説明

熱可塑性樹脂組成物

【課題】 衝撃強度、剛性、耐熱性が良好なPC/PETアロイを提供すること、並びに再生ポリエチレンテレフタレート樹脂により有効な特性を安定して発揮させ、従来以上にその有効活用を達成する。
【解決手段】 (A)芳香族ポリカーボネート(A成分)10〜95重量部および(B)ポリエチレンテレフタレート(B成分)5〜90重量部の合計100重量部からなる樹脂組成物であって、該B成分は、(i)重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が2.2〜10、(ii)末端カルボキシル基量が15〜100eq/ton、並びに(iii)o−クロロフェノールを溶媒として35℃で測定した固有粘度が0.4〜1.0の範囲であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、芳香族ポリカーボネートおよびポリエチレンテレフタレートからなる熱可塑性樹脂組成物に関する。更に詳しくは該ポリエチレンテレフタレートは、その分子量分布Mw/Mnが2.2〜10であり、末端カルボキシル基量が15〜100eq/tonであり、固有粘度が0.4〜1.0の範囲であることを特徴とし、衝撃強度、剛性、および耐熱性に優れ、また成形品外観や耐薬品性等にも優れた熱可塑性樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】芳香族ポリカーボネート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂からなる樹脂組成物(以下単に“PC/PETアロイ”と称することがある)は、高水準の外観、並びに優れた機械特性、寸法安定性、および耐薬品性を有している為に各種工業分野で幅広く使用されている。
【0003】PC/PETアロイの特性は、芳香族ポリカーボネート樹脂の持つ優れた耐衝撃性、機械特性、寸法安定性等にポリエチレンテレフタレート樹脂のもつ耐薬品性を付与したものであるため、PC/PETアロイは、特に自動車の内装および外装部品の分野やOA機器の分野などにおいて有効に利用されている。
【0004】近年、自動車分野およびOA分野では、部品の薄肉化および軽量化等が急速に進行している。例えば、自動車分野では軽量化のためフェンダー等のボディパネルに代表される大型部品を樹脂材料にする技術開発が再び活発となっている。これら薄肉化および軽量化が求められる部品においては高い剛性や耐衝撃性または耐熱性などを有する樹脂材料が要求される場合が多い。
【0005】PC/PETアロイの衝撃強度を改善する手段として、従来より衝撃改質剤を添加することがなされている。衝撃改質剤としては弾性重合体がよく用いられる。弾性重合体はそのゴム成分の量によって改質効果が異なり、ゴム成分が比較的少ないもの(ABS樹脂、AES樹脂、ASA樹脂、HIPS樹脂等)は衝撃強度と共に流動性も改良することが可能である。一方ゴム成分が比較的多いものは、少量で衝撃強度を改善可能である。これらの特徴を生かすため、単独または複数の衝撃改質剤が使われる。しかしながら、弾性重合体の配合は剛性、耐熱性などの低下を招く場合が多い。また衝撃改質剤の添加は外観低下を生ずる場合もあり、良外観の要求のある部品においては好ましくない。
【0006】上記の如く成形品の薄肉化若しくは軽量化が進行した場合、材料の機械強度、剛性、耐熱性、寸法安定性等に対しても高いレベルの性能が要求される。かかる要求への対応としてPC/PETアロイに充填材を添加することは一般的な方法である。しかしながら充填材の添加は、しばしば外観の悪化並びに衝撃強度の低下を生じ、また軽量化の障害にもなり得る。したがって衝撃強度や剛性が良好な材料も求められる。
【0007】更に、特にOA機器分野においては、製品の安全性の観点から樹脂組成物に良好な難燃性が求められる。成形品の薄肉化はより高い難燃性を必要とする。より多くの難燃剤の添加は、衝撃強度をより低下させることが多い。したがって難燃剤を添加する場合にも衝撃強度の良好なPC/PETアロイは有効である。更にリン酸エステルなどの樹脂材料の耐熱性を低下させやすい難燃剤を使用する場合には、耐熱性の高いPC/PETアロイが有効となる。
【0008】またPC/PETアロイにはその溶融弾性効果を改善する目的で、溶融弾性効果改質剤を添加することもなされる。溶融弾性効果が改善された場合、樹脂燃焼時の縮み上がりが強くなるため、燃焼時の溶融滴下を防止する効果が付与される。更に溶融弾性効果の改善は、ブロー成形時や中空射出成形時の偏肉の抑制、並びに射出成形時のジェッティング現象の消失をもたらす。しかしながら、溶融弾性効果改質剤を添加すると衝撃強度等が低下する場合がある。かかる場合にも衝撃強度の良好なPC/PETアロイは有効である。
【0009】一方で、近年環境意識の高まりから、使用済みの樹脂製品を回収し、再生して使用することが盛んに行われている。その中でもポリエチレテレフタレート樹脂の再生使用は盛んに行われており、ポリエチレンテレフタレート製容器(以下単に“PETボトル”と称する場合がある)から再生された再生ポリエチレンテレフタレート樹脂はよい一例である。しかしながら、ポリエチレテレフタレート樹脂の場合、再生加工する際の樹脂劣化の進行が早いなどの理由から品質を均一に維持するのが困難であるとの問題がある。単一樹脂の品質のバラツキを吸収するためには、他の樹脂とのポリマーアロイとする方法がある。再生ポリエチレンテレフタレート樹脂に関して既に下記のような提案がなされている。
【0010】特開平10−152603号公報には、ポリエチレンテレフタレート80〜99重量%、ポリカーボネート1〜20重量%からなる樹脂組成物を発泡成形することにより、木材に似た物性を有する材料が得られる旨が提案されている。更にポリエチレンテレフタレートとしてPETボトルの再生品を使用することはより望ましい旨が記載されている。
【0011】特開2000−135714号公報には、使用済みのPETボトルから特定の工程を経て得られたチップ状の再生ポリエチレンテレフタレート樹脂と他の産業廃材からの再生材とアフィニティー樹脂バージン材からなる再生ペットボトルが記載されている。
【0012】特開2001−55495号公報には、特定値以上の酸価、および特定範囲の固有粘度を有するポリエチレンテレフタレート樹脂にポリオルガノシロキサンゴムおよびポリアルキル(メタ)アクリレートゴムからなる複合ゴムのグラフト共重合体を添加した樹脂組成物が薄肉成形品に求められる高い衝撃強度を達成することが記載されている。そしてその技術的課題はポリエチレンテレフタレート樹脂製品のリサイクル使用にある旨が記載されている。
【0013】しかしながら上記いずれの公報においても、特定の性質を有するポリエチレンテレフタレートが、芳香族ポリカーボネートとの組合せにおいてより有効な特性を有することを開示するものではない。更に再生ポリエチレンテレフタレート樹脂のより有効な活用法を十分に開示したとは言い難かった。
【0014】一方で、特開平6−279664号公報には、低分子量のポリブチレンテレフタレート樹脂、高分子量のポリエステル樹脂、および特定の含リン化合物からなる樹脂組成物が記載され、該樹脂組成物は高流動性であり、溶融粘度の上昇のない良好な樹脂組成物である旨が記載されている。更に芳香族ポリカーボネート樹脂を含んだ樹脂組成物についても開示されている。しかしながらかかる公報も特定の性質を有するポリエチレンテレフタレートが、芳香族ポリカーボネートとの組合せにおいてより有効な特性を有することを教示するものではなかった。
【0015】上述の如く、(i)PC/PETアロイにおいては衝撃強度、剛性、耐熱性が良好な樹脂組成物が求められ、(ii)再生ポリエチレンテレフタレート樹脂の更なる有効活用も求められているものの、未だこれら課題の十分な解決がされているとは言い難い。
【0016】
【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、第1に衝撃強度、剛性、耐熱性が良好なPC/PETアロイを提供することにある。更に本発明の第2の課題は再生ポリエチレンテレフタレート樹脂により有効な特性を安定して発揮させ、従来以上にその有効活用を達成する点にある。
【0017】本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、極めて驚くべきことに、特定の芳香族ポリカーボネート樹脂と特定の再生ポリエチレンテレフタレート樹脂とからなる樹脂組成物において、耐衝撃性、剛性、耐熱性がいずれも良好な熱可塑性樹脂組成物が得られることを見出した。かかる知見に基づいて鋭意検討を行い、本発明を完成するに至った。
【0018】
【課題を解決するための手段】本発明は、(A)芳香族ポリカーボネート(A成分)10〜95重量部および(B)ポリエチレンテレフタレート(B成分)5〜90重量部の合計100重量部からなる樹脂組成物であって、該B成分は、(i)重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が2.2〜10、(ii)末端カルボキシル基量が15〜100eq/ton、並びに(iii)o−クロロフェノールを溶媒として35℃で測定した固有粘度が0.4〜1.0の範囲であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物にかかるものである。
【0019】本発明は好適には上記A成分50〜95重量部、および上記B成分5〜50重量部の合計100重量部からなるである上記熱可塑性樹脂組成物にかかるものである。
【0020】本発明は好適には、A成分はそのフェノール性水酸基量が1〜50eq/ton、および粘度平均分子量が17,000〜27,000の芳香族ポリカーボネートである上記熱可塑性樹脂組成物にかかるものである。
【0021】本発明は好適には、上記B成分は、o−クロロフェノールを溶媒として35℃で測定した固有粘度が0.65〜0.75である上記熱可塑性樹脂組成物にかかるものである。
【0022】更に本発明は好適には、上記B成分は、使用済みのポリエチレンテレフタレート製品を解重合の工程を経ることなく再生したポリエチレンテレフタレート樹脂である上記熱可塑性樹脂組成物にかかるものである。
【0023】以下、本発明の詳細について説明する。
