説明

煙突のメンテナンス方法

【課題】既設の無機質ライニング材の脆弱部を除去し、その表面に表面保護材として耐硫黄浸透性・耐フッ素浸透性・高耐熱性を有するエポキシ樹脂を塗布して煙突の延命を図る方法を提供すること。
【解決手段】鋼製の筒身11の内面にモルタル、レンガ等の無機質ライニング材12が施された煙突10のメンテナンス方法であり、ライニング面の脆弱部13をブラスティング若しくは高圧水洗浄等によって除去若しくは剥離した後に、その表面に耐熱性エポキシ樹脂を塗布して表面保護層15を形成する。エポキシ樹脂は、100〜3000μm、好ましくは、300〜1000μm程度の膜厚となるように2〜3回に分けて塗布される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、電力会社や石油コンビナート及び焼却炉煙突などで使われている鋼等の金属製煙突のメンテナンス方法に係り、更に詳しくは、筒身の内面に適用された無機質ライニング面に、耐硫黄浸透性・耐フッ素浸透性・高耐熱性を有するエポキシ樹脂組成物を塗布することにより、煙突の延命を図る煙突のメンテナンス方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電力会社や石油コンビナート及び焼却炉煙突などで使われている鋼製煙突は、腐食防止のために、筒身内面にモルタルを吹付けたり、レンガあるいは抗火石ブロックを貼り付けたりする等して、無機質ライニング材を施すことが行なわれている。
【0003】
公知の煙突としては、例えば、図3に示されるように、鋼製の筒身20の内面に相互間に一定間隔をおいてスタッドボルト21を固定し、このスタッドボルト21に縦筋22、横筋23および金網24を取り付け、これらを補強芯材として筒身20の内面にモルタルからなる無機質ライニング材25を所定の厚さとなるように吹き付けた構造が知られている。
【0004】
また、図4に示されるように、筒身20に、裏目地材26および縦横に延びる目地材27を接着剤として、所定の厚さのレンガ或いは抗火石ブロックからなる無機質ランニング材25を貼り付ける構造も知られている。
【特許文献1】特開平10−184034号公報
【特許文献2】特開平11−141853号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述した無機質ライニング材25は、10年以上使用していると、煙突内を通過する煙中の硫黄分、フッ素分により、劣化を生じて脆弱化し、当該脆弱化した領域におけるライニング材が剥離して煙と共に煙突外に飛散し、公害問題を引き起こす、という問題がある。
【0006】
また、脆弱化した領域に、ひび、割れが生じ、硫黄分やフッ素分が前記補強芯材のみならず、筒身を構成する鋼板に浸透してこれらを腐食する虞もある。特に石炭火力発電所では数十種類の原料炭を使用しており、排気ガスの組成がたびたび変化するため、排気ガス中の硫黄・フッ素によるライニング材の劣化が一層顕著となる。
このような問題に対応するため、従来では、既設の無機質ライニング材をホイールカッターやエアブレーカー等を使用してはつり落とし、当該部位に新たな無機質ライニング材を打ち換えて所要のメンテナンスを行う手法が採用されている。
【0007】
また、例えば発電所の煙突であれば、通常、2年毎に定期事業者検査(定検)が行われるため、この期間にライニング材の打ち換え作業を完了することが好ましい。しかし、定期事業者検査は2ヶ月間で完了しなければならず、この間に、ライニング材の打ち換え作業、すなわち、既設のライニング材のはつり落とし、損傷した補強芯材の交換、ライニング材の吹付けあるいは貼り付け作業、ライニング材の養生等の各工程に時間がかかり、2カ月程度の定検期間内では煙突長で30〜35m程度(500m2程度)の極く僅かな高さの範囲しかライニング材の更新をすることができない。
【0008】
このため定検期間を利用して既設ライニング材の打ち換え行なう場合には、例えば200mの煙突であれば、ライニング材の耐用年数以内に全体を打ち替えることができないという不都合を招来する。そこで、定検期間以外に煙突の補修期間を設けることは発電所などの運行上好ましくないため、改善方法が望まれている。
【0009】
ところで、前記問題点を改善するために、特許文献1は、既設のライニング材を全面的に打ち換える代わりに、ライニング材の表面側のみを除去し、当該表面側に無機質ライニング材を塗布して補修するメンテナンス方法及び装置が提案されている。
しかしながら、新設したライニング材が完全に硬化して既設のライニング材と同等の物性を発揮するのには相当の時間を要するため、メンテナンス終了後、数ヶ月は既設のライニング材と新設のライニング材の強度が異なってしまい、これが界面剥離を生じさせる原因となっている。
また、特許文献2には既設ライニング材を残したまま、その表面に耐蝕鋼板を内張りしてライニング機能を再生させる方式も提案されているが、全面耐蝕鋼板で覆装するため莫大なコストを要するという不都合がある。
【0010】
[発明の目的]
