説明

無蛍光板紙

【課題】 古紙原料を主体とした2層以上で構成された板紙において、その表面での蛍光反応を抑制した無蛍光板紙を提供する。
【解決手段】 古紙原料を主体とした2層以上で構成された板紙において、表層叉は表層と表下層に蛍消剤を添加することで、少量の蛍消剤の添加で板紙表面での蛍光反応の発生を無くした。また、表層と表下層の合計付量を20〜100g/m2 として板紙の裏面層に由来する蛍光強度が表面側に現れるのを防止した。また、板紙表面に、蛍消剤と樹脂材料を含有する塗工層を形成して、製紙薬品の蛍光疑似反応を表面で抑えるとともに、蛍光物質の溶出を確実に防止した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は2層以上で構成されかつ古紙原料を主体とした無蛍光板紙に関し、特に食品包装容器などに好適に使用できる無蛍光板紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、板紙は古紙を主原料に製造されているものが大半であるが、古紙には蛍光物質を含有しているため、食品包装容器などに用いられる板紙には、その全層にバージンパルプを使用することで無蛍光を得ていた。しかし、原料費のコストアップ及びバージンパルプ使用による森林資源の破壊に繋がるという問題があった。
【0003】
一方、古紙を原料として使用する際に、古紙に含有している蛍光物質を分解除去することによって無蛍光古紙パルプを得ることは知られている。例えば、古紙パルプスラリーに対して二酸化塩素を添加するとともに、その添加量をPHと蛍光強度に応じて調整することで効率良く蛍光物質を分解除去する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、パルプ繊維に悪影響を与えず、かつ有機塩素化合物の発生を抑制しつつ蛍光物質を分解する方法として、二酸化塩素に代えてジクロルイソシアヌール酸塩を用い、かつそのジクロルイソシアヌール酸塩を25%以上の古紙パルプ濃度とPH7以下の条件下で、添加混合する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0005】
また、漂白工程で残留した塩素系漂白剤を利用し、その塩素イオンで蛍光物質の共役二重結合や発色基を分解して蛍光消去処理する方法も知られている(例えば、特許文献3参照。)。
【0006】
さらに、製紙工場の廃水等の試料中の蛍光増白剤を、所定濃度のレドックスメディエータやラッカーゼ(ポリフェノールオキシダード)を作用させることで分解する方法も知られている(例えば、特許文献4参照。)。
【特許文献1】特開平5−33279号公報
【特許文献2】特開平6−33387号公報
【特許文献3】特開平11−269788号公報
【特許文献4】特開2003−117569号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に開示された技術は、古紙パルプスラリー中の蛍光物質を、強酸化剤である二酸化塩素によって分解するものであるため、処理後に排出される排水の処理に設備とコストを要するとともに環境に悪影響を与える恐れがあるという問題がある。また、特許文献2に開示された技術でも、蛍光物質の完全な分解除去と排水中のAOX(吸着性有機ハロゲン化合物)の発生による環境負荷の抑制を両立するのが困難であるという問題がある。また、特許文献3に開示された技術は、漂白工程で残留した塩素系漂白剤を利用するという技術であり、それだけでは蛍光消去が不十分であるという問題がある。
【0008】
また、特許文献4に開示された技術は、廃水中の蛍光物質を分解するものであり、製紙用原料スラリーに適用されるものではない。また、上記何れの技術も、蛍光物質を分解するものである。
【0009】
本発明は、上記従来の問題点に鑑み、古紙原料を主体とした2層以上で構成された板紙において、その表面での蛍光反応を抑制した無蛍光板紙を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の無蛍光板紙は、古紙原料を主体とした2層以上で構成された板紙において、表層又は表層と表下層に蛍消剤を対パルプ0.2〜1.0重量%添加したものである。ここで、蛍消剤とは蛍光物質を分解するものではなく、蛍光物質とコンプレックスを形成することで蛍光作用を消すものである。
【0011】
