説明

熱可塑性樹脂組成物及び医療製品

【課題】ポリ乳酸系樹脂を含有する樹脂組成物であって、優れた耐熱性、柔軟性及び耐衝撃性を有する熱可塑性樹脂組成物、及び該組成物を用いてなる医療製品の提供を目的とする。
【解決手段】芳香族エーテルエステル共重合樹脂及び脂肪族エーテルアミド共重合樹脂からなる群から選ばれる1種以上の共重合樹脂(A)とポリ乳酸系樹脂(B)とを含有し、連続相が前記共重合樹脂(A)であり、分散相が前記ポリ乳酸系樹脂(B)である熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物及び医療製品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸系樹脂は、とうもろこし等のバイオマスを原料とした樹脂材料であり、融点がおよそ170℃と高く、さらに溶融成形も可能である。そのため、石油等から製造される樹脂の代替材料として期待されている。しかし、ポリ乳酸系樹脂は、耐熱性、柔軟性及び耐衝撃性が低いため、成形品として実用するには制約があった。
【0003】
そこで、ポリ乳酸系樹脂の耐衝撃性を向上させる方法として、ポリ乳酸系樹脂にアクリル系樹脂を添加する方法(特許文献1)、天然ゴム及び/又はエポキシ化天然ゴム系改質剤を添加する方法(特許文献2)、特定の熱可塑性樹脂とグラフト共重合体とを添加する方法(特許文献3)が示されている。また、ラクトン樹脂及び脂肪酸ポリエステル樹脂にゴム変性スチレン系樹脂を添加する方法(特許文献4)が示されている。
その他、ポリ乳酸系樹脂と特定の熱可塑性樹脂とを配合し、前記ポリ乳酸系樹脂中に前記熱可塑性樹脂が5%以上含有され、かつ前記熱可塑性樹脂中に前記ポリ乳酸系樹脂が5%以上含有されている熱可塑性樹脂を得る方法が示されている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−155207号公報
【特許文献2】特開2001−288228号公報
【特許文献3】特開2005−320409号公報
【特許文献4】特開2000−226501号公報
【特許文献5】特開2007−246845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1〜5の方法を用いても、得られる樹脂組成物は未だ耐熱性、柔軟性及び耐衝撃性の全てを高度に兼ね備えたものではなかった。例えば、医療用チューブ等の医療製品においては、柔軟性及び耐衝撃性に加えて高温滅菌に耐え得る耐熱性が必要であり、これらをより高度に兼ね備えていることが重要である。
【0006】
本発明は、ポリ乳酸系樹脂を含有する樹脂組成物であって、優れた耐熱性、柔軟性及び耐衝撃性を有する熱可塑性樹脂組成物、及び該組成物を用いてなる医療製品の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。
[1]芳香族エーテルエステル共重合樹脂及び脂肪族エーテルアミド共重合樹脂からなる群から選ばれる1種以上の共重合樹脂(A)とポリ乳酸系樹脂(B)とを含有し、連続相が前記共重合樹脂(A)であり、分散相が前記ポリ乳酸系樹脂(B)である熱可塑性樹脂組成物。
[2]前記分散相の平均長径が1〜500nmである、[1]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[3]前記共重合樹脂(A)5〜50質量%と、前記ポリ乳酸系樹脂(B)95〜50質量%(ただし、(A)と(B)の合計が100質量%である。)を含有する、[1]又は[2]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[4]前記共重合樹脂(A)の溶融粘度ηと前記ポリ乳酸系樹脂(B)の溶融粘度ηの比(η/η)が0.3〜1.3である、[1]〜[3]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
[5][1]〜[4]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物を用いてなる医療製品。