本発明は、このような不都合に着目して案出されたものであり、その目的は、既設の無機質ライニング材の脆弱部を除去し、その表面に保護剤として耐硫黄浸透性・耐フッ素浸透性・高耐熱性を有するエポキシ樹脂を塗布することにより、ライニング材、ひいては煙突の延命を図ることができる煙突のメンテナンス方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を解決するため、本発明に係る煙突のメンテナンス方法は、金属製の筒身内面に無機質ライニングが施された煙突において、
前記ライニング面の脆弱部を除去した後に、その表面にエポキシ樹脂を塗布して表面保護層を形成する、という手法を採っている。
【0012】
前記メンテナンスにあたり、前記脆弱部をブラスティング若しくは高圧水洗浄(例えば、100〜300MPa)により除去若しくは剥離し、当該脆弱部を乾燥させた後に、前記エポキシ樹脂を塗布する手法が採用される。この脆弱部は、ライニング材の表面側を3〜5mm深さに一様に除去して清掃される。
【0013】
また、前記エポキシ樹脂は、スプレー塗布により100〜3000μm、好ましくは、300〜1000μm程度の膜厚となるように2〜3回に分けて塗布するとよい。
【0014】
本発明は、図1(A)に示されるように、煙突10の筒身11の内面側において、図示しない補強芯材或いは接着剤等を介してモルタル、レンガ等の無機質ライニング材12が設けられた煙突を対象として適用される。
ライニング材12の表面側において、長年の使用により劣化した脆弱部13A、13Bが生じたときは、これら脆弱部13A、13Bを除去若しくは剥離して健全な表面を露出させる初期作業が行われる。この際、脆弱部13Aは浅いため、単に除去若しくは剥離するだけで脆弱部除去領域14A(図1(B)参照)とする。この一方、脆弱部13Bは大断面欠損であるため、同様のライニング材(図1(B)中A部参照)で埋め戻して脆弱部補修領域14Bとすることが好ましい。
そして、脆弱部除去領域14A及び脆弱部補修領域14Bを十分に乾燥させた後、エポキシ樹脂が表面保護層15としてライニング材12の表面にスプレー塗布される。このスプレー塗布は、脆弱部除去領域14A及び脆弱部補修領域14Bを含むライニング材12の全表面に行われるが、脆弱部除去領域14A及び脆弱部補修領域14Bの表面のみとすることを妨げない。
【0015】
本発明のメンテナンス方法によると120〜140℃の高温排気ガス中で長期にわたり耐硫黄浸透性・耐フッ素浸透性を維持し、無機質ライニング材への硫酸分(SO2
、SO3 )・フッ化水素酸(HF)の浸透を防護することができる。
【0016】
本発明の表面保護層15を組成するエポキシ樹脂組成物は粘度0.3〜30Pa・sで高温時であっても耐硫黄浸透性・耐フッ素浸透性を有するものである。また、ここに用いるエポキシ樹脂とは、ビスフェノール骨格あるいはフェノールノボラック骨格あるいはグリシジルアミン骨格を持ち末端もしくは側鎖にグリシジル基を持つ構造である。
希釈剤はグリシジルエーテル型のエポキシ樹脂である。
また、充填剤としては微粉シリカ、その他添加剤としては触媒としてジブチル錫化合物等を含有することができる。
硬化剤としては、4.4−ジアミノジフェニルメタン、1.3−フェニレンジアミン、
N−(3−フェノキシ−2−ヒドロキシプロピル)−m−フェニレンジアミン、4−(3−フェノキシ−2−ヒドロキシプロピルアミン)−4−ジアミノジフェニルメタン、その他変性芳香族ポリアミンから構成される混合物である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、表面保護層は耐硫黄浸透性、耐フッ素浸透性、高耐熱性を持ち、ライニング材への付着力も高く長期の安定した耐久性を示すことができる。このような表面保護層を形成するエポキシ樹脂を塗布することにより、将来の無機質ライニングへの硫黄の浸透を大幅に減すことができ、ライニング材の寿命を大幅に延命することが期待でき、メンテナンスコストを大幅に削減することができる。
また、表面保護層をライニング材の内面に形成することで、当該ライニング材表面の劣化が減り、剥離物・粉塵の飛散公害をなくすことも期待できる。
【0018】
評価試験として以下の組成物を表面保護層の材料として使用した。
スリーロンジーM−702はスリーボンドユニコム社製の耐熱性エポキシ樹脂である。
スリーロンジーAX−006はスリーボンドユニコム社製の速硬化アクリル系接着剤である。
セラプロテックスC2031はニッケーコー社製の末端グリシジル基の変性シリコーン系耐熱防食材である。
パイロキープTS−1300は大塚化学社製の耐熱性特殊変性シリコーン樹脂である。
【0019】
[評価試験] 耐熱性・耐薬品性の評価
40×40×160mmの無機質ライニング材(ポルトランドセメント硬化物)に、表面保護層を形成する各種材料を塗布し、(23℃×24時間)+(80℃×3時間)+(150℃×3時間)で硬化養生したものを試験片とした。試験片の約1/3程度が浸積するように薬品(1%硫酸、1%フッ化水素酸)を耐圧容器に注ぎ、図2に示されるステップによるヒートサイクル試験を実施した。
同評価試験の結果を以下の表1に示す
【0020】
【表1】

