説明

熱交換器用フィン材及び熱交換器

【課題】耐食性及びプレス加工性に優れ、腐食生成物が発生し難く、高い生産性が得られる熱交換器用フィン材及び熱交換器を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の熱交換器用フィン材10は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基板13と、該基板13上に10〜30mg/mの被着量で設けられたリン酸クロメート皮膜14と、該リン酸クロメート皮膜14上に0.5〜2.0g/mの被着量で設けられ、エポキシ樹脂を主材料とする耐食性皮膜15を有し、耐食性皮膜15は、カルナウバワックスをエポキシ樹脂100重量部に対して1.0〜5.0重量部含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアーコンディショナーなどの熱交換器に用いられ、耐食性、潤滑性及びプレス加工性に優れた熱交換器用フィン材及び熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
エアーコンディショナーなどの熱交換器では、フィン材の素材として、軽量かつ安価であり、プレス加工性にも優れることからアルミニウム又はアルミニウム合金が用いられている。
このようなアルミニウムまたはアルミニウム合金をフィン材に用いる熱交換器では、水分と接触する環境下において、フィン材表面で水和反応が進行し、水酸化アルミニウムからなる白色の腐食生成物が生成されることがあり、この腐食生成物を熱交換器の設置環境に吹き出してしまう問題がある。このような腐食生成物の問題を回避するため、アルミニウムフィン材の表面には、樹脂からなる耐食性皮膜が設けられている(特許文献1参照)。
【0003】
ここで、フィン材は、例えば耐食性皮膜等が予め設けられたアルミニウム板材をプレス加工することで得られるが、樹脂からなる耐食性皮膜は、プレス加工で用いる金型表面に対して滑りが悪い傾向がある。このため、耐食性皮膜に低融点ワックス(シリコーン等)や石油系ワックス(パラフィン等)を添加することで、耐食性皮膜表面に金型に対する潤滑性を付与することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−214766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、低融点タイプのワックスを耐食性皮膜に添加した場合、ドロー金型で高張り出し加工(カラーハイト4〜5mm)を行った際に、フォーミング工程での割れに起因したカラー飛びが発生してしまうことがある。
一方、石油系ワックスを耐食性皮膜に添加した場合、金型内にワックスが大量に固着し、この固着したワックスに起因してカラー飛びやフレア割れが発生することがあった。
【0006】
本発明は、これら問題を解決するためになされたものであり、耐食性及びプレス加工性に優れ、腐食生成物が発生し難く、高い生産性が得られる熱交換器用フィン材及び熱交換器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者が、前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、耐食性皮膜の材料としてエポキシ樹脂を用いるとともに該耐食性皮膜にカルナウバワックスを添加することにより、熱交換用フィン材の耐食性及び潤滑性が向上し、プレス加工時のカラー割れやフレア割れが確実に抑えられるとの知見を得るに至った。
本発明は、かかる知見に基づいてなされたものであって、以下の構成を有する。
本発明の熱交換器用フィン材は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基板と、該基板上に10〜30mg/mの被着量で設けられたリン酸クロメート皮膜と、該リン酸クロメート皮膜上に0.5〜2.0g/mの被着量で設けられ、エポキシ樹脂を主材料とする耐食性皮膜を有し、前記耐食性皮膜は、カルナウバワックスをエポキシ樹脂100重量部に対して1.0〜5.0重量部含有することを特徴とする。
