説明

熱可塑性樹脂組成物およびその成形品

【課題】 流動性、成形加工性に優れ、得られる成形品の耐衝撃性、艶消し性に優れる熱可塑性樹脂組成物、およびその成形品を提供する。
【解決手段】 (A)ポリカーボネート樹脂30〜80質量部、(B)特定のゲル含有率および平均粒子径を有するゴム質重合体20〜80質量部の存在下で、シアン化ビニル単量体10〜40質量%および芳香族ビニル単量体60〜90質量%の単量体混合物80〜20質量部をグラフト重合させたゴム補強スチレン系樹脂5〜40質量部と、(C)シアン化ビニル単量体10〜42質量%、芳香族ビニル単量体58〜90質量%を重合させた硬質スチレン系樹脂15〜65質量部とを含有し、(B)成分のグラフト部中のシアン化ビニル単量体単位の含有量と、(C)成分中のシアン化ビニル単量体単位の含有量との差が3質量%を超える熱可塑性樹脂組成物、およびその成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物および成形品に関するものあり、詳しくは、流動性、成形加工性に優れ、得られる成形品の耐衝撃性、艶消し性に優れる、ポリカーボネート樹脂とスチレン系樹脂とからなる熱可塑性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、優れた耐熱性、耐衝撃性、電気的特性、寸法安定性、透明性により、OA機器、自動車部品、電気・電子機器など様々な分野で幅広く用いられている。しかしながら、溶融温度が高く、溶融流動性が劣るために、成形品の製造コストが高くなるという問題点を有している。
一方、ゴム補強スチレン系樹脂は、優れた成形加工性、機械的特性バランスにより、OA機器、自動車部品、家電機器などの幅広い分野で用いられている。しかしながら、耐熱性に劣るなどの問題点を有している。
【0003】
かかる問題点を解決し、両者の優れた特性を併せ持つような材料として、ポリカーボネート樹脂とゴム補強スチレン系樹脂とのポリマーアロイが知られており(特許文献1〜3)、各用途に使用され、成形加工性、機械的特性、耐熱性、光沢などに優れている。
ところで、高級感が要求される用途、例えば、自動車内装用、家電製品などにおいては、艶消し性が重要視されており、自動車内装用、家電製品などに用いられるポリマーアロイには、耐衝撃性、流動性、成形加工性に加え、艶消し性も要求される。
【特許文献1】特開昭38−15225号公報
【特許文献2】特開平8−34915号公報
【特許文献3】特開平11−310694号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
よって、本発明の目的は、流動性、成形加工性に優れ、得られる成形品の耐衝撃性、艶消し性に優れる、ポリカーボネートとスチレン系樹脂とからなる熱可塑性樹脂組成物、および耐衝撃性、艶消し性に優れる成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ポリカーボネート樹脂に、特定のゴム補強スチレン系樹脂および硬質スチレン系樹脂を添加することにより、目的とする性能を備えた熱可塑性樹脂組成物が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0006】
すなわち、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、(A)ポリカーボネート樹脂(以下、(A)成分とも記す)30〜80質量部と、(B)ゴム補強スチレン系樹脂(以下、(B)成分とも記す)5〜40質量部と、(C)硬質スチレン系樹脂(以下、(C)成分とも記す)15〜65質量部とを含有する熱可塑性樹脂組成物であり[(A)成分、(B)成分、および(C)成分の合計100質量部];(B)ゴム補強スチレン系樹脂が、ゲル含有量50〜98質量%、平均粒子径50nm〜2000nmのゴム質重合体20〜80質量部の存在下で、シアン化ビニル単量体10〜40質量%、芳香族ビニル単量体60〜90質量%、および共重合可能な他の単量体0〜30質量%からなる単量体混合物80〜20質量部をグラフト重合させたグラフト重合体であり[ゴム質重合体および単量体混合物の合計100質量部];(C)硬質スチレン系樹脂が、シアン化ビニル単量体10〜42質量%、芳香族ビニル単量体58〜90質量%、および共重合可能な他の単量体0〜30質量%を重合させた共重合体であり;かつ、(B)ゴム補強スチレン系樹脂のグラフト部中のシアン化ビニル単量体単位の含有量(質量%)と、(C)硬質スチレン系樹脂中のシアン化ビニル単量体単位の含有量(質量%)との差が、3質量%を超えることを特徴とするものである。
