説明

無線通信ネットワークシステム及びこの初期構築方法

【課題】可変指向性アンテナを有する複数の移動局間の無線通信ネットワークシステムであって、初期にネットワークを構築するときに、単一親局の同一ビーム範囲内に子局が複数存在する場合には、各子局から親局へ一斉に返信された受信応答が干渉することを回避するため、従来は各子局から送信するタイミングをずらしていた。しかし、同一ビーム範囲内に1子局の場合が多く、送信タイミングのずれは無駄時間となり、スループットの低下を招くという課題があった。
【解決手段】各子局3が、親局2からのビーコン信号を受信した後まず初めに、バックオフ時間を設けずに親局2に対して受信応答信号をすぐに送信し、親局2からのACK信号がない場合に干渉が発生したと判断する。次に子局3が親局2へ受信応答信号を再送するときには、ランダムバックオフ時間を設けて返信することにより、高速に無線通信ネットワークを構築できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変指向性アンテナを有する複数の移動局間で、時分割多重方式により無線通信するネットワークシステムに係わり、特に可変指向性アンテナを制御して信号の干渉を回避し無線通信ネットワークを初期構築する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
単一の基準局(以降「親局」という)と複数の従属局(以降「子局」という)から構築される無線通信ネットワークシステムは、無線LANを初めとして、あらゆるシステムで用いられるネットワークトポロジである。単一の親局及び複数の子局がアンテナとして、無指向性アンテナを有する無線通信ネットワークでは、親局は、自己の位置ならびに子局の位置を把握しなくても、ネットワーク構築が可能である。しかし、親局及び複数の子局が共に移動局であり、かつ可変指向性アンテナを有する無線通信ネットワークシステムにおいては、それぞれの局においてアンテナの指向性制御が必要となる。
【0003】
通常、無線通信ネットワークを構築するにあたり、干渉回避は必須の技術である。例えば、無線LANなどではキャリアセンスして空きを待っていた複数の端末が一斉に送信するとデータの衝突が発生する。この衝突を回避するため、各端末では、チャネルが空き状態になった後、それぞれで乱数を発生させ、発生させた乱数の数に応じて待機時間を設定するバックオフ時間を設けている。
【0004】
また、通信ネットワークを構築するにあたって、特許文献1では、基地局(親局)からエリア内の全方向にパイロット信号を送信し、複数の従属局(端末局)から送信されたパイロット信号の受信特性から基地局(親局)が有する可変指向性アンテナの指向性を制御する方式が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−200115号公報(第1−28頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1によると、固定された親局(基地局)の場合については、親局のアンテナ指向性を簡単な制御により通信を行う端末の方向を確実に向くように制御可能として、空間利用の効果を発揮でき、かつ通信品質を向上できる。しかし、親局及び複数の子局が移動する場合について、移動のために複雑な位置関係になることを考慮しておらず、さらに親局から全子局にパイロット信号を送信するときには、時分割、周波数分割、あるいは符号分割を行うことにより干渉は発生しないことを前提としている。
【0007】
このように、単一親局と、複数の子局が共に移動局であり複雑に移動するシステムの場合、周波数分割以外の時分割または符号分割では干渉が発生するケースがある。本発明の無線通信ネットワークシステムの場合、電波は空間で分割されているため、干渉は同一ビーム範囲内に2局以上存在する場合にのみ発生する。
【0008】
無線LANなどでは、電波の状況を確認するキャリアセンスを実施した複数の端末が一斉に送信を開始した結果干渉することを回避するために、各端末は送信前にそれぞれで発生させた乱数に応じた時間だけ送信を待機するというランダムバックオフ時間を設けている。しかしながら、2局以上が親局の同一ビーム覆域に存在するケースは少なく、ほとんどのケースにおいてバックオフ時間は無駄時間となり、結果として単位時間あたりの処理能力であるスループットの低下を招いてしまうという問題がある。
【0009】
この発明は上記のような問題点を解決するためになされたものであり、複数の子局が一斉に送信した受信応答が親局において干渉した場合の回避手段を備え、親局の同一ビーム範囲内に子局が存在しない場合、或いは1局のみ存在する場合において、スループットの低下を抑制し、無駄時間を削減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
