説明

熱エネルギーを使用しないでCO2排出ゼロの木材の人工乾燥方法

【課題】 熱エネルギーを使用しないためCO2排出がゼロで、細胞を破壊させないで、山の中で、原木を含水率40%前後に、1〜2ヶ月間で実現させる乾燥技術が当発明の課題である。
【解決手段】 本発明は、木が、根から水を吸収し、葉から水を蒸散させる水の輸送システムを持つのに対し、葉の蒸散システムの代わりに潮解性薬剤を用いて木の道管あるいは仮道管に存在する水を輸送させながら、木の伐採現場において、木を乾燥させることで解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木が、根から水を吸収し、葉から水を蒸散させる水の輸送システムを持つのに対し、葉の蒸散システムの代わりに潮解性薬剤を用いて木の道管あるいは仮道管に存在する水を移動させながら、木の伐採現場において、木を乾燥させることを実現させた木材の人工乾燥に関する。
【0002】
本発明は、化石燃料を用いないため、CO2の排出ゼロを実現させた木材の人工乾燥に関する。
【0003】
本発明は、熱エネルギーを使用しないで、バイオテクノロジーの応用だけで細胞内の水を移動させるため、細胞を破壊せず、処理後の収縮、割れ、ヒビ、変色が発生しない乾燥を実現させた木材の人工乾燥に関する。
【背景技術】
【0004】
従来の木材乾燥技術において、細胞を破壊させない方法としては、屋外または屋内で板材に桟木をはさんで積み上げたり、立て掛けたりしてゆっくり時間をかけて乾燥する天然乾燥方式、伐倒後一定期間そのまま林内に放置し、枝葉が黄変し、さらには赤く枯れるまで乾燥させる葉枯らし乾燥方式、更に、細胞膜の水移動機能を応用して少量の電力を使用しながら温度を35℃〜40℃に設定して3日〜5日間で木を乾燥させる「細胞膜の水移動機能を応用した木材用乾燥機」がある。
【0005】
人工乾燥に関しては、細胞壁や細胞を著しく破壊させることにより破壊された細胞壁や細胞の間隙から水を移動させる乾燥方式として、高温乾燥、蒸気高温乾燥、高周波(マイクロ波)乾燥、真空減圧乾燥などがある。
【0006】
日本において最も普及している乾燥技術では、蒸気高温乾燥機がある。収縮は著しいが、割れやヒビが発生しにくいものであるが、重油や灯油を多量に使用するため、熱エネルギーコストが月額で40万円〜100万円となり、ランニングコストが極めて高く、CO2の排出も著しい。また、高温の加熱を行うため材中の細胞が破壊、損傷され、同時に免疫力を促すリグニンの機能を減少させるため、材の長期的保存・耐久性が困難である。
【0007】
短時間の乾燥技術では、真空減圧乾燥機がある。一連の装置を購入する設備投資が5000万円以上で、1億円を越すものもあり、一般の製材会社が購入するのは困難である。更に、物理的に強制減圧を行うため材中の細胞の全てを激しく破壊し、強度を失わせるため、材の長期的保存、耐久性が困難である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
【0009】
天然乾燥と葉枯らし乾燥は、細胞を破壊させない上、乾燥コストがかからないという大きな利点があるが、前者は含水率を40%〜50%まで低下させるのに4〜6ヶ月を要し、後者は含水率を80%まで低下させるのに3〜4ヶ月を要するため、いずれも生産性が著しく下がる。そのため、細胞を破壊させないで、含水率40%〜50%まで下がるのに1〜2ヶ月間に短縮して、生産性を向上させる乾燥技術の開発が第1の課題である。
【0010】
伐採後の葉枯らし乾燥日数に伴う含水率の減少は、伐採の時期別によって異なり、7、8月の夏伐りのものが、9〜11月の秋、冬伐りのものより減少率は大きい。7、8月伐採のものは、約2か月程度で最低含水率約80%に達するが、9、10月伐採で3か月、11月以降の伐採では約4か月を要するものと推定される。(出展;徳島県木材協同組合連合会、平成4年3月)
【0011】
天然乾燥により角材を乾燥させると、収縮、割れやヒビが著しく生じる。細胞は破壊されないものの商品価値が低減する。角材が、細胞を破壊させないで、収縮、割れやヒビを生じさせない乾燥技術の開発が第2の課題である。
【0012】
