技術を採用し、伝送に用いていないバーチャルサブキャリアを監視して各アレーアンテナの合成重み付け係数を決定する無線受信装置が提案されている。
【0007】
【特許文献1】特開2002−271240号公報
【非特許文献1】菊間信良著,「アダプティブアンテナ技術」,第1版,株式会社オーム社,平成15年10月10日,p.35−37
【非特許文献2】菊間信良著,「アダプティブアンテナ技術」,第1版,株式会社オーム社,平成15年10月10日,p.85−90
【非特許文献3】笹岡秀一著,「移動通信」,第1版,株式会社オーム社,平成10年5月25日,p.291−293
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1で提案されている無線受信装置は、当該無線受信装置の使用周波数帯域内のバーチャルサブキャリアと呼ばれる信号の合成信号レベルが0に近づくようにウェイトを制御するものであるため、当該無線受信装置の使用周波数帯域に使用周波数帯が隣接する他のシステムからの干渉波電力を効果的に抑圧することができない。また、特許文献1で提案されている無線受信装置は、各アンテナ系統の所望信号を同期させる同期処理を完了しさらに周波数領域に変換した後に初めてウェイトの制御が可能となるものである。したがって、特許文献1で提案されている無線受信装置は、当該無線受信装置の使用周波数帯域に使用周波数帯が隣接する他システムからの干渉波電力が大きく、同期処理ができないような劣悪な環境下において、効果的に干渉波を抑圧することができない。
【0009】
尚、上記においてはITS車車間通信システムにおける課題を述べたが、使用周波数帯域の両端に他のシステムの使用周波数帯が隣接しているITS車車間通信システム以外の無線システム或いは使用周波数帯域の片端のみに他のシステムの使用周波数帯が隣接している無線システムにおいてもITS車車間通信システムの場合と同様に、当該無線システムが隣接する他システムから受ける干渉波を効果的に抑圧することが、当該無線システムにおいて重要な課題となっている。
【0010】
本発明は、上記の状況に鑑み、隣接する他のシステムからの干渉波電力を効果的に抑圧することができる無線受信装置及び無線受信方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明に係る無線受信装置は、所望信号のチャネル帯域の片端又は両端にガードバンドを介して他システムの使用周波数帯が隣接している無線受信装置であって、複数のアンテナ素子と、前記複数のアンテナ素子の受信信号に基づく信号を重み付け加算して出力する重み付け加算部と、前記複数のアンテナ素子の受信信号から前記ガードバンドの帯域の信号及び前記他システムの使用周波数帯の信号の少なくとも一つを検出する信号検出部と、前記信号検出部によって検出された信号に応じて前記重み付け加算部の重み付けを制御するウェイト制御部とを備える構成とする。
【0012】
また、前記ウェイト制御部が、前記信号検出部によって検出された信号の電力が最小となるように、前記重み付け加算部の重み付けを制御するようにしてもよい。
【0013】
また、前記ウェイト制御部が、前記複数のアンテナ素子の受信信号に含まれる既知信号に対応する成分と参照信号との二乗誤差が最小となるように、前記重み付け加算部の重み付けを制御するようにしてもよい。
【0014】
また、前記複数のアンテナ素子の受信信号に含まれる所望信号を同期させる同期処理が完了する迄は、前記ウェイト制御部が、前記信号検出部によって検出された信号の電力が最小となるように、前記重み付け加算部の重み付けを制御し、前記同期処理が完了した後は、前記ウェイト制御部が、前記複数のアンテナ素子の受信信号に含まれる既知信号に対応する成分と参照信号との二乗誤差が最小となるように、前記重み付け加算部の重み付けを制御するようにしてもよい。
【0015】
また、前記複数のアンテナ素子の受信信号からアンテナ系統毎に前記所望信号を抽出する所望信号抽出部を備え、前記重み付け加算部が、前記所望信号抽出部によって抽出されたアンテナ系統毎の前記所望信号を重み付け加算して出力するようにしてもよい。
【0016】