また、本発明の成形品は、本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形したものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、流動性、成形加工性に優れ、得られる成形品の耐衝撃性、艶消し性に優れている。また、本発明の成形品は、耐衝撃性、艶消し性に優れており、広範囲の用途、例えば、自動車製品、電化製品、通信機器、雑貨等のパーツ、ハウジング等に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
まず、本発明の熱可塑性樹脂組成物の構成成分である(A)〜(C)成分について説明する。
<(A)ポリカーボネート樹脂(PC)>
本発明における(A)ポリカーボネート樹脂は、特に限定されるものではなく、例えば、1種以上のビスフェノール類とホスゲンまたは炭酸ジエステルとの反応によって製造されるものである。
【0009】
ビスフェノール類の具体例としては、例えば、ハイドロキノン、4,4−ジヒドロキシフェニル、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−アルカン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−シクロアルカン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−スルフィド、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−エーテル、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−ケトン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−スルホン、あるいはこれらのアルキル置換体、アリール置換体、ハロゲン置換体等が挙げられる。これらは単独で、または2種以上を組み合わせて用いられる。
中でも、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、いわゆるビスフェノールAを原料としたポリカーボネートが市場で容易に入手できるという点から、ビスフェノールA系ポリカーボネートを好ましい例として挙げることができる。
【0010】
<(B)ゴム補強スチレン系樹脂>
本発明における(B)ゴム補強スチレン系樹脂は、ゲル含有量50〜98質量%、平均粒子径50nm〜2000nmのゴム質重合体20〜80質量部の存在下で、シアン化ビニル単量体10〜40質量%、芳香族ビニル単量体60〜90質量%、および共重合可能な他の単量体0〜30質量%からなる単量体混合物80〜20質量部をグラフト重合させたグラフト重合体であり[ゴム質重合体および単量体混合物の合計100質量部]、ゴム質重合体には特に制限はない重合体である。
【0011】
ゴム質重合体としては、例えば、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ブタジエン−スチレン共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、ブタジエン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、アクリル系ゴム、シリコーン系ゴム、エチレン−プロピレン共重合体ゴム、エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体ゴム、スチレン−酢酸ビニル共重合体、ジエン系重合体の水素添加ゴムなどが挙げられる。中でも、ポリブタジエン、ブタジエン−スチレン共重合、エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体ゴムが好ましい。また、これらのゴム質重合体は、単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0012】
ゴム質重合体の平均粒子径は、50nm〜2000nmであり、好ましくは100nm〜1000nmである。平均粒子径が50nm未満では、得られる成形品の耐衝撃性が低下して好ましくなく、一方、2000nmを超えると、得られる成形品に光沢ムラが起こり、また、該成形品の耐衝撃性が低下するばかりか、グラフト重合の際に重合安定性が低下し、好ましくない。
また、ゴム質重合体としては、単一の粒子径分布を有するもの、および複数の粒子径分布を有するもののいずれもが使用可能である。さらに、そのモルフォロジーにおいても、ゴム質重合体の粒子が単一の相をなすものであっても、オクルード構造を含有するものであってもよい。
【0013】
また、ゴム質重合体のゲル含有量は、50〜98質量%であり、好ましくは60〜95質量%である。ここでいうゲル含有量とは、ゴム質重合体を、トルエン中に80℃で24時間浸漬し、この後、200メッシュ金網で濾過した時の不溶分の割合(質量%)を意味している。ゲル含有量が50%未満では、得られる成形品の耐衝撃性および表面外観が悪化し、一方、ゲル含有量が98質量%よりも多いと、得られる成形品の耐衝撃性が悪化する。
