説明

熱動形過負荷継電器およびその反転機構の調整方法

【課題】熱動形過負荷継電器の組立後に行う反転機構の調整工程で、従来の調整方法のように反転ばねをばね特性の異なる別なばね部品と交換することなく、反転ばねをフレームに組み付けたままの簡単な調整作業で反転機構のトリップ動作,自動リセット動作がバランスよく両立できるように改良する。
【解決手段】熱動形過負荷継電器に搭載装備した反転機構が、一端を揺動支点としてフレーム10に枢支した反転板11と、前記支点を挟んで反転板11の他端とフレームのばね支持部との間に張架された引張コイルばねの反転ばね12との組立体になり、前記反転板11の反転動作により常開接点13および常閉接点を開閉位置に切り替るようにしたものにおいて、反転ばね12に対するばね張力の調整手段として、フレーム10から突き出した片持ち梁式のばね支持アーム10bの根元側に塑性変形を加え、該支持アームを反転ばね12の張架方向に撓ませて反転ばね12の張力を適正範囲に調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電磁接触器と組み合わせてモータなどの配電回路に適用する熱動形過負荷継電器(サーマルリレー)に関し、詳しくは熱動形過負荷継電器に装備した反転機構に組み付けた反転ばねの張架支持構造、および反転機構の動作特性を適正化する調整方法に係わる。
【背景技術】
【0002】
頭記の熱動形過負荷継電器として、そのケース内に、過負荷電流を検知して湾曲変位する主バイメタル、該主バイメタルに連係したシフタの変位に従動する釈放レバー、および釈放レバーの駆動により反転動作して常開接点,常閉接点を開閉する反転機構、およびトリップ動作した反転機構を手動,ないし自動でリセット位置に復帰させるリセット棒を配備し、ここで前記反転機構は、一端を揺動支点としてフレームに枢支した反転板と、前記支点を挟んで反転板の他端とフレームのばね支持部との間に張架された引張コイルばねの反転ばねとの組立体で構成し、過負荷電流による主バイメタルの湾曲変位を前記反転板に伝えて、その反転動作により常開接点,常閉接点を開閉位置に切り替るようにした熱動形過負荷継電器が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
次に、前記構成の反転機構に、常開接点(a接点),常閉接点(b接点),およびリセット棒を組み合わせた熱動形過負荷継電器の従来構造を図4〜図9に示し、そのトリップ動作,リセット動作、および各動作時における反転機構の挙動を説明する。なお、図4はケース内に組み込んだ主要部の組立構造図、図5は主要部の立体図、図6は図4における調整リンク,釈放レバーの機構図、図7は反転機構図、図8,図9はそれぞれa接点,b接点の機構および開閉動作の説明図である。
【0004】
各図おいて、1は熱動形過負荷継電器のケース、2は主バイメタル2aの周面に絶縁テープを介して加熱ヒータ2bを巻装して主回路に接続したヒートエレメント、3は主バイメタル2aの自由端に連係したシフタ、4はシフタ3の一端に対向配置した温度補償バイメタル、5は温度補償バイメタル4に結合した釈放レバー、6は整定電流調整ダイヤル7に連係して釈放レバー5の揺動支点を調整する調整リンク、8は前記釈放レバー5の駆動により反転動作して後記する補助接点のa接点(常開接点),b接点(常閉接点)を開閉位置に切替える反転機構、9はトリップ動作した反転機構8を手動,ないし自動でリセット位置に復帰させるリセット棒である。なお、ケース1はモールド樹脂製の箱形でその開放面にはカバー(不図示)を備えている。
【0005】
ここで、反転機構8は、ケース1内に配置した補助接点回路の導体フレーム10に形成したV溝部10aに下端を枢支して揺動自在に支持した“門形”形状の反転板11と、該反転板11と導体フレーム10の下部から側方にL字状に突き出した片持ち梁式のばね支持アーム10bとの間に架け渡して張架した反転ばね(引張コイルばね)12とからなり、この反転ばね12(引張コイルばね)の線状部に先記した釈放レバー5の先端が対向している。なお、12a,12bは反転ばね12の両端に形成したフックである。
