説明

熱可塑性樹脂組成物およびそれからなる繊維構造物

【課題】難燃性およびドリップ抑制の効果、生産安定性を満足する熱可塑性樹脂組成物およびそれからなる繊維構造物を提供する。
【解決手段】ポリオルガノシロキサンを1種または2種以上含有している熱可塑性樹脂から構成される樹脂組成物において、該ポリオルガノシロキサンが下記一般式(1)で表されるポリオルガノシロキサン樹脂であり、その重量平均分子量が4000以上20000未満であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
mSi(−OR’)n(−OH)p(4-m-n-p)/2 (1)
[式中、Rは水素原子またはアルコキシ基を除いた一価の有機基を示し、R’は置換または非置換のアリール基、シクロアルキル基、炭素原子数8以上の直鎖状および分岐状アルキル基から選択された一価の炭化水素基を示し、m、n、pは1.0≦m<2.0、0<n≦1.5、0≦p≦1.5の範囲を満たす数であり、1.0≦m+n+p≦3.0を満たす数である。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物およびそれからなる繊維構造物に関し、とくに、難燃性、ドリップ抑制の効果が高く、且つポリオルガノシロキサン樹脂が添加された熱可塑性樹脂および繊維構造物を安定的に製造可能な熱可塑性樹脂組成物およびそれからなる繊維構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、易燃焼性樹脂、易燃焼性繊維などの素材の難燃化手法として、含塩素系難燃剤、含臭素系難燃剤等のハロゲン系難燃剤、またはハロゲン系難燃剤とアンチモン系難燃剤を含有させた素材が数多く提案されている。しかしながら、これらの素材は難燃性には優れるもののハロゲン系難燃剤は燃焼時にハロゲン化ガスを発生する懸念があるなどの問題があり、これらの問題を解決するために数多くの検討がなされている。
【0003】
例えばハロゲン元素やアンチモン元素を含まないリン化合物を使用したリン系難燃剤を含有した素材が数多く提案されているが、難燃性はハロゲン系、アンチモン系難燃剤よりも低く、難燃性能は不十分である。
【0004】
これら問題を解決するためにハロゲン元素、アンチモン元素、リン元素を含まないシリコーン系化合物を使用した検討が行われている。このシリコーン系化合物とは1官能性のR3SiO0.5(M単位)、2官能性のR2SiO1.0(D単位)、3官能性のRSiO1.5(T単位)、4官能性のSiO2.0(Q単位)で示される構造単位のいずれかから構成されるものである。
【0005】
このシリコーン系化合物を利用して難燃性を付与する例として、非シリコーンポリマーとモノオルガノシロキサンとの混練物からなる溶融加工可能なポリマー組成物が提案されている(特許文献1参照)。
【0006】
確かにこの例はハロゲン元素やアンチモン元素、リン元素を含まず、ある程度の難燃性を発現することが可能であるが、難燃性を発現するためには非シリコーンポリマーとモノオルガノシロキサンの配合比を10:1乃至1:5の範囲にすることが必要であり、モノオルガノシロキサンの添加量が多く、コストアップや非シリコーンポリマーの物性低下を招く問題がある。また、ドリップを抑制することはできないといった課題がある。
【0007】
また、芳香環を含有する非シリコーン樹脂(A)と、式R2 SiO1.0で示される単位と式RSiO1.5 で示される単位を持ち、重量平均分子量が10,000以上270,000以下であり、かつ、前記Rが炭化水素基であるシリコーン樹脂(B)とを含有する難燃性樹脂組成物が提案されている(特許文献2参照)。
【0008】
この例もある程度の難燃性を発現することが可能であるが、製造時の熱によりシリコーン樹脂の縮合反応が起こり、シリコーン樹脂の物性変化による難燃性の低下や生産安定性を満足することはできないといった課題がある。
【0009】
シリコーン樹脂の熱による縮合はシリコーン樹脂中のシラノール末端の縮合により起こることが知られている。
【0010】
縮合をを抑えるため、シラノール基をR3SiO1/2 やアルコキシ基により封鎖する方法やが提案されている(特許文献3、4)。しかし、シラノール基をR3SiO1/2 により封鎖することにより燃焼時のドリップ性抑制効果が得られず、アルコキシ基では縮合の抑制効果が不十分であり溶融加工時の縮合により生産の安定性に課題があった。
【特許文献1】特開昭54−36365号公報
【特許文献2】特開平10−139964号公報
【特許文献3】特開2000−212459号公報
【特許文献4】特表2005−526164号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は,前記した現状に鑑み、熱可塑性樹脂組成物および繊維構造物の難燃性およびドリップ抑制の効果、生産安定性を満足する熱可塑性樹脂組成物およびそれからなる繊維構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明に係る熱可塑性樹脂組成物は、ポリオルガノシロキサンを1種または2種以上含有している熱可塑性樹脂から構成される樹脂組成物において、該ポリオルガノシロキサンが下記(A)、(B)を満たすことを特徴とするものからなる。
(A)該ポリオルガノシロキサンが下記一般式(1)で表されるポリオルガノシロキサン樹脂であること
mSi(−OR’)n(−OH)p(4-m-n-p)/2 (1)
[式中、Rは水素原子またはアルコキシ基を除いた一価の有機基を示し、R’は置換または非置換のアリール基、シクロアルキル基、炭素原子数8以上の直鎖状および分岐状アルキル基から選択された一価の炭化水素基を示し、m、n、pは1.0≦m<2.0、0<n≦1.5、0≦p≦1.5の範囲を満たす数であり、1.0≦m+n+p≦3.0を満たす数である。]
(B)該ポリオルガノシロキサンの重量平均分子量が4000以上20000未満であること
【0013】
また、本発明に係る繊維構造物は、上記のような熱可塑性樹脂組成物を用いたことを特徴とするものからなる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、難燃樹脂素材や難燃繊維素材として、具体的には、産業用途、衣料用途、非衣料用途などにおいて、難燃性が高く、ドリップ抑制の効果に優れ、且つ生産安定性の高い熱可塑性樹脂組成物およびそれを用いた繊維構造物を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明について詳細に説明する。
