説明

無電解メッキ液の管理方法および管理装置

【課題】劣化した無電解メッキ液を交換する時点を正確かつ簡便に検出する無電解メッキ液の管理方法および管理装置を提供する。
【解決手段】金属イオンと還元剤を含む無電解メッキ液を用いたメッキ処理において、メッキ処理の進行により劣化した無電解メッキ液を交換する時点を検出する無電解メッキ液の管理方法であって、前記無電解メッキ液の電気伝導度の変化により無電解メッキ液の交換時点を検出する。無電解メッキ処理の進行により劣化した無電解メッキ液を交換する時点を検出する無電解メッキ液の管理装置であって、前記無電解メッキ液の電気伝導度を測定する測定手段と、測定された電気伝導度の変化により無電解メッキ液の交換時点を検出する検出手段を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属イオンと還元剤を含む無電解メッキ液の管理方法および管理装置に関し、特に無電解Niメッキ液の管理方法および管理装置に関するものである。
また、本発明は、上記の無電解Niメッキ液の管理方法および管理装置を用いた無電解メッキ方法および無電解メッキ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属イオンと還元剤を含む無電解Niメッキ液では、メッキ処理の進行により、還元剤の酸化と、金属イオンの消耗に伴う補給と、pH変動に伴う調整の為に種々のイオン蓄積がありメッキ液が劣化する。そのためメッキ処理の進行により劣化したメッキ液を廃棄して新しいメッキ液と交換する必要が有った。
【0003】
劣化したメッキ液の検出方法として、従来は、還元剤の酸化したイオン種や金属イオンの対イオンを分析する方法、又は簡便的にはその金属イオンの消費を代表して示すターン数を知ることで交換する時点の検出していた。この様なメッキ液を検出する装置は、非特許文献1および2等に開示されているが、何れもそのメッキ液の劣化を正確に示すものではなく暫定的な指標として使用していた。
【非特許文献1】「メッキ浴の自動管理」、表面技術Vol.34、No6、1983年
【非特許文献2】「メッキ浴の自動管理」、表面技術Vol.34、No6、1983年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、この様な背景技術に鑑みてなされたものであり、劣化した無電解メッキ液を交換する時点を正確かつ簡便に検出する無電解メッキ液の管理方法および管理装置を提供するものである。
【0005】
また、本発明は、上記の無電解Niメッキ液の管理方法および管理装置を用いた無電解メッキ方法および無電解メッキ装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決する無電解メッキ液の管理方法は、金属イオンと還元剤を含む無電解メッキ液を用いたメッキ処理において、メッキ処理の進行により劣化した無電解メッキ液を交換する時点を検出する無電解メッキ液の管理方法であって、前記無電解メッキ液の電気伝導度の変化により無電解メッキ液の交換時点を検出することを特徴とする。
【0007】
上記の課題を解決する無電解メッキ液の管理装置は、金属イオンと還元剤を含む無電解メッキ液を用いたメッキ処理において、メッキ処理の進行により劣化した無電解メッキ液を交換する時点を検出する無電解メッキ液の管理装置であって、前記無電解メッキ液の電気伝導度を測定する測定手段と、測定された電気伝導度の変化により無電解メッキ液の交換時点を検出する検出手段を有することを特徴とする。
【0008】
上記の課題を解決する無電解メッキ方法は、上記の無電解メッキ液の管理方法により、無電解メッキ液を交換することを特徴とする。
上記の課題を解決する無電解メッキ装置は、上記の無電解メッキ液の管理装置を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、劣化した無電解メッキ液を交換する時点を正確かつ簡便に検出する無電解メッキ液の管理方法および管理装置を提供できる。
また、本発明は、上記の無電解Niメッキ液の管理方法および管理装置を用いた無電解メッキ方法および無電解メッキ装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る無電解メッキ液の管理方法は、金属イオンと還元剤を含む無電解メッキ液を用いたメッキ処理において、メッキ処理の進行により劣化した無電解メッキ液を交換する時点を検出する無電解メッキ液の管理方法であって、前記無電解メッキ液の電気伝導度の変化により無電解メッキ液の交換時点を検出することを特徴とする。
【0011】
上記の無電解メッキ液の管理方法においては、無電解メッキ液の電気伝導度を測定し、予め設定された電気伝導度の値を超えた時を無電解メッキ液の交換時点とするのが好ましい。
【0012】
本発明において、無電解メッキ液には、無電解Niメッキ液、無電解銅メッキ液、無電解金メッキ液等を用いることができる。
次に、本発明を図面により無電解Niメッキ液を用いた例について詳細に説明する。