【0024】本発明のA成分である芳香族ポリカーボネートは、二価フェノールとカーボネート前駆体とを反応させて得られるものである。反応の方法としては界面重縮合法、溶融エステル交換法、カーボネートプレポリマーの固相エステル交換法、および環状カーボネート化合物の開環重合法などを挙げることができる。
【0025】二価フェノールの代表的な例としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、9,9−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}フルオレン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンおよびα,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼンなどを挙げることができる。その他1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの二価の脂肪族アルコールを共重合することも可能である。上記の各種二価フェノールから得られる芳香族ポリカーボネートの中でも、ビスフェノールAの単独重合体を特に好ましく挙げることができる。かかる芳香族ポリカーボネートは、耐衝撃性が優れる点で好ましい。
【0026】カーボネート前駆体としてはカルボニルハライド、カーボネートエステルまたはハロホルメート等が使用され、具体的にはホスゲン、ジフェニルカーボネートまたは二価フェノールのジハロホルメート等が挙げられる。
【0027】上記二価フェノールとカーボネート前駆体を界面重縮合法または溶融エステル交換法によって反応させて芳香族ポリカーボネートを製造するに当っては、必要に応じて触媒、末端停止剤、二価フェノールが酸化するのを防止するための酸化防止剤等を使用してもよい。また芳香族ポリカーボネートは三官能以上の多官能性芳香族化合物を共重合した分岐ポリカーボネートであってもよい。三官能以上の多官能性芳香族化合物としては、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,1−トリス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エタンなどが使用できる。
【0028】分岐ポリカーボネートを生ずる多官能性化合物を含む場合、かかる割合は、芳香族ポリカーボネート全量中、0.001〜1モル%、好ましくは0.005〜0.5モル%、特に好ましくは0.01〜0.3モル%である。また特に溶融エステル交換法の場合、副反応として分岐構造が生ずる場合があるが、かかる分岐構造量についても、芳香族ポリカーボネート全量中、0.001〜1モル%、好ましくは0.005〜0.5モル%、特に好ましくは0.01〜0.3モル%であるものが好ましい。尚、かかる割合については1H−NMR測定により算出することが可能である。
【0029】更に芳香族または脂肪族の二官能性カルボン酸を共重合したポリエステルカーボネートであってもよい。脂肪族の二官能性カルボン酸としては、例えば炭素数8〜20、好ましくは10〜12の脂肪族の二官能性カルボン酸が挙げられる。かかる脂肪族の二官能性のカルボン酸は、直鎖状、分枝状、環状のいずれであってもよい。脂肪族の二官能性のカルボン酸は、α,ω−ジカルボン酸が好ましい。脂肪族の二官能性のカルボン酸としては例えば、セバシン酸(デカン二酸)、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、オクタデカン二酸、イコサン二酸等の直鎖飽和脂肪族ジカルボン酸が好ましく挙げられる。
【0030】更にポリオルガノシロキサン単位を共重合した、ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体の使用も可能である。
【0031】芳香族ポリカーボネートは、上述した各種二価フェノールの異なるポリカーボネート、分岐成分を含有する分岐ポリカーボネート、各種のポリエステルカーボネート、ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体など各種の芳香族ポリカーボネートの2種以上を混合したものであってもよい。更に下記に示す製造法の異なる芳香族ポリカーボネート、末端停止剤の異なる芳香族ポリカーボネートなど各種についても2種以上を混合したものが使用できる。
【0032】芳香族ポリカーボネートの重合反応において界面重縮合法による反応は、通常二価フェノールとホスゲンとの反応であり、酸結合剤および有機溶媒の存在下に反応させる。酸結合剤としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物またはピリジン等のアミン化合物が用いられる。有機溶媒としては、例えば塩化メチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素が用いられる。また、反応促進のために例えばトリエチルアミン、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド、テトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイド等の第三級アミン、第四級アンモニウム化合物、第四級ホスホニウム化合物等の触媒を用いることもできる。その際、反応温度は通常0〜40℃、反応時間は10分〜5時間程度、反応中のpHは9以上に保つのが好ましい。
【0033】また、かかる重合反応において、通常末端停止剤が使用される。かかる末端停止剤として単官能フェノール類を使用することができる。単官能フェノール類の具体例としては、例えばフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−クミルフェノールおよびイソオクチルフェノールが挙げられる。また、末端停止剤は単独でまたは2種以上混合して使用してもよい。
【0034】溶融エステル交換法による反応は、通常二価フェノールとカーボネートエステルとのエステル交換反応であり、不活性ガスの存在下に二価フェノールとカーボネートエステルとを加熱しながら混合して、生成するアルコールまたはフェノールを留出させる方法により行われる。反応温度は生成するアルコールまたはフェノールの沸点等により異なるが、通常120〜350℃の範囲である。反応後期には系を1.33×103〜13.3Pa程度に減圧して生成するアルコールまたはフェノールの留出を容易にさせる。反応時間は通常1〜4時間程度である。
【0035】カーボネートエステルとしては、置換されていてもよい炭素数6〜10のアリール基、アラルキル基あるいは炭素数1〜4のアルキル基などのエステルが挙げられ、なかでもジフェニルカーボネートが好ましい。
【0036】また、重合速度を速めるために重合触媒を用いることができ、かかる重合触媒としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、二価フェノールのナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属化合物、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属化合物、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルアミン、トリエチルアミン等の含窒素塩基性化合物などの触媒を用いることができる。更にアルカリ(土類)金属のアルコキシド類、アルカリ(土類)金属の有機酸塩類、ホウ素化合物類、ゲルマニウム化合物類、アンチモン化合物類、チタン化合物類、ジルコニウム化合物類などの通常エステル化反応、エステル交換反応に使用される触媒を用いることができる。触媒は単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの重合触媒の使用量は、原料の二価フェノール1モルに対し、好ましくは1×10-8〜1×10-3当量、より好ましくは1×10-7〜5×10-4当量の範囲で選ばれる。
【0037】溶融エステル交換法による反応ではフェノール性の末端基を減少するために、重縮反応の後期あるいは終了後に、例えば2−クロロフェニルフェニルカーボネート、2−メトキシカルボニルフェニルフェニルカーボネートおよび2−エトキシカルボニルフェニルフェニルカーボネート等の化合物を加えることができる。
【0038】さらに溶融エステル交換法では触媒の活性を中和する失活剤を用いることが好ましい。かかる失活剤の量としては、残存する触媒1モルに対して0.5〜50モルの割合で用いるのが好ましい。また重合後の芳香族ポリカーボネートに対し、0.01〜500ppmの割合、より好ましくは0.01〜300ppm、特に好ましくは0.01〜100ppmの割合で使用する。失活剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩などのホスホニウム塩、テトラエチルアンモニウムドデシルベンジルサルフェートなどのアンモニウム塩などが好ましく挙げられる。
【0039】芳香族ポリカーボネートの粘度平均分子量は特に限定されないが、本発明においては15,000〜100,000の範囲が好適である。殊にA成分の芳香族ポリカーボネートが樹脂組成物100重量%中50重量%以上含まれる場合には17,000〜27,000がより好ましく、18,000〜25,000が更に好ましく、19,000〜24,000が特に好ましい。粘度平均分子量が15,000未満であると強度などが低下し、更に得られる樹脂組成物の熱安定性が低下する場合がある。一方100,000を超えると流動性は低下するため、本発明においては好ましくない。
【0040】また本発明の芳香族ポリカーボネートにおいて、そのフェノール性水酸基量は1eq/ton以上が好ましく、2eq/ton以上がより好ましく、5eq/ton以上が更に好ましい。一方上限は100eq/ton以下が好ましく、50eq/ton以下がより好ましく、40eq/ton以下が更に好ましい。1eq/ton以上であるとポリエチレンテレフタレート樹脂と適切な相互作用が得られ、100eq/ton以下であると熱安定性が良好であり、薄肉成形により好適である。尚、該フェノール性水酸基量は、1H−NMR測定を行い、カーボネート結合を有する2価フェノールユニット、フェノール性水酸基を有する2価フェノールユニット、および末端停止剤のユニットのモル比を算出し、それに基づきポリマー重量当りのフェノール性水酸基量に換算することで求められる。
