説明

熱伝導率調整器具

【課題】熱利用の利便性を高めるための手段を提供する。
【解決手段】器具1は、一方向が開口した外容器11と、外容器11の内側に配置される内容器12と、外容器11と内容器12との隙間の空間に配置される熱伝導媒体13と、外容器11と内容器12との隙間を開口部付近において密封する断熱封止部14と、内容器12の開口部を塞ぐ蓋部15とを備えている。外容器11と内容器12との間の空間は低圧にされている。器具1は開口側が上の状態において、外容器11と内容器12との間の熱移動がほとんど行われない低熱伝導率状態となる。器具1の上下が逆にされると、熱伝導媒体13が自重に従い移動し外容器11と内容器12との間を埋めるので、器具1は外容器11と内容器12との間の熱移動が自由に行われる高熱伝導率状態となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放熱もしくは吸熱を制御可能な機能を備えた器具に関する。
【背景技術】
【0002】
古くから、様々な状況下において物の温度を長時間保ちたいというニーズがある。例えば、一度沸かしたお湯を長時間保温したり、一度冷やした水を長時間保冷したりできれば、お湯や冷水が必要な時に速やかにそれらを利用することができ便利である。この例であれば、一般に魔法瓶と呼ばれる断熱性の高い容器がそのニーズを満たす器具として広く知られている。
【0003】
魔法瓶でお湯を保温する場合や、冷水を保冷する場合、ユーザはやかんなどで沸かしたお湯や冷蔵庫でペットボトルなどに入れて冷やした水を魔法瓶に移し替える必要がある。その手間を省く器具として、例えば電動ケトルなどと呼ばれる器具がある。電動ケトルは沸いたお湯を保温するように断熱性の高い素材もしくは構造の容器を備え、電熱ヒーターにより容器内の水を沸かす仕組みを持っている。
【0004】
また、特許文献1においては、電熱ヒーターを用いずに容器内の水を沸かすとともに、沸かした水(お湯)を他の容器に移し替えることなく保温するための器具が提案されている。特許文献1に開示の器具においては、外容器と内容器とからなる二重構造の容器が用いられ、それらの容器間の空間には蒸発と凝縮とを繰り返す熱媒体が封入されている。また、外容器と内容器との間の空間からは空気が抜かれ低圧な状態とされている。
【0005】
ユーザがその器具の中に例えば水を入れ、外容器の外側からガスコンロなどの加熱器具により加熱を行うと、外容器と内容器との間に封入されている熱媒体が、高温となった外容器に触れて蒸発し、低温な内容器に触れて凝縮して液体に戻り、重力により外容器へと流れ落ちる、という挙動を繰り返す。その結果、外から加えられる熱により容器内の水が高温となる。
【0006】
加熱を止めると、熱媒体の蒸発と凝縮のサイクルが止まり、熱媒体は重力に従い外容器の底に溜まる。外容器と内容器とは低圧な空間で遮られているため、容器の外部と内部との間の熱伝導性が低い。その結果、加熱により高温となった水は長時間にわたり保温される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭62−243515
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した電動ケトルや特許文献1に記載の器具によれば、器具に入れた水を沸かした後、そのまま保温することができ便利である。ただし、これらのいずれの器具も、水などの収容物を冷却した後、そのまま保冷したい、というニーズを満たすことはできない。
【0009】
また、私たちの身の回りには、例えば晴れた日の日中に照りつける太陽の熱のように、利用されていない熱資源が豊富にある。それらの熱資源は水を沸騰させるほどまで高温でないものも多い。そのような熱資源は、特許文献1に記載の器具によっては利用することができない。なぜなら、特許文献1に記載の器具においては、外部の温度が熱媒体の沸点以上の温度である必要があるためである。
【0010】
そこで、本発明は、熱利用の利便性を高めるための手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記の目的に鑑みて想到されたものであり、
内側部材と、
前記内側部材の表面を覆う空間を形成し、前記空間を外部から密封する外側壁部と、
液体、粉体もしくは粒状体である熱伝導媒体と
を備え、
前記内側部材の表面の所定比率以上の部分が前記熱伝導媒体を介して当該部分に対向する前記外側壁面の部分と接する状態である高熱伝導率状態と、前記内側部材の表面の前記所定比率以上の部分が前記空間を挟んで当該部分に対向する前記外側壁面の部分と隔離されるとともに前記空間を所定の気圧以下に減圧した状態である低熱伝導率状態とを選択的に取り得る構造を備える
器具を提供する(第1の実施態様)。
【0012】
また、上記の第1の実施態様において、
前記器具の所定の部分を第1の部分とし、前記第1の部分が上方に位置する場合に下方に位置する部分を第2の部分とする場合、
前記第1の部分が上方に位置し前記第2の部分が下方に位置する状態において、前記熱伝導媒体が自重により前記空間内を下方に移動することにより、前記低熱伝導率状態が実現され、
前記第1の部分が下方に位置し前記第2の部分が上方に位置する状態において、前記熱伝導媒体が自重により前記空間内を下方に移動することにより、前記高熱伝導率状態が実現される
構成を採用してもよい(第2の実施態様)。
【0013】
また、上記の第2の実施態様において、
前記空間のうち前記低熱伝導率状態において前記熱伝導媒体が占める部分を前記空間の他の部分から遮断する遮断壁部と、
前記遮断壁部を開閉する開閉機構とを備える
構成を採用してもよい(第3の実施態様)。
【0014】
また、上記の第3の実施態様において、
