説明

熱可塑性樹脂組成物

【課題】
高温成型時の熱安定性に優れ、成形品に発生する黒墨を流した様な外観不良(黒条)を解決した、耐衝撃性が良好な熱可塑性樹脂組成物の提供。
【解決手段】
オルガノポリシロキサン(a)とアルキル(メタ)アクリレート系ゴム(b)からなるゴム質重合体((a)+(b))100重量部の存在下に、芳香族ビニル、シアン化ビニル、アルキル(メタ)アクリレートから選ばれた一種以上の単量体(c)25〜64重量部をラジカル重合して得られるグラフト重合体であって、グラフト重合体のアセトン不溶部が75〜98重量%で、かつアセトン可溶部の還元粘度が0.15〜0.55dl/gであるグラフト共重合体(A)15〜60重量部と、
芳香族ビニル、シアン化ビニル、アルキル(メタ)アクリレートの1種類以上を重合してなる共重合体(B)40〜85重量部〔成分(A)、(B)の合計100重量部〕よりなる熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフト共重合体ラテックスの凝固回収性が優れ、かつ、酸化チタンを含んだゴム強化熱可塑性樹脂として射出成形した際に、成形品に発生する黒墨を流した様な外観不良(黒条)を解決し、高温成型時の熱安定性にも優れた熱可塑性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ABS樹脂は、耐衝撃性および加工性のバランスに優れた樹脂であり、自動車等の車両用内外装部品、各種の家電製品やOA機器のハウジング、その他雑貨分野等、幅広い分野に使用されている。
しかし、ABS樹脂は、そのゴム成分として使用するブタジエン系ゴムが紫外線等により分解され易いことから、耐候性に劣るという欠点を有している。
そこで、ABS樹脂中のゴム成分をアクリル系ゴムに置換する事で耐候性を改良した、AAS樹脂が実用化されているが、十分な耐衝撃性を発現できていない。
耐衝撃性が良好な耐候性樹脂として、ポリオルガノシロキサンゴム成分とアクリル系ゴム成分とからなるグラフト共重合体が提案されている(特開昭63−69859号公報:特許文献1)。
通常、ゴム強化熱可塑性樹脂は意匠性のため着色されて使用されるが、これら着色用途には酸化チタンを使用して着色する事が多く、一般的には酸化チタンと酸化チタンを樹脂中に均一に分散させるために脂肪酸金属塩の分散剤と共に樹脂に練り込むことにより行われる。
ところが、酸化チタンを使用し着色したゴム強化熱可塑性樹脂を射出成形する場合、黒系の着色剤を使用していないにもかかわらず、成形品に黒いスジ状の模様が発生することがある(この黒いスジ状の模様を黒条と称している)。
上記黒条の発生は非常に商品価値を低下させるため、従来からこれに対する検討が行われている。例えば、アルキレン-ビス-脂肪酸アミドや脂肪酸亜鉛を着色分散剤として使用し、黒条の発生を防止する特公平7-39519号公報(特許文献2)の方法や、酸化チタンと有機錫化合物を併用する特開平5-239293号公報(特許文献3)の方法が開示されている。
しかしながら、グラフト共重合体ラテックスの製造に際し、乳化剤として脂肪酸アルカリ金属塩、脂肪酸アンモニウム金属塩等が使用された場合、いずれの方法も黒条の発生を完全に防止するには不充分であった。一方、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキル硫酸、及び又はそれらの塩を乳化剤として使用した場合には、凝固回収性が劣り、脱水性の低下、嵩比重の低下、微粉量の増大等による製造トラブルが生じ易いといった問題が発生していた。
特開2003−26742号公報(特許文献4)では乳化重合に使用する乳化剤として、特定の不均化ロジン酸アルカリ金属塩および/またはアンモニウム金属塩を用いることで外観不良(黒条)を解決する方法が記載されているが、ポリオルガノシロキサンゴム成分とアクリル系ゴム成分とからなるグラフト共重合体に置いては、ポリオルガノシロキサンラテックスに含まれるアルキルベンゼンスルホン酸、アルキル硫酸、及び又はそれらの塩を乳化剤として使用されている為に、凝固回収性が十分でなかった。
また、特開平11-199642号公報(特許文献5)では、ポリオルガノシロキサンゴム成分とアクリル系ゴム成分とからなるグラフト共重合体に含まれる溶剤可溶成分の量及び溶液粘度を特定することで、黒着色した際の漆黒性を向上させる方法が記載されているが、酸化チタンを含んだ成形品に発生する黒墨を流した様な外観不良(黒条)を改良することは困難であった。