熱可塑性樹脂は本発明に係る熱可塑性樹脂組成物の主成分であり、ポリエステル、ポリアミドおよびポリオレフィンから選ばれた樹脂を好適に使用することができ、特に、ポリエステルを好適に使用できる。本発明において、これらの熱可塑性樹脂は単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
【0016】
上記のようなポリエステルとして具体的には、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート、ポリエチレン−1,2−ビス(2−クロロフェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボキシレート、ポリ−L−乳酸、ポリ−D−乳酸等が挙げられる。本発明では、なかでも最も汎用的に用いられているポリエチレンテレフタレートまたは主としてエチレンテレフタレート単位を含むポリエステル共重合体を用いて好適である。また、これらのポリエステルには、共重合成分としてアジピン酸、イソフタル酸、セバシン酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等のジカルボン酸及びそのエステル形成性誘導体、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリプロピレングリコール、シクロヘキサンジメタノール等のジオキシ化合物、p−(β−オキシエトキシ)安息香酸等のオキシカルボン酸及びそのエステル形成物誘導体等が共重合されていてもよい。
【0017】
また、上記のようなポリアミドとして具体的には、−CONH−の繰り返し構造を持つナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12等が挙げられる。
【0018】
また、上記のようなポリオレフィンとして具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。
【0019】
本発明では、熱可塑性樹脂としてポリエステルを選択することにより、熱可塑性樹脂組成物および該熱可塑性樹脂組成物からなる繊維構造物の燃焼時のドリップ抑制の効果および難燃性を飛躍的に向上させることができる。
【0020】
熱可塑性樹脂は、樹脂組成物に対して重量比で50%以上含有していることが好ましく、70%以上含有していることがさらに好ましい。しかし、ドリップ抑制の効果、難燃性、樹脂組成物の物性、生産安定性などの低下が無い範囲で、他の有機ポリマーや無機化合物とのブレンド、アロイ、コンポジットなどを用いることも可能である。
【0021】
本発明に係る熱可塑性樹脂組成物は、下記(A)、(B)を満たすポリオルガノシロキサンを1種類または二種類以上含有することを特徴とする。
(A)該ポリオルガノシロキサンが下記一般式(1)で表されるポリオルガノシロキサン樹脂であること。
mSi(−OR’)n(−OH)p(4-m-n-p)/2 (1)
[式中、Rは水素原子またはアルコキシ基を除いた一価の有機基を示し、R’は置換または非置換のアリール基、シクロアルキル基、炭素原子数8以上の直鎖状および分岐状アルキル基から選択された一価の炭化水素基を示し、m、n、pは1.0≦m<2.0、0<n≦1.5、0≦p≦1.5の範囲を満たす数であり、1.0≦m+n+p≦3.0を満たす数である。]
(B)該ポリオルガノシロキサンの重量平均分子量が4000以上20000未満であること。
かかる構造上の特徴(A)および所定の重量平均分子量の範囲(B)を満たすポリオルガノシロキサンを選択することにより、本発明に係る熱可塑性樹脂組成物は、難燃性およびドリップ抑制の効果に優れ、且つ高い生産安定性を示すものである。
【0022】
ポリオルガノシロキサンの構造上の特徴(A)について:
上述の如く、本発明で用いられるポリオルガノシロキサンは下記一般組成式(1):
mSi(−OR’)n(−OH)p(4-m-n-p)/2 (1)
[式中、Rは水素原子またはアルコキシ基を除いた一価の有機基を示し、R’は置換または非置換のアリール基、シクロアルキル基、炭素原子数8以上の直鎖状および分岐状アルキル基から選択された一価の炭化水素基を示し、m、n、pは1.0≦m<2.0、0<n≦1.5、0≦p≦1.5の範囲を満たす数であり、1.0≦m+n+p≦3.0を満たす数である。]で表されることを第一の特徴とする。
【0023】
上記Rは水素原子またはアルコキシ基を除いた一価の有機基であり、炭素原子数1以上10以下の置換または非置換の一価の炭化水素基であることが好ましく、炭素原子数1〜8のアルキル基、アリール基、アラルキル基、シクロアルキル基、ハロゲン置換アルキル基などが好適である。特に、工業的にはメチル基とフェニル基が好ましく、得られるポリオルガノシロキサン樹脂を難燃剤に用いる場合には、Rがアリール基、特にはフェニル基であることが好ましい。
【0024】
上記官能基(−OR’)は、シラノール基(−OH)の水素原子が所定の官能基R’で置換されてなる官能基であり、かかる官能基は、本発明に係る熱可塑性樹脂組成物の難燃性、ドリップ抑制の効果および生産安定性を改善するために必須となる官能基である。
【0025】
具体的には、一般組成式(1)で示されるポリオルガノシロキサン中のR’は置換または非置換のアリール基、シクロアルキル基、炭素原子数8以上の直鎖状および分岐状アルキル基から選択された炭化水素基であることが必要である。かかるR’を選択することにより、上記ポリオルガノシロキサンの熱安定性が改善される。すなわち、熱可塑性樹脂組成物、特には該熱可塑性樹脂組成物からなる繊維構造物の製造時に受ける熱に伴う、ポリオルガノシロキサンの縮合が防止され、且つ、該ポリオルガノシロキサンを含む熱可塑性樹脂組成物の難燃性、ドリップ性の抑制が実現される。
【0026】
官能基R’は、好適には、一般式:−(CH2r−CH3で表される炭素原子数8〜21の直鎖状アルキル基(式中、rは7〜20の整数)、下記一般式(2)、(3)で表される有機基から選択される1種類または2種類以上の基である。これらの官能基を用いると、高温下でもポリオルガノシロキサンの分子量増加、軟化点の消失の抑制効果が大きく、且つ該ポリオルガノシロキサンを含む熱可塑性樹脂組成物の難燃性が向上し、ドリップ性が抑制される。軟化点(ガラス転移点)の消失の抑制効果の点から、炭素原子数が13〜21の直鎖状アルキル基、下記一般式(2)、(3)で表される有機基から選択される1種類または2種類以上の基であることが好ましい。最も好ましくは、芳香環構造を有する有機基である、下記一般式(2)、(3)で表される有機基である。なお、k=0の時、一般式(2)で示される官能基R’はフェニル基であり、一般式(3)で示される官能基R’はナフチル基である。
