説明

無電極放電灯装置および照明器具

【課題】暗所における始動性を向上させつつ短寿命化や光学的特性の低下を防止することができる無電極放電灯装置および照明器具を提供することにある。
【解決手段】無電極放電灯装置は、ガラスにより形成され内部に放電ガスおよび水銀が封入されるとともに内側に窪んだ凹部4を有し且つ内側に蛍光体膜3が形成された気密容器1bと、気密容器1bの内部に配置される長残光蛍光体層(暗黒始動補助材)13とを備えた無電極放電ランプ1と、気密容器1bの内部に高周波電磁界を発生させる誘導コイル10と、誘導コイル10に高周波電流を通電する点灯回路(図示せず)とを備える。そして、長残光蛍光体層13が、凹部4の内側に配置された誘導コイル10から凹部4の開口部側に離れた位置に配置され且つ気密容器1bの内部に微放電を発生させる補助コイル(補助放電発生部)17が近傍に設けられてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電極放電灯装置および照明器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、図12に示すように、ガラスで形成され内部に希ガスなどの放電ガスおよび水銀が封入されるとともに内側に窪んだ凹部4を有し且つ内側に蛍光体膜(図示せず)が形成された気密容器1bを備えた無電極放電ランプ1と、気密容器1bの内部に高周波電磁界を発生させる誘導コイル10と、誘導コイル10に高周波電流を通電する点灯回路(図示せず)とを備え、誘導コイル10で発生した高周波電磁界により形成される誘導電磁界の作用により気密容器1bに封入された放電ガスを励起して発光させる無電極放電灯装置が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
ここにおいて、図12に示す構成の無電極放電灯装置は、点灯回路から高周波電流が誘導コイル10に供給されると、誘導コイル10の周囲に高周波電磁界が発生し、気密容器1bの内部の電子が加速され、気密容器1bの内部に封入された放電ガスへの電子の衝突により放電ガスが電離し放電が開始する。無電極放電ランプ1の放電中は、水銀原子が励起され、励起された原子が基底状態に戻るときに紫外線を発生する。この紫外線は、気密容器1bの内壁に形成された蛍光体膜により可視光に変換され、変換された可視光は、気密容器1bの外部に放射される。このように、無電極放電ランプ1は、気密容器1bの内部に電極を持たないため、電極の消耗による不点灯が発生せず、寿命が電極の寿命で制限されることがないので、一般的な蛍光ランプに比べて寿命が長いという特徴がある。
【0004】
ところで、一般の無電極放電ランプには、一般の蛍光ランプのように放電開始に必要な電子を発生させる熱陰極等の電子発生源がなく、放電開始に必要な電子は、放電ガス等が封入された気密容器に可視光などが当たることにより発生する。つまり、無電極放電ランプでは、可視光などによって気密容器内に偶然発生した電子(以下、偶発電子と称する)によって放電が開始される。従って、可視光等が当たらない暗所では、気密容器の内部に偶発電子がほとんど存在せず、無電極放電ランプが始動するまでに時間を要する場合があった。
【0005】
これに対して、図12に示した構成の無電極放電灯装置では、暗所において無電極放電ランプ1が始動するまでの時間を短縮するために、例えばセシウムやナトリウムなどの仕事関数の小さい金属(仕事関数の値は、セシウムが1.93eV、ナトリウムが2.2eV)が保持体18に塗布されてなる暗黒始動補助材が、気密容器1bの内部に配置されている。ここで、保持体18は、放電開始箇所に電子を供給することを考慮すれば、放電開始箇所の近傍、即ち、誘導コイル10の近傍に配置されるのが望ましく、図12に示すように、誘導コイル10の近傍に配置されている。しかして、保持体18に塗布された金属等から無電極放電ランプ1の始動に必要な電子が気密容器1b内部の放電開始箇所に供給されるので、暗所における始動時間、つまり点灯するまでの時間を短縮することができる。
【0006】
また、従来から、図13に示すように、上述のセシウムやナトリウムなどの仕事関数の小さい金属を塗布した保持体18が、気密容器1bの一部を構成するバルブ7と凹部4の底部との間に配置されてなり、暗所における始動時間、つまり、暗所において点灯するまでの時間を短縮することができる無電極放電灯装置が提案されている(特許文献2参照)。なお、図13において、図12と同様の構成要素については同一の符号を付して説明を省略する。
【0007】