この構成によると、古紙原料を主体とした板紙において、その表層又は表層と表下層に蛍消剤を所要量添加しているので、板紙表面での蛍光反応の発生を無くすことができ、かつ板紙全体ではなく表層と表下層にのみ対パルプ0.2〜1.0重量%の蛍消剤を添加しているので、蛍消剤の添加量が少なくて済み、薬品コストを低廉化できるとともに排水処理も容易となり、表面が無蛍光反応の無蛍光板紙を安価に得ることができる。また、表面の蛍光反応がないので、この表面を食品に接する側にすることで、食品包装容器にも安心して使用することができる。
【0012】
また、板紙表面に、蛍消剤と樹脂材料を含有する塗工剤を0.01〜0.5g/m2 塗工して塗工層を形成すると、さらに製紙薬品の蛍光疑似反応を表面で抑えるとともに、蛍光物質の溶出を確実に防止することができる。
【0013】
また、表層と蛍消剤を添加した表下層の合計付量を20〜100g/m2 とすると、板紙の裏面層に由来する蛍光強度が表面側に現れるのを防止することができる。
【0014】
また、板紙の表面の蛍光強度が14以下となるようにするのが好適である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、表層又は表層と表下層に蛍消剤を添加しているので、板紙表面での蛍光反応の発生を無くすことができ、かつ板紙全体ではなく表層と表下層にのみ蛍消剤を対パルプ0.2〜1.0重量%添加しているので、蛍消剤の添加量が少なくて済み、薬品コストを低廉化できるとともに排水処理も容易となり、安価に無蛍光板紙を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の無蛍光板紙の実施形態について、詳細に説明する。
【0017】
本実施形態の無蛍光板紙は、古紙原料を主体とした2層以上、例えば5層の湿紙を抄き合わせて構成されている。5層の板紙の場合、表層の湿紙は、上質紙(LBKP、NBKPを原料として抄紙した紙)の白損から成る上白古紙を主原料とする原料パルプを用いて抄造し、2層目(表下層と呼ぶ)の湿紙は、上白古紙とコート紙の白損から成る中白古紙などを適宜配合したものを主原料とする原料パルプを用いて抄造し、3〜5層目の中間層及び裏層は、紙器製造時に発生する裁落損紙、新聞・雑誌などを原料として抄造した白ボールなどの地券古紙を主原料とする原料パルプを用いて抄造している。このように表層と表下層を、中間層及び裏層より白色度の高い原料で構成することにより、板紙表面の白色度を保つとともに、ある程度の厚み(米坪)を持たせ、遮蔽効果により中間層及び裏層を見え難くして、板紙表面の見栄えを良好にしている。このような5層の板紙は、円網多層抄紙機などにより各層の湿紙を順次抄き合わせることによって抄造される。
【0018】
各層の湿紙はそれぞれのワイヤ上にインレットから原料スラリーを供給することによって形成され、本実施形態では、表層とその下層の表下層の湿紙を形成する原料スラリーに蛍消剤を添加している。蛍消剤としては、例えばカチオン性のポリアルキレンポリアミン・ジカルボン酸縮合物やそのアンモニウム塩やカルボン酸アミド誘導体などが好適に用いられる。具体的には、例えば「OP−603」(一方社油脂工業社製)、「OP−600」(一方社油脂工業社製)、「カルタレックス2Lリキッド」(クラリアントジャパン社製)などが好適である。蛍消剤として、「OP−603」を用いる場合、その添加量は、対パルプで0.2〜1.0%、好適には0.5±0.2%で良い。また、蛍消剤の効果を高めるために、PH値の高い古紙パルプスラリーに対して、硫酸バンドを80〜100kg/t程度添加し、PH4〜8程度、より好適にはPH4〜6の弱酸性領域に調整するのが良い。
【0019】
これら蛍消剤を添加した表層と表下層の合計付量(坪量)は、20〜100g/m2 とするのが好適である。なお、板紙全体の坪量は、80〜280g/m2 程度である。このように蛍消剤を添加した層の付量を設定することにより、中間層や裏層に含まれている蛍光物質からの蛍光反応が板紙表面の蛍光強度に与える影響を抑制することができる。
【0020】