【発明の効果】
【0008】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ポリ乳酸系樹脂を含有した組成物であり、優れた耐熱性、柔軟性及び耐衝撃性を兼ね備えている。
また、本発明の医療製品は、前記熱可塑性樹脂組成物を用いており、優れた耐熱性、柔軟性及び耐衝撃性を兼ね備えている。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[熱可塑性樹脂組成物]
本発明の熱可塑性樹脂組成物(以下、「本樹脂組成物」という。)は、芳香族エーテルエステル共重合樹脂と脂肪族エーテルアミド共重合樹脂とからなる群から選ばれる1種以上の共重合樹脂(A)と、ポリ乳酸系樹脂(B)とを含有する組成物である。
また、本樹脂組成物は、連続相が共重合樹脂(A)であり、分散相がポリ乳酸系樹脂(B)である。
【0010】
(共重合樹脂(A))
共重合樹脂(A)は、芳香族エーテルエステル共重合樹脂(以下、「共重合樹脂(A1)」という。)及び脂肪族エーテルアミド共重合樹脂(以下、「共重合樹脂(A2)」という。)からなる群から選ばれる1種以上の樹脂である。すなわち、共重合樹脂(A)は、共重合樹脂(A1)のみであってもよく、共重合樹脂(A2)のみであってもよく、共重合樹脂(A1)と共重合樹脂(A2)の併用であってもよい。
【0011】
共重合樹脂(A1)は、芳香族エステルからなる部分と、エーテルからなる部分とを有する共重合樹脂である。共重合樹脂(A1)において脂肪族エステルを用いず芳香族エステルを用いることにより、より耐熱性に優れた本樹脂組成物を得ることができる。
【0012】
共重合樹脂(A)を構成する芳香族エステルからなる部分としては、脂肪族ジオールと芳香族ジカルボン酸とを縮合して得られるエステルが挙げられる。脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールが挙げられる。芳香族ジカルボン酸としては、例えば、イソフタル酸、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸が挙げられる。
前記芳香族エステルからなる部分は、耐熱性の点から、芳香族ポリエステルからなる部分であることが好ましく、ポリブチレンテレフタレートであることが特に好ましい。
【0013】
共重合樹脂(A1)におけるエーテルからなる部分としては、例えば、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体が挙げられる。
前記エーテルからなる部分としては、柔軟性の点から、ポリ(エチレンオキシド)グリコールを用いることが特に好ましい。
【0014】
共重合樹脂(A1)中の芳香族エステルからなる部分の含有量は、20〜80質量%であることが好ましい。前記含有量が20質量%以上であれば、耐熱性が向上する。また、前記含有量が80質量%以下であれば、柔軟性を保持することが容易になる。
【0015】
共重合樹脂(A1)の質量平均分子量(以下、「Mw」という。)は特に限定されず、1,000〜100,000であることが好ましく、10,000〜50,000であることがより好ましい。Mwが100,000を超えると、溶融混練が難しくなる。また、Mwが1,000未満であると、耐熱性、耐衝撃性が悪化する。
【0016】
共重合樹脂(A1)は、公知の方法により合成したものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。
共重合樹脂(A1)の市販品の具体例としては、例えば、芳香族エーテル−ポリブチレンテレフタレート共重合体であるハイトレル(東レデュポン社製)、ペルプレン(東洋紡社製)が挙げられる。
【0017】
共重合樹脂(A2)は、脂肪族エーテルからなる部分と、アミドからなる部分とを有する共重合樹脂である。