前記開閉機構は、外部からの磁力に応じて前記遮断壁部の少なくとも一部が移動する機構である
構成を採用してもよい(第4の実施態様)。
【0015】
また、上記の第3または4の実施態様において、
前記開閉機構は、外部からの無線信号に応じて動作し前記遮断壁部の少なくとも一部を移動するモータを有する
構成を採用してもよい(第5の実施態様)。
【0016】
また、上記の第2の実施態様において、
前記熱伝導媒体は磁性体であり、
磁石と、
前記低熱伝導率状態において前記磁石を前記第2の部分の外側に固定し、前記高熱伝導率状態において前記磁石を前記第1の部分の外側に固定する固定機構と
を備える
構成を採用してもよい(第6の実施態様)。
【0017】
また、上記の第2乃至6のいずれかの実施態様において、
前記高熱伝導率状態において、前記熱伝導媒体の一部を前記外側壁部から隔離して収容可能な収容部を備える
構成を採用してもよい(第7の実施態様)。
【0018】
また、上記の第1の実施態様において、
前記空間内に前記熱伝導媒体を充填することにより前記高熱伝導率状態を実現する熱伝導媒体充填機構と、
前記空間内から前記熱伝導媒体を抜き取ることにより前記低熱伝導率状態を実現する熱伝導媒体抜き取り機構とを備える
構成を採用してもよい(第8の実施態様)。
【0019】
また、上記の第8の実施態様において、
前記空間内から空気を抜き取り前記低熱伝導率状態における前記空間の前記減圧した状態を実現する空気抜き取り機構を備える
構成を採用してもよい(第9の実施態様)。
【発明の効果】
【0020】
本発明の第1の実施態様にかかる器具によれば、ユーザは、器具の内外間の熱交換が盛んに行われる状態(高熱伝導率状態)とほとんど行われない状態(低熱伝導率状態)とを切り替えることができる。その結果、例えば高熱伝導率状態に切り替えた状態で冷却を行い、内容物を低温とした後に低熱伝導率状態に切り替えて保冷をするなど、様々な用途に用いることができる。
【0021】
また、本発明の第2の実施態様にかかる器具によれば、器具の上下方向を逆さまにすることで、上述の高熱伝導率状態と低熱伝導率状態とを切り替えることができ、例えば熱伝導媒体をポンプなどで移動させる仕組みを採用する場合と比較して、その構造を簡易化できる。
【0022】
また、本発明の第3の実施態様にかかる器具によれば、熱伝導媒体を所定の場所に保持することで、器具が横転等をしても低熱伝導率状態が維持される。
【0023】
また、本発明の第4の実施態様にかかる器具によれば、熱伝導媒体を所定の場所に保持するための遮断壁部の開閉が磁力により遠隔操作されるため、器具内の密封性が容易に確保できる。
【0024】
また、本発明の第5の実施態様にかかる器具によれば、モータで開閉機構を作動させるので、電池を器具内に内蔵させることで、器具内の密封性が容易に確保できる。
【0025】
また、本発明の第6の実施態様にかかる器具によれば、磁石により磁性体の熱伝導媒体を所定の位置に保持することで、器具が横転等しても低熱伝導率状態を維持したり、逆に高熱伝導率状態を維持したりすることができる。
【0026】
また、本発明の第7の実施態様にかかる器具によれば、ユーザが熱伝導に貢献する熱伝導媒体の量を調整することで、熱伝導率を調整することができる。そのため、内容物の熱を緩やかに放出させたい場合や、内容物に緩やかに熱を吸収させたい場合などに便利である。
【0027】
また、本発明の第8の実施態様にかかる器具によれば、熱伝導媒体充填機構および熱伝導媒体抜き取り機構を備えることで、例えば器具が大きくその全体の向き(上下)の変更が困難な場合であっても、高熱伝導率状態と低熱伝導率状態との切り替え機能を備えた器具が実現される。
【0028】
また、本発明の第9の実施態様にかかる器具によれば、空気の抜き取りにより、低熱伝導率状態における熱伝導率をさらに下げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、本発明の第1実施例にかかる器具の断面図である。
【図2】図2は、本発明の第2実施例にかかる器具の断面図である。
【図3】図3は、本発明の第3実施例にかかる器具の断面図である。
【図4】図4は、本発明の第4実施例にかかる器具の断面図である。
【図5】図5は、本発明の第4実施例にかかる器具の遮断板および開閉板の平面図である。
【図6】図6は、本発明の第4実施例にかかる器具の遮断板および開閉板の動作を示す図である。
【図7】図7は、本発明の第5実施例にかかるシステムの概略を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
(第1実施例)
以下、本発明の一具体例である第1実施例にかかる器具1を、図面を用いて説明する。
【0031】
図1は、本実施例にかかる器具1の断面図であり、図1(b)は図1(a)に示す器具1の上下を逆にした状態を示している。器具1は、以下に説明する構造により、図1(a)に示す状態においては内外間の熱伝導率が低く(低熱伝導率状態)、図1(b)に示す状態においては内外間の熱伝導率が高い(高熱伝導率状態)。
【0032】
そのため、ユーザは器具1の上下方向を変えることで、器具1の内容物の温度を保持するモードと、器具1の内容物の熱を放出させたり器具1の内容物に熱を吸収させたりするモードとを切り替えることができる。
【0033】
まず、器具1は、外容器11と、外容器11の内側に配置される内容器12とを備え、全体としてそれらの容器による二重構造となっている。
【0034】
外容器11は例えばステンレスで作られており、円筒状の形状を有する側部111と、側部111と一体成形され側部111に連続する平らな底部112とを有している。また、外容器11の底部112に対向する面は開口している。
【0035】