複数の移動局間で時分割多重方式により通信する無線通信ネットワークシステムであって、移動する単一親局及び複数の子局が、可変指向性アンテナを有し所要の方位を指向できるアンテナ部と、このアンテナ部とRF信号を送受信する送受信部と、アンテナ部のビーム指向方向を制御するアンテナ制御部、前記RF信号の干渉発生有無を判定する干渉判定部、この干渉判定部の判定結果から送受信部が送受信するタイミングを制御するネットワーク制御部を有する通信制御部を備えている。
【0011】
移動する親局及び複数の子局が互いに相手を捕捉し無線通信ネットワークシステムを初期構築するときに、親局が送信したビーコン信号を受信した複数の子局が一斉に返信した受信応答が親局において干渉することを回避するために、まず初めにバックオフ時間を設けずに親局に対して受信応答信号を送信する。親局から通信がエラーなく正常に受け付けられたことを意味する返事であるACK(「ACKnowledge」の略)信号が来ない場合には、次に各子局から親局へ受信応答信号を再送するときは、ランダムバックオフ時間を設けて返信する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、移動する親局及び複数の子局が無線通信ネットワークシステムを初期構築するときに、親局での干渉を回避できると共に、親局のビーム覆域に子局が存在しない場合、又は1局のみ存在する場合における、スループットの低下を抑制することができる。更に、無駄時間を削減し、高速に無線通信ネットワークシステムを初期構築できる効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態1に係る無線通信ネットワークシステムの基本運用モードを示すイメージ図。
【図2】本発明の実施の形態1に係る無線通信ネットワークシステムの運用モードのシーケンスを示すイメージ図。
【図3】本発明の実施の形態1に係る親局又は子局のアンテナビーム指向方向切替え図。
【図4】本発明の実施の形態1に係る親局又は子局の機能ブロック図。
【図5】本発明の実施の形態1に係る親局又は子局のアンテナビームパターン例。
【図6】本発明の実施の形態1に係る親局又は子局の機能ブロック図。
【図7】本発明の実施の形態1に係る親局又は子局のメモリ部で管理する情報の例。
【図8】本発明の実施の形態1に係る親局又は子局におけるネットワーク制御部の機能ブロック図。
【図9】本発明の実施の形態1に係るシステムの干渉回避シーケンス(1)。
【図10】本発明の実施の形態2に係るシステムの干渉回避シーケンス(2)。
【図11】本発明の実施の形態3に係るシステムの干渉回避シーケンス(3)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る本システムの基本運用イメージを示す。通信エリア1内に移動する無線局が5局存在し、2は単一親局であり、残り4局が子局3である場合を示した例である。無線通信ネットワークを確立して、それぞれの位置情報を交換することにより、各無線局の位置を把握できるため、適切なアンテナ指向性制御が可能となると共に、タイミング情報も共有できるため、時分割制御を行うことによって干渉は回避できる。しかし、ネットワーク未確立の状態においては、各局の位置・ネットワークで基準となるタイミングが不明のため、干渉が生じる可能性がある。
【0015】
図2に、実施の形態1に係る本システムの通信ネットワーク構築のための運用モードのシーケンス示す。本通信ネットワークは、まず初期捕捉モード201において、親局2及び複数子局3の位置を把握し、その後ネットワークモード202へ移行し電波追尾を行う。ここで、追尾が外れた場合はサーチモード203へ移行し、再びネットワークモード202へ遷移する。また、通信ネットワークに割り当てられたリソースを変更することにより、大容量データ通信等を行うデータ伝送モード204に移行することが可能となる。これらモードのうち、本発明は初期捕捉モード201において干渉を回避する初期ネットワーク構築に係るものである。
【0016】
図3は、本実施の形態1に係り、例えば親局2について、アンテナビーム指向方向の切り替えの様子を示している。本システムの親局2が有している可変指向性アンテナ24のビーム指向方向を時分割(t0、t1、t2、・・・、tn)で切り替え、周囲の端末を捜索する。
【0017】