【特許文献1】特開昭63−69859号公報
【特許文献2】特公平7-39519号公報
【特許文献3】特開平5-239293号公報
【特許文献4】特開2003−26742号公報
【特許文献5】特開平11-199642号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、グラフト共重合体ラテックスの凝固回収性が優れ、酸化チタンを含んだゴム強化熱可塑性樹脂として射出成形した際に、成形品に発生する黒墨を流した様な外観不良(黒条)を解決し、高温成型時の熱安定性にも優れた熱可塑性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、ポリオルガノシロキサンゴム成分とアクリル系ゴム成分とからなるゴム質重合体中のオルガノポリシロキサンの量、グラフト共重合体中のゴム質重合体量、グラフト共重合体中のアセトン不溶部量及びアセトン可溶部の溶液粘度を特定数値に規定することにより、グラフト共重合体ラテックスの凝固回収性が優れ、酸化チタンを含んだゴム強化熱可塑性樹脂として射出成形した際に、成形品に発生する黒墨を流した様な外観不良(黒条)を解決し、高温成型時の熱安定性にも優れた熱可塑性樹脂組成物を提供できることを見出し、本発明に到達したものである。
即ち、本発明は、
ポリオルガノシロキサン(a)1〜10重量%とアルキル(メタ)アクリレート系単量体を主成分とするビニル系単量体(b)90〜99重量%からなるゴム質重合体((a)+(b))100重量部の存在下に、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、アルキル(メタ)アクリレート系単量体から選ばれた一種以上の単量体(c)25〜64重量部をラジカル重合して得られるグラフト共重合体であって、グラフト共重合体のアセトン不溶部が75〜98重量%で、かつアセトン可溶部の還元粘度(0.2g/100cc
N,Nジメチルホルムアミド溶液として25℃で測定)が0.15〜0.55dl/gであるグラフト共重合体(A)15〜60重量部と、
芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、アルキル(メタ)アクリレート系単量体のうち少なくとも1種類以上を重合してなる共重合体(B)40〜85重量部〔成分(A)、(B)の合計100重量部〕よりなることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0005】
グラフト共重合体ラテックスの凝固回収性が優れ、酸化チタンを含んだゴム強化熱可塑性樹脂として射出成形した際に、成形品に発生する黒墨を流した様な外観不良(黒条)を解決し、高温成型時の熱安定性にも優れた熱可塑性樹脂組成物が得られるという効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明において使用されるグラフト共重合体(A)のゴム質重合体を構成するポリオルガノシロキサン成分に使用されるオルガノシロキサンとしては、3員環以上のジメチルシロキサン系環状体が挙げられ、3〜6員環のものが好ましい。具体的にはヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン等が挙げられるが、これらは単独でまたは二種以上混合して用いられる。
また、必要に応じてシロキサン系架橋剤、ビニル重合性官能基含有シロキサンを添加することができる。
シロキサン系架橋剤としては、3官能性または4官能性のシラン系架橋剤、例えばトリメトキシメチルシラン、トリエトキシフェニルシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン等が用いられる。