内容器12は外容器11と同様に例えばステンレスで作られており、外容器11の側部111より直径がやや小さい円筒状の形状を有する側部121と、側部121と一体成形され側部121に連続する底部122とを有し、内容器12の底部122に対向する面は開口している。
【0036】
ただし、底部122の形状は外容器11の底部112の形状とは異なり、図1(a)の状態において頂点が下に位置する円錐形状(すなわち中心に向かい下に凹む形状)を有している。そのような形状を有していることにより、図1(a)の状態から図1(b)の状態に移行する際に熱伝導媒体13(後述)が移動しやすくなっている。
【0037】
外容器11と内容器12との間に生じる空間には熱伝導媒体13が封入されている。熱伝導媒体13は器具1の外部と器具1の内容器12内に収容される収容物との間の熱の移動経路を構成する流体、粉体もしくは粒状体であり、熱伝導率が高い方が望ましく、また融点が低く沸点が高い方が望ましい。さらに、熱伝導媒体13は図1(a)と図1(b)との状態間の遷移に伴い自重により外容器11と内容器12との間の空間を移動する流動性を有している必要がある。器具1においては、それらの条件を満たすものとして水が熱伝導媒体13として採用されている。
【0038】
外容器11と内容器12の開口側の端部には、外容器11と内容器12との隙間を埋めるように断熱封止部14が設けられている。
【0039】
断熱封止部14は外容器11の開口側の端縁と内容器12の開口側の端縁との間に生じる隙間を塞ぎ、外容器11と内容器12との間の空間を器具1の外部および内容器12の内側の空間から隔離する役割を果たす。また、断熱封止部14は外容器11に対する内容器12の位置を固定するとともに、外容器11と内容器12との間の熱の移動を妨げる役割を果たす。
【0040】
断熱封止部14は上記の役割を果たすため、例えば断熱性の高い硬質プラスチックで作られている。器具1においてはそのような硬質プラスチックの例として、ポリカーボネートが断熱封止部14の素材として採用されている。
【0041】
外容器11と内容器12との間の空間は、熱伝導媒体13が入った状態で断熱封止部14により密封される際、真空ポンプで排気され、例えば、10−1パスカル程度の中真空ないし高真空(以下、「低圧」と呼ぶ)の状態とされている。
【0042】
器具1はさらに、内容器12の開口部に着脱可能な蓋部15を備えている。蓋部15は図1の上下方向の断面が「凸」字形状となる概ね円盤状の部材であり、図1に示すように内容器12の開口部に嵌り込んで内容器12の内側の空間を器具1の外部から水密に封止する。そのため、蓋部15が内容器12と接する面にはシリコンゴムなどのパッキンが取り付けられている。
【0043】
また、蓋部15は内容器12の開口部を塞いだ状態において外容器11と内容器12との間の熱の移動を妨げることが望ましく、器具1においてはポリカーボネートが蓋部15の本体の素材として採用されている。
【0044】
なお、外容器11と内容器12とは、図1(a)の状態において、断熱封止部14および蓋部15を介して互いに接触する以外、いずれの部分においても互いに接触しない。
【0045】
上述した構造を備える器具1の使用例を以下に説明する。なお、以下の説明において、外容器11および内容器12の開口部がある側を単に「開口側」と呼び、外容器11および内容器12の底部がある側を単に「底側」と呼ぶ。
【0046】
ユーザは、まず図1(a)に示されるように器具1の開口側を上にした状態で蓋部15を取り外し、開いた開口部から内容器12の中へ常温の飲料を注ぎ入れる。その後、蓋部15を内容器12の開口部に嵌め込んで蓋をする。
【0047】
続いて、ユーザは飲料の入った器具1を上下逆にして冷蔵庫に入れる。すなわち、器具1は図1(b)に示されるように、底側が上となり開口側が下となった状態で冷蔵庫内に置かれる。
【0048】
図1(b)の状態においては、熱伝導媒体13が自重により器具1の底側から開口側に移動し、外容器11の側部111と内容器12の側部121との間の空間全体が熱伝導媒体13により充填される。その結果、内容器12の内側と器具1の外側との間に、内容器12、熱伝導媒体13および外容器11を介した熱の移動経路が形成され、高熱伝導率状態が実現される。
【0049】
ここで、冷蔵庫の中の温度は器具1の中に入っている飲料の温度より通常低いため、飲料の持つ熱は内容器12、熱伝導媒体13、外容器11の順に移動し、器具1の外部へと放出される。その結果、飲料が冷却される。
【0050】
ユーザは、例えば冷たい飲料を飲みながらデスクワークをするために、冷蔵庫から器具1を取り出し、自分のデスクに持って行く。その際、ユーザは図1(a)に示されるように開口側が上となるようにして、器具1をデスクの上に置く。
【0051】
図1(a)の状態においては、熱伝導媒体13が自重により器具1の開口側から底側に移動し、外容器11と内容器12とが熱伝導率が低い断熱封止部14および蓋部15を介した接触を除き隔離される。ここで、外容器11と内容器12との間の隙間は低圧となっており、空気を介した熱の移動は無視できる程度である。その結果、内容器12の内側と器具1の外側との間の熱の移動が極めて遅い低熱伝導率状態が実現される。
【0052】
低熱伝導率状態においては、内容器12内の飲料の熱がほとんど器具1の外部へ放出されない。そのため、ユーザはデスクにいながら器具1の蓋部15を取り外しては冷たい飲料を飲み、再度、蓋部15を取り付けることにより、内容器12に残った飲料をその後も保冷することができる。従って、時間の経過とともにぬるくなった飲料を飲まなければならないといった不都合がなく、また飲料を飲みたいと思った時にその都度、デスクと冷蔵庫との間を往復する必要もなく便利である。
【0053】
(第2実施例)