図4に本実施の形態1に係る親局2又は子局3の構成の一例を示す。親局2と各子局3は、同等の構成であり、アンテナ部21(例えば8個)、通信制御部22、及び送受信部23(例えば8個)を備えている。通信制御部22からの指令によりアンテナ部21−1〜21−8が有するビーム方向を切替えることができる可変指向性アンテナ24−1〜24−8と、RF信号を送受信するための送受信部23−1〜23−8とを備え、これらに対して1つの通信制御部22を具備する。
【0018】
図5は、各アンテナ部21が指向できるビーム方向を2次元(AZ/EL)で示したビームパターンの一例である。ここで、AZは、Azimuth、ELは、Elevationの略であり方位を示す。それぞれの可変指向性アンテナ24が、AZ方向±45°、EL方向±45°の覆域に2次元方向に対して複数のビームパターンを有しており、例えば8個のアンテナ部21は、それぞれ異なる方向に向けて異なる覆域をカバーするように設置されており、各アンテナのビームが指向すべき方向を通信制御部22から指示を受けて、その方向へビームを指向する。従って、複数のアンテナ部21が有する覆域を統合するとアンテナ部全体として必要な領域をすべてカバーし、ビームを指向することが可能となる。
【0019】
図6は、親局2又は子局3の機能ブロック図である。それぞれのアンテナ部21は、アンテナ制御部221からの制御によりビーム方向を任意に切り替えることができる可変指向性アンテナ24を有する。送受信部23は、信号の送受信を行うRF部25、受信信号レベルを測定する受信レベル測定部26を有する。
【0020】
通信制御部22は、アンテナ経路を選択するスイッチ222と、送受信信号の変復調処理を行う変復調部223と、受信レベルと復調結果を参照して干渉有無を判定する干渉判定部224と、自局の位置・姿勢方位情報を元に指向すべき絶対ビーム方向を計算するとともにネットワーク制御部31からの指示に従い利用する可変指向性アンテナ24とそのビーム指向方向を制御するアンテナ制御部221と、その制御情報を保管するメモリ部225と、外部からの入力される基準タイミングを管理しアンテナ制御部221に対してタイミング・モード・接続先ID情報を通知するネットワーク制御部31を備えている。
【0021】
次に、送受信部23の詳細について説明する。RF部25は、RF信号に周波数変換するとともにRF信号を増幅する送信系と、受信信号から必要帯域を取り出したRF信号を増幅し、RF信号をIF信号に変換し、変換後のIF信号を通信制御部22と受信レベル測定部26へ伝送する受信系を備える。
【0022】
受信レベル測定部26は、受信IF信号を検波して受信信号レベルを電圧信号として通信制御部22の干渉判定部224へ送信する。
【0023】
次に、通信制御部22の詳細について説明する。スイッチ222では、アンテナ制御部221からの制御に従い、使用するアンテナ経路を送信系と受信系とで個別に選択する。干渉判定部224では、アナログの受信信号レベルをデジタル変換し、受信レベルが一定値以上であるにも関わらず復調が正常に行えなかった場合は、干渉が発生したと判断し、ネットワーク制御部31へ通知する。
【0024】
変復調部223では、ネットワーク制御部31から指定された変調方式、符号化方式、及び拡散率にてネットワーク制御部31からのタイミング情報に従い送信信号を変調し、D/A変換を行って送受信部23へ送信する。また、送受信部23から入力された受信信号をA/D変換し、ヘッダに格納された通信方式に基づき受信信号復調し、ネットワーク制御部31へ送信するとともに、干渉判定部224へ復調結果を通知する。
【0025】
メモリ部225では、接続している端末のIDとともに、接続時のアンテナ番号、ビーム番号、自局位置、姿勢方位、時間を保管する。図7はメモリ部225で保管する情報の一例であり、送信フレームごとにアンテナ番号(図4の場合、Mは8)、ビーム番号(図5の場合、Nは46)、時間、自局位置、姿勢方位、接続先IDを保管する。
【0026】
アンテナ制御部221では、ネットワーク制御部31からのモード指示に従い動作し、ネットワーク制御部31から接続完了通知・接続先の端末IDを受け取り、そのとき選択しているアンテナ番号、ビーム番号及び自機位置/姿勢方位、時刻とともに、 メモリ部225へ格納することで、端末の位置登録を完了する。また、ネットワーク制御部31からこれから接続しようとする端末ID情報を受信し、前回当該IDと通信したときのアンテナ制御情報(アンテナ番号/ビーム番号)及び自機位置/姿勢方位を メモリ部225から参照し、ビーム指向方向の相対方位を計算して、計算結果を元にアンテナビームの指向方向を、ネットワーク制御部31からのタイミングに従い制御するとともに、送受信相手に合わせて利用するアンテナ部21を選択し、スイッチ222を制御する。