共重合樹脂(A2)を構成する脂肪族エーテルとしては、例えば、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体が挙げられる。なかでも、柔軟性の点から、ポリエチレンオキシドグリコールを用いることが特に好ましい。
【0018】
共重合樹脂(A2)を構成するアミドは、例えば、脂肪族ポリアミドが挙げられる。
脂肪族ポリアミドとしては、例えば、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン610が挙げられる。
【0019】
また、共重合樹脂(A2)を構成するアミドは、芳香族ポリアミドであってもよい。
芳香族ポリアミドとしては、例えば、前記脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジアミンとを縮合して得られるポリアミドが挙げられる。
芳香族ジアミンとしては、例えば、メタキシレンジアミン、パラキシレンジアミンが挙げられる。
【0020】
共重合樹脂(A2)における前記アミドは、柔軟性と耐熱性の点から、脂肪族ポリアミドであることが好ましく、ナイロン11又はナイロン12であることが特に好ましい。
【0021】
共重合樹脂(A2)中の脂肪族エーテルからなる部分の含有量は、15〜85質量%であることが好ましい。前記含有量が15質量%以上であれば、柔軟性を保持することが容易になる。また、前記含有量が85質量%以下であれば、耐熱性を保持することが容易になる。
【0022】
共重合樹脂(A2)のMwは特に限定されず、1,000〜100,000であることが好ましく、10,000〜50,000であることがより好ましい。Mwが100,000を超えると、溶融混練が難しくなる。また、Mwが1,000未満であると、耐熱性、耐衝撃性が悪化する。
【0023】
共重合樹脂(A2)は、公知の方法により合成したものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。
共重合樹脂(A2)の市販品の具体例としては、例えば、ペバックス(アルケマ社製)が挙げられる。
【0024】
本樹脂組成物中の共重合樹脂(A)の含有量は、共重合樹脂(A)とポリ乳酸系樹脂(B)の合計質量を100質量%としたとき、5〜50質量%であることが好ましく、20〜50質量%であることがより好ましい。共重合樹脂(A)の含有量が5質量%以上であれば、耐熱性、柔軟性及び耐衝撃性に優れた本樹脂組成物が得られやすい。また、共重合樹脂(A)の含有量が50質量%以下であれば、環境負荷が低減された本樹脂組成物が得られやすい。
【0025】
(ポリ乳酸系樹脂(B))
ポリ乳酸系樹脂(B)は、乳酸を主成分とする樹脂である。ただし、乳酸を主成分とするとは、乳酸に由来する構成単位の含有量が30質量%以上であることを意味する。
ポリ乳酸系樹脂(B)としては、ポリ乳酸、乳酸と該乳酸と共重合できる他の単量体(以下、「単量体(b)」という。)との共重合樹脂、又はそれらの混合物が挙げられる。
【0026】
乳酸としては、L−乳酸、D−乳酸が挙げられる。
ポリ乳酸系樹脂(B)中の乳酸に由来する構成単位の含有量は30質量%以上であり、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることが特に好ましい。
また、ポリ乳酸系樹脂(B)においては、共重合樹脂(A)との相溶性に優れる点から、乳酸成分の光学純度が高いことが好ましい。すなわち、ポリ乳酸系樹脂(B)を構成する乳酸がL−乳酸とD−乳酸のいずれか一方であり、かつ該乳酸の含有量が30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることが特に好ましい。
【0027】
単量体(b)としては、例えば、下記の単量体が挙げられる。
単量体(b1):グリコール化合物。
単量体(b2):ジカルボン酸。
単量体(b3):ヒドロキシカルボン酸
単量体(b4):ラクトン類。
【0028】
