説明

焼尽性容器

【課題】大量の火薬を確実かつ安全に封入できる強い強度を有し、火薬と共に完全に焼尽し、簡便に製造できる安価な砲弾射撃用や空砲用の焼尽性容器を提供する。
【解決手段】焼尽性容器1は、火薬4を筒状の容器本体3に充填して上蓋2で塞いで封入し砲身5の薬室に装填される焼尽性容器であって、該容器本体3と該上蓋2とが、草本植物に由来する繊維、灌木植物に由来する繊維、及び/又は喬木植物に由来する繊維を含んで成型されている。前記容器本体3と前記上蓋2とが、前記繊維を15〜80重量部と、ニトロセルロースを最大でも80重量部と、バインダーを最大でも20重量部とを含んでいる。前記草本植物が、ケナフ、アサ、アマ、アバカ、タケ、及びワタから選ばれる少なくとも何れかであり、前記灌木植物が、コウゾ、ミツマタ、及びガンピから選ばれる少なくとも何れかである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、砲弾射撃や空砲の際、発射薬や点火薬等の火薬を封入して、砲身の薬室に装填するために使用される焼尽性容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
大砲のような重火器の砲弾射撃の際には、発射薬や点火薬のような火薬が薄層の容器に封入されて、砲身の薬室に装填され、その上に弾丸が載置される。この火薬が点火されると爆発的な燃焼を引き起こし、その燃焼ガス圧力により弾丸が発射される。
【0003】
この容器は、輸送・保管中、又は装填中に破損しない充分な強度と、火薬を燃焼させて弾丸を発射したり空砲で訓練したりする際に砲身内に燃焼残渣を残さない焼尽性とを、兼ね備えている必要がある。
【0004】
このような容器の強度を向上させるために、例えば特許文献1には、燃焼性繊維が分散したスラリーを吸引抄造し、得られた粗筒体を雌金型に入れ、粗筒体の内側に可撓性膜袋体を挿入し、その袋体に加温した水を送り、温められた袋体と加熱した雌金型とで粗燃焼性筒体を両面から加熱しつつ圧搾して脱水固化させる燃焼性筒体の製造方法が記載されている。その燃焼性繊維として、ニトロセルロースとクラフトパルプとが用いられている。
【0005】
特許文献2には、外周に沿って波打った形状を有し底板で塞がれた外側筒と、その中央で貫通した内側筒とが、ニトロセルロースとクラフトパルプとを主成分とする焼尽性材料で形成されており、それらの間に薬剤を充填する薬剤充填容器が、記載されている。
【0006】
これらに用いられているクラフトパルプは、天然繊維の木材パルプである。
【0007】
また、特許文献3には、ニトロセルロースのナイトレートエステル基の一部を不活性なエステル基で置換した難燃化性ニトロセルロースと、アラミド繊維等の補強用合成繊維との混合物で成形された焼尽性容器が記載されている。
【0008】
クラフトパルプとニトロセルロースとを含むスラリーで容器を成型してもその強度は比較的弱い。さらにニトロセルロース類と疎水性の合成繊維とを水に混合しても均質なスラリーとなり難い。
【0009】
最近の砲弾の大型化や発射速度の高速化のために火薬量を増加させることに伴い一層強い強度を有し、しかも均質なスラリーから歩留まり良く製造できる焼尽性の容器の開発が望まれていた。
【0010】
【特許文献1】特開平01−188484号公報
【特許文献2】特開2005−140458号公報
【特許文献3】特開平09−89499号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、大量の火薬を確実かつ安全に封入できる強い強度を有し、火薬と共に完全に焼尽し、簡便に製造できる砲弾射撃用や空砲用の焼尽性容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の目的を達成するためになされた特許請求の範囲の請求項1に記載の焼尽性容器は、火薬を筒状の容器本体に充填して上蓋で塞いで封入し砲身薬室に装填される焼尽性容器であって、該容器本体と該上蓋とが、草本植物に由来する繊維、灌木植物に由来する繊維、及び/又は喬木植物に由来する繊維を含んで成型されていることを特徴とする。
【0013】
請求項2に記載の焼尽性容器は、請求項1の焼尽性容器であって、該容器本体と該上蓋とが、前記繊維を少なくとも15重量%含んで成型されていることを特徴とする。
【0014】