また、上記目的を達成するために本発明に係る無線受信方法は、所望信号のチャネル帯域の片端又は両端にガードバンドを介して他システムの使用周波数帯が隣接している無線受信方法であって、複数のアンテナ素子の受信信号に基づく信号を重み付け加算して出力する重み付け加算ステップと、前記複数のアンテナ素子の受信信号から前記ガードバンドの帯域の信号及び前記他システムの使用周波数帯の信号の少なくとも一つを検出する信号検出ステップと、前記信号検出ステップにおいて検出された信号に応じて前記重み付け加算ステップにおける重み付けを制御するウェイト制御ステップとを有している。
【0017】
また、前記ウェイト制御ステップにおいて、前記信号検出ステップにおいて検出された信号の電力が最小となるように、前記重み付け加算ステップにおける重み付けを制御するようにしてもよい。
【0018】
また、前記ウェイト制御ステップにおいて、前記複数のアンテナ素子の受信信号に含まれる既知信号に対応する成分と参照信号との二乗誤差が最小となるように、前記重み付け加算ステップにおける重み付けを制御するようにしてもよい。
【0019】
また、前記複数のアンテナ素子の受信信号に含まれる所望信号を同期させる同期処理が完了する迄は、前記ウェイト制御ステップにおいて、前記信号検出ステップにおいて検出された信号の電力が最小となるように、前記重み付け加算ステップにおける重み付けを制御し、前記同期処理が完了した後は、前記ウェイト制御ステップにおいて、前記複数のアンテナ素子の受信信号に含まれる既知信号に対応する成分と参照信号との二乗誤差が最小となるように、前記重み付け加算ステップにおける重み付けを制御するようにしてもよい。
【0020】
また、前記複数のアンテナ素子の受信信号からアンテナ系統毎に前記所望信号を抽出する所望信号抽出ステップを設け、前記重み付け加算ステップにおいて、前記所望信号抽出ステップにおいて抽出されたアンテナ系統毎の前記所望信号を重み付け加算して出力するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によると、所望信号の周波数帯域と異なるガードバンド帯域の信号電力及び/又は他システムの信号電力を検知しているので、所望信号に対して同期処理がなされなくても、AAA(アダプティブ・アレー・アンテナ)の指向性制御が可能となる。よって、干渉波電力の影響で同期処理を行うことができない劣悪な受信環境下でも、AAA(アダプティブ・アレー・アンテナ)の指向性制御により干渉波にヌルが向き、隣接する他のシステムからの干渉波電力を効果的に抑圧することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の実施形態について図面を参照して以下に説明する。本発明に係る無線受信装置として、ここではITS車車間通信システムで用いられる車載無線受信装置をITS車例に挙げて説明する。車載無線受信装置100は、図2に示すように車両200内に設置され、ITS車車間通信システムで用いられる車間通信の受信データを受信する。
【0023】
<第一実施形態>
本発明の第一実施形態に係る車載無線受信装置の概略構成を図3に示す。図3に示す車載無線受信装置は、M(Mは2以上の自然数)本のアンテナ1と、M個の所望信号抽出部2と、M個の高域側ガードバンド信号抽出部3と、M個の低域側ガードバンド信号抽出部4と、3M個のA/D変換器5と、ウェイト制御部6と、M個のウェイト乗算器7と、加算器8とを備えている。
【0024】
各アンテナ1は高周波信号を受信する。各所望信号抽出部2は、所望信号、すなわちITS車車間通信システムの占有周波数帯域の信号のみを抽出する。各所望信号抽出部2は、例えば、バンドパスフィルタによって実現することができる。
【0025】
各高域側ガードバンド信号抽出部3は、ITS車車間通信システムの使用周波数帯域(715MHz〜725MHz)の高域側に隣接するガードバンド帯域(725MHz〜730MHz)の信号のみを抽出する。各低域側ガードバンド信号抽出部4は、ITS車車間通信システムの使用周波数帯域(715MHz〜725MHz)の低域側に隣接するガードバンド帯域(710MHz〜715MHz)の信号のみを抽出する。各高域側ガードバンド信号抽出部3及び各低域側ガードバンド信号抽出部4はそれぞれ、例えば、バンドパスフィルタによって実現することができる。
