説明

熱可塑性樹脂ラミネートシートの裁断方法

【課題】 本発明は、熱可塑性樹脂ラミネートシートまたはボードに、引張弾性率が1.1MPa以下の織布または不織布からなる意匠材を積層してなる構造物の、裁断方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 回転カッター刃を有する裁断機を用いて、連続的に供給される複層構造体を裁断される直前に、カッター刃の進行方向に沿い平行位置に、垂直方向に圧接されるカシメ板に特定の先端角度を有する突起部を設けることにより、優れた裁断端縁が得られ、糸引き問題を改善することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂系ラミネートシートまたはボードの少なくとも一方の表面に、意匠材が積層されてなる構造体の製造過程における裁断方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂系ラミネートシートまたはボードの少なくとも一方の表面に、織布または不織布からなる意匠材が積層されてなる構造体の裁断方法として、(i)裁断機の裁断テーブルの手前に、意匠性不織布を巻取った原反ロールを支持する繰出機を配置し、該繰出機により原反ロールから意匠性不織布を一定長さ毎繰り出し、熱可塑性樹脂系ラミネートシートまたはボードをもう一方向より繰り出し、(ii)裁断機のテーブル上にて押出発泡積層シートが意匠性不織布の下層になる様に積層し、(iii)連続的に供給される積層構造体が所定寸法になると、裁断機に付属する回転カッターを走行させて裁断することは、従来から公知である。
【0003】
しかしながら、引張弾性率が1.1MPa以下であるソフト感のある織布または不織布からなる意匠材を用いる場合では、裁断後も、意匠材の繊維の一部が切断できていない糸引きという問題があった。
【0004】
そのため、回転カッター刃の先端を鋭くする方法や、カッター刃側面の表面仕上げを粗くすることにより、カッター回転と共に周側移動する長繊維を引きちぎるといった方法により、糸引き問題を解消しようとされてきた。しかし、意匠材の裁断端縁において繊維がほつれた状態となったり、また、熱可塑性樹脂系ラミネート発泡シートまたはボードが高剛性を有する場合、先端を鋭くしたカッター刃の刃こぼれが生じ、耐用寿命が短くなるという新たな問題点が発生している。また、カッター刃により裁断される直前に、カッター刃の進行方向に沿った平行の位置に、垂直方向に均等に圧接されるカシメ板を用いる方法もあるが、引張弾性率1.1MPa以下である繊維体の場合には、繊維のすり抜けが生じ、結果的に裁断できないといった問題点があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、このような従来技術の問題点を解消し、引張弾性率が1.1MPa以下の意匠材と、高剛性である熱可塑性樹脂ラミネートシートまたはボードとを積層してなる構造体を裁断する際に、裁断性に優れ、回転カッター刃の耐用寿命が長くしうる裁断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために、回転カッターにより裁断される直前に圧接されるカシメ板の形状およびカッター刃との距離(以下、「刃側間距離」と称する場合もある)を調整することにより、カシメ板の突起部による意匠材へ線接触によって繊維のすり抜けを防止することができ、簡便に糸引き問題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本願発明は、
[1] 連続的に供給される、熱可塑性樹脂ラミネートシートまたはボードの少なくとも一方の表面に、意匠材を積層してなる構造体を、回転カッター刃を用いて裁断する裁断方法であって
カッター刃により裁断される直前に、カッター刃の進行方向に沿った併行位置に、垂直方向に圧接されるカシメ板のカッター刃側に突起部を設けることを特徴とする、裁断方法、
[2] 前記カシメ板の突起部の先端角度が10〜60°であることを特徴とする、[1]記載の裁断方法、
[3]カッター刃側面とカシメ板の突起部との距離が3〜10mmであることを特徴とする、[1]または[2]に記載の裁断方法、および
[4] 前記熱可塑性樹脂ラミネートシートまたはボードが、押出発泡樹脂シートが芯材であって、その少なくとも一方の表面に、熱可塑性樹脂フィルム層が形成されてなる押出発泡積層シートであることを特徴とする、[1] 〜[3]のいずれかに記載の裁断方法