【0014】
芳香族ビニル単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−,m−もしくはp−メチルスチレン、ビニルキシレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、モノブロモスチレン、ジブロモスチレン、フルオロスチレン、p−tert−ブチルスチレン、エチルスチレン、ビニルナフタレン等が挙げられる。中でも、スチレン、α−メチルスチレンが好ましい。これら芳香族ビニル単量体は、単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
芳香族ビニル単量体の含有量は、単量体混合物(100質量%)中、60〜90質量%であり、好ましくは64〜88質量%である。この範囲を外れると、得られる成形品の耐衝撃性の低下や、熱可塑性樹脂組成物の流動性の低下を招く。
【0015】
シアン化ビニル単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。中でも、アクリロニトリルが好ましい。これらシアン化ビニル単量体は、単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
シアン化ビニル単量体の含有量は、単量体混合物(100質量%)中、10〜40質量%であり、好ましくは12〜36質量%である。この範囲を外れると、得られる成形品の耐衝撃性の低下や、熱可塑性樹脂組成物の流動性の低下を招く。
【0016】
本発明の目的に対して支障のない範囲で他の単量体を使用することができる。他の単量体としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、アミルアクリレート、ヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ドデシルアクリレート、オクタデシルアクリレート、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレートなどのアクリル酸エステル;メチルメタクレート、エチルメタクレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、アミルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレートなどのメタクリル酸エステル;無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸などの不飽和酸無水物;アクリル酸、メタクリル酸などの不飽和酸;マレイミド、N−メチルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−(p−メチルフェニル)マレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミドなどのα−またはβ−不飽和ジカルボン酸のイミド化合物(マレイミド系単量体ともいう);グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテルなどのエポキシ化合物;アクリルアミド、メタクリルアミドなどの不飽和カルボン酸アミド;アクリルアミン、メタクリル酸アミノメチル、メタクリル酸アミノエチル、メタクリル酸アミノプロピル、アミノスチレンなどのアミノ基含有不飽和化合物;3−ヒドロキシ−1−プロペン、4−ヒドロキシ−1−ブテン、シス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、トランス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、3−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロペン、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレートなどの水酸基含有不飽和化合物;ビニルオキサゾリンなどのオキサゾリン基含有不飽和化合物などが挙げられる。これらの単量体は、単独で、または2種以上を組み合わせて使用される。
他の単量体の含有量は、単量体混合物(100質量%)中、0〜30質量%である。
【0017】
ゴム質重合体と単量体混合物との割合は、ゴム質重合体20〜80質量部に対して、単量体混合物を80〜20質量部であり、好ましくはゴム質重合体30〜70質量部に対して、単量体混合物を70〜30質量部である[ゴム質重合体および単量体混合物の合計100質量部]。ゴム質重合体が20質量部未満では、ゴム量が少ないため、耐衝撃性に劣り、ゴム質重合体が80質量部を超えると、単量体の量が少ないため、グラフト率の低下により、やはり耐衝撃性に劣る。
