説明

熱交換器用フィン材及び熱交換器

【課題】耐食性、耐候性及びプレス加工性に優れ、腐食生成物が発生し難く、高い生産性が得られる熱交換器用フィン材及び熱交換器を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の熱交換器用フィン材は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基板と、該基板上に10〜30mg/mの被着量で設けられたリン酸クロメート皮膜と、該リン酸クロメート皮膜上に設けられた耐食性皮膜と、該耐食性皮膜上に設けられた潤滑性皮膜を有し、耐食性皮膜は、エーテルエステル系ウレタン樹脂を主体とし、その被着量が0.8〜2.0g/mであり、潤滑性皮膜は、ポリオキシエチレンアルキルエーテルを主体として構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアーコンディショナーなどの熱交換器に用いられ、耐食性、耐候性及びプレス加工性に優れた熱交換器用フィン材及び熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるフィン材を用いる熱交換器では、水分と接触する環境下において、フィン材表面で水和反応が進行し、水酸化アルミニウムからなる白色の腐食生成物が生成されることがあり、この腐食生成物を熱交換器の設置環境に吹き出してしまう問題がある。このような腐食生成物の問題を回避するため、アルミニウムフィン材の表面には、エポキシ樹脂やアクリル樹脂等からなる耐食性皮膜が設けられている。
【0003】
しかしながら、これら樹脂のうちエポキシ樹脂は耐候性に劣るため、これを熱交換器の耐食性皮膜として用いると、熱交換器を直射日光の当たる場所に設置した場合、耐食性皮膜が消失してしまう可能性が高い。
一方、アクリル樹脂からなる耐食性皮膜は塗膜の延性が低いため、アクリル樹脂塗膜を設けたアルミニウム板をプレス加工してフィンに成形する際、塗膜にクラックが生じやすく、このクラックを起点としてカラー飛び(カラー割れ)が発生する問題がある。
【0004】
また、フィン材に設けられる耐食性皮膜として、ウレタン重合物を水に溶解もしくは分散させた処理液を塗布し、焼き付けることで形成された皮膜が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。この特許文献1には、ウレタン重合物として、ポリエステル系ウレタン重合物またはポリエーテル系ウレタン重合物が例示されている。
しかしながら、これらのウレタン重合物からなる皮膜は、耐食性が不十分であり、また、その上に水溶性潤滑剤を塗布した場合に水溶性潤滑材をはじき易く、その表面に潤滑性を付与するのが困難であった。
【0005】
また、熱交換器用のフィン材には、前述したように、プレス加工性を良好とするため、耐食性皮膜の上に水溶性潤滑剤が塗布される。この水溶性潤滑剤として、従来、PEG(ポリエチレングリコール)系潤滑剤が多く用いられている。
しかし、PEG系潤滑剤は耐食性皮膜中に浸透し易く、耐食性皮膜の表面に塗布しても、潤滑剤としての機能が低下するおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−214766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、これまでの熱交換器用フィン材は、耐食性皮膜及び水溶性潤滑剤の性能が十分ではないため、熱交換器の使用時にフィン材表面に腐食生成物が発生することがあり、アルミニウム板のプレス加工時にカラー割れが発生して生産性が劣る問題があった。
【0008】
本発明は、これらの問題を解決するためになされたものであり、耐食性、耐候性およびプレス加工性に優れ、腐食生成物が発生し難く、高い生産性が得られる熱交換器用フィン材および該フィン材を備えた熱交換器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者が、前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、リン酸クロメート皮膜を形成したアルミニウムフィン材の表面に、エーテルエステル系ウレタン樹脂からなる耐食性皮膜を設け、さらに、その上にポリオキシエチレンアルキルエーテルからなる水溶性潤滑剤を塗布することにより、熱交換器用フィン材としての耐食性及び耐候性を大幅に向上できるとともに、プレス加工時のカラー割れを確実に抑えられるとの知見を得るに至った。
【0010】
