説明

熱交換器付貯湯タンク

【課題】隙間腐食の発生を防止し、かつ確実な溶接を容易に行える間接熱交換器付貯湯タンクを提供する。
【解決手段】上部鏡板112内の側周面あるいは上面に熱交換器18の出入口端部118がそれぞれ接続され、上部鏡板112下端部と胴体113上端部とが溶接された熱交換器付貯湯タンク1において、上部鏡板112内方に突出する平坦なエンボス部120を形成し、このエンボス部120にバーリングのない抜き穴116を形成し、熱交換器18の出入口端部118を抜き穴116から上部鏡板112外部へ突出させ、出入口端部118の側周面と抜き穴116の開口端面を溶接した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浴槽水や暖房用循環水等の外部流体を加熱するための熱交換器を内側上部に備えた貯湯タンクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、この種の貯湯式給湯装置においては、図5に示されるように、給湯用の貯湯タンク101の上部鏡板102の内側に、浴槽水等の外部流体を加熱するための蛇管より成る熱交換器103を備えたものがあった(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−214711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、この従来のものでは、熱交換器103の出入口を上部鏡板102に貫通させて固定する継ぎ手部104は、図5に拡大して示されるように、上部鏡板102にバーリング部105を有した接続口106を開口し、継ぎ手部104の先端とバーリング105を端面溶接したものであったため、上部鏡板102の内側でバーリング105の屈曲部107と継ぎ手部104の外周との間に隙間が生じ、ここにエア溜まりやゴミおよび貯湯水のカルキ成分が付着し、隙間腐食が生じる可能性がある。
【0005】
また、上部鏡板102はほとんど球面で構成されているため、継ぎ手部104の上端の高さとバーリング105の上端の高さを全周にわたって揃えることが難しく、端面溶接が困難となる。
【0006】
そこで、本発明は隙間腐食の発生を防止し、かつ確実な溶接を容易に行える間接熱交換器付貯湯タンクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達するため、覆椀状の上部鏡板と、筒状の胴体と、外部流体を加熱するための熱交換器とを備え、前記上部鏡板内の側周面あるいは上面に前記熱交換器の出入口端部がそれぞれ接続され、前記上部鏡板下端部と前記胴体上端部とが溶接された熱交換器付貯湯タンクにおいて、前記上部鏡板内方に突出する平坦なエンボス部を形成し、このエンボス部にバーリングのない抜き穴を形成し、前記熱交換器の出入口端部を前記抜き穴から前記上部鏡板外部へ突出させ、前記出入口端部の側周面と前記抜き穴の開口端面を溶接した。
【0008】
また、請求項2では、前記抜き穴は円形に形成されていると共に、前記熱交換器の出入口端部は、その先端が先細円筒状に形成されているものである。
【0009】
また、請求項3では、前記熱交換器の出入口端部には、この出入口端部の先端の外径よりも大径で前記抜き穴周囲と当接して突出高さを規制する載置面が形成されているものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、熱交換器の出入口端部外周と抜き穴の周囲との間に不要な隙間が生じず、隙間腐食の発生を防止でき、平坦なエンボス部に抜き穴を開口するため、抜き穴と熱交換器の出入口端部の溶接寸法の管理が容易で、上部鏡板の内面側から溶接部の目視が容易で、出入口端部と上部鏡板の適切で確実な溶接作業が行え、熱交換器の保持強度が向上すると共に、溶接部の入熱による歪みが発生しても、エンボス部の外部には影響せず、上部鏡板の歪みによる下端部の波打ちや開きの発生を防止し、その後の上部鏡板と胴体との円周溶接が確実に行える。
【0011】
また、熱交換器の出入口端部を先細円筒状に形成したので、熱交換器の出入口端部が抜き穴に対して傾いていた場合や、抜き穴の寸法が多少大きくなったような場合であっても、先細円筒状の出入口端部が円形の抜き穴に対して挿入されると、抜き穴の端面と出入口端部の外周とが全周当接し、溶接が確実に行えると共に、寸法管理が容易となり低コストに製造できる利点がある。
【0012】
また、熱交換器の出入口端部には、この出入口端部の先端の外径よりも大径で抜き穴周囲と当接して突出高さを規制する載置面を形成しているので、出入口端部先端の突出高さを常に一定に規制することができ、溶接が確実に行えると共に、低コストに製造できる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態の貯湯式給湯風呂装置の概略構成図