【0006】
また、前記の反転機構8に連係して、補助接点のa接点(常開接点),およびb接点(常閉接点)が次記のようにケース内部に配備されている。すなわち、a接点13については、図7(b)で示すように可動接点13aを反転板11の上端に設け、可動接点13aに対向する固定接点13bはばね性を有する固定接触子片13b−1の上端に設けた上で、該固定接触子片13b−1の下端が導体フレーム14に結合されている。そして、固定接触子片13aの背面に先記したリセット棒9の操作端9aが対向配置されている(図4参照)。なお、10cは可動接点13aに対応する導体フレーム10の外部端子、14aは固定接点13bに対応する導体フレーム14の外部端子である。
【0007】
一方、補助接点のb接点15(図9参照)は、図5(b)で示すように反転機構8の背後(ケース1内の奥部)に配備されている。すなわち、b接点15の可動接点15aは板ばね材で作られた可動接触子片15a−1の上端部に設け、可動接触子片15a−1はその下端が導体フレーム16に固着されている。また、可動接点15aに対向する固定接点15bは固定接触子片15b−1の上端に設けた上で、該固定接触子片15b−1の下端が導体フレーム17に結合されている。そして、可動接触子片15a−1は次記のように絶縁物製の連動板18を介して前記反転板11に連係されている(図7(a)参照)。
【0008】
すなわち、図7(a)において、前記連動板18はケース内部に設けた支軸(不図示)に軸受部18aを介して回動自在に支持されている。また、連動板18の前壁面には前記軸受部18aから偏心した位置に左右一対の係合突起18bが形成されており、該係合突起18bが反転板11の端部を挟んで反転板に連係されている。さらに、連動板18の後部に延在形成した操作部18cがb接点15の可動接触子片15a−1の上端との間に間隙を隔てて対峙するように配置されている。なお、図中の16a,17aは、それぞれ可動接点15a,固定接点15bに対応する導体フレーム16,17の外部端子である。
【0009】
上記の構成で、定常状態では反転機構8の反転板11が反転ばね12の付勢を受けて図4,図5に示す位置に傾動停止し、連動板18の操作部18cはb接点15の可動接触子片15a−1から離間した位置に停止している。この状態では、図8(a)で示すようにa接点13の可動接点13aが固定接点13bから開離してa接点13はOFFである。一方、b接点15は、図9(a)で示すように可動接点15aが固定接点5bに接触してb接点15はONの状態にある。なお、図9は図8の裏側から見た図である。
【0010】
ここで、主回路に流れる過負荷電流によりヒートエレメント2のヒータ2bが発熱して主バイメタル2aが湾曲するとシフタ3が図4の矢印P方向に変位し、これに従動して釈放レバー5が時計方向に回動して反転ばね12の中腹(引張コイルはねの線状部)を押し込むようになる。そして、釈放レバー5の回動がさらに進んで反転ばね12の作用線が反転板11の枢支支点を超えると、反転板11は急速に反転動作して反時計方向に揺動する(トリップ動作)。
【0011】
これにより、図8(b)で示すように、a接点13の可動接点13aが固定接点13bに当接してa接点13がON動作する。一方、反転板11の端部に連係した連動板18(図7参照)は反転板11の反転動作により軸受部18aを支点に時計方向に回動する。これにより、連動板18の操作部18cがb接点15の可動接触子片15a−1の上端を押し込み(図9(b)参照)、可動接点15aを固定接点15bから引き離してb接点15がOFF動作する。
【0012】
そして、前記a接点13およびb接点15の接点動作信号を基に、電磁接触器(不図示)を開極動作させて主回路を断路する。
