説明

無酢酸風味の水中油型クリーム

【課題】保存性が高く、製菓・製パン用フィリングクリームとして最適な、酢酸を使用していながら、酢酸からくる刺激的臭気を伴う酸味を全く感じなくした水中油型クリーム及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】乳清ミネラル及び酢酸を含有し、水相のpHが2〜6、AWが0.8以下であることを特徴とする水中油型クリーム。及び、乳清ミネラル及び酢酸を含有し、pHが2〜6、AWが0.8以下である水相と、油相とを乳化し、均質化することを特徴とする水中油型クリームの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保存性が高く、製菓・製パン用フィリングクリームとして最適な、酢酸を使用していながら、酢酸からくる刺激的臭気を伴う酸味を全く感じなくした水中油型クリーム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
保存性が高い製菓・製パン用フィリングクリームとして使用されるクリームには、無水クリームと含水クリームがあるが、呈味性が良好なことから含水クリームが主に使用されている。この含水クリームには水中油型クリームと油中水型クリームがあり、その目的に応じ使い分けられてきた。
【0003】
ここで、油脂を骨格となすバタークリームに代表される油中水型クリームは、油相が外相となるため細菌汚染に対する抵抗性が高く保存性が良好であるため、保存性が高い製菓・製パン用フィリングクリームとして広く使用されてきた。
【0004】
しかし、油脂を主体としているため、口溶けや高温(夏季など30℃以上の環境)での保型性が使用油脂によって大きく左右されるという欠点を有する。例えば、融点の高い油脂を使用すれば高温での保型性は良好となるが、口溶けは悪化し、融点の低い油脂を使用すると逆の結果となり、口溶けと高温での保型性を兼ね備えることはできない。よって、年間一定の物性の油中水型クリームを得るためには季節にあわせて使用油脂の配合を変えなければならず、このため、夏場は口溶けが悪くなってしまうという問題があった。
【0005】
一方、保存性の高い水中油型クリームの代表であるフラワーペーストやカスタードクリームは、一般に加熱処理により糊化した澱粉を骨格とし、必要に応じて砂糖、乳製品、卵製品、乳化剤、香料等を含有するものである。これらの水中油型クリームは、広い温度域で一定のボディ感と保型性を有するという特徴があるため、物性面では油中水型クリームに比べ使い勝手がよいものであったが、これらの水中油型クリームは、一般に食感が重く、ベタツキのある食感を有する問題点があった。
【0006】
そこで、水中油型クリームにおいて、澱粉に代えて増粘剤、ゲル化剤または蛋白質を使用することにより、種々の水中油型クリームを得る方法が提案されている。
【0007】
例えば、限外濾過された乳蛋白を配合する方法(例えば特許文献1参照)、脱脂乳を、限外濾過濃縮(UF濃縮)を含む工程で濃縮し、製造工程で、酸および/またはアルカリによってpHを1.0以上変化させないで、最終的に噴霧乾燥してなる、乳糖含量の少ない乳蛋白質高含有粉末と、油脂と、溶融塩とを使用する方法(例えば特許文献2参照)、乳脂を含む食用油脂10〜60重量%、蛋白質1〜10重量%、アルギン酸および/またはアルギン酸ナトリウム0.1〜3重量%を含有する水中油型乳化物であって、該乳化物中の油滴の体積基準のメディアン径が5μm以下であることを特徴とする可塑性水中油型乳化油脂組成物(例えば特許文献3参照)、水、油脂、乳タンパク質および/または卵黄タンパク質、低粘性アルギン酸塩、およびカルシウムを含有する水中油型乳化組成物(例えば特許文献4参照)等が提案されている。
【0008】
しかしながら、特許文献1と特許文献2の方法では、食感がボソつく問題があり、特許文献3の組成物は、食感が滑らかでない問題があった。また、特許文献4は、通常の添加量や使用方法ではゲル化しないことを特徴とする低粘性アルギン酸塩を使用することで、超高温瞬間殺菌時に生じるタンパク質の熱変性による凝集や焦げ付きを抑制する方法に関する発明であり、特許文献4で得られた水中油型乳化物は当然流動状または液体であり、可塑性を付与するためには別途、従来どおり澱粉等を多量に添加する必要があり、その結果食感が滑らかでないものとなってしまう問題があった。
【0009】
ここで、保存性が良好な水中油型乳化型食品としてマヨネーズがある。