【図2】同一実施形態の貯湯タンクの一部断面図
【図3】同一実施形態の熱交換器出入口端部一端側付近の断面図
【図4】別実施形態の熱交換器出入口端部一端側付近の断面図
【図5】従来の貯湯タンクの断面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の一実施形態の貯湯式給湯風呂装置を図面に基づいて説明する。
1はステンレス製で約300L程度の容量を有して温水を貯湯する貯湯タンク、2はこの貯湯タンク1内の温水を循環させて加熱する加熱手段としてのヒートポンプユニット、3は浴槽である。
【0015】
4は貯湯タンク1とヒートポンプユニット2を循環可能に接続する加熱循環回路で、加熱循環ポンプ5を有し貯湯タンク1の下部に接続されたヒーポン往き管4a及び貯湯タンク1上部に接続されたヒーポン戻り管4bより構成され、貯湯タンク1下部の冷水をヒーポン往き管4aを介してヒートポンプユニット2で加熱し、加熱された高温の温水を貯湯タンク1上部に戻して貯湯タンク1内に上から温水を貯湯していくものである。なお、貯湯タンク1の外周面には縦に複数個の貯湯温度センサ6a、6b、6c、6dを有しており、この貯湯温度センサが所定温度以上を検出することで貯湯量を検知するものである。
【0016】
7は貯湯タンク1に水を供給する給水管、8は貯湯タンク1内の温水を出湯する出湯管、9は給水管7からの冷水と出湯管8からの温水を設定温度になるように混合する混合弁、10は混合された設定温度の温水を給湯する給湯管、11は給湯管10の端部に設けられる蛇口である。12は混合弁9の下流に設けた給湯温度センサ、13は給湯量をカウントする給湯流量センサである。なお、14は水道圧を所定の圧力に減圧する減圧弁、15は加熱されることによる過圧を逃す圧力逃し弁である。これらによって給湯回路16を構成しているものである。
【0017】
17は風呂循環回路で、貯湯タンク1内に設けられた熱交換器としての蛇管18と浴槽3とを風呂往き管17a及び風呂戻り管17bとで循環可能に接続するものである。19は風呂循環回路17に設けられた風呂循環ポンプ、20は流水の有無を検出する流水センサ、21は風呂循環回路17を流れる浴槽水の温度を検出する風呂温度センサ、22は浴槽水の水圧から浴槽3内の水位を検出する水位センサである。
【0018】
23は蛇管18をバイパスして風呂往き管17aと風呂戻り管17bとを接続するバイパス管で、三方弁よりなる流路切換弁24がバイパス管23と風呂戻り管17bの接続部に設けられており、風呂循環回路17を流れる温水を蛇管18に流すか否かを選択的に切り換えるものである。
【0019】
25は給湯管10途中から分岐されて風呂循環回路17に接続され浴槽3への湯張りを行うための湯張り管、26はこの湯張り管25に設けられ浴槽3への湯張りの開始、停止を行う湯張り弁、27は浴槽3への湯張り量をカウントする風呂流量センサである。なお、28は湯張り管25と水位センサ22との間に設けられる二方弁で、湯張り時に一旦開弁して風呂戻り管16bの湯張り管25の接続位置から浴槽3までの配管のエアパージを行った後、閉弁して水位センサ22で正確な水位を監視しながら湯張りを行えるようにするものである。
【0020】
29はヒートポンプユニット2の加熱制御を行う加熱制御部、30は給湯及び風呂の制御を行う給湯風呂制御部である。
【0021】
ここで、前記貯湯タンク1について図2に示した断面図に基づいて詳述すると、ステンレス板を深絞り加工により形成した覆椀状で頂部に温水取出し用の開口部111を有した上部鏡板112と、ステンレス板を筒状に形成した胴体113と、ステンレス板を深絞り加工により形成した椀状の下部鏡板114より構成されているものである。
【0022】
前記上部鏡板112には、その側周面に側周面接続穴115と、その上部に上面接続穴116とが設けれている。
【0023】
貯湯タンク1内に設けられる熱交換器としての前記蛇管18はステンレス製管材をコイル状に巻いたものであり、その一端側は上部鏡板112の側周面に略直行する方向に蛇管18の出入口端部としての側周面継手117が設けられて前記側周面接続穴115に挿入固定されていると共に、他端側は上部鏡板112の上面に直行する方向に蛇管18の出入口端部としての上面継手118が設けられて前記上面接続穴116に挿入固定されているものである。
【0024】
そして、この貯湯タンク1の組み立て方を説明すると、先ず、側周面接続穴115に蛇管18の側周面継手117を差し込み、側周面接続穴116のバーリング端面と側周面継手117を溶接固定する。そして、上部鏡板112の上面接続穴116に蛇管18の上面継手118を差し込み、上面接続穴116のバーリング端面と上面継手118とを溶接固定する第1の工程を行う。