また、ビニル重合性官能基含有シロキサンとしては、ビニル重合性官能基を含有し、かつジメチルシロキサンとシロキサン結合を介して結合しうるものであり、ジメチルシロキサンとの反応性を考慮するとビニル重合性官能基を含有する各種アルコキシシラン化合物が好ましい。具体的には、β−メタクリロイルオキシエチルジメトキシメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメトキシジメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルエトキシジエチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルジエトキシメチルシランおよびδ−メタクリロイルオキシブチルジエトキシメチルシラン等のメタクリロイルオキシシロキサン、テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサン等のビニルシロキサン、p−ビニルフェニルジメトキシメチルシラン、さらにγ−メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシロキサンが挙げられる。これらビニル重合性官能基含有シロキサンは、単独でまたは二種以上の混合物として用いることができる。
該ポリオルガノシロキサン成分の製法としては、ジメチルシロキサン系環状体または必要に応じてシロキサン系架橋剤、ビニル重合性官能基含有シロキサンを含む混合物を、アニオン系活性剤で、ホモミキサー又は超音波混合機などを用いて混合し、縮合させることによって製造することが好ましい。
アニオン系活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキル硫酸、及び/又はそれらのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩が好ましい。具体的には、ドデシルベンゼンスルホン酸、オクチルベンゼンスルホン酸、オクチルサルフェート、ラウリルサルフェート、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、オクチルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ナトリウムオクチルサルフェート、ナトリウムラウリルサルフェート等が例示される。
該乳化剤の配合量としては、エマルジョン中好ましくは0.1〜10重量%である。0.1重量%未満では乳化剤の安定性が不十分となり、また10重量%を超えると、グラフト共重合体(A)ラテックスの凝固性が劣るので好ましくない。
【0007】
本発明において使用されるグラフト共重合体(A)のゴム質重合体を構成するポリアルキル(メタ)アクリレート成分としては、アルキル(メタ)アクリレートと多官能性アルキル(メタ)アクリレートとの重合物である。
アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えばメチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等のアルキルアクリレートおよびヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、n−ラウリルメタクリレート等のアルキルメタクリレートが挙げられ、特にn−ブチルアクリレートの使用が好ましい。
多官能性アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えばアリル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。また、多官能性アルキル(メタ)アクリレートの使用量は、アルキル(メタ)アクリレート成分中0.1〜5重量%であることが好ましく、さらに好ましくは0.5〜3重量%である。アルキル(メタ)アクリレートや多官能性アルキル(メタ)アクリレートは単独でまたは二種以上併用して用いられる。
該ポリアルキル(メタ)アクリレート成分の製法としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム等のアルカリ水溶液の添加により中和されたポリオルガノシロキサンゴムのラテックスの存在下に、上記アルキル(メタ)アクリレートと多官能性アルキル(メタ)アクリレートを通常のラジカル開始剤を使用した乳化重合で製造することが好ましい。
【0008】
本発明におけるグラフト共重合体(A)のゴム質重合体を構成するポリオルガノシロキサン(a)は1〜10重量%である。
該成分が1重量%未満では耐衝撃性に劣り好ましくない。また、10重量%を超えると、高温成型時の熱安定性に劣り好ましくない。
【0009】
