説明

熱可塑性樹脂組成物、成形品及びめっき成形品

【課題】本発明の目的は、ABS樹脂成形品の機械特性を損なうことなく、成形加工時の溶融流動性が改良された熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ジエン系単量体単位、芳香族ビニル単量体単位及びシアン化ビニル単量体単位を含有する重合体(A)、芳香族ビニル単量体単位及びシアン化ビニル単量体単位を含有する重合体(B)、並びに、アルキル(メタ)アクリレートを含有する単量体成分(r)を重合して得られるガラス転移温度が25℃以下の重合体(R)の存在下で、芳香族ビニル単量体及びシアン化ビニル単量体を含有する単量体成分(g)を重合して得られ、クロロホルムに対する可溶成分が90質量%以上であり、クロロホルムに対する可溶成分の質量平均分子量が10,000〜100,000であるグラフト重合体(C)を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、OA・家電製品、自動車の内外装材等に有用である、優れた溶融流動性を有する熱可塑性樹脂組成物、該熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる成形品、及び該成形品をめっき処理して得られるめっき成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂)は、優れた加工性、耐衝撃性、機械特性、耐薬品性を有することから、車両分野、家電分野、建材分野等の広範な分野において使用されている。近年、車両分野では、ABS樹脂の優れた2次加工性、特に、めっき性及び塗装性が着目されて、ドアミラーやラジエーターグリル等の自動車外装用途に使用されている。また、家電分野では、冷蔵庫、洗濯機等の家電製品用途に使用されている。
【0003】
しかしながら、近年、ABS樹脂の射出成形品に関して、形状の複雑化、リブやボス等の凹凸の形成、省資源の見地からの軽量化や薄肉化等の理由から、更なる成形加工時の溶融流動性の向上、即ち、成形加工性に優れた熱可塑性樹脂組成物が求められている。
【0004】
これらの課題を解決するために、例えば、特許文献1では、ABS樹脂にAS樹脂(アクリロニトリル・スチレン樹脂)を配合した熱可塑性樹脂組成物が提案されている。しかしながら、特許文献1で提案された熱可塑性樹脂組成物では、射出成形品のめっき性や機械特性に優れるものの、成形加工時の溶融流動性は充分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−039489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ABS樹脂成形品の機械特性を損なうことなく、成形加工時の溶融流動性が改良された熱可塑性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ジエン系単量体単位、芳香族ビニル単量体単位及びシアン化ビニル単量体単位を含有する重合体(A)、芳香族ビニル単量体単位及びシアン化ビニル単量体単位を含有する重合体(B)、並びに、アルキル(メタ)アクリレートを含有する単量体成分(r)を重合して得られるガラス転移温度が25℃以下の重合体(R)の存在下で、芳香族ビニル単量体及びシアン化ビニル単量体を含有する単量体成分(g)を重合して得られ、クロロホルムに対する可溶成分が90質量%以上であり、クロロホルムに対する可溶成分の質量平均分子量が10,000〜100,000であるグラフト重合体(C)、を含有する熱可塑性樹脂組成物である。
【0008】
また、本発明は、前記熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる成形品である。
また、本発明は、前記成形品をめっき処理して得られるめっき成形品である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ABS樹脂成形品の機械特性を損なうことなく、熱可塑性樹脂組成物の成形加工時の溶融流動性を改良する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、重合体(A)、重合体(B)、グラフト重合体(C)を含有する。
【0012】
本発明の重合体(A)は、ジエン系単量体単位、芳香族ビニル単量体単位、及びシアン化ビニル単量体単位を含有する。
【0013】
本発明のジエン系単量体単位を構成するための原料であるジエン系単量体としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、ジメチルブタジエンが挙げられる。これらのジエン系単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのジエン系単量体の中でも、単量体の重合性と得られる成形品の機械特性の観点から、ブタジエンが好ましい。
