説明

焼結部品の脱脂方法

【課題】表面に凹部のある焼結部品に付着している油を確実に除去する方法を提供する。
【解決手段】凹部3を有する油の付着した焼結部品1を並べる支持面を、吸油紙12で構成するか又は支持面に吸油紙を敷き、その吸油紙12上に、油の付着した焼結部品1を凹部3のある側の面を下にして載置し、保形性のある厚紙吸油紙、あるいは金網、パンチングメタル等の補助部材を用いて、焼結品と吸油紙を多段に積み重ね、加熱、真空引きにより脱脂を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、表面に凹部のある焼結部品に付着している油を確実に除去することを可能にした焼結部品の脱脂方法に関する。
【背景技術】
【0002】
機械加工された機械部品や各種機器類の部品は、表面に油が付着しているものが多い。その油の付着した部品は、例えば、溶接や鑞付けなどを行う際には、付着した油が接合の妨げになるため事前の脱脂が不可欠である。
【0003】
その脱脂の方法として、脱脂炉を使用した脱脂処理が行われている。また、焼結部品については、再焼結を行って油分や水分を除去する方法が下記特許文献1によって提案されている。
【0004】
溶製材料で形成された部品は、表面の洗浄を行うことで付着した油を取り除くことができるが、焼結部品については、組織内の微細空孔にも油がしみ込んでいるため、真空脱脂や下記特許文献が提案しているような再焼結による脱脂を行うことになる。
【0005】
真空脱脂は、処理対象の部品を脱脂設備の処理室(チャンバ)に導入し、所定の温度に加熱して真空引きする方法である。この方法は、再焼結による脱脂法よりも処理が容易でコスト面で有利である。
【0006】
従来行われている真空脱脂の一例を図5に示す。例示の方法は、端面2に凹部3を有する平板状の焼結部品1を起立させて並べて籠11に入れ、これを処理室に導入し、付着した油が溶ける温度に加熱して真空引きする。このときの条件は、例えば、加熱温度が180℃程度、処理時間は1時間程度、処理室の圧力は200Pa以下にそれぞれ設定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭64−66086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来実施されている図5の真空脱脂法では、処理の効率を高める目的で、処理する部品1を縦に並べて籠11に入れている。ところが、この方法では、端面の凹部3に滞留した油が除去されずに残る。
【0009】
なお、凹部3に油を残存させない方法として、焼結部品を、凹部のある面が下になる姿勢にし、さらに、凹部の開放状態を維持するために金網に載せて処理室に導入することが考えられる。ところが、この方法でも、焼結部品から流れ出た油が金網との接触面に付着して残る。
【0010】
また、処理室に焼結部品を横に並べて収納する必要があるため、処理室の利用効率が悪化し、脱脂の能率が低下する。
【0011】
この発明は、表面に凹部のある焼結部品に付着している油を、確実に除去可能となすことを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、この発明においては、焼結部品を並べる支持面を吸油紙(吸油性のあるシート)で構成するかまたは支持面に吸油紙を敷く。そして、その吸油紙上に、油の付着した焼結部品を凹部のある面を下にして載置し、この状態で真空脱脂を行う。
【0013】
この方法は、焼結部品を横に複数個並べ、なおかつ、上に数段積み重ね、上下の焼結部品間にも吸油紙を介在して脱脂処理を行うと好ましい。搬送用の籠の中に焼結部品を横に複数個並べ、なおかつ、籠の中で上に数段積み重ね、籠と一緒に処理室に導入して脱脂処理を行うとより好ましい。
【0014】
このときに焼結部品間に介在する吸油紙は、保形性があり、しかも、焼結部品を傷付ける心配のない厚紙が好ましいが、金網やパンチングメタルなどの補助部材を併用すれば、その補助部材上に薄紙を敷いてその薄紙で油を吸い取ることも可能である。
【0015】
この方法での焼結部品の加熱温度と真空脱脂の処理時間は、任意に設定してよい。例えば、加熱温度180℃、処理室の内圧200Pa以下、処理時間1時間と言った従来同様の条件が考えられるが、これに限定されるものではない。加熱温度と処理時間は、焼結部品の厚みや密度なども考慮して内部空孔にしみ込んだ油も十分に溶け、確実に真空吸引される温度と時間を選択する。
【発明の効果】
【0016】
この発明の方法によれば、焼結部品を凹部のある側の面を下にして処理室に導入するので、凹部に油が残存することがなくなる。
【0017】
また、吸油紙を下に敷くので、焼結部品から流れ出た油がその吸油紙に吸収され、支持面との接触部に対する油の付着も防止される。
【0018】
なお、焼結部品を横に複数個並べて上に数段積み重ね、各段の焼結部品間にも吸油紙を介在して真空脱脂を行うと、1回当たりの処理量が増加して脱脂の処理能率が高まる。この方法は、焼結部品の互いに背を向けあった面、例えば、両端面に凹部があるときにも有効である。上を向いた面の凹部に付着した油を焼結部品の上に重ねた吸油紙で吸い取ることができる。