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本願発明では、熱可塑性樹脂ラミネートシートまたはボードの少なくとも一方の表面に、織布または不織布からなる意匠材を積層してなる構造体を、回転カッター刃を用いて裁断する裁断方法において、カッター刃が裁断する直前に圧接されるカシメ板に特定の先端角度を有する突起部を設け、突起部と刃側面の距離を近づけることにより、カッター刃自体の刃先や刃側面の表面仕上げを変更せずとも、引張弾性率が1.1MPa以下の織布または不織布からなる意匠材を用いた場合にも、糸引き問題を解決することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明にかかる突起部を有するカシメ板形状と、刃側距離並びに回転カッター刃の位置関係を示す説明図である。
【図2】図2は、本発明の比較例にかかる突起部を有しないカシメ板形状を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明では、回転カッター刃を有する裁断機を用いて、その裁断テーブル上にて、引張弾性率が1.1MPa以下である織布または不織布からなる意匠材13が熱可塑性ラミネートシート14に積層されてなる構造体を連続的に裁断する際に、圧接されるカシメ板の形状とカッター刃側面との距離を規定することにより、意匠材の糸引き問題を改善することができる。なお、回転カッター刃としては、裁断機の特定の位置に設置されている固定式回転カッター刃でも構わないし、裁断機上の任意の位置に移動可能な自走式回転カッター刃でも構わない。
【0011】
図1は、裁断テーブル12上にて、引張弾性率が1.1MPa以下である織布または不織布からなる意匠材13が熱可塑性ラミネートシート14に積層されてなる構造体を、裁断直前の状態にあるカッター走行位置10と、特定の先端角度を有する突起部11を備えたカシメ板20との相対位置関係を示している。
【0012】
本発明の裁断方法における、カシメ板20に設けられる突起部11の先端角度は、10〜60°が好ましく、加工上の観点により、45゜がより好ましい。突起部の先端角度が60°より大きいと、織布或いは不織布に懸かる圧力が不足となり、引張弾性率が1.1MPa以下の織布または不織布からなる意匠材を用いた場合、糸引きが改善されない傾向があり、10゜未満では、カシメ板における突起部の切削加工が容易でない。
【0013】
突起部と刃側面との距離15は、3〜10mmが好ましい。該距離が3mm未満であると、カッター刃の材質によっては(例えば、鋼板の場合において)回転数を上げた際に刃ブレの発生により、カッター刃が突起部に接触する可能性がある。また、刃側間距離が10mmを超える場合、糸引きが改善されない傾向にある。
【0014】
本発明における、熱可塑性樹脂ラミネートシートまたはボードに意匠材を積層してなる構造体に関しても、以下に説明する。
【0015】
本発明の熱可塑性樹脂ラミネートシートまたはボードとは、例えば、押出発泡樹脂シート、押出発泡樹脂ボード、押出樹脂シート、押出樹脂ボード等の芯材の少なくとも一方の面に、高剛性を有する熱可塑性樹脂フィルム層を積層してなるシートまたはボードである。
【0016】
芯材となる押出発泡シートまたは発泡ボードに用いられる樹脂としては、ポリスチレン系樹脂(以下、「PS系樹脂」と略す場合がある)、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂(以下、「変性PPE系樹脂」と略す場合がある)、ポリオレフィン系樹脂等があげられる。これらのうちでも、摩擦熱による悪影響が少ない点から、スチレン系樹脂、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂が好ましい。
【0017】
本発明での押出発泡シートまたは発泡ボードを得る際に用いられる発泡剤としては、炭化水素系発泡剤を用いることが、用いる樹脂との相溶性、発泡性等の点から、好ましく、具体的には、エタン、プロパン、ブタン、ペンタンなどがあげられる。
【0018】
なお、必要に応じて、各種の添加剤、例えば、造核剤、酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤、導電性付与剤、耐候剤、紫外線吸収剤、難燃剤、無機充填剤等を添加することもある。
【0019】
本発明の熱可塑性樹脂ラミネートシートまたはボードに用いられる熱可塑性樹脂フィルム層の基材樹脂としては、耐熱性、剛性を有するとして当業者に知られている、いずれの樹脂も用いることができる。該基材樹脂の具体例としては、(i)スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−イタコン酸共重合体等の耐熱ポリスチレン系樹脂、(ii)ポリスチレンあるいは耐熱ポリスチレンとポリフェニレンエーテル(以下、「PPE」と略す場合がある)との混合樹脂、PPEへのスチレングラフト重合物などのスチレン・フェニレンエーテル共重合体、等の変性ポリフェニレンエーテル系樹脂、(iii)ポリカーボネート樹脂および(iv)ポリブチレンテレフタレートやポリエチレンテレフタレートで例示されるポリエステル樹脂などがあげられる。これらの樹脂は、単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらのうちでも、変性PPE系樹脂が、耐熱性、剛性等の品質に優れている上に、加工性および製造が容易である点から、好ましい。
