説明

熱可塑性樹脂成型体の製造方法

【構成】 上下金型を用いた熱可塑性樹脂のプレス成型において、上型1又は下型2のキャビティ面に、突出、引き込みが可能な管状突出部3を設け、その管状突出部3の中に樹脂供給口4を設けた金型を使用し、金型を開放した状態で、突出部3を突出させ、一部に穴10を穿った中間層8を、その穴10に突出部3を貫通させて金型2の上に載せ、樹脂供給口4より一定量の溶融樹脂を供給し、そして、型を閉じ、加圧して賦型することを特徴とする熱可塑性樹脂成型体の製造方法である。
【効果】 この発明の方法では、管状突出部3を上下に移動させることにより、溶融樹脂を中間層8の上側、下側或いは中間層8の層間に、必要量だけ供給でき、しかも、プレス成型は1回行えば成型体を得ることができるので、比較的簡単な設備で、品質の優れた成型体を、高い生産性で製造できる効果がある。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は熱可塑性樹脂成型体の製造方法に関するもので、特に、中間層を熱可塑性樹脂でサンドウィッチ状に積層した板の成型方法に係わるものである。
【0002】
【従来の技術】ガラス繊維マットなどを中間層とし、その両面を熱可塑性樹脂でサンドウィッチ状に積層した強化樹脂成型体の製造方法としては、中間層の両側から溶融樹脂を供給しプレスする方法があるが、これは上型にも下型にも樹脂供給装置が必要であり、中間層が2層になると、益々装置が複雑になる欠点がある。
【0003】特開昭61−152417号公報によれば、溶融した熱可塑性樹脂が貫通できる程度の小孔を有する中間層を、金型内に供給した後、中間層の上または下に溶融樹脂を供給し、プレス成型してサンドウィッチ状の積層成型体を得る方法が提案されている。特開平1−178416号公報には、溶融樹脂供給口よりも大きい穴を有する中間層を下型に載置し、穴を通して溶融樹脂を中間層の上に供給し、プレス成型を行い、次に、溶融樹脂を中間層と下型の間に供給し、再度プレス成型して、積層体を製造する方法が提唱されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】上記公開特許公報記載の方法は、前者においては、中間層に小孔を多数設けなければならず、成型体の強度を低下させ、また、中間層を2層挿入する場合は、上面、層間部、下面の樹脂量の調整が困難である。後者においては、プレス成型と、中間層の挿入と樹脂供給とを、繰り返し実施する必要があり、成型サイクルが長くなる欠点がある。後者の方法を、中間のプレス成型を省略し、最終の1回だけで成型した場合は、例えば図3に示すように、上面、層間部、下面の樹脂量9’が均一でなく、中間層8’も湾曲してしまうのである。
【0005】この発明の目的は、上記の欠点を解決し、上面、下面或いは層間部の樹脂量の調整が簡単で、しかも、1回のプレス成型で多層の積層成型体を成型するものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】この発明は上述した目的を達成するためになされたもので、上下金型を用いた熱可塑性樹脂のプレス成型において、下型に、下型より、突出、引き込みが可能な管状突出部を設け、その管状突出部の中に樹脂供給口を設けた金型を使用し、金型を開放した状態で、突出部を突出させ、一部に穴を穿った挿入中間層を、その穴に突出部を貫通させて金型上に載置し、樹脂供給口より一定量の溶融樹脂を供給し、次いで、突出部を型面下に引き込めた後、樹脂供給口より一定量の溶融樹脂を供給し、そして、型を閉じ、加圧して賦型することを特徴とする熱可塑性樹脂成型体の製造方法である。
【0007】管状突出部は下金型に設けてあり、型面からキャビティ内へ突出し、また、型面下に引き込めることが可能で、その上下は、油圧シリンダー、気圧シリンダー或いはギアなどの作動により操作される。管状突出部の形状は、その断面は円形が普通であるが、楕円形、方形或いはその他の異形であってもよい。その内径は、樹脂供給口を取り囲む状態であれば良く、挿入中間層の穴を小さくするためにも、小さいほうが望ましい。
【0008】管状突出部の中に、溶融樹脂供給口が設けられており、樹脂通路を通じて溶融樹脂供給装置に連結されている。樹脂の供給装置は、押出機とアキュムレーターから成り、押出機で熱可塑性樹脂を溶融して、アキュムレーターに蓄積し、必要なときに、必要な量だけ、樹脂供給口からキャビティ内に溶融した樹脂を押し出すのである。樹脂通路は一定の温度を保持できるよう、温度調節用ヒーターを設けてある。