以下、本発明の他の一具体例である第2実施例にかかる器具2を、図面を用いて説明する。なお、器具2は多くの点で器具1と共通するため、以下においては器具2が器具1と異なる点を中心に説明し、また同様の構成要素に対しては同じ参照番号を用いるものとする。
【0054】
図2は器具2の概略を表す断面図であり、図2(a)が低熱伝導率状態の器具2を示し、図2(b)が高熱伝導率状態の器具2を示す。
【0055】
器具2には、器具1において水であった熱伝導媒体13に代えて、砂鉄(鉄の粉状体もしくは粒状体)が熱伝導媒体23として用いられる。また、器具2は、熱伝導媒体23を磁力により引き付けるためのリング状の磁石25を備えている。
【0056】
磁石25の内側面には、例えば薄いシリコンゴムのコーティングがなされており、その内径は外容器11の外径よりごく僅かに小さく、磁石25の内側に外容器11が挿入された状態でシリコンゴムが弾性変形することで、磁石25が外容器11の外側に固定されている。
【0057】
上記のように磁石25は磁石25の内側面をコーティングするシリコンゴムと外容器11の外側面との間の摩擦力により外容器11に対し固定されているため、ユーザはその摩擦力以上の力を加えることにより磁石25を外容器11に対し上下方向に動かすことができるが、磁石25が自重により外容器11に対し下方へと移動してしまうことはない。
【0058】
ユーザは器具2の上下を反対にすることによらず、磁石25を外容器11に対し上下方向に移動させることにより、熱伝導媒体23を上下に移動させることができる。
【0059】
すなわち、ユーザは内容器12の中に収容した収容物の温度を保ちたい場合、磁石25を底側に移動する。それにより、熱伝導媒体23は図2(a)に示すように磁石25に引き寄せられ底側に留まる。その結果、低熱伝導率状態が実現され、収容物の保温もしくは保冷が行われる。
【0060】
また、ユーザは内容器12の中に収容した収容物に加熱したい場合、もしくは収容物を冷却したい場合、磁石25を開口側に移動する。それにより、熱伝導媒体23は図2(b)に示すように磁石25に引き寄せられ開口側に留まる。その結果、高熱伝導率状態が実現され、収容物に対する加熱もしくは収容物の冷却が可能となる。
【0061】
器具2においては、熱伝導媒体23が自重に依らずとも磁石25の磁力により底側もしくは開口側に留まるため、ユーザは器具2の上下の向きにかかわらず、低熱伝導率状態もしくは高熱伝導率状態を切り替えることができる。
【0062】
従って、例えばユーザが暖かい飲料もしくは冷たい飲料を収容した器具2を鞄に入れて保温もしくは保冷しつつ持ち運ぶような場合において、ユーザは磁石25を底側に移動した状態の器具2をその向きを気にすることなく鞄内に無造作に入れることができる。すなわち、器具2が鞄の中で横転もしくは上下逆となっても、磁石25の磁力により熱伝導媒体23は自重に逆らい底側に留まるため、低熱伝導率状態が維持され、保温もしくは保冷が行われる。
【0063】
同様に、ユーザは例えば器具2に入れた飲料を冷蔵庫で冷やしたい場合、磁石25を開口側に移動した状態の器具2をその向きを気にすることなく冷蔵庫に入れることができる。従って、例えば冷蔵庫内のスペース上の問題で器具2を立てて置くことができないような場合でも、器具2を横倒しにして冷蔵庫に置くことで飲料を冷却することができる。
【0064】
(第3実施例)
以下、本発明のさらに他の一具体例である第3実施例にかかる器具3を、図面を用いて説明する。なお、器具3もまた多くの点で器具1と共通するため、以下においては器具3が器具1と異なる点を中心に説明し、また同様の構成要素に対しては同じ参照番号を用いるものとする。
【0065】
図3は器具3の概略を表す断面図であり、図3(a)が低熱伝導率状態の器具3を示し、図3(b)が高熱伝導率状態の器具3を示す。
【0066】
器具3は、器具1の底部122の形状とは異なる形状の底部322を備えている。器具3の底部322は図3(a)の状態において頂点が上に位置する円錐形状(すなわち、図3(b)の状態において、中心に向かい下に凹む形状)を有している。
【0067】
そのような形状を有していることにより、ユーザは器具3を振るなどして熱伝導媒体13の一部を底部322の凹み部分に留まらせることで、高熱伝導率状態において外容器11と内容器12との間に充填される熱伝導媒体13の量を調整することができる。その結果、高熱伝導率状態における熱伝導率が調整され、高温の内容物の熱を緩やかに器具1の外に放出させたり、低温の内容物に器具1の周りの熱を緩やかに吸収させたりすることができる。
【0068】
なお、器具3においては、外容器11の素材はステンレスなどの金属ではなく、透明性の高い強化ガラスなどが望ましい。ユーザが底部322の凹み部分に留まっている熱伝導媒体13の量を目視で確認できるためである。
【0069】
(第4実施例)
以下、本発明のさらに他の一具体例である第4実施例にかかる器具4を、図面を用いて説明する。なお、器具4もまた多くの点で器具1と共通するため、以下においては器具4が器具1と異なる点を中心に説明し、また同様の構成要素に対しては同じ参照番号を用いるものとする。
【0070】
図4は器具4の概略を表す断面図である。
【0071】
器具4は、底部112と底部122との間に、外容器11と内容器12との間の空間を開口側の空間と底側の空間の2つに分かつ遮断板46と、遮断板46に設けられた孔を開閉可能に塞ぐ開閉板47と、開閉板47を移動させるために用いられる磁石スライダ48を備えている。
【0072】
遮断板46および開閉板47は、低熱伝導率状態において器具4が横転等した際に熱伝導媒体13が底側から開口側へと移動することを妨げる役割を果たす。
【0073】
図5は遮断板46および開閉板47の平面図であり、図5(a)が遮断板46を、図5(b)が開閉板47を各々示す。図5に示されるように、遮断板46および開閉板47は全体として円盤状の形状を有している。