また、従来から、図14に示すように、気密容器1bの内部に残光による光電効果により電子の放出を促す長残光蛍光体層13が形成されてなる無電極放電灯装置が提案されている(特許文献3参照)。ここで、長残光蛍光体層13は、放電開始箇所の近傍、即ち、誘導コイル10の近傍に配置されるのが望ましい。従って、長残光蛍光体層13は、図14に示すように、気密容器1bの内壁の凹部4に対応する部分における誘導コイル10の近傍に形成されている。しかして、長残光蛍光体層13から無電極放電ランプ1の始動に必要な電子が気密容器1b内部の放電空間に供給されるので、暗所における始動時間、つまり点灯を開始するまでの時間を短縮することができる。なお、図14において、図12と同様の構成要素については同一の符号を付して説明を省略する。
【特許文献1】特開2005−123157号公報
【特許文献2】特開2004−79444号公報
【特許文献3】特開2004−234945号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載された無電極放電灯装置(図12参照)では、保持体18が誘導コイル10の近傍に配置されていることにより、保持体18に塗布された金属等が放電によりスパッタされて蛍光体膜に付着して無電極放電ランプ1の光を放射する部分が黒く変色することで、無電極放電ランプが短寿命化するおそれがあった。
【0009】
また、保持体18が、気密容器1bの凹部4の底部側に配置されているので、誘導コイル10の近傍で発生する紫外線の一部が保持体18によって遮られ、無電極放電ランプの点灯時に影が発生するおそれがあった。
【0010】
一方、特許文献2に記載された無電極放電灯装置(図13参照)のように、暗黒始動補助材を塗布した保持体18が、誘導コイル10から離れた位置に配置されていると、保持体18に塗布された金属等が、放電によりスパッタされるのを防ぐことができる。しかしながら、保持体18が、誘導コイル10の近傍、即ち、放電開始箇所から離れた位置に配置されていることにより、放電開始箇所に電子が十分に供給されず、暗所における始動性を向上させることができないおそれがあった。
【0011】
また、特許文献3に記載された無電極放電灯装置(図14参照)では、長残光蛍光体層13が形成される部位が誘導コイル10近傍に位置するので、誘導コイル10で発生する熱で長残光蛍光体層13が高温になることで性能が劣化し、消灯後の残光時間が短くなる、即ち、暗所における始動性を長時間維持することができなくなるおそれがあった。
【0012】
一方、長残光蛍光体層13を誘導コイル10から比較的離れた箇所、即ち、放電開始箇所から離れた箇所に形成すると、長残光蛍光体層13が高温になるのを防止することができる。しかしながら、長残光蛍光体層13が、誘導コイル10の近傍、即ち、放電開始箇所から離れた位置に形成されているので、放電開始箇所に十分に電子を供給できず、暗所における始動補助性能が得られないおそれがあった。
【0013】
また、長残光蛍光体は、発光量や発光色が一般の蛍光体とは異なる。従って、暗所における始動補助性能を確保するために、長残光蛍光体層13を形成する領域を増やすと、無電極放電ランプ1の点灯時に色ムラが生じ、無電極放電ランプ1の光学的特性が低下するおそれがあった。
【0014】
本願発明は、上記事由に鑑みてなされたものであり、その目的は、暗所における始動性を向上させつつ短寿命化や光学的特性の低下を防止することができる無電極放電灯装置および照明器具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1の発明は、上記目的を達成するために、透光性材料により形成され内部に放電ガスおよび水銀が封入されるとともに内側に窪んだ凹部を有し且つ内側に蛍光体膜が形成された気密容器と、気密容器の内部に配置される暗黒状態での始動を補助するための暗黒始動補助材とを備えた無電極放電ランプと、気密容器の内部に高周波電磁界を発生させるための誘導コイルと、誘導コイルに高周波電流を通電する点灯回路とを備え、誘導コイルに高周波電流を通電することにより形成される高周波電磁界の作用により気密容器に封入された放電ガスを励起して発光させるものであって、暗黒始動補助材が前記凹部の内側における誘導コイルが配置される箇所から前記凹部の開口部側に離れた箇所に配置され且つ始動を補助するために気密容器の内部に放電を発生させる補助放電発生部が暗黒始動補助材の近傍に設けられてなることを特徴とする。
【0016】
この発明によれば、暗黒始動補助材の近傍に、始動を補助するために気密容器の内部に放電を発生させる補助放電発生部が設けられているので、暗所における始動性を向上させることができる。また、暗黒始動補助材が、前記凹部の内側における誘導コイルが配置される箇所から前記凹部の開口部側に離れた箇所に配置されているので、蛍光体膜の劣化や暗黒始動補助部材の劣化を抑制し、短寿命化や光学的特性の低下を防止することができる。
【0017】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記暗黒始動補助材が、長残光蛍光体からなることを特徴とする。
