説明

熱可塑性オレフィン系樹脂組成物およびその用途

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、衛生性に優れた軟質樹脂組成物に関する。さらに詳しくは、業務用若しくは家庭用等に幅広く用いることのできる調理用まな板に関する。
【0002】
【従来の技術】従来調理用まな板として、木製の単板構造のまな板や、ポリエチレンなどの硬質合成樹脂の板を用いたまな板が広く用いられている。このような木製単板構造のものは軽くて包丁の刃当たりがよいので使い易いという利点があるが、調理に際して包丁の刃によって刻まれた細溝や板の横切れ目から毛細管現象によって汁等が侵入して残存するという問題があり、匂いが残ったり、細菌の発生源となるなどの不具合を有していた。これに対して合成樹脂性まな板は、乾燥性の良いこと、汁などがまな板内部に侵入しにくい事から衛生上優れた利点を有するが、従来の硬質合成樹脂製のまな板にあっては、まな板表面で包丁が滑り易く、反撥性があるなど合成樹脂と包丁の刃の馴染みが好ましくなく、調理がしにくいこと、まな板自体やまな板表面で調理対象である食材が滑り易く、しかもまな板全体が重いなどの不具合を有している。これらの問題の内、まな板と包丁の刃の馴染みの問題は調理対象が刺身である場合など、微妙な包丁捌きが必要な場合には、特に欠点として表れるものであった。まな板表面の刃当たり特性を追求するため、まな板材として合成ゴムを用いたものも提案されているが、表面に耐久性がないため、短期間で表面に多くの傷や凹み等ができてまな板表面が荒れてしまうため使用できなくなるという問題があった。
【0003】一方、樹脂組成物としてエチレンを少量含むエチレン−プロピレン共重合体とエチレン−酢酸ビニル共重合体の組成物は、特公昭40−24913により公知である。しかしながら、該公報はポリオレフィン樹脂の低温脆性を改良する事を主眼としているために、本発明に示される曲げ弾性率や衛生性には何等触れられていない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、この様な従来の木製まな板と硬質合成樹脂のまな板の有する欠点を克服し、両者の利点を活かしたまな板を得る事を目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、鋭意検討を続けた結果以下に示される手段によって前記課題を解決した。すなわち、a)エチレン含量が5.0〜10.0wt%であるエチレン−プロピレン共重合体 75〜25重量部b)酢酸ビニル含量が10.0〜20.0wt%であるエチレン−酢酸ビニル共重合体 25〜75重量部からなり230℃、2.16kg荷重でのMFRが1.0〜6.0g/10分であり、25℃でのn−ヘプタン溶出分が100ppm以下であり、JISK7203による曲げ弾性率が1,000〜3,500kg/cm2 である事を特徴とする熱可塑性オレフィン系樹脂組成物および本組成物を成形して成るまな板を得るに至り本発明を完成した。
【0006】本発明で用いられるa)エチレン−プロピレン共重合体は、アイソタクチックポリプロピレン性結晶を有する結晶性重合体であって、エチレン含量が5.0〜9.0wt%であり、好ましくは6.2〜7.8wt%である。エチレン含量が5.0wt%未満では軟質組成物を得るのが困難である。10.0wt%を越えると成形品表面の滑りが悪くなる。通常好ましく用いられるJIS K7210230℃、2.16kg荷重でのMFRは0.1〜10g/10分であり、更に好ましくは0.8〜6.0g/10分である。
【0007】本発明のb)エチレン−酢酸ビニル共重合体は、高圧ラジカル重合により得られる重合体であって酢酸ビニル含量が10.0〜20.0wt%であり、好ましくは11〜18wt%である。10.0wt%未満では硬くなり、20.0wt%を越えると成形体表面の滑り性が悪くなる。通常好ましく用いられるJISK7210 230℃、2.16kg荷重でのMFRは0.1〜10g/10分であり、更に好ましくは0.8〜6.0g/10分である。
【0008】本発明の組成物中のa)、b)の比率はa)75〜25重量%、b)25〜75重量%であり、好ましくは、a)55〜25重量%、b)45〜75重量%、さらに好ましくは、a)30〜50重量%、b)70〜50重量%である。a)、b)の比率は成形品の柔軟性と形状保持のバランスを考慮するのに重要である。さらに、この様な観点から曲げ弾性率は1,000〜3,500kg/cm2であり、更に好ましくは1,000〜2,500kg/cm2 である。曲げ弾性率が3,500kg/cm2 を越えると刃こぼれが多くなり、1,000kg/cm2 未満では形状保持性に問題が生ずる。