【0013】
図1は本発明に係る無電解メッキ液の管理装置の一実施態様を示す概念図である。図1において、1は無電解Niメッキ浴でNi濃度とpHが一定にコントロールされている。無電解Niメッキ浴は市販の何れの液でも使用可能で特に制限は無い。Ni濃度とpHのコントロールは、例えば市販の中央製作所株式会社製のESNICONやカニゼン株式会社製のCAAC−752等が用いられるが特に制限は無い。
【0014】
2は冷却装置であり、通常メッキ浴は90℃前後に加熱されており、正確な電気伝導度を測定する為に必要に応じて冷却される。
3は電気伝導度計でメッキ浴の無電解メッキ液の電気伝導度を測定する。測定は市販の導電率計が用いられ、特に制限は無いが、高温使用に耐えられるものが良く、例えばテックジャパン社製のSC−72が用いられる。
【0015】
4は測定装置であり、冷却された無電解メッキ液の電気伝導度を測定する。5は演算装置であり、測定装置4で測定された無電解メッキ液の電気伝導度の測定値を演算し、設定値からの差を結果として表示する装置である。
【0016】
本発明に係る無電解メッキ液の管理装置は上記の図1に示す様に構成され、金属イオンと還元剤を含む無電解メッキ液を用いたメッキ処理において、メッキ処理の進行により劣化した無電解メッキ液を交換する時点を検出する無電解メッキ液の管理装置である。前記無電解メッキ液の電気伝導度を測定する測定手段である電気伝導度計3と測定装置4とを有し、測定された電気伝導度の変化により無電解メッキ液の交換時点を検出する検出手段である演算装置5を有することを特徴とする。
【0017】
前記検出手段である演算装置5により、測定した無電解メッキ液の電気伝導度が予め設定された電気伝導度の値を超えた時を無電解メッキ液の交換時点を知ることができる。
本発明の無電解メッキ方法は、上記の無電解メッキ液の管理方法により、無電解メッキ液を交換することを特徴とする。
【0018】
本発明の無電解メッキ装置は、上記の無電解メッキ液の管理装置を具備することを特徴とする。
【実施例】
【0019】
以下、実施例を示し本発明をさらに具体的に説明する。
実施例1
無電解Niメッキ液(Ni5g/L・次亜燐酸20g/L)を90℃に加温したメッキ浴を用いた。厚さ50μmのPETフィルムをサンドブラストで粗化し、Pdにより導電化処理した後、前記メッキ浴を用いて、厚さ5μmのメッキ皮膜を連続的に形成した。メッキ液は自動コントローラー(カニゼン株式会社製、CAAC−752ST)により、Ni濃度は25g/Lに、pHは4.70に自動で管理されている。無電解Niメッキ液は使用に伴い劣化し、50μのPETフィルム上にフクレが発生する時点で液交換を行なった。
【0020】
またメッキ液の電気伝導度を導電率計(テックジャパン社製、SC−72)により随時測定した。以上の評価を7回繰り返し、その結果を図2−1から図2−7に示す。第1回は、メッキ浴中のメッキ液のメッキ処理の進行によりフクレが発生して劣化したメッキ液の電気伝導度を測定した後、第1回のメッキ液を廃棄した。次に、メッキ浴に第2回の新しいメッキ液を入れ、第1回と同様にメッキ処理して、電気伝導度を測定した。同様の操作を7回繰り返した。電気伝導度は25℃換算で表示された値であり、測定温度は30乃至40℃である。
【0021】
表1には、7回のフクレが発生した時点での電気伝導度を示す。表1から、液劣化表示としての電気伝導度は105乃至115ms/Sで±5ms/Sの幅で高い信頼性が得られた。なお、図2−1から図2−7は、メッキ回数が第1回から第7回の電気伝導度の変化を示す。
【0022】
【表1】

【0023】
比較例1
実施例1記載の条件で7回のメッキ試験を行い、50μのPETフィルム上にフクレが発生した時点のターン数と、フクレが発生する時点でのメッキ液に含まれる反応蓄積物の亜燐酸イオン濃度と、硫酸イオン濃度と、Na濃度の各々を図3乃至図6に示す。
【0024】
亜燐酸イオン濃度と、硫酸イオン濃度はキャピラリー電気泳動法にて測定した。Na濃度はNa濃度計にて測定した。
図3はターン数に基づき表示したものである。ターン数はNi消費量からの液使用状態を表示した値である。例えば、初期のメッキ液のNiイオン濃度が5g/Lで、メッキ液が10Lとすると、Niの総和は50gとなる。50gのNiを消費した時を1ターンとする。図3から、7回のフクレ発生時点が1.2ターン乃至2.5ターンとして得られ、ばらつき幅が1.3ターンと大きく、液寿命を示す信頼度は低い。
【0025】
図4は、蓄積イオンとして亜燐酸イオン濃度を示す。亜燐酸イオン濃度では25乃至35g/Lの間でバラツキがあり、信頼度は低い。
図5は、蓄積イオンとして硫酸イオン濃度を示す。硫酸イオン濃度では4乃至13g/Lの間でバラツキがあり、信頼度は低い。
【0026】
図6は、蓄積イオンとしてNaイオン濃度を示す。Naイオン濃度では14乃至30g/Lの間でバラツキがあり、信頼度は低い。
実施例2