【0018】
この発明によれば、前記暗黒始動補助材が長残光蛍光体層からなるので、暗所における始動補助性能を長時間維持することができる。また、この発明によれば、前記気密容器の内側における前記凹部の開口部に対応する部位に長残光蛍光体層が形成されてなるので、前記無電極放電ランプの点灯時の色ムラの発生を抑制し、前記無電極放電ランプの光学的特性の低下を防止することができる。
【0019】
請求項3の発明は、請求項1の発明において、前記暗黒始動補助材が、単体金属の中で仕事関数が比較的小さい金属を塗布した部材からなることを特徴とする。
【0020】
この発明によれば、前記暗黒始動補助材を、前記凹部の内側における誘導コイルが配置される箇所から前記凹部の開口部側に離れた箇所、即ち、前記暗黒始動補助材の一部を構成する単体金属の中で比較的仕事関数の小さい金属が放電によりスパッタされる可能性が低い箇所に配置するので、当該金属が放電によりスパッタされて前記蛍光体膜に付着することにより、前記無電極放電ランプの光を放射する部分が黒く変色するのを抑制することができるので、前記無電極放電ランプの短寿命化を防止できる。また、この発明によれば、単体金属の中で比較的仕事関数の小さい金属が塗布された保持体が、前記凹部の内側における誘導コイルが配置される箇所から前記凹部の開口部側に離れた箇所に配置されるので、前記誘導コイルの近傍から放射される紫外線の一部が保持体により遮られることがなく、前記無電極放電ランプの点灯時に影が発生するのを防止することができる。
【0021】
請求項4の発明は、請求項1乃至請求項3の発明において、前記補助放電発生部が、一端部が前記誘導コイルに接続され且つ他端部が開放されてなる補助コイルからなることを特徴とする。
【0022】
この発明によれば、前記補助放電発生部は、前記気密容器の外部に配設された補助コイルからなることにより、補助コイルが前記気密容器内で発生した放電プラズマに晒されてダメージを受けることがなく、更に、前記気密容器の外部で補助コイルを交換することが可能となり、前記無電極放電ランプの寿命が補助コイルの寿命で制限されることがないので、前記無電極放電ランプの短寿命化を防止することができる。
【0023】
請求項5の発明は、請求項1乃至請求項3の発明において、前記補助放電発生部が、前記誘導コイルの両端部のいずれか一方に接続された金属板からなることを特徴とする。
【0024】
この発明によれば、前記補助放電発生部は、前記気密容器の外部に配設された金属板からなることにより、金属板が前記気密容器内で発生した放電プラズマに晒されてダメージを受けることがなく、更に、前記気密容器の外部で金属板を交換することが可能となり、前記無電極放電ランプの寿命が金属板の寿命で制限されることがないので、前記無電極放電ランプの短寿命化を防止することができる。
【0025】
請求項6の発明は、請求項1乃至請求項3の発明において、前記補助放電発生部が、前記誘導コイルのリード線の一部が前記気密容器の外周面に接してなることを特徴とする。
【0026】
この発明によれば、前記補助放電発生部は、前記誘導コイルのリード線の一部を前記気密容器の外周面に接するように折り曲げるという簡便な方法により形成されることにより、前記補助放電発生部を設けるための別部材が不要となるので、部品点数の削減を図ることができる。
【0027】
請求項7の発明は、請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の無電極放電灯装置を備えることを特徴とする。
【0028】
この発明によれば、請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の無電極放電灯装置を備えることにより、暗所における始動性を向上させつつ短寿命化や光学的特性の低下を防止できる。
【発明の効果】
【0029】
請求項1の発明によれば、暗黒始動補助材を前記凹部の内側における誘導コイルが配置される箇所から前記凹部の開口部側に離れた箇所に配置するとともに、補助放電発生部が暗黒始動補助材の近傍に設けられてなるので、暗所における始動性を向上させつつ短寿命化や光学的特性の低下を防止できる。
【0030】
請求項7の発明によれば、請求項1乃至請求項6いずれか1項に記載の無電極放電灯装置を備えるので、暗所における始動性を向上させつつ短寿命化や光学的特性の低下を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
(実施形態1)
以下、本実施形態の無電極放電灯装置について図1乃至図3に基づいて説明する。
【0032】