一方、主回路電流の遮断後に主バイメタル2aが冷え、その湾曲が十分に戻って釈放レバー5が反転ばね12から後退したところで、リセット棒9(図4参照)を手動で押し込むと、リセット棒9の操作端9aがa接点13の可動接触子片13a−1を右方向に押し込むとともに、その押圧力が接点を介して反転板11に加わる。そして、反転板11が反転ポイントを超えたところで反転ばね12の付勢により初期位置に向けて反転動作する。これにより、a接点13,b接点15はそれぞれOFF位置(図8(a)参照),ON位置(図9(a)参照)に復帰し(リセット動作)、この接点動作信号を基に電磁接触器が投入されて負荷回路への通電が再開される。
【0013】
また、リセット棒9をあらかじめ自動リセット位置に押込みセットし、その操作端9aがa接点13の可動接触子13a−1を反転板11に向けて押し込んだ状態に保持しておけば(自動リセットモード)、主回路電流の遮断後に主バイメタル2aの湾曲が戻って釈放レバー5による反転ばね12の押し込み力が低下すると、反転ばね12の作用線が元の状態に戻り、これにより反転板11は反転ばね12の付勢により右方向に傾動して当初の位置に自動復帰し、その接点動作信号を基に負荷回路の通電が自動的に再開される。なお、上記した反転機構8のトリップ動作,リセット動作については、特許文献1にも詳しく述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】実公平2−18915号公報(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ところで、先記のように反転機構8にa接点13,b接点15、および連動板18を連係配置した組立構造になる熱動形過負荷継電器について、リセット棒9を自動リセット位置に設定した自動リセットモードでトリップ動作,リセット動作を的確に行うには、反転機構8に対して次記のような動作特性が要求される。
【0016】
すなわち、主バイメタル2aの湾曲変位により釈放レバー5が反転ばね12を押し込んで反転機構8を反転させるトリップ動作行程では、b接点15のON位置でその接点間に接触圧を加えている可動接触子片15a−1のばね力が連動板18を介して反転機構8の反転板11に負荷荷重として作用する。したがって、可動接触子片15a−1のばね力に打ち勝って可動接点15aを押し開くには、反転板11の動作荷重、つまり反転板11とフレーム10のばね支持アーム10bとの間に張架した反転ばね12には高い張力(ばね荷重)が必要であり、このばね荷重が弱いと前記した可動接触子片15a−1のばね(負荷荷重)に打ち勝てずに反転板11が反転動作の途中で停滞したりしてトリップ動作の動作不良を引き起こすおそれがある。
【0017】
一方、リセット棒9による自動リセット動作行程の途上でb接点15をON位置に復帰させるには、反転ばね12の付勢により反転板11に加わる動作荷重が連動板18を介してb接点15の可動接触子片15a−1から作用する復帰方向の荷重を下回るまで減少していることが必要である。したがって、このリセット動作行程では、前記のトリップ動作とは逆に、反転板11を付勢している反転ばね12はそのばね荷重の低い方が自動リセット動作の停滞なしに円滑に行える。
【0018】
図10は、上記した反転機構8のトリップ動作,リセット動作の挙動を表す動作特性図である。ここで、横軸は初期位置を原点とする反転機構8の反転板11,連動板18の移動量、縦軸は反転板11,連動板18に加わる荷重を表し、図中の特性線Aは釈放レバー5,反転ばね12を介して反転板11に加わる動作荷重、特性線Bはb接点の固定接触子片15a−1のばね力を受けて連動板18の操作部18cに作用する負荷荷重の推移を表している。
【0019】
すなわち、トリップ動作行程では釈放レバー5から反転ばね12を介して反転板11に加わる動作荷重(特性線A)は移動量とともに増大する。一方、特性線Bは、連動板18の操作部18cがb接点15の可動接触子片15a−1に突き当たって可動接点15aをその接触圧に抗して押し開く過程で負荷荷重が急激に立ち上がり、可動接点15aが固定接点15bから開離した後は可動接触子片15a−1のばね定数に対応してさらに負荷荷重が緩やかに増加する。なお、図中の横軸に示したD1点は連結板18の操作部18cがb接点15の可動接触子片15a−1に突き当たった位置、D2点は可動接点15aが固定接点15bから開離し始めた位置、D3点はリセット棒9により押込み保持された反転板11の自動リセット位置を表し、縦軸のP1,P2はそれぞれ前記D2,D3点に対応して連動板18に作用する荷重(可動接触子片15a−1のばね力)の大きさを表している。
