説明

無線通信装置及び無線通信システム

【課題】種々様々の通信相手に対応した効率のよい通信を確実に実現する。
【解決手段】通信開始前においてアンテナ101A〜F全体による指向性を所定の初期状態とし、この初期状態において他の無線通信装置301と通信を行ったその初期通信内容に応じ、その後の当該他の無線通信装置301との通信における使用アンテナ本数、通信方式等の通信条件を設定する。これにより、MIMO通信を実現可能な性能を備えていながらも、他の無線通信装置301との初期通信内容によっては当該MIMO方式の通信にはこだわらず、当該他の無線通信装置301に合致した通信態様で無線通信を実行することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多入力多出力(MIMO:Multiple Input Multiple Output)方式の無線通信システムに使用可能な無線通信装置及びこれを備えた無線通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、無線通信を介した情報伝送方式において、送信側及び受信側の双方に複数のアンテナを設け、無線伝送路(チャネル)を介した多入力多出力系を構成するMIMO方式が注目を集めている。M個の送信アンテナとN個の受信アンテナとで通信を行う場合、送受信間のチャネル応答はN×Mの行列Aで表される。この行列Aは、さらに相関行列AA及びAA(上付添字Hは複素共役転置)の固有値と、それぞれに対応する固有ベクトルとを用いて分解することができる(特異値分解)。この場合、マルチパス環境下にあるMIMO方式では、min(M,N)本の独立なチャネルを持つことができるので、送信・受信アンテナ数を増やすことで空間の利用性を高めることができる。なお、このときのMIMO方式の伝送性能は、上記相関行列の固有値を用いることでチャネル特性が求められることにより、把握することができる。
【0003】
このようなMIMO方式の無線通信装置として、例えば特許文献1記載の技術が既に提唱されている。この従来技術による無線通信装置では、重み付け制御手段が、固有値のばらつきを小さくするようなチャネル行列を算出し、そのチャネル行列に現在のチャネル行列が近づくように適応アレーアンテナの指向性を制御することにより、通信路容量の向上を図っている。
【0004】
【特許文献1】特開2005−45351号公報(段落番号0037〜0055、図9〜図11)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術による無線通信装置では、周波数当たりの最大信号伝送速度を定めるシャノンの通信路容量のうち、実際の通信に利用することができる通信路容量を向上させることに主眼をおくものである。重み付け制御手段によって固有値のばらつきを小さくすることで、それらの固有値に対応する通信路容量のばらつきも小さくし、結果として、全ての固有値に対応する通信路容量を実際の通信に有効に利用することができる。
【0006】
ところで、近年の携帯電話の急速な普及と通信方式における技術革新、OA機器・オフィス機器のモバイル化の一層の進展、無線LANを活用したパソコン環境のネットワーク化等の背景の下、上記のようなMIMO方式対応の無線通信装置であっても、どのような通信相手であっても常にMIMO方式の通信を試みるのが最良であるとは限らない。例えば、ユーザの種々雑多なニーズに対応し、伝送したいデータがテキストのみのメールであるのか、画像であるのか、楽曲であるのか、あるいは必要とされる伝送レートがどれだけなのか等によって、当該通信に対しMIMO方式、通常の適応アレー方式、ダイバーシチ方式等のいずれの通信方式とするのが最も効率がよいかは異なる。また無線通信装置に備えた複数のアンテナのうちいくつを使用し通信を行うか等についても同様である。さらに、通信相手のアンテナが1つの素子のみを備えているのか、MIMO方式の通信が可能な複数の素子を備えているのかによっても、それら通信方式やアンテナ個数の選択・制御の最適態様は異なってくる。
【0007】
上記従来技術では、通信相手に関係なく常時MIMO方式の通信を行うようになっているため、種々様々の通信相手に対応した効率のよい通信を確実に実現するのは困難であった。
【0008】
本発明が解決しようとする課題には、上記した問題が一例として挙げられる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1記載の発明は、多入力多出力方式の無線通信システムに使用可能な無線通信装置であって、mを2以上の整数として、複数のアンテナ素子をそれぞれ有するm個のアンテナと、これらm個のアンテナ全体で実現する指向性を、所定の初期状態となるように各アンテナを制御する初期制御手段と、この初期制御手段で実現した前記初期状態における他の無線通信装置との初期通信内容に応じて、当該他の無線通信装置との通信における通信条件を設定する通信条件制御手段とを有する。
【0010】
上記課題を解決するために、請求項11記載の発明は、無線送信装置及び無線受信装置を備え、多入力多出力方式の通信が可能な無線通信システムであって、前記無線送信装置及び前記無線受信装置の少なくとも一方が、mを2以上の整数としたとき、誘電体に封入又は装荷され互いに所定の間隔に配置された複数のアンテナ素子をそれぞれ有するm個のアンテナと、これらm個のアンテナ全体で実現する指向性を、所定の初期状態となるように各アンテナを制御する初期制御手段と、この初期制御手段で実現した前記初期状態における他の無線通信装置との初期通信内容に応じて、当該他の無線通信装置との通信における通信条件を設定する通信条件制御手段とを有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の一実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0012】
図1は、本実施形態の無線通信装置を備えた無線通信システムの全体概略を表すシステム構成図である。
【0013】
図1に示す無線通信システムSにおいて、本実施形態の無線通信装置1は、複数の(この例では6つの)アンテナ101A,101B,101C,101D,101E,101Fと、これらアンテナ101A〜Fの動作を制御する全体制御部200とを有している。無線通信装置1は、詳細を後述するように多入力多出力方式(MIMO:Multiple Input Multiple Output)によりアンテナ101A〜Fを介し通信可能に構成されており、全体制御部200の制御に基づき、アンテナ101A〜Fのうち少なくとも1つを用いて他の無線通信装置301と通信を行う。