【0041】上記により本発明の好適なA成分としてそのフェノール性水酸基量が1〜50eq/ton、および粘度平均分子量が17,000〜27,000の芳香族ポリカーボネートを挙げることができる。
【0042】本発明のA成分の芳香族ポリカーボネートとしては、バージン原料だけでなく、使用済みの製品から再生されたポリカーボネート樹脂、いわゆるマテリアルリサイクルされた芳香族ポリカーボネート樹脂の使用も可能である。使用済みの製品としては防音壁、ガラス窓、透光屋根材、および自動車サンルーフなどに代表される各種グレージング材、風防や自動車ヘッドランプレンズなどの透明部材、水ボトルなどの容器、並びに光記録媒体などが好ましく挙げられる。これらは多量の添加剤や他樹脂などを含むことがなく、目的の品質が安定して得られやすい。尚、上記のバージン原料とは、その製造後に未だ市場において使用されていない原料である。
【0043】本発明でいう粘度平均分子量はまず次式にて算出される比粘度を塩化メチレン100mlに芳香族ポリカーボネート樹脂0.7gを20℃で溶解した溶液からオストワルド粘度計を用いて求め、比粘度(ηSP)=(t−t0)/t0[t0は塩化メチレンの落下秒数、tは試料溶液の落下秒数]求められた比粘度を次式にて挿入して粘度平均分子量Mを求める。
ηSP/c=[η]+0.45×[η]2c(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10-40.83c=0.7
【0044】本発明のB成分であるポリエチレンテレフタレートは、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸およびジオール成分としてエチレングリコールから主としてなる重合体であり、ポリエチレンテレフタレートを形成するジカルボン酸成分とジオール成分の内、ジカルボン酸成分100モル%中70モル%以上、好ましくは90モル%以上、最も好ましくは99モル%以上が芳香族ジカルボン酸であるポリエステルである。
【0045】本発明のポリエチレンテレフタレートはテレフタル酸以外のジカルボン酸を共重合成分として含むものでもよい。かかる他のジカルボン酸成分の例として、イソフタル酸、2−クロロテレフタル酸、2,5−ジクロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、4,4−スチルベンジカルボン酸、4,4−ビフェニルジカルボン酸、オルトフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、ビス安息香酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4−ジフェノキシエタンジカルボン酸、5−Naスルホイソフタル酸、エチレン−ビス−p−安息香酸等があげられる。これらのジカルボン酸は単独でまたは2種以上混合して使用することができる。テレフタル酸以外のジカルボン酸成分は、ジカルボン酸の全量を100モル%としたとき、30モル%以下が好ましく、20モル%以下がより好ましい。
【0046】更に本発明のポリエチレンテレフタレートには、上記芳香族ジカルボン酸以外に、30モル%未満の脂肪族ジカルボン酸成分を共重合することができる。その具体例として、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカン二酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等があげられる。
【0047】また本発明のポリエチレンテレフタレートはエチレングリコール以外のジオール成分を共重合成分として含むものでもよい。他のジオール成分としては例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、トランス−または−2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジオール、p−キシレンジオール、ビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2−ヒドロキシエチルエーテル)などを挙げることができる。これらは単独でも、2種以上を混合して使用することができる。
【0048】更にジオール成分としてわずかにポリエチレングリコールを共重合したポリエチレンテレフタレートも使用できる。ポリエチレングリコールの分子量としては150〜6,000の範囲が好ましい。
【0049】ポリエチレングリコール成分の組成割合としては、ジオール成分100重量%中、5重量%以下が好ましく、3重量%以下がより好ましく、2重量%以下が更に好ましい。一方下限としては、0.5重量%以上が好ましく、1重量%以上がより好ましい。
【0050】更にポリエチレンテレフタレート中には、通常重合時の副反応生成物としてジオール成分100モル%中、約0.5モル%以上のジエチレングリコール成分が含まれているが、かかるジエチレングリコール成分は6モル%以下が好ましく、5モル%以下が更に好ましい。
【0051】本発明のポリエチレンテレフタレートにおいて、テレフタル酸成分の一部をイソフタル酸成分としたポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体(以下、TA/IA共重合体と略称することがある。)を構成するジカルボン酸成分のテレフタル酸とイソフタル酸の割合は、全ジカルボン酸成分を100モル%としたとき、テレフタル酸が70〜99.9モル%、好ましくは75〜99モル%、更に好ましくは80〜99モル%である。また、イソフタル酸は0.1〜30モル%、好ましくは1〜25モル%、更に好ましくは1〜20モル%である。
【0052】更にこのTA/IA共重合体には、テレフタル酸とイソフタル酸以外の、ナフタレンジカルボン酸等前記の芳香族ジカルボン酸を10モル%以下、好ましくは5モル%以下、またアジピン酸等の前記の脂肪族ジカルボン酸を5モル%以下、好ましくは3モル%以下共重合することが可能であるが、ジカルボン酸成分がテレフタル酸とイソフタル酸のみからなるものが最も好ましい。また、TA/IA共重合体におけるジオール成分としてエチレングリコール単独が最も好ましいが、エチレングリコール以外のジオール成分を共重合することも可能である。
【0053】本発明のポリエチレンテレフタレートにおいてエチレングリコール成分の一部をネオペンチルグリコール成分としたポリエチレン/ネオペンチルテレフタレート共重合体(以下、EG/NPG共重合体と略称することがある。)を構成するジオール成分のエチレングリコールとネオペンチルグリコールの割合は、全ジオール酸成分100モル%とした時にエチレングリコールが90〜99モル%、好ましくは95〜99モル%、更に好ましくは97〜99モル%である。また、ネオペンチルグリコールは1〜10モル%、好ましくは1〜8モル%、更に好ましくは1〜5モル%である。またエチレングリコールとネオペンチルグリコール以外のジオール成分を共重合することも可能である。
【0054】このEG/NPG共重合体には、テレフタル酸以外のイソフタル酸やナフタレンジカルボン酸等、前記の芳香族ジカルボン酸を10モル%以下、好ましくは5モル%以下、またアジピン酸等の前記の脂肪族ジカルボン酸を5モル%以下、好ましくは3モル%以下共重合することが可能であるが、ジカルボン酸成分がテレフタル酸単独のものが最も好ましい。また脂肪族ジカルボン酸を共重合することも可能である。
【0055】本発明に使用されるポリエチレンテレフタレートの製造方法については、常法に従い、チタン、ゲルマニウム、アンチモン等を含有する重縮合触媒の存在下に、加熱しながらジカルボン酸成分と前記ジオール成分とを重合させ、副生する水または低級アルコールを系外に排出することにより行われる。例えば、ゲルマニウム系重合触媒としては、ゲルマニウムの酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、アルコラート、フェノラート等が例示でき、更に具体的には、二酸化ゲルマニウム、水酸化ゲルマニウム、四塩化ゲルマニウム、テトラメトキシゲルマニウム等が例示される。またその他、三酸化アンチモン等の非溶性触媒が例示される。
【0056】また本発明では、従来公知の重縮合の前段階であるエステル交換反応において使用される、マンガン、亜鉛、カルシウム、マグネシウム等の化合物を併せて使用でき、およびエステル交換反応終了後にリン酸または亜リン酸の化合物等により、かかる触媒を失活させて重縮合することも可能である。ポリエチレンテレフタレートの製造方法は、バッチ式、連続重合式のいずれの方法をとることも可能である。
【0057】本発明のB成分であるポリエチレンテレフタレートは、更に次の条件を満足するものである。すなわち本発明のB成分は(i)重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が2.2〜10、(ii)末端カルボキシル基量が15〜100eq/ton、並びに(iii)o−クロロフェノールを溶媒として35℃で測定した固有粘度が0.4〜1.0の範囲であるポリエチレンテレフタレートである。
【0058】上記条件(i)において好ましくはMw/Mnが2.4〜8であり、3〜6が更に好ましい。Mw/Mnが2.2〜10の範囲を外れると衝撃強度の点で劣るようになる。
【0059】上記条件(ii)において好ましくは末端カルボキシル基量が15〜70eq/tonであり、より好ましくは15〜50eq/tonであり、更に好ましくは15〜40eq/tonである。末端カルボキシル基量が15eq/ton未満の場合は良好な衝撃強度、剛性、耐熱性、および外観が得られにくく、100eq/tonを超える場合には熱安定性が不十分となりやすい。
【0060】上記条件(iii)において好ましくはo−クロロフェノールを溶媒として35℃で測定した固有粘度が0.5〜0.8であり、より好ましくは0.6〜0.75であり、更に好ましくは0.65〜0.75である。かかる範囲内の場合に良好な衝撃強度、剛性、および耐熱性が達成される。