本実施形態の無電極放電灯装置は、図1に示すように、ガラスなどの透光性材料により形成され内部に放電ガスおよび水銀が封入されるとともに内側に窪んだ凹部4を有し且つ内側に蛍光体膜3(図2参照)が形成された気密容器1bとを備えた無電極放電ランプ1と、気密容器1bの内部に誘導電磁界を発生する誘導コイル10と、誘導コイル10に高周波電流を通電する点灯回路40(図3参照)とを備える。ここで、誘導コイル10は、カプラ8の一部を構成するボビン15の一部に巻回された形で気密容器1bの凹部4の内側に配設される。また、気密容器1bには、気密容器1bをカプラ8に固定するための口金12が装着されている。
【0033】
気密容器1bは、凹部4を有する電球形状の外管バルブ7と、一端部が封止され凹部4の底に溶着された他端部において内部空間が気密容器1b内部の放電空間に連通している排気管5とから形成されている。
【0034】
外管バルブ7の凹部4は、ガラスなどの透光性材料で形成され一端側を閉塞して底部が形成され且つ他端側が開口している円筒状の内管4aを、外管バルブ7の突出部7aの先端部に形成された開口部から外管バルブ7内部に挿入し、外管バルブ7の開口部の周縁と内管4aの開口部の周縁とを溶着することにより形成される。また、外管バルブ7の突出部7aには、周方向の全体に亘って内側に窪んだ係合凹部7bが形成されており、後述の口金12に形成された係合凸部12aと係合する。
【0035】
排気管5は、製造時に外管バルブ7内を排気するために用いられる。排気管5によって外管バルブ7内を排気した後、アマルガムを収納した金属容器6とガラス製のロッド61とが収められた状態で排気管5の上記一端部を封止することにより気密容器1bが形成される。また、排気管5の側壁には突部62が形成されており、突部62とロッド61との間に金属容器6が保持される。なお、金属容器6の内部には、ビスマス、インジウムおよび水銀からなる化合物で形成されたアマルガムが収納されている。
【0036】
また、気密容器1bの内部の放電空間には、アルゴンガスなどの希ガスからなる放電ガスが封入されている。
【0037】
蛍光体膜3は、図2に示すように、外管バルブ7の内面および内管4aの外周面に形成されている。ここで、蛍光体膜3は、外管バルブ7の内面および内管4aの外周面に形成された保護膜2上に積層する形で形成されている。なお、保護膜2は、AlやSiO等の金属酸化物で形成されている。
【0038】
口金12には、開口形状が略円形状の貫通穴12bが形成されており、内周面に内側へ突出した係合凸部12aが形成されている。当該貫通穴12bの一端側の開口部から気密容器1bの一部を構成する外管バルブ7の突出部7aが挿入され、当該突出部7aの周方向全体に亘って形成された係合凹部7bと口金12に形成された係合凸部12aとが係合することにより、気密容器1bに口金12が装着される。
【0039】
誘導コイル10は、気密容器1bの凹部4の内側に配設される。また、誘導コイル10の両端部は、図2に示すように、2本のリード線16に接続されている。なお、2本のリード線16それぞれは、管灯線31(図11参照)を介して点灯回路40に接続されている。
【0040】
カプラ8は、誘導コイル10と、誘導コイル10が一部に巻回されるボビン15と、ボビン15において誘導コイル10が巻回される部位の内側に配設されるフェライトコア9と、ボビン15の内側に一部が配設され凹部4の内側で発生した熱を凹部4の外側に放熱する放熱体11とを備える。
【0041】
ボビン15は、樹脂等の材料により形成され、誘導コイル10が外周面に巻回され内側にフェライトコア9が収納される誘導コイル巻回部15aと、後述の放熱体11の突台部11bが内側に配設される放熱体収納部15bとを備える。
【0042】
フェライトコア9は、円筒状に形成されており、ボビン15の誘導コイル巻回部15aの内側に3つ収納されている。なお、フェライトコア9は、例えば、亜鉛、マンガン、ニッケル、鉄等の金属化合物である磁性材料で形成されている。
【0043】
放熱体11は、アルミニウム等の金属材料で形成されるとともに、基台部11aと基台部11aより突出しボビン15の内側に配設される突台部11bとを備え、内側に排気管5を挿通するための挿通穴11cが貫設されている。また、突台部11bは、上述のボビン15の内側に配設される。また、基台部11aにおいて突台部11bが突出する側には、上述の口金12が嵌合する。しかして、無電極放電ランプ1がカプラ8に固定される。
【0044】
上述の無電極放電灯装置では、始動時に点灯回路40から高周波電流が供給されると、気密容器1bの内部における誘導コイル10の近傍で微放電(静電結合放電)が開始する。そして、高周波電流が大きくなると誘導コイル10の近傍に発生する磁界が強くなることで誘導放電(誘導結合放電)が開始され無電極放電ランプ1が点灯する。従って、誘導コイル10の近傍に上記偶発電子が存在しなければ、微放電が開始せず、始動遅れとなる可能性がある。また、無電極放電ランプ1の点灯中は、気密容器1b内に放電プラズマが発生している。