【0027】
図8は、ネットワーク制御部31の機能ブロック図であり、ネットワーク制御部31は通信管理部311、データバッファ部312、タイミング管理部313、ネットワーク管理部314、モード管理部315から構成される。
【0028】
タイミング管理部313では、外部から入力される基準タイミング信号に同期し、ビーム制御タイミング及びデータの送受信タイミングを管理し、モード管理部315、ネットワーク管理部314、通信管理部311へタイミング情報を通知する。また、ネットワーク管理部314からの加入局情報、モード管理部315からの運用モードを元にスロット構成を計算し、データバッファ部312の送信タイミングを制御するとともに、通信管理部311に対してスロット構成情報を提供する。
【0029】
タイミング管理部313では、外部から入力される基準タイミング信号に同期し、ビーム制御タイミング及びデータの送受信タイミングを管理し、モード管理部315、ネットワーク管理部314、通信管理部311へタイミング情報を通知する。また、ネットワーク管理部314からの加入局情報、モード管理部315からの運用モードを元にスロット構成を計算し、データバッファ部312の送信タイミングを制御するとともに、通信管理部311に対してスロット構成情報を提供する。
【0030】
データバッファ部312では、外部から入力された送信信号をタイミング管理にて管理する送信タイミングに合わせて通信管理部311へ送信する。
【0031】
モード管理部315では、外部操作によって、親局/子局及び自局の運用モード(初期捕捉、サーチ、データ通信)を切り替える。また、ネットワーク管理部314からのネットワーク加入情報を元に、自局が親局2か子局3かに加えて、自局の運用モード(初期捕捉モード201、ネットワークモード202、サーチモード203、データ伝送モード204)を判定し管理するとともに、自局の運用モードをタイミング管理部313、アンテナ制御部221へ通知する。さらに、干渉判定部224からの干渉判定結果を受け、タイミング管理部313及びアンテナ制御部221に対して、干渉回避モードへ切替えるよう指示する。
【0032】
ネットワーク管理部314では、タイミング管理部313からのタイミング情報に従い、通信管理部311から受信信号(接続無線局ID、ステータス情報)、受信信号レベルを受信し、ネットワークの状態(加入無線局数、加入無線局ID、各加入無線局のステータス、受信信号レベル)を管理する。また、モード管理部315に対して現在の自局のネットワーク情報を提供し、モード管理部315から現在の運用モードの指示を受け、管理しているネットワークの状態と運用モードがリンクするよう管理するとともに、アンテナ制御部221に対して、これから通信しようとしている相手の接続先IDを通知する。
【0033】
通信管理部311では、変復調部223から入力される受信信号から、タイミング管理部からのタイミングを元に、接続無線局ID、ステータス情報を受信し、ネットワーク管理部314へ通知し、データバッファ部から入力された送信信号に対しても、同様にタイミング管理部からのタイミングを元に、タイムスタンプ情報、ネットワーク情報を付加して変復調部223へ送信する。また、干渉判定部から入力される受信信号レベルから各局との電波伝搬環境を管理し、変復調部223に対して変調・符号化方式及び拡散率を通知するとともに、ネットワーク管理部314へ受信信号レベル情報を通知する。さらには、変復調部223からの受信信号から、接続を許可された無線局であるかどうかを判定し、許可された無線局でない場合はデータを破棄する。
【0034】
また通信管理部311では、自局が親局2の場合、ビーコン信号を出力後、一定時間内に子局3からの受信応答を受けると、送信方向に子局3が存在すると判定し、再度同一方向にACK信号を送信するとともに、アンテナ制御部221に対して接続完了通知を行なう。自局が子局3の場合には、親局2からのビーコン信号を受信後、受信応答信号を送信し、親局2からのACK信号を受信して、接続完了したことをアンテナ制御部221へ通知することで端末情報を登録する。
【0035】