【0018】
(B)ゴム補強スチレン系樹脂のグラフト率は、10〜200質量%が好ましく、より好ましくは、20〜180質量%である。グラフト率が10質量%未満では、得られる成形品の耐衝撃性や表面外観が劣り、一方、200質量%を超えると、熱可塑性樹脂組成物の流動性などが低下し、好ましくない。
(B)ゴム補強スチレン系樹脂は、グラフト重合する際に発生するグラフトしていないフリーの重合体成分を含有していてもよい。
(B)ゴム補強スチレン系樹脂の製造方法は、特に制限はなく、塊状重合、溶液重合、塊状懸濁重合、懸濁重合、乳化重合等、公知の方法が用いられる。
【0019】
<(C)硬質スチレン系樹脂>
本発明における(C)硬質スチレン系樹脂は、シアン化ビニル単量体10〜42質量%、芳香族ビニル単量体58〜90質量%、および共重合可能な他の単量体0〜30質量%を重合させた重合体である。
【0020】
芳香族ビニル単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−,m−もしくはp−メチルスチレン、ビニルキシレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、モノブロモスチレン、ジブロモスチレン、フルオロスチレン、p−tert−ブチルスチレン、エチルスチレン、ビニルナフタレン等が挙げられる。中でも、スチレン、α−メチルスチレンが好ましい。これら芳香族ビニル単量体は、単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
芳香族ビニル単量体の仕込み量は、全単量体(100質量%)中、58〜90質量%であり、好ましくは62〜85質量%である。この範囲を外れると、目的のものが得られず、変色を伴ったり、得られる成形品の耐衝撃性や、熱可塑性樹脂組成物の流動性が低下する。
【0021】
シアン化ビニル単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。中でも、アクリロニトリルが好ましい。これらシアン化ビニル単量体は。単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
シアン化ビニル単量体の仕込み量は、全単量体(100質量%)中、10〜42質量%であり、好ましくは15〜38質量%である。この範囲を外れると、目的のものが得られず、変色を伴ったり、得られる成形品の耐衝撃性や、熱可塑性樹脂組成物の流動性が低下する。
【0022】
本発明の目的に対して支障のない範囲で他の単量体を使用することができる。他の単量体としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、アミルアクリレート、ヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ドデシルアクリレート、オクタデシルアクリレート、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレートなどのアクリル酸エステル;メチルメタクレート、エチルメタクレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、アミルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレートなどのメタクリル酸エステル;無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸などの不飽和酸無水物;アクリル酸、メタクリル酸などの不飽和酸;マレイミド、N−メチルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−(p−メチルフェニル)マレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミドなどのα−またはβ−不飽和ジカルボン酸のイミド化合物(マレイミド系単量体ともいう);グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテルなどのエポキシ化合物;アクリルアミド、メタクリルアミドなどの不飽和カルボン酸アミド;アクリルアミン、メタクリル酸アミノメチル、メタクリル酸アミノエチル、メタクリル酸アミノプロピル、アミノスチレンなどのアミノ基含有不飽和化合物;3−ヒドロキシ−1−プロペン、4−ヒドロキシ−1−ブテン、シス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、トランス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、3−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロペン、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレートなどの水酸基含有不飽和化合物;ビニルオキサゾリンなどのオキサゾリン基含有不飽和化合物などが挙げられる。これらの単量体は、単独で、または2種以上を組み合わせて使用される。