【0009】本発明において使用する挿入中間層は、熱可塑性樹脂を補強するもので、無機繊維マット、繊維強化樹脂シート、金属板などが使用される。そして、この中間層には、管状突起部を貫通させるための穴が穿ってある。この穴は、管状突起部を貫通させる範囲において、小さい程よい。プレス成型時、この穴を通じて樹脂の移動が少ないほうがよいからである。
【0010】本発明で使用する熱可塑性樹脂は、加熱により溶融軟化し、冷却すれば硬化するもので、一般にプレス成型に使用される樹脂であればよい。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキサイド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトンなどが使用できる。
【0011】また、このような樹脂を主成分とする共重合体、グラフト重合体やブレンド樹脂も使用できる。例えば、エチレン−塩化ビニル共重合体、酢酸ビニル−エチレン共重合体、酢酸ビニル−塩化ビニル共重合体、ウレタン−塩化ビニル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、アクリル酸変性ポリプロピレン、マレイン酸変性ポリエチレンなどである。
【0012】そして、上記熱可塑性樹脂には、安定剤、滑剤、加工助剤、可塑剤、着色剤のような添加剤、タルク、マイカ、炭酸カルシウムなどの無機充填剤、炭素繊維、ガラス繊維などの強化材、及び、ヒケや反りを防止するための発泡剤が配合されていてもよい。
【0013】本発明においては、上記の構造の金型を使用し、先ず、金型を開いた状態で、管状突出部を上昇させ、型面より突出させる。次いで、挿入中間層をその穴に管状突出部を貫通させ、かつ型面との間に間隙を残して保持する。そして、樹脂供給装置を作動して、溶融した熱可塑性樹脂を、樹脂供給口より一定量押し出す。次に、管状突出部を型面まで引き込み、その状態で再度、溶融した熱可塑性樹脂を、樹脂供給口より一定量押し出す。
【0014】なお、中間層が2層あるときは、この2層を一定の間隔で保持し、始めに2層の外側に樹脂を供給し、次に、2層の間に管状突出部の先端を移動して、この2層の層間部に樹脂を供給し、最後に2層の内側に樹脂を供給するのである。樹脂の供給は、所定の位置で一旦管状突出部を停止して行ってもよいが、移動させながら行ってもよい。樹脂の供給が終わると、直ちに金型を閉じ、加圧して成型を行う。型を閉じるとき、管状突出部は型面に突出していてはならない。その後、金型を冷却し、金型を開き成型体を取り出すのである。
【0015】
【作用】この発明の熱可塑性樹脂成型体の製造方法では、管状突出部を移動させる事により、溶融樹脂を中間層の上側、下側或いは挿入中間層の層間部に、必要量だけ供給でき、しかも、プレス成型は1回行えば成型体を得る事ができるのである。
【0016】
【実施例】この発明の熱可塑性樹脂成型体の製造方法を、実施例によって具体的に説明する。図1は、樹脂供給口付近を示す断面図である。図2は、挿入中間層を2層挿入した積層板を成型する場合の金型の断面図であり、図2aは、金型を開いて、挿入挿入中間層の上面に樹脂を供給している状態を示す。図2bは、2層の挿入中間層の層間部に樹脂を供給している状態を示し、図2cは、挿入中間層の下面に樹脂を供給している状態を示し、図2dは、金型を閉じて加圧している状態を示す。
【0017】図1において、この発明で使用する金型の要部を説明すると、2はプレス成型機の下型であり、3は管状突出部で、この突出部3を上下に移動させるための油圧シリンダー6に連結している。4は、溶融樹脂の供給口で、供給通路5を通じて、樹脂の供給装置に接続している。樹脂供給装置は図示してないが、押出機とアキュムレーターとから成っている。樹脂通路5は温度調節ヒーター7で保温されている。8は挿入中間層であり、10は挿入中間層8に穿った穴である。
【0018】図2は、熱可塑性樹脂としてポリプロピレン樹脂を用い、挿入中間層として黒色の一方向ガラス繊維強化ポリプロピレンシート2層を挿入した積層板を成型するものである。ここで、一方向ガラス繊維強化ポリプロピレンシートは、一方向に引き揃えたフィラメント状のガラス繊維に、カーボンブラックを1重量部配合した粉体のポリプロピレン樹脂を均一に付着させ、加熱ピンチロールで溶融一体化したもので、厚みは1.2mm、縦300mm、横300mmのシートである。ガラス繊維含有量は65重量%である。このシートの中央に直径5.5mmの穴が穿ってある。