図9は、本システムにおける干渉回避のための親局2及び子局No3,子局No4の動作シーケンスである。初期捕捉モードのとき、親局2は周囲に対してビーム指向方向を切り替えながらビーコン信号を送信する(ステップS101)。送信後は一定時間ウェイト(応答待ち受け状態)となる(ステップS102)。子局No3,子局No4は親局2からのビーコン信号を受信すると、すぐさま受信応答を親局2に対して送信する(ステップS301、S401)。しかし、子局No3,子局No4が2局同一方向に位置すると、子局No3,子局No4からの受信応答信号は親局2の受信において干渉し、正常に受信されない。そこで、親局2でウェイト時間内に何かしらの電波を受信し、かつ正常受信できない場合に干渉が発生したと判断し、干渉回避モードへ切替えを行う(ステップS103)。子局No3,子局No4は受信応答を返した後、親局2同様一定時間ウェイトを置く(ステップS302、S402)。ウェイト時間内に親局2からのACK信号が受信できない場合、親局2側で干渉が生じたものと判断し、干渉回避モードへ切替える(ステップS303、S403)。
【0036】
干渉回避モードへ切替え後、再び親局2がビーコン信号送信する(ステップS104)。このビーコン信号を受信すると、子局No3,子局No4はすぐさま受信応答を返信せずに、ランダムバックオフ時間を設けて(ステップS304、S404)、受信応答を返信する(ステップS305、S405)。親局2は、子局No3,子局No4の方向を登録し(ステップS105、S107)、ACK信号を返す(ステップS106、S108)。子局No3,子局No4は、このACK信号を受信すると、親方向を登録する(ステップS306、S406)。以上のようにして、子局3が2局同一方向に位置するケースにおいて、親局2における子局No3,子局No4の信号の干渉を回避することができる。
【0037】
図9のシーケンスにおいて、ネットワーク制御部31の通信管理部311では、自局が親局2の場合、ビーコン信号を送信後一定時間ウェイトし(ステップS101、ステップS102)応答がない場合に、その方向に子局3が存在しないと判定するか、もしくは干渉判定部224から干渉があることを通知された場合は、子局が複数局存在すると判定し、モード管理部315に対して干渉が発生したことを通知するとともに、変復調部223にデータを再送する。
【0038】
自局が子局3である場合は、親局2からビーコン信号を受信後、受信応答を送信する(ステップS301、S401)。一定時間ウェイトし応答がない場合(ステップS302、S402)干渉が発生したと判定し、モード管理部315へ干渉が発生したことを通知する。自局が子局3の場合は、モード管理部315から干渉回避モードへ切替える指示を受け、親局2からビーコン信号を受信後、受信応答を返信するまでの間にランダムバックオフ時間を設ける(ステップS304、S404)。その後、親局2からのACK信号を受信(接続確立完了)したことをアンテナ制御部221へ通知する。
【0039】
このように本実施の形態1によれば、同一ビーム覆域内に子局が2局存在する場合に、各子局が、親局からのビーコン信号を受信後まず初めは、バックオフ時間を設けずに親局に対して応答することにより、親局での干渉を回避できると共に、親局のビーム覆域に子局が存在しない場合、又は1局のみ存在する場合における、スループットの低下を抑制することができる。更に、無駄な時間を削減し、高速に初期補足し無線通信ネットワークを確立できる効果を奏する。
【0040】
実施の形態2.
本実施の形態2は、親局2の同一ビーム覆域内に子局が2局存在する場合に、実施の形態1とは異なるシーケンスにより、高速に初期補足し通信ネットワークを 構築する方法を示す。図10に、本実施の形態2に係るシステムの干渉回避シーケンス(2)を示す。
【0041】
図10は、親局2の同一ビーム覆域内に子局が2局存在する場合に、子局No3,子局No4がお互いの存在を把握し、かつ遅滞なく親局2、各子局が方向登録できるシーケンスである。まず、親局2はビーム指向方向を切り替えながら、周囲に対してビーコン信号を送信する(ステップS101)。子局No3,子局No4がビーコン信号を受信したとき、子局No3,子局No4は同時のタイミングで親局2に対してすぐさま受信応答を返信する。(ステップS301、ステップS401、)。このとき、子局No3,子局No4は共に、送信方向と180゜対称の方向に対して、別のアンテナを指向させ受信待ち受け状態とする。こうすることで、同一ビーム方向に相手局が複数存在する場合に、親局2と自局との延長線上の他局の存在を把握することができる。図10の場合では、子局No3が先に子局No4の電波を受信し(ステップS321)、子局No4の方向登録を行う(ステップS322)。
【0042】
次に子局No3では、親局2において干渉が発生した可能性が高いことがわかるため、再度親局2に対して受信応答を再送する(ステップS323)。親局2は子局の信号を受信し、子局No3の方向登録を行ない(ステップS105)、ACK信号を送信する(ステップS106)。このとき、子局No3では親局2方向の登録を行い(ステップS306)、子局No4でも同様にACK信号を受信するが、自局に対するACK信号でないことがわかるため、自局と親局2間とに別の子局が存在することを把握できる。その後、子局No4は受信応答を再送し(ステップS421)、親局2にて子局No4の方向登録(ステップS108)、子局No4にて親局2の方向登録(ステップS406)が完了する。