【0074】
遮断板46には、熱伝導媒体13が開口側と底側の2つの空間の間を移動する際の通路を形成する孔461および孔462が設けられている。同様に、開閉板47にも、熱伝導媒体13が開口側と底側の2つの空間の間を移動する際の通路を形成する孔471および孔472が、遮断板46における孔461および孔462と同じ位置および形状で設けられている。
【0075】
遮断板46の中心位置には、開口側へと突起する円柱形状の軸棒463が設けられている。一方、開閉板47の中心位置には、遮断板46の軸棒463の直径よりごく僅かに大きい直径の軸受孔473が設けられている。
【0076】
遮断板46は外容器11の内側面上に円周方向に2段に設けられたスリット(図示略)に嵌め込まれ、外容器11に対し回動することなく固定されている。
【0077】
開閉板47は、軸受孔473に軸棒463が挿入された状態で、外容器11の内側面上に円周方向に2段に設けられたスリット(図示略)に嵌め込まれ、遮断板46の開口側の面上に重なり合う状態で、外容器11に対し軸棒463の軸周りに回動可能に固定されている。
【0078】
また、遮断板46の開口側の面上には、孔461および孔462の縁部を一周するようにシリコンゴムのパッキン464およびパッキン465が取り付けられている。パッキン464およびパッキン465は、開閉板47が軸棒463の軸周りに回動して遮断板46の孔461および孔462を塞ぐ際、遮断板46と開閉板47との上下方向の隙間を遮断し、熱伝導媒体13が開口側および底側の2つの空間の間を移動することを阻止する役割を果たす。
【0079】
磁石スライダ48は、外容器11の外側面上に円周方向に90度ほどの範囲で設けられたレール(図示略)上をスライドするケース内に磁石が埋め込まれた構造をしている。
【0080】
開閉板47の開口側の面上には、磁石474が取り付けられている。磁石474は磁力により磁石スライダ48に引き付けられ、ユーザが磁石スライダ48をレールに沿って移動させると、それに伴い開閉板47を軸棒463の軸周りに回動させる役割を果たす。
【0081】
図6は、開閉板47の回動により遮断板46の孔461および孔462が開閉される様子を示す図である。図6(a)は磁石スライダ48が12時の方向に位置しており、孔461および孔462と孔471および孔472の位置が各々一致している。この状態においては、開口側および底側の空間がそれらの孔によって連通するため、熱伝導媒体13がそれらの空間の間を移動することができる。
【0082】
ユーザが磁石スライダ48を図6(a)の位置から反時計回りに約90度スライドさせると、磁石スライダ48の磁力に引き付けられる磁石474が開閉板47を軸棒463の軸周りに回動させ、図6(b)に示す状態になる。この状態においては、遮断板46の孔461および孔462が開閉板47により塞がれるため、熱伝導媒体13はそれらの空間の間を移動することができない。
【0083】
ユーザは当然ながら、磁石スライダ48を図6(b)の位置から時計回りに約90度スライドさせることにより、再び図6(a)の状態に切り替えることもできる。
【0084】
ユーザは、例えば磁石スライダ48を12時の位置に移動させた状態で暖かい飲料を器具4に入れる。その状態において、熱伝導媒体13は孔461およびそれに連通した孔471と、孔462およびそれに連通した孔472とを通って底側の空間に移動している。
【0085】
続いて、ユーザは蓋部15で蓋をした後、磁石スライダ48を反時計回りに90度移動させる。その状態において、底側の空間に移動している熱伝導媒体13は開口側の空間に移動できなくなる。
【0086】
ユーザはそのように熱伝導媒体13を底側の空間に閉じ込めた状態の器具4を例えば鞄に入れて持ち歩くことができる。その際、鞄内で器具4が横転等しても、熱伝導媒体13が開口側の空間に移動することがなく低熱伝導率状態が維持され、飲料の保温が行われる。
【0087】
(第5実施例)
以下、本発明のさらに他の一具体例である第5実施例にかかる太陽熱利用システム5を、図面を用いて説明する。
【0088】
太陽熱利用システム5は、晴れた日中において太陽熱により温水を作っておき、曇りもしくは雨天や夜間といった太陽熱が利用できない期間にその温水を利用するためのシステムである。
【0089】
図7は、本実施例にかかる太陽熱利用システム5の概略を表す断面図である。
【0090】
太陽熱利用システム5は、まず、内側部材51と、内側部材51を外側から覆うように設けられた外側壁部52との二重構造を備えている。内側部材51および外側壁部52は上底および下底が塞がれた筒状態であり、例えばその断面は円形(すなわち、円柱形状)である。なお、外側壁部52の外側面は、太陽光による熱の吸収を高めるために黒く塗装されている。
【0091】
内側部材51は外側壁部52の底面上に配置された断熱素材のブロックである断熱支持部材54の上に配置されている。断熱支持部材54は外側壁部52に対し内側部材51を接触させることなく支持するとともに、その断熱性により内側部材51と外側壁部52との間の熱の移動を極力妨げる。
【0092】
内側部材51と外側壁部52との間の空間には、熱伝導媒体53が充填され得る。熱伝導媒体53は、例えば水である。
【0093】
内側部材51と外側壁部52の間の空間には、熱伝導媒体53としての水を注入したり、抜き取ったりする装置である熱伝導媒体注入排出装置55が取り付けられている。より詳しくは、熱伝導媒体注入排出装置55が備える注入管551が外側壁部52の上面に設けられた孔に、排出管552が外側壁部52の底部付近に設けられた孔に、各々接続されている。なお、注入管551および排出管552と外側壁部52との間は密封されており、その接続部から水や空気が出入りすることはない。