このマヨネーズの保存性は、その成分である酢酸に由来している。酢酸は微生物の繁殖を抑制し、これを減少させる機能をもつものであるが、その抑制効果は、有機酸の中でも一際優れており、低濃度であっても、食品中のサルモネラ菌、ブドウ状球菌、腸炎ビブリオ菌、エルシニア菌、カンピロバクター菌などの菌を経時的に減少させる性質を有する。そして、酢酸の濃度が高いほど速効性があり、菌を減少させる速度が早い。酢酸の濃度が低いとこの菌を減少させる速度は遅いが、いずれにしても生菌数を減少させる性質を有するため、酢酸を添加した食品は保存性がよくなり、日持ちがよくなる。
【0010】
このように酢酸は食品の安価で且つ安全な保存料として有用であるが、その反面、酢酸を配合した食品は、酢酸からくる刺激的臭気を伴う独特な酸味(酢酸酸味)を帯びるのが難点で、自ずと使用対象の食品が限られて来る。マヨネーズにみるごとく酢酸を使用することで保存性が確保され、且つ、酢酸風味が主体である調味料であれば問題ないが、一般の飲食品では酢酸酸味が要求されないのが普通であり、例えば、低pH食品の代表例であるフルーツ風味やカスタード風味の水中油型クリームにおいて酢酸を使用することができなかった。
【0011】
この点を解決した発明として、特定の有機酸や有機酸塩を使用する方法が提案されている。(例えば特許文献5及び6参照)
【0012】
しかし、この方法では酢酸風味の低減効果が十分ではなく、また、有機酸や有機酸塩由来の酸風味が加わるため、酸風味自体を感じさせたくないクリームにはこの技術を適用するのは困難であった。
【0013】
【特許文献1】特表昭58−500970号公報
【特許文献2】特開平9−172965号公報
【特許文献3】特開2002−125590号公報
【特許文献4】特開2001−321075号公報
【特許文献5】特開平09−023844号公報
【特許文献6】特開平09−023845号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って、本発明の目的は、保存性が高く、製菓・製パン用フィリングクリームとして最適な、酢酸を使用していながら、酢酸からくる刺激的臭気を伴う酸味を全く感じなくした水中油型クリーム及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者等は、上記目的を達成すべく種々検討した結果、乳清ミネラルを使用し、水相のpHと、AWを特定範囲とすることで、上記問題を解決可能であることを知見した。
【0016】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、乳清ミネラル及び酢酸を含有し、水相のpHが2〜6、AWが0.8以下であることを特徴とする水中油型クリームを提供するものである。
【0017】
また、本発明は、乳清ミネラル及び酢酸を含有し、pHが2〜6、AWが0.8以下である水相と、油相とを乳化し、均質化することを特徴とする水中油型クリームの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の水中油型クリームは、酢酸を使用していながら、酢酸からくる刺激的臭気を伴う酸味を全く感じなくしたものであるため、保存性が高く、製菓・製パン用フィリングクリームとして最適に使用することができる。
【0019】
また、本発明の水中油型クリームの製造方法によれば、上記特徴を有する水中油型クリームを簡単に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の水中油型クリームについて詳述する。
【0021】
まず、本発明で使用する乳清ミネラルについて詳述する。
【0022】
乳清ミネラルとは、乳又はホエー(乳清)から、可能な限り蛋白質や乳糖を除去したものであり、高濃度に乳の灰分を含有するという特徴を有する。そのため、そのミネラル組成は、原料となる乳やホエー中のミネラル組成に近い比率となる。
【0023】
本発明で使用する乳清ミネラルとしては、とくに酸味強度の抑制効果が高い点で、固形分中のカルシウム含量が2質量%未満、特に1質量%未満の乳清ミネラルを使用することが好ましい。尚、該カルシウム含量は低いほど好ましい。
【0024】
牛乳から通常の製法で製造された乳清ミネラルは、固形分中のカルシウム含量が5質量%以上である。上記カルシウム含量が2質量%未満の乳清ミネラルは、乳又はホエーから、膜分離及び/又はイオン交換、さらには冷却により、乳糖及び蛋白質を除去して乳清ミネラルを得る際に、あらかじめカルシウムを低減した乳を使用した酸性ホエーを用いる方法、あるいは、甘性ホエーから乳清ミネラルを製造する際にカルシウムを除去する工程を挿入することで得ることができるが、工業的に実施する上での効率やコストの点で、甘性ホエーから乳清ミネラルを製造する際にある程度ミネラルを濃縮した後に、カルシウムを除去する工程を挿入することで得る方法を採ることが好ましい。ここで使用する脱カルシウムの方法としては、特に限定されず、調温保持による沈殿法等の公知の方法を採ることができる。
【0025】