単量体(b1)としては、例えば、エチレングリコール、ブロピレングリコール、ブタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオ−ル、デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ビスフェノ−ルA、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールが挙げられる。
【0029】
単量体(b2)としては、例えば、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸が挙げられる。
【0030】
単量体(b3)としては、例えば、グリコール酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸が挙げられる。
単量体(b4)としては、例えば、カプロラクトン、バレロラクトン、プロピオラクトン、ウンデカラクトン、1,5−オキセパン−2−オンが挙げられる。
【0031】
本樹脂組成物中のポリ乳酸系樹脂(B)の含有量は、50〜95質量%であることが好ましく、50〜80質量%であることがより好ましい。
ポリ乳酸系樹脂(B)の含有量が50質量%以上であれば、環境負荷が低減された本樹脂組成物が得られやすい。また、共重合樹脂(A)の含有量が5質量%以上であれば、耐熱性、柔軟性及び耐衝撃性に優れた本樹脂組成物が得られやすい。
【0032】
本樹脂組成物は、以上説明したように共重合樹脂(A)とポリ乳酸系樹脂(B)とを含有している。また、本樹脂組成物は、連続相が共重合樹脂(A)であり、分散相がポリ乳酸系樹脂(B)である。共重合樹脂(A)とポリ乳酸系樹脂(B)がこのような相構造を形成することにより、耐熱性、柔軟性及び耐衝撃性を兼ね備えた本樹脂組成物が得られる。これは、共重合樹脂(A)が連続相を形成することにより、高温高湿下において劣化しやすいポリ乳酸系樹脂(B)の劣化を抑えることができるためであると考えられる。
【0033】
本樹脂組成物における共重合樹脂(A)とポリ乳酸系樹脂(B)は、共重合樹脂(A)の溶融粘度ηとポリ乳酸系樹脂(B)の溶融粘度ηの比(η/η)が0.3〜1.3であることが好ましく、0.5〜1.0であることがより好ましい。本発明におけるところの溶融粘度は、流れ特性試験機(東洋精機社製)を用いて測定することができる。
前記比(η/η)が1.3以下であれば、ポリ乳酸系樹脂(B)が分散相となりやすい。また、前記比(η/η)が0.3以上であれば、共重合樹脂(A)とポリ乳酸系樹脂(B)の溶融混練が容易になる。
【0034】
また、本樹脂組成物における分散相の平均長径は、1〜500nmであることが好ましく、10〜100nmであることがより好ましい。ここで長径とは、分散相において最も長い部分の長さを意味する。また、平均長径とは、熱可塑性樹脂組成物中の複数の分散相の長径を任意に測定し、それを該分散相の数で平均した値を意味する。分散相の長径は、顕微鏡による観察等により測定することができる。
分散相の平均長径が1nm以上であれば、共重合樹脂(A)とポリ乳酸系樹脂(B)の溶融混練が容易になる。また、分散相の平均長径が500nm以下であれば、耐熱性、柔軟性及び耐衝撃性を兼ね備えた本樹脂組成物が得られやすい。
【0035】
本樹脂組成物は、耐熱性、耐衝撃性、柔軟性等の特性を低下させすぎない範囲内であれば、必要に応じて前記共重合樹脂(A)、ポリ乳酸系樹脂(B)以外の他の成分(以下、「成分(C)」という。)を含有していてもよい。
成分(C)としては、例えば、公知の可塑剤、熱安定剤、導電性付与剤、帯電防止剤、離型剤、防曇剤、紫外線吸収剤、着色剤、顔料、高級脂肪酸等の分散剤、タルク等の無機充填剤、シリコーンが挙げられる。
【0036】
本樹脂組成物中の成分(C)の含有量は、0〜10質量%であることが好ましく、5〜10質量%であることがより好ましい。
【0037】
以下、本樹脂組成物の製造方法の一例について説明する。
本樹脂組成物は、共重合樹脂(A)とポリ乳酸系樹脂(B)とを混練することにより得ることができる。また、本樹脂組成物に成分(C)を含有させる場合は、共重合樹脂(A)とポリ乳酸系樹脂(B)とを混練する際に同時に混練してもよく、共重合樹脂(A)とポリ乳酸系樹脂(B)のいずれか一方に予め混練してもよく、共重合樹脂(A)とポリ乳酸系樹脂(B)を混練した後に該混合物に成分(C)を混練してもよい。