【0094】
熱伝導媒体注入排出装置55は注入モードにおいては本体内に設けられたタンクに蓄えられている熱伝導媒体53としての水をポンプにより汲み上げ、注入管551からその水を内側部材51と外側壁部52との間の空間に注入する。一方、熱伝導媒体注入排出装置55は排出モードにおいてはポンプにより排出管552から内側部材51と外側壁部52との間の空間に充填されている熱伝導媒体53としての水を汲み出し、汲み出した水を本体内に設けられたタンクに蓄える。
【0095】
内側部材51と外側壁部52の上面に近い部分には、それらを貫くように孔が設けられ、それらの孔を外部から内側部材51の内側へと貫くように注水管56が配置されている。注水管56と内側部材51および外側壁部52が接する部分は断熱素材のパッキンにより水や空気が出入りしないように封止されている。注水管56は上水道に接続され、内側部材51の内側に水を注入する役割を果たす。
【0096】
注水管56は図示せぬ止水弁と、内側部材51内の水位が所定位置以下となった場合に止水弁を開き、その水位が所定位置以上となった場合に止水弁を閉めるフロートとを有している。
【0097】
内側部材51と外側壁部52の底部に近い部分には、それらを貫くように孔が設けられ、それらの孔を内側部材51の内側から外部へと貫くように排水管57が配置されている。排水管57と内側部材51および外側壁部52が接する部分もまた、断熱素材のパッキンにより水や空気が出入りしないように封止されている。排水管57は太陽熱利用システム5において太陽熱により暖められた水(お湯)をユーザの使用に供するために排出する役割を果たす。
【0098】
また、例えば外側壁部52の上面付近の内側面上には、内側部材51と外側壁部52の間の空間に入っている熱伝導媒体53の量が概ね満水であることを検知する水位センサ58が取り付けられている。さらに、外側壁部52の底部付近の内側面上には、内側部材51と外側壁部52の間の空間に入っている熱伝導媒体53の量が概ね空であることを検知する水位センサ59が取り付けられている。水位センサ58および水位センサ59は熱伝導媒体注入排出装置55に接続されており、それらのセンサからは熱伝導媒体注入排出装置55に対し、満水もしくは渇水であることを示す信号が出力される。
【0099】
また、外側壁部52の外側面上(太陽光が直接当たらない部分)には、その部分の温度を計測する温度センサ60が取り付けられている。同様に、内側部材51の底部の内側面上にも、その部分の温度を計測する温度センサ61が取り付けられている。温度センサ60および温度センサ61もまた熱伝導媒体注入排出装置55に接続されており、それらのセンサからは熱伝導媒体注入排出装置55に対し、例えば1分毎に現在の計測温度を示す信号が出力される。
【0100】
上記のような構造を備える太陽熱利用システム5の動作を以下に説明する。
【0101】
太陽熱利用システム5の内側部材51内には常に水が概ね満水となるように注入されている。より具体的には、排水管57から排水が行われ内側部材51内の水位が下がると、フロートが下がり注水管56の止水栓が開き注水が開始され、その水位が所定位置以上に上がりフロートが上がると注水管56の止水栓が閉められ注水が停止される。
【0102】
熱伝導媒体注入排出装置55は温度センサ60および温度センサ61から出力される信号により外側壁部52の温度と内側部材51の温度を常に監視している。
【0103】
熱伝導媒体注入排出装置55は、例えば外側壁部52の温度(すなわち温度センサ60から得られる信号が示す温度)が内側部材51の温度(すなわち温度センサ61から得られる信号が示す温度)より1度以上高い状態が10分間以上継続すると、注入管551から熱伝導媒体53としての水を内側部材51と外側壁部52との間の空間に注入する動作を開始する。その後、熱伝導媒体注入排出装置55は水位センサ58から満水を示す信号を受け取るとその注入動作を停止する。これにより、太陽熱利用システム5は内側部材51の内部の水と外側壁部52の外部との間を熱が移動可能な高熱伝導性状態となる。
【0104】
また、熱伝導媒体注入排出装置55は、例えば外側壁部52の温度(すなわち温度センサ60から得られる信号が示す温度)が内側部材51の温度(すなわち温度センサ61から得られる信号が示す温度)より1度以上低い状態が10分間以上継続すると、排出管552から熱伝導媒体53としての水を内側部材51と外側壁部52との間の空間からタンクへと排出する動作を開始する。その後、熱伝導媒体注入排出装置55は水位センサ59から渇水を示す信号を受け取るとその排出動作を停止する。これにより、太陽熱利用システム5は内側部材51の内部の水と外側壁部52の外部との間を熱がほとんど移動できない低熱伝導性状態となる。
【0105】
なお、内側部材51と外側壁部52との間の空間は密閉されているため、熱伝導媒体53としての水が排出された後のその空間は低圧の状態である。
【0106】
太陽熱利用システム5においては、上記のように、内側部材51と外側壁部52との温度の差に基づき自動的に高熱伝導性状態と低熱伝導性状態が切り替わる。そのため、十分な日照が得られる晴れた日中においては、通常、内側部材51の温度より外側壁部52の温度が高くなるため高熱伝導性状態に切り替わり、内側部材51内の水が温められる。一方、曇天もしくは雨天や夜間など、十分な日照が得られない間は、通常、内側部材51の温度より外側壁部52の温度が低くなるため低熱伝導性状態に切り替わり、温められた水が保温される。
【0107】
従って、ユーザが必要に応じて排水管57から水の供給を受ける場合、概ね常時、十分に暖かい水(お湯)を得ることができる。
【0108】
