説明

熱可塑性樹脂組成物および樹脂成形品

【課題】 生分解性を保持すると共に、特に耐衝撃性等の機械的特性に優れ、総合的に優れた性能を有する、周辺環境への負荷が低減された熱可塑性樹脂組成物を提供することにある。
【解決手段】 (A)ポリオキシメチレン樹脂、及び(B)脂肪族ポリエステル樹脂からなる熱可塑性樹脂組成物であって、(B)脂肪族ポリエステル樹脂が、下記(I)式で表される脂肪族オキシカルボン酸単位を0〜30モル%、下記(II)式で表される脂肪族ジオール単位を35〜50モル%、及び下記(III)式で表される脂肪族ジカルボン酸単位
を35〜50モル%含むことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【化1】


(式中、R及びRは2価の脂肪族炭化水素基を示し、Rは直接結合または2価の脂肪族炭化水素基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主としてポリオキシメチレン樹脂と脂肪族ポリエステル樹脂からなる熱可塑性樹脂組成物およびこれを成形してなる樹脂成形品に関する。詳しくは、衝撃強度等の機械的特性が改良され、自動車、電気・電子機器、事務機械、産業機器等の部品材料として好適な、熱可塑性樹脂組成物及びこれを成形してなる樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジニアリングプラスチックスであるポリオキシメチレン樹脂は、その優れた機械的性質、摺動特性、摩擦・摩耗特性、耐薬品性等を有することから、自動車、OA機器等の基幹部品として多く用いられている。近年、この様な機器の高性能化により、ポリオキシメチレン樹脂に対しては、更なる耐衝撃性等の、機械強度改良が要求されている。
【0003】
また環境保全の観点から、成形品の廃棄時における減容化や、細粒化の容易さ、更には生分解性などの性能も要望されてきている。これらの要求を満たすため、ポリオキシメチレン樹脂に脂肪族ポリエステル樹脂を配合した種々の樹脂組成物が提案されている。
【0004】
例えばポリオキシメチレンと脂肪族系ポリエステルのブレンドにホルムアルデヒドを添加する技術が提案されている(例えば特許文献1参照)。しかしこの技術では、刺激臭の強いホルムアルデヒドを使用するので、吸入により眼・鼻・呼吸器が刺激され、高濃度になると呼吸困難・肺浮腫などを発生し、また接触により刺激性皮膚炎を起こす等、実用的ではなかった。
【0005】
一方、脂肪族エステル構造を持つ重合体とオキシメチレン構造を持つ重合体からなる樹脂組成物が提案されている(例えば特許文献2参照)。しかし、この様な樹脂組成物では、未だ衝撃強度の向上が不十分であった。またこの技術に於いては、脂肪族エステル構造を持つ重合体として、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート・アジペートおよび、脂肪族ポリエステルカーボネートが挙げられているが、実施例には脂肪族ポリエステルカーボネートが記載されているのみであり、カーボネート結合を持たない、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート・アジペート等によるポリオキシメチレンの衝撃強度改良については、示唆すらなかった。またオキシメチレン構造を持つ重合体としては、0.1〜20重量%の環状ホルマールおよび/または環状エーテルを重合させたオキシメチレン共重合体が好ましいとの記述はあるものの、衝撃強度の改良については、示唆すらなかった。
【0006】
【特許文献1】特開平5−43772号公報
【特許文献2】特開2000−17153号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、斯かる実情に鑑みなされたものであって、その目的は、生分解性を保持すると共に、耐衝撃性等の機械的特性に優れ、総合的に優れた性能を有する、樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、ポリオキシメチレン樹脂と、カーボネート結合を有しない、特定の脂肪族ポリエステル樹脂とからなる樹脂組成物が、生分解性を保持すると共に、耐衝撃性等の機械的特性が向上した樹脂組成物となることを見出し、本発明を
完成させた。
【0009】
即ち本発明の要旨は、 (A)ポリオキシメチレン樹脂、及び(B)脂肪族ポリエステル樹脂からなる熱可塑性樹脂組成物であって、(B)脂肪族ポリエステル樹脂が、下記(I)式で表される脂肪族オキシカルボン酸単位を0〜30モル%、下記(II)式で表される脂肪族ジオール単位を35〜50モル%、及び下記(III)式で表される脂肪族ジカル
