説明

熱伝導性シート及び熱伝導性シートの製造方法

【課題】熱伝導特性、厚さの均一性、柔軟性に優れた熱伝導性シートを提供する。
【解決手段】シリコーン樹脂と、熱伝導性フィラと、炭素繊維とを含有し、上記炭素繊維が厚み方向に配向されている熱伝導性シートにおいて、熱伝導性フィラが、40〜55体積%の範囲で含有され、炭素繊維が、10〜25体積%の範囲で含有されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱性電子部品等の放熱を促す熱伝導性シート及び熱伝導性シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子機器においては、高性能化、小型化及び軽量化に伴う半導体パッケージの高密度実装化、LSIの高集積化及び高速化などによって、各種の電子部品にて発生する熱を効果的に外部へ放散させる熱対策が非常に重要な課題になっている。そのため、電気機器の各種電子部品、例えばトランジスタやサイリスタなどの発熱性電子部品等に、熱伝導性の良好なシート材料(以下、「熱伝導性シート」という)を介してヒートシンク等の放熱部材を取り付けるという対策が一般的に採られている。
【0003】
この種の熱伝導性シートは、一般に、発熱源となる発熱性電子部品等の被装着部位の凹凸に対して柔軟に追従させて、発熱性電子部品等に密着した状態で取り付けられる。そして、かかる熱伝導性シートは、発熱性電子部品等と放熱部材との接触熱抵抗を低減させ、発熱性電子部品等にて発生する熱を効率良く放熱部材に伝導させる機能を果たす。
【0004】
また、熱伝導性シートは、放熱部材を発熱性電子部品等に圧着させる際において、放熱部材と発熱性電子部品とを密着させるとともに、これらの変形や損傷を防ぐ保護材としての機能をも果たす。そのため、この熱伝導性シートにおいては、高い熱伝導性のみならず、柔軟性及び形状追従性に優れることが要求される。さらに、熱伝導性シートは、発熱性電子部品や電子機器筐体の小型化に応じて、薄型に形成されることが要求されている。このような要求に対して、高い熱伝導率を有する炭素繊維を熱伝導材として配合した熱伝導性シートも提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
この種の熱伝導性シートは、シリコーンゴムなどの高分子材料中に、炭素繊維や酸化アルミニウム等の熱伝導材料を配合したシート母材を形成し、所定の厚さにスライスすることにより製造される。ここで、熱伝導性シートは、シートのスライス厚さが個々の製品の熱伝導率に大きく影響することから、厚さを均一にスライスすることが重要となる。また、熱伝導性シートは、炭素繊維がシートの厚さ方向に配向されることで、高い熱伝導特性を発揮することから、スライス工程において炭素繊維がシートの厚さ方向に配向されている状態を保つことが重要となる。
【0006】
従来のシリコーン系ゴムブロックのスライス方法としては、切断刃の刃先角度や表面粗さを規定するとともに非回転のまま直線的に移動させる方法(特許文献2)や、切断刃とゴムブロックの相対的な移動方向及び刃先の角度を規定する方法(特許文献3)が提案されている。
【0007】
しかし、熱伝導性シートは、上述したように高い柔軟性、形状追従性が求められることから、従来のスライス方法ではシート母材が変形しやすく、薄く均一な厚さにスライスすることが困難であった。また、従来の熱伝導性シートは、スライスされた表面が切断刃との摩擦抵抗によって擦られることにより、炭素繊維の配向が乱れてしまい、熱伝導特性の低下を招いていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−46137号公報
【特許文献2】特開平9−225890号公報
【特許文献3】特開2002−18782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上述した課題を解決するためになされたものであり、その目的は、熱伝導特性、厚さの均一性、柔軟性及び形状追従性に優れた熱伝導性シート及び熱伝導性シートの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するために、本発明に係る熱伝導性シートは、シリコーン樹脂と、熱伝導性フィラと、炭素繊維とを含有し、上記炭素繊維が厚み方向に配向されている熱伝導性シートにおいて、上記熱伝導性フィラが、40〜55体積%の範囲で含有され、上記炭素繊維が、10〜25体積%の範囲で含有されてなるものである。
【0011】