本発明の熱交換器は、本発明の熱交換器用フィン材を複数備えてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の熱交換器用フィン材によれば、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基板(アルミニウム基板)上に、リン酸クロメート皮膜と、エポキシ樹脂からなる耐食性皮膜とが所定の被着量で順次設けられていることにより、優れた耐食性が得られ、表面に腐食生成物が生成されることを抑えることができる。
また、耐食性皮膜に、カルナウバワックスが所定量添加されていることにより、耐食性皮膜の表面に高い潤滑性が付与される。このため、アルミニウム基板をプレス加工してフィン形状に成形する際、アルミニウム基板と金型との摩擦が少なくなり、アルミニウム基板が金型に沿って容易に変形し、高品質なフィン材を得ることができる。また、カルナウバワックスは金型に固着し難いため、これを耐食性皮膜のワックス材として用いることにより、金型にワックスが固着することに起因するカラー飛びやフレア割れを回避することができ、高い生産性を得ることが可能となる。
【0009】
また、本発明の熱交換器によれば、本発明の熱交換器用フィン材を備えていることにより、設置環境を問わず、フィン材表面での腐食生成物の発生が効果的に抑えられ、設置環境に腐食生成物が吹き出す不都合を回避することができる。
また、熱交換器用フィン材の生産性が高いことによって、熱交換器自体の生産性の向上及びコストの低減を図ることも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る熱交換器用フィン材の一構成例を示す斜視図。
【図2】図1に示す熱交換器用フィン材を一部拡大して示す拡大断面図。
【図3】図1に示す熱交換用フィン材を複数備えた熱交換器の一例を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面に示す実施形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
図1は、本発明に係る熱交換器用フィン材の一構成例を示す斜視図、図2は、図1に示す熱交換器用フィン材を一部拡大して示す拡大断面図である。
この例の熱交換器用フィン材は、細長い短冊形状を有しており、銅製の伝熱管を通すラッパ状のフレア11が、長さ方向に単列、或いは複数列で等間隔に配されている。また、アルミニウムフィン材10の表面には、伝熱性能の向上を目的にスリット12などを必要箇所に設けることがある。
図1に示すフィン材10は、図2に示すように、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるフィン用の基板13の表面に、リン酸クロメート皮膜14と、耐食性皮膜15とが順次形成されてなるものである。
【0012】
基板13は、例えば、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる板材を、各皮膜14、15を形成した後、フィン形状にプレス加工することで成形されたものである。アルミニウムまたはアルミニウム合金としては、特に限定されず、一般的に熱交換器用の基材に適用されている組成のアルミニウム材を適宜用いて良い。なお、例示するならばJIS規定A1050、A1200材等が挙げられる。
【0013】
リン酸クロメート皮膜14は、基板13を、リン酸塩を含むクロム酸又は重クロム酸の水溶液に浸漬することによって、該基板13表面に化学的に生成される化成皮膜である。このリン酸クロメート皮膜14は、フィン材10に耐食性を付与し、熱交換器使用時のフィン材10表面での腐食生成物の発生を抑えるとともに、その上に設けられる耐食性皮膜15の塗装密着性を高める機能を有する。
リン酸クロメート皮膜14は、本発明では10〜30mg/mの被着量で基板13表面に設けられている。リン酸クロメート皮膜14の被着量が10mg/m未満である場合には、フィン材10の耐食性が不足し、その上に設けられる耐食性皮膜15の密着性が不十分となって耐食性が不十分となり、熱交換器使用時の腐食生成物の発生や、プレス加工時の潤滑不足やカラー割れ等の問題が生じてしまう。一方、リン酸クロメート皮膜14の被着量を30mg/mより大きくしても、それ以上の効果は得られず、材料コストが高くなる。
【0014】
耐食性皮膜15は、エポキシ樹脂を主材料とし、カルナウバワックスが所定量添加されて構成されている。