【0045】
ところで、本実施形態の無電極放電灯装置では、気密容器1bの内部に長残光蛍光体層13が形成されている。
【0046】
長残光蛍光体層13は、例えば、ユーロピウム、ディスプロシウム共付活アルミン酸ストロンチウム蛍光体(SrAl:Eu,DyまたはSrAl1425:Eu,Dy)、または、ユーロピウム、ネオジウム共付活アルミン酸カルシウム蛍光体(CaAl:Eu,Nd)などの長残光蛍光体で形成されている。なお、使用する長残光蛍光体としては、これらに限定されるものではない。
【0047】
長残光蛍光体層13を形成する長残光蛍光体は、残光時間が非常に長いという特徴がある。例えば、励起光が遮断されてから発光強度が1/10に減衰するまでの時間は、一般の蛍光体が数十ミリ秒であるのに対して、長残光蛍光体は数十分と非常に長い。また、長残光蛍光体は、特に近紫外線(波長が300nm〜380nmの光)で励起されて発光する。本実施形態の無電極放電ランプ1の放電による発光には、上記近紫外線が含まれているので、上述の長残光蛍光体層13を励起することができる。従って、本実施形態の無電極放電灯装置では、消灯後において、長残光蛍光体層13が非常に長時間、残光を維持することができるので、残光により暗黒状態での始動遅れを改善することができる。
【0048】
ところで、長残光蛍光体は、温度が低いほど残光が長く維持されるという性質を有する。従って、長残光蛍光体層13の残光をできるだけ長く維持するためには、長残光蛍光体層13を高温になる誘導コイル10の近傍からできるだけ離して配置するのが望ましい。一方、無電極放電ランプ1では、誘導コイル10の近傍に存在している電子が放電を開始するための種となる。従って、誘導コイル10の近傍になるべく多くの電子を供給して始動性を改善するためには、長残光蛍光体層13を誘導コイル10のなるべく近傍に形成するのが望ましい。
【0049】
これに対して、本実施形態では、図2に示すように、長残光蛍光体層13が凹部4の内側における誘導コイル10が配置される箇所から凹部4の開口部側に離れた箇所に形成されている。しかして、長残光蛍光体層13は、高温になる誘導コイル10の近傍から離れた箇所に形成されているので、長時間に亘って残光を維持できる。即ち、暗所における始動補助性能を長時間維持することができる。
【0050】
更に、本実施形態では、図2に示すように、長残光蛍光体層13の近傍に、誘導コイル10とは別に、始動を補助するために気密容器1bの内部に放電を発生させる補助放電発生部である補助コイル17が設けられている。ここで、補助コイル17は、一端部が誘導コイル10に接続され他端部が開放されている。つまり、図3に示すように、誘導コイル10は、両端部から引き出されたリード線16が点灯回路40に接続され、補助コイル17の一端部がリード線16に接続されている。しかして、長残光蛍光体層13が設けられた補助コイル17の近傍で微放電が開始しやすくなっていることにより、暗所における始動性を向上させることができる。
【0051】
また、長残光蛍光体は、蛍光体膜3を形成する蛍光体に比べて一般的に発光効率が低く、長残光蛍光体層13が形成された部位の光束量が低下する。また、長残光蛍光体の発光色は、上記蛍光体の発光色と異なるため、気密容器1bにおいて、長残光蛍光体層13が形成された箇所と蛍光体膜3が形成された箇所とで発光色が異なり点灯時に色ムラを生じることがあった。
【0052】
これに対して、本実施形態では、図2に示すように、長残光蛍光体層13が凹部4の内側における誘導コイル10が配置される箇所から凹部4の開口部側に離れた箇所に形成されてなるので、無電極放電ランプ1の点灯時に色ムラが生じることがなく、無電極放電ランプ1の光学的特性の低下を防止することができる。
【0053】
また、補助コイル17は、図2に示すように、気密容器1bの外部に配設されるカプラ8の一部を構成するボビン15に巻回されているので、補助コイル17が気密容器1b内で発生した放電プラズマに晒されてダメージを受けることがないので、無電極放電ランプ1の短寿命化を防止することができる。
【0054】
更に、カプラ8を気密容器1bの凹部4から取り外すことで、気密容器1bの外部で補助コイル17を交換することができるので、無電極放電ランプ1の寿命が補助コイル17の寿命で制限されることがなく、無電極放電ランプ1の短寿命化を防止することができる。
【0055】
(実施形態2)