【0043】
図10において、通信管理部311では、自局が子局である場合に、親局2からビーコン信号を受信後、受信応答を親局2に送信する(ステップS301、ステップS401)。これと同時に、受信信号をモニタする。例えば子局No3が受信を確認できたときには、受信信号の送信元となる子局No4の方向を登録するとともに、親局2にて干渉が発生したと判定し、受信応答信号を親局2に再送する(ステップS323)。自局が子局No4の場合は、親局2からビーコン信号を受信後、受信応答を送信し(ステップS401)、一定時間ウェイトし(ステップS402)、応答がない場合は干渉が発生したと判定し、モード管理部315へ干渉が発生したことを通知するとともに、受信応答信号を親局2に再送する(ステップS421)。
【0044】
またアンテナ制御部221では、自局が子局である場合に、親局2からのビーコン信号を受信後、受信応答を親局2に送信するときに、送信方向と180゜反対方向のアンテナビームで電波受信できるようスイッチ222を制御してアンテナ部21を選択するとともに、ビーム方向を制御する。
【0045】
このように、本実施の形態のシーケンスによれば同一ビーム覆域内に子局が2局存在する場合に、各子局がビーコン信号を受信したとき、すぐに親局に対して受信応答を返信すると共に、送信方向と180゜対称の方向に対して、別のアンテナを指向させ受信待ち受ける。この結果、各子局がお互いの存在を把握しかつ遅滞なくバックオフ時間を設けずに、親局及び各子局が相互に方向登録することにより、親局のビーム覆域に子局が存在しない場合、又は1局のみ存在する場合における、スループットの低下を抑制できる。更に、無駄時間を削減し、高速に初期補足し通信ネットワークシステムを構築できる効果を奏する。
【0046】
実施の形態3.
本実施の形態3は、親局2の同一ビーム覆域内に子局が2局存在する場合に、実施の形態1及び実施の形態2とは異なるシーケンスにより、高速に初期補足し通信ネットワークを確立する方法を示す。図11には、本実施の形態3に係るシステムの干渉回避シーケンス(3)を示す。
【0047】
図11では、子局No3が再度親局2に対して受信応答を再送し(ステップS323)、すぐさま子局No4に対して自局情報を送信する(ステップS331)。子局No4では、一定時間ウェイトを設けて(ステップS402)、親局2からのACK信号を待ち受けている状態で、子局No3からの信号を受信する(ステップS431)ことにより、子局No3の存在を把握することができ、子局No3同様に子局No4も子局No3の方向登録を行い(ステップS432)、お互いの位置を把握することができる。なお、ここでの位置は通信できる位置であり、必ずしも正確な座標を把握する必要はない。
【0048】
図11において、通信管理部311では、自局が子局である場合に、親局2からビーコン信号を受信後、受信応答を親局2に送信すると同時に、送信方向と180゜対象となる方向からの受信信号をモニタする。受信が確認できたときには、受信信号の送信元となる子局3のIDを登録する(ステップS321、ステップS322)とともに、親局2にて干渉が発生したと判定し、受信応答信号を親局2に再送した(ステップS323)直後に、親局2と180゜対象となる方向に対して自局情報を送信するよう、アンテナ制御部221に対して指示を行う(ステップS331)。
【0049】
このように、本実施の形態3のシーケンスによれば、同一ビーム覆域内に子局が2局存在する場合に、子局が自らの信号の送信方向と180°対称方向に別のアンテナを指向させ信号を待ち受けて、干渉源であった別の子局を特定し、その子局に対して自局情報を送ることにより、お互いに存在を把握し、結果的に親局2方向の登録時間までも短縮することができる。この結果、実施の形態2よりも更に無駄時間を削減し、高速に初期補足し無線通信ネットワークを 構築できる効果を奏する。
【符号の説明】
【0050】
1 通信エリア、2 親局、3 子局、
201 初期捕捉モード、202 ネットワークモード、203 サーチモード、
204 データ伝送モード、
21 アンテナ部、22 通信制御部、23 送受信部、24 可変指向性アンテナ、
25 RF部、26 受信レベル測定部、
221 アンテナ制御部、222 スイッチ、223 変復調部、224 干渉判定部、225 メモリ部、