また、好適には、板紙の表面に樹脂系の表面サイズ剤に蛍消剤を添加した塗工液が塗工される。この塗工層の形成により、コブサイズ度を180g/m2 程度から50±20g/m2 にし、表面に油物が接しても良いように耐油性を有しながら良好な印刷適性が得られるように成される。表面サイズ剤としては、エマルジョン系表面サイズ剤が好適に用いられ、表面サイズ剤100重量部(固形分)に対して、蛍消剤を20〜70重量部(固形分)添加したものが好適である。塗工液の塗工量は、コブサイズ度が上記の範囲となるように、0.01〜0.5g/m2 、好適には0.05g/m2 程度とされる。また、その塗工に際しては、濃度の高い塗工液に対しても塗工精度が高いバーコーターで塗工するのが好適である。このように板紙表面に蛍消剤と樹脂材料を含有する塗工層を形成することにより、蛍光物質の溶出を防止するとともに、サイズ剤やラテックス等のエマルジョン系の薬品に見られる蛍光疑似反応も抑えることができる。
【0021】
板紙をこのようにして製造することで、板紙の表面の蛍光強度が14以下のものを得ることができる。
【実施例】
【0022】
次に、本発明のいくつかの実施例と比較例を説明する。
【0023】
(実施例1)
第1層の表層の湿紙は上白古紙を主成分とした原料スラリーを用い、第2層の表下層の湿紙は上白古紙と中白古紙を1:1の重量比で配合したものを主成分とした原料スラリーを用い、第3層〜第5層の中間層及び裏層は地券古紙を主成分とした原料スラリーを用いた。そして、表層と表下層の原料スラリーには、内添サイズ剤「サイズパインN771」(荒川化学工業株式会社製)を対パルプで8kg/t、蛍消剤「OP−603」(一方社油脂工業社製)を対パルプで0.5重量%(固形分)添加するとともに、硫酸バンドを対パルプ80kg/t添加することでPHを5.2に調整した。第3層〜第5層の原料スラリーには、内添サイズ剤「サイズパインN771」(荒川化学工業株式会社製)を対パルプで8kg/t添加するとともに、硫酸バンドを対パルプで40kg/t添加してPHを6.3に調整した。これら第1〜第5層の湿紙を抄き合わせて5層構造の板紙を抄造した。抄き合わせた板紙の表面に、表面サイズ剤「BLS720」(星光PMC株式会社製)2.0重量%(原液)、蛍消剤「OP−603」(一方社油脂工業社製)2.3重量%(固形分)、ポリビニルアルコール「P7400」(日本合成化学株式会社製)1.0重量%(固形分)からなる塗工液を、バーコーターにてWET10g/m2 の塗工量で塗工して乾燥した。また、板紙の坪量が170g/m2 、表層の付量が25g/m2 、表下層の付量が30g/m2 となるように抄造条件を調整して抄造した。
【0024】
(実施例2)
表層と表下層に対する蛍消剤「OP−603」の添加量を対パルプで0.3重量%に変化させた以外は、実施例1と同様にして板紙を得た。
【0025】
(実施例3)
表層と表下層に対する蛍消剤「OP−603」の添加量を対パルプで0.2重量%に変化させた以外は、実施例1と同様にして板紙を得た。
【0026】
(実施例4)
表層と表下層に対する蛍消剤「OP−603」の添加量を対パルプで0.6重量%に変化させた以外は、実施例1と同様にして板紙を得た。
【0027】
(実施例5)
表層と表下層に対する蛍消剤「OP−603」の添加量を対パルプで1.0重量%に変化させた以外は、実施例1と同様にして板紙を得た。
【0028】
(実施例6)
表層と表下層に対する蛍消剤「OP−603」の添加量を対パルプで2.0重量%に変化させた以外は、実施例1と同様にして板紙を得た。
【0029】
(実施例7)
表層にのみ蛍消剤「OP−603」を添加し、その添加量を対パルプで1.0重量%とした以外は、実施例1と同様にして板紙を得た。
【0030】
(実施例8)
表下層を無しとし、その坪量減少分は3〜5層の坪量を増加させた以外は実施例1と同様にして板紙を得た。
【0031】
(実施例9)
表層の付量を20g/m2 とし、その坪量減少分は3〜5層の坪量を増加させた以外は、実施例8と同様にして板紙を得た。
【0032】
(実施例10)
表層の付量を40g/m2 とし、表下層の付量を45g/m2 とし、その坪量増加分は3〜5層の坪量を減少させた以外は、実施例1と同様にして板紙を得た。
【0033】
(実施例11)
表層の付量を45g/m2 とし、表下層の付量を50g/m2 とし、その坪量増加分は3〜5層の坪量を減少させた以外は、実施例1と同様にして板紙を得た。
【0034】
(実施例12)
塗工層に蛍消剤を添加しなかった以外は、実施例11と同様にして板紙を得た。
【0035】
(実施例13)
蛍消剤「OP−603」の添加量を対パルプで0.15重量%に変化させた以外は、実施例1と同様にして板紙を得た。
【0036】
(実施例14)
