説明

熱処理ローラの温度検出信号出力装置

【課題】ローラ内に温度センサを配置し、温度センサの検出信号を、回転トランスを介して静止側に設置した制御装置へ伝送する熱処理ローラの温度検出信号出力装置を、防爆を必要とする環境内に設置することを可能にし、その熱処理ローラの表面温度の変動に対して迅速に対応することができるようにすること。
【解決手段】回転トランスのステータ用基板15を取付けた筒状のケース20の一端の開口を、静止側の出力ケーブルを接続するケーブルグランド22を装着した軸受けフランジ21で閉塞し、他端の開口を、回転軸2に形成し、外周囲に軸方向に起立する突起2bと導線を挿通する筒状突起2cを形成した円板2aで閉塞し,筒状突起の貫通孔2cに、端部にフランジ24aを形成した温度センサから伸びる導線を内蔵するスリーブを挿入固定する。回転トランスの内部が外部に通じる隙間の全てを狭くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ローラの回転側で検出した温度検出信号を静止側で出力する熱処理ローラの温度検出信号出力装置、詳しくは回転トランスの耐圧防爆取付け構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ローラ内に流体を通流させ、ローラの表面に当接する樹脂フィルムなどを所定の温度に熱処理することが行われている。図3はこのような熱処理を行う一例の熱処理ローラ装置の概略を示すもので、この図3において、1はローラ本体を構成するロールシェル、2は図示しないモータにより回転してロールシェルを回転する回転駆動軸、3は中子、4はロータリジョイント、5は貯油タンク、6は油(熱媒流体)、7は熱交換器(加熱又は冷却)、8はポンプ、9は熱媒流体の温度を検出する温度センサ、10は温度制御装置、11は電力制御回路、12はこの例ではヒータ、13はロールシェルに当接して通過する樹脂フィルムなどの処理物である。
【0003】
ロールシェル1は円筒状をなし、その中空内部に中子3が配置され、中子3の中央部を貫通して熱媒通流路3aが形成されている。熱媒通流路3aは回転駆動軸2内を経てロータリジョイント4の流入口に連結され、ロールシェル1の内周壁と中子3の外周壁との間で形成された熱媒通流路1aは回転駆動軸2内を経てロータリジョイント4の出口に連結されている。
【0004】
すなわち、貯油タンク5の熱媒流体6は熱交換器7を通り、所定の温度に加熱又は冷却され、その熱媒流体6がポンプ8によってロールシェル1内に送られ、熱媒通流路3aおよび1aを通流し、貯油タンク5へ排出される。温度センサ9は、熱交換器7の出力側に設けられ、その検出温度信号は温度制御装置10に送られる。温度制御装置10は、通流する熱媒流体6の温度を設定する設定温度Sが予め入力されており、この設定温度Sと入力された温度センサ9の検出温度信号とを比較し、その偏差に対応する制御信号をサイリスタなどからなる電力制御回路11に送る。電力制御回路11は制御信号に応じた電力をヒータ12に供給し、ヒータ12はその電力に応じて発熱して熱媒流体6を設定温度Sにまで加熱又は冷却する。
【0005】
以上のような熱処理ローラ装置では、電気系統を、防爆を必要とする環境外に配置するだけで、簡単に防爆を必要とする環境内に設置し、その環境内で処理物を加熱又は冷却処理することができる。しかし、電気系統を、防爆を必要とする環境外に配置すると、上記の温度制御では、ロールシェル1の表面温度の変動に対して迅速に対応することができないという問題があった。
【0006】
一方、上記の温度制御では、当初熱媒流体6の温度の立ち上がりに対して、ロールシェル1の表面温度の立ち上がりが遅く、ロールシェル1の表面温度が設定温度Sの近傍にまで上昇するまでの時間が長時間となることを改善するために、ロールシェル1の肉厚内に温度センサを配置してロールシェル1の表面温度を検出し、その検出信号を、回転トランスを介して静止側へ伝達し、熱媒流体の温度と比較し、その偏差が所定値を維持するように温度制御するものがある。
【特許文献1】特開2004−195888号公報
【0007】
しかし、一般に回転トランスは、図4に示すように、回転軸2の端部にコイルなどを実装したロータ用基板14を固定し、このロータ用基板にロールシェル1の肉厚内に配置した温度センサからのリード線を固定する。また、このロータ用基板に実装したコイルと対向するコイルなどを実装したステータ用基板15を、一方の端部を、筒状の軸受けハウジング17の端部で直立するフランジ17aで閉塞した円筒状の支持筒16内に固定し、支持筒16は軸受けハウジング17の中空内面と回転軸2の外周面との間に軸受け18を介して回転軸2に嵌合固定している。ステータ用基板15から導出された線はフランジ17aに装着したコネクタ19を介して外部に引き出されて静止側に設置した制御装置などに接続されており、電気系統は外部環境に晒された状態となっている。
【0008】