本発明の水中油型クリームにおける上記乳清ミネラルの配合割合は、固形分として好ましくは0.01〜5質量%、より好ましくは0.1〜2質量%である。上記乳清ミネラルの配合割合が0.01質量%未満であると、本発明の効果が得られにくく、また、5質量%を超えると、苦味を感じるおそれがあることに加え、長期間保存時にひび割れをおこす等保存性が悪化するおそれがある。
【0026】
次に、本発明で使用する酢酸について詳述する。
【0027】
本発明で用いる酢酸は、一般に食品に採用されているもので、特に酢酸を含有する調味料である食酢として好ましく用いられる。食酢は、酢酸を主体とする揮発性、不揮発性の有機酸類、それに糖類、アミノ酸類、エステル類を含み芳香とうま味をもった液体で、醸造酢と合成酢に分類される。醸造酢は穀物や果実などを原料として酢酸発酵させたもので、米酢、りんご酢、ぶどう酢などがある。また、合成酢は氷酢酸を原料とするものである。本発明は醸造酢、合成酢いずれも用いられる。
【0028】
本発明における上記酢酸の使用量は、好ましくは0.01〜2質量%、より好ましくは0.1〜1質量%である。
【0029】
0.01質量%以下であると、保存性が悪化するという問題があり、2質量%超であると、酢酸からくる刺激的臭気を伴う酸味が感じられるようになってしまうという問題がある。
【0030】
なお、本発明の水中油型クリームでは、酢酸に加え、その他の酸を併用してもよい。
該その他の酸としては、乳酸、クエン酸、グルコン酸、アジピン酸、コハク酸、酒石酸、フマル酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、果汁、発酵乳等が挙げられ、これらを単独で用いるか又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
なお、上述のように食酢にはこれらの有機酸も含まれている。
【0031】
これらのその他の酸は、得られる水中油型クリームの水相のpHが下述の範囲となる範囲となる量を使用することができる。
【0032】
本発明の水中油型クリームで使用される油脂は、食用に適する油脂であればよく、その代表例としては、大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、べに花油、ひまわり油等の常温で液体の油脂が挙げられるが、その他に、パーム油、パーム核油、ヤシ油、サル脂、マンゴ脂、乳脂等の常温で固体の油脂も挙げられ、更に、これらの食用油脂の硬化油、分別油、エステル交換油等の物理的又は化学的処理を施した油脂を使用することもできる。
【0033】
またこれらの油脂を含有する食品も使用することができる。
【0034】
本発明では、これらの油脂の中でも、20℃において液状である油脂を使用することが好ましく、具体的には、大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、べに花油、ひまわり油、パーム分別軟部油、サル脂分別軟部油及びこれらの油脂の微水添油脂の中から選択される1種、又は2種以上の混合油脂が好ましく使用される。
【0035】
また、上記油脂には、トコフェロール等の酸化防止剤や、βカロチン等の着色剤の如き、油脂に溶解する成分や添加剤を加えてよい。
【0036】
本発明における上記油脂の含有量は、水中油型乳化の安定化のためには、5〜80質量%であればよいが、良好な保存性の水中油型クリームとするためには、好ましくは20〜60質量%、より好ましくは30〜50質量%とする。
【0037】
なお上記油脂の含有量には、使用原材料に含まれる油分を含めた純油分であり、たとえば下記の卵黄、乳や乳製品等に由来する油分も含むものである。
【0038】
本発明の水中油型クリームで使用される糖類としては特に限定されないが、例えば上白糖、グラニュー糖、粉糖、液糖、ブドウ糖、果糖、ショ糖、麦芽糖、乳糖、酵素糖化水飴、還元澱粉糖化物、異性化液糖、ショ糖結合水飴、オリゴ糖、還元糖ポリデキストロース、還元乳糖、ソルビトール、トレハロース、キシロース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖、ステビア、アスパルテーム等の糖類が挙げられる。これらの糖類は、単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
またこれらの糖類を含有する食品も使用することができる。
【0039】
本発明では、これらの糖類の中でも、AWを低くすることが可能な点で還元澱粉糖化物、異性化液糖、還元乳糖、ソルビトールのうちの1種または2種以上を使用することが好ましい。なお、甘味の質を良好なものとするためには、上白糖、グラニュー糖、粉糖及びショ糖のうちの1種または2種以上と、上記、還元澱粉糖化物、異性化液糖、還元乳糖、ソルビトールのうちの1種または2種以上を併用することが好ましい。