請求項3に記載の焼尽性容器は、請求項1の焼尽性容器であって、前記容器本体と前記上蓋とが、前記繊維を15〜80重量部と、ニトロセルロースを最大でも80重量部と、バインダーを最大でも20重量部とを含んでいることを特徴とする。
【0015】
このような焼尽性容器は、この繊維と必要に応じニトロセルロースやバインダーとが含まれたスラリーを漉き成形したものである。
【0016】
請求項4に記載の焼尽性容器は、請求項1の焼尽性容器であって、前記草本植物が、ケナフ、アサ、アマ、アバカ、タケ、及びワタから選ばれる少なくとも何れかであり、前記灌木植物が、コウゾ、ミツマタ、及びガンピから選ばれる少なくとも何れかであることを特徴とする。
【0017】
請求項5に記載の焼尽性容器は、請求項4の焼尽性容器であって、前記繊維が、前記ケナフ、アサ、アマ、アバカ、及びタケの少なくとも何れかの茎の組織、前記ワタの綿花の組織、前記コウゾ、ミツマタ、及びガンピの少なくとも何れかの樹皮の組織であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の焼尽性容器は、草本植物や灌木植物や喬木植物により、強い引張強度や破断強度を示す。特に、この焼尽性容器に用いられる草本植物とりわけ縄や紙の原料となるケナフ等に由来する非木材繊維、又は灌木植物とりわけ和紙の原料となるコウゾ等に由来する非木材繊維が、従来の容器に用いられる針葉樹等の喬木植物に由来する木材パルプのような繊維よりも遥かに長い繊維長と繊維表面の強い粘り気とを有しているから絡み易いうえ強く絡み合って解され難いことに起因する。そのため、この焼尽性容器は、多量の火薬を封入したり、多数積み重ねたりしても、破損の恐れが無いというものである。
【0019】
また、この焼尽性容器に用いられる草本植物、灌木植物又は喬木植物に由来する繊維もニトロセルロースも、火薬とともに極めて早く、完全に燃え尽きるものである。そのため、砲弾射撃等の際に、焼尽性容器が燃焼しても燃焼残渣を生じず、射撃する度に面倒な清浄処理をする必要がない。この焼尽性容器を用いると、安全かつ効率良く簡便に、連続して射撃を行うことができる。
【発明を実施するための好ましい形態】
【0020】
以下、本発明の実施の好ましい形態について図1を参照しながら詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。本発明を適用する焼尽性容器は、以下のように製造される。
【0021】
草本植物であるアバカの茎を叩解して得た繊維の30重量%と、ニトロセルロースと、バインダーである合成樹脂とを水に懸濁させて、スラリーを得る。スラリーを漉簀で吸引抄造した後、略円筒形の金型に押し付けて、加熱しながら圧搾して脱水固化させ、円筒状有底で上端近傍がやや細まった容器本体3を成形する。同様にして、容器本体3の上端に嵌合する上蓋2を成形する。容器本体3に火薬4を充填し、容器本体3の上端近傍の外周に、接着剤を塗った後、容器本体3の上端に上蓋2を嵌合し、焼尽性容器1を得る。
【0022】
なお、焼尽性容器に用いられる繊維は、草本植物及び/又は灌木植物に由来するものであってもよく、それに代えて又はそれとともに喬木植物に由来するものであってもよい。
【0023】
草本植物の内、ケナフはアオイ科植物、アサは麻とも称されアサ科植物、アマは亜麻とも称されアマ科植物、アバカはマニラ麻とも称されバナナ科植物であって、いずれの乾燥した茎の靭皮部からも、繊維を含有した組織が採取される。またタケは竹とも称されイネ科植物であって、乾燥した中空木本状茎から、繊維を含有した組織が採取される。ワタは綿とも称されアオイ科植物で、綿花から繊維を含有した組織が採取される。
【0024】
灌木植物の内、コウゾは楮とも称されクワ科低木植物、ミツマタは三椏とも称されジンチョウゲ科低木植物、ガンピは雁皮とも称されジンチョウゲ科低木植物で、いずれの乾燥した樹皮からも、繊維を含有した組織が採取される。
【0025】
喬木植物は、針葉樹であっても広葉樹であってもよいが、クラフトパルプの原材であることが好ましく、未晒し品であることが好ましい。
【0026】
採取された組織は乾燥された後、裂かれたり解されたり必要に応じ切断されたり、化学的パルプ化処理されたりして、平均径5〜40μmで平均長3〜12mmの繊維となる。脱脂綿のように脱脂されてもよい。
【0027】
