説明

熱交換装置

【課題】熱交換器本体に流入する熱媒の温度を温度センサで正確に検出できる熱交換装置を提供する。
【解決手段】天板8と底板6を重ね合わせて両者間に熱媒経路4を形成している本体7と、温度センサ18と、温度センサ18を天板8に固定する部材12を備えている。底板6は、熱媒と異なる温度の異温部材2に接している。底板6が異温部材2に接する位置と温度センサ18が固定部材12で天板8に固定されている位置の間に、溝6b、6cが形成されている。溝6b、6cによって、異温部材2→底板6→天板8→固定部材12に至る伝熱経路の断面積が縮小し、異温部材2から温度センサ18への伝熱量が減少する。温度センサ18の検出結果に異温部材2が与える影響を抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
例えば、動作すると発熱する半導体装置を冷却するために、内部を冷却液が通過する熱交換器本体の外側表面上に半導体装置を配置し、冷却液で半導体装置を冷却する熱交換装置が知られている。本明細書では、熱交換器本体の内側を通過する熱媒と、熱交換器本体の外側に配置した機器類との間で熱交換する装置を開示する。熱媒は、液体に限られず、気体であってもよいし、気体と液体の中間的な状態であってもよい。あるいは機器類を冷却する熱交換装置であってもよいし、機器類を加熱する熱交換装置であってもよい。
【背景技術】
【0002】
熱交換装置の場合、熱媒の温度を正確に検出する必要があることが多い。特に、車載されている走行用モータに通電する電力を調整する半導体装置と冷却液の間で熱交換して半導体装置を冷却する場合には、冷却液の温度を正確に検出する必要が高い。また冷却液の温度が変化する場合には、その変化を瞬時に検出する必要が高い。
【0003】
熱媒の温度を検出する温度センサを熱交換器本体の内側に配置することは難しい。通常は熱交換器本体の外側に温度センサを配置する。熱交換器本体の外側に温度センサを配置する場合には温度センサの出力に様々な要素が影響を及ぼす。
熱交換器本体は、他の部材に固定されて用いられることが多い。正確に観察すると、熱媒の温度と、熱交換器本体が固定されている他の部材の温度は相違する。熱交換器本体が固定されている他部材を、本明細書では異温部材という。熱交換器本体の外側に配置した温度センサで異温部材の温度に影響されずに熱媒の温度を検出するには、種々の配慮を必要とする。
【0004】
図7と図8は、特願2010−268115号の明細書と図面に記載されている熱交換装置の温度センサの近傍を示している。ただし、この出願はまだ公開されていない。その熱交換装置は、天板8と底板6を重ね合わせて両者間に熱媒経路4を形成している熱交換器本体7を備えている。
【0005】
温度センサ18は、下記のようにして固定されている。底板6と天板8が重ねあわせた位置に、ボルト12が通過する貫通孔6a,8aが形成されている。貫通孔6a内にボルト12が圧入されて固定されている。ボルト12の軸部が天板8の貫通孔8aを通過している。温度センサ18は温度センサ支持板16に固定されている。温度センサ支持板16には、ボルト12の軸部が通過する貫通穴16aが形成されている。温度センサ支持板16の貫通穴16aにボルト12の軸部を通し、ボルト12の先端にナット14をねじ込むことで、ナット14と天板8の間で温度センサ支持板16を挟みつけて固定している。温度センサ18は、天板8を介して熱媒経路4に向かい合う位置に固定される。
【0006】
熱交換器本体7の複数個所に貫通穴24が設けられており、それらを貫通するボルト25をケース2の壁にねじ込むことで、熱交換器本体7がケース2に固定される。熱交換器本体7がケース2に固定されると、底板6とケース2が密着する。図示27はスリーブである。ケース2は、動作すると発熱する電子機器を収容しており、ケース2の壁の温度は、熱媒経路4内の熱媒の温度と相違する。本明細書でいう異温部材に相当する。
【0007】
特許文献1にも、温度センサが取り付けられている熱交換装置が開示されている。特許文献1では、温度センサがプレートに埋め込まれたロジックプレートを用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−305010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図7と図8に示した構造によると、異温部材2から温度センサ18に伝熱される熱量が無視できず、温度センサ18の検出結果に異温部材2の温度が影響してしまう。すなわち、温度センサで熱媒の温度を正確に検出することができない。特許文献1に開示されているロジックプレートを用いても、異温部材の影響を排除できない。