上記ゴム質重合体の製造方法において、アルキル(メタ)アクリレート系単量体の重合は乳化重合で行い、これら乳化重合に使用する乳化剤としては、アニオン系活性剤が好ましく、さらに該乳化剤の配合量としては、エマルジョン中好ましくは0.5〜5重量%である。0.5重量%未満では乳化剤の安定性が不十分となり、また5重量%を超えると、グラフト共重合体(A)ラテックスの凝固性が劣るので好ましくない。
【0010】
また、上記ゴム質重合体の乳化重合に使用する乳化剤として、デヒドロアビエチン酸含有量が65重量%以上である不均化ロジン酸からなる不均化ロジン酸アルカリ金属塩および/またはアンモニウム金属塩を使用することが、酸化チタンを含んだゴム強化熱可塑性樹脂として射出成形した際の成形品外観に優れることより好ましい。
該乳化剤の原料となるロジン酸とは、一般的にガムロジン酸、ウッドロジン酸、トール油ロジン酸に分類されるが、これらは何れも天然物であるためアビエチン酸を主成分とするものであり、少量成分としてネオアビエチン酸、パラストリン酸、デヒドロアビエチン酸、ピマル酸、イソピマル酸等を含むものである。これら未精製のロジン酸を不均化反応することにより不均化ロジン酸を得ることができる。デヒドロアビエチン酸の含有量が65重量%以上である不均化ロジン酸は、不均化反応時の触媒量、温度等を適宜調整することにより得ることができる。
通常、工業的に乳化重合で使用されている不均化ロジン酸中のデヒドロアビエチン酸含有量はせいぜい60重量%程度である。
なお、本発明においては、その効果を妨げない範囲内で上記乳化剤と共に他の乳化剤を使用することも可能である。
【0011】
本発明におけるグラフト共重合体(A)を構成する芳香族ビニル系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等が挙げられる。特にスチレンが好ましい。
シアン化ビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。特にアクリロニトリルが好ましい。
アルキル(メタ)アクリレート系単量体としては、メチルメタクリレ−ト、2-エチルヘキシルメタクリレ−ト、メチルアクリレ−ト、エチルアクリレ−ト、ブチルアクリレ−ト等が挙げられる。
上記芳香族ビニル系単量体(i)、シアン化ビニル系単量体(ii)、アルキル(メタ)アクリレート系単量体(iii)の組成比率には特に制限はないが、(i)5〜95重量%、(ii)0〜50重量%、(iii)0〜95重量%である事が好ましい。
【0012】
本発明におけるグラフト共重合体(A)は、オルガノポリシロキサン(a)1〜10重量%で、アルキル(メタ)アクリレート系単量体を主成分とするビニル系単量体(b)90〜99重量%からなるゴム質重合体((a)+(b))100重量部の存在下に、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、アルキル(メタ)アクリレート系単量体から選ばれた一種以上の単量体(c)25〜64重量部をラジカル重合して得られる。
単量体(c)が25重量部未満では熱安定性に劣り好ましくない。
また、単量体(c)が64重量%を超えると、酸化チタンを含んだ熱可塑性樹脂組成物を射出成形した際に、黒条が発生し易くなるため好ましくない。
なお、特に本発明におけるグラフト共重合体(A)の重合では、単量体(c)の使用割合がゴム質重合体100重量部に対して25〜64重量部であることより、新たに乳化剤を使用しなくても重合安定性に優れるという利点がある。
グラフト共重合体(A)の重合において、乳化剤として脂肪酸アルカリ金属塩、脂肪酸アンモニウム金属塩等を使用した場合、黒条が発生し易くなり、また一方、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキル硫酸、及び又はそれらの塩を乳化剤として使用した場合、凝固回収性に劣る傾向にあるため好ましくない。
【0013】
本発明のグラフト共重合体(A)は、グラフト共重合体のアセトン不溶部が75〜98重量%で、かつアセトン可溶部の還元粘度(0.2g/100cc N,Nジメチルホルムアミド溶液として25℃で測定)が0.15〜0.55dl/gである。
アセトン溶媒に対する不溶部が75重量%未満の場合は、耐衝撃性に劣り好ましくない。
一方、アセトン溶媒に対する不溶部が98重量%を超えると、高温成型時の熱安定性に劣り好ましくない。
また、アセトン可溶部の還元粘度が0.15dl/g未満の場合は、耐衝撃性に劣り好ましくない。一方、還元粘度が0.55dl/gを超えると、高温成型時の熱安定性に劣り好ましくない。