【0020】
そして、反転機構8のトリップ動作行程では、連動板18がb接点15の可動接触子片15a−1に突き当たって時点で特性線AがD2点に対応する荷重P1を上回っていれば、b接点15の可動接点15aを押し開いて反転機構8がトリップ動作する。これに対して、特性線Aが前記荷重P1を下回っていると、反転板11がこの位置に停滞したり、反転動作が遅れたりしてトリップ動作不良を引き起こす。したがって、特性線Aが図中の特性線A1,A3であれば反転機構8が確実にトリップ動作し、特性線A2では反転板11の動作荷重が不足してトリップ動作不良が発生する。
【0021】
一方、主回路電流遮断後の自動リセット動作行程では、主バイメタルの冷却,釈放レバー5の後退に伴って反転板11の動作荷重が特性線Aに沿って低下していく過程で、特性線Aが自動リセット位置(D3)に対応する荷重P2を下回る状態になると反転機構8が初期位置にリセットされるが、この場合には特性線Aと自動リセット位置(D3)に対応する荷重P2との間の荷重差δ(このδを“応差”と呼称する)がリセット動作に影響を及ぼす。すなわち、特性線Aが図中の特性線A1であれば、前記“応差”が小さいので反転機構8は殆ど停滞なくリセット位置に自動復帰するが、逆に特性線A3では“応差”が大となるため、特性線A3の荷重が荷重P2(反転板11を押し戻す力)以下に減少するまで初期位置への自動復帰、つまり自動リセット動作による主回路の通電開始が大幅に遅れることになる。
【0022】
上記説明で判るように反転機構8のトリップ動作特性と自動リセット動作特性は互いにトレードオフの関係にあることから、熱動形過負荷継電器の反転機構を設計,製作するに当たっては前記トレードオフの関係を如何にバランスよく両立させるかが製品の品質管理面での大きな課題となる。
【0023】
かかる点、図10で反転機構8の動作特性が特性線A1であれば、トレードオフの関係にあるトリップ動作と自動リセット動作の両特性をバランスよく両立させた状態で使用することができる。しかしながら、熱動形過負荷継電器については、その製品を組立てた後の段階でないと前記動作特性の確認,評価が行えず、しかも各部品の寸法,材料物性、および組立精度にはバラツキがあるために、量産製品の全てについての動作特性(トリップ動作,リセット動作)が適正範囲に収まるように厳しく品質管理して製造することは困難である。
【0024】
そこで、従来では製品の組立が完了した後に行う検査工程で、個々の製品ごとに反転機構を機械的にトリップさせてそのトリップ動作特性,リセット動作特性を確認,評価し、その評価結果に基づき次記のように組立部品を調整し、その検査に合格した製品を出荷するようにしている。
【0025】
すなわち、先記の反転機構8は、その反転板11と導体フレーム10のばね支持アーム10bとの間に張架した反転ばね(引張コイルばね)12の張力の強弱によってトリップ動作,自動リセット動作の特性が変わることか判っていることから、ばね定数が異なる何種類かの反転ばねを調整用の部品として用意しておき、製品組立後の検査で得た評価結果を基に、調整が必要な場合には反転ばね12をばね特性の異なるばねに組み替えて動作特性(トリップ動作,自動リセット動作)がバランスよく両立する適正範囲に収まるように調整しているのが現状である。
【0026】
しかしながら、組立工程でフレームに組み付けた反転ばねを製品から取り外した上で、別な反転ばねに組み替えるには、その作業に手間と時間が掛かることからその改善策が要望されている。
【0027】
この発明は上記の点に鑑みなされたものであり、製品組立後に行うトリップ,自動リセット動作特性の調整工程で、従来の調整方法のように反転ばねをばね特性の異なる別なばね部品と組み替えすることなく、反転ばねをフレームに組み付けたままの状態で反転機構のトリップ動作,自動リセット動作がバランスよく両立できるように反転ばねの張力を調整できるように張架支持構造を改良した熱動形過負荷継電器、およびその反転機構の調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