本発明は、かかる知見に基づきなされたものであって、以下の構成を有する。
本発明の熱交換器用フィン材は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基板と、該基板上に10〜30mg/mの被着量で設けられたリン酸クロメート皮膜と、該リン酸クロメート皮膜上に設けられた耐食性皮膜と、該耐食性皮膜上に設けられた潤滑性皮膜を有し、前記耐食性皮膜は、エーテルエステル系ウレタン樹脂を主体とし、その被着量が0.8〜2.0g/mであり、前記潤滑性皮膜は、ポリオキシエチレンアルキルエーテルを主体とし、前記潤滑性皮膜の被着量は、0.05〜0.2g/mであることを特徴とする。
【0011】
本発明の熱交換器は、本発明の熱交換器用フィン材を複数備えてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の熱交換器用フィン材によれば、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基板上に、リン酸クロメート皮膜を介してエーテルエステル系ウレタン樹脂からなる耐食性皮膜を所定の被着量で設けているので、優れた耐食性及び耐候性が得られ、熱交換器の設置環境を問わず、フィン材表面に腐食生成物が生成されることを抑制できる。
また、耐食性皮膜の上に潤滑剤皮膜を設け、該潤滑性皮膜としてポリオキシエチレンアルキルエーテルを主体としたので、潤滑性皮膜が耐食性皮膜中に浸透し難く、耐食性皮膜の表面に潤滑性を確実に付与できる。このため、アルミニウム基板をプレス加工する際、アルミニウム基材と金型との摩擦を低減でき、基板を金型に沿って確実に変形でき、高品質のフィン材を得ることができる。
【0013】
また、このプレス加工の際、エーテルエステル系ウレタン樹脂からなる耐食性皮膜は、延性が高いため、アルミニウム基板の変形に容易に追従し、クラックを生じ難い。このため、耐食性皮膜のクラックを起点とするカラー割れを回避でき、良好なプレス加工性と高い生産性を得ることが可能となる。したがって、上述の耐食性皮膜と潤滑性皮膜とを組み合わせて設けることにより、張り出しやしごき率の高い強加工も可能となり、所望形状のフィン材を製造できる。
【0014】
また、本発明の熱交換器によれば、前述の熱交換器用フィン材を備えているので、設置環境を問わず、フィン材表面において腐食生成物の発生を抑え、設置環境に腐食生成物を吹き出す問題を回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る熱交換器用フィン材の一構成例を示す斜視図。
【図2】図1に示す熱交換器用フィン材を一部拡大して示す断面図。
【図3】図1に示す熱交換用フィン材を複数備えた熱交換器の一例を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
図1は、本発明に係る熱交換器用フィン材の一構成例を示す斜視図、図2は、図1に示す熱交換器用フィン材を一部拡大して示す断面図である。
この例の熱交換器用フィン材(以下、単に「フィン材」と言う。)は細長い短冊形状を有しており、銅製の伝熱管を通すラッパ状のフレア11が、長さ方向に単列、或いは複数列で等間隔に配されている。また、アルミニウムフィン材10の表面には、伝熱性能の向上を目的にスリット12などを必要箇所に設けることがある。
図1に示すフィン材10は、図2に示すように、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるフィン用の基板13の表面に、リン酸クロメート皮膜14と、耐食性皮膜15と、潤滑性皮膜16が順次形成されている。
【0017】
基板13は、例えば、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる板材を、各皮膜14、15、16を形成した後、フィン形状にプレス加工することで成形される。アルミニウムまたはアルミニウム合金としては、特に限定されず、一般的に熱交換器用の基材に適用されている組成のアルミニウム材を適宜用いて良い。なお、例示するならばJIS規定A1050、A1200材等が挙げられる。
【0018】
リン酸クロメート皮膜14は、基板13を、リン酸塩を含むクロム酸又は重クロム酸の水溶液に浸漬することによって、該基板13表面に化学的に生成される化成皮膜である。このリン酸クロメート皮膜14は、フィン材10に耐食性を付与し、熱交換器使用時のフィン材10表面での腐食生成物の発生を抑えるとともに、その上に設けられる各皮膜15、16の塗装密着性を高める機能を有する。