伐採直後の木材は、多量の水分が含まれているため極めて重く、集材や運搬が容易ではない。集材には、伐採した木を架線を張った集材機械で引っ張り出す架線集材方式などがあり、搬出した丸太をトラックに積んで素材市場まで運搬する。もし原木の重量を伐採現場にて半分程度にまで下げることが可能となれば、集運材作業を容易にさせ、運搬コストも著しく下がる。間伐材にいたっては、伐採は行っても運搬コストが高いことから山に放置する場合が多く、せっかく固定化されたCO2が再び空気中に放散させることになる。運搬を容易にし、コストを低減させるために、また山に間伐材を放置させないために、木を伐採現場において、1〜2ヶ月で重量を半分程度にまで低減できる技術の開発が第3の課題である。
【0013】
伐木後の葉枯らし乾燥日数に伴うスギの重量の減少経過は、葉枯らし乾燥日数に伴う含水率の減少と同様に、重量は軽量化されてくるが、伐採時期によって差がある。7〜9月の伐採では、約2か月で生材重量の約70%程度に減少するが、11月以降の伐採においては5か月以上は要するものと推定される。(出展;徳島県木材協同組合連合会、平成4年3月)
【課題を解決するための手段】
【0014】
伐採後に、木が持つ水の流れ機能をそのまま変えずに、道管あるいは仮道管の中の自由水を、潮解性薬剤の強力な吸湿力を用いることにより、元口から末口の方向に移動させながら末口から排出させることにより、1〜2ヶ月間で含水率を40%〜50%まで低下させることが出来ることで第1の課題を解決した。
【0015】
伐採した木の樹皮を付けたまま、自由水を末口に移動させながら、自由水が材の細胞全体にて満遍なく含水率40%〜50%にまで排出されれば、材の中の引っ張り応力が材の全体にわたって著しく減退する。特に水量の多い部位である辺材の水が移動して末口から放出されることから、製材工場で樹皮を取り除いても、丸太に収縮、割れやヒビが生じなくなる。この丸太をさらに柱材や平割材に挽いても収縮、割れやヒビが生じなくなる。つまり、辺材部位の水量も、心材部位の水量もほぼ同量となることから細胞内全体の水分バランスが均一となり、よって引っ張り応力が失われ、割れが生じる原因がなくなるということである。さらに「細胞膜の水移動機能を応用した木材用乾燥機」に入れて、40℃の低温度で仕上げ乾燥を実施することにより、細胞を破壊させずに、背割りの無い、収縮、割れやヒビのない含水率15%以下の丸太、柱材あるいは平割材を作ることができ、第2の課題を解決した。
【0016】
伐採現場において潮解性薬剤の強力な吸湿力により自由水を末口から排出させることで含水率が40%〜50%まで低減した木は、伐採直後の重さの半分程度になるため、集材や運搬を容易にし、コストが低減されることで第3の課題を解決した。
【0017】
潮解性薬剤は、自然環境の中で使用されるため、環境重視の薬剤でなければならない。その為には酢酸ナトリウムか塩化カルシウムが相応しいが、吸湿性を高めるために次の薬剤を混合させることもあり得る。それらは、酸化カルシウム、臭化カルシウム、炭酸カルシウム、金属カルシウム、チタン酸カルシウム、塩化マグネシウム、酸化マグネシウム、臭化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化ストロンチウム、酸化ランタン、水酸化ナトリウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、無水硫酸ナトリウム、五酸化リン、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジエチレングリコール、炭酸リチウム、水酸化リチウム、臭化リチウム、塩化リチウム、金属リチウム、硼酸リチウム、弗化リチウム、酢酸リチウム、珪酸リチウム、次亜塩素酸リチウム、ノルマルブチルリチウム、セカンダリーブチルリチウム、塩化ストロンチウム、水素化ストロンチウム、水酸化アルミニウム、水素化アルミニウム、塩化アルミニウム、硫酸カリウムアルミニウム、塩化カリウム、臭化カリウム、水酸化カリウム、塩化アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸水素アンモニウム、リン酸アンモニウム、硫化アンモニウム、塩化アンモニウム、スルファミン酸グアニジン、リン酸グアニジン、塩化コバルト、グリセリン、硫酸、リン酸、尿素、塩化亜鉛、塩化鉄、硫酸鉄、硫酸銅、塩化パラジウム、塩化バリウム、酸化バリウム、リボースなどである。
【発明の効果】
【0018】
当発明の乾燥テストは、春から夏にかけた2ヶ月間に宮城県伊具郡丸森町の林野においてスギとヒノキを対象に実施された。
【0019】
【表1】