【0014】
本発明の芳香族ビニル単量体単位を構成するための原料である芳香族ビニル単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、o−メトキシスチレン、2,4−ジメチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレンが挙げられる。これらの芳香族ビニル単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの芳香族ビニル単量体の中でも、単量体の重合性と製造コストの観点から、スチレンが好ましい。
【0015】
本発明のシアン化ビニル単量体単位を構成するための原料であるシアン化ビニル単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルが挙げられる。これらのシアン化ビニル単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのシアン化ビニル単量体の中でも、重合体(B)との相溶性の観点から、アクリロニトリルが好ましい。
【0016】
本発明の重合体(A)は、必要に応じて、他の単量体単位を含んでもよい。他の単量体単位を構成するための原料である他の単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート;N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド化合物;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸等の不飽和カルボン酸化合物;エチレン、プロピレン等のα−オレフィンが挙げられる。これらの単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
尚、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート」又は「メタクリレート」を表す。
【0017】
本発明の重合体(A)の製造方法は、例えば、ジエン系単量体を重合して得られた重合体存在下で芳香族ビニル単量体とシアン化ビニル単量体を共重合して重合体(A)を得るグラフト法、ジエン系単量体を重合して得られた重合体、及び芳香族ビニル単量体とシアン化ビニル単量体を重合して得られた共重合体を熱溶融によりブレンドして重合体(A)を得るポリマーブレンド法が挙げられる。
【0018】
本発明の重合体(A)をグラフト法で得る方法としては、予めジエン系単量体を重合して得られた重合体、及び芳香族ビニル単量体とシアン化ビニル単量体の単量体混合物の一部又は全量を混合することによって、芳香族ビニル単量体とシアン化ビニル単量体を重合体に一部含浸させた単量体含浸重合体を調製し、しかる後に単量体を重合して重合体(A)を得る方法が、成形加工時の溶融流動性と得られる成形品の機械特性の観点から好ましい。
具体的には、まず、乳化重合にてジエン系単量体を重合して得られた重合体ラテックスに、芳香族ビニル単量体とシアン化ビニル単量体混合物の一部又は全量を一括投入又は連続滴下し、40〜70℃にて5〜60分程度撹拌を行う。次いで、重合開始剤を添加し、前工程で単量体混合物の一部を使用した場合は、残りの単量体を添加する。上記方法によると、ジエン系単量体を重合して得られた重合体内に、芳香族ビニル単量体とシアン化ビニル単量体を重合して得られた共重合体を含む重合体(A)が得られる。
【0019】
本発明の重合体(A)は、市販のABS樹脂を用いてもよく、例えば、「EX18A」、「EX10U」、「RV」、「TR−2」、「V520」(商品名、UMG−ABS(株)製);「500」、「700」、「AX05」(商品名、東レ(株)製)が挙げられる。
【0020】
本発明の重合体(A)の組成は、全単量体単位100質量%中、ジエン系単量体単位が30〜90質量%、芳香族ビニル単量体単位とシアン化ビニル単量体単位の合計が10〜70質量%であることが好ましく、ジエン系単量体単位が40〜85質量%、芳香族ビニル単量体単位とシアン化ビニル単量体単位の合計が15〜60質量%であることがより好ましく、ジエン系単量体単位が50〜80質量%、芳香族ビニル単量体単位とシアン化ビニル単量体単位の合計が20〜50質量%であることが更に好ましい。
【0021】
本発明の重合体(B)は、芳香族ビニル単量体単位及びシアン化ビニル単量体単位を含有する。
【0022】