ボン酸単位を35〜50モル%含むことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物、及びこれを成形してなる樹脂成形品に存する。
【0010】
【化1】

(式中、R及びRは2価の脂肪族炭化水素基を示し、Rは直接結合または2価の脂肪族炭化水素基を示す。)
【発明の効果】
【0011】
本発明の樹脂組成物は、生分解性を保持すると共に、機械的特性、特に耐衝撃性が向上し、総合的にバランスのとれた性能を有するため、環境に対応し得るエンジニアリングプラスチック材料として、各種構造体の材料として期待される。
【0012】
特には耐衝撃性が要求される各種構造体材料としての使用が期待される。具体的には航空機、ロケット、人工衛星などの航空・宇宙機体、鉄道、船艇、自動車、自動二輪車、自転車などの輸送機体の構造材や外板、圧力部材等;電気・電子機器における筐体や内部精密部品;筆記用具、机、椅子などの各種事務用品、各種の樹脂構造体を含む日用品等として好適に使用することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
(A)ポリオキシメチレン樹脂
本発明に用いる(A)ポリオキシメチレン樹脂は、オキシメチレン基(−CH2O−)
のみを構成単位として含むポリオキシメチレンホモポリマーだけでなく、該オキシメチレン基を主たる構成単位とし、炭素数2以上の、通常は炭素数2〜6のオキシアルキレン単位を含むポリオキシメチレンコポリマーをも含むものである。数平均分子量は適宜選択して決定すればよいが、通常、5000〜500000、好ましくは10000〜50000である。
【0015】
またポリオキシメチレンコポリマーにおいては、オキシメチレンユニットに対する炭素数2以上のオキシアルキレンユニットの含有量は適宜選択して決定すればよいが、このオキシアルキレンユニットの含有量が多過ぎると、機械物性が低下する場合があるので、通常、このオキシメチレンユニット100molに対してオキシアルキレンユニットが2〜20molであり、中でも3.5〜10molであることが好ましい。オキシアルキレン単位を構成する分子構造は、一種でも、また任意の割合からなる2種類以上であってもよい。更に、ポリオキシメチレンコポリマーの重合形態も、ランダム、ブロック、グラフト等、任意であり、加熱により溶融可塑化可能であれば、如何なる重合形態でもよい。
【0016】
(B)脂肪族ポリエステル樹脂
本発明に用いる(B)肪族ポリエステル樹脂は、下記(I)、(II)及び(III)で示
されるモノマー単位を各々所定のモル%で含有するポリエステルである。詳しくは、(I)式で表される脂肪族オキシカルボン酸単位を0〜30モル%、(II)式で表される脂肪族ジオール単位を35〜50モル%、及び(III)式で表される脂肪族ジカルボン酸単位
を35〜50モル%含む脂肪族ポリエステル樹脂である。
【0017】
【化2】

(式中、R及びRは2価の脂肪族炭化水素基を示し、Rは直接結合または2価の脂肪族炭化水素基を示す。)
【0018】
本発明に用いる(B)脂肪族ポリエステル樹脂は、これら各モノマー単位に対応する脂肪族オキシカルボン酸、脂肪族ジオール、並びに脂肪族ジカルボン酸の所定量を、共重合等、従来公知の任意の方法により反応させて製造することが出来る。また、(B)脂肪族ポリエステル樹脂の数平均分子量は任意であり、適宜選択して決定すればよいが、通常10000〜200000であり、好ましくは30000〜100000である。
【0019】
前記(I)式の脂肪族オキシカルボン酸単位は、HO−R−COOH(Rは、2価の脂肪族炭化水素基を示す。)で表される、1分子中に1個の水酸基とカルボキシル基を有する脂肪族オキシカルボン酸またはその誘導体(環状単量体、環状二量体、無水物、エステル等)を使用することにより得られる。
【0020】
この様な脂肪族オキシカルボン酸としては、好ましくは、Rが炭素数1〜20の2価のアルキレン基であるものが好ましく、更には、下式(I−1)で示されるα−オキシカルボン酸が好ましい。
【0021】
【化3】

【0022】