【0061】通常ポリエチレンテレフタレートの固有粘度が低いほど、PC/PETアロイの衝撃強度等が低下しやすく、一方では分子の可動性が高くなるため結晶化にはある程度有利に働く。しかしながら本発明においては分子量分布をある程度広げることにより衝撃強度の低下を補っていると考えられる。すなわち分子量分布Mw/Mnと固有粘度の間にも好ましい関係があり、本発明においては、Mw/Mnの値と固有粘度の値との積が1.5〜3であることが好ましく、1.6〜2.7であることがより好ましく、1.6〜2.5であることが更に好ましい。
【0062】尚、上記条件(i)のMw/Mnの算出は次のGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法により行う。すなわち温度23℃、相対湿度50%の清浄な空気の環境下に置かれたGPC測定装置を用い、カラムとしてポリマーラボラトリーズ社製MIXED−C(長さ300mm、内径7.5mm)、移動相としてクロロホルム、標準物質としてポリマーラボラトリーズ社製イージーキャルPS−2、及び検出器としてUV検出器(波長254nm)を用い、展開溶媒としてクロロホルムを使用し、ポリエチレンテレフタレート試料を一旦クロロホルム:ヘキサフルオロイソプロパノール=1:1(vol)混合溶液に溶解後、クロロホルムで希釈した濃度0.3mg/mlの溶液をGPC測定装置に100μlに注入し、カラム温度35℃及び流量1ml/minの条件によりGPC測定を行い、試料の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)およびMw/Mnを算出する。
【0063】本発明の樹脂組成物は上記(i)〜(iii)の条件を満足するポリエチレンテレフタレートと、特に特定条件を満足するポリカーボネートとを特定割合で混合することにより、良好な衝撃強度、剛性、耐熱性が達成される。上記(iii)の条件を満足した上において、上記(i)の条件は樹脂溶融時の分子の可動性と樹脂固化時の樹脂の強度を両立するのに有効な作用をすると考えられ、上記(ii)の条件は芳香族ポリカーボネートとポリエチレンテレフタレートとの間の適切な親和性を与え良好な分散性を得るのに有効な作用をするものと考えられる。これらの条件が共に満足されることにより、条件(i)による効果が条件(ii)による効果によって、より良好に発現すると考えられる。
【0064】更に本発明において重要なことは、上記条件(i)〜(iii)を満足するポリエチレンテレフタレートが、再生ポリエチレンテレフタレート樹脂において得られる点にある。これはかかる再生樹脂の更なる有効活用を可能とする。
【0065】再生ポリエチレンテレフタレート樹脂は、種々のポリエチレンテレフタレート樹脂製品から再生されたものであり、2種以上の製品が混在した状態から再生されたものでも構わない。かかる樹脂製品としては、容器、フィルム、シート、繊維などが主として挙げられるが、より好適なものは容器、すなわちPETボトルである。その利点は比較的製品使用期間が短期な場合が多く、再生樹脂の品質が安定し易く、また異物の混入をさけることが比較的容易な点にある。
【0066】かかる再生ポリエチレンテレフタレート樹脂の態様として具体的には例えば、PETボトルを(1)粉砕し、(2)洗浄し、(3)脱水・乾燥し、(4)熱溶融させてペレット状にしたものが挙げられる。当然(1)の粉砕のみを行ったもの、(2)の洗浄まで行ったもの、または(3)の乾燥まで行ったものも使用可能である。尚、洗浄後に粉砕を行うことも可能である。また得られる樹脂組成物の熱安定性の点に配慮すれば、再生ポリエチレンテレフタレート樹脂中に水分を含有した状態で溶融加工を行うことは好ましくなく、洗浄工程を介した樹脂においては少なくとも芳香族ポリカーボネートとの混合前に乾燥処理を行うことが好ましい。また再生ポリエチレンテレフタレート樹脂としては、製品の不適合品、スプルー、またはランナーなどから得られた粉砕品またはそれらを溶融して得たペレットなども使用可能である。
【0067】再生ポリエチレンテレフタレート樹脂としては、回収された使用済のポリエチレンテレフタレート樹脂を解重合し、原料に近い段階から再度ポリエチレンテレフレタート樹脂を製造する技術も既に広く知られている。しかしながらかかるポリエチレンテレフタレート樹脂の場合は通常のバージン原料に近い特性を有する。したがって本発明においてより好適なB成分としては使用済みのポリエチレンテレフタレート製品を解重合の工程を経ることなく再生したポリエチレンテレフタレート樹脂を挙げることができる。更にバージン原料のポリエチレンテレフタレートと再生ポリエチレンテレフタレート樹脂とを混合して使用することも可能である。
【0068】上記A成分とB成分との組成割合は、A成分10〜95重量部およびB成分5〜90重量部の合計100重量部である。好ましくは2成分の合計100重量部当り、A成分の下限は30重量部以上、より好ましくは50重量部以上、更に好ましくは60重量部以上である。一方B成分の上限は好ましくは70重量部以下、より好ましくは50重量部以下、更に好ましくは40重量部以下である。殊にA成分の割合が50重量部以上(B成分の割合が50重量部以下)である場合には本発明はより有効な効果を発揮する。すなわち、本発明のより好適な態様としてA成分50〜95重量部、および上記B成分5〜50重量部の合計100重量部からなる熱可塑性樹脂組成物を挙げることができる。
【0069】本発明の熱可塑性樹脂組成物は、更に良好な衝撃強度を得るために、C成分として衝撃改質剤を含むことが好適である。一方で本発明の樹脂組成物は剛性、耐熱性が良好であるため、衝撃改質剤によるこれら特性の低下を補うことができる。
【0070】衝撃改質剤としては各種の弾性重合体を挙げることができる。ここで弾性重合体とは、ガラス転移温度が10℃以下、好ましくは−10℃以下、より好ましくは−30℃以下であるゴム成分と、該ゴム成分と共重合可能な単量体成分とを共重合した重合体をいう。ゴム成分としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ジエン系共重合体(例えば、スチレン・ブタジエンのランダム共重合体およびブロック共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体、並びにアクリル・ブタジエンゴム(アクリル酸アルキルエステルまたはメタクリル酸アルキルエステルおよびブタジエンの共重合体)など)、エチレンとα−オレフィンとの共重合体(例えば、エチレン・プロピレンランダム共重合体およびブロック共重合体、エチレン・ブテンのランダム共重合体およびブロック共重合体など)、エチレンと不飽和カルボン酸エステルとの共重合体(例えばエチレン・メタクリレート共重合体、およびエチレン・ブチルアクリレート共重合体など)、エチレンと脂肪族ビニルとの共重合体(例えば、エチレン・酢酸ビニル共重合体など)、エチレンとプロピレンと非共役ジエンターポリマー(例えば、エチレン・プロピレン・ヘキサジエン共重合体など)、アクリルゴム(例えば、ポリブチルアクリレート、ポリ(2−エチルヘキシルアクリレート)、およびブチルアクリレートと2−エチルヘキシルアクリレートとの共重合体など)、並びにシリコーン系ゴム(例えば、ポリオルガノシロキサンゴム、ポリオルガノシロキサンゴム成分とポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分とからなるIPN型ゴム;すなわち2つのゴム成分が分離できないように相互に絡み合った構造を有しているゴム、およびポリオルガノシロキサンゴム成分とポリイソブチレンゴム成分からなるIPN型ゴムなど)が挙げられる。
【0071】かかるゴム成分に共重合される単量体成分としては、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、(メタ)アクリル酸化合物などが好適に挙げられる。その他の単量体成分としては、グリシジルメタクリレートなどのエポキシ基含有メタクリル酸エステル、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミドなどのマレイミド系単量体、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フタル酸、イタコン酸などのα,β−不飽和カルボン酸およびその無水物等を挙げることができる。
【0072】より具体的には、SB(スチレン−ブタジエン)重合体、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)重合体、MBS(メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン)重合体、MABS(メチルメタクリレート−アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)重合体、MB(メチルメタクリレート−ブタジエン)重合体、ASA(アクリロニトリル−スチレン−アクリルゴム)重合体、AES(アクリロニトリル−エチレンプロピレンゴム−スチレン)重合体、MA(メチルメタクリレート−アクリルゴム)重合体、MAS(メチルメタクリレート−アクリルゴム−スチレン)重合体、メチルメタクリレート−アクリル・ブタジエンゴム共重合体、メチルメタクリレート−アクリル・ブタジエンゴム−スチレン共重合体、メチルメタクリレート−(アクリル・シリコーンIPNゴム)重合体などを挙げることができる。
【0073】その他弾性重合体としては、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマーなど各種の熱可塑性エラストマーが挙げられる。
【0074】上記弾性重合体中、ゴム成分の割合は5〜95重量%が好ましく、より好ましくは5〜85重量%である。同様に熱可塑性エラストマーの場合ソフトセグメントの割合は5〜95重量%が好ましく、より好ましくは5〜85重量%である。衝撃改質剤中のゴム成分またはソフトセグメントの割合が5〜40重量%の場合、衝撃改質剤の組成割合はA成分とB成分の合計100重量部に対し5〜50重量部が好ましく、10〜50重量部がより好ましく、10〜30重量部が更に好ましい。衝撃改質剤中のゴム成分の割合が40重量%を超える場合には衝撃改質剤の組成割合はA成分とB成分の合計100重量部に対し、0.1〜30重量部が好ましく、0.5〜20重量部がより好ましく、1〜10重量部が更に好ましい。これらの組成割合では良好な剛性と衝撃強度との両立が得られる。