また、本発明に係る熱伝導性シートの製造方法は、シリコーン樹脂と、熱伝導性フィラと、炭素繊維とを含有する混合組成物を作成する工程と、上記混合組成物を柱状に形成するとともに、上記炭素繊維を該柱状の長手方向に配向させる工程と、上記柱状の混合組成物を、スライス方向に超音波振動が付与されたカッターによって該柱状の長手方向と直交する方向にスライスする工程とを有するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る熱伝導性シートによれば、熱伝導特性及び圧縮性に優れた熱伝導性シートを得ることができる。また、本発明に係る熱伝導性シートの製造方法によれば、熱伝導特性及び圧縮性に優れた熱伝導性シートを、均一な厚さで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1のシリコーン樹脂と第2のシリコーン樹脂との配合割合に応じた圧縮率を示す表である。
【図2】燃焼試験及びシート母材の押出しやすさの評価を示す表である。
【図3】熱伝導性シートにおける炭素繊維の配合量と熱抵抗との関係を示すグラフである。
【図4】熱伝導性シートを構成する材料の配合量を示す表である。
【図5】シート母材をスライスすることにより熱伝導性シートを製造する工程を示す斜視図である。
【図6】スライス装置を示す外観図である。
【図7】超音波振動の有無に応じたスライス方法と熱伝導性シートの熱抵抗値との関係を示すグラフである。
【図8】超音波カッターのスライス速度と熱伝導性シートの厚さに応じた形状を示す図である。
【図9】シート母材のスライス速度と熱伝導性シートの厚みの相違に応じた熱伝導性シートの特性を示す表である。
【図10】カッターに付与する超音波振動の振幅を変えてスライスした熱伝導性シートの各特性を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明が適用された熱伝導性シート及び熱伝導性シートの製造方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
<熱伝導性シート>
本発明が適用された熱伝導性シート1は、IC等の発熱性電子部品とヒートシンク等の放熱部品との間に配設され、発熱性電子部品の熱をヒートシンク側に伝達させるものである。この熱伝導性シート1を介在させることにより、ヒートシンクに効率よく熱を伝えることができる。
【0016】
熱伝導性シート1は、シリコーン樹脂に熱伝導材料としてピッチ系の炭素繊維と熱伝導性フィラとして球状の酸化アルミニウム(以下、単にアルミナという)とが配合されたシート状物であり、炭素繊維がシートの厚さ方向に配向されることにより、該厚さ方向に熱を効率よく伝達する。この熱伝導性シート1は、シリコーン樹脂、炭素繊維及びアルミナを混合した混合組成物を、柱状に成形するとともに炭素繊維をその長手方向に配向させることによりシート母材2を形成し、このシート母材2を長手方向と直交する方向にシート状にスライスすることにより形成される。また、熱伝導性シート1は、炭素繊維が10〜25体積%、アルミナが40〜55体積%で配合されていることを特徴としている。
【0017】
シリコーン樹脂は、柔軟性、形状追従性、耐熱性等に優れた物性を有するもので、第1のシリコーン樹脂と第2のシリコーン樹脂とが混合されて構成される。第1のシリコーン樹脂としては、ポリアルケニルアルキルシロキサンであり、第2のシリコーン樹脂は当該ポリアルケニルアルキルシロキサンの硬化剤として働くポリアルキル水素シロキサンである。
【0018】
なお、商業的には、第1のシリコーン樹脂は、上記反応の触媒として働く白金触媒を混合した状態で入手することが可能である。また、商業的には、第2のシリコーン樹脂は、ポリアルキル水素シロキサンに加え、上記のポリアルケニルアルキルシロキサンや反応調整剤を混合した状態で入手することが可能である。
【0019】
第1のシリコーン樹脂と第2のシリコーン樹脂が上記のように混合物である場合は、これら両樹脂を重量比により等量配合するだけで、相対的に第1のシリコーン樹脂の配合比率を高く、硬化剤としての第2のシリコーン樹脂の配合比率を下げることができる。
【0020】
その結果、熱伝導性シート1を過度に硬化させることがなく、これにより一定の圧縮率を発生させることができるようになる。熱伝導性シート1は、発熱性電子部品とヒートシンクとの間に介在されることから、これらを密着させるために厚さ方向に所定の圧縮率を備えることが必要となり、少なくとも3%以上の圧縮率、好ましくは6%以上、より好ましくは10%以上の圧縮率を備えることが好ましい。
【0021】