焼尽性容器は、上記繊維の15〜80重量%と、ニトロセルロースの0〜80重量%と、必要に応じて合成樹脂の0〜20重量%とを含んでいることが好ましい。上記繊維の量が15重量%を下回ると、焼尽性容器の所期の強度が得られない。また、ニトロセルロースを含んでいると、完全に燃焼し易くなるが、必要に応じ含まなくてもよい。一方、ニトロセルロースの量が80重量%を上回ると、焼尽性容器の所期の強度が得られない。焼尽性容器は、合成樹脂を含まず、上記繊維とニトロセルロースと水とからなるスラリーによって得られていてもよい。
【0028】
バインダーは、乳化重合スチレンブタジエンゴムや溶液重合スチレンブタジエンゴムのような合成樹脂が挙げられる。
【0029】
焼尽性容器の形状は、筒型であれば特に限定されない。例えば、円筒状、角筒状、外周が波打った円筒状あってもよく、中空を有するドーナツ状であってもよい。
【0030】
本発明を適用する焼尽性容器は、以下のようにして使用される。
【0031】
図1に示すように、砲身5の薬室内の砲尾6側に、焼尽性容器1と、その上に砲弾(不図示)とを装填し、砲尾6に付設されている閉鎖機7により、砲尾6を閉鎖する。砲尾6に設けられた火管(不図示)を発火させると、砲尾6側の焼尽性容器1内にある火薬4の燃焼を誘起する。火薬4の燃焼が開始した部位は非常に迅速に逐次、周りの火薬4の燃焼を誘発する。その結果、火薬4の燃焼は瞬時に爆発的な燃焼となって進行し、燃焼ガスの圧力により、砲弾が押し出され、発射される。
【0032】
焼尽性容器は、焼尽性であるため燃焼残渣を残さずに、完全燃焼する。そのため、砲身内やそれの薬室内の壁面は汚染されることがなく清浄が維持される。砲弾発射後、閉鎖機を開け、同様の操作が、繰り返される。
【実施例】
【0033】
以下に、本発明を適用する焼尽性容器について具体的に説明する。
【0034】
先ず、本発明を適用する焼尽性容器に含まれる草本植物及び/又は灌木植物に由来する非木材の繊維の強度、及び本発明を適用する焼尽性容器に含まれる喬木植物に由来する木材繊維の強度を評価した。
【0035】
(繊維の強度評価試験)
本発明を適用する焼尽性容器の容器本体と上蓋とに含まれる繊維、本発明適用外の焼尽性容器に含まれる繊維の引っ張り強度及び破断強度を評価した。
【0036】
(試験片Aの作製)
アバカの茎を叩解して平均繊維長3〜12mmとした繊維の30重量部とニトロセルロースの70重量部とを水に分散させたスラリーを吸引抄造した後、圧搾乾燥させて密度が約0.60g/cmのディスク状試験片Aを二つ得た。また、密度が約0.70,0.80及び0.90g/cmのディスク状試験片A〜Aを夫々二つずつ得た。
【0037】
(試験片Bの作製)
針葉樹の未晒し品の木質部を叩解して平均繊維長2〜4.5mmとした繊維を用いたこと以外は、試験片Aの作製と同様にして、ディスク状試験片B〜Bを夫々二つずつ得た。
【0038】
(対照試験片Dの作製)
針葉樹の晒し品の木質部を叩解して平均繊維長2〜4.5mmとした木材繊維を用いたこと以外は、試験片Aの作製と同様にして、ディスク状の対照試験片D〜Dを夫々二つずつ得た。
【0039】
試験片群A〜Bと対照試験片群Dとについて、引張強度試験を行った。
【0040】
(1)引張強度評価
JIS K6251に準じ、作製した試験片A〜A、B〜B、対照試験片D〜Dをダンベル片に切り出し、引張強度試験を行った。
【0041】
その結果をまとめて図2に示す。図2から明らかな通り、試験片A〜Bは何れも、対照試験片Dよりも引張強度が強かった。特に試験片Aは、対照試験片Dよりも約1.5倍も引張強度が強かった。このことは、試験片A〜Bで用いた草本植物や灌木植物に由来する非木材繊維の方が、対照試験片Dで用いた喬木植物由来の木材繊維よりも、長い繊維長と繊維表面の強い粘り気とを有していることに起因していると推察される。
【0042】
また、別な試験片群Cと対照試験片群Eとを試作し、破断強度試験を行った。
【0043】
(2)破断強度評価