【0027】
【化1】

[式中、Xはポリオルガノシロキサンとの結合部位を示し、R’’は同一または異なる炭素原子数1〜14の炭化水素基を示し、kは0〜3の整数を示す。]
【0028】
【化2】

[式中、Xはポリオルガノシロキサンとの結合部位を示す。]
【0029】
官能基R’は、具体的には、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等の炭素原子数8〜21の直鎖状アルキル基、3,5,5−トリメチルヘキシル基、3,7−ジメチルオクチル基、6−プロピルノニル基、12−メチルトリデシル基、2−メチルテトラデシル基、5−メチルテトラデシル基、2,2−ジメチルテトラデシル基、2−ヘキシルデシル基、2−ヘプチルウンデシル基等の炭素原子数8〜21の分岐状アルキル基、炭素原子数8〜21のシクロアルキル基、下記一般式(4)〜(9)で示される芳香環構造を有する有機基が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0030】
【化3】

【0031】
【化4】

【0032】
【化5】

【0033】
【化6】

【0034】
【化7】

【0035】
【化8】

【0036】
上記式中、Xはポリオルガノシロキサンとの結合部を示す。
【0037】
一方、上記官能基(−OR’)に代えて、炭素原子数7以下のアルキル基(RL)を含むアルコキシ基(−ORL)を選択した場合、高温下で、該ポリオルガノシロキサンの縮合が容易に進行して、その分子量が増加し、軟化点が消失する。かかるポリオルガノシロキサン樹脂は、熱可塑性樹脂組成物の加工温度下で不溶融化しやすいので、例えば、二軸混練機や紡糸機を用いた加工時にフィルター詰まりによる濾過圧力の上昇や分散不良の原因となり、生産性が低下する。
【0038】
また、上記官能基(−OR’)に代えて、例えばトリメチルシロキシ基(−OSi(CH33)を選択した場合、高温下で、該ポリオルガノシロキサンの縮合は抑制されるが、該ポリオルガノシロキサンを含む熱可塑性樹脂組成物の難燃性が低下し、燃焼時のドリップが発生する。
【0039】
ポリオルガノシロキサンの重量平均分子量(B)について:
本発明のポリオルガノシロキサンはゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定され、ポリスチレン換算で求められる重量平均分子量が4000以上20000未満であることを特徴とする。ポリオルガノシロキサンの重量平均分子量が前記範囲にある場合、ポリオルガノシロキサンが適度な溶融粘度で軟化するため異物となることがなく分散性が良好となり、熱可塑性樹脂組成物の良好な加工性を発現することができる。また、ポリオルガノシロキサンの重量平均分子量が5000以上10000未満の範囲にあることが、得られる熱可塑性樹脂組成物の難燃性が向上し、ドリップ性の抑制および加工性(生産安定性)の点から、特に好ましい。
【0040】
一方、該ポリオルガノシロキサンの重量平均分子量が前記上限を超えると、溶融混練の際にポリオルガノシロキサンの粘度が高くポリオルガノシロキサンの分散性が悪化したり、ポリオルガノシロキサンの軟化点が消失してポリオルガノシロキサンが異物となり加工性が悪化する。また、該ポリオルガノシロキサンの重量平均分子量が前記下限未満では、ポリオルガノシロキサンの溶融粘度が低下し分散性が悪化し、該ポリオルガノシロキサンを含む熱可塑性樹脂組成物の加工性が悪化するという問題がある。
【0041】
ポリオルガノシロキサンのガラス転移点について:
本発明におけるポリオルガノシロキサンは、上記(A)および(B)を満たすものであるが、さらに、そのガラス転移点が100℃以上290℃以下であると熱可塑性樹脂組成物の成形加工性が良好となり好ましい。ポリオルガノシロキサンのガラス転移点が290℃を超えると成形加工の際にポリオルガノシロキサンが軟化せずに異物となり成形加工性が低下する場合があり好ましくない。成型加工性の点から、より好ましいガラス転移点の範囲は100℃以上200℃以下である。
【0042】
本発明に係るポリオルガノシロキサンを含む熱可塑性樹脂組成物では、樹脂が経時で変化して難燃性、ドリップ抑制の効果、生産安定性を悪化させることが防止される。また、本発明におけるポリオルガノシロキサンは製造時等に受ける熱によってポリオルガノシロキサン樹脂の縮合反応が容易に進行しないため、分子量の増加が抑制され、軟化点が維持される。このため、本発明に係るポリオルガノシロキサンを含む熱可塑性樹脂組成物には、二軸混練機や紡糸機を用いた加工時にフィルター詰まりによる濾過圧力の上昇や分散不良を起こすことなく、容易に繊維構造物の形状に加工することができ、生産性に優れるという利点がある。
【0043】
このようなポリオルガノシロキサンの製造方法は特に限定されるものではない。例えば、目的とするポリオルガノシロキサンの分子構造及び分子量に従ってオルガノクロロシラン類に適宜の水を反応させた後、必要に応じて縮合反応促進触媒を用いて更に高分子量化し、また、添加した有機溶媒、副生する塩酸や低沸点化合物を除去することによって原料となるシラノール基(−OH)含有ポリオルガノシロキサンを得、その後アルコール系化合物またはフェノール系化合物を添加して、ポリオルガノシロキサン中のシラノール基(−OH)の一部または全部と反応させることにより、ポリオルガノシロキサン樹脂中に、該シラノール基の水素原子を置換して、上記官能基(−OR’)を有する本発明のポリオルガノシロキサンを製造することができる。
【0044】
