説明

無臭ガス燃料のための臭気化混合物

【課題】ガス燃料、特に天然ガスのための臭気剤として使用可能な組成物:
【解決手段】下記(1)〜(3)からなる組成物を使用する:(1)0.1〜49.9%の式:R1−S−R2の硫化アルキル(I)(R1とR2は互いに同一でも異なっていてもよく、1〜4個の炭素原子を含むアルキル基を表すか、R1とR2がそれらが結合している硫黄原子と一緒になって3〜5個の炭素原子を含む飽和または不飽和の環を形成し、この環は必要に応じてC1−C4アルキルまたはC1−C4アルケニル基で置換されていてもよい)、(2)50〜99.8重量%の、アルキル基が1〜12個、好ましくは1〜8個の炭素原子を有するアルキルアクリレート(II)、(3)0.001〜0.1重量%の、下記式(IV)の安定なニトロオキシド基を含む上記アルキルアクリレート(II)の重合を抑制する化合物(III)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス燃料、特に無臭ガス燃料のための臭気剤に関するものであり、特に、ガス漏れが検知でき、ガス漏れによる爆発の危険を防止できる硫化アルキルとアルキルアクリレートとを含む組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
公共の照明や家庭用需要の両方のガス燃料としては加熱プロセスを経た都市ガスとコークス炉ガスが長い間使用されていた。これらのガスは臭気性の高い成分を含んでいた。従って、これらのガスは特定の強い臭気を有するためガス漏れは容易に検知できた。
これとは対照的に、現在使用されているガス燃料である天然ガス、プロパン、ブタン、液化石油ガス(LPG)さらには酸素(例えば溶接作業用の)はいずれも初めからまたは精製処理されたために基本的に無臭である。従って、ガス漏れに気付くのが遅くなり、爆発の恐れがあるガス燃料と空気との混合物が急速に生成するため潜在的な危険性が高い。
【0003】
これらの安全上の理由から、ガスパイプラインの中を流れる天然ガスは臭気剤として知られる適切な添加物を(特殊なステーションに)注入することによって臭気化される。
一般に、天然ガスは適切な精製処理後に生産拠点から消費国へガスパイプラインまたは特殊な船(メタン運搬船)(液体)のいずれかで無臭で輸送される。例えばフランスでは天然ガスを所定数の注入ステーションで受け入れ、このステーションで臭気剤を注入してフランスのガスパイプライン網を流れる天然ガスおよび地下タンクに貯蔵される天然ガスの両方を臭気化する。従って、ガス漏れ時にはパイプライン網のどこでガス漏れが起きても容易に検知できるようになっている。
【0004】
他の国では天然ガスが臭気剤なしで流れるパイプライン網によって供給し、天然ガスが消費される都市に入るときに天然ガスを臭気化することもある。これにはさらに多くの数の注入ステーションが必要である。
貯蔵タンクは一般に爆発の危険を制限するために窒素または天然ガスの雰囲気下で維持される。
【0005】
臭気剤として、単独であるいは混合物として用いられる硫化アルキルは周知である。例えば、硫化ジエチル、硫化ジメチル、硫化メチルエチルまたはテトラヒドロチオフェンが挙げられ、これらは優れた特性、特に、臭気化された天然ガスが偶発的に漏れた場合に人々に警戒感を抱かせ、必要な防護作業を開始させることができる特性を有するので広く用いられている。
【0006】
しかし、これらの生成物は天然ガスの燃焼中にある量の二酸化硫黄を発生させる。その量は少ない量であるが、高度に工業化または都市化された一国または一地域の規模で全体バランスを考えると無視できない量になる。すなわち、10mg/Sm3(すなわち、標準温度および標準圧力条件下で測定したガスのm3数)の濃度でテトラヒドロチオフェンで臭気化された天然ガスが燃焼すると7.3mg/Sm3の二酸化硫黄が発生する。
【0007】
環境規制を十分に考慮すべきという一般的情勢下では、天然ガスの燃焼中に天然ガス中に存在する硫化アルキルをベースにした臭気剤を介して生態圏に放出されるSO2の量を減らすことが望ましい。
【0008】
ガス臭気剤混合物の成分としてのアルキルアクリレートの使用も周知である。下記文献にはアルキルアクリレートと、ピラジン型の窒素化合物と、酸化防止剤とを含む混合物の添加によって天然ガスを臭気化する方法が記載されている。
【特許文献1】ドイツ国特許出願19837066号公報
【0009】
しかし、この混合物にはガスに特有の臭気がないため、ガス漏れ時に誤解されかねないという欠点がある。この危険は、このガス漏れが検知されずに、空気中のガスの濃度がその爆発下限界に達した時に爆発する危険があることは理解できよう。
下記文献にもエチルアクリレートと特定の硫黄化合物とを組み合わせた臭気剤混合物、この場合にはtert−ブチルメルカプタン(TBM)が開示されている。
【特許文献2】特開昭55−137190号公報
【0010】
しかし、この混合物の主たる欠点はTBMとエチルアクリレートの化学反応性のために臭気剤混合物の2つの成分を各注入ステーションで別々のタンクに貯蔵しなければならず、しかも、ガスパイプラインに導入するために別々の注入ポンプおよびヘッドを必要とすることにある。すなわち、天然ガス臭気化用の複雑な装備のため必要な貯蔵タンク、注入ポンプおよびヘッドが増加し、注入ステーションのコストが大幅に増加する。
下記文献にもアルキルアクリレート、硫化アルキルおよび酸化防止安定剤、例えばtert−ブチルヒドロキシトルエン、ヒドロキノン等を含む4成分から成る臭気剤が開示されている。
【特許文献3】国際特許出願第WO 2004/024852号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、上記の従来技術の臭気剤混合物の問題点を克服する新規な臭気剤混合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の対象は、下記を含むガス燃料、特に天然ガスのための臭気剤として使用可能な組成物にある:
(1)0.1〜49.9%の下記式の硫化アルキル(I):
1−S−R2
(ここで、R1およびR2は同一でも異なっていてもよく、
1〜4個の炭素原子を含むアルキル基を表し、
1とR2はそれらが結合している硫黄原子と一緒になって3〜5個の炭素原子を含む飽和または不飽和の環を形成し、この環は必要に応じてC1−C4アルキルまたはC1−C4アルケニル基で置換されていてもよい)
(2)50〜99.8%の、アルキル基が1〜12個、好ましくは1〜8個の炭素原子を含むアルキルアクリレート(II)、
(3)0.001〜0.1%の、下記式(IV)の安定なニトロオキシド基を含む上記アルキルアクリレート(II)の重合を抑制する化合物(III):
【0013】
【化1】