【0038】
混練方法は、共重合樹脂(A)とポリ乳酸系樹脂(B)を充分に混練することができる方法であればよく、公知の混練方法を用いることができる。混練方法の具体例としては、例えば、単軸押出機、二軸押出機等を用いる溶融混練方法、水性溶媒や有機溶媒を用いる湿式混練方法が挙げられ、溶融混練方法が好ましい。
【0039】
溶融混練時の温度は、共重合樹脂(A)とポリ乳酸系樹脂(B)を充分に混練することができる温度であればよく、共重合樹脂(A)とポリ乳酸系樹脂(B)の種類によっても異なるが、170〜270℃であることが好ましく、200〜240℃であることがより好ましい。前記温度が170℃以上であれば、共重合樹脂(A)とポリ乳酸系樹脂(B)を均一に溶融混練することが容易になる。また、前記温度が270℃以下であれば、共重合樹脂(A)とポリ乳酸系樹脂(B)が劣化することを防止しやすい。
【0040】
また、溶融混練時のせん断速度を調整することにより、本樹脂組成物中の分散相の平均長径を調整することができる。
せん断速度は、100〜5,000s−1であることが好ましく、400〜2,000s−1であることがより好ましい。せん断速度が100s−1以上であれば、長径が500nm以下の分散相が得られやすい。また、せん断速度が5,000s−1以下であれば、樹脂の劣化を防ぐことが容易になる。
【0041】
湿式混練方法を用いる場合についても、共重合樹脂(A)とポリ乳酸系樹脂(B)を充分に混練することができれば各種条件は特に限定されず、溶媒の量、混練温度等を適宜選択して混練すればよい。
【0042】
本樹脂組成物は、用途に応じた成形品とすることにより、文房具等の雑貨、自動車部品、OA機器、家電機器等の電気・電子部品、医療製品等の様々な用途に用いることができ、特に耐熱性、柔軟性及び耐衝撃性を必要とする医療製品に好適に用いることができる。
【0043】
[医療製品]
本発明の医療製品は、前述の熱可塑性樹脂組成物を用いた製品である。
医療製品としては、例えば、カテーテル、内視鏡用処置具チューブ、内視鏡可撓管等の医療用チューブ、内視鏡操作部等の内視鏡用部材等が挙げられる。
本発明の医療製品の製造方法は、本樹脂組成物を用いる以外は、公知の製造方法を適用することができる。
【0044】
本発明の医療製品は、前述の本樹脂組成物を用いているため、耐熱性、柔軟性及び耐衝撃性に優れており、環境負荷が低減されている。
【実施例】
【0045】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載によっては限定されない。
[評価方法]
本実施例で用いた共重合樹脂(A)、ポリ乳酸系樹脂(B)、及び得られた樹脂組成物について、曲げ弾性率(単位:MPa)、シャルピー衝撃強度(単位:kJ/m)、荷重たわみ温度(単位:℃)を測定した。また、共重合樹脂(A)とポリ乳酸系樹脂(B)の溶融粘度比を測定した。さらに、得られた樹脂組成物については、分散相の平均長径(数平均)も測定した。
【0046】
(曲げ弾性率)
曲げ弾性率は、ASTM D790に準拠した方法で測定した。
(シャルピー衝撃強度)
シャルピー衝撃強度は、ISO179−2(ノッチあり)に準拠した方法で測定した。
(荷重たわみ温度)
荷重たわみ温度は、ISO75に準拠した方法(荷重0.45MPa)で測定した。
【0047】
(溶融粘度の比(η/η))
共重合樹脂(A)とポリ乳酸系樹脂(B)それぞれについて、溶融粘度測定装置(東洋精機製作所製)を用いて溶融粘度を測定し、それらの測定結果から比(η/η)を算出した。
なお、共重合樹脂(A)及びポリ乳酸系樹脂(B)以外の樹脂を用いた場合も同様に算出した。
【0048】
(分散相の平均長径)
得られた樹脂組成物の一部を切り出し、顕微鏡、走査型電子顕微鏡或いは透過型電子顕微鏡にて撮影した観察画像を用いて、分散度測定装置(LUZEX−AP、ニレコ社製)により平均長径を求めた。