本実施形態の無電極放電灯装置の基本構成は、実施形態1と略同じであり、実施形態1で説明した長残光蛍光体層13を設けずに、図4,5に示すように、単体金属の中で仕事関数が比較的小さい金属を塗布した部材からなる保持体18を気密容器1bの内部に配設してなる点が相違する。ここで、保持体18は、金属金網からなる。なお、実施形態1と同様の構成要素については同一の符号を付して説明を省略する。ここで、保持体18に塗布する単体金属としては、単体金属の中で最も仕事関数が小さいセシウムを塗布することが望ましく、本実施形態では、セシウムが保持体18に塗布されている。なお、保持体18に塗布する単体金属としては、これに限定されず、例えば、ナトリウムでもよい。
【0056】
保持体18は、一端部にフック28bが形成されたJ字状の支持線28aの他端部に取り付けられている。支持線28aは、フック28bが形成された一端部が排気管5内に挿入されるとともに、保持体18が固着された他端部が気密容器1b内の放電空間に導出された形で配置される。また、排気管5の側壁には支持線28aを排気管5内に係止するための係止用突部63が形成されており、支持線28aのフック28bが、係止用突部63に係止されることで、支持線28aが排気管5から抜けないように固定されている。
【0057】
また、保持体18は、凹部4の内側における誘導コイル10が配置される箇所から凹部4の開口部側に離れた箇所、即ち、保持体18に塗布されたセシウムが放電によりスパッタされる可能性が低い箇所に配置されている。しかして、保持体18に塗布されたセシウムが、放電によりスパッタされ、蛍光体膜3に付着して無電極放電ランプの光を放射する部分が黒く変色するのを抑制することができるので、無電極放電ランプ1の短寿命化を防止することができる。
【0058】
上述の補助コイル17は、保持体18の近傍に配置されていることにより、補助コイル17の近傍で微放電が開始しやすくなっている。しかして、無電極放電ランプ1の暗所における始動性を向上させることができる。
【0059】
ところで、保持体18は、凹部4の内側に配置された誘導コイル10から凹部4の開口部側に離れた箇所に配置される。しかして、気密容器1bの内部で発生した紫外線の一部が保持体18により遮られることがなく、無電極放電ランプ1の点灯中に影が発生するのを防止することができる。
【0060】
また、補助コイル17は、図2に示すように、気密容器1bの外部に配設されるカプラ8の一部を構成するボビン15に巻回されているので、補助コイル17が気密容器1b内で発生した放電プラズマに晒されてダメージを受けることがないので、無電極放電ランプ1の短寿命化を防止することができる。
【0061】
更に、カプラ8を気密容器1bの凹部4から取り外すことで、気密容器1bの外部で補助コイル17を交換することができるので、無電極放電ランプ1の寿命が補助コイル17の寿命で制限されることがなく、無電極放電ランプ1の短寿命化を防止することができる。
【0062】
(実施形態3)
本実施形態の無電極放電灯装置の基本構成は、実施形態1と略同じであり、補助放電発生部として、実施形態1で説明した補助コイル17の代わりに、図6に示すように、誘導コイル10に接続された金属板19が設けられてなる点が相違する。なお、実施形態1と同様の構成要素については同一の符号を付して説明を省略する。
【0063】
上述の長残光蛍光体層13は、実施形態1と同様に、凹部4の内側における誘導コイル10が配置される箇所から凹部4の開口部側に離れた箇所、即ち、放電により高温になる箇所から離れた位置に形成されている。従って、暗所における始動補助性能を長時間維持することができる。
【0064】
金属板19は、一端部が誘導コイル10の2本のリード線16のいずれか一方に接続され他端部が他方のリード線16の近傍まで延長されている。つまり、図7に示すように、誘導コイル10は、両端部が2本のリード線16を介して点灯回路40に接続され、一端部が一方のリード線16に接続された金属板19の他端部が、他方のリード線16の近傍まで延長されている。従って、始動時に、金属板19の上記他端部と他方のリード線16との間に強い電界が発生し、当該金属板19の上記他端部の近傍で微放電を発生させることができる。また、金属板19の上記他端部は、長残光蛍光体層13の近傍に配置される。しかして、無電極放電ランプ1の暗所における始動性を向上させることができる。
【0065】
また、金属板19は、気密容器1bの外部に配設されているので、金属板19が気密容器1b内で発生した放電プラズマに晒されてダメージを受けることがない。
【0066】
更に、カプラ8を気密容器1bの凹部4から取り外すことで、気密容器1bの外部で金属板19を交換することができるので、無電極放電ランプ1の寿命が金属板19の寿命で制限されることがなく、無電極放電ランプ1の短寿命化を防止することができる。
【0067】
(実施形態4)
本実施形態の無電極放電灯装置の基本構成は、実施形態2と略同じであり、補助放電発生部として、実施形態2で説明した補助コイル17の代わりに、図8に示すように、誘導コイル10に接続された金属板19が設けられてなる点が相違する。なお、実施形態2と同様の構成要素については同一の符号を付して説明を省略する。