【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
[実施例]
以下に本発明の実施例について具体的に説明する。
以下の表2に記載の化合物を用いて実施例1および実施例2の配合量にてスプレー可能な粘度にエポキシ樹脂を調製した。また、前記スリーロンジーM−702を用いた。
【0022】
【表2】

【0023】
実際の石炭火力発電所の煙突Bを用いて、無機質ライニング材表面を超高圧水で洗浄し、表面の脆弱部を厚さ3〜5mm一様に除去し、健全な無機質ライニング材表面を露出させた。十分に乾燥させた後、スリーロンジーM−702はゴムへらで、実施例1、実施例2についてはエアレススプレーにて塗布した。(2回塗り・平均膜厚700μm)
その後、ボイラの停止時に煙突内部に入り経時の点検(外観目視、硫黄浸透深さ測定、フッ素浸透深さ測定、建研式接着力試験)を行った。それらの結果を以下表3ないし表6に示す。なお、硫黄浸透深さ、フッ素浸透深さの各測定は、煙突内の表面保護層をコア抜きして回収し、エネルギー分散型X線分光法により測定される。すなわち、試料から発生した特性X線を直接半導体検出器で検出し、電気信号に変換して分光分析されるものである。
【0024】
【表3】

【0025】
【表4】

【0026】
【表5】

【0027】
【表6】

【0028】
表3から明らかなように、各組成物ともに硬化剤に芳香族ポリアミンを使用しているため、黒く変色するが、光沢は失われておらず、浮き、割れ、剥離等は認められなかった。
また、表4に示されるように、各組成物ともに硫黄浸透深さが安定して推移しており、下地の無機質ライニングへの硫黄の浸透拡散はない。なお、硫黄浸透深さが日数の経過に伴って減少している部分があるが、これは、測定点が異なることに起因しているものと考えられる。但し、総じて、硫黄浸透深さが極端に増大することも認められない。
更に、表5に示されるように、各組成物ともにフッ素浸透が見られず、下地の無機質ライニングへのフッ素の浸透拡散はない。ここで、フッ素浸透が何れもゼロであるのは、評価期間中に使用していた石炭の燃焼ガスに含まれているフッ素分が微量だからである。(しかし、石炭の種類によっては、フッ素成分を多く含んだものもあり、無機質ライニングの劣化要因になっているため、耐フッ素浸透性の評価も行ったものである)。
また、表6から明らかなように、建研式接着力試験機を用いて各組成物の保護材の付着力を測定したがすべて下地からの母材破壊で付着力に問題はなかった。
【0029】
[比較例1]
運転中の石炭火力発電所の異なる燃料を燃焼している二種類の煙突A、Bに対し、無機質ライニングの表面保護材として、前記四種を塗布し、経過観察を行った。その結果を表7に示す。
【0030】
【表7】

【0031】
表7から明らかなように、本発明に係る表面保護材として、エポキシ樹脂を用いてライニング面に塗布した場合には、比較例の組成物に対し、外観上の異常が認められないとともに、硫黄浸透深さを抑制できることが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】(A)は本発明方法が適用される煙突の部分概略断面図、(B)はメンテナンス終了時の状態を示す部分概略断面図。
【図2】本発明の耐熱性・耐薬品性の評価を行うヒートサイクル試験のフローチャート。
【図3】従来の煙突構造を示す一部断面図。
【図4】従来の他の煙突構造を示す一部断面図。
【符号の説明】
【0033】
10 煙突
11 筒身
12 無機質ライニング材
13 脆弱部
16 表面保護層(エポキシ樹脂)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の筒身内面に無機質ライニングが施された煙突のメンテナンス方法において、
前記ライニング面の脆弱部を除去した後に、その表面にエポキシ樹脂を塗布して表面保護層を形成することを特徴とする煙突のメンテナンス方法。
【請求項2】
前記脆弱部をブラスティング若しくは高圧水洗浄により剥離し、当該脆弱部を乾燥させた後に、前記エポキシ樹脂を塗布することを特徴とする請求項1記載の煙突のメンテナンス方法。
【請求項3】
前記エポキシ樹脂は、スプレー塗布により100〜3000μmの塗布膜厚とされることを特徴とする請求項1又は2記載の煙突のメンテナンス方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−82628(P2008−82628A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−263670(P2006−263670)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(595072686)常磐共同火力株式会社 (5)
【出願人】(000132404)株式会社スリーボンド (140)
【出願人】(592082206)スリーボンドユニコム株式会社 (11)
【Fターム(参考)】