他の単量体の仕込み量は、全単量体(100質量%)中、0〜30質量%である。
【0023】
(C)硬質スチレン系樹脂の質量平均分子量は、好ましくは50000〜200000であり、より好ましくは60000〜180000である。この範囲を外れると、目的のものが得られないおそれがあり、得られる成形品の耐衝撃性や、熱可塑性樹脂組成物の流動性が低下するおそれがある。
(C)硬質スチレン系樹脂の製造は、公知の付加重合反応、例えば、乳化重合、溶液重合、塊状重合、塊状懸濁重合などの各種方法によって行うことができる。また、共重合の方法も、一段で共重合しても、多段で共重合してもよい。
【0024】
<熱可塑性樹脂組成物>
次に、本発明の熱可塑性樹脂組成物を構成する各成分の配合割合について説明する。
本発明の熱可塑性樹脂組成物においては、(A)ポリカーボネート樹脂が、(A)+(B)+(C)=100質量部に対して、30〜80質量部含有されていることが必要であり、35〜75質量部含有されていることが好ましい。(A)成分が30質量部未満では、得られる成形品のウエルド強度、耐衝撃性が劣り、一方、80質量部を超えると、流動性が劣ってしまい、好ましくない。
【0025】
本発明の熱可塑性樹脂組成物においては、(B)ゴム補強スチレン系樹脂が、(A)+(B)+(C)=100質量部に対して、5〜40質量部含有されていることが必要であり、10〜35質量部含有されていることが好ましい。(B)成分が5質量部未満では、得られる成形品の耐衝撃性等の性能が不十分であり、一方、40質量部を超えると、目的とする表面外観性能が劣るほか、流動性が低下し、好ましくない。
【0026】
本発明の熱可塑性樹脂組成物においては、(C)硬質スチレン系樹脂が、(A)+(B)+(C)=100質量部に対して、15〜65質量部含有されていることが必要であり、20〜60質量部含有されていることが好ましい。この範囲をはずれると、目的とする改良効果が小さくなり、好ましくない。
【0027】
本発明においては、(B)ゴム補強スチレン系樹脂のグラフト部中のシアン化ビニル単量体単位の含有量(質量%)と、(C)硬質スチレン系樹脂中のシアン化ビニル単量体単位の含有量(質量%)との差は、3質量%を超えることが必要であり、好ましくは4〜6質量%、より好ましくは5〜8質量%である。この範囲を外れると、目的とする艶消し性が得られない。ここで、(B)ゴム補強スチレン系樹脂のグラフト部とは、ゴム質重合体の存在下で単量体混合物をグラフト重合させた際に形成される、単量体混合物からなる共重合体成分のことである。
【0028】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、上記の諸成分の他に、必要に応じて、上記(A)〜(C)成分以外に、さらに任意成分を添加することができる。本発明の熱可塑性樹脂組成物に添加しうる任意成分としては、例えば、脂肪族カルボン酸エステル系やパラフィン等の外部滑剤、離型剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、ヒンダードフェノール系の光安定剤、ガラス繊維、難燃剤、着色剤、その他が挙げられる。任意成分の添加量は、本発明の熱可塑性樹脂組成物の特性が維持される範囲であれば、特に制限はない。
【0029】
次に、本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法について、説明する。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、前記の(A)〜(C)成分、さらに必要に応じて用いられる各種任意添加成分を、上記割合で配合し、混練することにより得られる。このときの配合および混練に用いられる機器としては、例えば、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機、ローラー、ニーダー等が挙げられる。混練の際の加熱温度は、通常は240〜300℃の範囲で適宜選択される。この製造は、回分式または連続式のいずれでもよく、また各成分の混合順序には特に限定はない。
【0030】
<成形品>
本発明の成形品は、本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形したものである。