式(I−1)中のnは、0又は1〜10の整数であり、好ましくは0又は1〜5の整数である。式(I−1)のオキシカルボン酸の具体例としては、グリコール酸、L−乳酸、D−乳酸、D,L−乳酸、2−ヒドロキシ−n−酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル−n−酪酸、2−ヒドロキシ−3,3−ジメチル−n−酪酸、3−ヒドロキシ−n−酪酸、4−ヒドロキシ−n−酪酸、2−ヒドロキシ−n−吉草酸、3−ヒドロキシ−n−吉草酸、4−ヒドロキシ−n−吉草酸、5−ヒドロキシ−n−吉草酸、2−ヒドロキシ−n−カプロン酸、2−ヒドロキシ−i−カプロン酸、3−ヒドロキシ−n−カプロン酸、4−ヒドロキシ−n−カプロン酸、5−ヒドロキシ−n−カプロン酸、6−ヒドロキシ−n−カプ
ロン酸等が挙げられる。
【0023】
またオキシカルボン酸の誘導体としては、例えばプロピオラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、カプロラクトン、ラウロラクトン等のラクトン類が挙げられる。これらオキシカルボン酸の中でも、乳酸やグリコール酸が好ましく、特にポリエステル共重合体製造時の重合速度の増大が特に顕著であり、また入手が容易である等の理由から乳酸が好ましい。
【0024】
前記式(II)のジオール単位は、HO−R−OH(Rは2価の炭化水素基を示す。)で表される脂肪族ジオール類を使用することにより得られる。式(II)中、Rで示される2価の脂肪族炭化水素基としては、鎖状又は脂環式炭化水素基の何れでもよい。直鎖アルキレン基としては、その炭素数は通常2〜10、中でも3〜10、更には4〜6であることが好ましい。また脂環式炭化水素基としては、シクロアルキレン基であることが好ましく、その炭素数は通常3〜10、中でも4〜6であることが好ましい。中でもRとしては、鎖状炭化水素基であることが好ましい。
【0025】
脂肪族ジオール類の具体例としては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,
6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,14−テトラデカンジオール、1,16−ヘキサデカンジオール、1,18−オクタデカンジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメチロール、1,4−シクロヘキサンジメチロール等が挙げられる。
【0026】
これらは単独で、又は2種以上を任意の割合で使用してもよく、例えば鎖状脂肪族ジオール類と脂環式ジオール類の混合物として使用してもよい。これらジオールの中でも、ポリエステル樹脂組成物の物性の面から、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール
、1,4-ブタンジオールが好ましく、更には1,3-プロパンジオール、1,4-ブタン
ジオールが好ましく、特に1,4−ブタンジオールが好ましい。
【0027】
前記式(III)の脂肪族ジカルボン酸単位は、HOOC−R−COOH(Rは直接
結合または2価の脂肪族炭化水素基を示す。)で表されるジカルボン酸類、その低級アルコールエステル又は酸無水物を使用することにより得られる。式中、Rは、直接結合または2価の脂肪族炭化水素基である。2価の脂肪族炭化水素基とさひては、直鎖アルキレン基が好ましく、その炭素数は通常1〜10、中でも1〜6であることが好ましい。
【0028】
ジカルボン酸類としては例えば、蓚酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカジカルボン酸、ドデカジカルボン酸、1,14−テトラデカンジカルボン酸、1,16−ヘキサデカンジカルボン酸、1,18−オクタデカンジカルボン酸、ダイマー酸およびその水添物、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸等が挙げられる。
【0029】
ジカルボン酸類の低級アルコールエステルとしては、例えばジメチルエステル、ジエチルエステル、ジブチルエステル等の、炭素数1〜4の脂肪族アルコールのエステルが挙げられる。また酸無水物としては、無水コハク酸、無水アジピン酸等が挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を任意の割合で使用してもよい。
【0030】
中でも樹脂組成物の物性の面から、コハク酸及び/またはアジピン酸が好ましい。コハク酸及び/またはアジピン酸の割合は適宜選択して決定すればよいが、中でも100モル/0モル〜50モル/50モル、中でも98モル/2モル〜65モル/35モル、特に9
5モル/5モル〜80モル/20モルとすることが好ましい。アジピン酸により樹脂組成物の衝撃強度の向上に効果があり、アジピン酸が50モルを超えると弾性率が低下する場合がある。