太陽熱利用システム5の運転に必要なエネルギーは、概ね熱伝導媒体注入排出装置55による注水および排水に要するエネルギーのみであり、そのエネルギーの量は水をお湯にまで沸かすエネルギーと比べると通常、遙かに少ない。従って、太陽熱利用システム5によれば、著しい省エネルギーが達成される。
【0109】
ところで、上述した太陽熱利用システム5においては、内側部材51の温度より外側壁部52の温度が高い場合に高熱伝導性状態に切り替わり、内側部材51の温度より外側壁部52の温度が低い場合に低熱伝導性状態に切り替わるように熱伝導媒体注入排出装置55が動作する。これは、冬場のようにお湯の使用頻度が高い場合に適したモードである。
【0110】
これに対し、夏場のように冷水の使用頻度が高い場合には、内側部材51の温度より外側壁部52の温度が高い場合に低熱伝導性状態に切り替わり、内側部材51の温度より外側壁部52の温度が低い場合に高熱伝導性状態に切り替わるように熱伝導媒体注入排出装置55の動作を変更することも可能である。そのようなモードにおいては、夜間など外気が低温の際に比較的低温な水を作っておき、日中の外気が高温の際に太陽熱利用システム5から供給される比較的低温な水を利用することができる。
【0111】
なお、太陽熱利用システム5は昼夜における寒暖の差が大きい地域において特に有効である。
【0112】
(変形例)
上述した実施例は、本発明の技術的思想の範囲内において様々に変形が可能である。以下にそれらの変形の例を示す。
【0113】
上述した実施例にかかる器具もしくはシステムにおいては、熱伝導媒体として水もしくは砂鉄が用いられるものとしたが、本発明はそれに限られず、(1)熱伝導率が用途に応じて十分に高く、(2)流動性が十分に高く、(3)融点が用途に応じて十分に低く、(4)沸点が用途に応じて十分に高く、(5)破損時等における安全性が十分に高い、という条件を満たす限り、如何なる物質が熱伝導媒体として採用されてもよい。例えば、外容器と内容器との間の空間の圧力が極めて低圧である場合や加熱を伴う場合、シリコンオイルやチェーンソーオイルなど、水より沸点が高く、低圧高温でも気化しにくい物質が熱伝導媒体として採用される必要がある。
【0114】
また、上述した実施例にかかる器具もしくはシステムにおいて採用されている外容器(外側壁部)および内容器(内側部材)の素材はステンレスなどの特定の金属に限られず、熱伝導率がその用途に応じて十分に高く、強度が十分に高い、という条件を満たす限り、如何なる物質がそれらの素材として採用されてもよい。
【0115】
また、上述した実施例にかかる器具もしくはシステムにおいて採用されている断熱封止部や断熱支持部材などの素材も、ポリカーボネートなどの特定の樹脂に限られず、熱伝導率が十分に低く、強度が十分に高い、という条件を満たす限り、如何なる物質がそれらの素材として採用されてもよい。
【0116】
また、上述した実施例にかかる器具もしくはシステムにおいて採用されている各部材の形状やサイズは、図等により示されるものに限られず、他に様々な形状の部材が採用可能である点は言うまでもない。
【0117】
また、上述した実施例にかかる器具もしくはシステムの使用方法は上述したものに限られない。例えば、上述の説明においては、器具の内部に入れた飲料や水を冷やしたり温めたりして、その後、それらがユーザにより使用されるまでの間、保冷もしくは保温する目的で本発明にかかる器具もしくはシステムを使用する場合を想定してその使用方法を説明している。これに代えて、例えばカイロ、湯たんぽ、や保冷パック、ロックアイス等の代わりとして本発明にかかる器具もしくはシステムを用いることもできる。
【0118】
例えば、本発明にかかる器具をカイロとして使う場合、ユーザは器具にお湯もしくは保温材を入れた後、低熱伝導率状態にして鞄に入れて持ち歩く。その後、器具を高熱伝導率状態に切り替えることで、器具から放出される熱で手を温めることができる。
【0119】
また、本発明にかかる器具を保冷パックやロックアイスの代わりとして使う場合、ユーザは器具に水もしくは保冷材を入れ、高熱伝導率状態にして冷凍庫で凍らせたものを低熱伝導率状態にして鞄に入れて持ち歩く。その後、器具を高熱伝導率状態に切り替えることで、器具により吸熱が行われ周囲の冷却が行われる。例えば、器具のサイズを小さくすることで、グラスに注いだ飲料に器具を入れ、飲料を冷やしたりすることもできる。
【0120】
なお、本発明をカイロ、湯たんぽ、保冷パック、ロックアイス等の代わりとして用いる器具に用いる場合、熱伝導媒体の出し入れは必ずしも必要ではない。従って、それらの場合、外容器および内容器は必ずしも開口する必要はなく、またそれらの容器が開口しない場合、開口部を塞ぐための蓋部も不要である。
【0121】
また、内容器(内側部材)の中に収容される物質は飲料や水に限られない。例えば、本発明にかかる器具をカイロや保冷材代わりとして用いる場合、内容器の中には蓄熱量が高い物質が用いられることが望ましい。その場合、内容器内の物質は液体に限られず、ゲル状もしくは固体であってもよい。
【0122】
また、外容器と内容器との間は、低熱伝導率状態における熱の移動を極力なくすためにそれらの接触をなくすことが望ましいが、それらの強度を保つ等の目的で、外容器と内容器との間に断熱性の高い素材のスペーサを配置してもよい。ただし、それらのスペーサは熱伝導媒体の移動を妨げる量や形状であってはならない。
【0123】
また、上述の実施例においては外容器と内容器との間の空間の圧力を例えば10−1パスカル程度の中真空ないし高真空であるものとしたが、低熱伝導率状態における外容器と内容器との間の空間の圧力は低ければ低いほど望ましい。
【0124】
また、器具4においては、遮断板46に開けられた孔を、外部からの磁力により回動する開閉板47により塞ぐ、という仕組みにより、外容器11と内容器12との間の空間を開口側と底側の2つの空間に分離するものとしたが、空間を分離する仕組みは、外容器11と内容器12との間の空間の密封状態を維持しつつ開閉可能な仕組みであれば、如何なる仕組みが採用されてもよい。