成形方法としては、射出成形、押出し成形、真空成形、ブロー成形など、公知の成形方法を用いることができる。
成形品の具体例としては、メータークラスター、ハンドルカバー、センタークラスター、デフロスターグリル、コンソールボックス等の自動車内装品;液晶テレビ、ブラウン管テレビ、プラズマテレビの画面枠;チルト台;携帯電話・固定電話、携帯端末(PDA)のハウジングなどが挙げられる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例および比較例を示して、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例中に示される、部および%は断らない限り質量基準である。
【0032】
実施例および比較例中の、各測定法は次の通りである。
[ゴム質重合体のゲル含有量]
粉体状のゴム質重合体を、トルエン中にて、80℃で24時間浸漬した。この後、200メッシュ金網で濾過し、金網上に残った不溶分の割合(%)を求め、これをゲル含有量とした。
[ゴム質重合体の平均粒子径]
分散粒子の平均粒子径は、あらかじめ乳化状態で合成したラテックスの粒径が、そのまま樹脂中の分散粒子の粒径を示すことが電子顕微鏡観察より確認されたため、ラテックス中の分散粒子の粒径を、ベックマン・コールター社製粒度分布測定装置LS230(レーザー散乱・回折法)を用いて測定した。
【0033】
[質量平均分子量]
(C)硬質スチレン系樹脂の質量平均分子量は、東ソー(株)製のGPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー)を用いて、標準ポリスチレン換算にて求めた。
[シアン化ビニル単量体単位含有量]
(B)ゴム補強スチレン系樹脂のグラフト部中のシアン化ビニル単量体単位含有量、および(C)硬質スチレン系樹脂のシアン化ビニル単位含有量は、赤外スペクトルによって求めた。
【0034】
[最小充填圧力(SSP)]
日本製鋼社製、4オンス射出成形機により、280℃で試験片を成形する際の最小充填圧力を測定した。
[アイゾット(Izod)衝撃強度]
ASTM D256に準じて測定を行った(ノッチ付き、測定温度23℃および−30℃、試験片厚みは3.2mm)。単位は、J/mである。
【0035】
[引張破壊応力、破壊伸び]
ASTM D638に準じて測定を行った。
[破壊点曲げ応力、曲げ弾性率]
ASTM D790に準じて測定を行った。
【0036】
[光沢]
JIS K 7105に準じて測定した。
[熱変色]
射出成形機にて、280℃で10分間の滞留を行った後、成形した成形品の変色を目視観察にて判定した。通常成形品に比べほとんど色の変化がないものを○、通常成形品に比べ変色が大きいものを×とした。
【0037】
本実施例に用いられる各成分は、次のとおりである。
[(A)ポリカーボネート樹脂]
ポリカーボネート樹脂(PC)としては、帝人化成(株)製のパンライトL−1250を用いた。
[(B)ゴム補強スチレン系樹脂]
(B−1);
【0038】
【表1】

【0039】
オートクレーブに蒸留水、不飽和脂肪酸ナトリウム、水酸化カリウム、およびEPDM・ラテックス(固形分のゲル含有量63%、平均粒子径420nm)を仕込み、70℃に加熱後、ST、AN、t−DM、クメンハイドロパーオキサイド、硫酸第一鉄、ピロリン酸ナトリウム、結晶ブドウ糖を60分間に渡って添加し、その後70℃に昇温して1時間保って反応を完結させた。かかる反応によって得たAESラテックスに酸化防止剤を添加し、その後硫酸により凝固し、十分水洗後、乾燥してゴム補強スチレン系樹脂(B−1)を得た。ゴム補強スチレン系樹脂(B−1)のグラフト部中のAN単位含有量は、35%であった。
【0040】
(B−2);
ST 22.5部(全単量体中75%)、AN 7.5部(全単量体中25%)とした以外は、(B−1)と同様にしてゴム補強スチレン系樹脂(B−2)を得た。ゴム補強スチレン系樹脂(B−2)のグラフト部中のAN単位含有量は、25%であった。
【0041】
(B−3);
ST 37.5部(全単量体中75%)、AN 12.5部(全単量体中25%)、ポリブタジエン・ラテックス50部(固形分)(固形分のゲル含有量82%、平均粒子径320nm)とした以外は、(B−1)と同様にしてゴム補強スチレン系樹脂(B−3)を得た。ゴム補強スチレン系樹脂(B−3)のグラフト部中のAN単位含有量は、25%であった。
【0042】
(B−4);
EPDMのゲル含有量を15質量%、平均粒子径を390nmとした以外は、(B−1)と同様にしてゴム補強スチレン系樹脂(B−4)を得た。ゴム補強スチレン系樹脂(B−4)のグラフト部中のAN単位含有量は、35%であった。
【0043】
[(C)硬質スチレン系樹脂]
(C−1);
【0044】
【表2】

【0045】