【0014】
図2は、図1に示したアンテナ101Aの詳細構造を表す斜視図であり、図3は、これらアンテナ101Aの制御系を説明するための説明図である。これら図2及び図3において、アンテナ101Aは、例えばポリカーボネートからなる誘電体基板110と、この誘電体基板110の上面の略全面上に形成された接地導体111と、この接地導体111上に略円柱形状に形成された誘電体120と、接地導体111とは電気的に絶縁された状態で誘電体120中に埋設するように形成された複数の(この例では7本の)アンテナ素子Pとを備えている。
【0015】
アンテナ素子Pは、長手方向が接地導体111の平面に対して垂直となるモノポール素子を構成しており、1本の給電アンテナ素子P0(給電素子)と、少なくとも1本(この例では6本)の無給電アンテナ素子P1〜P6(無給電素子)とから構成される。
【0016】
給電アンテナ素子P0は、接地導体111とは電気的に絶縁され、かつ誘電体120に埋設された円柱形状の放射素子106を備えている。この放射素子106の一端には信号線が接続されており、これによって制御装置200から給電される無線信号がRF回路290(後述)を介し給電アンテナ素子P0に給電され放射されるようになっている。
【0017】
無給電アンテナ素子P1〜P6は、給電アンテナ素子P0を中心として互いに所定間隔でこの例では略円形形状となるように配置されている。各無給電アンテナ素子P1〜P6は、接地導体111と電気的に絶縁され誘電体基板110及び誘電体120を鉛直方向に貫通するように配設された略円柱形状の非励振素子107を備えている。各非励磁素子107の一端は、所定のリアクタンス値を有する(例えば可変容量ダイオードからなる)可変リアクタンス素子130と、誘電体基板110を鉛直方向に貫通して充填形成されてなるスルーホール導体114とを介し、接地導体111に対して高周波的に接地されている。
【0018】
このとき、上記放射素子106と上記非励振素子107の長手方向の長さは実質的に同一であるが、例えば、可変リアクタンス素子130がインダクタンス性(L性)を有するときは、可変リアクタンス素子130は延長コイルとなり、無給電アンテナ素子P1〜P6の電気長が給電アンテナ素子P0に比較して長くなり、反射器として働く。一方、例えば、可変リアクタンス素子130がキャパシタンス性(C性)を有するときは、可変リアクタンス素子130は短縮コンデンサとなり、無給電アンテナ素子P1〜P6の電気長が給電アンテナ素子P0に比較して短くなり、導波器として働く。すなわち、可変リアクタンス素子130に印加する制御電圧を変化させる可変リアクタンス素子130におけるリアクタンス値を変化させることにより、非励振素子107を備えた無給電アンテナ素子P1の電気長を給電アンテナ素子P0に比較して変化させ、当該アンテナ101Aの水平面指向特性を変化させることができる。
【0019】
なお、以上はアンテナ101Aを例にとって説明を行ったが、その他のアンテナ101B〜101Fについても同等の構成となっており、同様の制御が行われる。
【0020】
図4は、図1に示した制御装置200の詳細構成を表す機能ブロック図であり、図5は、そのうち送信側に係る機能の詳細構成を表す機能ブロック図であり、図6は、図4のうち受信側に係る機能の詳細構成を表す機能ブロック図である。
【0021】
これら図4、図5、及び図6において、制御装置200は、m個(この例ではm=6)のアンテナ101の給電アンテナ素子P0それぞれに1つずつ接続され送受信共通に設けられるRF回路(又は更にIF回路でよいを介してもよい)290と、m個のアンテナ101からの受信信号それぞれに対応してm個設けられ各受信信号をのアナログ−デジタル変換するA/D変換器241帯域制限を行うLPF242及び低周波成分を除去するLPF242アナログ−デジタル変換するA/D変換器241と、これらm個のLPF242A/D変換機241からの信号が入力され、それら受信信号に対し所定の受信指向性制御処理を行う(例えばI成分及びQ成分の複素数に対応したデジタルフィルタからなる)受信側デジタル指向性制御部250(給電側制御手段)このA/D変換器241からの受信信号を入力して復調等の処理を行う周波数変換部300と、この受信側デジタル指向性制御部250からの受信信号を入力して復調等の処理を行う受信側信号処理部260それら受信信号に対し所定の受信指向性制御処理を行う(例えばI成分及びQ成分の複素数に対応したデジタルフィルタからなる)受信側デジタル指向性制御部250(給電側制御手段)と、受信側信号処理部260における処理エラーの発生を監視するエラー状態監視回路204と、このエラー状態監視回路204の監視結果に応じて受信側信号処理部260で復調された信号の選択を行う選択回路270と、その選択回路270で選択された信号(復調波)を所定の公知の手法により復号する復号部271と、その復号部271により復号された復号信号を解釈して通信相手よりアンテナ101で受信した受信データ(情報信号)を読み出す返答ビット列解釈部272とを有する。
【0022】
また、制御装置200はさらに、アンテナ101から送信するための送信データに対応するコマンドビット列を生成するコマンドビット列生成部274と、そのコマンドビット列生成部274から出力されたデジタル信号を所定の手法により符号化する符号化部273と、この符号化部273により符号化された信号が入力され変調等の所定の処理がなされる送信側信号処理部210と、この送信側信号処理部210からの信号に対し送信指向性制御処理を行う(例えばI成分及びQ成分の複素数に対応したデジタルフィルタからなる)送信側デジタル指向性制御部220(給電側制御手段)と、m個のアンテナ101への送信信号それぞれに対応してm個設けられデジタル−アナログ変換後上記RF回路290へ出力するD/A変換器232と、m個(この例ではm=6)のアンテナ101それぞれの複数個(この例では6個)の無給電アンテナ素子P1〜P6を用いた所定の指向性制御処理を行うためのアナログ指向性制御部280(無給電側制御手段)と、m個のアンテナ101への送信信号それぞれに対応してm個設けられアナログ指向性制御部280からの信号をデジタル−アナログ変換後各アンテナ101の無給電アンテナ素子P1〜P6へ制御電圧を出力するD/A変換器292と、上記受信側デジタル指向性制御部250、送信側デジタル指向性制御部220、アナログ指向性制御部280等の全体各部を制御する全体制御部201とを有する。
【0023】