【0049】
本実施例で用いた各原料を以下に示す。
[共重合樹脂(A)]
樹脂A1−1:商品名「ハイトレル7247」(共重合樹脂(A1)、曲げ弾性率593MPa、シャルピー衝撃強度17kJ/m、荷重たわみ温度156℃、東レ・デュポン社製)
樹脂A1−2:商品名「ハイトレル6347」(共重合樹脂(A1)、曲げ弾性率388MPa、シャルピー衝撃強度25kJ/m、荷重たわみ温度136℃、東レ・デュポン社製)
樹脂A2−1:商品名「ペバックス7233」(共重合樹脂(A2)、曲げ弾性率730MPa、シャルピー衝撃強度8.0kJ/m、荷重たわみ温度106℃、アルケマ社製)
樹脂A2−2:商品名「ペバックス7033」(共重合樹脂(A2)、曲げ弾性率390MPa、シャルピー衝撃強度NB、荷重たわみ温度100℃、アルケマ社製)
【0050】
[ポリ乳酸系樹脂(B)]
樹脂B1:商品名「レイシア6400D」(曲げ弾性率4300MPa、シャルピー衝撃強度2.1kJ/m、荷重たわみ温度56℃、三井化学社製)
【0051】
[ポリカーボネート(D)]
樹脂D1:商品名「ユーピロンH4000」(曲げ弾性率2300MPa、シャルピー衝撃強度7.7kJ/m、荷重たわみ温度136℃、三菱エンジニアリングプラスチックス社製)
【0052】
[ポリエチレン(E)]
樹脂E1:商品名「ノバテックHJ580」(曲げ弾性率1000MPa、シャルピー衝撃強度3kJ/m、荷重たわみ温度82℃、日本ポリエチレン社製)
【0053】
以下、実施例及び比較例について説明する。
[実施例1]
樹脂A1−1(50質量%)と樹脂B1(50質量%)とを二軸押出機TEX30α(日本精工所社製)を用いて、バレル温度240℃(先端部樹脂温度250℃)、せん断速度450s−1で溶融混練して樹脂組成物を得た。
【0054】
[実施例2〜9]
共重合樹脂(A)及びポリ乳酸系樹脂(B)の組成、溶融粘度比、混練条件を表1に示すとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。
【0055】
[実施例10]
樹脂A2−1(50質量%)と前記B1(50質量%)とを前述の二軸押出機を用いて、バレル温度210℃(先端部樹脂温度230℃)、せん断速度450s−1で溶融混練して樹脂組成物を得た。
【0056】
[実施例11〜18]
共重合樹脂(A)及びポリ乳酸系樹脂(B)の組成、溶融粘度比、混練条件を表2に示すとおりに変更した以外は、実施例10と同様にして樹脂組成物を得た。
【0057】
[比較例1]
樹脂B1のみを用いて樹脂組成物とした。
【0058】
[比較例2〜3]
共重合樹脂(A)及びポリ乳酸系樹脂(B)の組成、溶融粘度比、混練条件を表1に示すとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。
【0059】
[比較例4]
樹脂D1と樹脂B1を用いて溶融粘度の比を1とし、樹脂D1(50質量%)と樹脂B1(50質量%)とを前述の二軸押出機を用いて、バレル温度240℃(先端部樹脂温度250℃)、せん断速度400s−1で溶融混練して樹脂組成物を得た。
【0060】
[比較例5]
樹脂E1樹脂B1を用いて溶融粘度の比を1.2とし、樹脂D1(50質量%)と樹脂B1(50質量%)とを前述の二軸押出機を用いて、バレル温度170℃(先端部樹脂温度250℃)、せん断速度400s−1で溶融混練して樹脂組成物を得た。
【0061】
[比較例6〜7]
共重合樹脂(A)及びポリ乳酸系樹脂(B)の組成、溶融粘度比、混練条件を表2に示すとおりに変更した以外は、実施例10と同様にして樹脂組成物を得た。
実施例及び比較例で得られた樹脂組成物について、曲げ弾性率、シャルピー衝撃強度、荷重たわみ温度を測定した結果、また顕微鏡により分散相を観察した結果を表1及び2に示す。ただし、表1及び2における「NB」は、シャルピー衝撃強度試験において樹脂組成物が破壊されなかったことを意味する。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