アバカの茎を叩解して平均繊維長3〜12mmとした繊維の30重量部とニトロセルロースの60重量部とスチレン-ブタジエン共重合体の10重量部とを主成分とする焼尽性材料を水中に分散、混合したスラリーを吸引抄造した後、圧搾乾燥させて密度が約0.88及び0.98g/cmの試験片C〜Cを作製した。一方、対照試験片Dの作製と上記と同様に針葉樹の晒し品の木質部を叩解して平均繊維長2〜4.5mmとした木材繊維の30重量部とニトロセルロースの60重量部とスチレン-ブタジエン共重合体の10重量部とからなる焼尽性材料を水中に分散、混合したスラリーを吸引抄造した後、圧搾乾燥させて、密度が約0.90及び0.98g/cmの対照試験片E〜Eを作製した。前記の引張強度評価と同様にして引張強度を測定した。この引張強度をそのときの破断面積で除して、破断強度を算出した。その結果を図3に示す。図3から明らかな通り破断強度評価は、引張強度評価と同様な傾向を示した。
【0044】
これらの結果は、草本植物や灌木植物に由来する非木材繊維を含む焼尽性容器は、喬木植物に由来する木材パルプのような繊維を含む容器よりも、引張強度や破断強度が強くなることを示している。
【0045】
次に、本発明を適用する焼尽性容器を試作した例を実施例1に示す。
【0046】
(実施例1)
ニトロセルロースの60重量部と、アバカの茎を叩解し得られる繊維の30重量部と、スチレン-ブタジエン共重合体の10重量部とからなる焼尽性材料を水中に分散し、混合したスラリーを吸引して粗成形物とした。次いで、この粗成形物を金型で圧搾成形することにより焼尽性容器を得た。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の焼尽性容器は、火薬を重火器の砲身に安全かつ簡便に装填して砲弾射撃や儀礼用又は訓練用の空砲の際に用いられる。
【0048】
この焼尽性容器は、充分な強度を有するので、積上げて保管したり輸送したり、重い砲弾を射撃するために砲身に積み重ねて装填したりできる。また、この焼尽性容器は、完全に燃え尽き、射撃後のたびに砲身内を清浄する必要がないので、迅速に連続して射撃するのに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明を適用する焼尽性容器の実施の一例を示す側面の断面図である。
【0050】
【図2】本発明を適用する焼尽性容器に用いられる繊維と、本発明適用外の焼尽性容器に用いられる繊維とについて引張強度と密度との相関関係のグラフを示す図である。
【0051】
【図3】本発明を適用する焼尽性容器に用いられる繊維と、本発明適用外の焼尽性容器に用いられる繊維とについて破断強度と密度との相関関係のグラフを示す図である。
【符号の説明】
【0052】
1は焼尽性容器、2は上蓋、3は容器本体、4は火薬、5は砲身、6は砲尾、7は閉鎖機である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
火薬を筒状の容器本体に充填して上蓋で塞いで封入し砲身薬室に装填される焼尽性容器であって、該容器本体と該上蓋とが、草本植物に由来する繊維、灌木植物に由来する繊維、及び/又は喬木植物に由来する繊維を含んで成型されていることを特徴とする焼尽性容器。
【請求項2】
該容器本体と該上蓋とが、前記繊維を少なくとも15重量%含んで成型されていることを特徴とする請求項1に記載の焼尽性容器。
【請求項3】
前記容器本体と前記上蓋とが、前記繊維を15〜80重量部と、ニトロセルロースを最大でも80重量部と、バインダーを最大でも20重量部とを含んでいることを特徴とする請求項1に記載の焼尽性容器。
【請求項4】
前記草本植物が、ケナフ、アサ、アマ、アバカ、タケ、及びワタから選ばれる少なくとも何れかであり、前記灌木植物が、コウゾ、ミツマタ、及びガンピから選ばれる少なくとも何れかであることを特徴とする請求項1に記載の焼尽性容器。
【請求項5】
前記繊維が、前記ケナフ、アサ、アマ、アバカ、及びタケの少なくとも何れかの茎の組織、前記ワタの綿花の組織、前記コウゾ、ミツマタ、及びガンピの少なくとも何れかの樹皮の組織であることを特徴とする請求項4に記載の焼尽性容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−175464(P2008−175464A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−9381(P2007−9381)
【出願日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【出願人】(000232922)日油技研工業株式会社 (67)
【Fターム(参考)】