【0026】
ガードバンドは本来信号電力が0となる帯域である。しかし、ITS車車間通信システムの使用周波数帯域に使用周波数帯が隣接している他のシステムからの干渉波電力が増大し、所望信号の劣化がある場合、ガードバンド帯域の信号電力が0にならないことが考えられる。そのようにガードバンド帯域の信号電力が0にならないときに、各高域側ガードバンド信号抽出部3が抽出する信号を周波数軸上で見た場合のイメージ図の一例を図4に示し、各低域側ガードバンド信号抽出部4が抽出する信号を周波数軸上で見た場合のイメージ図の一例を図5に示す。尚、高域側ガードバンド信号抽出部3及び低域側ガードバンド信号抽出部4が抽出するガードバンド帯域の信号は、ガードバンド帯域全域の信号であっても、ガードバンド帯域の一部の信号であってもよい。
【0027】
各A/D変換器5は、各所望信号抽出部2、各高域側ガードバンド信号抽出部3、及び各低域側ガードバンド信号抽出部4によって抽出されたそれぞれのアナログ信号をデジタル信号に変換する。
【0028】
ウェイト制御部6は、各高域側ガードバンド信号抽出部3によって抽出された高域側ガードバンド信号がA/D変換されたものと、各低域側ガードバンド信号抽出部4によって抽出された低域側ガードバンド信号がA/D変換されたものとを入力し、ITS車車間通信システムの使用周波数帯域に隣接するガードバンドの信号を最小にするようにアンテナ系統毎のウェイトを決定する。
【0029】
ここで、高域側ガードバンド信号抽出部3の系統から得られるガードバンド信号ベクトルをXとし、低域側ガードバンド信号抽出部4の系統から得られるガードバンド信号ベクトルをYとし、求めるウェイトベクトルをwとすると、ウェイト制御部6において、パワーインバージョンアダプティブアレイ(PIAA)(非特許文献2及び3参照)を用いて、以下の評価関数J1が最小になるようにウェイトが決定される。
1=E[α|0−wHX|2+β|0−wHY|2
【0030】
尚、α、βはそれぞれ定数である。例えば、α=1、β=0とするときは、ITS車車間通信システムの使用周波数帯域(715MHz〜725MHz)の高域側に隣接するガードバンド帯域(725MHz〜730MHz)の信号の2乗の期待値である評価関数J1が最小になるようにウェイトが決定され、ITS車車間通信システムの使用周波数帯域(715MHz〜725MHz)の高域側に隣接するガードバンド帯域(725MHz〜730MHz)の信号電力が最小となる。
【0031】
各ウェイト乗算器7は、デジタル変換された所望信号とウェイト制御部6から出力されたアンテナ系統毎のウェイトとを乗算する。加算器8は、各ウェイト乗算器7の出力を加算して合成する。
【0032】
図3に示す車載無線受信装置は、所望信号の周波数帯域と異なるガードバンド帯域の信号電力を検知しているので、所望信号に対して同期処理がなされなくても、AAA(アダプティブ・アレー・アンテナ)の指向性制御が可能となる。よって、干渉波電力の影響で同期処理を行うことができない劣悪な受信環境下でも、AAA(アダプティブ・アレー・アンテナ)の指向性制御により干渉波にヌルが向き、ガードバンドを挟んで使用周波数帯がITS車車間通信システムの使用周波数帯域に隣接する他のシステムからの干渉波電力を効果的に抑圧することができる。
【0033】
<第二実施形態>
本発明の第二実施形態に係る無線受信装置の概略構成を図6に示す。尚、図6において図3と同一の部分には同一の符号を付す。図6に示す車載無線受信装置は、M(Mは2以上の自然数)本のアンテナ1と、M個の所望信号抽出部2と、M個の高域側ガードバンド信号・他システム信号抽出部13と、M個の低域側ガードバンド信号・他システム信号抽出部14と、3M個のA/D変換器5と、ウェイト制御部6と、M個のウェイト乗算器7と、加算器8とを備えている。
【0034】
各アンテナ1は高周波信号を受信する。各所望信号抽出部2は、所望信号、すなわちITS車車間通信システムの占有周波数帯域の信号のみを抽出する。各所望信号抽出部2は、例えば、バンドパスフィルタによって実現することができる。
【0035】