該オルガノクロロシラン類の具体例として、テトラクロロシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン等のアルキルクロロシラン;フェニルトリクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、トリフェニルクロロシラン、フェニルメチルジクロロシラン等のフェニルクロロシラン;トリフルオロプロピルトリクロロシラン、トリフルオロプロピルメチルジクロロシラン等のフッ化アルキルクロロシラン;テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン等のアルキルアルコキシシラン;トリフェニルメトキシシラン、トリフェニルエトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジエトキシシラン等のフェニルアルコキシシラン;トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、トリフルオロプロピルメチルジメトキシシラン、トリフルオロプロピルメチルジエトキシシラン等のフッ化アルキルアルコキシシランが例示される。
【0045】
原料となるシラノール基(−OH)含有ポリオルガノシロキサンは、難燃性の観点から該オルガノクロロシラン、オルガノアルコキシシランがアリール基、特にはフェニル基を含有するものであることが特に好ましい。すなわち、オルガノクロロシランがフェニルクロロシランとアルキルクロクロロシランを100/0〜1/99の比で混合したものであり、オルガノアルコキシシランがフェニルアルコキシシランとアルキルアルコキシシランを100/0〜1/99の比で混合したものであることが好ましい。ここで、フェニルクロロシラン、アルキルクロロシラン、フェニルアルコキシシランおよびアルキルアルコキシシランは前記に例示したシラン類が例示される。オルガノクロロシランがフェニルクロロシランとアルキルクロクロロシランの混合比あるいはフェニルアルコキシシランとアルキルアルコキシシランの混合比は100/0〜50/50であることが更に好ましく、100/0〜90/10であることが難燃性の点から特に好ましい。
【0046】
原料となるシラノール基(−OH)含有ポリオルガノシロキサンは、特に好適には、その重量平均分子量が1000〜3000のシラノール基含有オルガノポリシロキサンを、有機溶媒中で縮合反応促進触媒を用いて更に高分子量化し、重量平均分子量Mwが4000≦Mn<20000の範囲にあるシラノール基を含有するポリオルガノシロキサンを調製することが好ましい。
【0047】
かかるシラノール基およびフェニル基を含有するポリオルガノシロキサンの一般組成式は、
m Si(OH)t(4-m-t)/2
で表される。
[式中、R前記同様の基であり、m、tは1.0≦m<2.0、0<t≦3.0の範囲を満たす数であり、1.0≦m+t≦3.0を満たす数である。]
【0048】
原料となるシラノール基(−OH)含有ポリオルガノシロキサンは最も好適には、重量平均分子量Mwが4000≦Mw<20000の範囲を満たす下記一般式で表されるシラノール基含有フェニルポリシロキサンである。かかるシラノール基含有フェニルポリシロキサンを本発明におけるポリオルガノシロキサン原料に用いることが、難燃性の点から特に好ましい。
R’’’ m1(C65m2Si(OH)t(4-m1-m2-t)/2
[式中、R’’’はフェニル基、水素原子またはアルコキシ基を除いた一価の有機基であり、m2、tは1.0≦m1+m2<2.0、0<t≦3.0の範囲を満たす数であり、1.0≦m1+m2+t≦3.0を満たす数である。なお、R’’’は一価のアルキル基であることが好ましく、m1=0であることが最も好ましい。]
【0049】
上記のポリオルガノシロキサン原料を調製するための縮合反応促進触媒の具体例として、ジブチルスズジアセテ−ト,ジブチルスズジオクテ−ト,ジブチルスズジラウレート,ジブチルスズジマレート,ジオクチルスズジラウレート,ジオクチルスズジマレート,オクチル酸スズなどの有機酸スズ塩;テトラ(i−プロピル)チタネート、テトラ(n−ブチル)チタネート、ジブトキシビス(アセチルアセトナート)チタン,イソプロピルトリイソステアロイルチタネート,イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート,ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネートなどの有機酸チタン塩;テトラブチルジルコネート,テトラキス(アセチルアセトナート)ジルコニウム,テトライソブチルジルコネート,ブトキシトリス(アセチルアセトナート)ジルコニウム,ナフテン酸ジルコニウム,オクチル酸ジルコニウムなどの有機酸ジルコニウム塩;トリス(エチルアセトアセテート)アルミニウム,トリス(アセチルアセトナート)アルミニウムなどの有機酸アルミニウム塩;ナフテン酸亜鉛,ギ酸亜鉛,亜鉛アセチルアセトナート,鉄アセチルアセトナート,ナフテン酸コバルト,オクチル酸コバルトなどの有機酸金属塩が挙げられる。
【0050】
これらの縮合反応促進触媒の使用量は任意であるが、上記のポリオルガノシロキサン原料の固形分に対し、0.0001〜10質量%が好ましく、0.001〜1質量%であることが特に好ましい。前記下限未満の使用量では、該ポリオルガノシロキサン原料を製造するための工程が長時間を要し、作業効率が低下する可能性がある。一方、該触媒の使用量が前記上限を超えると、該ポリオルガノシロキサン原料を製造するための反応の制御が困難になり、製造後のポリオルガノシロキサン樹脂の物性が経時的に変化するおそれがある。さらに、工業上、大量の縮合反応促進触媒を使用することは経済的ではない。
【0051】
加水分解縮合反応または縮合反応の温度と時間は、本発明におけるポリオルガノシロキサン樹脂が熱可塑性樹脂組成物に難燃性を付与する成分であるから、前記の条件(B)、すなわち、その重量平均分子量Mwが4000≦Mw<20000の範囲を満たす値に達するように温度と時間を調整する。原料の反応性や、実施スケールにより変化する場合があるが、通常は10〜150℃の温度で1〜29時間の反応時間を選択することによりかかる重量平均分子量Mwを有するポリオルガノシロキサン樹脂を製造することができる。また、重量平均分子量が上記値に達したことは、反応溶液のGPCを測定することにより、容易に確認することができる。
【0052】
また、上記加水分解縮合反応または縮合反応に用いる有機溶媒は、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素、ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素、メタノール、エタノール、2−プロパノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類などの溶剤から選択することができる。