そして、図1に示すように、熱伝導性シート1は、第1のシリコーン樹脂と第2のシリコーン樹脂との配合比を55:45〜50:50とする。これにより、熱伝導性シート1は、初期厚みが0.5mmと薄くスライスした場合にも3%以上(3.82%)の圧縮率を有する。さらに熱伝導性シート1は、52:48では初期厚み1.0mmで10.49%の圧縮率を有し、さらにまた55:45〜52:48の間では初期厚み1.0mmで13.21%と、いずれも10%以上の圧縮率を有する。
【0022】
このように、熱伝導性シート1は、厚さ方向に炭素繊維が配向されているにもかかわらず、厚さ方向へ3%以上の圧縮率を有するため、柔軟性、形状追従性に優れ、発熱性電子部品とヒートシンクとをより密着させ、効率よく放熱させることができる。
【0023】
ピッチ系の炭素繊維は、ピッチを主原料とし、溶融紡糸、不融化及び炭化などの各処理工程後に2000〜3000℃或いは3000℃を超える高温で熱処理して黒鉛化させたものである。原料ピッチは、光学的に無秩序で偏向を示さない等方性ピッチと、構成分子が液晶状に配列し、光学的異方性を示す異方性ピッチ(メソフェーズピッチ)に分けられるが、異方性ピッチから製造された炭素繊維は等方性ピッチから製造された炭素繊維より、機械特性に優れ、電気および熱の伝導性が高くなることから、このメソフェーズピッチ系の黒鉛化炭素繊維を用いることが好ましい。
【0024】
なお、アルミナは炭素繊維よりも小さく、かつ熱伝導性材料として十分に機能しうる粒径を有し、炭素繊維と相互に緊密に充填される。これにより熱伝導性シートは、十分な熱伝導の経路を得ることができる。アルミナとしてはDAW03(電気化学工業株式会社製)を用いることができる。
【0025】
<アルミナと炭素繊維との配合比>
熱伝導性シート1は、炭素繊維及びアルミナの配合割合に応じて、燃焼試験における評価、及び熱伝導性シート1が切り出されるシート母材2の製造時において第1、第2のシリコーン樹脂、炭素繊維、アルミナを混合した混合組成物をシリンジより角柱状に押し出す際の押出しやすさの評価が変化する。なお、シート母材2は、シリンジ内部に設けられたスリットを通過することにより炭素繊維が長手方向に配向され、スリットを通過した後、再度角柱状に成形される。
【0026】
図2にアルミナ50gに対する炭素繊維の配合割合を変化させたときの、熱伝導性シート1の燃焼試験(UL94V)における評価、及びシート母材2を角柱状に押し出す際の押出しやすさの評価を示す。なお、熱伝導性シート1は、シリコーン樹脂として、第1のシリコーン樹脂(ポリアルケニルアルキルシロキサンと白金触媒との混合物)を5.4g、第2のシリコーン樹脂(ポリアルキル水素シロキサン、ポリアルケニルアルキルシロキサン及び反応調整剤の混合物)を5.4g配合している。
【0027】
図2に示すように、アルミナ50gに対して炭素繊維を14g以上配合することにより、厚さ1mm及び2mmの熱伝導性シート1のいずれも、燃焼試験(UL94V)におけるV0相当の評価を得た。また、厚さ2mmの熱伝導性シート1によれば、アルミナ50gに対して炭素繊維を8g以上配合することにより燃焼試験(UL94V)におけるV0相当の評価を得た。このとき、熱伝導性シート1におけるアルミナ50gの体積比は45.8体積%であり、炭素繊維8gの体積比は13.3体積%である。
【0028】
また、熱伝導性シート1は、アルミナ50gに対して炭素繊維を8g、10g配合することにより、シート母材2の製造工程において押し出しやすさを良好に維持することができる。すなわち、シート母材2は、シリンジ内に設けられたスリットをスムーズに通過し、且つ角柱状を維持することができる。
【0029】
同様に、熱伝導性シート1は、アルミナ50gに対して炭素繊維を12g、14g配合することによっても、シート母材2の製造工程において押し出しやすさを維持することができる。すなわち、シート母材2は、シリンジ内に設けられたスリットをスムーズに通過し、且つ角柱状を維持することができる。なお、このシート母材2の硬度は上記炭素繊維8g、10g配合したものよりも硬い。
【0030】
また、熱伝導性シート1は、アルミナ50gに対して炭素繊維を16g配合することにより、シート母材2の製造工程において押出しやすさが若干損なわれた。すなわち、シート母材2が硬いため、シリンジ内に設けられたスリットを固定する治具から一部の母材が漏れ出すケースがあった。しかし、スリットを通過した母材は角柱状を維持することができる。このとき、熱伝導性シート1におけるアルミナ50gの体積比は40.4体積%であり、炭素繊維16gの体積比は、23.5体積%である。