送信側信号処理部210には、アンテナ101の個数m(上記の例ではm=6)に対応してm系統が設けられており、このm系統に共通のものとして、例えば関数テーブルに所定サンプリング点において各位相に対応するように記憶されたサンプリング値をもとに通信相手への送信信号(搬送波)Fcを形成するデジタル信号(例えば正弦波をサンプリングした信号)を出力する送信デジタル信号出力部213が1つ備えられている。
【0024】
また、m系統のそれぞれには、符号化部203により符号化された情報信号(データ)に基づき、上記送信デジタル信号出力部213からの搬送波Fcを変調し送信情報とするための変調信号を出力する(たとえばGFSK変調してI成分及びQ成分を生成する)変調部(乗算器)212−0,212−1,‥,212−nと、これら乗算器212−0,212−1,‥,212−nそれぞれからの信号のうちI成分及びQ成分のうち所定の周波数の信号をそれぞれ通過させるBPF211a0,211b0,211a1,211b1,‥,211an,211bnとを備えている。
【0025】
また送信側デジタル指向性制御部220も上記に対応してm系統設けられており、各系統は、上記BPF211a0,211b0,211a1,211b1,‥,211an,211bnを経てそれぞれ合成された合成信号に関し、全体制御部201からの対応する係数(位相制御信号)C10,C11,‥,C1n等に基づき所定の送信指向性を得るための重み付けを行う合計n+1個(この例ではn=6)の係数乗算器221a0,221a1,‥,221anと、これらn+1個の係数乗算器221a0〜anからの出力を合成する加算器222とをそれぞれ備えている。各系統の加算部222からの出力は前述のD/A変換器232、RF回路290をそれぞれ介して対応するアンテナ101の給電アンテナ素子P0に供給される。
【0026】
受信側信号処理部260には、上記同様にm系統が設けられており、各系統は、上記A/D変換器241より出力された重み付け後の受信信号に含まれる複素数のI成分とQ成分に対し、互いに直交するデジタル信号bit列をそれぞれ乗算してI−Q直交復調(直交検波)を行う合計n+1対(この例ではn=6)の係数乗算器261a,261bと、これらn+1対の係数乗算器261a,261bからの出力を合成し所定のフィルタリングを行うFIRフィルタ部262とをそれぞれ備えている。
【0027】
受信側デジタル指向性制御部250には、上記同様、アンテナ101の個数m(上記の例ではm=6)に対応してm系統が設けられており、各系統は、FIR262より出力された受信信号に関し、全体制御部201からの対応する係数(位相制御信号)D10,D11,‥,D1n等に基づき所定の送信指向性を得るための重み付けを行う合計n+1個(この例ではn=6)の係数乗算器251−0,251−1,‥,251−nと、これらn+1個の係数乗算器251−0〜251−nからの出力を合成する加算器252とをそれぞれ備えている。
【0028】
このとき、受信側信号処理部260のm系統のそれぞれには(たとえば加算器252に接続して)図示しない誤り検出器(CRC検出器等)が接続されており、エラー状態監視回路204は受信側信号処理部260の各誤り検出器から供給される誤り検出信号に応じて、選択回路270に選択指令信号を出力する(なお、エラー状態監視回路204は上記検出信号に応じた監視結果をエラーフラグ等の情報として全体制御部201にも出力する)。この選択指令信号は、誤り検出器において正常な検出結果を出力した系統の出力を選択するように指示するものであり、選択回路270は、各系統の信号のうち、上記選択指令信号に対応した信号を選択して復号部271へ出力する。
【0029】
このようにして各系統の加算器252からの出力は選択回路270で選択された後、復号部271で復号化され、さらに返答Bit列解釈部272で解釈されて受信情報として取り出される。これにより、他の無線通信装置301等、通信相手との通信後、当該通信相手が本実施形態の無線通信装置1に対しどのような通信を要求しているか、すなわち、当該他の無線通信装置301のアンテナ(素子)数や、相手方ユーザのアプリケーション(通信内容が画像であるか、音声であるか、テキストのみのファイルであるか、メールであるか等)や、どの程度のデータ転送時間・リアルタイム性・電力・ユーザ希望優先順位等を要求しているか、等を情報として全体制御部201で取得することができる。
【0030】
なお、受信側信号処理部260の各系統にはまた、図示しないRSSI(Received Signal Strength Indicator)回路が設けられており、このRSSI回路の検出信号「RSSI」が受信信号強度(受信電界強度)情報として全体制御部201に入力されるようになっている。
【0031】
図7は、本実施形態の無線通信装置1の制御装置200に備えられた全体制御部201が実行する制御手順を表すフローチャートである。図7において、まずステップS5で、全(この例では6個の)アンテナ101よる総指向性が略無指向性となるように初期設定処理を行う。具体的には、例えばアナログ指向性制御部280に制御信号を出力し全(この例では6個の)アンテナ101それぞれにおける無給電アンテナ素子P1〜P6による指向性をある所定値(所定方向)に設定する(後述の図8参照)とともに、受信側デジタル指向性制御部250への前述の制御係数D10〜Dmn及び送信側デジタル指向性制御部220への前述の制御係数C10〜Dmnを所定の値に設定し、これによって、すべてのアンテナ101による総指向性が略全方向に対して略無指向性となるように初期設定制御を行う。このとき、隣り合う各アンテナ101の指向性(領域)が互いに重なり合うように制御する(図8参照)。なお、これら初期設定値は、操作者が(又は工場出荷時に)適宜に設定できるようにしても良い。
【0032】
その後、ステップS10に移り、ステップS5で設定した初期設定の下、コマンドビット列生成部274、符号化部273、送信側信号処理部210、送信側デジタル指向性制御部220をそれぞれ制御してアンテナ101よりビーコン信号を送信し、待ち受け状態で待機する。図8は、この初期設定後の待受け待機状態における電波放射態様を模式的に表す説明図である。前述のように、隣り合う各アンテナ101の指向性(領域)が互いに重なり合うようになっている。
【0033】