SPC(冷間圧延鋼板)材に初期から次第に液劣化させた無電解Ni液にて皮膜を3μ析出させたサンプルを、5%の塩水噴霧テスト5時間後に錆びの発生を観察し、レーティング番号8の時点のメッキ液の電気伝導度とターン数と亜燐酸濃度測定を5回行った。その結果を表2に示す。
【0027】
【表2】

【0028】
表2において、電気伝導度では301乃至314(ms/S)で幅14(ms/S)を、ターン数では4.8乃至6.8(ターン)で幅2(ターン)を、亜燐酸濃度で98乃至157(g/L)で幅59(g/L)をそれぞれ得た。以上の様に電気伝導度の値は正確に液劣化を示している。
【0029】
実施例3
実施例2で行なったサンプル作成に当たって、90℃のメッキ液を冷却管を通じて50℃に冷却し、導電率計(テックジャパン社製、SC−72)を用いて測定し予め設定した導電率310(ms/S)に達した時点で外部への表示をする装置を用いて一連の作業を行い、簡便で高い信頼性を有する装置で稼働した。
【0030】
以上の様に、本発明は、電気伝導度を測定することで、メッキ液の劣化に伴う液寿命を簡便にかつ、高信頼性で測定し、かつ装置とすることで品質管理が容易かつ高信頼性が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の無電解メッキ液の管理方法および管理装置は、劣化した無電解メッキ液を交換する時点を正確かつ簡便に検出できるので、無電解メッキ方法および装置に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る無電解メッキ液の管理装置の一実施態様を示す概念図である。
【図2−1】本発明の実施例1の無電解メッキ液の電気伝導度の変化を示す図である。
【図2−2】本発明の実施例1の無電解メッキ液の電気伝導度の変化を示す図である。
【図2−3】本発明の実施例1の無電解メッキ液の電気伝導度の変化を示す図である。
【図2−4】本発明の実施例1の無電解メッキ液の電気伝導度の変化を示す図である。
【図2−5】本発明の実施例1の無電解メッキ液の電気伝導度の変化を示す図である。
【図2−6】本発明の実施例1の無電解メッキ液の電気伝導度の変化を示す図である。
【図2−7】本発明の実施例1の無電解メッキ液の電気伝導度の変化を示す図である。
【図3】比較例1の無電解メッキ液のターン数の変化を示す図である。
【図4】比較例1の無電解メッキ液の亜燐酸イオン濃度の変化を示す図である。
【図5】比較例1の無電解メッキ液の硫酸イオン濃度の変化を示す図である。
【図6】比較例1の無電解メッキ液のNaイオン濃度の変化を示す図である。
【符号の説明】
【0033】
1 無電解Niメッキ浴
2 冷却装置
3 電気伝導度計
4 測定装置
5 演算装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属イオンと還元剤を含む無電解メッキ液を用いたメッキ処理において、メッキ処理の進行により劣化した無電解メッキ液を交換する時点を検出する無電解メッキ液の管理方法であって、前記無電解メッキ液の電気伝導度の変化により無電解メッキ液の交換時点を検出することを特徴とする無電解メッキ液の管理方法。
【請求項2】
前記無電解メッキ液の電気伝導度を測定し、予め設定された電気伝導度の値を超えた時を無電解メッキ液の交換時点とする請求項1に記載の無電解メッキ液の管理方法。
【請求項3】
金属イオンと還元剤を含む無電解メッキ液を用いたメッキ処理において、メッキ処理の進行により劣化した無電解メッキ液を交換する時点を検出する無電解メッキ液の管理装置であって、前記無電解メッキ液の電気伝導度を測定する測定手段と、測定された電気伝導度の変化により無電解メッキ液の交換時点を検出する検出手段を有することを特徴とする無電解メッキ液の管理装置。
【請求項4】
前記検出手段が、測定した無電解メッキ液の電気伝導度が予め設定された電気伝導度の値を超えた時を無電解メッキ液の交換時点とする請求項3に記載の無電解メッキ液の管理装置。
【請求項5】
請求項1または2に記載の無電解メッキ液の管理方法により、無電解メッキ液を交換することを特徴とする無電解メッキ方法。
【請求項6】
請求項3または4に記載の無電解メッキ液の管理装置を具備することを特徴とする無電解メッキ装置。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図2−3】
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【図2−4】
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【図2−5】
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【図2−6】
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【図2−7】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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