【0014】
本発明における共重合体(B)を構成する芳香族ビニル系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等が挙げられる。特にスチレン、α−メチルスチレンが好ましい。
シアン化ビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。特にアクリロニトリルが好ましい。
アルキル(メタ)アクリレート系単量体としては、メチルメタクリレ−ト、2-エチルヘキシルメタクリレ−ト、メチルアクリレ−ト、エチルアクリレ−ト、ブチルアクリレ−ト等が挙げられる。特にメチルメタクリレ−トが好ましい。
上記芳香族ビニル系単量体(i)、シアン化ビニル系単量体(ii)、アルキル(メタ)アクリレート系単量体(iii)の組成比率には特に制限はないが、(i)5〜95重量%、(ii)0〜50重量%、(iii)0〜95重量%である事が好ましい。
【0015】
また、共重合体(B)の還元粘度(0.2g/100cc N,Nジメチルホルムアミド溶液として25℃で測定)には特に制限はないが、0.2〜1.0である事が好ましい。
本発明における共重合体(B)の重合方法には制限は無く、公知の乳化重合法、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法あるいはこれらの重合法を任意に組み合わせた方法を採用することができるが、乳化重合法の場合は、不均化ロジン酸アルカリ金属塩および/またはアンモニウム金属塩を乳化剤として使用することが好ましい。
【0016】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、上記グラフト共重合体(A)15〜60重量部と、共重合体(B)40〜85重量部〔成分(A)、(B)の合計100重量部〕よりなる。
グラフト共重合体(A)15重量部未満では成形品の強度が低下するため好ましくない。一方、グラフト共重合体(A)が60重量部超えると、酸化チタンを含んだゴム強化熱可塑性樹脂を射出成形した際に、黒条が発生し易くなり好ましくない。
また、該樹脂組成物中に占めるグラフト共重合体(A)成分からもたらせるゴム成分の割合は10〜35重量%である事が好ましい。該割合が10重量%未満では成形品の強度が低下するため好ましくない。該割合が35重量%を超えると、流動性が低下する傾向にあるため好ましくない。
【0017】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、バンバリ−ミキサー、ロ−ルミル、二軸押出機等の公知の装置を用い溶融混練することによりペレット状にて得ることができる。また得られた樹脂組成物には必要に応じて可塑剤、滑剤、難燃剤、顔料、充填剤、繊維強化剤等を適宜配合することが可能である。また、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンオキサイド等のエンジニアリングプラスチック等とのポリマーアロイとして使用することも可能である。
このようにして得られた樹脂組成物は、射出成形、押出し成形、圧縮成形、射出圧縮成形、ブロー成形等により成形することができる。
【0018】
[実施例]
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら制限されるものではない。
【0019】
[ポリオルガノシロキサンゴムラテックスの製造]
純水300部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1部、オクタメチルシクロテトラシロキサン99部、テトラエトキシシラン1部の混合液を超音波式乳化機にて1時間混合し、オルガノシロキサンエマルジョンを調整した。次に、窒素置換したガラスリアクターに、純水100部、ドデシルベンゼンスルホン酸8部を仕込み、90℃に昇温後、先に調整したオルガノシロキサンエマルジョンを5時間にわたって滴下した。滴下終了後そのまま90℃にて2時間重合を継続し、更にその後5℃で72時間保持した後、炭酸水素ナトリウム水溶液でpH=7.0に調整した。
このようにしてポリオルガノシロキサンゴムラテックス(S−1)を得た。
【0020】
[ゴム質重合体ラテックス(H−1)の製造]