【0010】
本明細書では、異温部材の影響を減少させ、温度センサで熱媒の温度を正確に検出することができる熱交換装置を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本明細書で開示する熱交換装置は、天板と底板を重ね合わせて両者間に熱媒経路を形成している本体と、温度センサと、温度センサを天板に固定している固定部材を備えている。底板は熱媒と異なる温度の異温部材に接して配置される。底板が異温部材に接する位置と温度センサを天板に固定している位置の間に、伝熱経路の断面積を縮小する溝が形成されている。
上記の熱交換装置によると、溝によって、異温部材から温度センサへ至る伝熱経路の断面積が縮小し、異温部材から温度センサへ伝熱する熱量が減少する。温度センサの検出結果に異温部材が与える影響を抑制できる。
【0012】
底板が異温部材に接する位置と底板が天板に接する位置の間において、底板に伝熱経路の断面積を縮小する溝を形成してもよい。あるいは、底板が天板に接する位置と温度センサを天板に固定している位置の間において、ブラケットに溝を形成してもよい。底板とブラケットの双方に溝を形成してもよい。このブラケットは、温度センサを天板に固定している。
【0013】
温度センサは温度センサ支持板に固定されており、固定部材は温度センサ支持板を介して温度センサを天板に固定するものであってもよい。天板は平坦であって底板よりも薄く、底板は湾曲していてもよい。異温部材は、動作時に発熱する電子機器を収容しているケースの壁であてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本明細書に開示されている熱交換装置によると、熱交換器本体に接している異温部材から温度センサへ至る伝熱経路の断面積が縮小し、異温部材から温度センサへ伝熱する熱量を減少させることができる。温度センサの検出結果に異温部材が与える影響を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1の熱交換装置の温度センサ固定部分の断面図である。
【図2】実施例1の熱交換装置の温度センサ固定部分の斜視図である。
【図3】実施例1のブラケットを斜視した図である。
【図4】実施例1の底板の底面を斜視した図である。
【図5】実施例2の熱交換装置の温度センサ固定部分の断面図である。
【図6】実施例3の熱交換装置の温度センサ固定部分の断面図である。
【図7】先に出願した熱交換装置の温度センサ固定部分の断面図である。
【図8】先に出願した熱交換装置の温度センサ固定部分の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
下記に説明する実施例の主要な特徴を列記する。
特徴1:熱交換器本体の天板の外面上に、動作すると発熱する半導体装置が配置されている。熱交換器本体内を冷却液が通過する。半導体装置を冷却液で冷却する。
特徴2:冷却液の検出温度によって、半導体装置の出力電力の上限を制限することで、半導体装置の過熱を防ぐ。温度検出の精度が低ければ、上限値に余裕を持たせる必要があることから上限値を低く設定する必要がある。温度検出の精度が上昇すれば、上限値に持たせる余裕分を圧縮することができ、上限値を上昇させることができる。温度検出の精度を上がると、半導体装置の動作範囲を広げられる。
特徴3:半導体装置は、走行用モータに通電する電流を制御する。半導体装置の動作範囲が広がると、車両の走行性能が向上する。
特徴4:熱交換器本体の底板に、動作すると発熱する電子機器を収容しているケースの壁が接している。
特徴5:温度センサは温度センンサ支持板に固定されている。固定部材は温度センサ支持板を天板に固定する。固定部材は温度センサ支持板を介して温度センサを天板に固定する。
特徴6:温度センサ支持板に貫通部を形成されている。
特徴7:固定部材は、天板を介して熱媒経路に向かい合う位置の天板の外面に固定されているブラケットと、ブラケットに固定されているとともに温度センサ支持板に形成されている貫通部を貫通する軸部材と、貫通部を貫通した軸部材に固定されているとともに温度センサ支持板をブラケットに押付ける押付部材を備えている。
特徴8:天板は平坦であって底板よりも薄く、底板は湾曲しており、熱媒は冷却液であり、温度センサ支持板に形成されている貫通部は貫通穴であり、軸部材はボルトであり、押付部材はナットでる。
【実施例】
【0017】