31 ネットワーク制御部、311 通信管理部、312 データバッファ部、
313 タイミング管理部、314 ネットワーク管理部、315 モード管理部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の移動局間で時分割多重方式により通信する無線通信ネットワークシステムであって、
前記移動局である単一親局及び複数の子局が、
可変指向性アンテナを有し所要の方位を指向できるアンテナ部と、
前記アンテナ部とRF信号を送受信する送受信部と、
前記アンテナ部のビーム指向方向を制御するアンテナ制御部、前記RF信号の干渉発生有無を判定する干渉判定部、この干渉判定部の判定結果から前記送受信部が送受信するタイミングを制御するネットワーク制御部を有する通信制御部と
を備えることを特徴とする無線通信ネットワークシステム。
【請求項2】
複数の移動局間で時分割多重方式により通信する無線通信ネットワークシステムを初期構築するときに、移動する複数の子局が一斉に返信した受信応答が移動する単一親局において干渉することを回避する無線通信ネットワークシステムの初期構築方法であって、
前記親局がビーコン信号を送信した後一定時間待ち受けるステップと、
前記各子局が前記ビーコン信号を受信すると前記親局に受信応答を返信した後一定時間待ち受けるステップと、
前記親局が一定時間待ち受けている間に前記受信応答を受信した場合は当該子局方向を登録しその方向にACK信号を送信し、
前記受信応答を受信できない場合は干渉回避モードへ切替えて第2のビーコン信号を再送するステップと、
前記各子局が一定時間待ち受けている間に前記ACK信号を受信した場合はその親局方向を登録し、
前記ACK信号を受信できない場合は干渉回避モードへ切替えた後前記第2のビーコン信号を受信し、それぞれタイミングをずらして第2の受信応答を再送するステップと、
前記親局が前記第2の受信応答を受信した後、その子局方向を登録するステップと
を備えたことを特徴とする無線通信ネットワークシステムの初期構築方法。
【請求項3】
複数の移動局間で時分割多重方式により通信する無線通信ネットワークシステムを初期構築するときに、移動する複数の子局が一斉に返信した受信応答が移動する単一親局において干渉することを回避する無線通信ネットワークシステムの初期構築方法であって、
前記親局がビーコン信号を送信した後一定時間待ち受けるステップと、
前記各子局が前記ビーコン信号を受信すると前記親局に受信応答を返信すると同時に、前記子局が返信した方向と180゜対称方向に対して別のアンテナを指向させ別の子局からの受信応答を待ち受けるステップと、
前記各子局が前記別の子局からの受信応答を受信した場合は、当該子局の方向を登録し前記親局へ第2の受信応答を再送し、
一定時間以上前記親局からの前記ビーコン信号を受信できない場合は、再度前記親局へ第2の受信応答を再送するステップと、
前記親局が前記第2の受信応答を受信すると、当該子局の方向を登録し、その方向にACK信号を送信するステップと、
前記各子局が前記親局からの前記ACK信号を受信すると、その前記親局の方向を登録するステップと
を備えたことを特徴とする無線通信ネットワークシステムの初期構築方法。
【請求項4】
複数の移動局間で時分割多重方式により通信する無線通信ネットワークシステムを初期構築するときに、移動する複数の子局が一斉に返信した受信応答が移動する単一親局において干渉することを回避する無線通信ネットワークシステムの初期構築方法であって、
前記親局がビーコン信号を送信した後一定時間待ち受けるステップと、
前記各子局が前記ビーコン信号を受信すると前記親局に受信応答を返信すると同時に、前記子局が返信した方向と180゜対称方向に対して別のアンテナを指向させ別の子局からの受信応答を一定時間待ち受け、
前記別の子局からの受信応答を一定時間内に受信した場合は、当該子局の方向を登録し前記親局へ第2の受信応答を再送すると同時に、前記別の子局からの受信応答を送信した子局を特定しその子局に自局情報を送るステップと、
前記別の子局が、前記自局情報を受信した場合は、当該子局の方向を登録し、前記親局へ第2の受信応答を再送するステップと、
前記親局が前記第2の受信応答を受信すると、当該子局の方向を登録し、その方向にACK信号を送信するステップと、
前記各子局が前記親局からの前記ACK信号を受信すると、その前記親局の方向を登録するステップと
を備えたことを特徴とする無線通信ネットワークシステムの初期構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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