本発明の芳香族ビニル単量体単位及びシアン化ビニル単量体単位を構成するための原料である芳香族ビニル単量体及びシアン化ビニル単量体としては、重合体(A)を得る際に用いる芳香族ビニル単量体及びシアン化ビニル単量体と同様の単量体を用いることができる。これらの単量体の中でも、重合体(A)との相溶性の観点から、スチレン及びアクリロニトリルが好ましい。これらの単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
本発明の重合体(B)は、必要に応じて、他の単量体単位を含んでもよい。他の単量体単位を構成するための原料である他の単量体としては、重合体(A)を得る際に用いる他の単量体と同様の単量体を用いることができる。これらの単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
本発明の重合体(B)の重合方法としては、乳化重合、懸濁重合、塊状重合等の公知の重合方法を用いることができる。
【0025】
本発明の重合体(B)は、市販のAS樹脂を用いてもよく、例えば、「AP−H」、「SR05B」(商品名、UMG−ABS(株)製);「020/020SF」、「NF012A」(商品名、ダイセルポリマー(株)製)が挙げられる。
【0026】
本発明の重合体(B)の組成は、全単量体単位100質量%中、芳香族ビニル単量体単位45〜80質量%、シアン化ビニル単量体単位20〜55質量%であることが好ましい。
【0027】
本発明の重合体(B)の質量平均分子量は、80,000〜400,000であることが好ましい。
尚、質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにて測定される。
【0028】
本発明のグラフト重合体(C)は、アルキル(メタ)アクリレートを含有する単量体成分(r)を重合して得られるガラス転移温度が25℃以下の重合体(R)の存在下で、芳香族ビニル単量体及びシアン化ビニル単量体を含有する単量体成分(g)を重合して得られる。
【0029】
本発明の重合体(R)は、ガラス転移温度が25℃以下であり、0℃以下であることが好ましく、−20℃以下であることがより好ましい。重合体(R)のガラス転移温度が25℃以下であると、成形加工時の溶融流動性と得られる成形品の機械特性に優れる。
【0030】
本発明の重合体(R)を得るためには、単独重合体のガラス転移温度が25℃以下となるアルキル(メタ)アクリレート(r1)を含有する単量体成分(r)を重合すればよい。
アルキル(メタ)アクリレート(r1)としては、例えば、エチルアクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、2−メチルブチル(メタ)アクリレート、3−メチルブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートが挙げられる。これらの単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの単量体の中でも、成形加工時の溶融流動性と製造コストの観点から、エチルアクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートが好ましく、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0031】
単量体成分(r)は、アルキル(メタ)アクリレート(r1)以外に、必要に応じて、重合体(R)のガラス転移温度が25℃を超えない範囲で、単独重合体のガラス転移温度が25℃を超えるアルキル(メタ)アクリレート(r2)を含んでもよい。アルキル(メタ)アクリレート(r2)としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチルメタクリレートが挙げられる。
【0032】
また、単量体成分(r)は、アルキル(メタ)アクリレート以外に、必要に応じて、重合体(R)のガラス転移温度が25℃を超えない範囲で、共重合可能な他の単量体(r3)を含んでもよい。他の単量体(r3)としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、o−メトキシスチレン、2,4−ジメチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン等の芳香族ビニル単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体;N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド化合物;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸等の不飽和カルボン酸化合物;酢酸ビニル等のビニルアルコールのエステル;無水マレイン酸等のジカルボン酸無水物;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基含有ビニル単量体;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有ビニル単量体;エチレン、プロピレン等のα−オレフィンが挙げられる。これらの単量体(r3)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