エポキシ樹脂は基板表面に強く結合し、強固な皮膜を形成する。このため、これを耐食性皮膜15の材料として用いることにより、フィン材10に優れた耐食性を付与することができる。
エポキシ樹脂としては、水性エポキシ樹脂を用いることが好ましい。水性エポキシ樹脂は、水を溶剤の主成分とするものであり、有機溶剤を用いる場合のような環境への影響や臭いの問題が少なく、良好な取扱い性を得ることができる。
【0015】
カルナウバワックスは、耐食性皮膜14に潤滑性を付与する。これにより、プレス加工の際、基板13(耐食性皮膜15)と金型との摩擦が低減し、基板13が金型に沿って変形し、良好な加工性を得ることができる。その結果、ドロー金型での高張り出し加工も可能になり、所望の形状のフィン材10を容易に得ることが可能となる。また、カルナウバワックスは、ワックスの中でも比較的融点が高く、金型に転写され難い。このため、耐食性皮膜15のワックス材としてカルナウバワックスを用いることにより、金型にワックスが転写されることに起因するカラー飛びやフレア割れが回避され、高い生産性を得ることが可能となる。
【0016】
本実施形態では、耐食性皮膜15におけるカルナウバワックスの含有量を、エポキシ樹脂100重量部に対し1.0〜5.0重量部の範囲に規定する。カルナウバワックスの含有量が1.0重量部より少ない場合には、耐食性皮膜15表面の潤滑性が不十分となり、プレス加工性が悪化する。一方、カルナウバワックスの含有量を5.0重量部より多くしても、それ以上の効果は得られず、材料コストが高くなるだけで好ましくない。
【0017】
また、耐食性皮膜15は、0.5〜2.0g/mの被着量で設けられる。耐食性皮膜15の被着量が0.5g/m未満であると、フィン材の耐食性が不十分となり、熱交換器使用時にフィン材10に腐食生成物が発生する問題が生じてしまう。一方、耐食性皮膜15の被着量を2.0g/mより大きくしても、それ以上の効果は得られず、材料コストが高くなるだけで好ましくない。
【0018】
以上のように、本実施形態に係る熱交換器用フィン材10では、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基板(アルミニウム基板)13上に、リン酸クロメート皮膜14とエポキシ樹脂からなる耐食性皮膜15とが所定の被着量で順次設けられていることにより、優れた耐食性が得られ、その表面に腐食生成物が生成されることを確実に抑えることができる。
また、耐食性皮膜15に、カルナウバワックスが所定量添加されていることにより、耐食性皮膜15の表面に高い潤滑性が付与される。このため、基板13をプレス加工してフィン形状に成形する際、基板13と金型との摩擦が低減し、基板13が金型に沿って確実に変形し、良好なプレス加工性を得ることができる。また、カルナウバワックスは金型に固着し難いため、これを耐食性皮膜15に添加するワックス材として用いることにより、金型にワックスが固着することに起因するカラー飛びやフレア割れを回避することができ、高い生産性を得ることが可能となる。
【0019】
図3は、本発明のフィン材10を備えた熱交換器の一例を示す斜視図である。
図3に示す熱交換器20は、図1、2に示すフィン材10と、複数の伝熱管30とを備えたものである。アルミニウムフィン材10は、一定の等間隔で平行に並べられており、アルミニウムフィン材10の相互間に空気が流動するようになっている。伝熱管30は、アルミニウムフィン材10のフレア11を貫通しており、その内部を冷媒が流動するようになっている。
このような構成の熱交換器20は、本発明のフィン材10を備えているので、設置環境を問わず、フィン材表面での腐食生成物の発生が効果的に抑えられ、設置環境に腐食生成物が噴き出す問題を確実に回避することができる。
また、フィン材10の生産性が高いことによって、熱交換器20自体の生産性の向上及びコストの低減を図ることも可能となる。
【0020】
以上、本発明の熱交換器用フィン材及び熱交換器の各実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない範囲で適宜変更することができる。
【実施例】
【0021】
以下実施例に基づき本発明を更に説明する。
1.フィン材の作成
(実施例1〜8)
JIS規定A1050のアルミニウムからなる基板を用意した。この基板に、リン酸クロメート皮膜を形成した。