【0068】
上述の保持体18は、実施形態2と同様に、凹部4の内側における誘導コイル10が配置される箇所から凹部4の開口部側に離れた箇所、即ち、保持体18に塗布されたセシウムが放電によりスパッタされる可能性が低い箇所に配置されている。従って、保持体18に塗布されたセシウムが、放電によりスパッタされて蛍光体膜3に付着して無電極放電ランプ1の光を放射する部分が黒く変色することを抑制できるので、無電極放電ランプ1の短寿命化を防止できる。
【0069】
金属板19は、実施形態3と同様に、一端部が誘導コイル10の2本のリード線16のいずれか一方に接続され他端部が他方のリード線16の近傍まで延長されている。従って、始動時に、金属板19の上記他端部と他方のリード線16との間に強い電界が発生し、金属板19の上記他端部の近傍で微放電を発生させることができる。また、金属板19の上記他端部は、保持体18の近傍に配置される。しかして、無電極放電ランプ1の暗所における始動性を向上させることができる。
【0070】
また、金属板19は、気密容器1bの外部に配設されているので、金属板19が気密容器1b内で発生した放電プラズマに晒されてダメージを受けることがない。
【0071】
更に、カプラ8を気密容器1bの凹部4から取り外すことで、気密容器1bの外部で金属板19を交換することができるので、無電極放電ランプ1の寿命が金属板19の寿命で制限されることがなく、無電極放電ランプ1の短寿命化を防止することができる。
【0072】
(実施形態5)
本実施形態の無電極放電灯装置の基本構成は、実施形態1と略同じであり、補助放電発生部として、実施形態1で説明した補助コイル17を設けずに、図9に示すように、誘導コイル10のリード線16の一部を気密容器1bの外周面に接するように折り曲げられてなる折曲部20を設けた点が相違する。なお、実施形態1と同様の構成要素については同一の符号を付して説明を省略する。
【0073】
上述の長残光蛍光体層13は、実施形態1と同様に、凹部4の内側における誘導コイル10が配置される箇所から凹部4の開口部側に離れた箇所、即ち、放電により高温になる箇所から離れた位置に形成されている。従って、暗所における始動補助性能を長時間維持することができる。
【0074】
また、長残光蛍光体層13の近傍に位置するリード線16の一部には、気密容器1bに接するように折り曲げてなる折曲部20が形成されていることにより、始動時において、折曲部20において微放電が発生しやすくなっている。しかして、無電極放電ランプ1の暗所における始動性を向上させることができる。
【0075】
また、補助放電発生部は、誘導コイル10のリード線16の一部を気密容器1bに接するように折り曲げるという簡便な方法で形成することにより、補助放電発生部を設けるための別部材が不要となるので、部品点数の増加を防ぎ、製造コストの上昇を防ぐことができる。
【0076】
(実施形態6)
本実施形態の無電極放電灯装置の基本構成は、実施形態2と略同じであり、補助放電発生部として、実施形態2で説明した補助コイル17を設けずに、図10に示すように、誘導コイル10のリード線16の一部を気密容器1bの外周面に接するように折り曲げられてなる折曲部20を設けた点が相違する。なお、実施形態2と同様の構成要素については同一の符号を付して説明を省略する。
【0077】
上述の保持体18は、実施形態2と同様に、凹部4の内側における誘導コイル10が配置される箇所から凹部4の開口部側に離れた箇所、即ち、保持体18に塗布されたセシウムが放電によりスパッタされる可能性が低い箇所に配置されている。従って、保持体18に塗布されたセシウムが、放電によりスパッタされ、蛍光体膜3に付着して無電極放電ランプ1の光を放射する部分が黒く変色することを抑制できるので、無電極放電ランプ1の短寿命化を防止できる。
【0078】
また、保持体18の近傍に位置するリード線16の一部には、気密容器1bに接するように折り曲げてなる折曲部20が形成されていることにより、始動時において、折曲部20において微放電が発生しやすくなっている。しかして、無電極放電ランプ1の暗所における始動性を向上させることができる。
【0079】
更に、補助放電発生部は、誘導コイル10のリード線16の一部を気密容器1bに接するように折り曲げるという簡便な方法で形成することにより、補助放電発生部を設けるための別部材が不要となるので、部品点数の増加を防ぎ、製造コストの上昇を防ぐことができる。
【0080】
(実施形態7)
図11に実施形態1で説明した無電極放電灯装置を備えた照明器具を示す。
【0081】