更に、単量体成分(r)は、必要に応じて、重合体(R)のガラス転移温度が25℃を超えない範囲で、グラフト交叉剤となる不飽和基を2つ以上有する単量体(r4)を含んでもよい。不飽和基を2つ以上有する単量体(r4)としては、例えば、アリル(メタ)アクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレートが挙げられる。これらの単量体(r4)の中でも、グラフト効率、成形加工時の溶融流動性の観点から、アリル(メタ)アクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等の不飽和基の反応性が異なる単量体が好ましい。
【0034】
これらの単量体(r2)、(r3)、(r4)の含有率は、単量体成分(r)100質量%中、単量体(r2)、(r3)、(r4)の合計が30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが更に好ましい。単量体成分(r)中の単量体(r2)、(r3)、(r4)の含有率の合計が30質量%以下であると、得られる成形品の機械特性に優れる。
【0035】
本発明の単量体成分(g)は、芳香族ビニル単量体及びシアン化ビニル単量体を含有する。芳香族ビニル単量体及びシアン化ビニル単量体としては、重合体(A)を得る際に用いる芳香族ビニル単量体及びシアン化ビニル単量体と同様の単量体を用いることができる。これらの単量体の中でも、重合体(A)及び重合体(B)との相溶性の観点から、スチレン及びアクリロニトリルが好ましい。これらの単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
本発明の単量体成分(g)は、必要に応じて、他の単量体を含んでもよい。他の単量体としては、重合体(A)を得る際に用いる他の単量体と同様の単量体を用いることができる。これらの単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
本発明の単量体成分(g)を重合して得られる重合体(G)は、ガラス転移温度が30℃以上であることが好ましく、50℃以上であることがより好ましく、70℃以上であることが更に好ましい。ガラス転移温度が30℃以上であると、成形加工時の溶融流動性と得られる成形品の機械特性に優れる。
【0038】
本発明のグラフト重合体(C)を得るための重合時における組成は、重合体(R)と単量体成分(g)の合計100質量%中、重合体(R)が1〜40質量%、単量体成分(g)60〜99質量%が好ましく、重合体(R)が3〜25質量%、単量体成分(g)75〜97質量%がより好ましい。重合体(R)が1質量%以上であると、成形加工時の溶融流動性に優れ、重合体(R)が40質量%以下であると、得られる成形品の機械特性に優れる。単量体成分(g)が60質量%以上であると、得られる成形品の機械特性に優れ、単量体成分(g)が99質量%以下であると、成形加工時の溶融流動性に優れる。
【0039】
本発明のグラフト重合体(C)は、クロロホルムに対する可溶成分が90質量%以上であり、95質量%以上であることが好ましく、98質量%以上であることがより好ましい。クロロホルムに対する可溶成分が90質量%以上であると、成形加工時の溶融流動性に優れる。
尚、グラフト重合体(C)のクロロホルムに対する可溶成分は、重合体(R)と重合体(G)からなる非架橋のグラフト重合体、グラフトされていない重合体(R)、グラフトされていない重合体(G)のうち、少なくとも1種以上を含む。
【0040】
本発明のグラフト重合体(C)は、クロロホルムに対する可溶成分の質量平均分子量が10,000〜100,000であり、15,000〜70,000であることが好ましく、18,000〜50,000であることがより好ましい。グラフト重合体(C)のクロロホルムに対する可溶成分の質量平均分子量が10,000以上であると、得られる成形品の機械特性や外観に優れ、グラフト重合体(C)のクロロホルムに対する可溶成分の質量平均分子量が100,000以下であると、成形加工時の溶融流動性に優れる。
尚、クロロホルムに対する可溶成分の質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにて測定される。
【0041】