上記目的を達成するために、この発明によれば、ケース内に、過負荷電流を検知して湾曲変位する主バイメタル、主バイメタルに連係したシフタの変位に従動する釈放レバー、および釈放レバーの駆動により反転動作して常開接点と常閉接点を開閉する反転機構、およびトリップ動作した反転機構を手動,ないし自動でリセット位置に復帰させるリセット棒を配備し構成で、前記反転機構が一端を揺動支点としてフレームに枢支した反転板と、前記支点を挟んで反転板の他端とフレームのばね支持部との間に張架された引張コイルばねの反転ばねとの組立体になり、前記反転板の反転動作により常開接点および常閉接点の開閉位置を切り替るようにした熱動形過負荷継電器において、
前記反転板とフレームのばね支持部との間に張架された反転ばねに対するばね張力の調整手段を備えるものとし(請求項1)、その調整手段は具体的に次記のような態様で実施することができる。
(1)前記反転ばねのばね張力調整手段として、フレームから突き出して反転ばねのフックを引っ掛けて係合支持する片持ち梁式のばね支持アームに対し、その根元側に塑性変形を加えてばね支持アームを反転ばねの張架方向に撓ませるようにする(請求項2)。
(2)前記反転ばねのばね張力調整手段として、フレームから突き出して反転ばねのフックを引っ掛けて係合支持するばね支持アームに沿って複数段のばね係合溝を形成し、かつ各段のバネ係合溝の間には反転ばねの張架方向に段差を設定する(請求項3)。
(3)前記反転ばねのばね張力調整手段として、フレームに螺設した調整ねじに反転ばねのフックを引っ掛けて係合支持する偏心カムを設ける(請求項4)。
【0029】
そして、前記構成の熱動形過負荷継電器については、その製品組立状態で反転機構のばね張力調整手段を調整し、互いにトレードオフの関係にある反転機構のトリップ動作と自動リセット動作の動作特性が両立するような範囲に反転ばねの張力を調整する(請求項5)。
【発明の効果】
【0030】
熱動形過負荷継電器の反転機構に上記したばね張力調整手段を採用することにより、製品組立後に行う検査,調整工程では、従来のように反転ばねをばね特性の異なる別なばね部品に組み替える面倒な作業を要さずに、反転ばねを反転機構のフレームに組み付けたままの状態で、そのばね張力調整手段により反転ばねの張力を増減して互いにトレードオフの関係にある反転機構のトリップ動作と自動リセット動作の両動作特性が両立する適正範囲に収まるように調整することかでき、これにより製造工程での管理工数を大幅に軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】この発明の実施例1に係わるばね張力調整手段の説明図であり、(a)は反転機構の正面図、(b)は(a)におけるA部の拡大図である。
【図2】この発明の実施例2に係わるばね張力調整手段の説明図であり、(a)は反転機構の正面図、(b)は(a)におけるA部の拡大図である。
【図3】この発明の実施例3に係わるばね張力調整手段の説明図であり、(a),(b)は反転機構の異なる調整状態を表す正面図、(c),(d)はそれぞれ(a),(b)におけるA部の拡大図、(e),(f)は調整機構の側面図,および端面図である。
【図4】この発明の実施対象となる熱動形過負荷継電器の従来における主要部構造の正面図である。
【図5】図4におけるケース内部の組立構造図であり、(a),(b)はそれぞれ正面,背面側から見た立体図である。
【図6】図4における釈放レバー,調整リンク,調整ダイヤルの組立構造を示す斜視図である
【図7】図4における反転機構部分の組立構造図であり、(a),(b)はそれぞれ右側,および左側から見た斜視図である。
【図8】図4の熱動形過負荷継電器に装備した常開接点の開閉動作の説明図であり、(a),(b)はそれぞれ定常状態,およびトリップ状態を表す図である。