各高域側ガードバンド信号・他システム信号抽出部13は、ITS車車間通信システムの使用周波数帯域(715MHz〜725MHz)の高域側に隣接するガードバンド帯域(725MHz〜730MHz)の信号と、ガードバンド帯域(725MHz〜730MHz)を介して使用周波数がITS車車間通信システムの使用周波数帯域の高域側端部に隣接する他のシステムの信号とのみを抽出する。各高域側ガードバンド信号・他システム信号抽出部13は、例えば、バンドパスフィルタによって実現することができる。
【0036】
各低域側ガードバンド信号・他システム信号抽出部14は、ITS車車間通信システムの使用周波数帯域(715MHz〜725MHz)の低域側に隣接するガードバンド帯域(710MHz〜715MHz)の信号と、ガードバンド帯域(710MHz〜715MHz)を介して使用周波数がITS車車間通信システムの使用周波数帯域の低域側端部に隣接する他のシステムの信号とのみを抽出する。各低域側ガードバンド信号・他システム信号抽出部14は、例えば、バンドパスフィルタによって実現することができる。
【0037】
ガードバンドは本来信号電力が0となる帯域である。しかし、ITS車車間通信システムの使用周波数帯域に使用周波数帯が隣接している他のシステムからの干渉波電力が増大し、所望信号の劣化がある場合、ガードバンド帯域の信号電力が0にならないことが考えられる。そのようにガードバンド帯域の信号電力が0にならないときに、各高域側ガードバンド信号・他システム信号抽出部13が抽出する信号を周波数軸上で見た場合のイメージ図の一例を図7に示し、各低域側ガードバンド信号・他システム信号抽出部14が抽出する信号を周波数軸上で見た場合のイメージ図の一例を図8に示す。尚、高域側ガードバンド信号・他システム信号抽出部13及び低域側ガードバンド信号・他システム信号抽出部14が抽出するガードバンド帯域の信号は、ガードバンド帯域全域の信号であっても、ガードバンド帯域の一部の信号であってもよい。また、高域側ガードバンド信号・他システム信号抽出部13及び低域側ガードバンド信号・他システム信号抽出部14が抽出する他システムの信号は、他システムの使用周波数帯全域の信号であっても、他システムの使用周波数帯の一部の信号であってもよい。
【0038】
ここで、高域側ガードバンド信号・他システム信号抽出部13の系統から得られるガードバンド信号・他システム信号ベクトルをX'とし、低域側ガードバンド信号・他システム信号抽出部14の系統から得られるガードバンド信号・他システム信号ベクトルをY'とし、求めるウェイトベクトルをwとすると、ウェイト制御部6において、以下の評価関数J2が最小になるようにウェイトが決定される。尚、α、βはそれぞれ定数である。
2=E[α|0−wHX'|2+β|0−wHY'|2
【0039】
各ウェイト乗算器7は、デジタル変換された所望信号とウェイト制御部6から出力されたアンテナ系統毎のウェイトとを乗算する。加算器8は、各ウェイト乗算器7の出力を加算して合成する。
【0040】
図6に示す車載無線受信装置は、図3に示す車載無線受信装置と同様に、所望信号の周波数帯域と異なるガードバンド帯域の信号電力を検知しているので、所望信号に対して同期処理がなされなくても、AAA(アダプティブ・アレー・アンテナ)の指向性制御が可能となる。よって、干渉波電力の影響で同期処理を行うことができない劣悪な受信環境下でも、AAA(アダプティブ・アレー・アンテナ)の指向性制御により干渉波にヌルが向き、ガードバンドを挟んで使用周波数帯がITS車車間通信システムの使用周波数帯域に隣接する他のシステムからの干渉波電力を効果的に抑圧することができる。
【0041】
また、図6に示す車載無線受信装置は、図3に示す車載無線受信装置とは異なり、ガードバンド帯域の信号のみならずガードバンド帯域を介して使用周波数がITS車車間通信システムの使用周波数帯域の端部に隣接する他のシステムの信号にも基づいて、ウェイトの制御を行っているので、ITS車車間通信システムの使用周波数帯域の所望信号の電力がガードバンドまで漏洩している場合に干渉波として抑圧してしまう状態を回避することができ、受信不能になる可能性を低減することができる。
【0042】
<第三実施形態>