本発明のグラフト重合体(C)の重合方法としては、例えば、乳化重合、懸濁重合、溶液重合、塊状重合におけるリビングアニオン重合や、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル(TEMPO)系、N,N−二置換又は環状のジチオカーボネートを用いた可逆的付加−開裂連鎖移動重合(RAFT)系、原子移動ラジカル重合(ATRP)系等のリビングラジカル重合により、単量体成分(r)と単量体成分(g)を連続的に重合する方法が挙げられる。
【0042】
単量体成分(r)と単量体成分(g)を連続的に重合してグラフト重合体(C)を得る方法としては、重合体(R)の側鎖又は末端に、少なくとも1つ以上の不飽和基を有するマクロモノマーを合成し、その存在下で単量体成分(g)を重合するする方法が挙げられる。
具体的には、水、乳化剤、重合開始剤、単量体(r4)を含有する単量体成分(r)の混合物に、必要に応じて連鎮移動剤や重合触媒を添加し、高温下で重合を行い、マクロモノマーを合成し、しかる後に単量体成分(g)を重合することで、単量体成分(r)と単量体成分(g)を連続的に重合してグラフト重合体(C)を得ることができる。
【0043】
乳化剤としては、例えば、ノニオン性乳化剤、アニオン性乳化剤、カチオン性乳化剤、両性イオン乳化剤が挙げられる。
【0044】
ノニオン性乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ジアルキルフェノキシポリ(エチレンオキシ)エタノール、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、アルキルセルロースが挙げられる。
アニオン性乳化剤としては、例えば、脂肪酸塩類、高級アルコール硫酸エステル塩類、液体脂肪油硫酸エステル塩類、脂肪族アミン及び脂肪族アミドの硫酸塩類、脂肪アルコールリン酸エステル塩類、二塩基性脂肪酸エステルのスルホン塩類、脂肪酸アミドスルホン酸塩類、アルキルアリールスルホン酸塩類、ホルマリン縮合物のナフタリンスルホン酸塩類等が挙げられる。
カチオン性乳化剤としては、例えば、脂肪族アミン塩類、第四アンモニウム塩類、アルキルピリジニウム塩が挙げられる。
両性イオン乳化剤としては、例えば、アルキルベタインが挙げられる。
【0045】
重合開始剤としては、例えば、t−ブチルヒドロパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド等の過酸化物系重合開始剤;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系重合開始剤;酸化剤と還元剤を組合せたレドックス系重合開始剤が挙げられる。
【0046】
レドックス系開始剤としては、例えば、硫酸第一鉄、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩、ロンガリット、ヒドロパーオキシドを組合せたスルホキシレート系重合開始剤が挙げられる。
【0047】
連鎖移動剤としては、例えば、n−オクチルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタンが挙げられる。
【0048】
マクロモノマーを合成する際の単量体成分(r)中の単量体(r4)の含有量は、単量体成分(r)100質量%中、単量体(r4)が0.7〜5質量%であることが好ましく、1〜3質量%であることがより好ましい。単量体(r4)が0.7質量%以上であると、(G)とグラフト結合が充分に形成され、得られる成形品の機械特性に優れる。単量体(r4)が5質量%以下であると、クロロホルム等の有機溶媒に不溶な架橋構造体の割合が少なく、成形加工時の溶融流動性に優れる。
【0049】
マクロモノマーの質量平均分子量は、特に制限されるものではないが、成形加工時の溶融流動性を損なわない範囲であれば架橋体であってもよく、クロロホルムに対する可溶成分の質量平均分子量が5,000〜100,000であることが好ましく、10,000〜70,000であることがより好ましく、20,000〜50,000であることが更に好ましい。質量平均分子量が5,000以上であると、得られる成形品の機械特性や外観に優れ、グラフト重合体(C)のクロロホルムに対する可溶成分の質量平均分子量が50,000以下であると、成形加工時の溶融流動性に優れる。
【0050】
マクロモノマーを合成した後の単量体成分(g)の重合に用いる乳化剤、重合開始剤、連鎖移動剤としては、マクロモノマーの重合の際に用いるものと同様のものを用いることができる。
【0051】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、重合体(A)、重合体(B)、グラフト重合体(C)を含有する。