リン酸クロメート皮膜14は、本発明では10〜30mg/mの被着量で基板13の表面に設けられている。リン酸クロメート皮膜14の被着量が10mg/m未満であると、フィン材10の耐食性が不足し、その上に設けられる各皮膜15、16の密着性が不十分となって各皮膜15、16の機能が十分得られなくなる。また、熱交換器使用時の腐食生成物の発生や、プレス加工時の潤滑不足、カラー割れ等の問題が生じ易くなる。一方、リン酸クロメート皮膜14の被着量を30mg/mより大きくしても、それ以上の効果は得られず、材料コストが高くなる。
【0019】
耐食性皮膜15は、エーテルエステル系ウレタン樹脂を主体として構成されている。エーテルエステル系ウレタン樹脂からなる耐食性皮膜15をリン酸クロメート皮膜14の上に形成すると、フィン材10に優れた耐食性を付与できる。
また、エーテルエステル系ウレタン樹脂は、直射日光に晒されても変質し難く、耐候性に優れている。このため、エーテルエステル系ウレタン樹脂によって耐食性皮膜15を構成することにより、熱交換器の設置環境を問わず、その耐食性能を確実に維持することができる。
さらに、エーテルエステル系ウレタン樹脂は延性が高く、プレス加工時に基板13の変形に容易に追従するため、クラックが生じ難い。従って、耐食性皮膜15の形成材料としてエーテルエステル系ウレタン樹脂を用いることにより、従来問題となっている耐食性皮膜15を起点としたカラー割れを回避可能となる。
【0020】
耐食性皮膜15は、0.8〜2.0g/mの被着量で設けられている。耐食性皮膜15の被着量が0.8g/m未満であると、フィン材の耐食性及び耐候性が不十分となり、熱交換器使用時にフィン材10に腐食生成物が発生する問題が生じる。一方、耐食性皮膜15の被着量を2.0g/mより大きくしても、それ以上の効果は得られず、材料コストが高くなる。
【0021】
耐食性皮膜15は、例えば、エーテルエステル系ウレタン樹脂を含有する樹脂塗料を、リン酸クロメート皮膜14が形成された基板13の表面にバーコーターやロールコーターなどの塗布装置により塗布した後、加熱乾燥させて形成できる。ここで、樹脂塗料100重量部に対してエーテルエステル系ウレタン樹脂を25〜35重量部含有したものが好ましい。このような濃度の樹脂塗料は適度の粘性を有するため、リン酸クロメート皮膜14の表面に、耐食性皮膜15を、前述の適正な被着量で容易に形成することができる。
【0022】
潤滑性皮膜16は、ポリオキシエチレンアルキルエーテルを主体として構成されている。ウレタン樹脂からなる耐食性皮膜15は、プレス加工で用いる金型の表面に対して滑りが悪い傾向があるが、耐食性皮膜15の上に潤滑性皮膜16を設けることにより、潤滑性を付与できる。特に、ポリオキシエチレンアルキルエーテルは耐食性皮膜15への浸透を抑制でき、効果的に潤滑性を付与できる。このため、潤滑性皮膜16を表面に設けることにより、プレス加工時に金型との摩擦を低減でき、加工性が向上する。
また、前述のように潤滑性皮膜16を設けることにより、張り出しやしごき率の高い強加工も可能となり、所望の形状のフィン材10を確実に得ることが可能となる。
【0023】
潤滑性皮膜16の被着量は、0.05〜0.2g/mであることが好ましい。潤滑性皮膜16の被着量が0.05g/m未満であると、プレス加工時に、表面の潤滑性が不足し、良好なプレス加工性が得られない可能性がある。また、潤滑性皮膜16の被着量を0.2g/mより大きくすると、潤滑剤が、プレス加工で用いる金型に転写され、金型ポンチ径が大きくなることによってカラー飛びやカラー割れが発生する可能性がある。
【0024】
以上のように、本実施形態に係る熱交換器用フィン材10は、基板13上に、リン酸クロメート皮膜14とエーテルエステル系ウレタン樹脂からなる耐食性皮膜15が所定の被着量で順次設けられているので、優れた耐食性と耐候性が得られ、表面において腐食生成物の生成を抑制できる効果がある。
また、耐食性皮膜15の上に潤滑剤皮膜16が設けられ、該潤滑剤皮膜16がポリオキシエチレンアルキルエーテルの場合は、潤滑剤が耐食性皮膜15中に浸透し難く、潤滑性を効果的に付与できる。このため、プレス加工する際、金型との動摩擦係数を低減でき、高品質のフィン材10を得ることができる。
また、エーテルエステル系ウレタン樹脂からなる耐食性皮膜15であるならば、延性が高いため、基板13の変形に容易に追従し、クラックを生じ難い。このため、耐食性皮膜15のクラックを起点とするカラー割れを回避でき、良好なプレス加工性と高い生産性を得ることができる。