窒素置換したガラスリアクターに、ポリオルガノシロキサンゴムラテックス(S−1)7部(固形分換算)、純水160部および過硫酸カリウム0.3部を仕込み60℃に昇温した。その後、アクリル酸ブチル92部、アリルメタクリレート1部からなる混合モノマー溶液およびオレイン酸カリウム塩(花王製OSソープ)2.1部を含む乳化剤水溶液20部を各々3時間に亘って連続添加した。その後3時間重合を継続した。
このようにしてゴム質重合体ラテックス(H−1)を得た。
【0021】
[ゴム質重合体ラテックス(H−2)の製造]
乳化剤としてオレイン酸カリウム塩(花王製OSソープ)の変わりに、デヒドロアビエチン酸71重量%である不均化ロジン酸からなる不均化ロジン酸カリウム塩(東邦化学製ディプロジンHD-25)2.1部を使用した以外は、ゴム質重合体ラテックス(H−1)と同じ条件で重合を行って、ゴム質重合体ラテックス(H−2)を得た。
【0022】
[ゴム質重合体ラテックス(H−3)の製造]
窒素置換したガラスリアクターに、ポリオルガノシロキサンゴムラテックス(S−1)20部(固形分換算)、純水160部および過硫酸カリウム0.3部を仕込み60℃に昇温した。その後、アクリル酸ブチル79部、アリルメタクリレート1部からなる混合モノマー溶液およびオレイン酸カリウム塩(花王製OSソープ)2.1部を含む乳化剤水溶液20部を各々3時間に亘って連続添加した。その後3時間重合を継続した。
このようにしてゴム質重合体ラテックス(H−3)を得た。
【0023】
[ゴム質重合体ラテックス(H−4)の製造]
窒素置換したガラスリアクターに、ポリオルガノシロキサンゴムラテックス(S−1)0.5部(固形分換算)、純水160部および過硫酸カリウム0.3部を仕込み60℃に昇温した。その後、アクリル酸ブチル98.5部、アリルメタクリレート1部からなる混合モノマー溶液およびオレイン酸カリウム塩(花王製OSソープ)2.1部を含む乳化剤水溶液20部を各々3時間に亘って連続添加した。その後3時間重合を継続した。
このようにしてゴム質重合体ラテックス(H−4)を得た。
【0024】
[グラフト共重合体(A−1)の製造]
窒素置換したガラスリアクターに、ゴム質重合体ラテックス(H−1)100部(固形分換算)と純水200部、デキストリン0.25部、無水ピロリン酸ナトリウム0.15部および硫酸第1鉄0.005部を添加した後、70℃に昇温した。その後、アクリロニトリル13部、スチレン37部、クメンハイドロパーオキサイド0.35部の混合液を5時間に亘り連続添加した。その後、重合を3時間継続し、重合を終了した。その後、塩析・脱水・乾燥し、グラフト重合体(A−1)を得た。
500mlのフラスコに秤量したグラフト重合体(A−1)約5gとアセトン300mlを入れ、65℃で3時間抽出し、冷却後、14000rpmの速度で30分間遠心分離を行ってアセトン可溶部と不溶部の分離を行った。
不溶部については乾燥後、重量を測定し、算出した。
可溶部についてはロータリーエバポレーターを用いて濃縮を行った後、メタノール中で再沈殿を行い、ガラスフィルター(2G−2)を用いて回収を行った。30℃の真空乾燥機で8時間乾燥を行った。次いで、この可溶部0.2gを100ccの N,Nジメチルホルムアミド溶液として25℃で還元粘度を測定した。(以下、グラフト共重合体はすべて同様の方法で測定した。)
その結果、グラフト重合体(A−1)中のアセトン不溶部は92%であり、アセトン可溶部の還元粘度は0.34dl/gであった。
【0025】
[グラフト共重合体(A−2)の製造]
窒素置換したガラスリアクターに、ゴム質重合体ラテックス(H−2)100部(固形分換算)と純水200部、デキストリン0.25部、無水ピロリン酸ナトリウム0.15部および硫酸第1鉄0.005部を添加した後、75℃に昇温した。その後、アクリロニトリル16部、スチレン44部、クメンハイドロパーオキサイド0.35部の混合液を6時間に亘り連続添加した。その後、重合を3時間継続し、重合を終了した。その後、塩析・脱水・乾燥し、グラフト重合体(A−2)を得た。
グラフト重合体(A−2)中のアセトン不溶部は88%であり、アセトン可溶部の還元粘度は0.37dl/gであった。
【0026】
[グラフト共重合体(A−3)の製造]