【0053】
さらに、ポリオルガノシロキサン樹脂中に残留する該縮合反応促進触媒残渣により、製造後のポリオルガノシロキサン樹脂が経時で変化して難燃性、ドリップ抑制の効果、生産安定性を悪化させることを防止する目的で、縮合反応促進触媒の失活剤を添加してもよい。かかる失活剤は、失活効果の観点から、リン原子、硫黄原子または窒素原子を含有する化合物が好適であり、トリ−n−ブチルホスフィンオキサイド(TBPOと略記)、トリ−tert−ブチルホスフィンオキサイド(TTBPOと略記)、トリフェニルホスフィンオキサイド(TPPOと略記)、トリベンジルホスフィンオキサイド(TBZPOと略記)、トリシクロヘキシルホスフィンオキサイド(TCHPOと略記)、トリ(4−メチルフェニル)ホスフィンオキサイド(TPTPOと略記)、トリ(4−tert−ブチルフェニル)ホスフィンオキサイド(TTBPPOと略記)、トリクレジルホスフィンオキサイドなどのホスフィンオキサイド類が特に好ましい。
【0054】
これらの失活剤を加水分解反応後または縮合反応後のポリオルガノシロキサンを含む溶液に添加する際には、好ましくは100μm以下、さらに好ましくは50μm以下の平均粒径に粉砕して添加することが好ましい。
【0055】
シラノール基(−OH)含有ポリオルガノシロキサン原料のシラノール基と反応させるアルコール系化合物として、n−オクタノール、2オクタノール、ノニルアルコール、2−ノナノール、3−ノナノール、4−ノナノール、5−ノナノール、3,5,5−トリメチル−1−ヘキサノール、デシルアルコール、イソデシルアルコール、ウンデシルアルコール、2−ウンデカノール、ドデシルアルコール、2−ドデカノールなどが挙げられるが、炭素原子数8以上のアルコール系化合物であればこの限りではない。また、シラノール基と反応させるフェノール系化合物の具体例として、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、2,3,5−トリメチルフェノール、2−ビニルフェノール、4−ビニルフェノール、2−エチルフェノール、4−エチルフェノール、2−アリルフェノール、2−n−プロピルフェノール、2−イソプロピルフェノール、2−イソプロピル−5−メチルフェノール、3−メチル−4−イソプロピルフェノール、4−n−ブチルフェノール、2−s−ブチルフェノール、4−s−ブチルフェノール、3−t−ブチルフェノール、4−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−s−ブチルフェノール、2,4−ジ−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,4,6−トリ−t−ブチルフェノール、4−n−ペンチルフェノール、4−t−ペンチルフェノール、2,4−ジ−t−ペンチルフェノール、4−n−ヘキシルフェノール、4−n−ヘプチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,4−ジ−t−ブチル−5−メチルフェノール、2,4,6−トリ−t−ブチルフェノール、4−n−オクチルフェノール、4−t−オクチルフェノール、4−ノニルフェノール、2,4−ジ−ノニルフェノール、4−ドデシルフェノール、2−フェニルフェノール、4−フェニルフェノール、4−α−クミルフェノール、2,4,6−トリ(α−メチルベンジル)フェノール1−ナフトール、α−ナフトール、β−ナフトールなどが挙げられるが、フェノール系化合物であればこの限りではない。中でも、p−フェニルフェノール、p−α−クミルフェノール、β―ナフトールが取り扱い性も容易であり、且つ、得られたポリオルガノシロキサンを含有した熱可塑性難燃性樹脂の難燃性、ドリップ抑制性、溶融成形性が良好であり好ましい。
【0056】
アルコール系化合物またはフェノール系化合物とシラノール基(−OH)含有ポリオルガノシロキサン原料は、任意の条件下で反応させることができ、シロキサン原料を含む有機溶媒中で反応させても良く、乾燥後のシロキサン原料と直接溶融混練してもよい。
【0057】
例えば、有機溶媒中でシラノール基(−OH)含有ポリオルガノシロキサン原料の重量平均分子量が4000≦Mw<20000の範囲を満たす値に達したことを確認後、反応溶液を冷却し、前記のアルコール系化合物またはフェノール系化合物を1種類または二種類以上を添加して、系内から出てくる水分を抜きながら、加熱攪拌することにより下記一般組成式(1)で表されるポリオルガノシロキサンを得ることができる。
mSi(−OR’)n(−OH)p(4-m-n-p)/2 (1)
[式中、Rは水素原子またはアルコキシ基を除いた一価の有機基を示し、R’は置換または非置換のアリール基、シクロアルキル基、炭素原子数8以上の直鎖状および分岐状アルキル基から選択された一価の炭化水素基を示し、m、n、pは1.0≦m<2.0、0<n≦1.5、0≦p≦1.5の範囲を満たす数であり、1.0≦m+n+p≦3.0を満たす数である。]
【0058】
同様に、有機溶媒中でシラノール基(−OH)含有ポリオルガノシロキサン原料の重量平均分子量が4000≦Mw<20000の範囲を満たす値に達したことを確認後、反応溶液を冷却し、脱水、溶媒除去等の公知の方法で後処理を行なうことにより、所定の重量平均分子量Mwを有するシラノール基(−OH)含有ポリオルガノシロキサン原料を乾燥固体として得ることができる。該ポリオルガノシロキサン原料の乾燥固体を反応容器に移し、前記のアルコール系化合物またはフェノール系化合物を1種類または二種類以上を添加して、系内から発生する水分を抜きながら、150〜350℃で加熱融解させ、機械力を用いてシラノール基(−OH)含有ポリオルガノシロキサン原料と前記のアルコール系化合物またはフェノール系化合物を溶融混練することにより下記一般組成式(1)で表されるポリオルガノシロキサンを得ることができる。
mSi(−OR’)n(−OH)p(4-m-n-p)/2 (1)
[式中、Rは水素原子またはアルコキシ基を除いた一価の有機基を示し、R’は置換または非置換のアリール基、シクロアルキル基、炭素原子数8以上の直鎖状および分岐状アルキル基から選択された一価の炭化水素基を示し、m、n、pは1.0≦m<2.0、0<n≦1.5、0≦p≦1.5の範囲を満たす数であり、1.0≦m+n+p≦3.0を満たす数である。]
【0059】