【0020】
【表2】

【0021】
葉枯らし乾燥は、伐採後においても葉が持つ蒸散機能を使って水の流れを促すものであるが、スギやヒノキの葉は、伐採してから1ヵ月後には蒸散機能も光合成機能も持たない。そのため、最初の1ヶ月目は、含水率180%が130%に、150%が100%にまで下がる。しかし、それ以後は蒸散が停止するため含水率は下がらない。当発明の潮解性薬剤により水の流れを促す場合は、葉の蒸散機能とは関係なく、2ヵ月後でも3ヵ月後でも潮解性薬剤に引っ張られて水が移動する。
【0022】
表2では、スギ、ヒノキの場合、2ヵ月後で約40%の含水率を達成している。伐採時の含水率が60%〜90%であれば、1ヵ月後に40%を達成させることが出来る。
【発明の実施するための最良の形態】

【実施例】
【0023】
伐採の時に木の先端を谷側に落とす。木を玉切りにした場合も、末口を谷側に向けて横たえる。虫が付きにくくするために、元口と末口に枕木を敷いて地面に接触しないようにする。末口にチェンソーを使って薬剤を装着するための切り口を作る。切り口の場所は末口から10cmの距離。切り口の幅は5cm。切り口は両サイドから芯の部位までとしてノミで切り落とす。両サイドの切り口を交互に5cmずつ離すと切り口が安定して良い。次に切り口に潮解性薬剤を入れる。その前に切り口部位に硬いプラスチックで鉢巻をしながら両サイドの切り口を押さえて薬剤が地面に落ちないようにする。薬剤は酢酸ナトリウムか塩化カルシウムを使用する。双方の薬剤を混合して使用しても良い。但し、環境を配慮した場合、酢酸ナトリウムを使用するのが相応しい。最後に硬いプラスチックで両サイドの切り口を閉めてクギでふさぎ、更にビニールを末口と元口にかぶせて雨や露の浸入を防ぐ。これで、元口から末口に向かって水が移動始め、末口部位にたまった水が地面に流れる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
天然乾燥や葉枯らし乾燥よりも、収縮、割れやヒビが発生しない良質な乾燥が、含水率40%前後を得るのに1〜2ヶ月で可能となる当発明は、全国の天然乾燥実施者および葉枯らし乾燥実施者にとり、乾燥コストが極めて小さいことから利用の可能性は大きい。
【0025】
日本の製材業界では、高額な乾燥機を所有することが困難な企業が多い。8000社と言われる製材会社の内、乾燥機を所有しているのが約20%である。つまり、80%の製材会社は長期間を要する天然乾燥か、含水率70%〜80%しか落ちない葉枯らし乾燥に甘んじなければならない。それが、1〜2ヶ月で含水率が40%まで落ちる、しかもコストがかからない乾燥技術があれば、また元気のある製材業界が大いに期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱エネルギーを使用しないで、CO2排出がゼロであることを特徴とする木材の人工乾燥方法。
【請求項2】
木の伐採現場にて、木の葉から水を蒸散させる代わりに、潮解性薬剤を用いて水の移動を促し、木を1〜2ヶ月間で、含水率40%〜50%まで乾燥させることを特徴とする木材の人工乾燥方法。
【請求項3】
請求項2において、潮解性薬剤を伐採した木の末口部位に装着することにより、元口から末口に水を移動させて外に排出させることを特徴とする木材の人工乾燥方法。
【請求項4】
請求項2及び3において、潮解性薬剤に酢酸ナトリウム、塩化カルシウムのいずれか、あるいは双方を混ぜて用いることを特徴とする木材の人工乾燥方法。
【請求項5】
請求項2及び3において、潮解性薬剤が、塩化カルシウム、酸化カルシウム、臭化カルシウム、炭酸カルシウム、金属カルシウム、チタン酸カルシウム、塩化マグネシウム、酸化マグネシウム、臭化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化ストロンチウム、酸化ランタン、酢酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、無水硫酸ナトリウム、五酸化リン、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジエチレングリコール、炭酸リチウム、水酸化リチウム、臭化リチウム、塩化リチウム、金属リチウム、硼酸リチウム、弗化リチウム、酢酸リチウム、珪酸リチウム、次亜塩素酸リチウム、ノルマルブチルリチウム、セカンダリーブチルリチウム、塩化ストロンチウム、水素化ストロンチウム、水酸化アルミニウム、水素化アルミニウム、塩化アルミニウム、硫酸カリウムアルミニウム、塩化カリウム、臭化カリウム、水酸化カリウム、塩化アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸水素アンモニウム、リン酸アンモニウム、硫化アンモニウム、塩化アンモニウム、スルファミン酸グアニジン、リン酸グアニジン、塩化コバルト、グリセリン、硫酸、リン酸、尿素、塩化亜鉛、塩化鉄、硫酸鉄、硫酸銅、塩化パラジウム、塩化バリウム、酸化バリウム、リボースのいずれか、または2種以上を混合することを特徴とする木材の人工乾燥方法。

【公開番号】特開2010−12760(P2010−12760A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−195463(P2008−195463)
【出願日】平成20年7月2日(2008.7.2)
【出願人】(501410757)日本不燃木材株式会社 (10)
【出願人】(595161773)
【出願人】(504193712)
【出願人】(503095723)
【Fターム(参考)】