【0014】
(ここで、
3とR4は互いに同一でも異なっていてもよく、それぞれ2〜30個、好ましくは4〜15個の炭素原子を有し、必要な場合にはさらに硫黄、燐、窒素または酸素から選択される一種または複数のヘテロ原子を有する第三または第二炭化水素基を表すか、
3とR4がそれらが結合している窒素原子と一緒になって4〜10個、好ましくは4〜6個の炭素原子を有する置換されていてもよい環式炭化水素基を表す)
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本明細書において特に記載のない限り%は「重量%」である。
本発明の組成物をガス燃料、特に天然ガスに注入することで、従来技術の硫化アルキルをベースにした臭気剤で得られる臭気力と同等の強い臭気力がガス燃料に付与され、それによって、ガス漏れの近くにいる全ての人がガス漏れに気付くことができ、適切な安全対策をとることができる。この強い臭気力が得られると同時に、こうして臭気化されたガスの燃焼後に生態圏に放出されるSO2の量も大幅に減少する。また、この組成物は化合物(I)と(II)の間に反応性がないので、単一の貯蔵タンク、単一の注入ポンプ、単一の注入ヘッドを用いるか注入ステーションで使用でき、装備が大幅に単純化される。
【0016】
本発明組成物の好ましい変形例では、本発明の組成物は5〜14.95%の化合物(I)、85〜94.95%の化合物(II)および0.005〜0.05%の化合物(III)を含む。
硫化アルキル(I)としては、テトラヒドロチオフェン(THT)、硫化メチルエチル(MES)、硫化ジメチル(DMS)または硫化ジエチル(DES)を用いるのが好ましい。
アクリル酸エステル(II)は特にメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチルおよびドデシルアクリレートの中から選択される。
【0017】
本発明の組成物の好ましい実施例では、メチルアクリレートまたはエチルアクリレートを含む組成物を用いる。
本発明の特に好ましい変形例では、テトラヒドロチオフェンおよびエチルアクリレートを用いる。
【0018】
本発明の組成物中に化合物(III)が存在することによって、極めて反応性の高い自然重合可能なモノマーであるアクリレートの重合が抑制される。この制御できない重合が起こると、爆発の危険が生じ、注入ステーションの近くにいる人、例えば居住者または維持管理する作業者を危険にさらしかねない。この重合が貯蔵中に例えば注入ステーションの貯蔵タンクまたは容器で起こると、貯蔵タンクと注入ポイントとの間のパイプが急速に汚れ、実際には詰まることにもなりかねない。こうした現象によって天然ガス中の臭気剤濃度の低下が制御できなくなり、ガス漏れが検知できなくなり、危険が増す。
【0019】
式(IV)の化合物はそれ自体周知であり、その製造方法は例えば下記文献に記載されている。
【非特許文献1】「安定なニトロオキシドの合成化学」L.B. Volodarsky et al., CRC Press, 1993, ISBN:0-8493-4590-1
【0020】
式(IV)の抑制剤にはその他の抑制剤、例えばヒドロキノン類に属するラジカル重合抑制剤とは違って、臭気剤混合物を空気下で貯蔵する必要がないという利点がある。ヒドロキノン型のラジカル重合抑制剤では、抑制剤の活性型が酸素と反応して生成するラジカルを含む分子であるために、空気下の貯蔵が必要となる。実際は、注入ステーションの設計において、天然ガスの圧力下で適切な容器に臭気剤化合物を貯蔵できるのが極めて有利である。この使用法では注入ポンプの効率を高めることができ、有利である。同じ理由で、式(IV)の抑制剤には、天然ガスの注入用ステーションに普通に備えられた窒素下の貯蔵用タンクで用いることができるという利点もある。
【0021】
特に好ましい変形例では、式(IV)の抑制剤として、式(IVa)のテトラメチルピペリジンオキシド(TEMPOともよばれる)に由来の化合物を用いる:
【化2】