【0025】
図3は、本発明のフィン材10を備えた熱交換器の一例を示す斜視図である。
図3に示す熱交換器20は、図1、2に示すフィン材10と、複数の伝熱管30とを備えたものである。アルミニウムフィン材10は、一定の等間隔で平行に並べられており、アルミニウムフィン材10の相互間に空気が流動するようになっている。伝熱管30は、アルミニウムフィン材10のフレア11を貫通しており、その内部を冷媒が流動するようになっている。
このような構成の熱交換器20は、先に説明したフィン材10を備えているので、フィン材表面における腐食生成物の発生を効果的に抑え、設置環境に腐食生成物を噴き出す問題を回避できる。
また、フィン材10の生産性が高いので、熱交換器20としての生産性向上とコストの低減を図ることができる。
【0026】
以上、本発明の熱交換器用フィン材及び熱交換器の各実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない範囲で適宜変更することができる。
【実施例】
【0027】
以下実施例に基づき本発明を更に説明する。
1.フィン材の作成
(実施例1〜7)
JIS規定A1050のアルミニウムからなる基板を用意した。この基板に、リン酸クロメート処理を行なってリン酸クロメート皮膜を形成した。
次に、エーテルエステル系ウレタン樹脂を含有する樹脂塗料を用意し、この樹脂塗料を、リン酸クロメート皮膜が形成された基板の表面にバーコーターを用いて塗装し、加熱乾燥することで耐食性皮膜を形成した。
次に、耐食性皮膜上に、ポリオキシエチレンアルキルエーテルを、バーコーターを用いて塗装することで潤滑性皮膜を形成し、実施例1〜7の試料を得た。
リン酸クロメート皮膜の膜厚、耐食性皮膜及び潤滑性皮膜の被着量は、以下の表1に示す通りである。以上の工程により、フィン材を得た。
【0028】
(比較例1〜7)
耐食性皮膜に用いる樹脂を以下の表1に示すように変更した以外は、実施例1の製造方法と同等の方法でフィン材を作成した。
(比較例8)
リン酸クロメート皮膜を形成しないフィン材を作成した。
(比較例9)
リン酸クロメート皮膜の被着量を5mg/mに変更した以外は、実施例1の製造方法と同等の方法でフィン材を作成した。
(比較例10)
耐食性皮膜の被着量を、0.5g/mに変更した以外は、実施例1の製造方法と同等の方法でフィン材を作成した。
(比較例11)
潤滑剤皮膜を形成しないこと以外は、実施例1の製造方法と同等の方法でフィン材を作成した。
(比較例12)
耐食性皮膜の付着量を多くしたこと以外は、実施例の範囲内でフィン材を作成した。
(比較例13)
潤滑性皮膜の付着量を多くしたこと以外は、実施例の範囲内でフィン材を作成した。
【0029】
2.評価
各実施例及び各比較例で作成したフィン材について、以下のようにして評価を行った。
(1)塗装性
耐食性皮膜を形成するためのバーコーターによる塗装工程に際して、樹脂塗料のはじきの状態を目視観察し、以下の基準に従って評価した。なお、ややはじきがあるとは、少しでもはじきがある状態であり、塗装自体は可能であるが、塗装の無い部分から腐食が発生するので、製品としては不可である。
○:はじきがない、△:ややはじきがある、×:はじきがある(塗装不可)
【0030】
(2)耐食性
各フィン材について、JIS Z2371に従い、塩水噴霧試験を1000時間行った後の腐食面積率、及び、酢酸塩水噴霧試験を1000時間行った後の腐食面積率をそれぞれ求め、各腐食面積率をレイティングナンバ(R.N)で評価した。なお、ここでは、塩水噴霧試験でのR.Nが9.8以上、酢酸塩水噴霧試験でのR.Nが9.5以上を、耐食性の許容範囲とした。
【0031】
(3)耐候性
各フィン材について、サンシャインウェザーメータにて紫外線を500時間照射した後、皮膜の劣化状態を目視観察した。この観察結果を、以下の基準に従い評価した。
◎:皮膜劣化がない、○:皮膜劣化がほとんどない、×:皮膜劣化がある
評価は、試験前後の試料をストランドゲージで膜厚測定し、塗膜残存率を算出した。
◎:皮膜劣化がない=塗膜残存率90%以上、○:皮膜劣化がほとんどない=塗膜残存率60%〜90%未満、×:皮膜劣化がある=60%未満(60%未満では見た目上、明らかに皮膜に劣化が見られる)の評価基準とした。
(4)潤滑性
バウデン式摩擦試験機を用い、各フィン材表面の動摩擦係数を測定した。なお、動摩擦係数の測定は、試験機の摺動面にプレス油を塗布した状態で1サイクル行った。
【0032】
(5)プレス加工性