そのために、このように回転するロールシェル1の肉厚内に温度センサを配置し、その温度センサの検出信号を、回転トランスを介して静止側に設置した制御装置へ伝送するようにした熱処理ローラの温度検出信号出力装置は、ロールシェル1の表面温度の変動に対して迅速に対応し好都合であるが、防爆を必要とする環境内で使用することができないといった問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、回転するロールシェルの肉厚内に温度センサを配置し、その温度センサの検出信号を、回転トランスを介して静止側に設置した制御装置へ伝送する熱処理ローラの温度検出信号出力装置を、防爆を必要とする環境内に設置することを可能にし、その環境内で使用する熱処理ローラの表面温度の変動に対して迅速に対応することができるようにし、斯かる問題を解消する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、熱媒流体を通流するローラの表面側肉厚内に配置した温度センサの検出信号を、前記ローラの回転軸に取り付けたロータ用基板と前記ローラの回転軸に軸受けを介して取り付けた筒状のケースに固定したステータ用基板からなる回転トランスを介して静止側へ出力する熱処理ローラの温度検出信号出力装置において、前記筒状のケースの一端の開口端には、静止側の出力ケーブルを接続するケーブルグランドを装着する貫通孔を有し、前記ローラの回転軸を流体抵抗の大きい隙間を隔てて挿通する筒状の軸受けハウジングの端部で直立するフランジが固定され、他端の開口端には、前記ローラの回転軸に形成した、外周囲に軸方向に起立する突起と導線を挿通する筒状の突起を有する円板で前記筒状のケースと前記外周囲の突起との間に流体抵抗の大きい隙間を設けて嵌合してなり、前記円板の導線を挿通する筒状の突起の貫通孔に前記温度センサから伸びる導線を内蔵するスリーブを、そのスリーブの外面と前記筒状の突起の貫通孔の内面との間に流体抵抗の大きい隙間を隔てて挿通してなることを主な特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、回転トランスの筒状のケースの内部が流体抵抗の大きい隙間のみにより外部と連通されるので、そのケースの内部で電気的に短絡して火花を発生しても外部に広がらず外部環境の爆発を防ぐことができるとともに、防爆を必要とする環境内に設置した熱処理ローラの表面温度の変動に対して迅速に対応することができる。また、筒状のケースの一端の開口は、ローラの回転軸を流体抵抗の大きい隙間を隔てて挿通する筒状の軸受けハウジングの端部で直立するフランジで閉塞し、他端の開口は、前記ローラの回転軸に形成した、外周囲に軸方向に起立する突起と導線を挿通する筒状の突起を有する円板で閉塞しているので、流体抵抗の大きい隙間は、回転軸を挿通するハウジングの長さ、突起の長さ、筒状の突起の貫通孔の長さで確保することができ、回転トランスを囲むケース全体を肉厚が薄く軽量に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
回転するロールシェルの肉厚内に温度センサを配置し、その温度センサの検出信号を、回転トランスを介して静止側に設置した制御装置へ伝送する熱処理ローラの温度検出信号出力装置を、防爆を必要とする環境内に設置することを可能にし、その環境内で使用する熱処理ローラの表面温度の変動に対して迅速に対応することができるようにする目的を、回転トランスの電気部品を覆う固定側に位置する筒状ケースの片側の開口を、回転軸に形成した円板で覆うことにより実現した。
【実施例】
【0013】
以下本発明の実施例について図1を参照して説明する。図1(a)は回転トランス部の概略構成を示す半断面図、図1(b)は図1(a)に示す回転トランス部の導線引き込み部の拡大断面図である。なお、熱処理ローラの構成は図3に示す熱処理ローラと同様であり、図1ではその構成は省略する。また、図4に示す従来の回転トランス部の構成と同一または対応する部分には同一の符号を付している。
【0014】
図1(a)(b)において、2aは回転軸2に形成された、外周囲に軸方向に起立する突起2bと導線を挿通する筒状の突起2cを形成した円板、20はロータ用基板14とステータ用基板15を収納する円筒状ケース、21はローラの回転軸2を挿通する筒状の軸受けハウジング21aの端部で直立するフランジ、22は静止側の出力ケーブルw1を接続する防爆構造のケーブルグランド、24は回転側の温度センサに接続する導線w2を内蔵するフランジ24aを有するスリーブ、25および26は軸受けである。
【0015】
円筒状ケース20の一端の開口は、フランジ21で閉塞され、他端の開口は開放されており、その内周面にステータ用基板15が固定されている。円板21には静止側の出力ケーブルw1の導線とステータ用基板15からの導線とを接続するケーブルグランド22が装着されている。軸受けハウジング21aの内径は回転軸2の外径よりも僅かに大きく(本例では0.4mm)、その長さは所定の長さ(本例では40mm)とされている。
【0016】
ローラの回転軸2には、円筒状ケース20の開口側の端部の内径よりも僅かに小さい径(本例では0.4mm)の円板2aが一体に形成され、円板2aの外周囲に軸方向に所定の距離(本例では40mm)起立する突起2bが形成されている。また、その円板2a面にスリーブ24を挿通する筒状の突起2cが形成され、筒状の突起2cの貫通孔の径は、スリーブ24の外径よりも僅かに大きくされている。スリーブ24はローラ本体のロールシェルの表面近傍の孔に挿入配置した温度センサから伸びる導線とロータ用基板14から伸びる導線とを接続している。