【0031】
さらに、熱伝導性シート1は、炭素繊維を17g配合した場合には、シート母材2の製造工程において押し出すことができなかった。すなわち、シート母材2が硬いため、シリンジ内に設けられたスリットを固定する治具から一部の母材が漏れ出すケースがあった。そして、スリットを通過した母材同士が結合せず角柱状を維持できなかった。
【0032】
以上より、アルミナ50gに対する炭素繊維の配合量は、特に、燃焼試験UL94VにおいてV0相当という高い難燃性が要求される場合には、シート厚さ1mmで14g、シート厚さ2mmで8g〜16gが好ましいことがわかる。
【0033】
また、図3に示すように、炭素繊維の配合量と熱抵抗値とは相関がある。図3に示すように、炭素繊維の配合量を増やすほど熱抵抗(K/W)は下がるが、約10g以上で熱抵抗値は安定することがわかる。一方、炭素繊維を17g以上配合すると、上述したようにシート母材2の押出しが困難となることから、熱伝導性シート1は、炭素繊維の配合量を、10g以上、16g以下とすることが好ましい。ここで、厚さ1mmの熱伝導性シート1では、熱伝導性シート1の難燃性、及びシート母材2の押し出しやすさの観点から炭素繊維の配合量をアルミナ50gに対して14gとしたが、この配合量においては、図3に示すように、熱抵抗の値が低く安定している。
【0034】
以上より、実施例として、図4に、最適な配合比率(重量比)によって製造された厚さ1mmの熱伝導性シート1の配合を示す。図4に示すように、第1のシリコーン樹脂としてポリアルケニルアルキルシロキサンと白金触媒との混合物を5.4g(7.219重量%)、第2のシリコーン樹脂としてポリアルキル水素シロキサン、ポリアルケニルアルキルシロキサン及び反応調整剤の混合物を5.4g(7.219重量%)、アルミナとして商品名DAW03を50g(66.8449重量%)、ピッチ系炭素繊維として商品名R−A301(帝人株式会社製)を14g(18.7166重量%)用いた。
【0035】
<スライス装置>
次いで、図4に示す配合からなる熱伝導性シート1を得るためにシート母材2を個々の熱伝導性シート1にスライスするスライス装置10の構成について説明する。図5に示すように、スライス装置10は、シート母材2を超音波カッターによってスライスすることにより、炭素繊維の配向を保った状態で熱伝導性シート1を形成することができる。したがって、スライス装置10によれば、炭素繊維の配向が厚さ方向に維持された熱伝導特性が良好な熱伝導性シート1を得ることができる。
【0036】
ここで、シート母材2は、第1、第2のシリコーン樹脂、アルミナ及び炭素繊維をミキサーに投入、混合した後、ミキサーに設けられたシリンジより、所定寸法の角柱状に押し出されることにより形成される。このとき、シート母材2は、シリンジ内に設けられたスリットを通過することで炭素繊維が長手方向に配向される。シート母材2は、角柱状に押し出された後、型ごとオーブンに入れて熱硬化され、完成する。
【0037】
スライス装置10は、図6に示すように、角柱状のシート母材が載置されるワークテーブル11と、ワークテーブル11上のシート母材2を超音波振動を加えながらスライスする超音波カッター12とを備える。
【0038】
ワークテーブル11は、金属製の移動台20上にシリコーンラバー21が配設されている。移動台20は、移動機構22によって所定の方向に移動可能とされ、シート母材2を超音波カッター12の下部へ、順次、送り操作する。シリコーンラバー21は、超音波カッター12の刃先を受けるに足りる厚さを有する。ワークテーブル11は、シリコーンラバー21上にシート母材2が載置されると、超音波カッター12のスライス操作に応じて移動台20が所定方向へ移動され、順次シート母材2を超音波カッター12の下部へ送る。
【0039】
超音波カッター12は、シート母材2をスライスするナイフ30と、ナイフ30に超音波振動を付与する超音波発振機構31と、ナイフ30を昇降操作する昇降機構32とを有する。ナイフ30はワークテーブル11に対して刃先が向けられ、昇降機構32によって昇降操作されることによりワークテーブル11上に載置されたシート母材2をスライスしていく。ナイフ30の寸法や材質は、シート母材2の大きさや組成等に応じて決定されるものであり、例えば幅40mm、厚さ1.5mm、刃先角度10°の鋼からなる。
【0040】
超音波発振機構31は、ナイフ30に対してシート母材2のスライス方向に超音波振動を付与するものであり、例えば、発信周波数が20.5kHzで、振幅を50μm、60μm、70μmの3段階に調整可能とされている。
【0041】