【図9】図4の熱動形過負荷継電器に装備した常閉接点の開閉動作の説明図であり、(a),(b)はそれぞれ定常状態,およびトリップ状態を表す図である。
【図10】図4における反転機構のトリップ動作,自動リセット動作の動作特性を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、この発明の実施の形態を図1,図2,図3に示す各実施例に基づいて説明する。なお、各図において図4〜図9に対応する同一部材には同じ符号を付してその説明は省略する。
【実施例1】
【0033】
まずこの発明による反転機構のばね張力調整手段として、請求項,2に係わる反転ばねの調整方法を図1(a),(b)で説明する。
この実施例においては、導体フレーム10に揺動可能に枢支支持した反転板11とフレームから側方に突き出して片持ち梁式のばね支持アーム10bとの間に架け渡した反転ばね(引張コイルばね)12に対して、前記支持アーム10bの根元側に図示矢印方向の塑性変形を加え、ばね支持アーム10bを反転ばね12の張架方向に撓ませて反転ばね12の張力(反転ばね12を反転機構8に組み付けた初期状態でのばね荷重)を調整するものとする。
【0034】
すなわち、図10の動作特性で述べたように、反転機構のトリップ動作,自動リセット動作は反転ばね(引張コイルばね)12の張力の強弱により動作性が変化する。そこで、熱動形過負荷継電器の製品組立後に行う反転機構の調整工程で前記したばね張力の調整手法を用いることにより、従来のように反転ばね12をばね特性の異なる別なばね部品に組み替える面倒な作業を要することなく、反転ばね12を反転機構に組み付けたままの状態で、工具を用いてばね支持アーム10bの根元部に塑性変形加工を施すことにより、互いにトレードオフの関係にある反転機構のトリップ動作と自動リセット動作がバランスよく両立するように適正範囲に反転ばね12の張力を調整することができ、これにより従来の調整法と比べて調整工程での作業工数を大幅に軽減できる。
【実施例2】
【0035】
次に、この発明の請求項3に係わる反転ばねの調整方法を図2(a),(b)で説明する。この実施例においては、導体フレーム10の下部から側方に突き出したばね支持アーム10bをその長手方向に下縁が傾斜した形状とし、この傾斜縁に沿って鋸歯形状のばね係合溝10b−1が左右に並んで階段状に形成されている。そして、反転板11の上部とばね係合溝10b−1に反転ばね(引張コイルばね)12のフック12a,12bを引っ掛けて張架する。
【0036】
この組立状態で、反転ばね12のフック12bをばね支持アーム10bの別なばね係合溝10b−1に移し替えると反転ばね12の張力(セット荷重)が変わるようになる。すなわち、反転ばね12のフック12bを図2(b)の実線位置からその左側に並ぶばね係合溝に移し替えると、図中に表した段差δ分だけ反転ばね12のたわみ量が増して張力が増加する。また、右側に並ぶばね係合溝を選択して反転ばね12のフック12bを移し替えると、前記とは逆にばねのたわみ量が縮小して張力が減少するようになる。
【0037】
したがって、先記実施例1で述べたように、熱動形過負荷継電器の製品組立後に行う反転機構のトリップ動作,自動リセット動作の調整工程では、反転ばね12を反転機構に組み付けたまま、そのフック12bを係合保持するばね係合溝10b−1を変更するだけの簡単な調整作業で、反転機構のトリップ動作と自動リセット動作とがバランスよく両立するように反転ばね12の張力を適正な状態に調整することができる。
【実施例3】
【0038】
次に、この発明の請求項4に係わる反転ばねの調整方法を図3(a)〜(f)で説明する。すなわち、この実施例においては、反転ばね12のばね張力調整手段として、先記実施例1,2におけるばね支持アーム10bに代えて、導体フレーム10に螺設した調整ねじ19の先端に反転ばね12のフック12bを引っ掛けて係合支持する偏心カム20が固定されている。ここで、偏心カム20は図2(e),(f)で示すような長円形の偏心プーリ形状になる。
【0039】