【0052】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の組成は、熱可塑性樹脂組成物100質量%中、重合体(A)と重合体(B)の合計が85〜99質量%、グラフト重合体(C)が1〜15質量%であることが好ましく、重合体(A)と重合体(B)の合計88〜98質量%、グラフト重合体(C)2〜12質量%であることがより好ましい。重合体(A)と重合体(B)の合計が85質量%以上であると、得られる成形品の機械特性に優れ、99質量%以下であると、成形加工時の溶融流動性に優れる。グラフト重合体(C)が1質量%以上であると、成形加工時の溶融流動性に優れ、15質量%以下であると、得られる成形品の機械特性に優れる。
【0053】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、物性を損なわない範囲において、必要に応じて、顔料、染料、滑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、補強剤、充填剤等の添加剤を更に配合することができる。
【0054】
本発明の熱可塑性樹脂組成物を製造する方法としては、特に制限されるものではないが、重合体(A)、重合体(B)、グラフト重合体(C)とを混合した後に、溶融混練する方法が好ましい。溶融混練する方法としては、例えば、押出成形機、バンバリーミキサー等を用いる方法が挙げられる。
【0055】
本発明の成形品は、本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる。成形方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、プレス成形、カレンダー成形、ブロー成形、発泡成形、押出成形、射出成形が挙げられる。
【0056】
本発明のめっき成形品は、本発明の成形品をめっき処理して得られる。めっき処理方法としては、特に制限されるものではなく、電気銅めっき、銅ニッケルめっき、ニッケルクロムめっき等の公知のめっき処理方法を用いることができる。
【0057】
本発明の成形品及びめっき成形品は、成形加工時の溶融流動性に優れ、成形して得られた成形品の機械特性に優れるため、複雑な形状や薄型の成形品を含む任意の形状の成形品を容易に、かつ安定に成形して得ることが可能となり、工業的に非常に有用であり、特に、OA・家電製品、自動車の内外装材に有用である。
【実施例】
【0058】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。尚、以下の記載において、「部」及び「%」は、「質量部」及び「質量%」を表す。
各実施例、比較例での諸物性の測定は以下の方法による。
【0059】
(1)固形分
重合後のラテックスを170℃で30分間乾燥した後、質量を測定し、固形分を求めた。
【0060】
(2)質量平均分子量
得られたグラフト重合体(C)を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(機種名「HLC−8220GPC」、東ソー(株)製)を用いて、溶離液クロロホルム、測定温度40℃、ポリメチルメタクリレート換算で測定した。
【0061】
(3)ガラス転移温度
得られたグラフト重合体(C)を、200℃にて加圧プレスを行い、1mm厚の成形品を作製し、示差走査熱量測定装置(機種名「DSC6200」、セイコーインスツル(株)製)を用いて、−150〜150℃の温度範囲で2℃/分にて測定を行い、ピーク温度を測定した。
尚、ガラス転移温度測定において、重合体(R)及び重合体(G)に由来する2点のピークが確認される。
【0062】
(4)MFR(メルトフローレート)
得られた熱可塑性樹脂組成物を、小型メルトインデクサ(機種名「L−243」、(株)テクノ・セブン製)を用いて、220℃、荷重10kgfにて測定した。
【0063】
(5)スパイラル流動長
得られた熱可塑性樹脂組成物を、射出成形機(機種名「SE100」、住友重機械工業(株)製)を用いて、成形温度220℃、速度20mm/分、圧力65MPa、幅15mm、厚さ2mmのスパイラル金型、金型温度80℃にて成形を行い、熱可塑性樹脂組成物の流動長を測定した。
【0064】
(6)曲げ試験
得られた熱可塑性樹脂組成物を、射出成形機(機種名「SE100」、住友重機械工業(株)製)を用いて、成形温度220℃にて成形品を作製し、ISO 178に準拠して測定した。
【0065】
(7)面衝撃
得られた熱可塑性樹脂組成物を、射出成形機(機種名「SE100」、住友重機械工業(株)製)を用いて、成形温度220℃にて10cm角、厚さ3mmの成形品を作製し、高速衝撃試験機(機種名「ハイドロショットHITS−10」、(株)島津製作所製)を用いて、速度1.0m/sec、ストライカ直径:12.7mmにて降伏時の衝撃強さを測定した。