そして、ステップS20において、上記ビーコン信号に対応して他の無線通信装置301等の通信相手からの応答信号が受信側デジタル指向性制御部250、受信側信号処理部260で受信され、選択回路270、復号部271を介して返答Bit列解釈部272にてエラーなく受信されたかどうかを判定する。応答信号の受信が全くなかったか、受信されてもエラーが生じていた場合(エラー状態監視回路204からのエラーフラグ等により検知)にはこの判定が満たされず、ステップS10に戻って引き続き待ち受け状態を継続する。
【0034】
他の無線通信装置301等からの応答信号がエラーなく受信された場合、ステップS20の判定が満たされ、ステップS100に移る。ステップS100では、上記受信された応答信号の解釈結果(受信結果)より、当該他の無線通信装置301との通信内容の確認(他の無線通信装置301等のアンテナ素子の個数、要求される伝送レート、受信強度等の各種情報の確認)及びこれに対応して本無線通信装置1側での通信条件設定処理が行われる。
【0035】
図9は、このステップS100の詳細手順を表すフローチャートである。まずステップS105で、上記応答信号の受信結果に基づき、通信相手である他の無線通信装置301等のアンテナ素子数が1個かどうかが判定される。他の無線通信装置301が2個以上でなく1個のアンテナ素子のみを備えていた場合には判定が満たされ、ステップS110に移る。
【0036】
ステップS110では、上記受信結果に基づき、他の無線通信装置301から要求されている伝送レート(伝送速度)が比較的高いかどうかを判定する(例えば所定のしきい値との大小を比較すればよい)。要求伝送レートが比較的低い場合には、判定が満たされずステップS115に移る。
【0037】
ステップS115では、上記受信結果に基づき、他の無線通信装置301からの応答信号受信時の受信信号強度(上記RSSI回路により検出)が比較的大きいかどうかを判定する(例えば所定のしきい値との大小を比較すればよい)。受信信号強度が比較的大きい場合は判定が満たされてステップS120に移り、m個(この例ではm=6)のアンテナ101のうち例えば当該受信信号強度が最大である(あるいはエラー率が最も低いものでもよい)1つのアンテナ101を用い、当該アンテナ101が備えている指向性(ステップS5で所定方向に設定)はそのままで引き続き他の無線通信装置301との通信を行うように各部へ制御信号を出力する。一方、受信信号強度が比較的小さい場合はステップS115の判定が満たされずステップS125に移り、m個(この例ではm=6)のアンテナ101のうち例えば当該受信信号強度が最大である(あるいはエラー率が最も低いものでもよい)1つのアンテナ101を用い、当該アンテナ101が備えている指向性(ステップS5で所定方向に設定)を略全方向に略無指向性として他の無線通信装置301との通信を行うように送信側デジタル指向性制御部220、受信側デジタル指向性制御部250やアナログ指向性制御部280等に制御信号を出力する。
【0038】
一方、ステップS110で、他の無線通信装置301から要求されている伝送レート(伝送速度)が比較的高かった場合には、判定が満たされステップS130に移る。ステップS130では、前述のステップS115と同様、他の無線通信装置301からの応答信号受信時の受信信号強度が比較的大きいかどうかを判定する。受信信号強度が比較的大きい場合は判定が満たされてステップS135に移り、m個(この例ではm=6)のアンテナ101のうち例えば所定の(例えば受信信号強度が大きい又はエラー率が低い)N本(但しN≦m)のアンテナ101を用いて公知のダイバーシチ制御を行うように各部へ制御信号を出力する。一方、受信信号強度が比較的小さい場合はステップS130の判定が満たされずステップS140に移り、m個(この例ではm=6)のアンテナ101のうち例えば所定の(例えば受信信号強度が大きい又はエラー率が低い)N本(N≦m)のアンテナ101を用い、公知の適応アレー制御を行うように送信側デジタル指向性制御部220、受信側デジタル指向性制御部250やアナログ指向性制御部280等に制御信号を出力する。
【0039】
また、ステップS105において、通信相手である他の無線通信装置301等のアンテナ素子数が2個以上であった場合には判定が満たされず、ステップS145に移る。ステップS145では、上記ステップS110と同様、上記受信結果に基づき、他の無線通信装置301から要求されている伝送レート(伝送速度)が比較的高いかどうかを判定する。要求伝送レートが比較的低い場合には、判定が満たされず前述のステップS130に移り、以降前述と同様の手順を行う。要求伝送レートが比較的高い場合には、ステップS150に移り、m個(この例ではm=6)のアンテナ101のうち例えば所定の(例えば受信信号強度が大きい又はエラー率が低い)N本(N≦m)のアンテナ101を用い、公知の多入力多出力(MIMO:Multiple Input Multiple Output)方式の通信を行うように送信側デジタル指向性制御部220、受信側デジタル指向性制御部250やアナログ指向性制御部280等に制御信号を出力する。
【0040】
なお、以上は、アンテナ素子本数の大小、要求伝送レートの高低、受信信号強度の大小によって通信条件を種々設定する場合を例にとって説明したが、これに限られず、受信信号から取得できるその他の情報、例えば、相手方ユーザのアプリケーション(通信内容が画像であるか、音声であるか、テキストのみのファイルであるか、メールであるか等)や、どの程度のデータ転送時間・リアルタイム性・電力・ユーザ希望優先順位等を要求しているか等に基づき、上記通信条件を設定してもよい。
【0041】
以上のようにしてステップS120、ステップS125、ステップS135、ステップS140、ステップS150が終了したら、ステップS155に移り、m本のアンテナ101のうち、それらステップS120、ステップS125、ステップS135、ステップS140、ステップS150で使用するもの以外の残りのアンテナ101による総指向性が略無指向性となるように上記ステップS5と同様の処理を行う。なお、これら残りのアンテナ101の通信動作を停止させるようにしてもよい。ステップS155が完了するとこのルーチンを終了する。
【0042】
図7に戻り、上記ステップS100が終了すると、ステップS25に移り、上記ステップS100において前述した通信条件設定の下で、コマンドビット列生成部274、符号化部273、送信側信号処理部210、送信側デジタル指向性制御部220をそれぞれ制御してアンテナ101より信号を送信し、他の無線通信装置301との通信を開始する。
【0043】