そして、反転ばね12のフック12bを偏心カム20の周溝に係合保持した組立状態(図3(a)参照)で、図3(b)のように調整ねじ19を回して偏心カム20の回転角度を変えることにより、12b図3(c),(d)で表すように反転ばね12のフック12bがばねの張架方向に変位し、その間の段差δに相応して反転ばね12の張力(セット荷重)が変わることになる。
【0040】
したがって、熱動形過負荷継電器の製品組立後に行う反転機構のトリップ動作,自動リセット動作の調整工程では、実施例1,2と同様に反転ばね12を反転機構に組み付けたままの状態で、調整ねじ19を回して偏心カム20の回転角度を変える簡単な調整作業で、反転機構のトリップ動作と自動リセット動作とがバランスよく両立するように反転ばね12の張力を適正に調整することができる。
【符号の説明】
【0041】
1:ケース
2:ヒートエレメント
2a:主バイメタル
3:シフタ
5:釈放レバー
8:反転機構
9:リセット棒
10:導体フレーム
10b:ばね支持アーム
10b−1:はね係合溝
11:反転板
12:反転ばね(引張コイルばね)
12a,12b:フック
13:a接点(常開接点)
13a:可動接点
13b:固定接点
13b−1:固定接触子片
15:b接点(常閉接点)
15a:可動接点
15a−1:可動接触子片
15b:固定接点
18:連動板


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケース内に、過負荷電流を検知して湾曲変位する主バイメタル、主バイメタルに連係したシフタの変位に従動する釈放レバー、および釈放レバーの駆動により反転動作して常開接点と常閉接点を開閉する反転機構、およびトリップ動作した反転機構を手動,ないし自動でリセット位置に復帰させるリセット棒を配備した熱動形過負荷継電器であり、
前記反転機構が、一端を揺動支点としてフレームに枢支した反転板と、前記支点を挟んで反転板の他端とフレームのばね支持部との間に張架された引張コイルばねの反転ばねとの組立体になり、前記反転板の反転動作により常開接点および常閉接点の開閉位置を切り替るようにしたものにおいて、
前記反転板とフレームのばね支持部との間に張架された反転ばねに対するばね張力調整手段を備えたことを特徴とする熱動形過負荷継電器。
【請求項2】
請求項1に記載の熱動形過負荷継電器において、反転ばねのばね張力調整手段として、フレームから突き出して反転ばねのフックを係合支持する片持ち梁式のばね支持アームに対し、その根元側に塑性変形を加えて支持アームを反転ばねの張架方向に撓ませるようにしたことを特徴とする熱動形過負荷継電器。
【請求項3】
請求項1に記載の熱動形過負荷継電器において、反転ばねのばね張力調整手段として、フレームから突き出して反転ばねのフックを係合支持するばね支持アームに複数段のばね係合溝を形成し、かつ各段のバネ係合溝の間には反転ばねの張架方向に段差を設定したことを特徴とする熱動形過負荷継電器。
【請求項4】
請求項1に記載の熱動形過負荷継電器において、反転ばねのばね張力調整手段として、フレームに螺設した調整ねじに反転ばねのフックを係合支持する偏心カムを設けたことを特徴とする熱動形過負荷継電器。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかの項に記載の熱動形過負荷継電器については、その製品組立状態で反転機構のばね張力調整手段を調整し、互いにトレードオフの関係にある反転機構のトリップ動作と自動リセット動作との動作特性が両立するような範囲に反転ばねの張力を調整することを特徴とする熱動形過負荷継電器の反転機構調整方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−129315(P2011−129315A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−285390(P2009−285390)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(508296738)富士電機機器制御株式会社 (299)