【0017】
なお、温度センサは100Ωの白金からなり酸化マグネシウムなどを充填した保護管内に収納され、温度センサから伸びる導線、たとえば電力供給線と信号伝送線は保護管に連結したスリーブ24まで伸びる管内に収納されており、温度センサおよび温度センサから伸びる導線は裸のまま外気に晒されることはない。
【0018】
筒状の突起2cの貫通孔に挿入したスリーブ24は、スリーブ24のフランジ24aを円板2a面に密着してねじ締め固定されている。このとき筒状の突起2cの貫通孔の内周面とスリーブ24の外周面との間には僅かに隙間が生じるが、ねじ締め位置から筒部の端部までの長さを長くしており、この隙間による流体抵抗は極めて大きい。
【0019】
なお、本例では、スリーブ24を挿通する筒状の突起2cは円板2a面内側(突起2bと同方向)にのみ突出させているが、図2(a)の2dに示すように円板2a面外側にも突出させるようにしてもよく、また図2(b)に示すように円板2a面に形成した貫通孔に、別途形成したフランジ23aを形成した筒状の金具23を使用し、その筒状の金具23のフランジ23aをローラ側にしてその孔の内周面と密着して嵌め込むようにしても良い。この場合、フランジ23aの厚み分、円筒状ケース20の内側へ突出する突起2cの長さを短くすること、逆に筒状の金具23の貫通孔の内面とスリーブ24の外面との間に生じる僅かの隙間の距離を長くすることができ、一層この隙間による流体抵抗を増加することができる。
【0020】
回転軸2に軸受け26を固定し、フランジ21で閉塞し、ステータ用基板15を固定した円筒状ケース20を軸受け26に沿わして回転軸2に嵌め込み、円筒状ケース20の開口側端部の内周面を円板2aの突起2bの外周面と対向させ、軸受け25を挿入して組み立てる。この状態で突起2bの外周面と円筒状ケース20の内周面との間の隙間d1は0.2mm、長さ40mmとなり、その隙間による流体抵抗は極めて大きい。また、軸受けハウジング21aの内周面と回転軸2の外周面との隙間d2は0.2mm、長さ40mmとなり、その隙間による流体抵抗は極めて大きい。これにより回転トランスの内部は外部から遮断され、また、外部環境に晒された状態での電気的短絡は発生しない。なお、一般的に長さ40mmで間隔0.2mm以下の隙間は防爆構造に適合するとされている。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施例に係る熱処理ローラの温度検出信号出力装置の概略構成を示す断面図で、(a)は回転トランス部の半断面図、(b)は(a)に示す回転トランス部の導線引き込み部の拡大断面図である。
【図2】本発明の実施例に係る他の回転トランス部の導線引き込み部の拡大断面図である。
【図3】熱処理ローラ装置の構成図である。
【図4】従来の回転トランス部の半断面図である。
【符号の説明】
【0022】
1 ロールシェル
2 回転軸
2a 円板
2b 突起
2c 筒状突起
14 ロータ用基板
15 ステータ用基板
20 筒状ケース
21 フランジ
21a 軸受けハウジング
22 ケーブルグランド
23 筒状の金具
23a フランジ
24 スリーブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱媒流体を通流するローラの表面側肉厚内に配置した温度センサの検出信号を、前記ローラの回転軸に取り付けたロータ用基板と前記ローラの回転軸に軸受けを介して取り付けた筒状のケースに固定したステータ用基板からなる回転トランスを介して静止側へ出力する熱処理ローラの温度検出信号出力装置において、前記筒状のケースの一端の開口端には、静止側の出力ケーブルを接続するケーブルグランドを装着する貫通孔を有し、前記ローラの回転軸を流体抵抗の大きい隙間を隔てて挿通する筒状の軸受けハウジングの端部で直立するフランジが固定され、他端の開口端には、前記ローラの回転軸に形成した、外周囲に軸方向に起立する突起と導線を挿通する筒状の突起を有する円板で前記筒状のケースと前記外周囲の突起との間に流体抵抗の大きい隙間を設けて嵌合してなり、前記円板の導線を挿通する筒状の突起の貫通孔に前記温度センサから伸びる導線を内蔵するスリーブを、そのスリーブの外面と前記筒状の突起の貫通孔の内面との間に流体抵抗の大きい隙間を隔てて挿通してなることを特徴とする熱処理ローラの温度検出信号出力装置。
【請求項2】
前記円板の導線を挿通する筒状の突起は、前記円板と一体に成形され、ケース内へ突出してなることを特徴とする請求項1に記載の熱処理ローラの温度検出信号出力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−145313(P2008−145313A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−334012(P2006−334012)
【出願日】平成18年12月12日(2006.12.12)
【出願人】(000110158)トクデン株式会社 (91)
【Fターム(参考)】