プレス成形を行う前の各板材(各皮膜が形成された状態)について、ドロー加工及びドローレス加工をそれぞれ5000ショットまで行い、カラー飛びやフレア割れの発生状況を目視観察した。この観察結果を、以下の基準に従い評価した。
○:カラー飛びがなく、フレア割れの発生率が10%以下、×:カラー飛びがある、または、フレア割れが多い。以上の評価結果をまとめて表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
表1に示すように、実施例1〜7のフィン材は、いずれも塗装性、耐食性、耐候性及び潤滑性に優れており、良好なプレス加工性が得られた。耐食性について、塩水噴霧試験のレイティングナンバ(R.N)9.8以上、酢酸塩水噴霧試験のR.N9.5以上を耐食性の許容範囲としている。
これに対し比較例のフィン材は、樹脂塗料や潤滑剤の塗装が困難であったり、耐食性皮膜の耐食性や耐候性が不足していたりし、フィン材として不十分なものであった。
【0035】
比較例1のフィン材は、耐食性樹脂としてエポキシ樹脂を用いたが、耐候性試験において皮膜劣化を起こした。
比較例2のフィン材は、耐食性樹脂としてアクリル樹脂を用いたが、潤滑性において塗装不可となった。なお、表1の塗装性とは耐食性皮膜の塗装性を示しており、ここでは耐食性皮膜上に潤滑性皮膜の塗装を行った際にはじきが生じたことを示す。
比較例3のフィン材は潤滑性皮膜としてエステルアクリル系樹脂を用いたが、塗装不可であった。比較例4のフィン材は潤滑性皮膜としてエーテルアクリル系樹脂を用いたが、塗装不可であった。
比較例5のフィン材はエステル系ウレタン樹脂を用いたが若干はじきが生じ、潤滑性に劣る結果、ドロー加工とドローレス加工において割れが発生した。
比較例6のフィン材はエーテル系ウレタン樹脂を用いたが塗装不可となり、レイティングナンバ(R.N)が低下した。比較例6のフィン材は耐食性皮膜の塗装性が△であり、更に上記同様に耐食性皮膜上に潤滑性皮膜の塗装を行った際にはじきが生じたことを示す。
比較例7のフィン材は、ポリカーボネート系ウレタン樹脂を用いたが耐候性に劣り、酢酸塩水噴霧試験のレイティングナンバが低下した。
比較例8のフィン材は、リン酸クロメート皮膜を形成することなくエーテルエステル系ウレタン樹脂の耐食性皮膜を形成した例であるが、塗装不可となった。
比較例9のフィン材は、リン酸クロメート皮膜の被着量を5mg/mにしてエーテルエステル系ウレタン樹脂の潤滑性皮膜を形成したが、リン酸クロメート皮膜の被着量が少ないため、潤滑性皮膜の塗装性に劣り、酢酸塩水噴霧試験のレイティングナンバが低下した。
比較例10のフィン材は、エーテルエステル系ウレタン樹脂の付着量が少ないため、塩水噴霧試験、酢酸塩水噴霧試験のレイティングナンバが低下した。
比較例11のフィン材は、潤滑性皮膜を設けていないため、ドロー加工、ドローレス加工ともにカラー飛びあるいはフレア割れが発生した。
比較例12のフィン材は、特性的には問題がないが、耐食性皮膜の付着量が多いのでコストアップの原因となる。
比較例13のフィン材は、潤滑剤が金型にビルドアップすることによって、金型ポンチ径が大きくなり、カラー飛びやカラー割れが発生した。
【符号の説明】
【0036】
10…フィン材(熱交換器用フィン材)、12…スリット、13…基板、14…リン酸クロメート皮膜、15…耐食性皮膜、16…潤滑性皮膜、20…熱交換器、30…伝熱管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基板と、該基板上に10〜30mg/mの被着量で設けられたリン酸クロメート皮膜と、該リン酸クロメート皮膜上に設けられた耐食性皮膜と、該耐食性皮膜上に設けられた潤滑性皮膜を有し、
前記耐食性皮膜は、エーテルエステル系ウレタン樹脂を主体とし、その被着量が0.8〜2.0g/mであり、前記潤滑性皮膜は、ポリオキシエチレンアルキルエーテルを主体とし、
前記潤滑性皮膜の被着量は、0.05〜0.2g/mであることを特徴とする熱交換器用フィン材。
【請求項2】
請求項1に記載の熱交換器用フィン材を複数備えてなることを特徴とする熱交換器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−113543(P2013−113543A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262014(P2011−262014)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000176707)三菱アルミニウム株式会社 (446)