【0066】
[製造例1]グラフト重合体(C1)の製造
温度計、窒素導入管、冷却管及び攪拌装置を備えたセパラブルフラスコに、アニオン系乳化剤(商品名「ラテムル ASK」、花王(株)製)(固形分28%)1.0部(固形分)、蒸留水290部を投入し、窒素雰囲気下に水浴中で80℃まで加熱した。次いで、硫酸第一鉄0.0004部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.0012部、ロンガリット0.5部を蒸留水5部に溶かして添加した後、n−ブチルアクリレート9.9部、アリルメタクリレート0.1部、n−オクチルメルカプタン0.1部、t−ブチルヒドロパーオキシド0.05部の混合物を18分かけて滴下した。その後60分間攪拌し、第一段目の重合を完了した。
次いで、硫酸第一鉄0.0004部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.0012部、ロンガリット0.5部を蒸留水5部に溶かして添加した後、アクリロニトリル27部、スチレン63部、n−オクチルメルカプタン1.8部、t−ブチルヒドロパーオキシド0.45部の混合物を162分かけて滴下した。その後60分間攪拌し、第二段目の重合を完了して、グラフト重合体(C1)のラテックスを得た。得られたグラフト重合体(C1)のラテックスの固形分は、24.2%であった。
更に、グラフト重合体(C1)のラテックスを希硫酸水溶液中に注ぎ、生じた沈殿物を乾燥させ、グラフト重合体(C1)を得た。
【0067】
[製造例2]グラフト重合体(C2)の製造
温度計、窒素導入管、冷却管及び攪拌装置を備えたセパラブルフラスコに、アニオン系乳化剤(商品名「ラテムル ASK」、花王(株)製)(固形分28%)1.0部(固形分)、蒸留水290部を投入し、窒素雰囲気下に水浴中で80℃まで加熱した。次いで、硫酸第一鉄0.0004部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.0012部、ロンガリット0.5部を蒸留水5部に溶かして添加した後、n−ブチルアクリレート29.7部、アリルメタクリレート0.3部、n−オクチルメルカプタン0.3部、t−ブチルヒドロパーオキシド0.15部の混合物を54分かけて滴下した。その後60分間攪拌し、第一段目の重合を完了した。
次いで、硫酸第一鉄0.0004部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.0012部、ロンガリット0.5部を蒸留水5部に溶かして添加した後、アクリロニトリル21部、スチレン49部、n−オクチルメルカプタン1.4部、t−ブチルヒドロパーオキシド0.35部の混合物を126分かけて滴下した。その後60分間攪拌し、第二段目の重合を完了して、グラフト重合体(C2)のラテックスを得た。得られたグラフト重合体(C2)のラテックスの固形分は、24.6%であった。
更に、グラフト重合体(C2)のラテックスを希硫酸水溶液中に注ぎ、生じた沈殿物を乾燥させ、グラフト重合体(C2)を得た。
【0068】
[製造例3]グラフト重合体(C3)の製造
環状ジメチルシロキサンオリゴマー98部、γ−メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン2部の混合液に、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1部を溶解した蒸留水310部を添加し、ホモミキサーにて10,000rpmで2分間攪拌した後、ホモジナイザーに20MPaの圧力で2回通し、安定な予備混合オルガノシロキサンラテックスを得た。
温度計、冷却管及び攪拌装置を備えたセパラブルフラスコにドデシルベンゼンスルホン酸10部と蒸留水90部を投入した。この水溶液を85℃に加熱した状態で、上記予備混合オルガノシロキサンラテックスを4時間かけて滴下し、滴下終了後1時間、上記温度を維持した後に冷却した。次いで、この反応物を25℃で12時間保持した後、5%水酸化ナトリウム水溶液で中和して、ポリオルガノシロキサンのラテックスを得た。得られたラテックスの固形分は18.5%であった。
温度計、窒素導入管、冷却管及び攪拌装置を備えたセパラブルフラスコに、ポリオルガノシロキサンのラテックスを30部(固形分)、蒸留水295部を投入し、窒素雰囲気下に水浴中で80℃まで加熱した。次いで、硫酸第一鉄0.0004部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.0012部、ロンガリット0.5部を蒸留水5部に溶かして添加した後、アクリロニトリル21部、スチレン49部、n−オクチルメルカプタン1.4部、t−ブチルヒドロパーオキシド0.35部の混合物を126分かけて滴下した。その後60分間攪拌し、第二段目の重合を完了して、グラフト重合体(C3)のラテックスを得た。得られたグラフト重合体(C3)のラテックスの固形分は、24.5%であった。