【0075】更にその他衝撃改質剤としては、ポリエチレン、ポリオルガノシロキサン、およびオレフィン類と不飽和カルボン酸エステルとの共重合体などを挙げることができる。これらの衝撃改質剤における組成割合は、A成分とB成分の合計100重量部に対し、0.1〜30重量部が好ましく、0.5〜20重量部がより好ましく、1〜10重量部が更に好ましい。衝撃改質剤は単独での使用、および2種以上を組み合わせた使用のいずれも選択できる。
【0076】本発明では更にD成分として充填材を添加できる。本発明の熱可塑性樹脂組成物は衝撃強度が良好であるため、充填材の添加に伴う耐衝撃性の低下を補うことができる。本発明で用いられる充填材としては特に限定されるものではないが、ガラス繊維(チョップドストランド)、炭素繊維、金属被覆炭素繊維、耐熱有機繊維、金属繊維、金属繊維、ワラストナイト、ゾノトライト、チタン酸カリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、塩基性硫酸マグネシウムウィスカー等の繊維状充填材、タルク、マイカ、ガラスフレーク、グラファイトフレーク等の板状充填材、ガラス短繊維(ミルドファイバー)、炭素短繊維、ガラスビーズ、ガラスバルーン、カオリン、クレー、炭酸カルシウム、酸化チタン等の粒子状充填剤を挙げることができる。
【0077】この場合耐熱性、剛性、機械強度等の観点からは、繊維状充填材が好ましい。殊に樹脂組成物中においてアスペクト比L/Dが2〜50の範囲を有し(Lは数平均繊維長、Dは数平均繊維径)、数平均繊維長が100〜5000μmである繊維状充填材が好ましい。この場合、好適な添加量としては、1〜50重量%であり好ましくは5〜50重量%である。この場合に特に有用な充填材としてガラスファイバー、カーボンファイバーがあげられる。
【0078】より外観、衝撃強度が必要とされる場合、アスペクト比L/Dが2〜50の範囲を有し、数平均繊維長が0.3〜100μmの繊維状充填材がより好ましく用いられる。この場合最適な添加量としては5〜60重量%であり、より好ましくは5〜40重量%である。殊にアスペクト比L/Dが2〜10であり、数平均繊維長が3〜10μmである繊維状充填材が好適に用いられる。この場合の有用な充填材の例として珪灰石粉砕物(ワラストナイト)、ウイスカー等があげられ、特に好ましくは珪灰石粉砕物である。
【0079】また、寸法安定性、とくに異方性の低減には板状充填材が好適に用いられる。この場合、前記繊維状充填材と併用することにより耐熱性、剛性、機械的強度、衝撃強度、外観と異方性とのバランスをとることが可能である。
【0080】板状充填材の平均粒子径は0.1〜400μmが好ましい。平均粒子径が小さすぎる場合、充填材の十分な補強効果が得られず、平均粒子径が大きすぎる場合には外観が低下し、繊維状充填材を添加した場合と比較して、耐熱性、剛性、機械強度の改質効果も比較的低くなる。
【0081】本発明の熱可塑性樹脂組成物は更にE成分として難燃剤を含むことができる。本発明の難燃剤としては、各種ホスフェート、ホスフェート、ホスホネート、ホスファイト、ホスホネート、ホスホニトリルに代表される有機リン化合物、無機酸のアルカリ(土類)金属塩、有機酸のアルカリ(土類)金属塩、有機ハロゲン化合物、赤リン、有機シロキサン、無機系リン酸塩、無機金属化合物の水和物などを挙げることができる。有機リン化合物においては特に1分子中に2個以上のリン原子を有する化合物が好適である。
【0082】有機リン化合物の好ましい態様として下記一般式(1)で表される1種または2種以上の化合物を挙げることができる。
【0083】
【化1】


【0084】(但し上記式中のYは、ハイドロキノン、レゾルシノール、ビス(4−ヒドロキシジフェニル)メタン、ビスフェノールA、ジヒドロキシジフェニル、ジヒドロキシナフタレン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)サルファイドから誘導されるものが挙げられ、j、k、l、mはそれぞれ独立して0または1であり、nは0〜5の整数であり、またはn数の異なるリン酸エステルの混合物の場合は0〜5の平均値であり、R1、R2、R3、およびR4はそれぞれ独立して1個以上のハロゲン原子を置換したもしくは置換していないフェノール、クレゾール、キシレノール、イソプロピルフェノール、ブチルフェノール、p−クミルフェノールから誘導されるものである。)
この中で好ましくは、上記式中のYは、ハイドロキノン、レゾルシノール、ビスフェノールAから誘導されるものが挙げられ、j、k、l、mはそれぞれ1であり、nは0〜3の整数であり、またはn数の異なるリン酸エステルのブレンドの場合は0〜3の平均値であり、R1、R2、R3、およびR4はそれぞれ独立して1個以上のハロゲン原子を置換したもしくは置換していないフェノール、クレゾール、キシレノールから誘導されるものである。
【0085】更に、特に好ましくは、Yはレゾルシノール、ビスフェノールAから誘導されるものであり、j、k、l、mはそれぞれ1であり、nは0または1であり、R1、R2、R3、およびR4はそれぞれ独立してフェノールまたはキシレノールから誘導されるものである。
【0086】かかる有機リン化合物難燃剤の中でも、トリフェニルホスフェート、レゾルシノールビス(ジキシレニルホスフェート)およびビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)が、難燃性および耐加水分解性が良好であるため好ましい。
【0087】また好ましいホスホニトリル化合物として、フェノキシホスファゼンオリゴマーや環状フェノキシホスファゼンオリゴマーなどを挙げることができる。
【0088】本発明の無機酸のアルカリ(土類)金属塩におけるアルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウムなどが挙げられ、アルカリ(土類)金属としてはカルシウム、マグネシウム、バリウムなどが挙げられる。一方無機酸としては、H3AlF6、H3BF6、H3SbF6、H2TiF6、H2SiF6、H3PO、H2ZrF6、H2WF6、HBF4などが挙げられる。好ましい無機アルカリ金属塩または無機アルカリ土類金属塩としては、Na3AlF6、Ca3(AlF6)2が挙げられる。
【0089】本発明の有機酸のアルカリ(土類)金属塩におけるアルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウムなどが挙げられ、アルカリ(土類)金属としてはカルシウム、マグネシウム、バリウムなどが挙げられる。一方有機酸としては、有機酸としては、脂肪族スルホン酸、脂肪族硫酸エステル、芳香族スルホン酸、芳香族スルホンアミド、芳香族カルボン酸および脂肪族カルボン酸である。具体例としては、メチルスルホン酸、ラウリル硫酸エステル、ヘキサデシル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル、エチレングライコール、プロピレングライコール、ブタンジオールなどのモノまたはジ硫酸エステル、ペンタエリスリトールのモノ、ジ、トリまたはテトラ硫酸エステル、ステアリン酸モノグリセライドモノ硫酸エステル、1,3−ビス(2−エチルヘキシル)グリセリンエーテルモノ硫酸エステル、トリフルオロメタンスルホン酸、パーフルオロエタンスルホン酸、パーフルオロプロパンスルホン酸、パーフルオロブタンスルホン酸、パーフルオロメチルブタンスルホン酸、パーフルオロヘキサンスルホン酸、パーフルオロヘプタンスルホン酸、パーフルオロオクタンスルホン酸、ドデカンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、2,5−ジクロロベンゼンスルホン酸、2,4,6−トリクロロベンゼンスルホン酸、2,4,5−トリクロロベンゼンスルホン酸、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸、ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸、ナフタレントリスルホン酸、β−ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、N−(p−トリルスルホニル)−p−トルエンスルホイミド、N−(N’−ベンジルアミノカルボニル)スルファニルイミド、およびN−(フェニルカルボキシル)スルファニルイミド、カプリル酸、ラウリル酸、安息香酸、ナフトールカルボン酸、2,4,6−トリブロモ安息香酸などが挙げられる。好ましい有機アルカリ金属塩または有機アルカリ土類金属塩としては、パーフルオロブタンスルホン酸カリウム、パーフルオロブタンスルホン酸ナトリウム、パーフルオロブタンスルホン酸カルシウム、パーフルオロブタンスルホン酸セシウム、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸カリウム、ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸カリウム、β−ナフタレンスルホン酸ナトリウムホルマリン縮合物、N−(p−トリルスルホニル)−p−トルエンスルホイミドカリウムが挙げられる。
【0090】有機ハロゲン化合物としては、例えばテトラブロモビスフェノールA(TBA)のカーボネートオリゴマー、デカブロモジフェニルエーテル、オクタブロモジフェニルエーテル、テトラブロモジフェニルエーテル、ヘキサブロモシクロドデカン、エチレンビステトラブロモフタルイミド、トリス(ペンタブロモベンジル)イソシアヌレート、ブロモ化ポリスチレン、TBAエポキシ樹脂、テトラブロモフェノール末端TBAエポキシ樹脂等が挙げられる。これらの中でも、テトラブロモビスフェノールAのカーボネートオリゴマーが好適である。