【0040】
本発明における上記糖類の含有量は、本発明の水中油型クリームのAWが下述のAW範囲となる量であるが、水中油型クリームに適度の甘味を付与するためには、好ましくは固形分として20〜70質量%、より好ましくは30〜50質量%とする。
【0041】
本発明の水中油型クリームで使用される水は、特に限定されず、通常の水道水、ミネラルウォーター、イオン交換処理水、蒸留水等の何れであってもよい。これらの水は、単独で用いることもでき、又は二種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0042】
上記水の含有量は、水中油型クリーム中、好ましくは2〜41質量%、更に好ましくは5〜20質量%である。
【0043】
なお上記水の含有量には、使用原材料に含まれる水分を含めた、純水分であり、たとえば下記の卵黄、水飴、液糖、食酢、乳や乳製品等に由来する水分も含むものである。
【0044】
また、本発明の水中油型クリームには、上記乳清ミネラル、食用油脂、酢酸、糖類及び水以外に、その他の副原料を、本発明の目的を損なわない限り、任意に使用することができる。該副原料としては、全卵、卵黄、卵白、加塩卵黄、加塩全卵、加糖全卵、加糖卵黄、乾燥全卵、乾燥卵黄、凍結全卵、凍結卵黄、凍結卵白、凍結加糖全卵、凍結加糖卵黄、酵素処理全卵、酵素処理卵黄等の卵類、グアーガム、タマリンドガム、キサンタンガム、カラギーナン、ペクチン、微結晶セルロース、ファーセレラン、寒天、ゼラチン、ジェランガム、グルコマンナン、アルギン酸、アルギン酸塩、カードラン、ローカストビーンガム、アラビアガム、プルラン、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、卵白粉末等の増粘多糖類やゲル化剤、澱粉、糊化澱粉、糊化化工澱粉等の澱粉類、直鎖デキストリン、分枝デキストリン、環状デキストリン等のデキストリン類、カレー粉、からし粉、胡椒等の香辛料や香辛料抽出物、加糖練乳、牛乳、発酵乳、生クリーム、チーズ、バター等の乳や乳製品、リンゴ、イチゴ、ブルーベリー、オレンジ、パイン、ゆず、すだち、かぼす、へべす、マンゴー、日向夏等のフルーツ果汁及びペースト、チョコレート、コーヒー、ナッツ類、ハチミツ、メープルシロップ、餡類、抹茶、よもぎ等の呈味原料、レシチン、リゾレシチン、グリセリン脂肪酸エステル等の乳化剤、カゼイン、ホエー蛋白質、乳脂肪球被膜蛋白質、大豆蛋白質等の蛋白質、香料、食塩、着色料、野菜類等が挙げられる。
【0045】
上記副原料の使用量は、使用目的等に応じて適宜選択することができるが、本発明の水中油型クリームにおいて合計で好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下とする。
【0046】
本発明の水中油型クリームは、酢酸やその他の酸、さらには必要に応じpH調整剤や酸性果汁等を用いて水相のpHが2〜6、好ましく3〜6、より好ましくは3.5〜6の範囲とする。上記pHが2未満であると、酸味が強すぎることに加え、得られる水中油型クリームがぼそつき、口溶けも悪くなるおそれがある。また、上記pHが6を超えると、得られる水中油型クリームの保存性が著しく悪化する。
【0047】
なお、上記のpH調整剤としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、乳酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、リン酸三カルシウム、クエン酸三ナトリウム等が挙げられ、これらの中から選ばれた1種または2種以上を用いることができる。
【0048】
本発明の水中油型クリームは、糖類やその他の副原料を用いてAW(水分活性)が0.8以下、好ましくは0.8未満、さらに好ましくは0.75以下、最も好ましくは0.75未満とする。AWが0.8超であると良好な保存性が得られないことに加え、良好な風味、とくに良好な甘味の水中油型クリームが得られない。
なお、AWの下限については、良好な爽やかな風味と口溶けが得られる点で好ましくは0.6以上、より好ましくは0.65以上とする。
【0049】
次に、本発明の水中油型クリームの好ましい製造方法について述べる。
【0050】
本発明の水中油型クリームは、乳清ミネラル及び酢酸を含有し、pHが2〜6、AWが0.8以下である水相と、油相とを乳化し、均質化することによって得ることができる。
【0051】