【0031】
本発明に用いる(B)脂肪族ポリエステル樹脂における、上述の各構成単位(I)〜(III)の割合は、式(I)の単位が0〜30モル%、式(II)及び(III)の単位は、
各々35〜50モル%である。中でも、式(II)及び(III)で表される単位は、40〜
49.75モル%であることが好ましく、特に45〜49.5モル%であることが好ましい。尚、式(II)と式(III)の単位の割合は、通常実質的に等しくなる。ここで両者の
割合が実質的に等しいとは、両者の割合の差が、通常3モル%以内、更には2モル%以内を意味する。また式(II)のジオール単位に相当するジオールとして、脂肪族ジオールと脂環式ジオールの混合物を使用する場合には、両者の合計含有量が、上述の範囲内となればよい。
【0032】
また、式(I)の単位は任意の単位であるが、中でも必須単位として含むのが好ましく、その場合の割合は、通常0.02〜30モル%、中でも0.5〜20モル%、特に1〜10モル%であることが好ましい。式(I)の単位が少なすぎると、得られる共重合体の生分解性の効果が小さくなり、また多すぎても得られる共重合体の結晶性が失われて成形上好ましくない場合がある。
【0033】
本発明に用いる(B)脂肪族ポリエステル樹脂は、従来公知の任意のもの方法、例えば特開平8−239461号公報記載の方法が挙げられる。具体的には、前記(II)及び(III)の単位に対応するジオール及びジカルボン酸またはその誘導体を反応させて脂肪族
ポリエステル樹脂を製造するに際し、式(I)の単位に対応する脂肪族オキシカルボン酸を、上述した所定の範囲の量となるよう共重合させて製造すればよい。
【0034】
式(II)に対応するジオールの使用量は、式(III)に対応するジカルボン酸またはそ
の誘導体(ジカルボン酸量基準の値)と実質的に等モルであるが、エステル化反応中に留出することを考慮し、通常、1〜20モル%過剰に使用する。式(I)に対応する脂肪族オキシカルボン酸の使用量は、式(III)に対応するジカルボン酸またはその誘導体10
0モルに対して、通常0〜60モル、中でも0.04〜60モル、更には1〜40モル、特に2〜20モルであることが好ましい。
【0035】
式(I)に対応する脂肪族オキシカルボン酸の添加時期は、重縮合反応以前であれば特に限定されないが、原料仕込み時に触媒と同時に添加する方法、オキシカルボン酸溶液に予め触媒を溶解させて添加する方法などを採用することが出来る。
【0036】
本発明に用いる(B)脂肪族ポリエステル樹脂の製造においては、重合触媒を使用することが好ましい。重合触媒としては、特に限定されないが、ゲルマニウム、チタン、アンチモン、スズ、マグネシウム、カルシウム、亜鉛等の化合物が挙げられ、中でも、ゲルマニウム、チタン、亜鉛の化合物が好ましく、特に酸化ゲルマニウム等のゲルマニウム化合物が好ましい。
【0037】
これら重合触媒の使用量は、重縮合反応で使用されるモノマー全体量に対して、下限が通常0.001重量%以上、好ましくは0.005重量%以上であり、上限が通常3重量%以下、中でも1.5重量%以下であることが好ましい。触媒の添加時期は、重縮合反応の開始以前であれば得に限定されないが、原料仕込み時に添加するのが好ましく、水溶液に触媒を溶解して添加する方法が好ましい。中でも、触媒の保存性の観点から、脂肪族オキシカルボン酸に触媒を溶解して添加する方法が好ましい。
【0038】
(B)脂肪族ポリエステル樹脂を製造する際の条件は、原料モノマーの組合せ、組成比、触媒の種類、量などの組合せにより適宜選択して決定すればよいが、温度は下限が通常150℃以上、好ましくは180℃以上であり、上限が通常260℃以下、中でも250℃以下、更には240℃以下、特に230℃以下であることが好ましい。重合反応時間は2時間以上、好ましくは4〜15時間であり、反応圧力は10mmHg以下、中でも2mmHg以下の減圧とすることが好ましい。
【0039】
本発明に用いる(B)脂肪族ポリエステル樹脂の固有粘度は任意であり、適宜選択して決定すればよいが、通常、1,1,2,2−テトラクロロエタン/フェノール=1/1(重量費)の混合溶媒を使用し、30℃において溶液濃度0.5g/dlで測定した値として0.5〜4dl/g、中でも0.8〜3dl/g、特に1〜2.5dl/gであることが好ましい。固有粘度が小さ過ぎると、機械的強度が不十分な場合があり、逆に大き過ぎても、成形加工が困難となる場合がある。
【0040】