【0025】
また、第1の工程とは別に、下部鏡板114と胴体113とを横倒しにして、下部鏡板114の側周面端部と胴体113の一端部と突合わせ、胴体113の開放端側から入れ込んだ溶接用トーチ(図示せず)により内側から溶接する第2の工程を行う。
【0026】
そして、第1の工程により蛇管18が接続固定された上部鏡板112の側周面端部と、第2の工程により下部鏡板114が接続固定された胴体113の開放端の端部とを突合わせ、上部鏡板112の開口部111から溶接用トーチを蛇管18より奥側の突合わせ面まで入れ込んで内側から溶接する第3の工程により貯湯タンク1が組み立てられる。
【0027】
このように、蛇管18を接続固定する工程と、上部鏡板112と胴体113とを接続固定する工程とを完全に分離したので、組み立てが容易になり工数が減ると共に蛇管18を接続するのに特殊な治具を必要とせずに製造コストを下げることができる。
【0028】
また、一端を側周面、他端を上面に接続して蛇管18を上部鏡板112内に収めるようにしたので、貯湯タンク1に貯められた温水の最も温度が高い最上部に配設することができ、貯湯タンク1内の熱を有効利用することができるものである。
【0029】
ここで、この蛇管18と上部鏡板112とを接続する部位の詳細を図3に基づいて説明する。なお、ここでは上面側について図示して説明するが、側面側においても同一構造であるので、その説明を省略する。
【0030】
上面接続穴116の外周には、上部鏡板112の内方に突出した円形の平坦面119を有するエンボス部120がプレス加工により設けられている。このエンボス部120の中心には、バーリングのない円形の抜き穴より構成された上面接続穴116が開口されている。
【0031】
上面継手118は、蛇管18に連通した穴部121の内表面に風呂循環回路17と接続するためのネジ部122が設けられていると共に、上面継手118の外周部先端には薄肉で先細円筒状の溶け代部123が設けられている。
【0032】
そして、前記第1の工程において、上面継手118を上面接続穴116からその溶け代部123が外側に突出するように挿入し、この時、上面継手118が上面接続穴116に対して傾いていた場合であっても、上面接続穴116の開口端面と上面継手118の先細円筒状の溶け代部123の側周面は確実に全周が当接する。そのため、蛇管18と上面継手118との取り付け角度精度に余裕が生じ、製造コストを抑制できる。
【0033】
また、上面接続穴116の穴径または溶け代部123の外径にバラツキが生じても、上面接続穴116の開口端面と上面継手118の先細円筒状の溶け代部123の側周面は確実に全周が当接し、上面接続穴118の穴径、または、上面継手118の溶け代部123の外径の寸法精度に余裕が生じ、製造コストを抑制できる。
【0034】
そして、突出した溶け代部123の側周面と上面接続穴116の開口端面付近を上部鏡板112の外側から円周溶接し、蛇管18を上部鏡板112に固定するようにしている。
【0035】
この溶接作業時においては、曲面形状の上部鏡板112に平坦面119を有するエンボス部120を形成し、この平坦面119に上面接続穴116を開口しているため、上面接続穴116から溶け代部123を均等に突出させることができ、上面接続穴116の全周を均一に溶接することができるものである。
【0036】
また、溶け代部123が溶け切ったことを目視することで上部鏡板112の外側から溶接が確実に行われたことを確認できると共に、上部鏡板112の内側から上面継手117の周囲に溶接による裏波が適切に生じているかを確認でき、確実な溶接作業を容易に行えると共に、蛇管18の保持強度を確保できる。さらには、溶接部近辺に不要な隙間が生じないため、隙間腐食の発生も防止できる。
【0037】
さらには、溶接時の入熱によってエンボス部120の平坦面119に歪みが生じても、エンボス部120は上部鏡板112から段付きに形成されているため、エンボス部120の外部に歪みは影響せず、上部鏡板112の変形を防止する。
【0038】
なお、側周面継手117の溶接時においては、溶接部位の近傍に上部鏡板112の下端部が存在するが、側周面継手117の溶接時の熱影響による歪みは、エンボス部120によってその外部への変形が阻止されて、上部鏡板112の下端部の波打ちや開きが発生することなく、その後の工程の上部鏡板112と胴体113との円周溶接において確実な溶接が行える。
【0039】
次に、本発明の別の一実施形態について図4に基づいて説明する。なお、先の一実施形態と同一のものについては同一の符号を付し、その説明を省略すると共に、ここでは上面側について図示して説明するが、側面側においても同一構造としてもよいものである。