次に本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法について説明する。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は前記したポリオルガノシロキサンを含有する樹脂組成物であり、公知の方法により熱可塑性樹脂組成物中に添加することができる。例えば、二軸押し出し機やバンバリーミキサーなどにより熱可塑性樹脂とポリオルガノシロキサンを混合する方法が挙げられるが、熱可塑性樹脂中に混合、分散されればこれに限るものではない。
【0060】
また、熱可塑性樹脂組成物に対するポリオルガノシロキサンの含有量は1〜50重量%以下が好ましい。ポリオルガノシロキサンの添加量がこの範囲より少ない場合には十分な難燃性能を発現せず、また逆にこの範囲より多い場合には、ポリエステル本来が持つ物理的性質を損なうだけでなく、ポリエステル繊維を製造する際の、操業性も低下するので好ましくない。
【0061】
次に本発明の熱可塑性樹脂からなる繊維構造物について説明する。
繊維構造物を構成する熱可塑性樹脂とはポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートの石油系ポリエステルのいずれかであるほか、ポリ−L−乳酸、ポリ−D−乳酸の非石油系ポリエステルのいずれかである。繊維構造物を構成する熱可塑性樹脂と前記ポリオルガノシロキサンの配合比はドリップ抑制の効果、難燃性の観点から100:0.1以上100:10未満の範囲が好ましく、更に好ましくは100:1以上100:8以下である。ポリオルガノシロキサンを含有する繊維は繊維構造物中に主成分として含有していることが好ましく、繊維構造物に対して重量比で70%以上含有していることが好ましいがこの限りではなく、ドリップ抑制の効果や難燃性、樹脂組成物の物性低下や加工特性の低下が無い範囲で他の繊維との混紡や混繊などが可能である。
【0062】
また、本発明における繊維はフィラメントやステープルとして好適に用いることが可能であり、例えば衣料用途のフィラメントとしては単糸繊度が0.1dtexから十数dtexの範囲であり、総繊度として50dtexから300dtexでフィラメント数が10から100本の範囲である。また、このようにして得られたフィラメントは例えば一重組織である三原組織や変化組織、二重組織であるよこ二重組織やたて二重組織などの織物に製織し、繊維構造物として得ることができる。また、このときの繊維構造物の質量は50g/m2以上500g/m2以下の範囲である。
【0063】
また、例えば産業用途のフィラメントとしては単糸繊度が十数Dtexから数百Dtexの範囲であり、総繊度として数百Dtexから数千Dtexでフィラメント数が10から100本の範囲である。また、このようにして得られたフィラメントは衣料用途と同様に例えば一重組織である三原組織や変化組織、二重組織であるよこ二重組織やたて二重組織などの織物に製織し、繊維構造物として得ることができる。また、このときの繊維構造物の質量は300g/m2以上1500g/m2以下の範囲である。
【0064】
このようにして本発明のポリオルガノシロキサンを含有する繊維構造物は織物や編み物、不織布などの布帛形態として得ることが可能であり、繊維製品として特にドリップ抑制の効果や難燃性が必要な繊維製品、例えばカーシートやカーマットなどの車両内装材、カーテン、カーペット、椅子張り地などのインテリア素材、衣料素材などでドリップが抑制され、且つ難燃性を発現する繊維製品として好適に用いることができる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例および比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、下記の例において、「部」または「%」とあるのはそれぞれ「重量部」または「質量%」である。ポリオルガノシロキサン樹脂の重量平均分子量、ガラス転移点は以下に示す方法によりそれぞれ測定した。また、ポリオルガノシロキサン樹脂の平均構造式は29Si−NMRおよび1H−NMRを用いて同定した。
【0066】
(1)重量平均分子量
下記分析装置により平均分子量ゲルパーミエイションクロマトグラフィーにより求めた標準ポリスチレン換算重量平均分子量で評価した。
装置:HLC−8120GPC(東ソー株式会社製)
カラム:TSKgelG1000HHR(東ソー株式会社製)
測定温度:40℃(カラムオーブン温度)
流速:1cc/分
クロロホルム試料:オルガノポリシロキサン樹脂を1%クロロホルム溶液として使用
【0067】
(2)ガラス転移点
下記の装置を用いて下記の条件で測定した。
装置:セイコーインスツルメンツ社製TG−DTA
測定温度範囲:40〜300℃
昇温速度:10℃/min
測定雰囲気:N2
【0068】
(3)1H−NMR、29Si−NMR
JNM−EX400(日本電子株式会社製)を使用して、四塩化炭素を溶媒として1H−核および29Si−核磁気共鳴スペクトル分析を行い、オルガノポリシロキサン樹脂の平均構造式を同定した。
【0069】
(4)熱安定性試験
ポリオルガノシロキサンをオーブン中で290℃/15min/N2中で熱処理した後、重量平均分子量とガラス転移点を測定した。熱処理後の重量平均分子量が20000以下であり、そのガラス転移点(Tg)が消失していないものが熱安定性が優れていると判断した。
【0070】
(5)濾層の構成
紡糸機パック内の濾層の構成は下記の通りである。
サンド:30#−モランダムサンド(昭和電工株式会社製);220g
フィルター:15μm−”PRECISE”(登録商標) LFW-15(株式会社渡辺義一製作所製);1枚
フィルター濾過面積:44.2cm2
ポリマー吐出量:40g/min
フィルター濾過量:0.90g/(cm2・min)
【0071】
[実施例1]
撹拌機付きフラスコにフェニルシルセスキオキサン(分子量:2000、シラノール基含有量:6.0重量%)1000g及びトルエン700gを投入して、完全に溶解させた。次いでこれに、12%オクチル酸ジルコニウム(大日本インキ化学工業株式会社)10gを加え、トルエンリフラックス温度(110℃)まで加熱した。系内から出てくる水分を抜きながら、7時間縮合反応を継続した。少量サンプリングし、29Si−NMR、1H−NMRで測定を行ったところ、ポリオルガノシロキサンの平均構造式は、
(C65(OH)SiO2/234(C65SiO3/266
であり、その平均組成式は、
(C65)Si(OH)0.341.33