本発明の熱可塑性樹脂組成物における、(B)脂肪族ポリエステル樹脂の含有量は任意であり、適宜選択して決定すればよいが、通常(A)ポリオキシメチレン樹脂100重量部に対して1〜500重量部であり、中でも5〜300重量部、特に10〜250重量部であることが好ましい。(B)脂肪族ポリエステル樹脂が少なすぎると、得られる熱可塑性樹脂組成物の生分解性が低下し、逆に多すぎても耐衝撃性等の機械的物性向上が不十分となる場合がある。
【0041】
また、(B)脂肪族ポリエステル樹脂には、前記(I)〜(III)の構成単位以外にも
、本発明の効果を損なわない範囲で、他の共重合成分を導入することが出来る。他の共重合成分の原料としては、ヒドロキシ安息香酸などの芳香族オキシカルボン酸類、ビスフェノールA等の芳香族ジオール類、テレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸類、トリメチロールプロパン、グリセリン等の多価アルコール類、りんご酸などの多価オキシカルボン酸類などが挙げられる。
【0042】
また本発明の(B)脂肪族ポリエステル樹脂は、そのモノマー単位成分であるジカルボン酸成分の一部に、香族ジカルボン酸を含んでいてもよいが、その割合は低いほど好ましい。具体的には、全ジカルボン酸に対して50モル%以下、中でも40モル%以下、特に30モル%以下であることが好ましい。
【0043】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、機械的物性、電気的特性、環境特性、寸法安定性等の目的に応じて、各種添加剤を配合することができる。具体的には例えば、ガラス繊維、アスベスト繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化ホウ素繊維、窒化ケイ素繊維、カーボン繊維、ボロン繊維、チタン酸カリウム繊維、ステンレス等の金属繊維、アラミド繊維等の繊維状強化充填剤;カーボンブラック、黒鉛、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ミルドファイバー、ガラスバルーン、ガラス粉、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、カオリン、クレー、珪藻土、ウォラストナイトの如きケイ酸塩、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、3酸化アンチモン、アルミナの如き金属酸化物、炭酸カルシウムの如き金属炭酸塩、硫酸バリウムの如き硫酸塩、フェライト、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素、各種金属粉末等の粉末状無機充填剤;マイカ、タルク、ガラスフレーク等の板状充填剤等が挙げられる。
【0044】
更に、その他の添加剤として、摺動性賦与剤、滑剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、着色剤、離型剤、帯電防止剤、界面活性剤、染料等を例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0045】
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、本発明の効果を損ねない範囲で、他の熱可塑性
樹脂を含んでいてもよい。具体的には例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアミド樹脂、アラミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ノボラックフェノール樹脂の他、更にアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)の共重合体、スチレン・エチレン・ブテン・スチレン(SEBS)の3元ブロック共重合体、エチレン・ブテンラバー(EBR)、エチレン・プロピレンラバー(EPR)、エチレン・オクテンラバー(EOR)等の弾性重合体などの、熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0046】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、従来公知の任意の溶融混合法又は溶融混練法により製造することができる。溶融混合や溶融混練処理には、従来公知の任意の押出機や混練機、例えば押出機、ブラベンダー、ニーダー、バンバリーミキサー、ロールミル等を利用することができる。中でも溶融混合機又は混練機としては、押出機、ニーダー等の密閉式装置が好ましい。
【0047】