【0020】
本発明の製造方法における変性PPE系樹脂としては、PPE系樹脂とポリスチレン系樹脂との混合物、PPEへのスチレン系単量体のグラフト共重合物などのスチレン・フェニレンエーテル共重合体、等があげられる。これらのうちでは、PPE系樹脂とPS系樹脂との混合樹脂が、製造が容易であるなどの点から、好ましい。
【0021】
変性PPE系樹脂中のPPE系樹脂の具体例としては、例えば、ポリ(2,6−ジメチルフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2−メチル−6−エチルフェニレン−4−エーテル)、ポリ(2,6−ジエチルフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2,6−ジエチルフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2−メチル−6−n−プロピルフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2−メチル−6−n−ブチルフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2−メチル−6−クロルフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2−メチル−6−ブロムフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2−エチル−6−クロルフェニレン−1,4−エーテル)などがあげられ、これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いもよい。
【0022】
変性PPE系樹脂中においてPPE系樹脂と混合樹脂を形成するPS系樹脂としては、スチレンまたはその誘導体、例えば、α−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、モノクロルスチレン、ジクロルスチレン、p−メチルスチレン、エチルスチレンなどを主成分とする樹脂があげられる。したがって、PS系樹脂はスチレンまたはスチレン誘導体だけからなる単独重合体に限らず、他の単量体と共重合することによって作られた共重合体であってもよい。
【0023】
また、PPE系樹脂に重合、好ましくはグラフト重合させるスチレン系単量体の具体例としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、モノクロルスチレン、ジクロルスチレン、p−メチルスチレン、エチルスチレンなどがあげられる。これらのなかでも、汎用性およびコストの点で、スチレンが好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上組み合わせてもよい。
【0024】
本発明で用いられる織布または不織布からなる意匠材13としては、原料繊維を接着剤、溶融繊維、あるいは機械的方法により接合させた布状物であれば、いずれの種類でも用いることができる。原料繊維の種類としては、特に限定されず、合成繊維、半合成繊維、あるいは天然繊維のいずれをも用いることができる。具体的には、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリアミド(ナイロン)、ポリアクリロニトリル等の合成繊維や、羊毛、木綿、セルロース等の天然繊維を使用することができるが、中でもポリエステル系繊維が好ましく、特に耐熱性の高いポリエチレンテレフタレート繊維が好ましい。これら繊維を単独で使用することも、2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0025】
本発明で用いられる織布または不織布からなる意匠材13としては、製造加工方法により、接合バインダー接着布、ニードルパンチ布、スパンポンド布、スプレファイバー布、ウォーターニードル布、あるいはステッチボンド布等が挙げられ、いずれの意匠材も用いることができるが、フィラメントにけん縮性があり、強度が高く、柔らかな風合いを有する点から、長繊維フィラメントからなるスパンボンド布、ウォーターニードル布、またはニードルパンチ布が好ましい。
【0026】
本発明で用いられる意匠材13の引張弾性率は、意匠性や軽量性の点から、1.1MPa以下が好ましい。
【0027】
本発明では、ラミネートシートと意匠材との間に接着剤を介してもよく、例えば、熱可塑性接着剤、ホットメルト接着剤、ゴム系接着剤、熱硬化性接着剤、モノマー反応型接着剤、無機系接着剤、天然素材系接着剤等が挙げられる。
【実施例】
【0028】