更に、グラフト重合体(C3)のラテックスを酢酸カルシウム水溶液中に注ぎ、生じた沈殿物を乾燥させ、グラフト重合体(C3)を得た。
【0069】
[製造例4]グラフト重合体(C4)の製造
第一段目の重合におけるn−オクチルメルカプタンを0部、第二段目の重合におけるn−オクチルメルカプタンを0.35部とした以外は、製造例2と同様に行った。
【0070】
得られたグラフト重合体(C1)〜(C4)のクロロホルムに対する可溶成分の割合、質量平均分子量、重合体(R)及び重合体(G)のガラス転移温度を、表1に示す。
【0071】
【表1】

尚、表1に記載の略号は、以下の化合物を表す。
n−BA :n−ブチルアクリレート
AMA :アリルメタクリレート
AN :アクリロニトリル
St :スチレン
CDMSO :環状ジメチルシロキサンオリゴマー
γ−MOPDMMS:γ−メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン
n−OM :n−オクチルメルカプタン
t−BHPO :t−ブチルヒドロパーオキシド
【0072】
[実施例1〜6、比較例1〜10]
重合体(A)、重合体(B)、製造例1〜4で得られた(C1)〜(C4)を表2に示す割合で配合し、二軸押出機(機種名「TEM−35」、東芝機械(株)製)に供給し、220℃で溶融混練し、熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0073】
得られた成形加工時の溶融流動性及び成形品の機械特性を、表2に示す。
【0074】
【表2】

尚、表2に記載の重合体(A)、重合体(B)は、以下の樹脂を表す。
重合体(A1):ABS樹脂(商品名「RV」、UMG−ABS(株)製)
重合体(B1):AS樹脂(商品名「AP−H」、UMG−ABS(株)製)
重合体(B2):AS樹脂(商品名「SR05B」、UMG−ABS(株)製、質量平均分子量63,000、ガラス転移温度90℃)
【0075】
表2から明らかなように、実施例1〜6において、得られた熱可塑性樹脂組成物は溶融流動性に優れ、得られた成形品は機械特性に優れた。グラフト重合体(C)を配合していない比較例10において、得られた熱可塑性樹脂組成物は溶融流動性に劣った。グラフト重合体(C)中の重合体(R)がアルキル(メタ)アクリレートを含有していない(C3)を用いた比較例1〜3において、得られた熱可塑性樹脂組成物は溶融流動性劣り、得られた成形品は機械特性に劣った。グラフト重合体のクロロホルムに対する可溶成分の質量平均分子量が本発明の範囲を越える(C4)を用いた比較例4〜6において、得られた熱可塑性樹脂組成物は溶融流動性に劣った。グラフト重合体(C)の代わりに低分子量のAS樹脂を配合した比較例7〜9において、得られた熱可塑性樹脂組成物は溶融流動性に劣った。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、成形加工時の溶融流動性(成形加工性)に優れ、成形して得られた成形品の機械特性に優れるため、複雑な形状や薄型の成形品を含む任意の形状の成形品を容易に、かつ安定に成形して得ることが可能となり、工業的に非常に有用である。本発明の成形品は、OA・家電製品、自動車の内外装材等に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系単量体単位、芳香族ビニル単量体単位及びシアン化ビニル単量体単位を含有する重合体(A)、
芳香族ビニル単量体単位及びシアン化ビニル単量体単位を含有する重合体(B)、並びに、
アルキル(メタ)アクリレートを含有する単量体成分(r)を重合して得られるガラス転移温度が25℃以下の重合体(R)の存在下で、芳香族ビニル単量体及びシアン化ビニル単量体を含有する単量体成分(g)を重合して得られ、クロロホルムに対する可溶成分が90質量%以上であり、クロロホルムに対する可溶成分の質量平均分子量が10,000〜100,000であるグラフト重合体(C)、
を含有する熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる成形品。
【請求項3】
請求項2記載の成形品をめっき処理して得られるめっき成形品。

【公開番号】特開2010−241969(P2010−241969A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−92674(P2009−92674)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】