このようなスライス装置10は、超音波カッター12に超音波振動を付与しながらシート母材2をスライスしていくことにより、熱伝導性シート1の炭素繊維の配向を厚さ方向に保つことができる。
【0042】
図7に、超音波振動を付与せずにスライスした熱伝導性シートと、スライス装置10によって超音波振動を付与しながらスライスした熱伝導性シート1との、熱抵抗値(K/W)を示す。図7に示すように、超音波振動を付与せずにスライスした熱伝導性シートに比べて、スライス装置10によって超音波振動を付与しながらスライスした熱伝導性シート1は、熱抵抗(K/W)が低く抑えられていることがわかる。
【0043】
これは、スライス装置10は、超音波カッター12にスライス方向への超音波振動を付与していることから、界面熱抵抗が低く、熱伝導性シート1の厚さ方向に配向されている炭素繊維がナイフ30によって横倒しされ難いことによる。一方、超音波振動を付与せずにスライスした熱伝導性シートでは、ナイフの摩擦抵抗によって熱伝導性材料である炭素繊維の配向が乱れ、切断面への露出が減少してしまい、そのため、熱抵抗が上昇してしまう。したがって、スライス装置10によれば、熱伝導特性に優れる熱伝導性シート1を得ることができる。
【0044】
<スライス速度とスライス厚みによる均一性>
次いで、スライス装置10によるシート母材2のスライス速度とスライスされる熱伝導性シート1の厚さとの関係について検討した。上述した実施例に示す配合割合で、一辺が20mmの角柱状のシート母材2を形成し、このシート母材2を0.05mm〜0.50mmまで0.05mm毎に厚さの異なる熱伝導性シート1を、超音波カッター12のスライス速度を毎秒5mm、10mm、50mm、100mmに変更してスライスすることにより形成し、各熱伝導性シート1の外観を観察した。なお、超音波カッター12に付与する超音波振動は、発信周波数を20.5kHzとし、振幅を60μmとした。
【0045】
観察結果を図8に示す。図8に示すように、0.15mm以下の厚さでは、スライス速度に拘わらず変形が生じた。一方、0.20mm以上の厚さでは、スライス速度を速めても熱伝導性シート1に変形は見られなかった。すなわち、スライス装置10によれば、上記図4に示す配合割合のシート母材2を、厚さ0.20mm以上の厚さで均一的にスライスすることができる。
【0046】
<スライス速度とスライス厚みによる熱伝導率・圧縮率>
次いで、スライス装置10によるシート母材2のスライス速度と熱伝導率及び厚さ方向への圧縮率との関係について検討した。上記スライス速度及びシート厚さの検討において変形が見られなかった厚さ0.20mm、0.25mm、0.30mm、0.50mmでスライス速度が毎秒5mm、10mm、50mm、100mmの各熱伝導性シート1につき、それぞれ熱伝導率及び圧縮率を測定した。測定結果を図9に示す。
【0047】
図9に示すように、各熱伝導性シート1のうち、0.50mmのシート厚さのサンプルを除いた熱伝導性シート1は、超音波カッター12の速度が毎秒5mm、10mm、50mmのいずれの速度でスライスされた場合でも、良好な熱伝導特性を備えるとともに、10%以上の圧縮率を有し、柔軟性、形状追従性に優れる。また、超音波カッター12の速度が毎秒100mmでスライスされた場合でも、シート厚さが0.25mm及び0.20mmの熱伝導性シート1は、良好な熱伝導特性を備えるとともに、10%以上の圧縮率を有し、柔軟性、形状追従性に優れる。
【0048】
一方、シート厚さが0.30mmの熱伝導性シート1は、超音波カッター12の速度が毎秒100mmでスライスされた場合には、熱伝導特性に優れるものの、圧縮率が3.72%とやや落ちた。
【0049】
また、シート厚さが0.50mmの熱伝導性シート1は、超音波カッター12の速度が毎秒5mm、10mm、50mmのいずれの速度でスライスされた場合には、良好な熱伝導特性を備えるとともに、5%以上の圧縮率を有し良好な柔軟性、形状追従性を有する。一方、シート厚さが0.50mmの熱伝導性シート1は、超音波カッター12の速度が毎秒100mmでスライスされた場合には、良好な熱伝導特性を備えるものの、圧縮率が2.18%と3%より低く、柔軟性、形状追従性が落ちる。
【0050】
<振幅と圧縮率>
なお、図10に超音波カッター12に付与する超音波振動の振幅を50μm、60μm、70μmの3段階に変えてスライスした熱伝導性シート1の各特性を示す。熱伝導性シート1は、図4に示す配合割合で形成し、測定荷重を1kgf/cmとした。図10に示すように、振幅を70μmとした場合には、熱伝導性シート1は、圧縮率が2.18%と、従来と同様3%より低く、柔軟性、形状追従性に劣る。一方、振幅を50μm、60μmとした場合には、熱伝導性シート1は、3%以上の圧縮率を有し、良好な柔軟性、形状追従性を備える。