尚、溶融混合又は溶融混練時に、エステル交換反応により低分子量のアルコールが生成する場合には、混連装置にベント部を数カ所設け、脱気・換気等を十分に行う必要がある。これらの理由により、本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造において溶融状態での混合操作の際には、ポリオキシメチレン樹脂及び脂肪族ポリエステル樹脂樹脂は、できるだけ絶乾状態にまで乾燥しておくことが好ましい。
【0048】
溶融混合又は溶融混練の際の設定樹脂温度としては、ポリオキシメチレン樹脂の融点〜分解温度の範囲内で適宜選択して決定すればよいが、ポリオキシメチレン樹脂の熱安定性を考慮すると、通常、165〜230℃、中でも170〜210℃であることが好ましい。またこれら溶融処理時間は、混合及び混練温度に応じて適宜選択すればよく、例えば30秒〜1時間、中でも30秒〜30分程度であることが好ましい。
【0049】
溶融混合又は溶融混練処理は、配合原料であるポリオキシメチレン樹脂や脂肪族ポリエステル樹脂等を、個別に上記押出機又は混練機中に順次供給したり、予め前記配合原料の一部を混合したものを一括して供給してもよい。
【0050】
本発明の樹脂組成物は、射出成形、圧縮成形、射出圧縮成形、押出成形、ブロー成形、射出ブロー成形等の従来公知の任意の成形法により、種々の樹脂成形品とすることができる。樹脂成形品としては、特に耐衝撃性が要求される各種構造体材料としての使用が期待される。例えば、クリップ、ギア、キャップ、バネ、ローラー、シートベルトバックル、サニタリー部品、ポンプ部品、パソコン等のキー部品、カメラ、プリンター、VTR等に代表される電気機器の機構部品、時計等精密機器のウオッチメカ部品、自動車のウィンドウレギュレータシステム部品やドアロック機構部品、自動車のドアミラーステー、ドアハンドル及び燃料タンク等の各種容器、電化製品の各種スイッチ部品、多層ボトル、フィルム等が挙げられる。
【実施例】
【0051】
以下に実施例および比較例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。以下の例で使用した原材料及び物性測定方法は次の通りである。
【0052】
[原材料]
(A)ポリオキシメチレン樹脂
(A−1)POM1:トリオキサンと1,3−ジオキソランとのオキシメチレンコポリマーであり、オキシエチレンユニット1.75mol%を含有するポリオキシメチレン樹脂
(MI=9.0g/10分)
(A−2)POM2:トリオキサンと1,3−ジオキソランとのオキシメチレンコポリマーであり、オキシエチレンユニット5.0mol%を含有するポリオキシメチレン樹脂(MI=9.0g/10分)
【0053】
(B)脂肪族ポリエステル樹脂
(B−1)脂肪族ポリエステル1(PBSL)
攪拌装置、窒素導入口、加熱装置、減圧装置を備えた反応容器に、コハク酸118.1重量部、1,4−ブタンジオール104.5重量部、酸化ゲルマニウムを予め1重量%溶解させた90重量%乳酸水溶液6.40重量部を仕込み、窒素置換によって系内を窒素雰囲気下にした。次に、系内を攪拌しながら220℃に昇温し、この温度で1時間反応させた。その後30分かけて230℃に昇温し、同時に1時間30分かけて0.07×10Paになるように減圧し、この圧力下で4時間反応を行い、白色のポリエステルを得た。
【0054】
得られたポリエステルの固有粘度は1.82dl/gであった。各成分のモル%はコハク酸単位48.8モル%、1,4−ブタンジオール単位48.8モル%、乳酸単位2.4モル%であった。得られた脂肪族ポリエステルをPBSL(ポリブチレンサクシネートラクテート)とする。
【0055】
(B−2)脂肪族ポリエステル2(PBSLA)
上記(B−1)脂肪族ポリエステル共重合体−1の製造法において、コハク酸118.1重量部に変えて、コハク酸94.48重量部及びアジピン酸29.23重量部としたこと以外は同様に重合反応を行った。
【0056】
得られたポリエステル重合体の固有粘度は1.82dl/gであった。各成分のモル%はコハク酸単位38.7モル%、1,4−ブタンジオール単位48.8モル%、乳酸単位2.8モル%、アジピン酸単位9.7モル%であった。得られた脂肪族ポリエステルをPBSLA(ポリブチレンサクシネートラクテートアジペート)とする。
【0057】
[物性測定法]
(1)固有粘度;
1,1,2,2−テトラクロロエタン/フェノール=1:1(重量比)の混合溶媒を使用し、30℃において溶液濃度0.5g/dlで測定した溶液粘度から求めた。ハギンズ定数は0.33とした。
【0058】