図10、図11は、このとき実行される他の無線通信装置301との通信態様を模式的に表す説明図である。図10は、他の無線通信装置301のアンテナ素子の数が1つであって、要求伝送レートが低くかつ受信信号強度が大きく、ステップS120において設定が行われた結果、1つのアンテナ101で当該アンテナ101が備えている指向性(ステップS5で所定方向に設定)はそのままで引き続き他の無線通信装置301との通信が行われている状態の一例を表している。
【0044】
一方、図11は、他の無線通信装置301のアンテナ素子の数が1つであって、要求伝送レートが高くかつ受信信号強度が小さく、ステップS140において設定が行われた結果、N本(この例ではN=2)のアンテナ101E,101Fで適応アレー制御により当該他の無線通信装置301に対し(送信又は受信)感度が最大となるように制御されつつ通信が行われている状態の一例を表している。
【0045】
また、他の無線通信装置301のアンテナ素子の数が2つ以上であって、要求伝送レートが高い場合はステップS150においてN本のアンテナ101を用いてMIMO通信が行われるが、図12は、このMIMO通信の挙動を概念的に表す概念的説明図である。なお、この図では、図示を明確化するために、本実施形態の無線通信装置1におけるアンテナ101の数を3つとし、またその通信相手である他の無線通信装置301も、本実施形態と同様の構成を備えているものとして図示している。図示のように無線通信装置1の3個の送信アンテナ101と他の無線通信装置301の3個の受信アンテナ101とで通信を行う場合、送受信間のチャネル応答は3×3の行列で表される。この場合、マルチパス環境下にあるMIMO通信においては図示のように3×3=9本の伝送路(チャネル)を、固有値変換により仮想的に3本の独立なチャネルとすることができるので、空間の利用性を高めることができる。
【0046】
図7に戻り、以上のようにしてステップS25が終了すると、ステップS30に移り、操作者から通信終了指示があったかどうかを判定する。無線通信装置1に備えられた図示しない操作手段を介し、操作者等による無線通信停止指示がなされた場合にはこの判定が満たされ、フローを終了する。停止指示があるまではこの判定が満たされず、ステップS35に移る。
【0047】
ステップS35では、上記ステップS10と同様、ビーコン信号を送信し待受け状態とする。この際、ステップS120、ステップS125、ステップS135、ステップS140、ステップS150で設定した1〜N本のアンテナはすでに他の無線通信装置301との通信において使用しているので、例えばそれ以外の残りのアンテナ101のみを用いて上記ビーコン信号を送信すればよい。
【0048】
その後、ステップS35に移り、前述のステップS20と同様、上記ビーコン信号に対応してさらに他の無線通信装置302等の通信相手が出現し、それからの応答信号が受信側デジタル指向性制御部250、受信側信号処理部260で受信され、選択回路270、復号部271を介して返答Bit列解釈部272にてエラーなく受信されたかどうかを判定する。応答信号の受信が全くなかったか、受信されてもエラーが生じていた場合にはこの判定が満たされず、ステップS25に戻って同様の手順を繰り返す。
【0049】
さらに他の無線通信装置302等からの応答信号がエラーなく受信された場合、ステップS40の判定が満たされ、ステップS200に移る。ステップS100では、上記ステップS100と同等の処理が行われ、上記受信された応答信号の解釈結果(受信結果)より、当該さらに他の無線通信装置302との通信内容の確認(アンテナ素子の個数、要求される伝送レート、受信強度等の各種情報の確認)及びこれに対応して本無線通信装置1側での通信条件設定処理が行われる。その詳細は、例えばステップS100と同様、図10に示したもので足りるので説明を省略する。
【0050】
上記ステップS200が終了すると、ステップS45に移り、前述のステップS25と同様、上記ステップS200において前述した通信条件設定の下で、コマンドビット列生成部274、符号化部273、送信側信号処理部210、送信側デジタル指向性制御部220をそれぞれ制御してアンテナ101より信号を送信し、上記さらに他の無線通信装置302との通信を開始する。
【0051】
図13は、このとき実行されるさらに他の無線通信装置302との通信態様を模式的に表す説明図である。図13は、既にアンテナ101E,101Fによって1つのアンテナ素子を備えた他の無線通信装置301との通信を適応アレー方式で行っているときに、さらに他の無線通信装置302が出現し、その他の無線通信装置302のアンテナ素子の数が2つであって要求伝送レートが高く、図10のステップS150において設定が行われた結果、(例えば通信に供されていないアンテナ101A,101B,101C,101Dのうち受信電力の一番大きいもの及びそれに次ぐものとして選択された)アンテナ101B,101Cを用いて当該さらに他の無線通信装置302との間にMIMO方式による通信が開始された状態の例を表している。
【0052】
図7に戻り、以上のようにしてステップS45が終了すると、ステップS40に戻り、同様の手順を繰り返す。
【0053】
図14は、以上のような構成の本実施形態の無線通信装置1の実際の適用例を表した図である。図14において、この例では、自動車AMの室内前方にあるインナーパネルIPのハンドルSWと反対側(助手席側)に無線通信装置1が設けられ、また室内後方(後部座席側)には図示しないアンテナを備えたテレビCT(前述の他の無線通信装置301等に相当)が設けられている。そして、無線通信装置1の複数のアンテナ101とテレビCTとの間で通信が行われるとともに、他の複数のアンテナ101と地上側の基地局BP(前述の他の無線通信装置301等に相当。あるいは人工衛星等でもよい)との間で通信が行われている。このとき無線通信装置1は無線送信装置又は無線受信装置として機能しており、これら無線通信装置1,301,301で無線通信システムSが構成されている。
【0054】
図15は、本実施形態の無線通信装置1の別の適用例を表した図である。図15において、この例では、2台の自動車AM,AMそれぞれに、上記図14と同様、インナーパネルIPに無線通信装置1が設けられている。そして、それら2つの無線通信装置1,1どうしの間で例えば複数のアンテナ101を用いて通信(いわゆる車々間通信)が行われている。この場合、一方の無線通信装置1に着目すれば、他方の無線通信装置1は前述した他の無線通信装置301に相当し、これら無線通信装置1,301で無線通信システムSが構成されている。また無線通信装置1は無線送信装置又は無線受信装置として機能している。
【0055】