図2は、熱交換器本体7の熱媒流入パイプ22の近傍を斜視しており、図1は、図2のI−I線断面図を示している。図1、図2において、参照番号6は底板を示し、8は天板を示し、10はブラケットを示し、12はボルトを示し、14はナットを示し、16は温度センサ支持板を示し、18は温度センサを示し、20は温度センサの出力を外部に伝達するケーブルを示している。4は熱媒経路を示し、2はケースを示している。天板8の図示しない範囲の外面には、動作すると発熱する半導体装置が、電気的には絶縁体であるけれども熱伝導率が高い材質で形成されている板を介して固定されている。ケース2内には、動作すると発熱する電子機器が収容されている。熱媒経路4には、冷却液が通過し、天板8に接している半導体装置を冷却し、底板4に接しているケース2の壁を冷却する。ケース2の壁の温度と、熱媒経路4内の熱媒の温度は相違している。ケース2は異温部材である。天板8と底板4は、熱伝導率が高いアルミ合金で形成されている。本実施例の場合、熱交換器本体7は冷却器本体であり、熱媒は冷却液であり、熱媒経路4は冷却液経路である。ただし、本実施例の温度センサの固定構造は、冷却の場合にのみ有効なものでなく、熱媒で加熱する場合にも有効であるし、熱媒が気体の場合も有効である。
【0018】
図1に示すように、天板8は平坦であり、底板6は屈曲しており、両者を重ね合わせて両端の重なり合った部分をロウ付けすることで、熱媒経路4が形成されている。天板8と底板6の重合範囲には複数個の貫通穴24が設けられており、それらを貫通するボルト25をケース2の壁にねじ込むことで、熱交換器本体7がケース2に固定される。熱交換器本体7がケース2に固定されると、底板6とケース2が密着する。図示27はスリーブである。
【0019】
天板8に温度センサ18を固定するために、天板8の外面にブラケット10がロウ付けされている。ブラケット10には、ボルト12の頭部と軸部を受け入れる段付の貫通孔10aが形成されており、貫通穴10aにボルト12が圧入されている。天板8の外面にブラケット10がロウ付けされると、ボルト12の頭部が天板8にロウ付けされることになる。ボルト12の軸部はブラケット10から上方に伸びている。
【0020】
温度センサ18はサーミスタであり、温度センサ支持板16に固定されている。温度センサ支持板16には、ボルト12に軸部が貫通する貫通穴16aが形成されている。ボルト12の軸部に温度センサ支持板16の貫通穴16aを通してからナット14がボルト12にねじ込まれている。ナット14をボルト12にねじ込むと、ナット14が温度センサ支持板16をブラケット10に押付け、温度センサ支持板16を天板8に固定する。ブラケット10とボルト12と温度センサ支持板16は、熱伝導率が高いアルミ合金で形成されている。
【0021】
ブラケット10と、ブラケット10に固定されているボルト12は、天板8を介して熱媒経路4に向かい合う位置に配置されている。熱媒経路4内の熱媒から温度センサ18に至る主要な伝熱経路は、熱媒経路4内の熱媒→天板8→ボルト12→温度センサ支持板16→温度センサ18である。熱媒経路4内の熱媒から温度センサ支持板16に至るまでの伝熱経路の長さが最小化されている。温度センサ支持板16における貫通穴16aの形成位置と、温度センサ18の固定位置は異なっている。このために、温度センサ18は天板8を介して熱媒経路4に向かい合っているとは言いがたい位置関係にある。
【0022】
図7の場合、温度センサ18は天板8を介して熱媒経路4に向かい合っている。常識的には図7の方が、温度センサ18によって熱媒の温度を正確かつ迅速に検出できるように思える。しかしながら、実際にはそうでなく、図1の方が、熱媒の温度を正確かつ迅速に検出できる。その理由は、図1でも図7でも、温度センサ18がブラケット10ないし天板8に密着していないことから、伝熱量が低いことにある。重要なのは、金属同士が密着していて大きな熱を伝熱する伝熱経路の長さを短くすることであることが判明した。
図1の場合、熱媒経路4内の熱媒から度センサ支持板16に至るまでの伝熱経路の長さが最小化されており、図7による場合よりも熱媒の温度を正確かつ迅速に検出できる。
【0023】
図1に示すように、底板6がケース(異温部材)2に接する位置6fと、底板6が天板8に接する位置6gの間に位置する範囲の底板6に、壁厚の約半分に達する溝6bが形成されている。また、底板6がケース2に接する位置6fと、底板6が天板8に接する位置6hの間に位置する範囲の底板6に、壁厚の約半分に達する溝6cが形成されている。溝6b、6cは、図4に明瞭に図示されている。
さらに、底板6が天板8に接する位置6hと、センサ支持板16を介して温度センサ18を天板8に固定するボルト12の間に位置する範囲のブラケット10に、ブラケット10の厚みの約半分に達する溝10bが形成されている。溝10bは、図3に明瞭に図示されている。