【0009】本発明の組成物のMFRはJIS K7210の230℃、2.16kg荷重で1.0〜6.0g/10分である。1.0g/10分未満では、成形にエネルギーを多く要し、6.0g/10分を越えると成形時の形状保持性が悪くなる。
【0010】本発明においては、25℃でのn−ヘプタン溶出分が100ppm以下であり更に好ましくは50ppm以下である。100ppmを越えると油性食品と接触した場合にまな板から樹脂成分が溶出し易くなる傾向にあるため、食品衛生上好ましくない。
【0011】本発明の組成物は、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、公知の耐熱安定剤、滑剤、核剤、抗菌剤、防かび剤等の添加剤、顔料を含んでも良い。これらの添加剤、顔料は食品接触用途に適している事が好ましい。
【0012】本発明においてa)、b)はヘンシェルミキサー、タンブラーミキサー等で予め混合した後、通常の2軸押出機、単軸押出機、バンバリーミキサーなどの混練機で加熱混練する事で調整できる。また、ヘンシェルミキサー、タンブラーミキサー等で予め混合した後直接成形機に供給し、押出成形する事も可能である。混練時の温度は通常100〜300℃の間である。
【0013】本組成物は、衛生性を要求される軟質樹脂の用途に適用される。特に、調理用まな板として好ましく用いられる。調理用まな板は、例えば、本発明による組成物を押出機を用いて溶融押出した後、ロールで圧延し、所定の大きさに裁断し、金型を用いて矯正する事によって得る事ができる。
【0014】
【実施例】以下に実施例を示すが本発明はこれらに限定されるものではない。測定方法は以下の通りである。
(MFR)JIS K7210により荷重2.16kg、230℃で測定した。
(曲げ弾性率)JIS K7203に準じ、試験片の厚み6.4mm、幅12.7mm、支点間距離100mm、歪速度20mm/分で5点測定し平均値を求めた。
(25℃でのn−ヘプタン溶出分)ポリオレフィン等衛生協議会が1981年11月に発行のポリオレフィン等合成樹脂製食品容器包装等に関する自主規制の3−3溶出試験に準拠し1−5−4のファクターを1として計算した値を用いた。
【0015】エチレン含量7.0wt%、MFR1.8g/10分のエチレン−プロピレン共重合体50wt%と酢酸ビニル含量14.0wt%、MFR3.0g/10分のエチレン−酢酸ビニル共重合体50wt%を混練し組成物を得た。得られた組成物の曲げ弾性率は、2,200kg/cm2 、MFRは3.5g/10分、25℃でのn−ヘプタン溶出分は46ppmであった。これを押出成形機に供給しロール圧延、裁断、矯正をおこない、厚さ15mm、巾16cm、長さ28cmの直方体状のまな板を得た。
【0016】該まな板は、表面が柔軟であり、包丁の刃のすべり、刃こぼれが少ないものであった。また、柔軟ではあるがまな板のたわみが少なく表面の耐久性に優れていた。
【0017】
【発明の効果】本発明の組成物は、衛生性を要求される軟質樹脂の用途に適用され、特に木製まな板の欠点と、硬質合成樹脂の欠点を克服した調理用まな板として好適に用いられている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 a)エチレン含量が5.0〜10.0wt%であるエチレン−プロピレン共重合体 75〜25重量%b)酢酸ビニル含量が10.0〜20.0wt%であるエチレン−酢酸ビニル共重合体 25〜75重量%からなり230℃、2.16kg荷重でのMFRが1.0〜6.0g/10分であり、25℃でのn−ヘプタン溶出分が100ppm以下であり、JISK7203による曲げ弾性率が1,000〜3,500kg/cm2 である事を特徴とする熱可塑性オレフィン系樹脂組成物。
【請求項2】 請求項1の組成物を成形して成るまな板。

【特許番号】特許第3373293号(P3373293)
【登録日】平成14年11月22日(2002.11.22)
【発行日】平成15年2月4日(2003.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−117253
【出願日】平成6年5月30日(1994.5.30)
【公開番号】特開平7−316363
【公開日】平成7年12月5日(1995.12.5)
【審査請求日】平成13年2月8日(2001.2.8)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)