本発明の第三実施形態に係る無線受信装置の概略構成を図9に示す。尚、図9において図3と同一の部分には同一の符号を付す。図9に示す車載無線受信装置は、M(Mは2以上の自然数)本のアンテナ1と、M個の所望信号抽出部2と、M個の高域側他システム信号抽出部23と、M個の低域側他システム信号抽出部24と、3M個のA/D変換器5と、ウェイト制御部6と、M個のウェイト乗算器7と、加算器8とを備えている。
【0043】
各アンテナ1は高周波信号を受信する。各所望信号抽出部2は、所望信号、すなわちITS車車間通信システムの占有周波数帯域の信号のみを抽出する。各所望信号抽出部2は、例えば、バンドパスフィルタによって実現することができる。
【0044】
各高域側他システム信号抽出部23は、ガードバンド帯域(725MHz〜730MHz)を介して使用周波数がITS車車間通信システムの使用周波数帯域の高域側端部に隣接する他のシステムの信号のみを抽出する。各高域側他システム信号抽出部23は、例えば、バンドパスフィルタによって実現することができる。
【0045】
各低域側他システム信号抽出部24は、ガードバンド帯域(710MHz〜715MHz)を介して使用周波数がITS車車間通信システムの使用周波数帯域の低域側端部に隣接する他のシステムの信号のみを抽出する。各低域側他システム信号抽出部24は、例えば、バンドパスフィルタによって実現することができる。
【0046】
各高域側他システム信号抽出部23が抽出する信号を周波数軸上で見た場合のイメージ図の一例を図10に示し、各低域側他システム信号抽出部24が抽出する信号を周波数軸上で見た場合のイメージ図の一例を図11に示す。尚、高域側他システム信号抽出部23及び低域側他システム信号抽出部24が抽出する他システムの信号は、他システムの使用周波数帯全域の信号であっても、他システムの使用周波数帯の一部の信号であってもよい。
【0047】
ここで、高域側他システム信号抽出部23の系統から得られる他システム信号ベクトルをX"とし、低域側他システム信号抽出部24の系統から得られる他システム信号ベクトルをY"とし、求めるウェイトベクトルをwとすると、ウェイト制御部6において、以下の評価関数J3が最小になるようにウェイトが決定される。尚、α、βはそれぞれ定数である。
3=E[α|0−wHX"|2+β|0−wHY"|2
【0048】
各ウェイト乗算器7は、デジタル変換された所望信号とウェイト制御部6から出力されたアンテナ系統毎のウェイトとを乗算する。加算器8は、各ウェイト乗算器7の出力を加算して合成する。
【0049】
図9に示す車載無線受信装置は、所望信号の周波数帯域と異なる他システムの信号電力を検知しているので、所望信号に対して同期処理がなされなくても、AAA(アダプティブ・アレー・アンテナ)の指向性制御が可能となる。よって、干渉波電力の影響で同期処理を行うことができない劣悪な受信環境下でも、AAA(アダプティブ・アレー・アンテナ)の指向性制御により干渉波にヌルが向き、ガードバンドを挟んで使用周波数帯がITS車車間通信システムの使用周波数帯域に隣接する他のシステムからの干渉波電力を効果的に抑圧することができる。
【0050】
また、図9に示す車載無線受信装置は、ガードバンド帯域を挟んで使用周波数帯がITS車車間通信システムの使用周波数帯域の端部に隣接する他のシステムの信号に基づいて、ウェイトの制御を行っているので、ITS車車間通信システムの使用周波数帯域の所望信号の電力がガードバンドまで漏洩している場合に干渉波として抑圧してしまう状態を回避することができ、受信不能になる可能性を低減することができる。
【0051】
<第四実施形態>
本発明の第四実施形態に係る車載無線受信装置の概略構成を図12に示す。尚、図12において図3と同一の部分には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。図12に示す車載無線受信装置は、図3に示す車載無線受信装置のウェイト制御部6をウェイト制御部16に置換し、加算器8の出力がウェイト制御部16に供給されるようにした構成である。
【0052】
ここで、高域側ガードバンド信号抽出部3の系統から得られるガードバンド信号ベクトルをXとし、低域側ガードバンド信号抽出部4の系統から得られるガードバンド信号ベクトルをYとし、求めるウェイトベクトルをwとし、r(n)を参照信号となる既知信号とし、Z(n)=[Z1(n),…,ZM(n)]を受信信号の時間波形の各アンテナにおけるnサンプル目の受信振幅Z1(n),…,ZM(n)をベクトル形式で表した信号ベクトルの各アンテナにおけるnサンプル目の受信振幅とすると、ウェイト制御部16において、以下の評価関数J4が最小になるようにウェイトが決定される。尚、ウェイト制御部16は既知信号r(n)を生成している。