【0022】
〔ここで、R5はヒドロキシル、アミノ、R6COO−またはR6CON−基(ここでR6はC1−C4アルキル基である)を表す〕。
【0023】
式(III)の化合物は下記の化合物の中から選択するのが好ましく、有利である:
N−(tert−ブチル)−N−(1−[エトキシ(エチル)ホスフィノ]プロピル)ニトロオキシドとして知られる化合物(A):
【化3】

【0024】
N−(tert−ブチル)−N−(1−ジエチルホスホノ−2,2−ジメチルプロピル)ニトロオキシドとして知られる化合物(B):
【化4】

【0025】
N−(tert−ブチル)−N−(2−メチル−1−フェニルプロピル)ニトロオキシドとして知られる化合物(C):
【化5】

【0026】
本発明の別の対象は、硫化アルキルとアルキルアクリレートとを含む上記定義の組成物の有効量を添加することから成る、無臭ガス燃料の臭気化方法にある。上記組成物の量はガス燃料および供給網に特有の特徴を考慮に入れて、系統的試験によって当業者が決めることができる。この有効量の一例は1〜500mg/Sm3、好ましくは2〜50mg/Sm3である。
【0027】
本発明の方法が適用されるガス燃料には天然ガス、プロパン、ブタン、液化石油ガス(LPG)あるいは酸素または水素、例えば燃料電池で発生したものが含まれる。本発明の好ましいガス燃料は使用および供給網の規模が極めて広く、ガス漏れの危険で生じる危険を減らすことが特に望まれている天然ガスである。
天然ガスの場合、上記の臭気剤として使用可能な組成物を当該分野の一般的な技術に従って特定ステーションに注入して添加する。
【0028】
本発明の他の対象は、硫化アルキルとアルキルアクリレートとを含む上記定義の組成物を1〜500mg/Sm3、好ましくは2〜50mg/Sm3の有効量で含むガス燃料、好ましくは天然ガスにある。
以下、単なる例として本発明の実施例を説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【実施例】
【0029】
実施例1(参照)
テトラヒドロチオフェンによる天然ガスの臭気化
10mg/Sm3のテトラヒドロチオフェンを適当な実験装置を用いて天然ガスに注入する。こうして臭気化されたガスを燃焼した後に生成した二酸化硫黄の含有率は7.3mg/Sm3である。
【0030】
実施例2
液体状態で示した重量の下記成分を単純混合して組成物を得る:
エチルアクリレート 879.99g 87.99%
テトラヒドロチオフェン 120g 12.00%
ヒドロキシ−TEMPO 0.1g 0.01%
テトラヒドロチオフェンの代わりに、上記で調製さした組成物を用いて実施例1を繰り返す。
この組成物で臭気化されたガスに嗅覚試験を行った結果、こうして臭気化されたガスは実施例1の組成物のガスと同じ典型的な臭気を有することを確認した。
上記組成物で臭気化されたガスを燃焼した後に生成した二酸化硫黄の含有率は0.87mg/Sm3である。
【0031】
実施例3
続いて、下記の組成物を調製して実施例2を繰り返す。
メチルアクリレート 899.8g 89.98%
テトラヒドロチオフェン 100g 10.00%
抑制剤(C) 0.2g 0.02%
同じ結果が得られた。
【0032】
実施例4
続いて、下記の組成物を調製して実施例2を繰り返す。
エチルアクリレート 889.9g 88.99%
テトラヒドロチオフェン 110g 11.00%
ヒドロキシ−TEMPO 0.1g 0.01%
同じ結果が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)〜(3)を含む、ガス燃料、特に天然ガスの臭気剤として使用可能な組成物:
(1)0.1〜49.9重量%の下記式の硫化アルキル(I):
1−S−R2
(ここで、R1とR2は互いに同一でも異なっていてもよく、1〜4個の炭素原子を含むアルキル基を表すか、R1とR2がそれらが結合している硫黄原子と一緒になって3〜5個の炭素原子を含む飽和または不飽和の環を形成し、この環は必要に応じてC1−C4アルキルまたはC1−C4アルケニル基で置換されていてもよい)