【0051】
<その他>
なお、シート母材2は、角柱状に限定されず、円柱状など、熱伝導性シート1の形状に応じた各種断面形状を有する柱状に形成することができる。また、熱伝導性フィラとして球状アルミナを用いたが、本発明はこれ以外にも球状の窒化アルミニウム、酸化亜鉛、シリコーン粉、金属粉末のいずれか、あるいはこれらの混合物を用いることができる。
【符号の説明】
【0052】
1 熱伝導性シート、2 シート母材、10 スライス装置、11 ワークテーブル、12 超音波カッター、20 移動台、21 シリコーンラバー、30 ナイフ、31 超音波発振機構、32 昇降機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーン樹脂と、熱伝導性フィラと、炭素繊維とを含有し、上記炭素繊維が厚み方向に配向されている熱伝導性シートにおいて、
上記熱伝導性フィラが、40〜55体積%の範囲で含有され、
上記炭素繊維が、10〜25体積%の範囲で含有されてなる熱伝導性シート。
【請求項2】
上記熱伝導性フィラは、40.4〜45.8体積%含有され、
上記炭素繊維は、13.3〜23.5体積%含有されている請求項1記載の熱伝導性シート。
【請求項3】
上記炭素繊維は、上記熱伝導性フィラ50gに対して10g以上配合されている請求項2記載の熱伝導性シート。
【請求項4】
上記炭素繊維は、上記熱伝導性フィラ50gに対して16g以下配合されている請求項3記載の熱伝導性シート。
【請求項5】
上記シリコーン樹脂は、第1のシリコーン樹脂であるポリアルケニルアルキルシロキサンと、第2のシリコーン樹脂であるポリアルキル水素シロキサンとを白金触媒により硬反応させて、圧縮率3%となるように上記第1のシリコーン樹脂を上記第2のシリコーン樹脂よりも多く配合してなる請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の熱伝導性シート。
【請求項6】
上記熱伝導性フィラは、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化亜鉛、シリコン粉、金属粉のいずれか、又はこれらの2以上の混合物である請求項1〜請求項5の何れか1項に記載の熱伝導性シート。
【請求項7】
シリコーン樹脂と、熱伝導性フィラと、炭素繊維とを含有する混合組成物を作成する工程と、
上記混合組成物を柱状に形成するとともに、上記炭素繊維を該柱状の長手方向に配向させる工程と、
上記柱状の混合組成物を、スライス方向に超音波振動が付与されたカッターによって該柱状の長手方向と直交する方向にスライスする工程とを有する熱伝導性シートの製造方法。
【請求項8】
上記超音波振動は、発信周波数が20.5kHzで、振幅を60μmとする請求項7記載の熱伝導性シートの製造方法。
【請求項9】
上記熱伝導性シートの厚さを0.20mm以上にスライスする請求項8記載の熱伝導性シートの製造方法。
【請求項10】
上記カッターのスライス速度が毎秒100mm以下で、かつ上記熱伝導性シート1の厚さを0.30mm以下にスライスする請求項9記載の熱伝導性シートの製造方法。
【請求項11】
上記カッターのスライス速度が毎秒50mm以下である請求項9記載の熱伝導性シートの製造方法。
【請求項12】
上記カッターのスライス速度が毎秒50mm以下である請求項10記載の熱伝導性シートの製造方法。
【請求項13】
上記熱伝導性シート1の厚さを0.25mm以下にスライスする請求項10記載の熱伝導性シートの製造方法。
【請求項14】
混合組成物をスライスすることにより、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載された熱伝導性シートを形成する請求項7〜請求項13のいずれか1項に記載の熱伝導性シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−1638(P2012−1638A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−138334(P2010−138334)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(000108410)ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社 (595)
【Fターム(参考)】