表1に示すように、共重合樹脂(A1)とポリ乳酸系樹脂(B)とを含有し、ポリ乳酸系樹脂(B)が分散相となっており、分散径が1〜500nmである実施例1〜4の樹脂組成物は、ポリ乳酸系樹脂(B)のみを用いた比較例1の樹脂組成物に比べて曲げ弾性率が低く柔軟性に優れていた。また、シャルピー衝撃強度試験において樹脂組成物が破壊されずに優れた耐衝撃性を有しており、さらに荷重たわみ温度が高く優れた耐熱性も有していた。
また、共重合樹脂(A2)とポリ乳酸系樹脂(B)とを含有し、ポリ乳酸系樹脂(B)が分散相となっており、分散径が1〜500nmである実施例10〜13の樹脂組成物も同様に、比較例1の樹脂組成物に比べて、優れた耐熱性、柔軟性及び耐衝撃性を備えていた。
【0065】
また、ポリ乳酸系樹脂(B)が分散相となっており、分散径が500nm以上である実施例5〜9の樹脂組成物は、耐熱性及び柔軟性で実施例1〜4に劣るものの、ポリ乳酸系樹脂(B)のみを用いた比較例1の樹脂組成物に比べて、曲げ弾性率が低く柔軟性に優れており、シャルピー衝撃強度試験において樹脂組成物が破壊されずに優れた耐衝撃性を有しており、さらに荷重たわみ温度が高く優れた耐熱性も有していた。
また同様に、共重合樹脂(A2)とポリ乳酸系樹脂(B)とを含有し、ポリ乳酸系樹脂(B)が分散相となっており、分散径が500nm以上である実施例14〜18の樹脂組成物も、耐熱性及び柔軟性で実施例10〜13に劣るものの、比較例1の樹脂組成物に比べ、優れた耐熱性、柔軟性及び耐衝撃性を備えていた。
【0066】
一方、共重合樹脂(A1)とポリ乳酸系樹脂(B)とを含有しているものの、ポリ乳酸系樹脂(B)が連続相である比較例2〜3の樹脂組成物は、曲げ弾性率、シャルピー衝撃強度及び荷重たわみ温度がいずれもポリ乳酸系樹脂(B)のみを用いた比較例1の樹脂組成物と同等程度であり、耐熱性、柔軟性及び耐衝撃性が劣っていた。
また、共重合樹脂(A2)とポリ乳酸系樹脂(B)を含有しているものの、ポリ乳酸系樹脂(B)が連続相である比較例6〜7の樹脂組成物も同様に、耐熱性、柔軟性及び耐衝撃性が劣っていた。
【0067】
ポリ乳酸系樹脂(B)とポリカーボネート(D)を含有しており、ポリカーボネート(D)が連続相である比較例4は、柔軟性及び耐衝撃性が劣っていた。
【0068】
また、ポリ乳酸系樹脂(B)とポリエチレン(E)を含有しており、ポリエチレン(E)が連続相である比較例5は、耐熱性、耐衝撃性が劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族エーテルエステル共重合樹脂及び脂肪族エーテルアミド共重合樹脂からなる群から選ばれる1種以上の共重合樹脂(A)とポリ乳酸系樹脂(B)とを含有し、連続相が前記共重合樹脂(A)であり、分散相が前記ポリ乳酸系樹脂(B)である熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記分散相の平均長径が1〜500nmである、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記共重合樹脂(A)5〜50質量%と、前記ポリ乳酸系樹脂(B)95〜50質量%(ただし、(A)と(B)の合計が100質量%である。)を含有する、請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記共重合樹脂(A)の溶融粘度ηと前記ポリ乳酸系樹脂(B)の溶融粘度ηの比(η/η)が0.3〜1.3である、請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物を用いてなる医療製品。

【公開番号】特開2011−1430(P2011−1430A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−144569(P2009−144569)
【出願日】平成21年6月17日(2009.6.17)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】