窒素置換したガラスリアクターに、ゴム質重合体ラテックス(H−1)100部(固形分換算)と純水200部、デキストリン0.25部、無水ピロリン酸ナトリウム0.15部および硫酸第1鉄0.005部を添加した後、65℃に昇温した。その後、アクリロニトリル13部、スチレン37部、クメンハイドロパーオキサイド0.30部の混合液を3時間に亘り連続添加した。その後、重合を3時間継続し、重合を終了した。その後、塩析・脱水・乾燥し、グラフト重合体(A−3)を得た。
グラフト重合体(A−3)中のアセトン不溶部は92%であり、アセトン可溶部の還元粘度は0.64
dl/gであった。
【0027】
[グラフト共重合体(A−4)の製造]
窒素置換したガラスリアクターに、ゴム質重合体ラテックス(H−1)100部(固形分換算)と純水200部、デキストリン0.40部、無水ピロリン酸ナトリウム0.15部および硫酸第1鉄0.005部を添加した後、75℃に昇温した。その後、アクリロニトリル13部、スチレン37部、ターシャリドデシルメルカプタン0.01部、クメンハイドロパーオキサイド0.40部の混合液を8時間に亘り連続添加した。その後、重合を3時間継続し、重合を終了した。その後、塩析・脱水・乾燥し、グラフト重合体(A−4)を得た。
グラフト重合体(A−4)中のアセトン不溶部は88%であり、アセトン可溶部の還元粘度は0.12
dl/gであった。
【0028】
[グラフト共重合体(A−5)の製造]
窒素置換したガラスリアクターに、ゴム質重合体ラテックス(H−1)100部(固形分換算)と純水180部、デキストリン0.30部、無水ピロリン酸ナトリウム0.15部および硫酸第1鉄0.005部を添加した後、70℃に昇温した。その後、アクリロニトリル20部、スチレン60部、ターシャリドデシルメルカプタン0.05部、クメンハイドロパーオキサイド0.40部の混合液およびオレイン酸カリウム塩(花王製OSソープ)1.1部を含む乳化剤水溶液20部を4時間に亘り連続添加した。その後、重合を3時間継続し、重合を終了した。その後、塩析・脱水・乾燥し、グラフト重合体(A−5)を得た。
グラフト重合体(A−5)中のアセトン不溶部は77%であり、アセトン可溶部の還元粘度は0.40
dl/gであった。
【0029】
[グラフト共重合体(A−6)の製造]
窒素置換したガラスリアクターに、ゴム質重合体ラテックス(H−1)100部(固形分換算)と純水200部、デキストリン0.35部、無水ピロリン酸ナトリウム0.15部および硫酸第1鉄0.005部を添加した後、60℃に昇温した。その後、アクリロニトリル5部、スチレン15部、クメンハイドロパーオキサイド0.45部の混合液を6時間に亘り連続添加した。その後、重合を3時間継続し、重合を終了した。その後、塩析・脱水・乾燥し、グラフト重合体(A−6)を得た。
グラフト重合体(A−6)中のアセトン不溶部は97%であり、アセトン可溶部の還元粘度は0.151dl/gであった。
【0030】
[グラフト共重合体(A−7)の製造]
窒素置換したガラスリアクターに、ゴム質重合体ラテックス(H−1)100部(固形分換算)と純水200部、デキストリン0.30部、無水ピロリン酸ナトリウム0.15部および硫酸第1鉄0.005部を添加した後、70℃に昇温した。その後、アクリロニトリル16部、スチレン44部、ターシャリドデシルメルカプタン0.15部、クメンハイドロパーオキサイド0.40部の混合液を2時間に亘り連続添加した。その後、重合を3時間継続し、重合を終了した。その後、塩析・脱水・乾燥し、グラフト重合体(A−7)を得た。
グラフト重合体(A−7)中のアセトン不溶部は70%であり、アセトン可溶部の還元粘度は0.381dl/gであった。
【0031】
[グラフト共重合体(A−8)の製造]
窒素置換したガラスリアクターに、ゴム質重合体ラテックス(H−3)100部(固形分換算)と純水200部、デキストリン0.25部、無水ピロリン酸ナトリウム0.15部および硫酸第1鉄0.005部を添加した後、70℃に昇温した。その後、アクリロニトリル13部、スチレン37部、クメンハイドロパーオキサイド0.35部の混合液を5時間に亘り連続添加した。その後、重合を3時間継続し、重合を終了した。その後、塩析・脱水・乾燥し、グラフト重合体(A−8)を得た。
グラフト重合体(A−8)中のアセトン不溶部は85%であり、アセトン可溶部の還元粘度は0.41dl/gであった。
【0032】
[グラフト共重合体(A−9)の製造]