詳しくは、まず、水や乳などの水性原料に、乳清ミネラル、酢酸、糖類、必要に応じ、呈味原料、香料、着色料等を分散溶解させ、pHが2〜6、AWが0.8以下としたものを水相とし、一方、菜種油等の油脂に、香料、着色料等の副原料を分散させたものを油相とし、次いで、水相を撹拌しつつ油相を加え、水中油型予備乳化物を得る。これをコロイドミル、ホモミキサー等の乳化機で均質化処理し、必要に応じ仕上げ乳化を行い、本発明の水中油型クリームが得られる。
【0052】
なお、本発明の水中油型クリームの油相粒子の平均粒径は、20μm以下とすることが好ましく、10μm以下がさらに好ましく、5μm以下が最も好ましい。20μmを超えると、水中油型クリームの乳化安定性が低下しやすいことに加え、粘度が低下して好ましいボディ感や保型性が得られない場合がある。また、水中油型クリームの保存時に油分分離等が発生する危険性もあるので好ましくない。上記平均粒径は、例えば、島津製作所のレーザー回折式粒度分布測定機(SALD-2100型)や光学顕微鏡で測定することができる。
このようにして得られる本発明の水中油型クリームは、製菓・製パン用フィリングクリームとして好ましく使用することができるが、他にも、練込クリーム、焼きこみ用クリーム、包餡用クリーム、調理用クリーム等にも使用することができる。
【実施例】
【0053】
<乳清ミネラルの製造>
〔製造例1〕
チーズを製造する際に副産物として得られる甘性ホエーをナノ濾過膜分離した後、さらに逆浸透濾過膜分離により固形分が20質量%となるまで濃縮し、次いで、これをさらにエバポレーターで濃縮し、スプレードライ法により、固形分98質量%の乳清ミネラルAを得た。得られた乳清ミネラルAの固形分中のカルシウム含量は2.2質量%であった。
【0054】
〔製造例2〕
チーズを製造する際に副産物として得られる甘性ホエーをナノ濾過膜分離した後、さらに逆浸透濾過膜分離により固形分が20質量%となるまで濃縮し、次いで、80℃、20分の加熱処理をして生じた沈殿を遠心分離して除去し、これをさらにエバポレーターで濃縮し、スプレードライ法により、固形分98質量%の乳清ミネラルBを得た。得られた乳清ミネラルBの固形分中のカルシウム含量は0.4質量%であった。
【0055】
<水中油型クリームの製造>
〔実施例1〕
水16.8質量部、砂糖35質量部、りんご酢(酢酸含量10質量%)2.5質量部、乳清ミネラルA0.2質量部、及び、酵素処理10%加塩卵黄7質量部を混合して水相を調製した。別に、菜種サラダ油37.5質量部、ワキシーコーンスターチをリン酸架橋後に糊化した糊化化工澱粉0.8質量部、及びキサンタンガム0.2質量部を混合して油相を調製した。次いで、上記水相を撹拌しつつ上記油相を加え、水中油型予備乳化物を得、これをコロイドミルにて均質化し、本発明の水中油型クリームを得た。得られた水中油型クリームの水相のpHは4.1、AWは0.74であり、酸味がわずかに感じられたが、刺激臭は全く感じられなかった。また、光学顕微鏡下で測定したところ、油粒子の平均粒径が3μm以下であった。
【0056】
〔実施例2〕
乳清ミネラルA0.2質量部を乳清ミネラルB0.2質量部に変更した以外は実施例1の配合・製法で、本発明の水中油型クリームを得た。得られた水中油型クリームの水相のpHは4.0、AWは0.74であり、酸味がほとんど感じられず、刺激臭は全く感じられなかった。また、光学顕微鏡下で測定したところ、油粒子の平均粒径が3μm以下であった。
【0057】
〔比較例1〕
乳清ミネラルを無添加とし、水の配合量を17質量部に変更した以外は実施例1の配合・製法で、比較例の水中油型クリームを得た。得られた水中油型クリームの水相のpHは3.9、AWは0.74であり、やや鋭い酸味であり刺激臭を感じるものであった。また、光学顕微鏡下で測定したところ、油粒子の平均粒径が3μm以下であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳清ミネラル及び酢酸を含有し、水相のpHが2〜6、AWが0.8以下であることを特徴とする水中油型クリーム。
【請求項2】
上記乳清ミネラルの含量が0.01〜5質量%であることを特徴とする請求項1記載の水中油型クリーム。
【請求項3】
油脂含量が20〜60質量%である請求項2又は3記載の水中油型クリーム。
【請求項4】
上記乳清ミネラルの固形分中のカルシウム含量が2質量%未満である請求項1〜3のいずれかに記載の水中油型クリーム。
【請求項5】
乳清ミネラル及び酢酸を含有し、pHが2〜6、AWが0.8以下である水相と、油相とを乳化し、均質化することを特徴とする水中油型クリームの製造方法。

【公開番号】特開2010−75062(P2010−75062A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−244298(P2008−244298)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】