【0019】
また、搬送用の籠を使用し、その籠の中に上記の積み重ねを行って焼結部品を入れて処理する方法は、処理室に対して数多くの焼結部品を籠と一緒に一括して出し入れすることができ、作業の効率化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明の方法で脱脂処理する焼結部品の一例を示す平面図
【図2】図1の焼結部品の同図II−II線に沿った凹部設置部の断面図
【図3】この発明の方法で処理する焼結部品を搬送用の籠に入れた状態の断面図
【図4】図3の焼結部品と籠の平面図
【図5】従来の脱脂処理方法の説明図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面に基づいて、この発明の脱脂方法の実施の形態について述べる。図1及び図2に、この発明の方法で脱脂処理する焼結部品の一例を示す。この焼結部品1は、平板状の部品であって端面2に凹部3を有する。その凹部3は、部品の片側の端面に形成されているが、互いに背を向けあう両端面などに凹部のある部品も処理することができる。
【0022】
図3に示すように、籠11の底に吸油紙(図のそれは厚紙)12を敷き、その吸油紙12を支持面にしてその上に、脱脂する焼結部品1を、凹部3のある側の端面2を下にして並べている。吸油紙12は通常の板紙のほか、ダンボール紙でもよい。
【0023】
また、籠11の底に並べた焼結部品1上に、吸油紙(それも厚紙)12を再度敷き、下から数えて2層目のその吸油紙12上にも、脱脂する焼結部品1を、凹部3のある側の端面2を下にして並べ、それを繰り返して焼結部品1を数段積み重ねた状態で籠11に収納している。
【0024】
この焼結部品1を収納した籠11を脱脂炉(図示せず)に入れ、所要の脱脂条件に従って脱脂処理を行う。
【0025】
このときの処理条件は、加熱温度180℃、炉内圧力200Pa以下、処理時間1時間と言った従来同様の条件が考えられるが、これに限定されるものではない。加熱温度と処理時間は、処理対象が焼結部品の場合、部品の厚みや密度なども考慮して内部空孔にしみ込んだ油も十分に溶け、確実に真空吸引される温度と時間を選択する。
【0026】
なお、籠11は底壁11aと側壁11bをパンチングメタルで形成したものが、部品の傷付きを抑制できて好ましい。
【0027】
また、使用する吸油紙12は、例示した厚紙が、部品を積み重ねて処理する際にも部品支持のための補助部材を必要とせず、さらに、数回の繰り返し使用にも耐えて好ましい。ただし、金網やパンチングメタルなどの補助部材を併用し、上に重ねる部品の支持をその補助部材で行い、油の吸い取りは補助部材上に薄紙を敷いて行うことも可能である。
【実施例1】
【0028】
直径65mm、厚み6mmで片側の端面に深さ2mmの凹部が設けられた焼結部品を深さ15cmの籠に凹部のある端面が下になる向きにして横に8〜10個並べ、さらに、籠の底と層間に吸油紙(厚紙)12を配置して多段に積み重ねて収納した。
【0029】
そして、これを脱脂炉に導入し、加熱温度180℃、炉内圧力200Pa、処理時間1時間の条件で脱脂処置した。その結果、従来法では残存することがあった部品の凹部内の油も完全に除去されており、吸油紙を併用することの有効性を確認した。
【符号の説明】
【0030】
1 焼結部品
2 端面
3 凹部
11 籠
11a 底壁
11b 側壁
12 吸油紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
端面に凹部を有する油の付着した焼結部品を、吸油紙で構成された支持面、又は吸油紙の敷かれた支持面上に前記凹部のある面を下にして載置し、この状態を維持して前記焼結部品を所定の温度に加熱し、さらに、その焼結部品を導入した処理室の真空引きを行って焼結部品に付着した油を除去する焼結部品の脱脂方法。
【請求項2】
前記焼結部品を横に複数個並べ、なおかつ、上に数段積み重ね、各段の焼結部品間にも前記吸油紙を介在して脱脂処理を行う請求項1に記載の焼結部品の脱脂方法。
【請求項3】
前記焼結部品を搬送用の籠の中に横に複数個並べ、なおかつ、籠の中で上に数段積み重ね、籠と一緒に処理室に導入して脱脂処理を行う請求項2に記載の焼結部品の脱脂方法。
【請求項4】
前記吸油紙として、保形性のある厚紙を使用する請求項1〜3のいずれかに記載の焼結部品の脱脂方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−82494(P2012−82494A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−231513(P2010−231513)
【出願日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(593016411)住友電工焼結合金株式会社 (214)
【Fターム(参考)】