(2)ポリマー組成;
H−NMR法により測定したスペクトルの面積比により各成分の組成(モル%)を計算した。
【0059】
(3)機械的特性;
曲げ弾性率はISO178に準拠して、曲げ弾性率を測定した。またシャルピー衝撃試験はISO179−2に準拠して測定した。
【0060】
(4)生分解性試験;
テストピースを5月間土中に埋没させた後、目視により観察し、複数の虫食い状の穴が認められれば生分解性有り(○)、穴が認められない場合は生分解性無し(×)と判定した。
【0061】
(5)溶融粘度;
東洋精機社製キャピログラフ1Cを用い、200℃、91.2sec−1の条件下で測
定した。
【0062】
[実施例1〜3及び比較例1〜5]
ポリオキシメチレン樹脂、脂肪族ポリエステル樹脂を、表1に示される配合比率となるようドライブレンドした混合物を、二軸押出機(日本製鋼所社製、TEX30HSST L/D=42)のホッパーに投入し、吐出量20kg/h、スクリュー回転数150rpm、バレル温度200℃の条件下で押出しペレット化した。
【0063】
得られたペレットを用いて、射出成形機(住友重機械社製、型式SH−100)により、シリンダー温度200℃、金型温度80℃の条件下でISO試験片を成形し、機械的特性を測定した。更に、得られたペレットから、卓上熱プレス機により、厚み0.3〜0.37mmのフィルムを作成し、これを2cm×2cmに切断してテストピースとしたものについて、生分解性を評価した。結果を表−1に示した。更に、得られたペレットから上記方法により、溶融粘度を測定した。
【0064】
【表1】

【0065】
表1の結果から以下のことが判明する。(A)ポリオキシメチレン樹脂と(B)脂肪族ポリエステル樹脂とを配合した実施例1〜8の樹脂組成物は、(A)ポリオキシメチレン樹脂のみからなる比較例1、2に比較して良好な生分解性を示し、シャルピー強度および流動性が優れており、また十分な弾性率を示している。
【0066】
(B)脂肪族ポリエステル樹脂を配合していない比較例1、2は生分解性を示さず、シャルピー衝撃強度も小さい。(A)ポリオキシメチレン樹脂を配合していない比較例3、4は、生分解性は示すものの、曲げ弾性率が小さく、機械的特性が実施例に比べて十分ではないことが判る。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリオキシメチレン樹脂、及び(B)脂肪族ポリエステル樹脂からなる熱可塑性樹脂組成物であって、(B)脂肪族ポリエステル樹脂が、下記(I)式で表される脂肪族オキシカルボン酸単位を0〜30モル%、下記(II)式で表される脂肪族ジオール単位を35〜50モル%、及び下記(III)式で表される脂肪族ジカルボン酸単位を35〜50
モル%含むことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【化1】

(式中、R及びRは2価の脂肪族炭化水素基を示し、Rは直接結合または2価の脂肪族炭化水素基を示す。)
【請求項2】
(A)ポリオキシメチレン樹脂が、オキシメチレンユニット100mol当たり、炭素数2以上のオキシアルキレンユニットを3.5〜10mol含有してなるポリオキシメチレン共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
(B)脂肪族ポリエステル樹脂における、前記(III)式で表される脂肪族ジカルボン酸単位が、アジピン酸及び/またはコハクからなり、アジピン酸とコハク酸との割合が、0モル/100モル〜50モル/50モルであることを特徴とする請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
(B)脂肪族ポリエステル樹脂が、(I)式で表される脂肪族オキシカルボン酸単位を0.5〜20モル%含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の樹脂組成物を成形してなることを特徴とする樹脂成形品。
【請求項6】
曲げ弾性率が0.6GPa以上、シャルピー衝撃強度が6.0kJ/m以上であることを特徴とするである請求項5に記載の樹脂成形品。

【公開番号】特開2007−204649(P2007−204649A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−26535(P2006−26535)
【出願日】平成18年2月3日(2006.2.3)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】