蛍消剤「OP−603」の添加量を対パルプで2.5重量%に変化させた以外は、実施 例1と同様にして板紙を得た。
【0037】
(実施例15)
表下層への蛍消剤の添加を無しとし、表層の付量を、14g/m2 に変化させ、その坪量減少分は3〜5層の坪量を増加させた以外は、実施例1と同様にして板紙を得た。
【0038】
(比較例1)
表層と表下層に対して蛍消剤を添加せず、塗工層に蛍消剤を添加しなかった以外は実施例1と同様にして板紙を得た。
【0039】
以上の実施例1〜15及び比較例1の板紙について、表面の蛍光強度を測定した。蛍光強度の測定は、測色色差計(日本電色工業株式会社製)を用い、
R1:可視光+紫外光を照射時の反射強度
R2:460nm紫外光吸収フィルタ使用時の反射強度
を測定し、
蛍光強度=R1−R2
を求めることによって行った。
【0040】
【表1】

上記実施例1〜15及び比較例1について、表層と表下層の付量と、蛍消剤の添加量と、板紙の蛍光強度と、表層と表下層の付量及び蛍消剤の添加量によるコスト評価と、それらによる総合評価を表1に示した。コスト評価は、○と△と×に相対評価した。また、総合評価は、最適なものを◎、良好なものを○、余り好ましくないものを△、不良を×とした。
【0041】
実施例1〜6から表層及び表下層に対する蛍消剤の添加量を0.2〜1.0重量%とすることで効果的に板紙表面の蛍光強度が低下することが分かる。また、その中で実施例3のように添加量が0.2重量%と少ないと効果が低下し、実施例6のように添加量を2. 0重量%と多くしても添加量が1.0重量%の実施例5と比べて効果が頭打ちになっている。これに対して、比較例1のように蛍消剤を添加しなかったものは、板紙表面の蛍光強度が15.2と悪い。また、実施例13のように添加量が0.15重量%と少ないと効果が微弱で余り良好な効果が得られず、実施例14のように添加量を2.5重量%と多くした場合は実施例6の場合と全く変わらず完全に頭打ちとなるとともに、コストが高くつき、余り良好でない総合評価となった。
【0042】
また、実施例7から、表層にのみ蛍消剤を添加するとともに、その添加量を1.0重量%として、添加総量を実施例1とほぼ同等とした場合にも、良好な結果が得られることが分かるが、実施例1と比べて若干効果が悪くなっている。
【0043】
また、実施例8及び実施例9から、蛍消剤を添加した層の合計付量が20g/m2 以上とするのが好ましく、実施例15のように付量が14g/m2 まで少なくなると、効果が微弱で、中層の蛍光反応が出てしまって余り良好な効果が得られないことが分かる。
【0044】
また、実施例1と、実施例10、及び実施例11との比較から、表層と表下層の合計付量が多くなる程、表面の蛍光反応が少なくなることが分かる。その中で、実施例1(55g/m2 )より実施例10(85g/m2 )の方が良好な結果が得られているが、実施例10と実施例11(95g/m2 )は結果がほぼ同じで効果が頭打ちりになっている。かくして、蛍光反応の抑制効果に対する要求の高さと、付量の増加に伴うコストの高騰を勘案して最適な付量に設定すれば良い。
【0045】
また、実施例11と実施例12の比較から、塗工層に蛍消剤を添加しないと、若干蛍光強度が高くなってしまうことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
古紙原料を主体とした2層以上で構成された板紙において、表層又は表層と表下層に蛍消剤を対パルプ0.2〜1.0重量%添加したことを特徴とする無蛍光板紙。
【請求項2】
板紙表面に、蛍消剤と樹脂材料を含有する塗工剤を0.01〜0.5g/m2 塗工して塗工層を形成したことを特徴とする請求項1記載の無蛍光板紙。
【請求項3】
表層と蛍消剤を添加した表下層の合計付量を20〜100g/m2 としたことを特徴とする請求項1又は2記載の無蛍光板紙。
【請求項4】
板紙の表面の蛍光強度が14以下であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の無蛍光板紙。

【公開番号】特開2006−188788(P2006−188788A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−1330(P2005−1330)
【出願日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】