【0019】上記構造の金型で、上記樹脂と挿入中間層を用い、積層板を成型する場合、先ず、プレス成型機の金型を開き、油圧シリンダー6を作動させ、管状突出部3を25mm突出させる。管状突出部の外径は5mmである。このとき、金型1及び2は、熱媒体を循環させて、70℃に温度を調節しておく。また、樹脂通路5は、温度調節ヒーター7により、230℃に維持する。次に、一方向ガラス繊維強化ポリプロピレンシート8を2枚、その穴10に突出部3を貫通させたた状態で、下型2の上に置く。そして、下型2と下側の挿入中間層シート8との間を10mm、挿入中間層シート8、8間を10mmとなるよう2枚の挿入中間層シートを保持する。管状突出部3の先端は、上側の挿入中間層シート8の上面に僅か突出している。
【0020】そこで、樹脂供給装置のアキュムレーターを作動させ、溶融樹脂を樹脂通路5を通じて、金型内に送り込む。樹脂供給装置から送入された樹脂9は195gで、樹脂供給口4から管状突出部3の内側を通って、上側の挿入中間層シート8の上に送り出される。この状態を示したのが、図2aである。
【0021】次に、管状突出部3を12mm降下させ、その先端を2枚の挿入中間層シート8、8の間に位置させる。続いて、アキュムレーターを作動させ、溶融樹脂195gを2枚の挿入中間層シート8、8の層間部に注入する。この状態を示したのが、図2bである。更に、管状突出部3をその先端がキャビティ面と同一面になるまで、下降させ、アキュムレーターを作動させて、溶融樹脂を挿入中間層シート8と下型2との間に195g送入する。この状態を示したのが、図2cである。
【0022】樹脂の供給が終わると、直ちに型を閉じ、50kgf/cm2 の圧力で加圧した状態で、90℃になるまで冷却する。この状態を示したのが、図2dである。成型サイクル時間は180秒であった。このようにして得られた積層板の厚みは9.6mmであった。そして、その表面、裏面共にポリプロピレン樹脂で被覆され、断面を観察すると、黒色の一方向ガラス繊維強化ポリプロピレンシートとポリプロピレン層が、交互に積層した5層を形成し、しかも、相互に強固に融合していた。
【0023】
【発明の効果】以上説明したように、この発明の方法では、比較的簡単な設備で、挿入する挿入中間層の上側、下側或いはその層間部に供給する樹脂の量を調整でき、また、プレス成型工程も1回だけで、多層の積層板が成型できるものであって、品質、生産性の点で優れた製造方法である。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は本発明において使用するプレス金型の要部の断面図である。
【図2】図2は本発明において、挿入中間層を2層挿入した積層板を成型する場合の金型の断面図であり、図2aは、金型を開いて、挿入中間層の上面に樹脂を供給している状態を示す。図2bは、2層の挿入中間層の層間部に樹脂を供給している状態を示し、図2cは、挿入中間層の下面に樹脂を供給している状態を示し、図2dは、金型を閉じて加圧している状態を示す。
【図3】図3は従来の技術で、成型を失敗した積層板の断面図を示す。
【符号の説明】
1 上型
2 下型
3 管状突出部
4 樹脂供給口
5 樹脂通路
6 油圧シリンダー
7 温度調節ヒーター
8、8’ 挿入中間層
9、9’ 熱可塑性樹脂
10、10’ 挿入中間層の穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】 上下金型を用いた熱可塑性樹脂のプレス成型において、下型に、下型面より、突出、引き込みが可能な管状突出部を設け、その管状突出部の中に樹脂供給口を設けた金型を使用し、金型を開放した状態で、突出部を突出させ、一部に穴を穿った挿入中間層を、その穴に突出部を貫通させて金型上に載置し、樹脂供給口より一定量の溶融樹脂を供給し、次いで、突出部を型面下に引き込んだ後、樹脂供給口より一定量の溶融樹脂を供給し、その後、型を閉じ、加圧して賦型することを特徴とする熱可塑性樹脂成型体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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