本実施形態の照明器具は、椀状の反射板30aとガラス等の透光性材料で形成された前面パネル30bとで構成された筐体30と、筐体30の内部に配置された無電極放電ランプ1と、筐体30とは別の場所に配置されカプラ8(図1参照)に高周波電流を供給することで無電極放電ランプ1を点灯させる点灯回路40(図3参照)を含む点灯装置32とを備え、点灯装置32内の点灯回路40とカプラ8とが管灯線31を介して電気的に接続されてなるものである。また、点灯装置32に電源線33を介して電源プラグ34が接続されている。電源プラグ34を商用電源(図示せず)に接続することで、商用電源から点灯装置32に電力が供給される。なお、無電極放電ランプ1から出射される光は前面パネル30bを透過して外部に放射される。
【0082】
本実施形態の照明器具は、実施形態1で説明した無電極放電灯装置を備えるので、暗所における始動性を向上させつつ短寿命化や光学的特性の低下を防止できる。
【0083】
なお、本実施形態では、実施形態1の無電極放電灯装置を備える例について説明したが、実施形態2乃至実施形態6で説明した無電極放電灯装置を備えたものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】実施形態1の無電極放電灯装置の要部概略断面図である。
【図2】同上の無電極放電灯装置の要部概略断面図である。
【図3】同上の無電極放電灯装置の概略回路図である。
【図4】実施形態2の無電極放電灯装置の要部概略断面図である。
【図5】同上の無電極放電灯装置の要部概略断面図である。
【図6】実施形態3の無電極放電灯装置の要部概略断面図である。
【図7】同上の無電極放電灯装置の概略回路図である。
【図8】実施形態4の無電極放電灯装置の要部概略断面図である。
【図9】実施形態5の無電極放電灯装置の要部概略断面図である。
【図10】実施形態6の無電極放電灯装置の要部概略断面図である。
【図11】実施形態7の照明器具の概略斜視図である。
【図12】従来例の概略断面図である。
【図13】他の従来例の概略断面図である。
【図14】他の従来例の概略断面図である。
【符号の説明】
【0085】
1 無電極放電ランプ
1b 気密容器
3 蛍光体膜
4 凹部
5 排気管
10 誘導コイル
13 長残光蛍光体層(暗黒始動補助材)
17 補助コイル(補助放電発生部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性材料により形成され内部に放電ガスおよび水銀が封入されるとともに内側に窪んだ凹部を有し且つ内側に蛍光体膜が形成された気密容器と、気密容器の内部に配置される暗黒状態での始動を補助するための暗黒始動補助材とを備えた無電極放電ランプと、気密容器の内部に高周波電磁界を発生させるための誘導コイルと、誘導コイルに高周波電流を通電する点灯回路とを備え、誘導コイルに高周波電流を通電することにより形成される高周波電磁界の作用により気密容器に封入された放電ガスを励起して発光させるものであって、暗黒始動補助材が前記凹部の内側における誘導コイルが配置される箇所から前記凹部の開口部側に離れた箇所に配置され且つ始動を補助するために気密容器の内部に放電を発生させる補助放電発生部が暗黒始動補助材の近傍に設けられてなることを特徴とする無電極放電灯装置。
【請求項2】
前記暗黒始動補助材が、長残光蛍光体から形成されてなることを特徴とする請求項1記載の無電極放電灯装置。
【請求項3】
前記暗黒始動補助材が、単体金属の中で仕事関数が比較的小さい金属を塗布した部材からなることを特徴とする請求項1記載の無電極放電灯装置。
【請求項4】
前記補助放電発生部は、一端部が前記誘導コイルに接続され且つ他端部が開放されてなる補助コイルからなることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の無電極放電灯装置。
【請求項5】
前記補助放電発生部は、前記誘導コイルの両端部のいずれか一方に接続された金属板からなることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の無電極放電灯装置。
【請求項6】
前記補助放電発生部は、前記誘導コイルのリード線の一部が前記気密容器の外周面に接してなることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の無電極放電灯装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の無電極放電灯装置を備えることを特徴とする照明器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−9873(P2010−9873A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−166268(P2008−166268)
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】