【0091】本発明の赤リンは、一般の赤リンの他に赤リン表面を熱硬化樹脂および/または無機材料を用いてマイクロカプセル化されている赤リンを挙げることができる。更に安全性、作業性を良好とするためマスターペレット化したものが好ましく使用される。赤リンの平均粒径としては、1〜100μm、好ましくは1〜40μmのものを挙げることができる。マイクロカプセル化した赤リン系難燃剤の市販品としては、ノーバエクセル140、ノーバエクセルF−5(燐化学工業(株)製:商品名)、ヒシガードTP−10(日本化学工業(株)製:商品名)、ホスタフラムRP614(クラリアント・ジャパン(株)製:商品名)などが挙げられる。
【0092】有機シロキサン難燃剤としては、下記一般式(2)で表わされる基本構造を有するものを挙げることができる。
【0093】
【化2】


【0094】一般式(2)において、R5、R6、およびR7はそれぞれ水素原子または炭素数1〜12の炭化水素基を示し、例えば炭素数1〜12のアルキル基、炭素数2〜12のアルケニル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数7〜12のアリールアルキル基などが挙げられる。R5およびR6のそれぞれの置換基はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。R8は、炭素数1〜4のアルキル基を示す。
【0095】かかるアルキル基の具体例としてはメチル基、エチル基、n−プロピル基、n−プロピル基、イソプロピル基、各種ブチル基、各種ヘキシル基、シクロヘキシル基などが、アルケニル基の具体例としては、ビニル基、アリル基、シクロヘキセニル基などが、アリール基の具体例としては、フェニル基、ナフチル基、トリル基などが、アリールアルキル基の具体例としては、ベンジル基、β−フェネチル基、2−フェニルプロピル基などが挙げられる。これらの中で、特にフェニル基、ビニル基およびメチル基がより有効な難燃性を発揮するため好ましく使用することができ、特にフェニル基を含有することが好ましい。かかるフェニル基は有機シロキサン中の有機基(R5、R6、R7およびR8)のうち、少なくとも15モル%以上、好ましくは少なくとも20モル%、より好ましくは25〜90モル%、特に好ましくは25〜70モル%であることが好ましい。
【0096】更にR5、R6、およびR7のいずれかをフェノール性水酸基含有一価有機基とし、かかる有機シロキサン化合物をポリカーボネート樹脂と共重合させたものも使用することが可能である。フェノール性水酸基含有一価有機基としては、例えば2−(o−ヒドロキシフェニル)エチル基、2−(p−ヒドロキシフェニル)エチル基、2−(m−ヒドロキシフェニル)エチル基、1−(o−ヒドロキシフェニル)エチル基、1−(p−ヒドロキシフェニル)エチル基、1−(m−ヒドロキシフェニル)エチル基、3−(o−ヒドロキシフェニル)プロピル基、3−(p−ヒドロキシフェニル)プロピル基、3−(m−ヒドロキシフェニル)プロピル基、2−(o−ヒドロキシフェニル)プロピル基、2−(p−ヒドロキシフェニル)プロピル基、および2−(m−ヒドロキシフェニル)プロピル基などが挙げられる。
【0097】一般式(2)におけるa、b、cおよびdとしては、0≦a≦0.75、0≦b≦1、0≦c≦0.5、0≦d≦0.25および(a+b+c+d)=1の関係を満たすものである。eとしては(a+b+c+d)=1に対して、0≦e≦0.7を満たすものである。またcおよびdは同時に0ではない。更に0.5≦b≦0.9、0.1≦c≦0.5、かつ(b+c)が0.7以上であることが好ましい。また(a+b+c+d)=1に対して、0.1≦e≦0.5であることが好ましい。
【0098】更にかかる有機シロキサン化合物としては、25℃における動粘度が1〜10,000(×10-62/s=cSt(センチストークス))であることが好ましく、より好ましくは5〜1,000(×10-62/s)、更に好ましくは5〜300(×10-62/s)、特に好ましくは5〜100(×10-62/s)となるものである。
【0099】また難燃剤として、ポリリン酸アンモニウム塩のような無機リン酸塩を使用することができ、更に例えば水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ドロマイト、ハイドルタルサイト、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、塩基性炭酸マグネシウム、水酸化ジルコニウムおよび酸化スズの水和物ような無機金属水酸化物を使用することができる。
【0100】その他難燃剤としては、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、炭酸亜鉛、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、酸化マグネシウム、酸化モリブデン、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化アンチモンなどの無機系難燃剤を使用することができる。
【0101】難燃剤の組成割合は、その種類により好ましい範囲が異なる。例えば、有機リン化合物および有機ハロゲン化合物においてはA成分およびB成分の合計100重量部当り0.5〜30重量部が好ましく、1〜25重量部がより好ましく、2〜20重量部が更に好ましい。有機酸のアルカリ(土類)金属塩においてはA成分およびB成分の合計100重量部当り0.0001〜1重量部が好ましく、0.001〜0.5重量部がより好ましく、0.003〜0.3重量部が更に好ましい。また有機シロキサン化合物においてはA成分およびB成分の合計100重量部当り0.1〜15重量部が好ましく、0.3〜10重量部がより好ましく、0.5〜5重量部が特に好ましい。尚、その他の難燃剤においても概してA成分およびB成分の合計100重量部当り0.1〜30重量部の範囲とすることが好適である。
【0102】本発明の熱可塑性樹脂組成物には、更にF成分として溶融弾性効果改質剤を含むことができる。樹脂の溶融弾性の改良が必要な場合には該改質剤を含むことが好適である。該改質剤による溶融弾性の改良効果としては、例えば燃焼中のドリップが防止による難燃性の向上、ブロー成形時のドローダウン性改良による偏肉の防止、ガスアシスト射出成形時の溶融弾性改良による偏肉の防止、およびベイラス効果による射出成形時のジェッティング防止などが挙げられる。
【0103】かかる溶融弾性の改質効果は、基本的に高分子量のポリマーにより得られ、エチレン不飽和化合物のポリマーまたはコポリマーの場合には、その重量平均分子量が100万〜2000万、より好ましくは200万〜1000万のものが好適である。エチレン不飽和化合物のポリマーまたはコポリマーとしては、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリ(アクリロニトリル−スチレン)コポリマー、およびポリテトラフルオロエチレンなどを代表的に挙げることができる。中でもポリテトラフルオロエチレンが好ましい。これは緩和時間が長いほど効果を得る上で有利であり、そのためには軟化温度や融点が本発明の熱可塑性樹脂組成物の成形加工温度よりも高いものがより好ましいためである。
【0104】かかるポリテトラフルオロエチレン(以下単にPTFEと称することがある)は、通常フィブリル形成能を有するPTFEとして溶融滴下防止剤などに広く利用されている。かかるフィブリル形成能を有するPTFEの市販品としては例えば三井・デュポンフロロケミカル(株)のテフロン6J、ダイキン化学工業(株)のポリフロンMPA FA500、F−201Lなどを挙げることができる。PTFEの水性分散液の市販品としては、旭アイシーアイフロロポリマーズ(株)製のフルオンAD−1、AD−936、ダイキン工業(株)製のフルオンD−1、D−2、三井・デュポンフロロケミカル(株)製のテフロン30Jなどを代表として挙げることができる。
【0105】更に、PTFEとしては樹脂との混合形態のものも使用可能である。混合形態のPTFEとしては、(1)PTFEの水性分散液と有機重合体の水性分散液または溶液とを混合し共沈殿を行い共凝集混合物を得る方法(特開昭60−258263号公報、特開昭63−154744号公報などに記載された方法)、(2)PTFEの水性分散液と乾燥した有機重合体粒子とを混合する方法(特開平4−272957号公報に記載された方法)、(3)PTFEの水性分散液と有機重合体粒子溶液を均一に混合し、かかる混合物からそれぞれの媒体を同時に除去する方法(特開平06−220210号公報、特開平08−188653号公報などに記載された方法)、(4)PTFEの水性分散液中で有機重合体を形成する単量体を重合する方法(特開平9−95583号公報に記載された方法)、および(5)PTFEの水性分散液と有機重合体分散液を均一に混合後、更に該混合分散液中でビニル系単量体を重合し、その後混合物を得る方法(特開平11−29679号などに記載された方法)により得られたものが使用できる。これらの混合形態のPTFEの市販品としては、三菱レイヨン(株)の「メタブレンA3000」(商品名)、およびGEスペシャリティーケミカル社製 「BLENDEX B449」(商品名)などを挙げることができる。
【0106】かかる溶融弾性効果改質剤の組成割合は、A成分とB成分の合計100重量部当り0.01〜20重量部が好ましく、0.05〜10重量部がより好ましく、0.1〜5重量部が更に好ましい。
【0107】本発明の熱可塑性樹脂組成物には、芳香族ポリカーボネートとポリエチレンテレフタレートとのエステル交換反応を抑制するために、リン化合物からなる安定剤を含んでいることが好ましい。かかるリン化合物からなる安定剤としては各種ホスファイト化合物、ホスホナイト化合物、およびホスフェート化合物などを好ましく挙げることができる。
【0108】ホスファイト化合物としてはスピロ環骨格を有するホスファイトを第1に挙げることができる。かかるホスファイトの具体例としては、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、フェニルビスフェノールAペンタエリスリトールジホスファイト、ジシクロヘキシルペンタエリスリトールジホスファイトなどが挙げられ、好ましくはジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトを挙げることができる。かかるホスファイト化合物は1種、または2種以上を併用することができる。