(2)50〜99.8重量%の、アルキル基が1〜12個、好ましくは1〜8個の炭素原子を有するアルキルアクリレート(II)、
(3)0.001〜0.1重量%の、下記式(IV)の安定なニトロオキシド基を含む上記アルキルアクリレート(II)の重合を抑制する化合物(III):
【化1】

(ここで、
3とR4は互いに同一でも異なっていてもよく、それぞれ2〜30個、好ましくは4〜15個の炭素原子を有し、必要に応じてさらに硫黄、燐、窒素または酸素から選択される一種または複数のヘテロ原子を含む、第三または第二炭化水素基を表すか、
3とR4はそれらが結合している窒素原子と一緒になって4〜10個、好ましくは4〜6個の炭素原子を有する置換されていてもよい環式炭化水素基を表す)
【請求項2】
5〜14.95重量%の化合物(I)、85〜94.95重量%の化合物(II)および0.005〜0.05重量%の化合物(III)を含む請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
硫化アルキル(I)がテトラヒドロチオフェン(THT)、硫化メチルエチル(MES)、硫化ジメチル(DMS)または硫化ジエチル(DES)である請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
アクリル酸エステル(II)がメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチルおよびドデシルアクリレートの中から選択される請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
アクリル酸エステル(II)がメチルアクリレートまたはエチルアクリレートである請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
テトラヒドロチオフェン(I)およびエチルアクリレート(II)を含む請求項1〜5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
式(IV)の抑制剤が下記式(IVa)のテトラメチルピペリジンオキシドの誘導体である請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物:
【化2】

〔ここで、R5はヒドロキシル、アミノ、R6COO−またはR6CON−基(ここでR6はC1−C4アルキル基である)を表す〕
【請求項8】
式(III)の化合物が、N−(tert−ブチル)−N−(1−[エトキシ(エチル)ホスフィノ]プロピル)ニトロオキシド、N−(tert−ブチル)−N−(1−ジエチルホスホノ−2,2−ジメチルプロピル)ニトロオキシド、または、N−(tert−ブチル)−N−(2−メチル−1−フェニルプロピル)ニトロオキシドから選択される請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物の有効量を添加する、無臭ガス燃料の臭気化方法。
【請求項10】
ガス燃料が天然ガスである請求項9に記載の臭気化方法。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物を1〜500mg/Sm3、好ましくは2〜50mg/Sm3の量で含むガス燃料。
【請求項12】
天然ガスから成る請求項11に記載のガス燃料。

【公表番号】特表2007−532710(P2007−532710A)
【公表日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−506804(P2007−506804)
【出願日】平成17年4月5日(2005.4.5)
【国際出願番号】PCT/FR2005/000823
【国際公開番号】WO2005/103210
【国際公開日】平成17年11月3日(2005.11.3)
【出願人】(591004685)アルケマ フランス (112)