オートクレーブに蒸留水、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、リン酸化カルシウム、およびST、AN、t−DM、ベンゾイルパーオキサイドを仕込み、60℃に加温した後、270分間に渡って110℃まで昇温し、その後110℃にて1時間保って反応を完結した。反応終了後、スチーム蒸留によって未反応モノマーを除去し、脱水、乾燥して硬質スチレン系樹脂(C−1)を得た。硬質スチレン系樹脂(C−1)の質量平均分子量は、10.8×104 であり、硬質スチレン系樹脂(C−1)中のAN単位含有量は、32%であった。
【0046】
(C−2);
ST 75部(全単量体中75%)、AN 25部(全単量体中25%)、およびt−DM 0.34部とした以外は、(C−1)と同様にして硬質スチレン系樹脂(C−2)を得た。硬質スチレン系樹脂(C−2)の質量平均分子量は、11.2×104 であり、硬質スチレン系樹脂(C−1)中のAN単位含有量は、25%であった。
【0047】
(C−3);
ST 55部(全単量体中55%)、AN 45部(全単量体中45%)、およびt−DM 0.68部とした以外は、(C−1)と同様にして硬質スチレン系樹脂(C−3)を得た。硬質スチレン系樹脂(C−3)の質量平均分子量は、9.8×104 であり、硬質スチレン系樹脂(C−1)中のAN単位含有量は、45%であった。
【0048】
[実施例1〜5、比較例1〜5]
各成分(A)〜(C)を、表1に示す割合で混合し、二軸押出機にて溶融混練して、ペレット化した。得られたペレットから射出成形機(日本製鋼所(株)製、J75E−P型)を用いて試験片を作製し、物性を評価した。各物性値を表3に示した。
【0049】
【表3】

【0050】
比較例1および2は、(B)ゴム補強スチレン系樹脂のAN単位含有量と(C)硬質スチレン系樹脂のAN単位含有量との差が、3%以内であるため、艶消し性が劣り、通常の光沢を示した。比較例3は、(B)ゴム補強スチレン系樹脂のゲル含有量が50%未満であるため、物性のバランスが低下していた(特に耐衝撃性が劣っていた)。比較例4は、(C)硬質スチレン系樹脂のAN単位含有量が42%を超えるため、耐衝撃性が劣り、熱変色が起こった。比較例5は、(A)、(B)、(C)成分の混合比率が発明範囲外であるため、耐衝撃性および艶消し性が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、耐衝撃性、流動性、成形加工性に優れ、かつ艶消し性に優れており、広範囲の用途、例えば、自動車製品としては、内外装品に使用でき、特に艶消し性を生かして、メータークラスター、ハンドルカバー、センタークラスター、デフロスターグリル、コンソールボックス等の内装品に有用であり、電化製品としては、液晶テレビ、ブラウン管テレビ、プラズマテレビの画面枠、チルト台、通信機器としては、携帯電話・固定電話、携帯端末(PDA)のハウジング、その他雑貨等のパーツ、ハウジング等に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリカーボネート樹脂30〜80質量部と、
(B)ゴム補強スチレン系樹脂5〜40質量部と、
(C)硬質スチレン系樹脂15〜65質量部とを含有する熱可塑性樹脂組成物であり[(A)ポリカーボネート樹脂、(B)ゴム補強スチレン系樹脂、および(C)硬質スチレン系樹脂の合計100質量部]、
(B)ゴム補強スチレン系樹脂が、ゲル含有量50〜98質量%、平均粒子径50nm〜2000nmのゴム質重合体20〜80質量部の存在下で、シアン化ビニル単量体10〜40質量%、芳香族ビニル単量体60〜90質量%、および共重合可能な他の単量体0〜30質量%からなる単量体混合物80〜20質量部をグラフト重合させたグラフト重合体であり[ゴム質重合体および単量体混合物の合計100質量部]、
(C)硬質スチレン系樹脂が、シアン化ビニル単量体10〜42質量%、芳香族ビニル単量体58〜90質量%、および共重合可能な他の単量体0〜30質量%を重合させた重合体であり、かつ、
(B)ゴム補強スチレン系樹脂のグラフト部中のシアン化ビニル単量体単位の含有量(質量%)と、(C)硬質スチレン系樹脂中のシアン化ビニル単量体単位の含有量(質量%)との差が、3質量%を超えることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形した成形品。

【公開番号】特開2006−45337(P2006−45337A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−227792(P2004−227792)
【出願日】平成16年8月4日(2004.8.4)
【出願人】(502163421)ユーエムジー・エービーエス株式会社 (116)
【Fターム(参考)】