【0109】更に他のホスファイト化合物としては、トリス(ジエチルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ−iso−プロピルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ−n−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトなどが挙げられる。
【0110】更に他のホスファイト化合物としては二価フェノール類と反応し環状構造を有するものも使用できる。例えば、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)(2−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェニル)(2−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、2,2’−エチリデンビス (4−メチル−6−tert−ブチルフェニル)(2−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイトなどを挙げることができる。
【0111】ホスフェート化合物としては、トリブチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクロルフェニルホスフェート、トリエチルホスフェート、ジフェニルクレジルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェートなどを挙げることができ、好ましくはトリフェニルホスフェート、トリメチルホスフェートである。
【0112】ホスホナイト化合物としては、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,6−ジ−n−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイト等があげられ、テトラキス(ジ−tert−ブチルフェニル)−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(ジ−tert−ブチルフェニル)−フェニル−フェニルホスホナイトが好ましく、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−フェニル−フェニルホスホナイトがより好ましい。かかるホスホナイト化合物は上記アルキル基が2以上置換したアリール基を有するホスファイト化合物との併用可能であり好ましい。
【0113】リン化合物からなる安定剤としては、ホスファイト化合物またはホスホナイト化合物と、ホスフェート化合物を併用して使用することが好ましい。またリン化合物からなる安定剤の組成割合としては、A成分とB成分の合計100重量部に対して、0.001〜2重量部が好ましく、より好ましくは0.005〜1重量部、更に好ましくは0.01〜1重量部、特に好ましくは0.01〜0.5重量部である。
【0114】更に本発明の熱可塑性樹脂組成物には、酸化防止剤、紫外線吸収剤、または光安定剤などを長期間における特性の劣化を抑制するために含むことができる。
【0115】酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤などを挙げることができる。フェノール系酸化防止剤としては種々のものを使用することができる。
【0116】フェノール系酸化防止剤の具体例としては、例えばn−オクタデシル−β−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)プロピオネート、2−tert−ブチル−6−(3’−tert−ブチル−5’−メチル−2’−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、3,9−ビス{2−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1,−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、およびテトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンなどを好ましく挙げることができ、n−オクタデシル−β−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)プロピオネートをより好ましく挙げることができる。
【0117】本発明のイオウ系酸化防止剤の具体例としては、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ジトリデシル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ラウリルステアリル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ペンタエリスリトールテトラ(β−ラウリルチオプロピオネート)エステル、ビス[2−メチル−4−(3−ラウリルチオプロピオニルオキシ)−5−tert−ブチルフェニル]スルフィド、オクタデシルジスルフィド、メルカプトベンズイミダゾール、2−メルカプト−6−メチルベンズイミダゾール、1,1’−チオビス(2−ナフトール)などを挙げることができる。より好ましくは、ペンタエリスリトールテトラ(β−ラウリルチオプロピオネート)エステルを挙げることができる。
【0118】紫外線吸収剤としては、例えば2−ヒドロキシ−4−n−ドデシルオキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、ビス(5−ベンゾイル−4−ヒドロキシ−2−メトキシフェニル)メタンなどに代表されるベンゾフェノン系紫外線吸収剤を挙げることができる。
【0119】また紫外線吸収剤としては例えば2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−ドデシル−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ビス(α,α’−ジメチルベンジル)フェニルベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’−(3”,4”,5”,6”−テトラフタルイミドメチル)−5’−メチルフェニル]ベンゾトリアゾール、2,2’メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]、メチル−3−[3−tert−ブチル−5−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシフェニルプロピオネート−ポリエチレングリコールとの縮合物に代表されるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を挙げることができる。
【0120】更に紫外線吸収剤としては例えば、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−ヘキシルオキシ−フェノール、2−(4,6−ビス−(2,4−ジメチルフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−ヘキシルオキシ−フェノールなどのヒドロキシフェニルトリアジン系化合物を挙げることができる。
【0121】またビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ポリ{[6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル][(2,2,6,6−テトラメチルピペリジル)イミノ]ヘキサメチレン[(2,2,6,6−テトラメチルピペリジル)イミノ]}、ポリメチルプロピル3−オキシ−[4−(2,2,6,6−テトラメチル)ピペリジニル]シロキサンなどに代表されるヒンダードアミン系の光安定剤も含むことができ、かかる光安定剤は上記紫外線吸収剤や各種酸化防止剤との併用において、耐候性などの点においてより良好な性能を発揮する。
【0122】フェノール系酸化防止剤、またはイオウ系酸化防止剤の組成割合はそれぞれA成分とB成分の合計100重量部に対して、0.001〜2重量部が好ましく、より好ましくは0.005〜1重量部、更に好ましくは0.01〜1重量部、特に好ましくは0.01〜0.5重量部である。
【0123】また紫外線吸収剤、光安定剤の組成割合は、それぞれA成分とB成分の合計100重量部に対して、0.001〜10重量部が好ましく、より好ましくは0.005〜5重量部、更に好ましくは0.01〜1重量部、特に好ましくは0.01〜3重量部である。
【0124】本発明の熱可塑性樹脂組成物は離型剤を含有することもできる。かかる離型剤としては公知のものが使用できる。例えば、飽和脂肪酸エステル(グリセリンの脂肪酸部分エステル、グリセリンの脂肪酸全エステル、ポリグリセリンの脂肪酸部分エステル、ポリグリセリンの脂肪酸全エステルなど)、不飽和脂肪酸エステル、ポリオレフィンワックス、フッ素化合物、パラフィンワックス、蜜蝋などを挙げることができる。
【0125】離型剤はA成分とB成分の合計100重量部に対して、0.001〜2重量部が好ましく、より好ましくは0.005〜1重量部、更に好ましくは0.01〜1重量部、特に好ましくは0.01〜0.5重量部である。
【0126】本発明の熱可塑性樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、帯電防止剤を含んでいてもよい。かかる帯電防止剤としては、例えばポリエーテルエステルアミド、グリセリンモノステアレート、ドデシルベンゼンスルホン酸アンモニウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ホスホニウム塩、無水マレイン酸モノグリセライド、無水マレイン酸ジグリセライド等が挙げられる。かかる帯電防止剤の組成割合は、A成分およびB成分の合計100重量部に対して0.5〜20重量部が好ましい。