4=E[α|0−wHX|2
+β|0−wHY(n)|2
+γ|r(n)−wHZ(n)|2
【0053】
α、β、γは定数であり、ここで、α=0、β=0、γ=1とすると、ウェイト制御部16によって用いられる評価関数J4は、従来のMMSE(最小2乗誤差法)アルゴリズムで用いていた評価関数J0と実質的に同一になる。
【0054】
例えば、図12に示す車載無線受信装置が同期処理を完了するまでは、γ=0、α及びβは任意の値として、ガードバンドを挟んで使用周波数帯がITS車車間通信システムの使用周波数帯域に隣接する他のシステムからの干渉波電力を抑圧し、図12に示す車載無線受信装置が同期処理を完了させ、受信処理に入った後は、α=0、β=0、γ=1とするといったように、定数α、β、γの値を変更することができる。
【0055】
これにより、同期処理を完了するまでは、所望信号の周波数帯域と異なるガードバンド帯域の信号電力を検知しているので、干渉波電力の影響で同期処理を行うことができない劣悪な受信環境下でも、AAA(アダプティブ・アレー・アンテナ)の指向性制御により干渉波にヌルが向き、ガードバンドを挟んで使用周波数帯がITS車車間通信システムの使用周波数帯域に隣接する他のシステムからの干渉波電力を効果的に抑圧することができ、同期がかかる確立を向上させることができる。そして、同期処理完了後は、従来のMMSE(最小2乗誤差法)アルゴリズムによってAAA(アダプティブ・アレー・アンテナ)の指向性制御を行うことができる。
【0056】
<第五実施形態>
本発明の第五実施形態に係る無線受信装置の概略構成を図13に示す。尚、図13において図3と同一の部分には同一の符号を付す。図13に示す車載無線受信装置は、図3に示す車載無線受信装置の高域側ガードバンド信号抽出部3及び低域側ガードバンド信号抽出部4を所望信号除去部33に置換し、その置換に伴って高域側ガードバンド信号抽出部3の後段に設置されていたA/D変換器と低域側ガードバンド信号抽出部4の後段に設置されていたA/D変換器とを統合した構成である。
【0057】
各所望信号除去部33のゲイン特性G33を図14に示す。各所望信号除去部33は、所望信号、すなわちITS車車間通信システムの占有周波数帯域の信号のみを除去し、その他の信号を通過させる。各所望信号除去部33は、例えば、バンドエリミネーションフィルタによって実現することができる。
【0058】
ここで、所望信号除去部33の系統から得られる信号ベクトルをQとし、求めるウェイトベクトルをwとすると、ウェイト制御部6において、以下の評価関数J5が最小になるようにウェイトが決定される。
5=E|0−wHQ|2
【0059】
図13に示す本発明の第五実施形態に係る車載無線受信装置は、図3に示す本発明の第一実施形態に係る車載無線受信装置に比べ、使用周波数帯域がITS車車間通信システムの使用周波数帯域に隣接する他のシステムの信号(干渉波となる信号)を広範囲にわたって検出し、抑圧するようにウェイトの制御を行うので、ITS車車間通信システムの使用周波数帯域の所望信号の電力がガードバンドまで漏洩している場合に干渉波として抑圧してしまう状態を回避することができ、受信不能になる可能性を低減することができる。
【0060】
<第五実施形態の変形例>
本発明の第五実施形態の変形例を図15に示す。尚、図15において図3と同一の部分には同一の符号を付す。図15に示す車載無線受信装置は、図13に示す車載無線受信装置の所望信号除去部33を所望信号・高域側信号除去部43に置換した構成である。
【0061】
各所望信号・高域側信号除去部43のゲイン特性G43を図16に示す。各所望信号・高域側信号除去部43は、所望信号、高域側ガードバンド信号、及び使用周波数がITS車車間通信システムの使用周波数帯域の高域側端部に隣接する他のシステムの信号すべてを除去する。各所望信号・高域側信号除去部43は、例えば、ローパスフィルタによって実現することができる。
【0062】