であった。シラノール基残存量は4.37%であった。
【0072】
その後、該シラノール基含有ポリオルガノシロキサン原料のトルエン溶液に、p−フェニルフェノール(PPOH)を400g加え、系内から出てくる水分を抜きながら、1時間過熱攪拌した。その後、反応後のトルエン溶液をスプレードライヤーで乾燥させ、白色粉体を得た。
【0073】
1H−NMRにより残存シラノール基量を測定したところ、ポリオルガノシロキサンに対して2.0%であり、p−フェニルフェノキシ基を有するポリオルガノシロキサンを得た。また、得られた重合体の重量平均分子量は5,400であり、ガラス転移点は120℃であった。
【0074】
得られたポリオルガノシロキサンの熱安定性試験を行った結果、表1に示す通り、分子量の増加が抑制されており、ガラス転移点も残っており、熱安定性に優れる結果が得られた。
【0075】
次にポリオルガノシロキサン10重量%とIV:0.65のポリエチレンテレフタレート90重量%をL/D:32.5、混練温度280℃、スクリュー回転数200rpmの条件で二軸押し出し機を用いて混練し、樹脂組成物を得た後、3mm角のチップにカッティングした。得られたチップを真空乾燥機で150℃、12時間、2Torrで乾燥した後、紡糸温度290℃、紡糸速度1500m/min、口金口径0.23mm−24H(ホール)、吐出量40g/minの条件で紡糸を行い、未延伸を得た。また、この紡糸中の濾過圧力を測定し、紡糸3時間後の濾加圧力P1から紡糸開始時の濾過圧力P0を引いたΔPを算出し(ΔP=P1−P0)、濾圧上昇を評価した。その結果、ΔPは0kg/cm2であり、生産安定性に優れる結果となった。ついで延伸機を用いて加工速度400m/min、延伸温度90℃、セット温度130℃の条件で延伸糸の繊度が85dtex−24フィラメントになるような延伸倍率で延伸を行い、延伸糸を得た。その後、得られた延伸糸を筒編み機で編物の繊維構造物を作製し、炭酸ナトリウム0.2g/L、界面活性剤0.2g/L(グランアップUS20)、処理温度/時間60℃/30分で精練し、JIS L1091 D法(1992)に準じて接炎回数とドリップ回数を評価した。尚、ドリップ回数とは燃焼評価中に試料から滴下物が滴下した回数である。その結果、表1に示す通りドリップ回数は0回であり、接炎回数も10回以上であり、難燃性、ドリップ抑制効果に優れる結果が得られた。
【0076】
[実施例2]
p−フェニルフェノール 400gをp−クミルフェノール(CPOH)500gに変更した以外は実施例1と同様にして、p−クミルフェノキシ基を有し、重量平均分子量が6300のポリオルガノシロキサンを得た。表1に示す通り、該ポリオルガノシロキサンは、熱安定性は高く、紡糸時の濾圧上昇ΔPも0kg/cm2であった。また、実施例1と同様にして得られた繊維の難燃性、ドリップ抑制効果にも優れる結果が得られた。
【0077】
[実施例3]
p−フェニルフェノール 400gを1―ナフトール(1−NPOH) 340gに変更した以外は実施例1と同様にして、1―ナフトキシ基を有し、重量平均分子量が6000のポリオルガノシロキサンを得た。表1に示す通り、該ポリオルガノシロキサンは、熱安定性は高く、紡糸時の濾圧上昇ΔPも0kg/cm2であった。また、実施例1と同様にして得られた繊維の難燃性、ドリップ抑制効果にも優れる結果が得られた。
【0078】
[実施例4]
p−フェニルフェノール 400gをフェノール(PhOH) 230gに変更した以外は実施例1と同様にして、フェノキシ基を有し、重量平均分子量が5200のポリオルガノシロキサンを得た。表1に示す通り、該ポリオルガノシロキサンは、熱安定性は高く、紡糸時の濾圧上昇ΔPも0kg/cm2であった。また、実施例1と同様にして得られた繊維の難燃性、ドリップ抑制効果にも優れる結果が得られた。
【0079】
[実施例5]
p−フェニルフェノール 400gをn−オクタノール(n-C8H17OH)300gに変更した以外は実施例1と同様にして、n−オクトキシ基を有し、重量平均分子量が6100のポリオルガノシロキサンを得た。表1に示す通り、該ポリオルガノシロキサンは、熱安定性は高く、紡糸時の濾圧上昇ΔPは10kg/cm2であった。また、実施例1と同様にして得られた繊維の難燃性、ドリップ抑制効果にも優れる結果が得られた。
【0080】
[実施例6]
p−フェニルフェノール400gを1−ドデカノール(n-C12H25OH)440gに変更した以外は実施例1と同様にして、1−ドデカノキシ基を有し、重量平均分子量が5500のポリオルガノシロキサンを得た。表1に示す通り、該ポリオルガノシロキサンは、熱安定性は高く、紡糸時の濾圧上昇ΔPは5kg/cm2であった。また、実施例1と同様にして得られた繊維の難燃性、ドリップ抑制効果にも優れる結果が得られた。
【0081】
[実施例7]
p−フェニルフェノール400gをn−ヘキサデカノール(n-C16H33OH)570gに変更した以外は実施例1と同様にして、n−ヘキサデカノキシ基を有し、重量平均分子量が6200のポリオルガノシロキサンを得た。表1に示す通り、該ポリオルガノシロキサンは、熱安定性は高く、紡糸時の濾圧上昇ΔPは5kg/cm2であった。また、実施例1と同様にして得られた繊維の難燃性、ドリップ抑制効果にも優れる結果が得られた。
【0082】
[実施例8]
p−フェニルフェノール400gをn−オクタデカノール(n-C18H37OH)639gに変更した以外は実施例1と同様にして、n−オクタデカノキシ基を有し、重量平均分子量が6100のポリオルガノシロキサンを得た。表1に示す通り、該ポリオルガノシロキサンは、熱安定性は高く、紡糸時の濾圧上昇ΔPも0kg/cm2であった。また、実施例1と同様にして得られた繊維の難燃性、ドリップ抑制効果にも優れる結果が得られた。
【0083】
[実施例9]
ポリオルガノシロキサンの重量平均分子量を9400とした以外は実施例1と同様にした。結果、表1に示す通り、熱安定性は高く、紡糸時の濾圧上昇ΔPも0kg/cm2であった。また、得られた繊維の難燃性、ドリップ抑制効果も優れる結果が得られた。
【0084】
[実施例10]
撹拌機付きフラスコにフェニルシルセスキオキサン(分子量:2000、シラノール基含有量:6.0重量%)1000g及びトルエン700gを投入して、完全に溶解させた。次いでこれに、12%オクチル酸ジルコニウム(大日本インキ化学工業株式会社)10gを加え、トルエンリフラックス温度(110℃)まで加熱した。系内から出てくる水分を抜きながら、7時間縮合反応を継続した。少量サンプリングし、29Si−NMR、1H−NMRで測定を行ったところ、ポリオルガノシロキサンの平均構造式は、