以上において、無線通信装置1の制御装置200に備えられた全体制御部201が実行する図7に示したフローのステップS5が、各請求項記載の、m個のアンテナ全体で実現する指向性を、所定の初期状態となるように各アンテナを制御する初期制御手段を構成する。また、ステップS100が、この初期制御手段で実現した初期状態における他の無線通信装置との初期通信内容に応じて、当該他の無線通信装置との通信における通信条件を設定する通信条件制御手段を構成する。
【0056】
また、図10に示したフローのステップS120、ステップS125、ステップS135、ステップS140、及びステップS150が、通信条件として、通信方式を、多入力多出力方式、又は適応アレー方式、若しくはダイバーシチ方式のいずれかの通信方式に制御する通信方式制御手段を構成するとともに、通信条件として、使用する前記アンテナの個数をNに設定するアンテナ数制御手段をも構成する。
【0057】
また、ステップS155が、通信条件として、アンテナ数制御手段の設定したアンテナの個数に基づき、それ以外の残余の各アンテナにおける複数のアンテナ素子による指向性を所定の態様に制御する指向性制御手段を構成する。
【0058】
以上説明したように、本実施形態における無線通信装置1は、多入力多出力方式の無線通信システムSに使用可能な無線通信装置1であって、mを2以上の整数として、複数のアンテナ素子P0〜P6をそれぞれ有するm個のアンテナ101と、これらm個のアンテナ101全体で実現する指向性を、所定の初期状態となるように各アンテナを制御する初期制御手段(この例では全体制御部201が実行するステップS5)と、この初期制御手段S5で実現した初期状態における他の無線通信装置301との初期通信内容に応じて、当該他の無線通信装置301との通信における通信条件を設定する通信条件制御手段(この例では全体制御部201が実行するステップS100)とを有することを特徴とする。
【0059】
本実施形態の無線通信装置1においては、通信開始前においてまず初期制御手段S5が複数の(この例では6個の)アンテナ101A〜F全体による指向性を所定の初期状態とする。そして、この初期状態において他の無線通信装置301と通信を行ったその初期通信内容に応じ、通信条件制御手段S100が、その後の当該他の無線通信装置301との通信における通信条件を設定する。これにより、多入力多出力方式を実現可能な性能を備えていながらも、他の無線通信装置301との初期通信内容によっては当該多入力多出力方式の通信にはこだわらず、当該他の無線通信装置301に合致した通信態様で無線通信を実行することができる。この結果、種々様々の通信相手に対応した効率のよい通信を確実に実現することができる。
【0060】
上記実施形態における無線通信装置1においては、通信条件制御手段S100は、通信条件として、通信方式を、多入力多出力方式、又は適応アレー方式、若しくはダイバーシチ方式のいずれかの通信方式に制御する通信方式制御手段(この例では全体制御部201が実行するステップS120、ステップS125、ステップS135、ステップS140、及びステップS150)を有することを特徴とする。
【0061】
これにより、多重伝送路による大容量伝送又は単一伝送路による高効率伝送を実行する制御(MIMO通信)や、m個(この例ではm=6)のアンテナ101全体による指向性を通信相手に対し感度が最大となるような制御(適応アレー制御)や、複数のアンテナ101で受信した同一信号について電波状況の優れたアンテナ101の信号を優先的に用いる制御(ダイバーシチ制御)等を実現し、通信相手と効率のよい通信を確実に行うことができる。
【0062】
上記実施形態における無線通信装置1においては、通信方式制御手段S100は、他の無線通信装置301が1つのアンテナ素子からなるアンテナを備えている場合には、通信方式を適応アレー方式とすることを特徴とする。
【0063】
これにより、m個(この例ではm=6)のアンテナ101全体で実現する指向性を、当該1つのアンテナ素子からなるアンテナに対して感度が最大となるように制御し、当該アンテナと効率のよい通信を確実に行うことができる(図11等参照)。
【0064】
上記実施形態における無線通信装置1においては、通信条件制御手段S100は、Nを1以上m以下の整数として、前記通信条件として、使用する前記アンテナの個数をNに設定するアンテナ数制御手段(この例では全体制御部201が実行するステップS120、ステップS125、ステップS135、ステップS140、及びステップS150)を有することを特徴とする。
【0065】
種々様々の通信相手に対応し、アンテナ数制御手段S120,S125,S135,S140,S150がアンテナ101の個数mを1≦N≦mの範囲で適宜に設定することにより、他の無線通信装置301に合致した通信態様で無線通信を確実に実行可能となる。
【0066】
上記実施形態における無線通信装置1においては、通信条件制御手段S100は、通信条件として、アンテナ数制御手段S120,S125,S135,S140,S150の設定したアンテナ101の個数に基づき、それ以外の残余の各アンテナ101における複数のアンテナ素子P0〜P6による指向性を所定の態様に制御する指向性制御手段(この例では全体制御部201が実行するステップS155)を有することを特徴とする。
【0067】
使用していない各アンテナ101の指向性を所定の態様に制御することにより、使用中のアンテナ101により実行されている通信以外に、さらに他の通信相手(この例では無線通信装置302。図13等参照)が出現した場合に、通信を円滑に開始するための待機体制を整えることが可能となる。
【0068】
なお、上記指向性制御手段S155に代えて、通信条件制御手段S100が、通信条件として、アンテナ数制御手段S120,S125,S135,S140,S150の設定したアンテナ101の個数に基づき、それ以外の残余のアンテナ101への給電を停止する給電制御手段を有するようにした場合には、使用していないアンテナ101への給電を停止することにより、無駄な電力消費を回避することができる。
【0069】
上記実施形態における無線通信装置1においては、アンテナ101の複数のアンテナ素子P0〜P6は、信号が給電される給電素子P0と、この給電素子P0から所定間隔離れて設けられ、信号が給電されない少なくとも1つの無給電素子P1〜P6とを含んでおり、誘電体に封入又は装荷され、互いに所定の間隔に配置されていることを特徴とする。
【0070】
給電素子P0と無給電素子P1〜P6を備え無給電素子P1〜P6へのリアクタンス制御で指向性を制御可能なエスパアンテナを用い、さらにそれら複数の素子P0〜P6を誘電体に封入(又は装荷)することにより、アンテナ101を小型化することができる。