【0040】
ここでは、上面継手118の形状が変更されており、上面継手118の端部に上部接続穴116の周囲と当接する載置面124が形成され、この載置面124の外径よりも小径の薄肉円筒状の溶け代部125がこの載置面124より突出して形成されている。
【0041】
そして、前記第1の工程において、上面継手118を上面接続穴116からその溶け代部125が外側に突出するよう、上面接続穴116の周囲が載置面124に当接するまで挿入し、突出した溶け代部125の側周面と上面接続穴116の開口端面付近を上部鏡板112の外側から円周溶接し、蛇管18を上部鏡板112に固定するようにしているので、溶け代部125の突出高さを常に一定に規制することができ、溶接の品質を一定にすることができる。
【0042】
次に、この貯湯式給湯風呂装置の作動について説明する。
前記給湯風呂装置30に接続された風呂リモコン(図示せず)にて風呂の追焚きあるいは保温が指示されると、給湯風呂装置30は流路切換弁24を蛇管18側に切り換えて風呂循環ポンプ19を駆動し、浴槽3内の浴槽水を貯湯タンク1内に設けられた間接熱交換器としての蛇管18に流通させ、貯湯タンク1内の貯湯温水の熱を利用して浴槽水を加熱するものである。貯湯タンク1の温水を用いて浴槽3内の温水を追焚きあるいは保温可能にしたため、追焚きあるいは保温専用の電熱ヒーターが不要となり、コストの低減及び電力消費量の低減を計れるものである。
【0043】
また、給湯を行うと貯湯タンク1内の高温の温水が出湯管8から流出していき、貯湯タンク1の底部から冷たい水道水が流入し、総給湯量が多くなると貯湯タンク1内の残りの高温湯が少なくなる。この時、風呂の追焚きあるいは保温が指示されると、蛇管18内に浴槽水が流入して貯湯タンク1内の残りの高温湯と熱交換して加熱されて流出していくもので、蛇管18の取付けられた高さ位置が貯湯タンク1内の最上部であるため、給湯により貯湯量が減ったとしても、貯湯タンク1内に残った高温湯を浴槽の追焚きあるいは保温に最後まで利用することが可能となるものである。
【0044】
本発明はこの一実施形態に限定されることはなく、発明の要旨を変更しない範囲で様々な変形が可能なものであり、例えば、貯湯タンク1の上部鏡板112と胴体113および胴体113と下部鏡板114の溶接方法として隙間腐食の発生しにくい内面溶接を用いたが、作業の簡単な外側からの溶接を採用してもよいものである。
【0045】
また、例えば、蛇管18を別方式の熱交換器としたり、熱交換器を風呂循環回路ではなく温水暖房端末器と接続された暖房循環回路に接続した貯湯式給湯暖房装置に用いることもできる。
【符号の説明】
【0046】
1 貯湯タンク
18 蛇管(熱交換器)
112 上部鏡板
113 胴体
115 側周面接続穴(抜き穴)
116 上面接続穴(抜き穴)
117 側周面継手(出入口端部)
118 上面継手(出入口端部)
119 平坦面
120 エンボス部
123 溶け代部
124 載置面
125 溶け代部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
覆椀状の上部鏡板と、筒状の胴体と、外部流体を加熱するための熱交換器とを備え、前記上部鏡板内の側周面あるいは上面に前記熱交換器の出入口端部がそれぞれ接続され、前記上部鏡板下端部と前記胴体上端部とが溶接された熱交換器付貯湯タンクにおいて、前記上部鏡板内方に突出する平坦なエンボス部を形成し、このエンボス部にバーリングのない抜き穴を形成し、前記熱交換器の出入口端部を前記抜き穴から前記上部鏡板外部へ突出させ、前記出入口端部の側周面と前記抜き穴の開口端面を溶接したことを特徴とする熱交換器付貯湯タンク。
【請求項2】
前記抜き穴は円形に形成されていると共に、前記熱交換器の出入口端部は、その先端が先細円筒状に形成されていることを特徴とする請求項1記載の熱交換器付貯湯タンク。
【請求項3】
前記熱交換器の出入口端部には、この出入口端部の先端の外径よりも大径で前記抜き穴周囲と当接して突出高さを規制する載置面が形成されていることを特徴とする請求項1記載の熱交換器付貯湯タンク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−167837(P2012−167837A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−27498(P2011−27498)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(000000538)株式会社コロナ (753)
【Fターム(参考)】