(C65(OH)SiO2/234(C65SiO3/266
であり、その平均組成式は、
(C65)Si(OH)0.341.33
であった。シラノール基残存量は4.37%であった。
【0085】
該シラノール基含有ポリオルガノシロキサン原料を含むトルエン溶液をスプレードライヤーで乾燥させ、該シラノール基含有ポリオルガノシロキサン原料の白色粉体を得た。このシラノール基含有ポリオルガノシロキサン原料の白色粉体とp−フェニルフェノール(PPOH)を400gを撹拌機付きフラスコに入れ、250℃の温度で溶融させ、2時間攪拌(溶融混練)を行った。1H−NMRにより残存シラノール器量を測定したところ、ポリオルガノシロキサンに対して2.0%であり、p−フェニルフェノキシ基を有するポリオルガノシロキサンを得た。また、得られた重合体の重量平均分子量は6000であり、ガラス転移点は140℃であった。
【0086】
得られたポリオルガノシロキサンの熱安定性試験を行った結果、表1に示す通り、該ポリオルガノシロキサンは、熱安定性に優れ、紡糸時の濾圧上昇ΔPは0kg/cm2であった。また、実施例1と同様にして得られた繊維の難燃性、ドリップ抑制効果にも優れる結果が得られた。
【0087】
[比較例1]
p−フェニルフェノールを添加しない以外は実施例1と同様にした。
その結果、表1に示す通り、290℃/15minの熱処理による分子量は大幅に増加し、ガラス転移点も消失していた。また、紡糸時の濾圧上昇ΔPも55kg/cm2であり、生産安定性が悪い結果となった。また、実施例1と同様にして得られた繊維の難燃性、ドリップ抑制効果に劣る結果が得られた。
【0088】
[比較例2]
p−フェニルフェノール400gをn−ヘキサノール(n−HXOH)240gに変更した以外は実施例1と同様にして、n−ヘキサノキシ基を有し、重量平均分子量が6000のポリオルガノシロキサンを得た。その結果、表1に示す通り、290℃/15minの熱処理による分子量は大幅に増加し、ガラス転位点も消失していた。また、紡糸時の濾圧上昇ΔPも50kg/cm2であり、生産性が悪い結果となった。また、実施例1と同様にして得られた繊維の難燃性、ドリップ抑制効果に劣る結果が得られた。
【0089】
[比較例3]
p−フェニルフェノールをトリメチルクロロシラン(TMSCl)に変更した以外は実施例1と同様にして、トリメチルシロキシ基を有し、重量平均分子量が6200のポリオルガノシロキサンを得た。その結果、表1に示す通り、290℃/15minの熱処理による分子量の増加は見られず、ガラス転位点も残っており熱安定性に優れていた。また、紡糸時の濾圧上昇ΔPも0kg/cm2であった。しかしながら、実施例1と同様にして得られた繊維は難燃性、ドリップ抑制効果が実施例に比して極めて劣る結果が得られた。
【0090】
[比較例4]
ポリオルガノシロキサンの重量平均分子量を29600とした以外は実施例1と同様にした。結果、表1に示す通り、熱処理後のガラス転移点(Tg)が消失しており、紡糸時の濾圧上昇ΔPも60kg/cm2であった。また、チップ中のポリオルガノシロキサンの分散性が悪かったため、紡糸時の糸切れが激しく繊維を得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明によれば、比較的高分子量かつガラス転移点の高いオルガノポリシロキサン樹脂を容易かつ再現性良く製造し得ると共に、得られたオルガノポリシロキサン樹脂の分子量およびガラス転移点の経時変化(特に熱経時変化)を抑制し、生産安定性に優れるという特徴を有する。また、かかるオルガノポリシロキサン樹脂は特に難燃剤成分として熱可塑性樹脂や繊維構造物に配合した場合、優れた難燃性を付与することができるという利点がある。
【0092】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオルガノシロキサンを1種または2種以上含有している熱可塑性樹脂から構成される樹脂組成物において、該ポリオルガノシロキサンが下記(A)、(B)を満たすことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
(A)該ポリオルガノシロキサンが下記一般式(1)で表されるポリオルガノシロキサン樹脂であること
mSi(−OR’)n(−OH)p(4-m-n-p)/2 (1)
[式中、Rは水素原子またはアルコキシ基を除いた一価の有機基を示し、R’は置換または非置換のアリール基、シクロアルキル基、炭素原子数8以上の直鎖状および分岐状アルキル基から選択された一価の炭化水素基を示し、m、n、pは1.0≦m<2.0、0<n≦1.5、0≦p≦1.5の範囲を満たす数であり、1.0≦m+n+p≦3.0を満たす数である。]
(B)該ポリオルガノシロキサンの重量平均分子量が4000以上20000未満であること
【請求項2】
該ポリオルガノシロキサンのガラス転移点が100℃〜290℃の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
R’が下記一般式(2)〜(4)で表される少なくとも1種の一価の炭化水素基であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【化1】

[式中、Xはポリオルガノシロキサンとの結合部位を示し、R’’は同一または異なる炭素原子数1〜14の炭化水素基を示し、kは0〜3の整数を示す。]
【化2】

[式中、Xはポリオルガノシロキサンとの結合部位を示す。]
X−(CH2r−CH3 (4)
[式中、Xはポリオルガノシロキサンとの結合部位を示し、rは7〜20の整数を示す。]
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物を用いた繊維構造物。

【公開番号】特開2008−297481(P2008−297481A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−146637(P2007−146637)
【出願日】平成19年6月1日(2007.6.1)
【出願人】(000110077)東レ・ダウコーニング株式会社 (338)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】