窒素置換したガラスリアクターに、ゴム質重合体ラテックス(H−4)100部(固形分換算)と純水200部、デキストリン0.25部、無水ピロリン酸ナトリウム0.15部および硫酸第1鉄0.005部を添加した後、70℃に昇温した。その後、アクリロニトリル13部、スチレン37部、クメンハイドロパーオキサイド0.35部の混合液を5時間に亘り連続添加した。その後、重合を3時間継続し、重合を終了した。その後、塩析・脱水・乾燥し、グラフト重合体(A−9)を得た。
グラフト重合体(A−9)中のアセトン不溶部は91%であり、アセトン可溶部の還元粘度は0.33dl/gであった。
【0033】
共重合体(B)
SAN樹脂(日本エイアンドエル(株)製、230PC)
【0034】
[実施例、比較例]
表3に示す組成割合のグラフト共重合体(A)、共重合体(B)100部に対して、酸化チタン5部、アルキレン-ビス-脂肪酸アミド1部、ステアリン酸亜鉛0.5部を予備混合し、40mm二軸押出機を用いて240℃で溶融混合し、ペレットとした。
(1)耐衝撃性 ;240℃に設定した射出成形機にてASTM試験片を成形し、以下の方法にて耐衝撃性を評価した。ISO 179に準じてノッチ付シャルピー衝撃強度を測定。単位:kJ/m。結果を表3に示す。
(2)黒条性 ;東芝機械社製IS-80EPN射出成形機を用いて、シリンダ設定温度240℃、スクリュー背圧20kg/cm、スクリュー回転数
100rpm、金型温度 50℃にて50×150mm平板を100枚成形し、黒条の発生した枚数を調べた。結果を表3に示す。
(3)熱安定性 ;射出成形機にて150mm×90mm×3mmの平板を成形し、10ショット目以降20枚の成型品表面のラバーストリーク発生枚数を調べた。成型機シリンダの設定温度は280℃とし、成型サイクル60秒/1ショットとした。結果を表3に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、グラフト共重合体ラテックスの凝固回収性が優れ、酸化チタンを含んだゴム強化熱可塑性樹脂として射出成形した際に、成形品に発生する黒墨を流した様な外観不良(黒条)を解決し、高温成型時の熱安定性にも優れた熱可塑性樹脂組成物で、比較的明度の高い淡色で、耐衝撃性と耐候性が必要な用途に適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオルガノシロキサン(a)1〜10重量%とアルキル(メタ)アクリレート系単量体を主成分とするビニル系単量体(b)90〜99重量%からなるゴム質重合体((a)+(b))100重量部の存在下に、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、アルキル(メタ)アクリレート系単量体から選ばれた一種以上の単量体(c)25〜64重量部をラジカル重合して得られるグラフト共重合体であって、グラフト共重合体のアセトン不溶部が75〜98重量%で、かつアセトン可溶部の還元粘度(0.2g/100cc N,Nジメチルホルムアミド溶液として25℃で測定)が0.15〜0.55dl/gであるグラフト共重合体(A)15〜60重量部と、
芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、アルキル(メタ)アクリレート系単量体のうち少なくとも1種類以上を重合してなる共重合体(B)40〜85重量部〔成分(A)、(B)の合計100重量部〕よりなることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
グラフト共重合体(A)を構成するゴム質重合体が、ポリオルガノシロキサン(a)1〜10重量%の存在下で、アルキル(メタ)アクリレート系単量体を主成分とするビニル系単量体(b)90〜99重量%を乳化重合で行い、かつ、この乳化重合に使用する乳化剤として、デヒドロアビエチン酸含有量が65重量%以上である不均化ロジン酸からなる不均化ロジン酸アルカリ金属塩および/またはアンモニウム金属塩を用いることを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。

【公開番号】特開2006−249201(P2006−249201A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−66360(P2005−66360)
【出願日】平成17年3月9日(2005.3.9)
【出願人】(399034220)日本エイアンドエル株式会社 (186)
【Fターム(参考)】