【0125】
例えば、器具4と同様の遮断板46および開閉板47を設け、電池から供給される電力で動作するモータの回転により開閉板47が右回りおよび左回りに回動する仕組みにより、空間の分離および連通の切り替えが実現されてもよい。その場合、モータの動作をユーザが制御するために、例えば電波や赤外線を用いたリモートコントローラを利用することが考えられる。
【0126】
また、開閉板47をユーザが外部から直接回転させる仕組みが採用されてもよい。ただし、その場合、開閉板47の回動に伴い器具の内外間を空気もしくは液体が移動しないように、多重のパッキンなどの封止の仕組みが採用される必要がある。
【0127】
また、器具1ないし器具4の外容器と内容器との間の空間を低圧な状態とする方法は、真空ポンプを用いる方法に限られず、他の如何なる方法が用いられてもよい。例えば、低圧な状態とされた室内において外容器と内容器とを密封するように連結することによりそれらの容器間の空間を低圧とする方法や、熱伝導媒体を加熱して気化させたものを高温下において外容器と内容器との間の空間に充填した後に冷却して液化させることによりそれらの容器間の空間を低圧とする方法などが採用されてもよい。
【0128】
また、太陽熱利用システム5の内側部材51と外側壁部52との間の空間は、密封されているため熱伝導媒体注入排出装置55により熱伝導媒体53が排出されると同時に低圧となるものとしたが、熱伝導媒体53の排出時には外気が流れ込み、流れ込んだ外気を別途、真空ポンプにより排気することで低圧としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明の器具は、飲料などの保温もしくは保冷、カイロや保冷材代わりの利用、太陽熱による温水利用など、一般家庭のみならず工場などの事業場においても広く利用され得るため、大量に製造・販売され、いわゆる製造業や小売業などのサービス業において利用可能である。
【符号の説明】
【0130】
1…器具、2…器具、3…器具、4…器具、5…太陽熱利用システム、11…外容器、12…内容器、13…熱伝導媒体、14…断熱封止部、15…蓋部、23…熱伝導媒体、25…磁石、32…内容器、46…遮断板、47…開閉板、48…磁石スライダ、51…内側部材、52…外側壁部、53…熱伝導媒体、54…断熱支持部材、55…熱伝導媒体注入排出装置、56…注水管、57…排水管、58…水位センサ、59…水位センサ、60…温度センサ、61…温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側部材と、
前記内側部材の表面を覆う空間を形成し、前記空間を外部から密封する外側壁部と、
液体、粉体もしくは粒状体である熱伝導媒体と
を備え、
前記内側部材の表面の所定比率以上の部分が前記熱伝導媒体を介して当該部分に対向する前記外側壁面の部分と接する状態である高熱伝導率状態と、前記内側部材の表面の前記所定比率以上の部分が前記空間を挟んで当該部分に対向する前記外側壁面の部分と隔離されるとともに前記空間を所定の気圧以下に減圧した状態である低熱伝導率状態とを選択的に取り得る構造を備える
器具。
【請求項2】
前記器具の所定の部分を第1の部分とし、前記第1の部分が上方に位置する場合に下方に位置する部分を第2の部分とする場合、
前記第1の部分が上方に位置し前記第2の部分が下方に位置する状態において、前記熱伝導媒体が自重により前記空間内を下方に移動することにより、前記低熱伝導率状態が実現され、
前記第1の部分が下方に位置し前記第2の部分が上方に位置する状態において、前記熱伝導媒体が自重により前記空間内を下方に移動することにより、前記高熱伝導率状態が実現される
請求項1に記載の器具。
【請求項3】
前記空間のうち前記低熱伝導率状態において前記熱伝導媒体が占める部分を前記空間の他の部分から遮断する遮断壁部と、
前記遮断壁部を開閉する開閉機構と
を備える請求項2に記載の器具。
【請求項4】
前記開閉機構は、外部からの磁力に応じて前記遮断壁部の少なくとも一部が移動する機構である
請求項3に記載の器具。
【請求項5】
前記開閉機構は、外部からの無線信号に応じて動作し前記遮断壁部の少なくとも一部を移動するモータを有する
請求項3または4に記載の器具。
【請求項6】
前記熱伝導媒体は磁性体であり、
磁石と、
前記低熱伝導率状態において前記磁石を前記第2の部分の外側に固定し、前記高熱伝導率状態において前記磁石を前記第1の部分の外側に固定する固定機構と
を備える
請求項2に記載の器具。
【請求項7】
前記高熱伝導率状態において、前記熱伝導媒体の一部を前記外側壁部から隔離して収容可能な収容部を備える
請求項2乃至6のいずれかに記載の器具。
【請求項8】
前記空間内に前記熱伝導媒体を充填することにより前記高熱伝導率状態を実現する熱伝導媒体充填機構と、
前記空間内から前記熱伝導媒体を抜き取ることにより前記低熱伝導率状態を実現する熱伝導媒体抜き取り機構と
を備える請求項1に記載の器具。
【請求項9】
前記空間内から空気を抜き取り前記低熱伝導率状態における前記空間の前記減圧した状態を実現する空気抜き取り機構を備える
請求項8に記載の器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−74950(P2013−74950A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215926(P2011−215926)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(511004782)
【Fターム(参考)】