次に、エポキシ樹脂及びカルナウバワックスを含有する樹脂塗料を用意し、この樹脂塗料を、リン酸クロメート皮膜が形成された基板の表面にバーコーターを用いて塗装し、乾燥することで耐食性皮膜を形成した。リン酸クロメート皮膜及び耐食性皮膜の被着量、耐食性皮膜におけるカルナウバワックスの含有量は、表1に示す通りである。
以上の工程により、フィン材を得た。
【0022】
(比較例1、2)
耐食性皮膜のワックスの種類を表1に示すように変更した以外は、実施例1の製造方法と同等の方法でフィン材を作成した。
(比較例3)
リン酸クロメート皮膜の被着量を5mg/mに変更した以外は、実施例1の製造方法と同等の方法でフィン材を作成した。
(比較例4)
耐食性皮膜の被着量を、0.25g/mに変更した以外は、実施例1の製造方法と同等の方法でフィン材を作成した。
(比較例5、6)
耐食性皮膜におけるカルナウバワックスの含有量を表1に示すように変更した以外は、実施例1の製造方法と同等の方法でフィン材を作成した。
【0023】
2.評価
各実施例及び各比較例で作成したフィン材について、以下のようにして評価を行った。
(1)耐食性
各フィン材について、JIS Z2371に従い、塩水噴霧試験を1000時間行った後の腐食面積率を求め、この腐食面積率をレイティングナンバ(R.N)で評価した。なお、ここでは、塩水噴霧試験でのR.Nが9.8以上を、耐食性の許容範囲とした。
【0024】
(2)潤滑性
バウデン式摩擦試験機を用い、各フィン材表面の動摩擦係数を測定した。なお、測定は、試験機の摺動面にプレス油を塗布した状態で1サイクル行った。なお、ここでは動摩擦係数0.1以下を、潤滑性の許容範囲とした。
【0025】
(3)プレス加工性
プレス成形を行う前の各板材(各皮膜が形成された状態)について、ハイピッチ(5mm)でのドロー加工を5000ショットまで行い、カラー飛びやフレア割れの発生状況を目視観察した。この観察結果を、以下の基準に従い評価した。
○:カラー飛びがなく、フレア割れの発生率が10%以下、×:カラー飛びがある、または、フレア割れが多い
以上の評価結果を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
表1に示すように、各実施例のフィン材は、いずれも耐食性及び潤滑性に優れており、良好なプレス加工性が得られた。
これらに対し、カルナウバワックス以外のワックスを用いた比較例1、2はプレス加工性が不十分であった。また、耐食性皮膜またはリン酸クロメート皮膜の被着量が所定量より少ない比較例3、4のフィン材は、耐食性が不足した。また、カルナウバワックスの含有量が少ない比較例5、6のフィン材は、潤滑性に劣り、プレス加工性が不十分であった。
以上の結果から、アルミニウム基板上に10〜30mg/mの被着量でリン酸クロメート皮膜を形成することと、該リン酸クロメート皮膜上に0.5〜2.0g/mの被着量でエポキシ樹脂を主体とする耐食性皮膜を有し、この耐食性皮膜がカルナウバワックスをエポキシ樹脂100重量部に対して1.0〜5.0重量部含有することが重要であることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0028】
10…フィン材(熱交換器用フィン材)、12…スリット、13…基板、14…リン酸クロメート皮膜、15…耐食性皮膜、20…熱交換器、30…伝熱管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基板と、該基板上に10〜30mg/mの被着量で設けられたリン酸クロメート皮膜と、該リン酸クロメート皮膜上に0.5〜2.0g/mの被着量で設けられ、エポキシ樹脂を主材料とする耐食性皮膜を有し、
前記耐食性皮膜は、カルナウバワックスをエポキシ樹脂100重量部に対して1.0〜5.0重量部含有することを特徴とする熱交換器用フィン材。
【請求項2】
請求項1に記載の熱交換器用フィン材を複数備えてなることを特徴とする熱交換器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−113544(P2013−113544A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262015(P2011−262015)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000176707)三菱アルミニウム株式会社 (446)