ここで、所望信号・高域側信号除去部43の系統から得られる信号ベクトルをQ'とし、求めるウェイトベクトルをwとすると、ウェイト制御部6において、以下の評価関数J6が最小になるようにウェイトが決定される。
6=E|0−wHQ'|2
【0063】
図15に示す構成によると、例えば、使用周波数帯域がITS車車間通信システムの使用周波数帯域の高域側に隣接する他のシステムからの干渉波よりも、使用周波数帯域がITS車車間通信システムの使用周波数帯域の低域側に隣接する他のシステムからの干渉波が支配的な場合に、図13に示す車載無線受信装置に比べてより簡易な構成のフィルタを用いて、ITS車車間通信システムの使用周波数帯域の所望信号の電力がガードバンドまで漏洩している場合に干渉波として抑圧してしまう状態を回避することができ、受信不能になる可能性を低減することができる。
【0064】
一方で、所望信号・高域側信号除去部43を、図17に示すゲイン特性G53を有する所望信号・低域側信号除去部53に置換し、図18に示すような構成にすることもできる。
【0065】
各所望信号・低域側信号除去部53は、所望信号、低域側ガードバンド信号、及び使用周波数がITS車車間通信システムの使用周波数帯域の低域側端部に隣接する他のシステムの信号すべてを除去する。各所望信号・低域側信号除去部53は、例えば、ハイパスフィルタによって実現することができる。
【0066】
ここで、所望信号・低域側信号除去部53の系統から得られる信号ベクトルをQ"とし、求めるウェイトベクトルをwとすると、ウェイト制御部6において、以下の評価関数J7が最小になるようにウェイトが決定される。
7=E|0−wHQ"|2
【0067】
図18に示す構成によると、例えば、使用周波数帯域がITS車車間通信システムの使用周波数帯域の低域側に隣接する他のシステムからの干渉波よりも、使用周波数帯域がITS車車間通信システムの使用周波数帯域の高域側に隣接する他のシステムからの干渉波が支配的な場合に、図13に示す車載無線受信装置に比べてより簡易な構成のフィルタを用いて、ITS車車間通信システムの使用周波数帯域の所望信号の電力がガードバンドまで漏洩している場合に干渉波として抑圧してしまう状態を回避することができ、受信不能になる可能性を低減することができる。
【0068】
<その他>
尚、上述した第四実施形態では、第一実施形態に係る無線受信装置のウェイト制御部6をウェイト制御部16に置換し、加算器8の出力がウェイト制御部16に供給されるように第一実施形態の構成を変更したが、第二実施形態の構成と、第三実施形態の構成と、第五実施形態の構成と、第五実施形態の二つの変形例の各構成についてもそれぞれ同様の変更が可能である。
【0069】
また、上述した実施形態では、各アンテナ系統に所望信号抽出部2を設けているが、各アンテナ系統に所望信号抽出部を設けない構成も可能である。
【0070】
また、上述した実施形態では、ITS車車間通信システムで用いられる車載無線受信装置を例に挙げて説明を行ったが、使用周波数帯の両端に他のシステムの使用周波数帯が隣接しているITS車車間通信システム以外の無線システム或いは使用周波数帯の片端のみに他のシステムの使用周波数帯が隣接している無線システムにおいて用いられる無線受信装置についても、本発明を適用することができる。
【0071】
また、本発明は、受信のみを行う無線受信装置のみならず、送信及び受信を行う無線送受信装置にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】は、日本での720MHz周辺の周波数割当を示す図である。
【図2】は、ITS車車間通信システムで用いられる車載無線受信装置が車両に搭載された状態を示す図である。
【図3】は、本発明の第一実施形態に係る車載無線受信装置の概略構成を示す図である。
【図4】は、各高域側ガードバンド信号抽出部が抽出する信号を周波数軸上で見た場合のイメージ図の一例である。
【図5】は、各低域側ガードバンド信号抽出部が抽出する信号を周波数軸上で見た場合のイメージ図の一例である。
【図6】は、本発明の第二実施形態に係る車載無線受信装置の概略構成を示す図である。
【図7】は、各高域側ガードバンド信号・他システム信号抽出部が抽出する信号を周波数軸上で見た場合のイメージ図の一例である。