【0071】
上記実施形態における無線通信装置1においては、通信条件制御手段S100は、通信条件として、m個(この例ではm=6)のアンテナ101に備えられた給電素子P0の指向性を制御する給電側制御手段(この例では送信側デジタル指向性制御部220及び受信側デジタル指向性制御部250)と、通信条件として、m個のアンテナ101に備えられた無給電素子P1〜P6の指向性を制御する無給電側制御手段(この例ではアナログ指向性制御部280)とを有することを特徴とする。
【0072】
デジタル制御系となる各アンテナ101の給電素子P0側だけでm個のアンテナ101全体の指向性制御を行おうとすると、アンテナ及びRF回路系の数及びそれらに対応したデジタル処理が大がかりなものとなる。一方、アナログ制御系となる各アンテナ101の無給電素子側P1〜P6だけで適応動作等の指向性制御を行おうとする場合も、上記同様にデジタル処理が大がかりなものとなる。
【0073】
本実施形態の無線通信装置1においては、図16にその指向性特性のイメージを概念的に表すように、まず指向性のおおざっぱな設定を無給電側制御手段280で行っておき(領域G1参照)、更に細かな指向性制御を給電側制御手段220,250で行い(領域G2参照)、これらを併せて用いることで、より指向性を鋭くすることができる(領域G参照)。また、指向性制御システムとしての柔軟性を向上させることもできる。
【0074】
上記実施形態における無線通信装置1においては、初期制御手段S5は、初期状態として、m個のアンテナ101のうち隣り合うアンテナ101それぞれのもつ指向性が互いに一部重なり合うように各アンテナ101を制御することを特徴とする。
【0075】
隣り合う各アンテナ101の指向性が重なり合っていない状態では、無線通信装置1に対する他の無線通信装置301からの信号がたまたま当該重なっていない領域にのみ到達した場合これを検知できず、通信不可能となる。本実施形態の無線通信装置1においては初期状態における隣り合う各アンテナ101の指向性(領域)を重なり合わせておく(図8参照)ことにより、上記弊害を回避して確実に通信を行うことができる。
【0076】
なお、本実施形態は、上記に限られず、種々の変形が可能である。以下、そのような変形例を順を追って説明する。
【0077】
(1)隣り合う複数のアンテナを選択するようにした場合
すなわち、上記実施形態において、図10に示したフローのステップS135、ステップS140、ステップS150において複数のN本のアンテナを用いるように制御するとき、必ず互いに隣り合う一群のアンテナとなるように選択する場合である。この変形例を図17を用いて説明する。
【0078】
図17において、6つのアンテナ101A〜101Eを備える無線通信装置1が、まず他の無線通信装置301と2つのアンテナ101E,101Fにより通信を行い、その後、さらに他の無線通信装置302と通信を行う場合を考える。
【0079】
当該無線通信装置302との通信において、図17に示すように、隣り合うアンテナでないアンテナ101B,101Dを用いて通信を行ったとすると、さらに他の無線通信装置303がアンテナ101C,101Dの方向から通信しようとした場合に、使用されていないアンテナ101Cに対し、上記アンテナ101Dと無線通信装置302との通信が妨害する(放射領域が一部重複する、ハッチング参照)こととなり、この結果、当該無線通信装置303との通信が不可能となる。
【0080】
これに対し、上記ステップS135、ステップS140、ステップS150において必ず互いに隣り合う複数のアンテナを選択するようにすれば、上述の例では無線通信装置302との通信において隣り合うアンテナ101B,101Cを用いることとなる結果、上記無線通信装置303とは少なくともアンテナ101Dを用いて(他から妨害されることなく)通信可能となる。なお、通信相手が移動するような場合にも有効となる。
【0081】
(2)MIMO方式に、STC、SDM、OFDM等をさらに組み合わせる場合
上記実施形態においては、図10に示すフローにおいてステップS150でMIMO通信を行うように制御するとき、特にその詳細については説明しなかったが、このMIMO通信制御においては公知の時空間符号化方式(STC)又は空間分割多重方式(SDM)の手法とすればよい。また、公知の直交周波数分割多重方式(OFDM)の手法を適宜組み合わせるようにしてもよい。
【0082】
本変形例における無線通信装置1においては、通信方式制御手段S100は、通信方式を、時空間符号化方式又は空間分割多重方式、及び直交周波数分割多重方式のうち、少なくともいずれか一方をさらに組み合わせた通信方式に制御することを特徴とする。
【0083】
これにより、送信したい時系列データに対して時間領域と空間領域で信号を組み替えて伝送する制御(=時空間符号化方式;STC)や、送信のアンテナ素子ごとに等電力で別々の情報を乗せて伝送する制御(=空間分割多重方式;SDM)や、広周波数帯域情報を狭周波数帯域の多数のサブチャネルに展開するマルチキャリア伝送制御(=直交周波数分割多重方式;OFDM)等を実現し、通信相手と効率のよい通信を確実に行うことができる。
【0084】
上記実施形態における無線通信装置1は、多入力多出力方式の無線通信システムSに使用可能な無線通信装置1であって、mを2以上の整数として、複数のアンテナ素子P0〜P6をそれぞれ有するm個のアンテナ101と、これらm個のアンテナ101全体で実現する指向性を、所定の初期状態となるように各アンテナを制御するステップS5の手順と、このステップS5で実現した初期状態における他の無線通信装置301との初期通信内容に応じて、当該他の無線通信装置301との通信における通信条件を設定するステップS100の手順とを有する。
【0085】
通信開始前においてまずステップS5で6個のアンテナ101A〜F全体による指向性が所定の初期状態とされる。そして、この初期状態において他の無線通信装置301と通信を行ったその初期通信内容に応じ、ステップS100で、その後の当該他の無線通信装置301との通信条件が設定される。これにより、多入力多出力方式を実現可能な性能を備えていながらも、他の無線通信装置301との初期通信内容によっては当該多入力多出力方式の通信にはこだわらず、当該他の無線通信装置301に合致した通信態様で無線通信を実行することができる。この結果、種々様々の通信相手に対応した効率のよい通信を確実に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の一実施形態の無線通信装置を備えた無線通信システムの全体概略を表すシステム構成図である。