【0127】本発明の熱可塑性樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、他の樹脂を含んでいてもよい。他の樹脂としては、例えば、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体等のスチレン系樹脂、ポリメタクリレート樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂などの樹脂が挙げられる。
【0128】更に、本発明の熱可塑性樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、その他各種添加剤を含むものであってもよい。その他各種添加剤としては、例えば滑剤、着色剤(有機染料、有機顔料、無機顔料、カーボンブラックなど)、蛍光増白剤、蓄光顔料、蛍光染料、流動改質剤、結晶核剤、無機および有機の抗菌剤、光触媒系防汚剤、赤外線吸収剤、フォトクロミック剤などを挙げることができる。
【0129】本発明の熱可塑性樹脂組成物を製造するには、任意の方法が採用される。例えばA成分、B成分および任意に他の成分を予備混合し、その後溶融混練し、ペレット化する方法を挙げることができる。予備混合の手段としては、V型ブレンダー、ヘンシェルミキサー、メカノケミカル装置、押出混合機などを挙げることができる。予備混合においては場合により押出造粒器やブリケッティングマシーンなどにより造粒を行うこともできる。予備混合後、ベント式二軸押出機に代表される溶融混練機で溶融混練、およびペレタイザー等の機器によりペレット化する。
【0130】他に、A成分、B成分および任意に他の成分を予備混合することなく、それぞれ独立に二軸押出機に代表される溶融混練機に供給する方法も取ることができる。またA成分、B成分および任意の他の成分のうち一部の成分を予備混合した後、残りの成分と独立に溶融混練機に供給する方法が挙げられる。予備混合の手段や造粒に関しては、上記と同様である。尚、配合する成分に液状のものがある場合には、溶融混練機への供給にいわゆる液注装置、または液添装置を使用することができる。
【0131】更に本発明の熱可塑性樹脂組成物を製造する場合には、溶融混練前のA成分、およびB成分に含まれる水分が少ないことが好ましい。したがって熱風乾燥、電磁波乾燥、真空乾燥などの各種乾燥方法により乾燥させたA成分またはB成分を溶融混練することが好ましい。一方溶融混練中にベント吸引は、あまり真空度を高くしないで行うことが好ましい。また窒素ガスなどを循環させながら揮発分を系外に排出する方法などもとることができる。
【0132】本発明の熱可塑性樹脂組成物は通常かかるペレットを射出成形して成形品を得ることにより各種製品を製造することができる。かかる射出成形においては、通常のコールドランナー方式の成形法だけでなく、ランナーレスを可能とするホットランナーによって製造することも可能である。また射出成形においても、通常の成形方法だけでなくガスアシスト射出成形、射出圧縮成形、射出プレス成形、超高速射出成形、インサート成形、二色成形、サンドイッチ成形等を使用することができる。
【0133】また本発明の熱可塑性樹脂組成物は、押出成形により各種異形押出成形品、シート、フィルムなどの形で使用することもできる。またシート、フィルムの成形にはインフレーション法などが使用可能である。更に特定の延伸操作をかけることにより熱収縮チューブとして成形することも可能である。また本発明の熱可塑性樹脂組成物を溶融混練することなく回転成形により成形品とすることも可能である。更にブロー成形により各種中空成形品を得ることも可能である。
【0134】
【実施例】[実施例1〜7、比較例1〜4]以下に実施例を挙げて本発明を更に説明する。実施例および比較例は、表1記載の各成分を表記載の配合割合で、A成分、B成分を120℃で5時間熱風乾燥し、その他の成分と櫛歯付きのタンブラーで均一に混合後、径30mmφのベント式二軸押出機((株)日本製鋼所TEX30XSST)のスクリュー根元の第1供給口に供給し、シリンダおよびダイスの温度:280℃、スクリュー回転数:180rpm、吐出量:20kg/時、ベント吸引度:10,000Paで押出を行い、ストランドを製造し、次いでペレタイザーでペレット化した。尚、その他の成分のうち、D成分はスクリュー型サイドフィーダーを用いて押出機途中の第2供給口より供給した。第1供給口と第2供給口との供給量の調整は計量器[(株)クボタ製CWF]により精密に計測された。またそれ以外の成分は予め約10倍量のポリエチレンテレフタレート樹脂とポリエチレン袋中で混合し、かかる予備混合物と残りの成分とを混合した。
【0135】得られたペレットを120℃で6時間乾燥した後、射出成形機[FANUC(株)製T−150D]により成形温度270℃、金型温度70℃で所望の試験片を作成し、評価結果を表1に示した。評価は下記の方法によった。
(1)荷重たわみ温度(HDT)
ISO 75に準拠し荷重0.45MPaにて測定した。
(2)曲げ弾性率ISO 178に準拠し測定した。
(3)衝撃強度ISO 179に準拠し測定した。
(4)流動性ISO 1133に準拠し280℃、2.16kgでのMVR(Melt Volume−Flow Rate)を測定した。
(5)成形品外観自動車アウタードアハンドル成形品を成形し外観を以下の方法で評価した。
○ ジェッティング等の外観不良なし△ ジェッティング等の外観不良若干あり× ジェッティング等の外観不良発生
【0136】なお、表中に記載の各成分を示す記号は下記の通りである。
(A成分)
PC−1:ビスフェノールA型芳香族ポリカーボネート樹脂ペレット(帝人化成(株)「パンライト L−1225」、粘度平均分子量22,500、フェノール性水酸基12eq/ton)
PC−2:ビスフェノールA型芳香族ポリカーボネート樹脂ペレット(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)「ノバレックス 7025A」、粘度平均分子量23,600、フェノール性水酸基0.4eq/ton)
【0137】(B成分)
PET−1:再生ポリエチレンテレフタレート樹脂(市場より回収したPETボトルを洗浄、粉砕、乾燥したもの。末端カルボキシル基量18eq/ton、Mw/Mn=2.4、固有粘度0.71)
PET−2:再生ポリエチレンテレフタレート樹脂(市場より回収したPETボトルを洗浄、粉砕、乾燥した後270℃にて溶融混練しペレット化したもの。末端カルボキシル基量21eq/ton、Mw/Mn=3.5、固有粘度0.63)
(B成分以外)
PET−3:ポリエチレンテレフタレート樹脂(末端カルボキシル基量12eq/ton、Mw/Mn=1.9、固有粘度0.70、帝人(株)製「TR−4550」)
【0138】(C成分)
IM:弾性重合体(三菱レイヨン(株)製「メタブレン S2001」)
(D成分)
GF:ガラス繊維のチョップドストランド(日東紡績(株)製「3PE944」)
WSN:ワラストナイト(ナイコミネラルズ社製「NYGLOS4」)
(E成分)
TN:テトラブロモビスフェノールAのカーボネートオリゴマー(帝人化成(株)製「ファイヤガード FG7000」)
(F成分)
F−1:フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレン(ダイキン工業(株)製「ポリフロンMPA FA−500」)
F−2:フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレン粒子とスチレン−アクリロニトリル共重合体粒子からなる混合物(ポリテトラフルオロエチレン含有量50重量%)(GEスペシャリティーケミカルズ社製 「BLENDEXB449」)
【0139】(その他の成分)
ST:ホスファイト系熱安定剤(旭電化工業(株)製「アデカスタブPEP−8」)
CB:カーボンブラック(三菱化学(株)製;ファーネスブラック MA−100、pH=3.5)
DC:無水マレイン酸とα−オレフィンとの共重合体(三菱化学(株)製ダイヤカルナPA30M)
【0140】
【表1】


【0141】上記のように、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネートと特定の芳香族ポリエステル樹脂からなる組成物は衝撃強度、剛性、耐熱性に優れる。更に流動性や外観などにおいても良好な特性を有する。殊に特定の芳香族ポリカーボネートにおいては良好である。衝撃強度、剛性、耐熱性に優れるため、自動車分野、OA機器分野、電子・電気機器分野、建材分野、農業資材分野、漁業資材分野など幅広い産業分野に有効に活用されるものであり、その奏する産業上の効果は格別なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 (A)芳香族ポリカーボネート(A成分)10〜95重量部および(B)ポリエチレンテレフタレート(B成分)5〜90重量部の合計100重量部からなる樹脂組成物であって、該B成分は、(i)重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が2.2〜10、(ii)末端カルボキシル基量が15〜100eq/ton、並びに(iii)o−クロロフェノールを溶媒として35℃で測定した固有粘度が0.4〜1.0の範囲であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】 上記A成分50〜95重量部、および上記B成分5〜50重量部の合計100重量部からなる請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】 上記A成分はそのフェノール性水酸基量が1〜50eq/ton、および粘度平均分子量が17,000〜27,000の芳香族ポリカーボネートである請求項1または2のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】 上記B成分は、o−クロロフェノールを溶媒として35℃で測定した固有粘度が0.65〜0.75である請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】 上記B成分は、使用済みのポリエチレンテレフタレート製品を解重合の工程を経ることなく再生したポリエチレンテレフタレート樹脂である請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。