以下に実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれにより何ら制限を受けるものではない。
【0029】
(実施例1)
<芯材発泡シートの作製>
PPE樹脂成分40重量%およびPS樹脂成分60重量%となるように、変性PPE樹脂[日本GEプラスチックス(株)社製、ノリルEFN4230:PPE成分/PS成分=70/30重量比]57.1重量部およびPS樹脂(A&Mスチレン(株)製、ポリスチレンG8102:PS成分100%)42.9重量部とを混合した混合樹脂100重量部に対して、iso−ブタンを主成分とする発泡剤(iso−ブタン/n−ブタン=85/15重量比)3.6重量部およびタルク0.32重量部を押出機により混練し、サーキュラーダイスにより押出し、引き取りロールを介して、巻取りロールにロール状に巻取り、厚み2.4mmの独立気泡発泡シートを得た。
<ラミネート樹脂の形成>
次いで、前記芯材発泡シートをロールより繰り出しながら、メタアクリル酸変性ポリスチレン[A&Mスチレン(株)製、ポリスチレンG9001:PS成分/メタアクリル酸=92/8重量比]50重量部および、ハイインパクトポリスチレン(HIPS)[A&Mスチレン(株)製、ポリスチレンH8117:PS成分/ゴム成分=87.5/12.5重量比]50重量部を混合した混合樹脂を、樹脂温度が245℃となるように押出機にて溶融・混練し、Tダイを用いてフィルム状に押し出し、芯材発泡シートに圧着積層して、耐熱PS系非発泡層を有するラミネート発泡シートを得た。
<意匠材の積層と裁断結果>
次いで、他方より繰り出されたポリエステル系繊維からなる引張弾性率0.1MPaの不織布意匠材がラミネートシートの上面となるよう、連続的に積層した。
<裁断装置条件>
自走回転カッター刃を有する裁断装置[北島設計(株)製、S−1]を用いて、突起角度45゜の突起部(11)を有するカシメ板(20)を、カッター刃側面に対する刃側距離(15)を5mmに調整して設置して(図1参照)、裁断を行った結果、意匠材の糸引きは認められなかった。
【0030】
(実施例2)
<芯材発泡ボードの作製>
スリットダイスを用いて押出した以外は、実施例1と同様の方法により、厚み6mmの独立気泡発泡ボードを得た。
<ラミネート樹脂形成>
次いで、PPE系樹脂成分20重量%、PS系樹脂成分80重量%となるようにPPE樹脂[日本GEプラスチックス(株)製、ノリルEFN4230:PPE成分/PS成分=70/30重量比]28.6重量部、PS樹脂[A&Mスチレン(株)製、ポリスチレンG8102:PS成分100%]71.4重量部を混合した混合樹脂を樹脂温度が265℃となるように押出機で溶融・混練し、Tダイを用いてフィルム状に押し出し、芯材発泡ボードに圧着積層して、ラミネート発泡ボードを得た。
<意匠材の積層と裁断結果>
次いで、他方より繰り出されたポリエステル系繊維からなる引張弾性率1.1MPaの織布意匠材がラミネートシートの上面となるよう、連続的に積層した。
<裁断装置条件>
刃側距離(15)を10mmとした以外は、実施例1と同条件のカシメ板を設置して裁断を行った結果、意匠材の糸引きは認められなかった。
【0031】
(比較例1)
<意匠材の積層と裁断結果>
カシメ板として、突起部のないカシメ板(21)を用いた(図2参照)以外は、実施例1と同条件にて、ラミネート発泡シートの積層・裁断を行ったが、意匠材の糸引きが認められた。
【符号の説明】
【0032】
10:回転カッター刃
20、21:カシメ板
11:カシメ板の突起部
12:裁断テーブル
13:意匠材
14:熱可塑性樹脂ラミネートシートまたはボード
15:刃側間距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続的に供給される、熱可塑性樹脂ラミネートシートまたはボードの少なくとも一方の表面に、意匠材を積層してなる構造体を、回転カッター刃を用いて裁断する裁断方法であって、
カッター刃により裁断される直前に、カッター刃の進行方向に沿い平行位置に、垂直方向に圧接されるカシメ板のカッター刃側に突起部を設けることを特徴とする、裁断方法。
【請求項2】
前記カシメ板の突起部の先端角度が10〜60゜であることを特徴とする、請求項1に記載の裁断方法。
【請求項3】
カッター刃側面とカシメ板の突起部との距離が10mm以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の裁断方法。
【請求項4】
前記熱可塑性ラミネートシートまたはボードが、押出発泡樹脂シートまたは押出発泡樹脂ボードが芯材であって、その少なくとも一方の表面に熱可塑性樹脂フィルム層が形成されてなる押出発泡積層シートであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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