【図2】図1に示したアンテナの詳細構造を表す斜視図である。
【図3】図1及び図2に示したアンテナの制御系を説明するための説明図である。
【図4】図1に示した制御装置の詳細構成を表す機能ブロック図である。
【図5】図4に示した構成のうち送信側に係る機能の詳細構成を表す機能ブロック図である。
【図6】図4に示した構成のうち受信側に係る機能の詳細構成を表す機能ブロック図である。
【図7】図1に示した制御装置の全体制御部が実行する制御手順を表すフローチャートである。
【図8】初期設定後の待受け待機状態における電波放射態様を模式的に表す説明図である。
【図9】ステップS100の詳細手順を表すフローチャートである。
【図10】他の無線通信装置との通信態様を模式的に表す説明図である。
【図11】他の無線通信装置との通信態様を模式的に表す説明図である。
【図12】MIMO通信の挙動を概念的に表す概念的説明図である。
【図13】さらに他の無線通信装置との通信態様を模式的に表す説明図である。
【図14】無線通信装置の実際の適用例を表した図である。
【図15】無線通信装置の別の適用例を表した図である。
【図16】無給電側制御手段と給電側制御手段とによる指向性制御特性のイメージを概念的に表す図である。
【図17】隣り合う複数のアンテナを選択するようにした変形例を表す図である。
【符号の説明】
【0087】
1 無線通信装置(無線送信装置;無線受信装置)
101A〜F アンテナ
200 制御装置
201 全体制御部
301 無線通信装置
302 無線通信装置
303 無線通信装置
P0 給電アンテナ素子(給電素子、アンテナ素子)
P1〜6 無給電アンテナ素子(無給電素子、アンテナ素子)
S 無線通信システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多入力多出力方式の無線通信システムに使用可能な無線通信装置であって、
mを2以上の整数として、複数のアンテナ素子をそれぞれ有するm個のアンテナと、
これらm個のアンテナ全体で実現する指向性を、所定の初期状態となるように各アンテナを制御する初期制御手段と、
この初期制御手段で実現した前記初期状態における他の無線通信装置との初期通信内容に応じて、当該他の無線通信装置との通信における通信条件を設定する通信条件制御手段と
を有することを特徴とする無線通信装置。
【請求項2】
請求項1記載の無線通信装置において、
前記通信条件制御手段は、前記通信条件として、通信方式を、前記多入力多出力方式、又は適応アレー方式、若しくはダイバーシチ方式のいずれかの通信方式に制御する通信方式制御手段を有することを特徴とする無線通信装置。
【請求項3】
請求項2記載の無線通信装置において、
前記通信方式制御手段は、前記他の無線通信装置が1つのアンテナ素子からなるアンテナを備えている場合には、前記通信方式を適応アレー方式とすることを特徴とする無線通信装置。
【請求項4】
請求項2又は3記載の無線通信装置において、
前記通信方式制御手段は、通信方式を、時空間符号化方式又は空間分割多重方式、及び直交周波数分割多重方式のうち、少なくともいずれか一方をさらに組み合わせた通信方式に制御することを特徴とする無線通信装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項記載の無線通信装置において、
前記通信条件制御手段は、Nを1以上m以下の整数として、前記通信条件として、使用する前記アンテナの個数をNに設定するアンテナ数制御手段を有することを特徴とする無線通信装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項記載の無線通信装置において、
前記通信条件制御手段は、前記通信条件として、前記アンテナ数制御手段の設定したアンテナの個数に基づき、それ以外の残余の各アンテナにおける前記複数のアンテナ素子による指向性を所定の態様に制御する指向性制御手段を有することを特徴とする無線通信装置。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれか1項記載の無線通信装置において、
前記通信条件制御手段は、前記通信条件として、前記アンテナ数制御手段の設定したアンテナの個数に基づき、それ以外の残余のアンテナへの給電を停止する給電制御手段を有することを特徴とする無線通信装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項記載の無線通信装置において、
前記アンテナの前記複数のアンテナ素子は、
信号が給電される給電素子と、この給電素子から所定間隔離れて設けられ、信号が給電されない少なくとも1つの無給電素子とを含んでおり、
誘電体に封入又は装荷され、互いに所定の間隔に配置されていることを特徴とする無線通信装置。
【請求項9】
請求項8記載の無線通信装置において、
前記通信条件制御手段は、
前記通信条件として、前記m個のアンテナに備えられた前記給電素子の指向性を制御する給電側制御手段と、
前記通信条件として、前記m個のアンテナに備えられた前記無給電素子の指向性を制御する無給電側制御手段と
を有することを特徴とする無線通信装置。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項記載の無線通信装置において、
前記初期制御手段は、前記初期状態として、m個のアンテナのうち隣り合うアンテナそれぞれのもつ指向性が互いに一部重なり合うように各アンテナを制御することを特徴とする無線通信装置。
【請求項11】
無線送信装置及び無線受信装置を備え、多入力多出力方式の通信が可能な無線通信システムであって、
前記無線送信装置及び前記無線受信装置の少なくとも一方が、
mを2以上の整数としたとき、誘電体に封入又は装荷され互いに所定の間隔に配置された複数のアンテナ素子をそれぞれ有するm個のアンテナと、
これらm個のアンテナ全体で実現する指向性を、所定の初期状態となるように各アンテナを制御する初期制御手段と、
この初期制御手段で実現した前記初期状態における他の無線通信装置との初期通信内容に応じて、当該他の無線通信装置との通信における通信条件を設定する通信条件制御手段と
を有することを特徴とする無線通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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