【0024】
溝6bは、ケース(異温部材)2から接触箇所6fと重合箇所6gを経て天板8に達する伝熱経路の断面積を縮小し、伝熱量を減少させる。溝6cは、ケース2から接触箇所6fと重合箇所6hを経て天板8に達する伝熱経路の断面積を縮小し、伝熱量を減少させる。溝10bは、重合箇所6hからブラケット10を経てボルト12に達する伝熱経路の断面積を縮小し、伝熱量を減少させる。溝6b、6c、10bが形成されているために、ケース(異温部材)2から温度センサ18に至る伝熱経路の断面積が縮小し、伝熱量が減少し、温度センサ18の検出結果にケース(異温部材)2の温度が影響することを抑制している。
図1〜4の構造を備えていると、ケース(異温部材)2の温度による影響を抑制し、熱媒の温度を正確かつ迅速に検出できる。
【0025】
上記実施例では、ブラケット10に植生したボルト12にナット14をねじ込んで温度センサ支持板16をブラケット10に押付けている。これに代えて、ブラケット10にねじ穴を設け、そのねじ穴にボルトをねじ込んでボルトの頭部で温度センサ支持板16をブラケット10に押付けてもよい。ブラケットに固定されている軸部材は、ブラケット10に植生したボルト12の軸部であてもよいし、ブラケット10にねじ込んだボルトの軸部であてもよい。温度センサ支持板16をブラケット10に押付ける押付け部材は、ナット14でもよいし、ボルトの頭部でもよい。
ボルトとナットに代えて、ブラケット10に打ち込んで固定するリベットを用いることもできる。リベットの頭部で温度センサ支持板16をブラケット10に押付けることができる。軸部材は、ブラケットと一体成形したものであってもよい。
【0026】
図5では、底板6がケース2と接触する範囲6dを平坦とし、底板6とケース2と広い範囲で接触している。溝6b、6c、10bによって、温度センサ18の検出結果にケース(異温部材)2の温度が影響することを抑制できるので、底板6とケース2を広い範囲で接触させることができる。
【0027】
図6は、図7の構造に溝6eを形成したものである。この場合も、ケース2から重合部6gを経てボルト12に伝熱する熱量を抑えることができる。本明細書で開示する技術は、図7、図8に示す実施例に適用することもできる。
【0028】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0029】
2:ケース(異温部材)
4:熱媒経路
6:底板
6a:貫通穴
6b、6c、6e:溝
6d:ケースとの接触面
6f:ケースとの接触位置
6g、6h:天板8と重なり合う部分
7:熱交換器本体
8:天板
8a:貫通穴
10:ブラケット
10a:貫通穴
10b:溝
12:ボルト
14:ナット
16:温度センサ支持板
18:温度センサ
20:ケーブル
22:冷媒流入パイプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天板と底板を重ね合わせて両者間に熱媒経路を形成している本体と、
温度センサと、
温度センサを天板に固定している固定部材を備えており、
底板が熱媒と異なる温度の異温部材に接して配置され、
底板が異温部材に接する位置と温度センサを天板に固定している位置の間に、伝熱経路の断面積を縮小する溝が形成されていることを特徴とする熱交換装置。
【請求項2】
底板が異温部材に接する位置と底板が天板に接する位置の間において、底板に前記溝が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の熱交換装置。
【請求項3】
底板が天板に接する位置と温度センサを天板に固定している位置の間において、温度センサを天板に固定するブラケットに前記溝が形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の熱交換装置。
【請求項4】
温度センサは、温度センサが固定されている温度センサ支持板を介して天板に固定され、
天板は平坦であって底板よりも薄く、
底板は湾曲しており、
異温部材は、動作時に発熱する電子機器を収容しているケースの壁であることを特徴とする請求項2または3に記載の熱交換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−113483(P2013−113483A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259386(P2011−259386)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】