【図8】は、各低域側ガードバンド信号・他システム信号抽出部が抽出する信号を周波数軸上で見た場合のイメージ図の一例である。
【図9】は、本発明の第三実施形態に係る車載無線受信装置の概略構成を示す図である。
【図10】は、各高域側他システム信号抽出部が抽出する信号を周波数軸上で見た場合のイメージ図の一例である。
【図11】は、各低域側他システム信号抽出部が抽出する信号を周波数軸上で見た場合のイメージ図の一例である。
【図12】は、本発明の第四実施形態に係る車載無線受信装置の概略構成を示す図である。
【図13】は、本発明の第五実施形態に係る車載無線受信装置の概略構成を示す図である。
【図14】は、所望信号除去部のゲイン特性を示す図である。
【図15】は、本発明の第五実施形態の変形例を示す図である。
【図16】は、所望信号・高域側信号除去部のゲイン特性を示す図である。
【図17】は、所望信号・低域側信号除去部のゲイン特性を示す図である。
【図18】は、本発明の第五実施形態の他の変形例を示す図である。
【符号の説明】
【0073】
1 アンテナ
2 所望信号抽出部
3 高域側ガードバンド信号抽出部
4 低域側ガードバンド信号抽出部
5 A/D変換器
6、16 ウェイト制御部
7 ウェイト乗算器
8 加算器
13 高域側ガードバンド信号・他システム信号抽出部
14 低域側ガードバンド信号・他システム信号抽出部
23 高域側他システム信号抽出部
24 低域側他システム信号抽出部
33 所望信号除去部
43 所望信号・高域側信号除去部
53 所望信号・低域側信号除去部
100 ITS車車間通信で用いられる車載無線受信装置
200 車両

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所望信号のチャネル帯域の片端又は両端にガードバンドを介して他システムの使用周波数帯が隣接している無線受信装置であって、
複数のアンテナ素子と、
前記複数のアンテナ素子の受信信号に基づく信号を重み付け加算して出力する重み付け加算部と、
前記複数のアンテナ素子の受信信号から前記ガードバンドの帯域の信号及び前記他システムの使用周波数帯の信号の少なくとも一つを検出する信号検出部と、
前記信号検出部によって検出された信号に応じて前記重み付け加算部の重み付けを制御するウェイト制御部とを備えることを特徴とする無線受信装置。
【請求項2】
前記ウェイト制御部が、前記信号検出部によって検出された信号の電力が最小となるように、前記重み付け加算部の重み付けを制御する請求項1に記載の無線受信装置。
【請求項3】
前記ウェイト制御部が、前記複数のアンテナ素子の受信信号に含まれる既知信号に対応する成分と参照信号との二乗誤差が最小となるように、前記重み付け加算部の重み付けを制御する請求項1又は請求項2に記載の無線受信装置。
【請求項4】
前記複数のアンテナ素子の受信信号に含まれる所望信号を同期させる同期処理が完了する迄は、前記ウェイト制御部が、前記信号検出部によって検出された信号の電力が最小となるように、前記重み付け加算部の重み付けを制御し、
前記同期処理が完了した後は、前記ウェイト制御部が、前記複数のアンテナ素子の受信信号に含まれる既知信号に対応する成分と参照信号との二乗誤差が最小となるように、前記重み付け加算部の重み付けを制御する請求項3に記載の無線受信装置。
【請求項5】
前記複数のアンテナ素子の受信信号からアンテナ系統毎に前記所望信号を抽出する所望信号抽出部を備え、
前記重み付け加算部が、前記所望信号抽出部によって抽出されたアンテナ系統毎の前記所望信号を重み付け加算して出力する請求項1〜4のいずれかに記載の無線受信措置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2010−62603(P2010−62603A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−223074(P2008−223074)
【出願日】平成20年9月1日(2008.9.1)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【出願人】(504145320)国立大学法人福井大学 (287)
【Fターム(参考)】